ソーシャルメディア文章術

 樺沢紫苑先生の「ソーシャルメディア文章術」を読みました。SNSに文章を書く上で重要な原則,技術等が凝縮された名著です。

 

 

 ソーシャルメディアで求められる文章とは,上手な文章ではなく,「共感」を呼ぶ文章です。「共感」を呼ぶためには,「共通性」が必要になります。自分と読者の多くが興味を持っている「共通話題」に,自分の持っている「専門話題」を組み合わせることで,読者の共感を得られるようになります。

 

 そして,ソーシャルメディアでは,上手な文章よりも「伝わる」文章が重要になります。まずは,タイトルで読者の心を「つかみ」,最初の1行で興味をひくキャッチコピー的な一文や結論を盛り込み,読者を引きつけて読んでもらうようにします。スマホですと,フリックしている間に自分の記事が流されてしまうリスクがあるので,タイトルと最初の一文で読者の興味をひくのは必須となります。

 

 また,ソーシャルメディアでは,短く,シンプルで,わかりやすく,短時間で読めて,内容がしっかりしている文章が好まれます。一文を長くしない,結論から述べることを文章の最初で提示し方向性を示す,冗長な表現や不必要な形容詞ははぶくといったことを意識することで,読者に読んでもらえる文章になります。

 

 私は,ついつい長い文章を作成してしまいがちですし,これまでは結論を最後に書いていました。今後は,結論を最初に持ってきて,一文を短くし,多くの人に読んでもらえる文章を作成するように努力していきます。

 

 ソーシャルメディアにどのような文章を書けば読んでもらえるのかについて,分かりやすく書かれていますので,SNSを利用している方々にお勧めしたい一冊です。

 

高校教師のくも膜下出血死が公務災害と認められた判例

 愛知県内の商業高校の教師が深夜校内で倒れ,病院に搬送されたものの,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血が原因で死亡したことについて,当該教師の遺族が公務災害認定請求をしたものの,公務災害とは認定されなかったため,公務災害とは認定しなかった処分の取消を求めて提訴し,判決で公務災害と認定されました(名古屋地裁平成29年3月1日判決・地方公務員災害補償基金愛知県支部長事件・労働判例1159号・67頁)。

 

 本件事件では,長時間労働の観点からは,当該教師がくも膜下出血発症の1ヶ月間において,通常の日常の職務に比較して特に過重な業務に従事したと評価することを直ちに肯定することも否定することもできないとされたものの,職務の質的過重性を検討した結果,公務災害が認定されました。

 

 具体的には,当該教師は,情報処理科の主任として,学校内のパソコンの保守管理,全国大会で優勝する情報処理部の顧問,情報処理検定に向けた指導や一日体験入学の準備作業等の業務を行っていました。①担当授業については,多くの科目で複数の指導担当者の取りまとめ役をし,生徒の資格取得に直結し,学校の実績や生徒の就職に影響する授業を担当していました。②部活については,顧問をしていた情報処理部が全国的に優秀な成績を収めており,同様の成績を収めることが期待されていました。③校務分掌について,教職員や生徒のパソコンの故障に対応していました。④その他にも,一日体験入学が次年度の入学者数に直結していました。

 

 以上の当該教師の業務は,精神的負荷がかかるものであったと認定され,当該教師のくも膜下出血の発症と公務との間に相当因果関係が認められて,公務災害が認定されました。

 

 労災では,時間外労働が何時間だったかが,まず重視されますが,時間外労働が労災の基準に満たなかったとしても,労働者の仕事内容が精神的負荷の強いものであった場合には,仕事の量的過重と質的過重のあわせ技一本で労災と認められることがありますので,この両方を説得的に主張していくことが重要となります。

 

 労働問題の法律相談は,労働問題を専門に扱う弁護士法人金沢合同法律事務所へ,お気軽にお問い合わせください。

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電通の刑事裁判

 平成29年9月22日,電通が社員に対して,違法残業をさせたとして労働基準法違反の罪に問われている刑事裁判の初公判が開かれました。

 

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG21H8W_S7A920C1CC0000/

 

 検察官の冒頭陳述によれば,36協定の残業時間の上限を超えて残業した社員が,2014年度は毎月1400人以上,2015年度以降も毎月100人以上いたようです。

 

