新型コロナウイルスの感染拡大を理由とする整理解雇が認められるか

1 新型コロナウイルスを理由とする整理解雇が増えそうです

 

 

厚生労働省は,新型コロナウイルスの感染拡大を受けて,

全国で888人が解雇や雇止めされる

見通しがあることを明らかにしました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN3W6H4HN3WULFA01G.html

 

 

解雇や雇止めが多くなりそうなのは,

観光客の減少が経営を直撃する観光業のようです。

 

 

今後,日本における新型コロナウイルスの感染拡大が増えていけば,

解雇や雇止めも増えていくことが予想されます。

 

 

 

それでは,正社員が会社から新型コロナウイルスの影響で

経営が厳しいので解雇すると言われてしまった場合,労働者は,

どうすればいいのでしょうか。

 

 

本日は,新型コロナウイルス感染拡大と整理解雇について解説します。

 

 

2 整理解雇の4要件

 

 

会社の経営上の必要性に基づき行われる解雇を整理解雇といいます。

 

 

会社の経営状況の悪化に基づき,人件費削減のために行われるのが

整理解雇の典型例であり,今回の新型コロナウイルスの感染拡大の

影響による会社の業績悪化を理由とする解雇は,まさに整理解雇です。

 

 

整理解雇は,労働者に責任のない会社側の事情に基づくものなので,

労働者側を保護する必要性が高いため,会社は,

次の整理解雇の4要件を全て満たさなければ,

整理解雇は無効になります。

 

 

①人員削減の必要性があること

 

 

 ②解雇回避努力を尽くしたこと

 

 

 ③人選が合理的であること

 

 

 ④説明・協議を尽くすなど,解雇手続が相当であること

 

 

新型コロナウイルスを理由とする整理解雇の場合,

①と②の要件が特に重要になると考えます。

 

 

①人員削減の必要性ですが,経営状況が悪化して,

経費削減の必要性が認められても,

それが人員削減によって達成されなければならない程度に

達していない場合や,人員削減以外の経費削減によって

達成できる程度のものである場合には,

人員削減の必要性は否定されます。

 

 

すなわち,新型コロナウイルスの影響で一時的に客がいなくなったや,

仕事が少なくなって売上が減ったという程度の理由では,

①人員削減の必要性は認められないことになります。

 

 

3 雇用調整助成金

 

 

また,②解雇回避努力ですが,新型コロナウイルスについて,

雇用調整助成金制度の要件が緩和されて,

会社が支払った休業手当の一部の助成が容易になっているので,

整理解雇の前に,労働者を休業させて,

休業手当を支払うなどの解雇回避措置をとっていない場合には

,解雇回避努力を尽くしていないと判断されると考えます。

 

 

雇用調整助成金とは,経済上の理由により

事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が,労働者に対して,

一時的に休業,教育訓練または出向を行い,

労働者の雇用の維持を図った場合に,

休業手当,賃金などの一部を助成するものです。

 

 

例えば,取引先が新型コロナウイルスの影響を受けて

事業活動を縮小した結果,受注量が減ったために

事業活動が縮小した場合や,行政からの営業自粛要請を受けて,

自主的に休業を行い,事業活動が縮小した場合などに利用できます。

 

 

 

この雇用調整助成金を活用せずに,いきなり整理解雇をしたのでは,

会社は,②解雇回避努力を尽くしていないとして,

整理解雇が無効になると考えます。

 

 

そのため,新型コロナウイルスの影響による整理解雇といえども,

簡単にできるものではなく,労働者としては,あきらめずに,

整理解雇を無効として職場復帰したり,

一定の金銭の支払を受けて退職するなどの解決方法がありますので,

弁護士に相談するようにしてください。

 

 

なお,石川県では,4月6日月曜日10時から15時までの時間帯に,

新型コロナウイルス労働問題ホットラインを実施します(日本労働弁護団主催)。

 

 

この日時に076-221-4111に電話していただければ,

弁護士が新型コロナウイルスに関する労働者側の労働問題について,

電話でアドバイスします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルス感染拡大の影響による雇止めの増加

1 雇止めの増加

 

 

新型コロナウイルス感染拡大の影響により,企業の業績が悪化し,

契約期間の定めのある有期労働契約の雇止めが増加傾向にあるようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN3L66YSN3KPTIL00N.html

 

 

年度末の3月は,契約社員や派遣社員の契約期間満了の時期と

重なるので,今年は,新型コロナウイルスの感染拡大も加わって,

飲食業や宿泊業では,雇止めが増えることが予想されます。

 

 

 

本日は,新型コロナウイルス感染拡大の影響による

雇止めについて解説します。

 

