労災の損害賠償請求における過失相殺と素因減額

働き過ぎで,うつ病などの精神疾患を発症した場合,

自分のメンタルヘルスについての情報を会社に報告しなかったり,

治療期間が長くなっていることは労働者の個人的な要因が

原因であるとして,損害賠償請求を減額できるのでしょうか。

 

 

この争点について,重要な判断がされた

東芝(うつ病・解雇)事件を紹介します

(最高裁平成26年3月24日判決・

労働判例1094号22頁)

 

 

先日の過労死弁護団の総会で,

川人先生から教えてもらった重要な裁判例です。

 

 

原告の労働者は,初めてプロジェクトリーダーになったものの,

仕事の期限や日程を短縮され,上司から厳しい指示を受けていました。

 

 

他方,プロジェクトの人員を理由なく減員されたり,

過去に経験のない仕事を新たに命じられました。

 

 

このような過重な仕事をしていたので,

時間外労働や休日労働が増え,原告は,

頭痛,めまい,不眠などの症状がでて,

病院に通い,仕事を休むようになりました。

 

 

 

 

この過程において,原告は,会社に対して,

神経科へ通院していること,病名を会社に報告していませんでした。

 

 

まず,このような労働者のメンタルヘルスの情報を

会社に伝えなかったことが,原告の落ち度として

過失相殺されるのかが争われました。

 

 

過失相殺とは,労働者に発生した損害について,

労働者にも落ち度があれば,その落ち度を考慮して,

損害額を減額することです。

 

 

東芝事件の最高裁は,労働者のメンタルヘルスの情報は,

プライバシーに関わる情報であり,人事考課に影響するので,

通常は職場に知られたくありません。

 

 

そこで,会社は,労働者からメンタルヘルスの情報の

申告がなかったとしても,過重な仕事で労働者の体調悪化が

みてとれるのであれば,仕事を軽減するなどの

配慮をしなければなりません。

 

 

 

よって,労働者が,メンタルヘルスの情報を申告しなかったことを

根拠に過失相殺はできないと判断されました。

 

 

次に,労働者が長期間うつ病の治療を続けていること

労働者の脆弱性に原因があるとして素因減額

ができるのかが争点となりました,

 

 

素因減額とは,労働者の病気や私生活上の要因,性格

などの素因を理由に,損害額を減額することです。

 

 

東芝事件の最高裁は,同じ仕事をしている労働者と比べて,

通常想定される範囲を外れる脆弱性があるかを検討し,

原告は,仕事が荷重になる前は,普通に働いていたので,

素因減額はできないと判断しました。

 

 

過失相殺や素因減額がされると,

労働者がもらえる損害賠償金が減ってしまうのですが,

東芝事件の最高裁は,精神疾患の事件では,

安易に過失相殺や素因減額を認めるべきではないと判断しており,

労働者に有利に活用できます。

 

 

精神疾患の事案で,会社から過失相殺や素因減額の主張がされたら,

東芝事件の最高裁判決を活用して反論していくことが重要になります。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

過労死弁護団第31回総会in犬山

昨日,私が所属している過労死弁護団全国連絡会議

第31回総会が愛知県犬山市で開催されたので,参加してきました。

 

 

過労死弁護団とは,過労死や過労自殺の労災申請,

行政訴訟,会社に対する損害賠償請求訴訟に取り組む

全国の弁護士集まりで,毎年1回,全国の弁護士が一堂に会し,

過労死や過労自殺の事件について協議します。

 

 

 

 

このような集まりに参加すると,

全国各地にいる経験豊富な弁護士からスキルやテクニックを

学ぶことができるので,よほど重要な案件がない限り,

私は,毎年参加するようにしています。

 

 

過労死や過労自殺の事件は,相談から実際に事件として

依頼を受けるまでにハードルが高いので,

頻繁に担当するわけではないのですが,

専門性の高い分野ですので,全国の弁護士が集まる会に参加して,

情報を収集して,自分のスキルやテクニックを

ブラッシュアップしていく必要があると考えています。

 

 

全国の弁護士が,自分が担当した事件を紹介し,

他の弁護士の事件を学びながら,互いに経験を共有して,

自分の事件に活用していくのです。

 

