非正規雇用労働者は契約期間の途中で会社を辞めることができるのか?

労働契約の契約期間が定められている契約社員が,

契約期間の途中で会社を辞めることができるのでしょうか。

 

 

本日は,契約期間が定められている非正規雇用労働者が,

契約期間が満了する前に会社を辞めるには

どうすればいいのかについて説明します。

 

 

まず,労働契約に契約期間が定められていない,

いわゆる正社員が会社を辞めるには,

民法627条1項により,

2週間前に会社を辞めることを伝えれば,

いつでも会社を辞めることができます。

 

 

 

 

また,正社員が6ヶ月以上の期間,8割以上勤務していれば,

年次有給休暇を10日間取得できるので,

会社に退職届を提出して年次有給休暇を消化すれば,

2週間が経過しますので,会社に出社することなく,

会社を辞めることができます。

 

 

他方,労働契約に契約期間が定められている,

非正規雇用労働者は,原則として,

その契約期間中,会社を辞めることができません。

 

 

しかし,民法628条により,

労働契約に契約期間が定められている場合であっても,

「やむを得ない事由」があるときには,

非正規雇用労働者は,直ちに会社を辞めることができます。

 

 

それでは,「やむを得ない事由」というのは

どのような場合なのでしょうか。

 

 

非正規雇用労働者が退職することについて,

「やむを得ない事由」があったか否かが争われた裁判例は

ほとんどないので,どのような場合に「やむを得ない事由」

があったといえるのかの基準が不明確なのが現状です。

 

 

ただ,憲法22条で職業選択の自由が保障されており,

憲法18条で奴隷的拘束が禁止されており,

正社員の退職が原則自由であることから,

「やむを得ない事由」は緩やかに判断されるべきと考えます。

 

 

次のような場合には,「やむを得ない事由」がある

と判断されるのではないかと考えます。

 

 

①採用条件と実際の労働条件が著しく異なっていた場合

②賃金の支払が遅れている場合

③パワハラを受けた場合

④常に長時間労働をさせられている場合

 

 

 

このような理由があれば,契約期間の途中であっても,

非正規雇用労働者は,直ちに会社を辞めることができると考えられます。

 

 

なお,契約期間の途中で会社を辞めることになるので,

会社に迷惑をかけることになると思いますが,

そのことによって,会社から損害賠償請求されることは

通常ないと考えられます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

高度プロフェッショナル制度はどのような労働者に適用されるのか?

今年の6月に成立した働き方改革関連法の中で,

一番問題があったのが高度プロフェッショナル制度

(高プロといいます)です。

 

 

 

 

高プロは,高い年収をもらっている一部の専門職の労働者について,

労働時間規制を外すという制度です。

 

 

労働基準法では,1日8時間以上,

1週間で40時間以上働かせてはならず,

これを超えて働かせるのであれば,企業は,

労働者に残業代を支払わなければなりません。

 

 

また,休日に働かせたり,

午後10時から午前5時までの深夜の時間帯に働かせた場合には,

企業は,労働者に割増賃金を支払わなければなりません。

 

 

これが労働時間規制です。

 

 

高プロでは,この労働時間規制が外される結果,

どれだけ働いても残業代はゼロとなり,

長時間労働が助長されて,過労死が増えるリスクがあります。

 

 

 

 

そのため,高プロは,残業代ゼロ法案,

過労死促進法案として,批判されてきました。

 

 

しかし,残業代の支払いを削減したい

経済界の意向が反映されたのか,残念ながら,

高プロは成立してしまいました。

 

 

高プロの法律が成立したのですが,

高プロの対象者となる労働者は具体的にどのような労働者なのかは,

これからの労働政策審議会での議論を経て,

厚生労働省令で定められます。

 

 

まず,高プロの対象となる業務ですが,

法律では「高度の専門的知識等を必要とする」とともに

「従事した時間と従事して得た成果との関連性が

通常高くないと認められる」という性質の業務と規定されています。

 

 

これを読んだだけでは,どのような業務が

対象になるのかがさっぱり分かりません。

 

 

 

 

