有期雇用労働者と正社員労働者の賃金格差は不合理か

 運送会社において,定年後に高年齢者雇用安定法9条に基づく継続雇用制度によって採用された有期雇用労働者が,定年前よりも賃金が引き下げられたことを受けて,その賃金の差異が労働契約法20条に違反するとして争った東京高裁平成28年11月2日判決・長澤運輸事件(判例時報2331号・108頁)を紹介します。

 

 原告らは,輸送業務の乗員として勤務しており,定年前も後も仕事内容は変わらなかったのですが,賃金が引き下げられました。そして,原告ら有期雇用労働者と正社員労働者とを比べると,同じ内容の仕事をしているにも関わらず,有期雇用労働者の方が,有正社員労働者よりも賃金が少なくなっています。

 

 労働契約法20条は,有期雇用労働者と正社員労働者との労働条件の相違が,①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度,②当該職務の内容及び配置の変更の範囲,③その他の事情を考慮して,不合理であってはならないと規定されています。本件では,有期雇用労働者と正社員労働者とは,同じ内容の仕事をしているのに,賃金格差があることから,労働契約法20条違反が争点となりました。

 

 原審の東京地裁平成28年5月13日判決では,上記①と②が同じであれば,特段の事情のない限り,不合理であるとして,本件の賃金格差は労働契約法20条違反であるとして,原告らが勝訴しました。

 

 しかし,高裁では,上記①ないし③を幅広く総合的に考慮して判断すべきとして,高年齢者雇用安定法の継続雇用制度において,職務内容が同じであっても賃金が下がることは広く行われていて,社会的に容認されており,被告が有期雇用労働者と正社員労働者との賃金の差額を縮める努力をしていること等から,労働契約法20条違反を認めず,原告らが逆転敗訴しました。

 

 確かに,定年後の継続雇用制度の場合,定年前よりも賃金水準が引き下げられることはよくあります。しかし,仕事内容が軽減されていればまだしも,仕事内容が正社員労働者と同じであるにもかからず,賃金だけが引き下げられることについては,不合理といえる余地があるのではないかと考えられます。最高裁に上告されているので,最高裁で結論が変わることを期待したいです。