 

毎年,過労死弁護団の総会では,

幹事長の川人博先生のご報告を聞くことで,

1年間の裁判や労災の状況,

何が問題になっているのかがよくわかります。

 

 

(講演する川人博先生)

 

川人先生は,過労死や過労自殺の分野の第一人者で,

数多くの過労死,過労自殺事件に取り組まれています。

 

 

そのような第一人者の先生から,

実務で役立つスキルやノウハウを学べるので,大変有意義でした。

 

 

とくに,今回の総会では,川人先生から,

過失相殺(労働者側にも落ち度があり,損害額が減額されること)や

素因減額(労働者の病気や肉体的精神的要因が原因で

損害が発生したり拡大した場合に損害額が減額されること)

を会社が主張してきた場合には,

電通事件,東芝(うつ病・解雇)事件,

アテスト(ニコン熊谷製作所)事件

3つの裁判例を利用すればいいと教わりました。

 

 

川人先生に教えてもらうまで,

知らなかった裁判例もありますので,今後,ブログで紹介していきます。

 

 

また,他にも,過労死や過労自殺の場合,

役所や会社が調査報告書を作成していることがあり,

その調査報告書に,貴重な情報が書かれているので,

証拠保全手続きで確保すべきことを学びました。

 

 

パワハラの事件では,個々のパワハラの出来事を

個別に判断するのではなく,一連のものとして総合判断することで,

損害賠償請求が認められたり,

会社の同僚が協力してくれたので,

パワハラの事実を証明できたなどの体験談を聞くことができました。

 

 

過労死弁護団の総会で学んだ知識を,

今後の過労死・過労自殺事件に活用していきます。

 

 

なお,せっかく愛知県犬山市へいってきたので,

国宝犬山城を観光してきました。

 

 

 

犬山城は日本最古の木造の城のようで,

城の中に入ると木の香がしますし,最上階からは,

素晴らしい風景を眺めることができて,とても癒やされました。

 

 

 

 

旅先で新鮮な刺激をもらいましたので,

今後とも仕事をがんばっていきます。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

 

休職後の復職拒否と休職期間満了を理由とする退職取扱

仕事とは関係のない持病が原因で会社を休職していた労働者が,

医師から復職可能との診断を受けたにもかかわらず,

会社が復職を認めず,休職期間満了で,退職させられた場合,

労働者は,退職しなければならないのでしょうか。

 

 

本日は,休職後の復職拒否と休職期間満了を理由とする

退職の取扱が争われた名港陸運事件を紹介します

(名古屋地裁平成30年1月31日判決・労働判例1182号38頁)。

 

 

原告は,トレーラーの運転手です。

 

 

 

 

原告は,胃がんを宣告されて,胃の全摘出手術を受けて退院しました。

 

 

被告会社は,原告に対して,療養・治療に専念してもらうために,

休職命令を発しました。

 

 

被告会社の就業規則には,復職の条件として,

通常の業務に復帰できる健康状態に復したことを

証明することが記載されており,

休職期間満了までに休職事由が消滅しない場合,

自然退職することが記載されていました。

 

 

原告は,主治医の職場復帰可能の診断書を提出し,

被告会社の産業医も,一般的に胃がんの全摘出であっても

術後1年経過すれば症状は安定するので

就労はできると思うと意見を述べました。

 

 

 

しかし,被告会社は,原告が本来ならばもっと早く

復職できた点について不信感を抱き,

休職期間満了で原告を退職扱いにしました。

 

 

そこで,原告は,被告会社に対して,

労働契約上の地位の確認を求めて,裁判を起こしました。

 

 

本件では,原告の休職事由が消滅したのか,

すなわち,原告は,治癒したのかが争点となりました。

 

 

ここで,「治癒」とは,労働者が休職する前に行っていた仕事を

健康時と同じように遂行できる程度に回復していることをいいます。

 

 

この治癒の判断にあたって,医師の意見が重要になります。

 

 

 

本件では,原告の主治医と被告会社の産業医の両者が,

原告の復職を可能と判断しているので,原告は,

既に治癒しており,休職事由は消滅したと判断されました。

 

