労働者の性格を根拠に損害額を減らせるのか

電通の新入社員である高橋まつりさんの過労自殺が労災認定されて

,社会に衝撃を与えたのがちょうど今から2年前のことです。

 

 

この労災認定がきっかけで,電通のずさんな労務管理が批判され,

電通は法人として労働基準法違反で処罰されました。

 

(https://www.huffingtonpost.jp/2016/10/14/dentsu_n_12496662.htmlより抜粋)

 

 

また,長時間労働が問題視され,働き方改革関連法において,

これ以上の時間,残業させれば,会社に罰則を課すという,

罰則付きの残業時間の上限規制が導入されました。

 

 

このように,社会に大きなインパクトを与えた

高橋まつりさんの電通事件ですが,電通は,

高橋まつりさんの事件よりも以前に,

労働者を過労自殺に追い込んでいた事件を起こしているのです。

 

 

高橋まつりさんと同じように,入社約1年5ヶ月の新入社員が,

平成3年8月に働き過ぎによって過労自殺しているのです。

 

 

この事件では,遺族が電通に対して,

損害賠償請求の裁判を起こし,最高裁まで争われ,

平成12年3月24日に,過労自殺事件にとって

画期的な最高裁判決がくだされました。

 

 

本日は,電通事件の平成12年3月24日最高裁判決を紹介します

(労働判例779号13頁)。

 

 

この最高裁判決は,過労死事件の第一人者である

弁護士の川人博先生がご担当されました。

 

 

電通事件の被害者である労働者は,

ラジオ番組についての営業や企画立案の仕事をしており,

午前2時ころまで働いたり,

帰宅せずに徹夜で仕事をすることも多かったのです。

 

 

 

 

被害者である労働者は,極度の長時間労働と睡眠不足,

疲労が蓄積し,うつ病にかかり,突発的に自殺したのです。

 

 

会社は,労働者が仕事によって疲労や心理的負荷が過度に蓄積して,

健康を害さないように注意する安全配慮義務違反を負っています

 

 

電通は,被害者である労働者が長時間労働をして

健康状態を悪化させていることを知っていながら,

仕事の負担を軽減させる措置を採っていないので,

安全配慮義務違反が認められました。

 

 

その上で,電通事件では,労働者が働き過ぎで過労自殺した場合,

自殺した労働者の性格を根拠に,損害賠償額を減額することが

許されるのかが一つの争点となりました。

 

 

ようするに,まじめな性格のために思い悩んで自殺したことで,

損害が発生,拡大したのであれば,

損害額を減額する要因となるのかが争われたのです。

 

 

この点について,電通事件の最高裁判決は,次のように判断しました。

 

 

「ある業務に従事する特定の労働者の性格が

同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして

通常想定される範囲を外れるものでない限り

その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が

業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた

損害の発生又は拡大に寄与したとしても,

そのような事態は使用者として予想すべきものということができる。」

 

 

ようするに,労働者の性格が同じ仕事をしている

労働者の性格と比べて特に問題がなければ,

労働者の性格を根拠に損害額を減額できないとしたのです。

 

 

この電通事件の最高裁判決によって,過労自殺事件では,

よほど特殊な労働者の性格が自殺に影響しているといえない限り,

労働者がまじめであるとか打たれ弱いなどの性格を根拠に,

損害額を減額することは認められなくなりました。

 

 

過労自殺事件では,とても重要な裁判例ですので,

紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。