 また,労働基準監督署から違法残業について是正勧告を受けた後,36協定の残業の上限を25時間から50時間に引き上げて,形式的に労働基準法違反の解消を図りましたが,労働環境の改善とはむしろ逆行する小手先だけの対応に終始したようです。

 

 検察官の求刑は罰金50万円でした。罰金50万円を支払うだけのペナルティでは,今後の労務管理の改善にどこまで効果があるのか疑問に思われる方がいるかもしれませんが,検察官が,公開の法廷で,電通の杜撰な労務管理を明らかにしたことに十分な意義があると思います。労働基準法違反の刑罰は軽いのですが,杜撰な労務管理を続ければ,社会からバッシングを受けて,企業イメージを大きく失墜させることになりますので,労働基準法違反で企業が失うものが大きくなったと思います。

 

 この電通の刑事裁判を契機に,多くの企業が労働基準法を遵守するように変わってもらいたいです。

 

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ヤマト運輸の違法残業

 福岡労働局は,ヤマト運輸がセールスドライバーに違法な長時間労働をさせたとして,労働基準法違反の疑いで福岡地検に書類送検しました。

 

https://mainichi.jp/articles/20170921/k00/00m/040/100000c

 

 ヤマト運輸は,労使協定で定めた1ヶ月あたりの残業時間の上限95時間を超える102時間の違法な残業をさせた疑いがあるようです。36協定では,残業時間の上限が規制されていないので,残業時間の上限は青天井になっています。ヤマト運輸の残業時間の上限95時間は,精神疾患の労災基準の100時間よりは短いですが,脳心臓疾患の労災基準の80時間よりは長いため,このような36協定は是正されるべきだと考えます。やはり,残業時間の上限規制が早急に導入されるべきです。

 

 さらに,脳心臓疾患の労災基準よりも長い残業時間の上限95時間に違反しているのですから,36協定が機能していないのが現状なのかもしれません。労使が残業時間について,しっかりと議論して36協定を定めるのであれば,労働者も残業時間について意識して,会社に是正を求めていけるのではないかと思います。労働者は,しっかりと自分の会社の36協定をチェックすべきです。

 

 日々,労働紛争に身を置いている者として感じるのは,しっかりと残業時間を把握して,残業代を支払っている企業は少なく,特に運送関係の現場では,長時間労働が常態化しているにもかかわらず,残業代の支払が不十分なことです。労働局のチェックが厳しくなれば,企業も残業代を支払うようになり,長時間労働が是正されていくと思いますので,労働局の担当職員を増加させて,労働基準法違反の取締を強化していってもらいたいです。

 

 電通事件では,公開の法廷で刑事裁判が行われるようになり,労働基準法違反の事件が注目されています。大企業の労働基準法違反は,大々的に報道され,企業イメージにマイナスになりますので,この流れの中で労働基準法を遵守する企業が増えることが期待されます。

 

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残業100時間超で過労自殺した病院勤務の男性の労災認定

 岐阜県内の病院に勤務する男性が自殺したことについて,多治見労基署が労災と認定しました。

 

 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170920-00000042-mai-soci

 

 男性は,岐阜県内の病院で駐車券処理やOA機器修理等の日常業務の他に,月に3回ほど夜間の当直勤務をし,急患や来院者への対応をしていたようです。男性が使用していた業務用のパソコンや当直勤務の記録を検討したところ,死亡前3ヶ月の残業が月107~148時間にも及び連続39時間の拘束の勤務もあったようです。

 

 夜の時間帯に働くことで,睡眠のリズムが狂い,昼間は寝にくいこともあり,疲労が回復しにくくなります。長時間労働や長い拘束時間が続くと疲労を回復する機会が奪われて,うつ病を発症するリスクが高まります。残業が100時間を超えると多くの場合労災と認定されやすくなります。

 

 本件では,おそらく証拠保全をして,病院にある男性のパソコンや当直の記録を確保して,客観的な証拠が揃っていたから労災と認定されたのだと思います。労災事件では,早期に証拠を確保することが重要になります。

 

 男性は,ライフル競技の選手で,国体の選手強化に向けて岐阜県教委の紹介で就職した経緯があり,今後の労災民事訴訟では,選手としての将来への不安等が自殺にどのように影響したのかが争点になるかもしれません。企業に働きつつ,スポーツを続ける労働者の健康をどうやって守るべきかが問われる裁判になっていきそうなので,注目していきたいです。

 

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うつ病を理由に退職した社員に対する損害賠償請求が不法行為とされた事例