 

その結果,原告の労働契約上の地位が確認され,

退職扱いされた日以降の未払賃金の支払が認められました。

 

 

さらに,被告会社は,改めて原告と面談することなく,

被告会社が指定する医師への受診を命じたこともなく,

原告からの復職時期の説明要求にも応じずに,

唐突に原告を退職扱いしたので,

手続的な相当性を著しく欠くとして,

30万円の慰謝料請求が認められました。

 

 

休職と復職の手続きにおいて,

会社が医師の意見を無視するようなずさんな対応をすれば,

会社は,労働者に対して,慰謝料を

支払わなければならなくなる可能性があります。

 

 

最近,メンタルヘルスの問題がクローズアップされており,

休職と復職の問題がますます増えていくことが予想されます。

 

 

労働者は,休職と復職を検討する場合には,

まずは療養につとめて,体調を整えて,

主治医に適切な意見書を書いてもらうことが重要になります。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

家族信託を活用した財産の承継

家族信託という制度を利用して,

財産を適切に子孫に承継させた事例を紹介します。

 

 

 

 

クライアントは,80歳の男性で,前妻との間に長女がいます。

前妻が死亡後に,後妻と結婚しました。

後妻との間に子供はいません。

 

 

他方,後妻は,クライアントと結婚する前に,離婚しており,

前の夫との間に子供がいました。

前の夫との子供は,現在,北海道で生活しています。

 

 

クライアントは,後妻と一緒に自宅で生活しています。

長女は,結婚して,クライアントとは別に生活しています。

 

 

 

 

クライアントは,自分が将来死亡した場合,

自分が所有している自宅で,後妻が引き続き生活し続け,

後妻も死亡した場合には,クライアントが所有している

自宅の土地建物を長女に引き継いでもらいたい

という希望をもっていました。

 

 

また,クライアントは,将来,認知症などを発症して,

判断能力が低下した場合には,自分の財産を

長女に管理してもらいたいと考えていました。

 

 

さて,クライアントが死亡した後に,後妻が,

クライアントが所有している自宅に住み続けるようにするためには,

遺言書を作成して,後妻に自宅を相続させる方法があります。

 

 

しかし,このような遺言書を作成して,

後妻が自宅を相続すれば,後妻が死亡した後に,

自宅の所有権が,北海道にいる後妻の子供に移転してしまい,

クライアントの子孫に自宅が承継されなくなってしまいます

 

 

このような不都合を回避するために,家族信託という制度を利用します。

 

 

家族信託とは,自分の財産を信頼できる家族に預けて,

預ける目的にしたがって管理してもらうことです。

 

 

財産を預ける人を委託者,

財産を預かって管理する人を受託者,

預けられた財産から利益を得る人を受益者といいます。

 

 

この事例では,委託者をクライアント,受託者を長女,

第1受益者をクライアント,第2受益者を後妻として,

クライアントが,長女に対して,自分の財産を預けて

管理してもらうという家族信託契約を締結しました。

 

 

 

この家族信託契約によって,長女がクライアントのために,

クライアントの財産を管理し,クライアントの死亡後には,

後妻に自宅を使用してもらい,後妻が死亡した後に,

長女が,クライアントの土地建物を取得することが可能となりました。

 

 

また,クライアントや後妻の不利益にならないのであれば,

信託監督人の同意を得ることで,

クライアントの財産を処分することも可能となります。

 

 

判断能力がなくなった方の財産管理の方法として,

成年後見制度がありますが,成年後見の場合,

成年被後見人の財産を処分することは基本的にできません

成年後見では,成年被後見人の財産の

現状を維持することが重要となります。

 

 

また,成年後見の場合,家庭裁判所へ

定期的に報告しなければなりません。

 

 

家族信託であれば,委託者の不利益にならないのであれば,

受託者が委託者の財産を処分することも可能ですし,

家庭裁判所への報告が不要であり,手続きが簡単です

 

 

このように,家族信託は,遺言書や成年後見では対応できない事案

を解決する手段として,今後ニーズが高まっていくことが予想されます。

 