ということは,高度の専門的知識という言葉が拡大解釈されたり,

時間と成果の関連性が高くない仕事も多くあるわけなので,

高プロの対象業務がどんどん拡大されていくおそれがあります。

 

 

あいまいな言葉で法律が作られると,

権力者にとって都合のいいように拡大解釈される危険があるのです。

 

 

次に,年収要件ですが,法律では,

「1年間に支払われると見込まれる賃金の額が,

平均給与額の3倍を相当程度上回る」水準と規定されています。

 

 

ここで,平均給与額とは,厚生労働省の毎月の勤労統計をもとに

算定される,労働者1人あたりの給与の平均額のことです。

 

 

 

 

この厚生労働省の勤労統計の調査対象者には,

年収の低いパート労働者などが含まれています。

 

 

年収が低い労働者が含まれる結果,

平均すると給与額が低くなり,平均給与額の3倍の金額も低くなります。

 

 

そうなると,年収要件が低くなり,

高プロを適用される労働者が増えていくことになるのです。

 

 

今は,年収1075万円以上の労働者が対象となるかが

議論されていますが,統計の数値は変化していくので,

年収要件がどんどん低くなって,高プロの対象者が

拡大されていくのではないかが懸念されています。

 

 

そもそも,対象者をどの範囲にするかという重要な議論が,

国会審議なしに,国民の目が行き届かない

諮問機関でなされているのがおかしな話です。

 

 

来年4月から高プロが導入されるのですが,

労働者の方々は,高プロにくれぐれも気をつけてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社を辞めるのは難しくない

最近,退職代行サービスというのが,都市部では流行しているようです。

 

 

会社を辞めさせてくれない,

人手不足のために会社を辞めにくい,

親に言わずに退職したいなどの

労働者のニーズにこたえるために,

退職手続きを代わりに行うというサービスらしいです。

 

 

しかし,労働法の知識があれば,

このような退職代行サービスにお金を支払わなくても,

自分で退職することは十分に可能です。

 

 

 

 

そこで,本日は,会社を辞めたい労働者が,

会社を辞めるために必要な情報を記載します。

 

 

まず,労働者には退職する自由が認められており,

労働者が会社を辞めるのに,会社の承諾は必要ありません。

 

 

これは,憲法22条で職業選択の自由が保障されており,

憲法18条で奴隷的拘束が禁止されているからです。

 

 

そのため,会社を辞めますと会社に伝えれば,問題なく退職できます。

 

 

もっとも,辞めることを口頭で伝えると,

言った言わないという問題になるリスクがあるので,

退職届を書いて,配達証明という方法で会社に郵送すれば,

退職の意思表示が確実に会社に伝わります。

 

 

 

 

気をつけなければならないのは,民法627条1項により,

2週間前に退職の予告をしなければらならないことです。

 

 

労働者が退職の意思表示をしてから,

2週間が経過した後に労働契約が終了することになります。

 

 

とはいえ,すぐにでも会社を辞めたい労働者も大勢いると思います。

 

 

そのような場合には,たまっている有給休暇を消化すれば,

会社に行かずに退職できます。

 

 

会社に退職届を提出した後,有給休暇を消化して,

2週間経過するのを待てばいいのです。

 

 

会社に6ヶ月以上勤務して8割以上出勤していれば,

10日間の有給休暇が取得できます。

 

 

2週間のうち,土日が休みであれば,

平日10日間有給休暇を消化すれば,

会社に出社せずとも,すぐに会社を辞めることができます。

 

 

また,会社を辞めるのに理由はいりません

 

 

自分が会社を辞める理由を書いてもいいですし,

何も理由を書かずに,単に辞めますと記載するだけでもいいです。

 

 

会社から辞める理由を聞かれても,答える必要はありませんが,

とりあえず,「一身上の都合により」とぼやかしておけばいいと思います。

 

 

このように労働法の知識があれば,

退職代行サービスにお金を支払うことなく,

会社を辞めることができます。

 

 

退職代行サービスにお金を支払うのではなく,

むしろ転職活動にお金を使うべきです。

 

 