 会社が,うつ病を理由に退職した社員に対して,虚偽の事実を捏造して退職し,就業規則に違反して業務の引き継ぎをしなかったことが不法行為に当たるとして,当該社員に対して,合計1270万5144円の損害賠償請求をしたのに対して,当該社員が,損害賠償請求の反訴をして,会社の訴訟提起が不法行為に該当すると判断された珍しい事件があったので紹介します(横浜地裁平成29年3月30日判決・労働判例1159号5頁・プロシード事件)。

 

 まず,会社は,当該社員が退職したことによって,合計1270万5144円の損害が発生したと主張しましたが,労働者は,退職の2週間前までに労働契約の解約の申し入れをすれば退職をできるのであるから,会社が主張する損害と当該社員との行動の間には因果関係がないと判断され,損害賠償請求は認められませんでした。

 

 次に,会社の訴え提起そのものが不法行為になるかについて,通常はよほどのことが無い限り違法とはならないのですが,本件においては,会社の損害賠償請求は,事実的,法律的根拠を欠くものというべきであり,会社が主張する損害が生じ得ないことは,通常人であれば容易にそのことを知り得たにもかかわらず,当該社員の月収の5年分以上に相当する1270万5144円もの大金の損害賠償請求をすることは,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとして,訴えの提起自体が不法行為に該当するとされました。

 

 憲法では,裁判を受ける権利が保障されている関係で,訴えの提起そのものが不法行為に該当することはめったにないのですが,本件では,会社の損害発生自体が怪しい上に,月収の5年分以上もの高額の損害賠償請求をしたことが,あまりにも行き過ぎであり,かつ,労働者の退職の自由を侵害することになることから,いくらなんでもやり過ぎであると裁判所が判断したのかもしれません。労働者は,基本的には退職の2週間前までに退職の意思表示をすればいいことが確認され,使用者が杜撰な理由で労働者を訴えた場合に不法行為になる可能性があることを認めた意味で,労働者にとって重要な判決だと思いましたので紹介します。

 

新任教員のうつ病発症・自殺について公務災害が認められた事例

 東京都の市立の小学校の新任教員が,公務に起因してうつ病に罹患して自殺したとして,公務外認定処分の取消を求めた裁判において,労働者側が勝訴し,公務災害と認められた地公災基金東京都支部長事件(東京高裁平成29年2月23日判決・労働判例1158号59頁)を紹介します。

 

 被災者は,新任教員で,小学校の学級担任をしていました。被災者が担任をしていた学級では,児童の万引き,上履きや体操着隠し,給食費や教材費の滞納等が発生し,被災者は,対応に苦悩していました。

 

 また,学級通信や研修レポートの作成,テストの採点,教材の作成に加えて,学級でのトラブルの対応により業務量が増加して,自宅でも相当量の作業をせざるを得ない事情が認められました。

 

 新任教員にとっては,日常の学級運営及び校務分掌に加えて,新任研修及び研究指定校の準備業務があり,さらに学級のトラブルに対応しなければらないことから,被災者は,精神的負荷を強め,うつ病に罹患して,自殺したと認定されました。

 

 新任教員の立場から具体的事実が認定されて公務災害が認定されたもので,公務災害を争う際に参考になると思い,紹介します。

 

菅野弁護士50周年記念

当事務所の所長である菅野昭夫弁護士が今年で弁護士登録をして50周年になることから,50周年を記念する祝賀会を開催しました。

 

菅野弁護士は,1968年に弁護士となり,以来,当事務所で様々な民事事件,労働事件,行政事件,刑事事件に取り組んできました。数ある事件の中で最も印象に残っているのが北陸スモン訴訟です。

 

北陸スモン訴訟は,1973年5月に金沢地裁に提訴され,原告数は総勢195人にのぼりました。菅野弁護士は,弁護士5年目にして,北陸スモン弁護団の事務局長をつとめました。全国的な活動の中で,闘いの課題は,被害者の救済,及び,薬害被害者救済制度と薬事法の抜本的改正にあり,連続した勝利判決により被告の国と製薬会社の法的責任を明らかにさせて,全国的超党派的な世論と運動を巻き起こして,それらの課題を実現させていくという全国的戦略が樹立されました。

 

この戦略の中で,1978年3月1日金沢地方裁判所で原告の勝利判決がくだされました。この判決の日には,全国から200人近い記者が金沢地方裁判所前に集まり,実況用のテント村ができ,裁判所の構内で大集会が開かれたようです。