 

家族信託について,ご検討したい方は,

金沢合同法律事務所へお気軽にご相談ください。

 

トラック運転手の過労事故死問題

過重労働を強いられて過労状態で車の運転を誤り,

交通事故で死亡したとして,トラック運転手の遺族が,

勤務先の運送会社に対して,損害賠償請求の裁判を起こすようです。

 

 

朝日新聞の報道によれば,死亡したトラック運転手は,

1週間に6日間,夜8時30分に出勤して,

翌日昼に帰宅する勤務状態であり,交通事故発生前の6ヶ月間の

時間外労働は1ヶ月102時間,最長で132時間だったようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/DA3S13694507.html

 

 

1ヶ月の時間外労働が平均80時間を超えると,

脳や心臓の病気を発症して過労死するリスクが高まります。

 

 

 1ヶ月の時間外労働が平均100時間を超えると,

うつ病などの精神疾患を発症して過労自殺するリスクが高まります。

 

 

長距離トラック運転手は,労働時間が長く,

運送業界は,どの業界よりも一番過労死が発生しているのです。

 

 

 

 

死亡したトラック運転手は,バイパスを走行中,

前方で停車していた車に追突したようで,

死亡したトラック運転手と追突された人の

過失割合は100対0となります。

 

 

交通事故の被害者であれば,加害者が任意保険にはいっていれば,

加害者に対して損害賠償請求することで,

賠償金を取得することができます。

 

 

しかし,今回の事故の場合,死亡したトラック運転手の過失が

100のため,交通事故の相手方に対して

損害賠償請求することが困難なのです。

 

 

 

 

そこで,会社に過酷な労働を強いられて,

過労状態で交通事故を起こして死亡した「過労事故死」の場合,

会社が労働時間短縮などの措置を怠ったなどの

安全配慮義務違反を根拠に,会社に対して

損害賠償請求をすることが考えられます。

 

 

最近,過労事故死の損害賠償請求で注目されたのが,

グリーンディスプレイ事件の和解です

(平成30年2月8日横浜地裁川崎支部決定・労働判例1180号・2頁)。

 

 

この事件は,過労状態で原付バイクで帰宅途中に,

労働者が電柱に追突して死亡した自損事故ついて,

遺族が,会社に対して損害賠償請求をしたものです。

 

 

死亡した労働者は,深夜や早朝の不規則な勤務で

重い荷物の積卸しをするという身体の負担が重い業務を行い,

事故日前1ヶ月間の時間外労働が91時間となっていました。

 

 

 

 

本来,通勤は労働者の自由に任せられているにもかかわらず,

通勤時における交通事故について,会社の安全配慮義務違反

を認めた点において画期的でした。

 

 

さらに,裁判所は,若くして亡くなった労働者の無念さ,

遺族の悲痛な心情に思いを致し,

過労事故死を防止するための先例としての意義が高い

という熱いメッセージを発信し,再発防止のために,

詳細かつ適切な和解勧告を公表しました。

 

 

このグリーンディスプレイ事件の和解勧告が公表されたことで,

これまで放置されてきた過労事故死について,救済の道が開かれたのです。

 

 

おそらく,死亡したトラック運転手の遺族は,

グリーンディスプレイ事件の和解勧告に勇気づけられて,

提訴をふみきることができたのだと推測されます。

 

 

裁判所における紛争の解決が,社会を動きを変えるという

重要さを再認識し,そのような仕事に携わる責任の重さを感じて,

改めて身を引きしめていこうと思いました。

 

 

トラック運転手の過労事故死の裁判で

どのような解決がなされるのか注目していきます。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

貴乃花親方の退職届から労働者の退職を考える

大相撲の貴乃花親方が日本相撲協会に退職届を提出しました。

 

 

(livedoor NEWSより)

 

報道によれば,貴乃花親方は,元横綱の日馬富士の傷害事件

をめぐる日本相撲協会の対応に疑義があるとした

告発状の内容について,事実無根であったことを認めるように

日本相撲協会から圧力を受けたと主張しているようです。

 

 

他方,日本相撲協会は,貴乃花親方に対して

圧力をかけた事実はないと真っ向から反論しています。

 