ぜひ,多くの人に労働法の知識を知ってもらいたいと思いますので,

今後とも,労働者にとって有益な情報を発信していこうと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラによるアイドルの自殺

松山市を拠点とする農業アイドル愛の葉Girls

のメンバーだった大本萌景さん(当時16歳)が自殺したのは,

過重労働やパワハラなどが原因であったとして,

遺族が所属していた会社Hプロジェクトなどに対して,

約9200万円の損害賠償請求訴訟を松山地裁に起こしました。

 

 

(弁護士ドットコムニュースより抜粋)

 

遺族が主張する過重労働は,

早いときには午前4時30分に集合し,

解散は翌日の午前2時ころになるなどの長時間の拘束,

平日もイベントに駆り出され,休みの日がほとんどなく,

学業よりも仕事を優先させられたなどというものです。

 

 

また,遺族が主張するパワハラは,

スタッフに脱退したい旨を伝えると,

LINEで「次また寝ぼけた事言い出したらマジでブン殴る」と返信され,

休日を希望すると「お前の感想はいらん」,

「その理由によって,今後事務所はお前の出演計画を考えにゃならん。

そこまで考えて物を言え」と返信されたとなどというものです。

 

 

過重労働については,大本さんが自殺前の6ヶ月間に,

どれだけの時間,労働していたかが重要なポイントになります。

 

 

アイドルの場合,タイムカードとかがなさそうですので,

どうやって労働時間を証明するのかが気になります。

 

 

 

 

大本さんは,当時16歳でしたので,過重労働が真実であれば,

会社は,労働基準法の年少者の保護規定に違反したことになります。

 

 

労働基準法60条で,15歳以上18歳未満の年少者については,

36協定による残業や休日労働が禁止されています

 

 

ただし,1週間の労働時間が40時間をこえない限り,

1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合においては,

1日に労働時間を10時間まで延長することが可能となります。

 

 

また,労働基準法61条により,

満18歳に満たない年少者については,

午後10時から午前5時までの深夜の時間帯

に働かせることが禁止されています。

 

 

会社が労働基準法の年少者の保護規定を守っていなかったとすれば,

会社が労働者の生命や健康に配慮しなければならない義務

安全配慮義務といいます)に違反していたといいやすくなると考えます。

 

 

また,パワハラについては,パワハラの事実を

どうやって証明するのかがハードルになります。

 

 

しかし,本件においては,LINEのメッセージが残っていたので,

パワハラの事実は証明できると遺族側は考えたのだと思います。

 

 

16歳の女子学生に対して,

上記のようなLINEのメッセージを送ることは

パワハラに該当すると考えられますが,

他のパワハラ事件では,どの程度までいけば,

違法なパワハラになるのかについて線引が難しいことが多いです。

 

 

そこで,現在,労働政策審議会において,

職場でのハラスメントを法律で禁止して,

パワハラ防止を企業に義務付ける法律を

制定するべきかが議論されています。

 

 

 

 

アイドルのパワハラによる自殺という痛ましい事件によって,

パワハラを防止する機運が高まっていますので,

パワハラ防止策の法制化をぜひ実現してもらいたいです。

 

 

こちらのURLにアクセスしていただくと,

パワハラ禁止の法律作成の電子署名のサイトがありますので,

ぜひ電子署名にご協力いただければ幸いです。

 

 

http://ur0.work/Mu9I

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社が退職金を振り込んでくれない場合の対処法とは?

給料を手渡しで支給している会社を退職したところ,

会社から,退職金の支払いを受けたければ,

会社に退職金を取りに来るように言われた場合,

労働者は,会社に対して,退職金を振込む方法で支払え

と請求できるのでしょうか。

 

 

上司からパワハラを受けて退職したり,

突然不当解雇されてしまった場合など,

会社を退職した労働者は,一度辞めた会社へ

行きたくないことも多いと思います。

 

 

このような労働者の心理状態を利用して,

労働者が会社に退職金を取りに来ないから,

退職金を支払わないという,ひどい対応をする会社もあります。

 

 

結論としては,このような会社の対応は,誤りであり,

労働者は,会社に対して,退職金を振込む方法によって

支払うように請求できます。

 

