残業代請求事件や過労死事件において自宅での持ち帰り残業は労働時間といえるのか

1 時間外労働の上限規制が導入されても会社の外で残業をする

 

 

働き方改革関連法が成立し,

時間外労働の罰則付き上限規制が導入されました。

 

 

これにより,時間外労働は,原則1ヶ月45時間までとなり,

1月100時間を超える時間外労働があれば,会社には,

6ヶ月以下の懲役,または30万円以下の罰金が科せられます。

 

 

 

この時間外労働の上限規制によって,

17時か18時にはオフィスを強制的に退去させる

ノー残業デーを設けたり,

22時になったらオフィスを消灯する企業があらわれました。

 

 

しかし,こちらの朝日新聞の記事によりますと,

残業時間が規制されても,仕事量が変わるわけではないので,

会社でできない仕事を自宅に持ち帰ったり,

カフェで仕事の続きをしたりしている労働者が少なくないようです。

 

 

 https://www.asahi.com/articles/DA3S14269128.html

 

 

仕事量が変わらないのであれば,労働時間が変わることはなく,

会社には実際よりも少ない残業時間を申告して,

隠れて残業をしている労働者がいるのです。

 

 

2 自宅の持ち帰り残業は労働時間にあたるのか

 

 

それでは,自宅に仕事を持ち帰ったり,

退勤後にカフェで仕事をした場合の時間は,

労働時間になるのでしょうか。

 

 

まず,労働時間とは,会社の指揮監督下に

置かれた時間のことをいいます。

 

 

自宅の持ち帰り残業や退勤後のカフェで仕事をする場合,

会社の自分のデスクで働くという場所的な拘束はなく,

仕事以外に本を読んだり,音楽を聞いたりすることも自由なので,

規律的な拘束も受けません。

 

 

そのため,自宅の持ち帰り残業や退勤後のカフェで仕事をした時間は,

会社の指揮監督下にあるとはいいにくく,

原則として,労働時間とはいえません

 

 

もっとも,これだけ通信機器が発達し,

テレワークが推進されている情勢でもあり,

会社の外で仕事をしているから,

一律に労働時間ではないとするのは不当です。

 

 

3 持ち帰り残業が労働時間となる場合

 

 

そこで,持ち帰り残業は,会社から業務の遂行を指示されて

これを承諾し,私生活上の行為と峻別して労務を提供して

当該業務を処理した場合に,例外として,労働時間と認められます。

 

 

 

具体的には,次の事情を考慮します。

 

 

①担当業務を一定期限までに処理しなければ,

会社から不利益に取り扱われること

 

 

②自宅に持ち帰って仕事をしなければ,

一定の期限までに担当業務を処理できないこと

 

 

③労働者が自宅に持ち帰って仕事をしていることを,

上司などが認識していること

 

 

これら3つの考慮要素をもとに,

持ち帰り残業が例外的に労働時間にあたるかを検討します。

 

 

そして,持ち帰り残業の場合,

私生活上の行為と峻別して仕事をしたことを立証しないといけないので,

成果物や作成・変更履歴を示しながら,

仕事に専念した時間を立証していきます。

 

 

この点,自宅の持ち帰り残業の労働時間が争われた

医療法人社団明芳会事件の東京地裁平成26年3月26日判決

(労働判例1095号5頁)があります。

 

 

この事件では,病院の学術発表会の準備を自宅でした時間が

労働時間にあたるかが争われました。

 

 

裁判所は,学術発表会の準備を所定労働時間内に行うことが

許容されており,準備ための資料作成が,作業量からして,

自宅に持ち帰らなければ処理できないものとは認められないとして,

自宅の持ち帰り残業の時間は,会社の指揮監督下に置かれておらず,

労働時間ではないと判断されました。

 

 

このように,持ち帰り残業は,原則として労働時間とは認められず,

例外として労働時間と認められるので,

労働者としては,争いにくいものです。

 

 

自宅に持ち帰って仕事をする場合には,

パソコンの履歴や成果物を証拠として確保することが重要になります。

 

 

4 残業規制には業務量の調整が必要である

 

 

さて,時間外労働の上限規制が導入されても,

持ち帰り残業が増えるだけでは,

長時間労働による疲労は回復せず,

残業手当もあたらくなるので,

労働者にとってはマイナスです。

 

 

業務量を調整した上での,残業時間の削減をする

働き方改革が実施されることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。