 

日馬富士の傷害事件について,日本相撲協会と貴乃花親方との間で

どのようなやりとりがなされて,貴乃花親方が退職届を

提出することになったのかが,今後争われていきそうです。

 

 

貴乃花親方が日本相撲協会に提出した文書は「引退届」

という表題であったらしく,日本相撲協会は,

年寄が協会を退職する場合には,退職届が必要であるとして,

形式の不備があるとして正式に受理していないようです。

 

 

本日は,貴乃花親方の退職届から,

労働者が退職する手続きについて説明します。

 

 

 

 

労働者は,会社との間で労働契約を締結して働いています。

 

 

この労働契約を,労働者が一方的に解約することを辞職といいます。

 

 

他方,労働契約を会社が一方的に解約することを解雇といいます。

 

 

解雇については,急に仕事を失う労働者を保護するために,

よほどの事情がない限り,解雇が認められないように規制されています。

 

 

解雇は厳しく規制されているのですが,

辞職は原則として自由であり,会社の承諾を必要としません

 

 

労働者は,会社を辞める2週間前に,

会社に辞めることを予告しておけば,

自由に会社を辞めることができます(民法627条)。

 

 

労働者が会社を辞めるときに,理由は必要ありません。

 

 

また,6ヶ月以上継続勤務し,

8割以上出勤しているのであれば,

10日間の有給休暇がもらえますので,

土日が休みの会社であれば,

平日の10日間で有給休暇を取得すれば,

2週間を待たなくても,すぐに会社を辞めることができるのです。

 

 

労働者が辞職する場合,退職の意思を明確にするためにも,

退職届を会社に提出することが一般的です。

 

 

この退職届が会社に届けば,辞職の効力が発生するので,

日本相撲協会のように,形式に不備があるので

受理しないと言われても,問題なく辞職できます。

 

 

退職届が会社に届けば,会社の同意がない限り,

辞職の撤回はできなくなるので,労働者は,

本当に退職届を提出してもよいのかをよく吟味してください

 

 

 

 

例外的に,懲戒解雇理由がないのに,

会社から退職届を出さなければ懲戒解雇になると告知されて,

労働者が退職届を提出したような場合,

労働者がかんちがいしていたり,

会社から騙されたり,強迫されたりしたという事情があれば,

労働者の退職の意思表示が無効になったり,

取り消しができたりすることもあります。

 

 

もっとも,労働者の退職の意思表示が無効になったり,

取り消しができるためには,労働者が,

会社から言われた騙しや強迫の言葉を証明しなければならず,

かなりハードルが高いのです。

 

 

そのため,労働者が会社から退職を促されて,

退職届を提出するときには,今一度,

本当に会社を退職しても後悔しないか慎重に判断してください

 

 

なお,会社の取締役も,いつでも辞任できるのですが,

後任者が決まるまで,引き続き取締役としての

権利義務を有することになります。

 

 

貴乃花親方が日本相撲協会を退職することに決めましたが,

後悔のない決断であったことを願いたいです。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

同一労働同一賃金のガイドラインの作成

働き方改革関連法で企業に求められる

同一労働同一賃金」について,現在,

厚生労働省の労働政策審議会において,

具体的なルールを定めるガイドラインが作成されています。

 

 

 

同一労働同一賃金とは,同じ内容の仕事をしているのであれば,

同じだけの賃金が支払われるべきというものであり,

正社員と非正規雇用労働者との賃金格差をなくすための切り札です。

 

 

現在のガイドライン作成において,重要なことが議論されています。

 

 

それは,正社員と非正規雇用労働者との間の

不合理な待遇の相違を解消するためには,

労働者と会社とで合意することなく,

正社員の待遇を引き下げることは望ましくないとしていることです。

 

 

正社員と非正規雇用労働者との格差を解消する方法には2つあります。

 

 

 

 

1つは,非正規雇用労働者の待遇を正社員の水準にあげることです。

 

 

非正規雇用労働者の労働条件が向上するので,

非正規雇用労働者の仕事に対するモチベーションがアップします。

 

 