 

 

 

まず,労働基準法には,退職金請求権を

直接根拠づける規定がないので,労働者が会社に対して,

退職金を請求するには,会社に退職金について定められた

就業規則などが存在することが必要になります。

 

 

すなわち,会社に退職金に関する規定がないのであれば,

労働者は,会社に退職金を請求することができないのです。

 

 

退職すれば,当然に会社から退職金が支払われるはずだ

と考えるのは間違いです。

 

 

一度,自分が勤めている会社の就業規則や労働契約書を確認して,

退職金についての定めがあるかをチェックしてみるといいでしょう。

 

 

さて,就業規則などに退職金についての規定があり,

会社に対して,退職金を請求できる場合,

退職金を支払う場所ですが,会社が労働者の住所へ

退職金を持参して支払わなければなりません。

 

 

 

 

民法484条に,金銭の支払いについては,

金銭を請求できる人の住所でしなければならない

と規定されているからです。

 

 

とはいえ,会社の経理担当者が,労働者の自宅へ

わざわざ給料や退職金を支払いにいくのは手間がかかりますので,

労働者の預金口座へ給料や退職金を振込むことが行われているのです。

 

 

そのため,労働者は,会社に対して,

退職金を自宅まで持ってきて支払えと言えるのですが,

それはお互いに面倒ですので,労働者が退職金の支払いは

振込でいいと会社に伝えたのであれば,会社は,

労働者に振込で支払わなければなりません。

 

 

また,退職金の支払時期について,

就業規則などに支払時期が定められていれば,

その支払時期までに退職金が支払われれば問題ありませんが,

就業規則などに支払時期が定められていない場合は,

労働基準法23条によって,会社は,

労働者の退職金の請求があったときから7日以内に,

退職金を支払われればなりません。

 

 

労働者の退職金の請求から7日以内に退職金が支払われない場合,

労働者は,会社に対して,年6%の遅延損害金を

請求できることになります

(民法が改正されると遅延損害金の年率が年3%に変更されます)。

 

 

まとめますと,退職金を取りに来ないのであれば支払わない

という会社の対応は誤りであり,労働者は,会社に対して,

退職金を振り込めと請求できますし,請求から7日以内に

支払わないのであれば,遅延損害金もあわせて請求できます。

 

 

それでも会社が退職金を振り込まないのであれば,

労働基準監督署へ相談に行き,労働基準監督署から

会社に行政指導してもらうか,

弁護士に交渉をしてもらうかなどの方法を検討することになります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

セクハラ被害者の心理状態

セクハラの被害者は,被害を忘れようとして,

前と同じように日常生活をおくり,

専門家への相談は遅くなりがちになってしまう。

 

 

このようなセクハラの被害者の言動について,

詳細に判断した熊本バドミントン協会セクハラ事件の裁判例を紹介します

(熊本地裁平成9年6月25日判決・判例時報1638号135頁)。

 

 

この事件の被害者は,会社のバドミントン部に所属し,

国体に出場するなどの活躍をしていました。

 

 

 

 

加害者は,県議会議員をつとめるほか,

県バドミントン協会の副会長,

市バドミントン協会の会長の地位にあった人物です。

 

 

被害者は,加害者から食事を誘われ,

アルコール度が強いお酒を飲まされた後,

加害者の車に同乗したところ,

ホテルへ連れて行かされました。

 

 

 

 

被害者は,「そういうつもりじゃありません。」

と言ったのですが,酒の影響で力が入らず,

ホテルの部屋へ連れ込まれて,性関係を強いられました。

 

 

被害者は,国体前の大事な時期にこの事件が公になれば,

試合に出られなくなり,他の選手に迷惑がかかるかもしれないと思い,

加害者を告訴すれば,バドミントン協会の役員の地位を利用して,

報復として選手生命を奪われるかもしれないと思い,

告訴できませんでした。

 

 

加害者から,「離婚して妻も子供もいない。」,

「結婚を前提に付き合いたい。」と言われ,被害者は,

これらの言葉を信じることでみじめな気持ちが少しでも

救われる感じになり,加害者からの要求を断れば,

どのような報復があるかもしれず,

加害者との性関係が続いてしました。

 

