企画業務型裁量労働制の争い方3~労働者の同意を活用する~
昨日のブログでは,企画業務型裁量労働制の
手続的要件を争うポイントとして,
労使委員会の設置や決議について解説しました。
本日は,昨日に引き続き,企画業務型裁量労働制の争い方のうち,
手続的要件を争う方法の続きについて説明します。
昨日も述べましたが,労使委員会は,
次の7つの項目について決議します。
①対象業務
②対象労働者の範囲
③1日のみなし労働時間
④健康及び福祉確保措置
⑤苦情処理措置
⑥労働者の同意を要すること,不同意労働者への不利益取扱の禁止
⑦決議有効期間,記録保存期間
このうち,特に重要なのが,③1日のみなし労働時間です。
例えば,毎日11時間ほど残業しているにもかかわらず,
1日のみなし労働時間が8時間とされてしまえば,
企画業務型裁量労働制が導入されていないのであれば,
8時間を超える3時間分の残業代を請求できるのですが,
この3時間分の残業代を請求できなくなってしまいます。
そのため,労働者が長時間労働をしているのに,
みなし労働時間が実態の労働時間よりも短く設定されてしまうと,
労働者は,残業代を減額されてしまうのです。
労使委員会では,対象業務の内容を十分検討するとともに,
対象労働者に適用される評価制度及び賃金制度について,
会社から十分な説明を受け,みなし労働時間が,
実態に見合った水準になるように決議する必要があります。
裁量労働制は,実際の労働時間のいかんにかかわらず,
一定の時間労働したものとみなされるので,
会社が残業代削減,残業隠しのために濫用する危険があります。
労働者が過大な目標を背負わされてしまい,
目標を達成するために,長時間労働を強いられてしまい,
肉体的・精神的ストレスによる身体の不調が生じ,
最悪の場合には,過労死や過労自殺に追い込まれる危険があります。
会社には,裁量労働制のもとでも,
労働者に対する安全配慮義務を負っていることから,
タイムカードなどによって実際の労働時間を把握し,
業務の目標などの基本的事項を適切に設定することが求められます。
次に,⑥労働者の同意を要すること,
不同意労働者への不利益取扱の禁止について,説明します。
労働者の同意は,労働者にとって強力な武器です。
労働者は,企画業務型裁量労働制の適用について,
個別具体的な同意をしなければ,
企画業務型裁量労働制を適用されないのです。
すなわち,労働者は,企画業務型裁量労働制の適用に対して,
自由に諾否を選択・決定できるのです。
この同意は,就業規則や入社時の労働契約書の条項などの
事前の包括的な同意ではだめで,
企画業務型裁量労働制を適用するタイミングで,
労働者から個別に取得する必要があります。
労働者が,企画業務型裁量労働制の適用に同意しなかったとしても,
会社は,そのことを理由に,同意をしなかった労働者に対して,
解雇・配転・降格などの不利益な取扱をすることが禁止されています。
さらに,労働者が,一度,企画業務型裁量労働制の適用に
同意しても,後から撤回することができます。
そのため,労働者としては,残業代が少なくなる上に,
長時間労働をさせられるのは嫌だと思えば,
企画業務型裁量労働制の適用に同意しなければよく,
一度,同意しても,後から同意を撤回すれば,
企画業務型裁量労働制が適用されない,
普通の働き方に戻ることができるのです。
以上,3回にわたって企画業務型裁量労働制について
解説してきましたが,企画業務型裁量労働制は,
労働基準法において要件が厳格に制限されていて,
大企業でも違法に適用していることもあるので,
労働者は,企画業務型裁量労働制が労働基準法の
要件をちゃんと満たしているのかをチェックし,また,
企画業務型裁量労働制の適用について,同意しなかったり,
同意を撤回することで,適用を免れることができます。
本日もお読みいただきありがとうございます。