正社員の労働条件はそのままなので,

正社員にもとくに不満はありません。

 

 

これが本来のあるべき姿です。

 

 

もう1つは,正社員の待遇を非正規雇用労働者

の水準に引き下げることです。

 

 

非正規雇用労働者にとっては,

格差が解消されて不満は多少減るかもしれませんが,

正社員にとっては,労働条件が引き下げられてしまうので,

仕事に対するモチベーションが下がってしまいます。

 

 

このように,労働者の同意なく,

労働条件を一方的に不利益に変更することは

原則として認められません(労働契約法8条,9条)。

 

 

今回のガイドラインでは,格差を解消するために,

正社員の待遇を引き下げるのではなく,

非正規雇用労働者の待遇を向上させることを

求めていることが重要なポイントとなります。

 

 

また,働き方改革関連法では,

正社員と非正規雇用労働者との待遇の違いについて,

非正規雇用労働者から理由の説明を求められた場合,

会社は,格差の理由を説明することになりました。

 

 

 

 

例えば,正社員と非正規雇用労働者との待遇の実施基準である,

賃金規程における等級表などの正社員の待遇の水準が

把握できるものの説明が求められます。

 

 

「賃金は,各人の能力,経験などを総合考慮して決定する」

という抽象的な説明ではだめで,

「この基準をこのように適用しているのでこのような差になっている」

具体的に説明しなければならないのです

 

 

今後,企業は,正社員と非正規雇用労働者の待遇の差が

あいまいなまま放置されていたのであれば,

それを解消しなければなりません。

 

 

他方,非正規雇用労働者は,自分の待遇を

正社員の水準に引き上げるチャンスですので,

同一労働同一賃金を積極的に活用していってもらいたいです。

 

 

同一労働同一賃金の施行は,

大企業が2020年4月から,

中小企業が2021年4月からです。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

35歳の教科書~今から始める戦略的人生計画~

9月21日,iPhoneの最新機種が発売されました。

 

 

iPhoneのユーザーとして思うことがあります。

 

 

 

 

毎年,新機種が発売されるけど,いったいどこが変わったのだろう?

 

 

カメラの性能がよくなった,

画面がきれいになった,

デザインがかっこよくなったなど,

きっといろいろ変わっているのでしょうが,

何かが劇的に変わったようには思えないのです。

 

 

毎年,新機種が発売されていくと,やはり飽きてきます。

 

 

高度成長期には,テレビ,洗濯機,冷蔵庫といった

モノによって人は幸せになれました。

 

 

便利な家電製品があふれている今の世の中は,

人はモノで幸せになれないのだと思います。

 

 

万人が求めるモノがなくなり,人それぞれ求めるモノが異なっています。

 

 

みんな一緒の正解主義の成長社会から,

それぞれ一人一人の修正主義の成熟社会へ移行しているのです。

 

 

今の成熟社会の生き方について,多くの著書を発表している

藤原和博先生の「35歳の教科書~今から始める戦略的人生計画~

を読みましたので,アウトプットします。

 

 

 

 

私は,現在34歳で,今年の12月20日で35歳になるので,

今を迷う私にピッタリのタイトルでした。

 

 

孔子は論語で次のように語っています。

 

 

 

(孔子)

 

 

子曰く、吾 十有五にして学に志す。

三十にして立つ。

四十にして惑わず。

五十にして天命を知る。

六十にして耳順う。

七十にして心の欲する所に従いて矩を踰えず。

 

 

40代になると惑わなくなるのですが,30代は迷うのです。

 

 

藤原先生は,10代は集中力とバランス力,

20代は1000本ノックで仕事に夢中になる,

30代は五里霧中で迷っていい時期とおっしゃいます。

 

 

20代のがんばりで一定のスキルをみにつけて,

これからどうするかをしっかり考えるのが30代です。

 

 

30代で決めた方向性が40代,50代と続いていきます。

 

 

藤原先生は,30代で大切なことは,

「自分の技術とは何なのか」について自身と向き合って話してみることと,

会社以外に打ち込めることをみつけることだとおっしゃっています。

 

 

