労働条件を変更するための合意とは3~契約期間の変更~

会社から詳しい説明がないまま,

会社から提示された書面にサインしないと,

解雇されると思い,サインしたところ,

正社員から契約期間の区切られた

非正規雇用労働者に変更させられてしまいました。

 

 

 

このようなケースの場合,労働者は,

正社員である無期労働契約から,

非正規雇用労働者である有期労働契約へ

変更することについて,合意があったと

認められるのでしょうか。

 

 

本日は,無期労働契約から有期労働契約に

労働条件を不利益に変更されたことについての

労働者の合意について判断された

社会福祉法人佳徳会事件を紹介します

(熊本地裁平成30年2月20日判決・

労働判例1193号52頁)。

 

 

この事件では,争点がたくさんあるのですが,

労働条件の変更の合意について解説します。

 

 

労働契約法8条により,労働者の合意があれば,

労働条件を変更することができます。

 

 

しかし,労働者は,会社の指揮命令に服する立場にあるので,

会社から労働条件の変更の提案を受けても拒否しにくいのです。

 

 

また,会社から労働条件を変更する理由の説明を受けても,

会社が情報を一方的ににぎっていることが多く,労働者は,

自分の力で情報収集するのにも限界があり,

適切な判断をしにくい状況にあります。

 

 

そのため,労働者が形式的に労働条件の変更に合意していても,

労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には,

労働者の合意は慎重に判断されます。

 

 

山梨県民信用組合事件の平成28年2月19日判決は,

当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,

労働者により当該行為がされるに至った経緯及び態様,

当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,

当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる

合理的な理由が客観的に存在するか否か

という観点からも,判断されるべき」としました。

 

 

 

 

そして,期間の定めのない無期労働契約であれば,

労働者は解雇されない限り,雇用が維持されるのに対し,

期間の定めのある有期労働契約であれば,

原則として期間満了で労働契約が終了し,

例外的に労働契約法19条の要件を満たす場合に,

契約が更新される可能性があるという相違があり,

契約の安定性に大きな相違があります。

 

 

そのため,無期労働契約から有期労働契約へ

労働条件を変更する場合にも,

山梨県民信用組合事件の最高裁判決が示した

上記の基準に従って判断することになります。

 

 

本件事件では,原告の労働者は,期間の定めのある

労働条件通知書にサインをしていましたが,

個別面談における説明が極めて短時間であり,

不利益の内容についての説明が十分に行われていないこと,

原告の労働者がサインしなければ解雇されると思ったので,

サインしたと認められることから,自由な意思に基づいて

されたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しない

として,無期労働契約から有期労働契約へ労働条件を

変更することについて原告の合意はなかったと認定されました。

 

 

その結果,原告は,正社員のままとなり,

原告に対する解雇は無効となりました。

 

 

さらに,本件事件では,原告が体調不良で自宅で休んでいたときに,

被告の代表者が自宅を訪問して,解雇を通告し,

原告は保育士であったのですが,園児や保護者の

目に触れる場所である保育園の玄関に貼ってる

職員一覧に原告が解雇されたと記載していたことから,

解雇の態様が悪質であると判断されました。

 

 

 

 

原告は,被告の行為により,本件保育園で保育士として

勤務する希望を絶たれ,長期間不安定な地位に置かれていたことから,

慰謝料30万円が認められました。

 

 

解雇が無効となり,未払賃金が支払われることになれば,

解雇を理由とする慰謝料請求は認められない傾向にあるのですが,

解雇の態様が悪質な場合には,慰謝料請求も認められる余地があるのです。

 

 

労働契約の期間を無期から有期に変更する場合の

労働者の合意を慎重に判断することは,

労働者にとって有利な判断ですので,紹介しました。

 

 

労働条件の変更に納得がいない場合には,

弁護士に早目に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。