高血圧や高脂血症の基礎疾患を有する労働者の脳梗塞発症の因果関係~自動車販売店の店長の労災事件~

平成26年に過労死防止対策推進法が成立してから,

約5年が経過するのですが,過労死はなくなっていません。

 

 

最近では,長崎で,過重労働によって医師が過労死したことについて,

病院に対する損害賠償請求が認められ,

大阪では,フランス料理店の調理師が過重労働で過労死したことについて,

労災が認定されました。

 

 

 

 

これらの過労死に関連して,本日は,

過重労働によって脳梗塞を発症して,

体に麻痺が残る後遺障害の認定を受けた労働者が,

会社に対して,安全配慮義務違反の損害賠償請求をした

フルカワほか事件を紹介します

(福岡地裁平成30年11月30日判決・労働判例1196号5頁)。

 

 

この事件では,中古車販売店で働いていた労働者が,

1ヶ月平均174時間もの時間外労働をして,脳梗塞を発症しました。

 

 

本件の労働者は,もともと,

高血圧及び高脂血症の診断を受けており,

体重92kgの肥満体でした。

 

 

本件の労働者の脳梗塞は,アテローム血栓性脳梗塞というもので,

動脈硬化により狭くなった脳の太い血管に血栓ができることで,

血管がつまって起こるもので,動脈硬化を発症させる

高血圧及び高脂血症が主な原因と言われています。

 

 

 

 

そのため,本件の労働者の脳梗塞が,

過重労働が原因で発症したのか,

基礎疾患である高血圧及び高脂血症が原因で発症したのか,

という因果関係が争点となりました。

 

 

この点,裁判所は,本件の労働者の生活習慣や基礎疾患が

脳梗塞の発症に一定程度影響したといえるものの,

本件の労働者の年齢が38歳とまだ若かったこともあり,

基礎疾患が他の原因なくして自然に増悪したとはいえず,

過重労働による負荷が原因で脳梗塞を発症したと判断しました。

 

 

また,本件事件では,長時間労働以外に,

仕事内容が相応の精神的緊張を伴う業務であったことも,

因果関係を肯定する要因とされました。

 

 

本件の労働者は,店舗の店長であったのですが,

店長には,行動目標が設定されており,

目標を達成できなかったときには,

対策を会議で問われるなど,

精神的緊張を伴う業務をしていました。

 

 

精神的緊張と脳血管疾患の発症との関連性については,

医学的に十分解明されていないものの,

精神的緊張によるストレスは,

脳梗塞の発症の要因となりえると判断されました。

 

 

 

そして,会社には,本件の労働者の健康状態及び労働時間

その他の勤務条件を的確に把握した上で,

本件の労働者に過度な負担が生じないように,

本件の労働者の業務の量または内容を調整する措置を講ずるべき

注意義務を負っていたにもかかわらず,これに違反したとして,

安全配慮義務違反が認められました。

 

 

さらに,本件事件では,会社の代表取締役に対する

損害賠償請求も認められたのが特徴的です。

 

 

会社法429条1項により,取締役の任務懈怠によって

株式会社が第三者に損害を与えた場合,

その第三者を保護するために,

取締役が損害賠償義務を負うことになります。

 

 

そして,労使関係は企業経営について不可欠なものであり,

株式会社の取締役は,会社が安全配慮義務違反を遵守する

体制を整備するべき義務を負っていると認められました。

 

 

その上で,本件事件の代表取締役は,

従業員の過重労働を防止するための

適切な労務管理ができる体制を何ら整備していなかったとして,

代表取締役に対する損害賠償請求が認められたのです。

 

 

労働者に,高血圧や高脂血症という基礎疾患があっても,

過重労働と脳血管疾患の発症との因果関係が

認められる可能性があるわけです。

 

 

なお,2019年6月15日土曜日10時~15時まで,

全国一斉の「過労死・パワハラ・働き方改革110番

の電話相談が金沢で実施されます。

 

 

当事務所が当日の連絡先になりますので,

過労死・過労自殺・パワハラ・働き方改革に関して相談したいときには,

2019年6月15日土曜日10時~15時の間に,

076-221-4111へお電話ください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。