会社以外でも役に立つスキルに磨き上がられているのか,

仕事で培ったスキルと自分の趣味や地域活動をかけあわせることで,

新しいことができないかを考えることが重要となります。

 

 

私は,まさに30にして迷うという状況にいます。

 

 

弁護士として一定のスキルを身に着けてきましたが,

今後,どのような方向性へ進んでいこうか,模索している毎日です。

 

 

40代に向けて,30代のうちにこれからどうするかを

しっかり考えていきます。

 

 

また,成熟社会では,演じる力が重要であることに気づきました。

 

 

夫婦は「なる」ものではなく「する」ものという視点です。

 

 

夫婦であっても,それぞれ育ってきた環境が

異なっているので,しょせんは他人です。

 

 

他人であるがゆえに,子育てなどで葛藤が生じます。

 

 

ここでポイントになるのは,

自分の理想的な生き方を追求しながら,

相手の生き方も尊重して,

両者が納得のいくツボを探し続けるという

ベクトル合わせをすることです。

 

 

結婚相手が他人であるという認識があれば,

互いに褒め合うことができるのです。

 

 

結婚相手を他人と認識するために,

夫や父親を演じる演技力が重要になるのです。

 

 

よき夫,よき父親を演じて,自分の枠を広げていきます。

 

 

30代の方々に読んでいただきたい本ですので,

紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

住宅手当の格差について労働契約法20条違反が認められた裁判例

正社員には,賞与や各種手当が支給されているにもかかわらず,

非正規雇用労働者には,賞与や各種手当が支給されていない場合,

このような格差は認められるのでしょうか。

 

 

最近,正社員と非正規雇用労働者との賃金格差が

労働契約法20条に違反するか否かが争われる事件が増えてきています。

 

 

 

 

本日は,最近増加傾向にある労働契約法20条をめぐる

裁判の中において,労働者に有利な判断がされた

井関松山製造所事件を紹介します

(松山地裁平成30年4月24日・労働判例1182号20頁)。

 

 

労働契約法20条には,正社員と非正規雇用労働者との間の,

①仕事の内容と責任の程度,

②仕事内容と配置の変更の範囲,

③その他の事情を考慮して,

正社員と非正規雇用労働者との労働条件の違いが

不合理であってはならないと規定されています。

 

 

ようするに,正社員と非正規雇用労働者の仕事内容や責任が同じで,

同じように配置転換がされているのに,正社員にだけ,

各種手当が支給されていて,非正規雇用労働者には,

各種手当が支給されていないのであれば,

それは不合理な格差となり,会社は,非正規雇用労働者に対して,

各種手当分の損害を賠償しなければなりません。

 

 

さて,井関松山製造所事件では,正社員には,

36~39万円ほどの賞与が支給され,

家族手当や住宅手当も支給されていましたが,

非正規雇用労働者には,賞与は支給されず,

5万円ほどの寸志が支給され,

家族手当や住宅手当が一切支給されていませんでした。

 

 

そこで,非正規雇用労働者が,正社員に支給されている

賞与,家族手当,住宅手当が,非正規雇用労働者に

支給されていないのは,労働契約法20条

に違反するとして,裁判を起こしました。

 

 

まず,上記①仕事の内容について,被告会社には,

正社員と非正規雇用労働者との間に違いはあまりみられませんでした。

 

 

②仕事内容と配置の変更の範囲について,被告会社には,

部長,次長,課長,職長,組長という5つの職制があり,

非正規雇用労働者は,組長以上の職制に就任することはありませんでした。

 

 

③その他の事情として,被告会社では,

非正規雇用労働者から正社員への中途採用が多く実施されており,

正社員と非正規雇用労働者との地位が

固定的ではないことが考慮されました。

 

 

その上で,賞与については,将来,

組長以上の職制に就任する可能性がある正社員に対して,

より高額な賞与を支給することで,

有為な人材の確保とその定着を図ることに

合理性があると判断されました。

 

 

 

 

また,非正規雇用労働者には5万円ほどの寸志が支給されており,

中途採用制度により,非正規雇用労働者から正社員になることが

可能であり,その実績もあることから,

賞与についての格差は不合理とは認められませんでした。

 