 

 

その後,加害者からは,妻とは離婚できないと言われ,

被害者は,騙されていたことがわかり,

「もう会いません。電話もしないでください。」と言いました。

 

 

被害者は,この事件の後,恋人と別れ,

バドミントン部も会社も辞めることになりました。

 

 

裁判では,被害者と加害者の性関係は合意に基づくものであったのか

が争点となり,被害者の主張と加害者の主張の

どちらが信用できるのかが争われました。

 

 

結論として,被害者の主張は信用でき,

被害者と加害者の性関係は合意に基づくものではなく,

強姦であったと判断されました。

 

 

加害者は,強姦の被害にあったのであれば,

そのショックから立ち直るのに時間がかかるはずなのに,

被害者が次の日から普段どおりに生活しているので,

強姦ではなかったと主張しました。

 

 

しかし,強姦の被害者は,被害の事実と直面することを避けて,

ショックを和らげるための防御反応として,

被害にあう前と同じ日常生活をおくることがよくあるので,

加害者の主張は採用されませんでした。

 

 

また,加害者は,被害者が強姦されたと主張していながら,

加害者との性関係を継続しているので,

加害者を許していたのだと主張しました。

 

 

しかし,被害者は,加害者から,「結婚したい」と言われ,

少しでも愛情があって強姦したのであれば,

単なる暴力的な性のはけぐちとして強姦された場合よりは

救いがあると考えて,加害者の言葉を信じようとして,

性関係を続けてしまったので,加害者の主張は採用されませんでした。

 

 

結果として,加害者に対して,

慰謝料300万円の請求が認められました。

 

 

このように,被害者は,被害を忘れたいが,

加害者を許せないなど,様々な苦悩や葛藤をかかえながら,

ようやく救済のために立ち上がるのです。

 

 

 

 

セクハラの被害者は,救済のためにすぐに

誰かに相談にいくはずであり,そうしなかったのだから,

セクハラはなかったはずだなどという

固定観念はもはや通用しないのです。

 

 

セクハラ事件では,セクハラの被害者の心理状態や行動について,

慎重に検討することが重要になります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

解雇期間中に別の会社で働いた収入は未払賃金から控除されてしまうのか?

労働者が解雇されている期間に別の会社で働いて得た収入

中間収入といいます)は,解雇が無効と判断されるまでの期間の

未払賃金(バックペイといいます)から控除されてしまうのでしょうか。

 

 

労働者は,解雇されてしまうと,給料がもらえなくなるので,

生活するために収入を確保する必要があるので,別の会社で働きます。

 

 

 

 

もっとも,解雇に納得ができない労働者は,会社に対して,

解雇が無効であるので,労働契約上の地位があることの確認と,

バックペイの支払いを求めて,労働審判または裁判を行います。

 

 

労働者が解雇した会社に対して,お金の支払いを求めたいだけ

であっても,裁判手続では,解雇した会社に戻ることを

建前として主張することになります。

 

 

解雇した会社に戻ることを建前として主張しているのに,

別の会社で働いていることは一見すると矛盾していますが,

労働者としては,生活していかなければなりませんので,

解雇した会社に戻ると主張して裁判で争っていても,

別の会社で働くことは問題ありません。

 

 

さて,解雇を争う事件ですと,会社から,

解雇期間中に労働者が得た中間収入をバックペイから

控除するべきだという主張がされることが多いです。

 

 

 

 

本日は,バックペイから中間収入を控除できるのかについて解説します。

 

 

現行民法536条2項には次のように規定されています。

 

 

「債権者の責めに帰すべき事由によって

債務を履行することができなくなったときは,

債務者は,反対給付を受ける権利を失わない。

この場合において,自己の債務を免れたことによって

利益を得たときは,これを債権者に償還しなければらならない。」

 

 

労働者が会社で働こうとしても,会社が不当な解雇で,

労働者の就労を拒否している場合,労働者は,

会社に労務を提供することができません。

 

 

