会社の一連の行為をパワハラと捉える

上司や社長から,どの程度のことをされたら,

違法なパワハラになるのでしょうか。

 

 

パワハラの法律相談を受けると,違法なパワハラとして

慰謝料を請求できるかについて判断に迷うことがあります。

 

 

 

 

違法なパワハラかどうかを検討する際に,

参考となる裁判例がありましたので紹介します

(東京高裁平成29年10月18日判決・

A社長野販売ほか事件・労働判例1179号・47頁)。

 

 

前の社長が交際費などについて不正な会計処理をしており,

経理を担当していた原告は,前の社長の指示に従い,

会計処理をしていました。

 

 

新しい社長が就任して,前の社長の不正な会計処理が発覚し,

原告に対する調査の中で,新しい社長が,

原告に対して,以下のような発言をしました。

 

 

「私ができないと思ったら降格してもらいます。」

「人間,歳をとると性格も考え方も変わらない。」

「自分の改革に抵抗する抵抗勢力は異動願いを出せ。

50代はもう性格も考え方も変わらない。」

「こいつらの給料で派遣社員なら何人雇える。

若いのを入れてこき使った方がいい。」

「泥棒しなさいと言われたら,泥棒するのか。」

「前任者が言ったことを何でもするのか。子供の使いじゃない。」

「意識のレベルが低い。」

「倉庫に行ってもらう。」

「今までみたいに事務員を優遇しない。

全員がそれほど仕事ができると思っていない。」

「人事権ももっている。」

「会社としては刑事事件にできる材料があり,

訴えることもできるし,その権利を放棄していない。」

「裁判所に行きましょうかという話になる。」

「辞めてもいいぞ。」

 

 

これらの社長の言動については,労働基準監督署

のアドバイスを受けて録音されていました。

 

 

 

その上で,降格処分によって給与が14万円減額され,

賞与を30%減額されてしまい,

原告はやむなく自己都合退職しました。

 

 

さらに,自己都合退職のため,会社都合退職

の場合に比べて,退職金が減額されました。

 

 

原告は,上記一連の行為が違法なパワハラであると主張して,

慰謝料などを請求する裁判をおこしました。

 

 

まず,降格処分について,不正会計は,

前の社長の指示であり,会計事務所からも

問題点を指摘されていなかったので,

原告が不正会計と認識していなくても

やむをえなかったものであり,降格処分の前提

となる懲戒事由がないので無効となりました。

 

 

次に,賞与の減額について,

前の社長の評定が高くて支給額が高いという理由だけで,

恣意的に賞与の減額査定をしているとして,

賞与の減額も無効とされました。

 

 

そして,上記の今の社長の言動や,

無効な降格処分と賞与の減額により,

原告は退職せざるをえない状況に追い込まれたことから,

今の社長の一連の行為は,退職を強要するもの

として違法と判断されました。

 

 

さらに,原告の退職は強要されたものであり,

自己都合退職ではなく,会社都合退職として扱うべきとされました。

 

 

 

その結果,パワハラの慰謝料100万円,

降格処分がされる前との差額賃金,

減額される前の賞与との差額,

会社都合退職による退職金の差額の請求が認められました。

 

 

本件では,労働基準監督署のアドバイスに従って,

今の社長の言動を録音していたので,

パワハラの実態を証明することに成功しました。

 

 

パワハラにあったら,まずは録音して証拠を集めることが重要です

 

 

また,見せしめや報復として,

会社が降格処分や賞与の減額をしてくることもありますが,

それらも一連の行為としてパワハラと認定されることがあります。

 

 

パワハラを苦に自己都合退職しても,退職強要になれば,

会社都合退職の退職金を請求できる可能性があります。

 

 

パワハラへの対処法を教えてくれる裁判例

として紹介させていただきました。