 

その後,他の地方裁判所での勝利判決と,当時の厚生省及び製薬会社との交渉,国会要請などを通じて,スモン訴訟は,1979年に中央での厚生大臣と製薬会社社長との全面解決確認書の調印,国会での新薬事法及び薬害被害者救済制度法の成立がなされ,その年から数年にわたり,各地方裁判所での和解成立を通して,全面解決の運びとなりました。

 

また,菅野弁護士は,スモン訴訟において,医学,薬学の英語の文献を読み,外国人証人の尋問をすることになりました。そのような中,一念発起して,英語の勉強をし直し,アメリカのナショナル・ロイヤーズ・ギルドという進歩的な弁護士集団と交流し,アーサー・キノイ弁護士の著書「試練に立つ権利~ある民衆の弁護士の物語~」を翻訳して出版しました。

 

激動の時代に,民衆の権利擁護に尽力してきた菅野弁護士の功績に思いを馳せ,金沢合同法律事務所の弁護士達は,菅野弁護士の魂を受け継ぎ,今後とも,クライアントの権利擁護につとめてまいります。

日本郵便事件

 平成29年9月14日,東京地裁において,日本郵便において郵便配達等を担当する契約社員が正社員と同じ仕事をしていたにもかかわらず,手当や休暇の制度に格差があるのは労働契約法20条に違反するとして,日本郵便に対して,手当の未払分の支払を求めた訴訟の判決がくだされ,一部の手当や休暇について不合理な差異があるとして,日本郵便に対して,約90万円の支払が命じられました。

 

 年賀状の配達の業務に対して,正社員には「年末年始勤務手当」が支給されるにもかかわらず,契約社員には支給されていなかったのですが,判決は,「多くの国民が休日の中で,最繁忙期の労働に対する対価を契約社員にまったく支払わないことに合理的理由はない」として,年末年始勤務手当の差異が不合理であるとして,正社員の年末年始勤務手当の8割の支払が認められました。

 

 また,賃貸住宅に住む社員向けの住居手当,病気休暇,夏期冬期休暇について,正社員に認められて,契約社員に認められないのは不合理であるとされました。

 

 本判決では,契約社員と比較される正社員について,正社員全体と比べるのではなく,契約社員と同様の業務をしている正社員と比べている点が画期的です。正社員全体と比べれば,全国転勤のある正社員が比較対象になることがあり,どうしても合理的な差異と認定されやすくなりますが,契約社員と同様の業務をしている正社員と比較すれば,全国転勤がない正社員が比較対象になることがあり,不合理な差異と認定されやすくなります。

 

 労働契約法20条違反を争う訴訟は,まだ最近判決がなされてきたばかりで,あまり先例がありません。原告が敗訴するケースもあった中で,本判決は,従来の判例にない判断をして契約社員が一部勝訴したものであり,非正規雇用社員の格差是正のための希望になるかもしれません。

過重労働と医師の働き方を考えるシンポジウム

 平成29年9月9日,過重労働と医師の働き方を考えるシンポジウムが開かれました。パネリストには,弁護士の川人博先生や松丸正先生といった,過労死問題の第一人者が登壇されました。

 

 病院が医師の自己申告をもとに勤務時間を把握する場合,医師が正確に労働時間を申告しないこともあり,病院が把握した医師の労働時間と実際の医師の労働時間とが大きく食い違うことがあります。その結果,病院が医師の長時間労働に気付かず,休ませることをしないため,過労死が発生するおそれがあります。そうならないためにも,まず病院が医師の労働時間を,タイムカード等で正確に把握する必要があります。

 

 医師の労働時間は,様々な職種の中でも最も長いようです。過労死ラインを超す割合は41.8%になっているようです。医師は,長時間労働に加えて,宿直等で睡眠のリズムが崩れ,手術では極度の集中を強いられ,疲労困憊していると考えられます。医師の疲労が蓄積すれば,医療事故につながる危険があるので,医師の数を増やして,医師の長時間労働を是正していくべきです。

(平成29年9月10日朝日新聞朝刊より抜粋)

 

 秋の臨時国会では,残業の上限規制が審理されますが,医師については,5年間猶予される見通しです。「病院に殺される」という医師を出さないためにも,一日も早く,医師の長時間労働を改善する施策を講じるべきだと考えます。

 

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