そこで,現行民法536条2項の第1文によって,

会社の不当解雇という「責めに帰すべき事由」によって,

労働者は,労務を提供する債務を履行できないので,

反対給付である賃金請求権を行使できるのです。

 

 

これが,解雇事件で,労働者がバックペイを請求できる根拠です。

 

 

しかし,労働者が,会社で労務を提供することを免れたことで,

別の会社で働いて中間収入という利益を受けているので,

現行民法536条2項第2文によって,

中間収入分を会社に返さなければならないことになります。

 

 

労働者は,解雇されてやむなく別の会社で働いて

なんとか稼いだ収入が「自己の債務を免れたことによって利益を得たとき」

に該当するのは,労働者としては,釈然としないと思います。

 

 

 

 

ところが,労働基準法26条には,

「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては,

使用者は,休業期間中当該労働者に,

その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」

と規定されています。

 

 

民法よりも労働基準法が優先適用されますので,

会社がバックペイから控除できる中間収入は,

平均賃金の4割に限定されており,

平均賃金の6割分は,労働者が確保できます。

 

 

労働基準法の平均賃金とは,

3ヶ月間に労働者に支払われた賃金の総額を,

その期間の総日数で割って算出されます。

 

 

まとめますと,解雇期間中に別の会社で働いた場合,

解雇された会社で働いていたときの平均賃金の6割については,

労働者は,中間収入を確保することができ,

平均賃金の6割を超える残りの4割の部分については,

バックペイから中間収入が控除されることになります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

仕事中にアダルトサイトを閲覧していると懲戒処分されるのか?

10月2日,神戸大学が,40代の男性事務職員に対して,

停職6ヶ月の懲戒処分を行いました。

 

 

http://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/info/2018_10_02_01.html

 

 

懲戒処分の理由は,男性事務職員が,

約2年の期間中に労働時間の内外合わせて約1,220時間,

そのうち,労働時間内は約730時間にわたり,

業務用に貸与されているパソコン及び情報ネットワークを使用して,

アダルトサイト等を閲覧していたというものです。

 

 

 

 

大学としては,仕事中に長時間アダルトサイトを

閲覧していたのであれば,懲戒解雇したいと考えるかもしれませんが,

今回は停職6ヶ月の懲戒処分となりました。

 

 

仕事用のパソコンで長時間アダルトサイトを閲覧したことで,

会社は,労働者を懲戒解雇できるのでしょうか。

 

 

本日は,パソコンの私的利用と懲戒処分について解説します。

 

 

まず,労働者は,労働契約に基づき,

その職務を誠実に行わなければならないという

職務専念義務を負っています。

 

 

また,会社の施設,設備には会社の施設管理権が及びますので,

就業時間外であっても,労働者は当然に会社設備を自由に,

私的に利用できるわけではありません。

 

 

もっとも,多くの会社では,就業時間内であっても,

私的な会話や私用の電話,私的なメールが許容されています。

 

 

そのため,就業時間内に私的な行動が認められないと,

労働者はとても働きにくくなります。

 

 

パソコンの私的利用については,

会社がどのような方針をとり,労働者にそれを徹底していたかが

重要な判断要素になります。

 

 

会社がパソコンの私的利用を禁止する規定をつくって,

労働者に周知させていたのであれば,

原則として,パソコンの私的利用は禁止されます。

 

 

 

 

他方,そのような禁止規定がなかったり,

パソコンの私的利用が社会通念上許容される限度で黙認されている

場合には,許容されると考えられます。

 

 

神戸大学の事件では,大学から貸与されていたパソコンを利用して,

労働時間に約730時間もアダルトサイトの閲覧をしていたのですから,

社会通念上許容される限度を超えています。

 

 

その結果,神戸大学の就業規則のうち,

正当な理由なく,勤務を怠ったこと,

大学の設備,物品等を私的に利用したことに該当し,

懲戒事由が認められます。

 

 

懲戒処分は,懲戒事由があるだけで有効になるわけではなく,

他の労働者との平等取扱や,懲戒処分の重さとの関係も考慮されます。

 

 