 

他方,家族手当は,生活補助的な性質があり,

労働者の仕事内容とは無関係に,

扶養家族の有無,属性,人数に着目して支給されていることから,

扶養家族がいることで生活費が増加することは,

正社員でも非正規雇用労働者でも変わらないので,

正社員にだけ家族手当を支給しているのは不合理と判断されました。

 

 

また,住宅手当についても,被告会社では,

住宅費用の負担の度合いに応じて対象者を類型化して,

費用負担を補助するものであるから,非正規雇用労働者であっても

住宅費用を負担する場合があるので,

正社員にだけ住宅手当を支給しているのは不合理と判断されました。

 

 

 

 

近年,手当の性質に注目して,

不合理が否かが判断される傾向にあります。

 

 

他の裁判例では,住宅手当について,

正社員は転勤の可能性があり,

非正規雇用労働者には転勤の可能性がないから,

正社員にだけ住宅手当を支給していることは不合理とはいえない

と判断されることが多かったのですが,本件では,

住宅手当についても,不合理と判断された点が注目されます。

 

 

手当の性質や,正社員と非正規雇用労働者との

労働条件の格差の実態を丁寧に検討していけば,

労働契約法20条違反が認められる可能性がでてくると思います。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

日本郵便の65歳定年訴訟

昨日は,安室奈美恵さんの40歳の引退のニュースから,

定年が65歳から70歳に延長されることについて検討しました。

 

 

本日は,昨日と同じように定年関係の労働問題について説明します。

 

 

日本郵便が,非正規雇用労働者に65歳の定年制度

をもうけていることをめぐり,65歳で雇止めされた

非正規雇用労働者らが,雇止めは無効であるとして,

雇用継続を求めた裁判で,9月18日に最高裁判決がくだされました。

 

 

郵政民営化の前の日本郵政公社時代は,

非正規雇用労働者について,定年を定めた規定はありませんでした。

 

 

 

 

郵政民営化で日本郵便株式会社が設立されたときに,

非正規雇用労働者の定年の規定が,次のように定められました。

 

 

「会社の都合による特別な場合のほかは,

満65歳に達した日以後における最初の雇用契約期間の満了の日

が到来したときは,それ以後,雇用契約を更新しない。

 

 

原告の非正規雇用労働者らは,この65歳定年制により,

満65歳のときに,労働契約を更新してもらえず,

雇い止めされてしまったのです。

 

 

そこで,原告の非正規雇用労働者らは,

定年制が必要なことに正当性がないこと,

非正規雇用労働者の不利益が大きいことを理由に,

65歳以上であっても,働き続けられることを主張して,

裁判を起こしました。

 

 

最高裁は,65歳定年制が合理的な労働条件か否かを検討しました。

 

 

労働契約法7条によれば,合理的な労働条件が定められた

就業規則が労働者に周知されていれば,

就業規則で定められた労働条件が労働契約の内容になります。

 

 

65歳定年制は,高齢の労働者が屋外の仕事をする場合,

事故が懸念される一方,加齢による労働力の低下を

個別の労働者ごとに検討することは困難であることから,

一定の年齢に達したときには労働契約を更新しない

とすることには合理性があると判断されました。

 

 

 

 

さらに,昨日解説したように,65歳までの雇用確保を

義務付けている高年法にも違反しません。

 

 

正社員は,60歳で定年となり,

65歳までは再雇用が認められますが,

65歳以上の再雇用は認められていませんので,

正社員との均衡もとられていました。

 

 

そのため,65歳定年制は,合理的な労働条件であり,

労働契約の内容になっているので,

65歳で雇止めしても問題がないと判断されたのです。

 

 

現時点では,65歳定年制が一般的ですので,

会社が拒否しているのにもかかわらず,

65歳を超えて働き続けるのは困難なことが多いです。

 

 

もっとも,昨日説明したように,高年法が改正されて,

定年が70歳に延長されれば,

65歳を超えても問題なく働き続けることができます。

 

 

人手不足が深刻な問題となっているので,会社は,

やる気があって働く能力がある高齢の労働者を

積極的に活用すべきだと思います。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。