例えば,他の労働者も同じように勤務時間にアダルトサイトを

閲覧していたのに,1人の労働者だけが懲戒処分を受けるのでは,

平等取扱に違反して,懲戒処分が無効になる可能性があります。

 

 

また,ある懲戒事由に対して,懲戒処分が重すぎる場合にも,

懲戒処分が無効になる場合があります

 

 

懲戒処分は,通常,戒告・譴責→減給→停職→諭旨解雇→懲戒解雇

という順番で重くなっていますが,

それほど重大ではない懲戒事由に対して重い懲戒処分を課すと,

懲戒処分が重すぎて相当ではなく,無効になる可能性があります。

 

 

懲戒処分を争う裁判では,この処分の相当性で,

労働者が勝つことがあります。

 

 

神戸大学の事件では,労働時間に約730時間アダルトサイトを

閲覧していましたが,その労働者が,

アダルトサイトを閲覧している以外は真面目に仕事をしていて,

成果を出していたり,また,過去に懲戒処分を受けたことがない

のであれば,いきなり懲戒解雇をすることは重すぎると,

裁判で判断される可能性があります。

 

 

懲戒解雇は,労働者に対する死刑宣告に近い,

最も重い処分ですので,アダルトサイトを閲覧して,

ウイルスに感染するなどして,大学に実害が生じていないのであれば,

神戸大学の事件で懲戒解雇が選択されなかったのは

妥当なことだと考えます。

 

 

 

 

もっとも,懲戒処分された男性事務職員の過去の懲戒処分履歴や,

他の労働者への処分がわからないため,なんとも言えませんが,

停職6ヶ月はやや重いと感じます。

 

 

停職処分期間中,労働者は給料をもらえませんので,

6ヶ月の停職は長くて重い気がします。

 

 

通信技術が発達しているので,会社は,

労働者をモニタリングしている可能性があるので,

会社から貸与されているパソコンを私的に利用するには,

くれぐれも気をつけるべきです。

 

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

本採用が拒否されるのはどのような場合?

10月9日,経団連が新卒学生の就職活動の日程を決める

「採用選考に関する指針」を廃止することを正式に発表しました。

 

 

今後は,政府が就活のルール作りを主導していくことになります。

 

 

今後,就活する学生にとっては,

どのようなルールになるかわかりませんが,

公正なルールが作成されて,

納得できる就活をしてもらいたいです。

 

 

 

 

さて,就活活動がうまくいき,

希望の就職希望先から採用内定をもらいました。

 

 

採用条件をみたところ,試用期間が6ヶ月と記載されていました。

 

 

この試用期間である6ヶ月が経過した後に,

本採用が拒否されるのはどのような場合なのでしょうか。

 

 

本日は,試用期間と本採用拒否について解説します。

 

 

試用期間とは,入社後一定期間を見習い期間として,

その間に採用した労働者を評価して,本採用するかを決めることです。

 

 

 

なぜ,試用期間がもうけられるかといいますと,

採用内定の当初には,労働者の資質・性格・能力などの適格性

に関することについて,会社は十分に資料を集めることができないので,

後日の見習い期間中に,労働者の適格性を観察し,

その間の最終決定を留保する必要があるからです。

 

 

試用期間といえども,既に入社しているので,

労働契約は成立しています。

 

 

もっとも,試用期間中の労働者の勤務状態などから,

労働者の能力や適格性が判定され,

雇用を継続することが適当ではないと判断されると,

本採用が拒否されることがあります。

 

 

このように,試用期間中は,会社に

労働者の不適格を理由とする解約権が留保されているのです。

 

 

では,会社は,どのような場合に,

留保されている解約権を行使して,本採用拒否ができるのでしょうか。

 

 

 

 

この点について,判断した有名な

三菱樹脂事件の最高裁判決をみてみましょう

(最高裁昭和48年12月12日判決・労働判例189号16頁)。

 

 

「企業者が,採用決定後における調査の結果により,

または試用期間中の勤務状態等により,当初知ることができず,

また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において,

そのような事実に照らしその者を引き続き

当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが,

解約権留保の趣旨・目的に徴して,客観的に相当であると認められる場合」

に,本採用拒否ができるとしました。

 

 

ようするに,採用決定時にはわからなかったことが

試用期間中に発覚し,その発覚したことをもとにすると,

労働者を引き続き雇用するのが適当ではない場合

に限って本採用拒否ができるのです。

 

 

具体的には,従業員としての職務能力・資質や協調性に欠け,

指導・教育を行っても改めずに,

将来にわたって改善の見込みが低い場合には,

本採用拒否が認められています。

 

 

このように,本採用拒否が許されるのは限定されていますので,

普通に働いている分には,本採用拒否されることはありません。

 

 

もし本採用拒否された場合には,

一度弁護士へ相談することをおすすめします。

 

 

なお,本採用拒否されないまま,試用期間が経過すれば,

会社が留保していた解約権は消滅して,通常の労働契約に移行します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社の不正を知ってしまったらあなたはどうしますか?

会社で不正が行われていることを知ってしまったあなたは,

どのような行動をとりますか。

 

 

勤務している会社で不正がひどくなり,

不正を強要されることも多くなり,

事故が生じているため,労働者が心配になり,

内部告発をすることにしました。

 

 

労働者は,次の手順で内部告発をしました。

 

 

まずは,会社の上司に相談しました。

 

 

上司からは,見て見ぬふりをするように

言われてしまい,何も意味はありませんでした。

 

 

 

 

次に,労働基準監督署へ相談に行きました。

 

 

労働基準監督署へ相談へ行ったものの,特に動きはなく,

上司からは,労働基準監督署へ相談に行ったことがばれると

クビになるぞと言われました。

 

 

最後に,インターネットに,会社名はふせて,

不正が行われていることを書き込みました。

 

 

 

すると,会社に,インターネットの書き込みがバレてしまい,

会社をやめるように言われました。

 

 

このような場合,労働者は,会社をやめなければならないのでしょうか。

 

 

不正をばらせば,会社から不利益な取扱を受けるかもしれませんし,

他方で,不正で犠牲になる人がいると思うと,

どうしたらいいのかとても迷います。

 

 

このようなときには,公益通報者保護法という,

内部告発者を保護する法律が適用できないかを検討します。

 

 

会社の不正が,犯罪行為に該当し(通報対象事実といいます),

その犯罪行為が現に発生しているか,または,

発生の切迫性がある状況で通報する必要があります。

 

 

会社の内部で通報する場合には,労働者が,

通報対象事実の発生または切迫性を思料するだけで大丈夫です。

 

 

労働基準監督署などの行政機関へ通報する場合には,

通報対象事実が発生しているか,または,

通報対象事実が発生しようとしていると信じるに足りる相当の理由

が必要になります(真実相当性といいます)。

 

 

その他の外部機関(マスコミなどです)へ通報する場合には,

真実相当性以外に,次のいずれかに該当する必要があります。

 

 

①会社内部や労働基準監督署へ通報すれば,

会社から解雇されるなどの不利益な取扱をうける危険がある場合

 

 

②会社内部で通報すれば,通報対象事実の証拠を隠滅される

おそれがある場合

 

 

③会社から公益通報をしないことを要求されている場合

 

 

④文書で会社に通報したけれども,会社が何も調査をしない場合

 

 

⑤個人の生命または身体に危害が発生する危険が切迫している場合

 

 

ようするに,通報先が会社内部→行政機関→外部機関

へ変わるにつれて,要件が厳しくなるのです。

 

 

 

これら公益通報者保護法の要件を満たせば,

内部告発をした労働者に対する解雇は無効になり,

会社は,労働者に対して,不利益な取扱をできなくなります。

 

 

内部告発をすることを労働者が決めた場合,

まずは,会社内部で通報し,その後,労働基準監督署へ相談し,

それでも何も変化がないのであれば,

外部のマスコミへ通報することを検討しましょう。

 

 

インターネットの書き込みは,

書き込みをした人が特定されたり,

正しく情報が伝わらない可能性があるので,

あまりおすすめはできません。

 

 

内部告発をする前に,公益通報者保護法が適用される

可能性があるのかを弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。