 

2 有期労働契約と雇止め

 

 

労働契約の契約期間が半年や1年間で区切られているものを

有期労働契約といい,有期労働契約は,

契約期間が満了したら終了するのですが,

会社が有期労働契約を更新すれば,契約が継続して,

働き続けることが可能になります。

 

 

ようするに,会社から有期労働契約を更新してもらえなかったら,

契約期間の満了で仕事がなくなってしまう,不安定な働き方なのです。

 

 

もっとも,労働契約法19条の以下の要件を満たす場合には,

有期労働契約が期間満了で終了しても,

従前と同じ内容の有期労働契約が継続することになります。

 

 

①有期契約労働者が契約更新の申込をした場合または

契約期間満了後遅滞なく有期労働契約の申込をした場合

 

 

②-1過去に反復して更新されたものであって,雇止めをすることが,

期間の定めのない労働契約を締結している労働者を解雇することと

社会通念上同視できると認められること(労働契約法19条1号)

 

 

または

 

 

②-2有期労働契約の契約期間満了時に当該有期労働契約が

更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものと

認められること(労働契約法19条2号)

 

 

③使用者が当該申込を拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き,

社会通念上相当であると認められないとき

 

 

雇止めの事件では,要件の②を満たすのかが第1のハードルになります。

 

 

要件の②を満たすかについては,

以下の要素を総合考慮して判断されます。

 

 

①業務の客観的内容

(業務の内容が恒常的か臨時的か,基幹的か補助的か)

 

 

②更新の回数

 

 

③雇用の通算期間

 

 

④契約期間管理の状況(更新手続が厳格か形式的か。

契約書を作成しない,事後的に作成するなど,ずさんであるか)

 

 

⑤雇用継続の期待をもたせる言動や制度の有無

 

 

⑥労働者の継続雇用に対する期待の相当性

 

 

⑦契約上の地位の性格(基幹性,臨時性,労働条件の正社員との同一性)

 

 

②更新回数が多く,③雇用の通算期間が長ければ,

上記の要件の②を満たす方向に傾きますが,更新回数が少なく,

雇用の通算期間が短くても,間違いなく契約を更新するという

社長の言動の録音があれば,⑤や⑥の要素を重視して,

要件の②が満たされることもあります。

 

 

そのため,雇止めの事案は,見通しがたてにくいのが現状です。

 

 

3 新型コロナウイルス感染拡大による雇止めを争うには

 

 

さて,要件②のハードルを超えれば,

次は要件の③を満たすかが問題になりますが,

これは解雇とパラレルに考えればよく,

新型コロナウイルス感染拡大の影響による業績悪化を理由とする

雇止めの場合は,整理解雇と同じ4つの要件を満たすかを検討します。

 

 

 

整理解雇の4要件とは,

①人員削減の必要性があること,

②解雇回避努力を尽くしたこと,

③人選が合理的であること,

④説明・協議を尽くしたこと,です。

 

 

ただ,整理解雇の4要件のあてはめにあたって,

非正規雇用労働者の場合は,正社員の場合と比べて,

緩やかに判断される傾向にあります。

 

 

③人選の合理性の要件の検討において,

正社員よりも非正規雇用労働者を先に整理して,

正社員の雇用を守ることを認める裁判例が多いです。

 

 

そのため,本当に会社が経営危機で,

リストラやむなしとなった場合には,

雇止めを争うのはなかなか難しくなります。

 

 

もっとも,会社が雇用調整助成金の利用をして

②解雇回避努力を尽くしたのかなどについては,

雇止めであっても厳格に検討する必要があります。

 

 

また,有期労働契約が2回以上更新されて,

契約の通算期間が5年を超えれば,

有期労働契約を無期労働契約に転換させて,

正社員になる方法もあります。

 

 

打つ手があるかもしれないので,

新型コロナウイルスの関係で雇止めにあった場合,

早目に弁護士に相談してみてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

森友学園の公文書改ざん問題から公務員個人に対する損害賠償請求が認められるのかを検討する

1 元財務省理財局長の佐川宣寿氏に対する損害賠償請求

 

 

先日もブログに記載しましたが,

森友学園への国有地売却と財務省の公文書改ざん問題で,

財務省近畿財務局の赤木俊夫さんが自殺したのは,

公文書改ざんに加担させられたからであるとして,

赤木さんの奥様が国と元財務省理財局長の佐川宣寿氏に対して,

損害賠償請求の訴訟を提起しました。

 

https://www.asahi.com/articles/ASN3L4WFBN3LPTIL00H.html

 

 

今回の訴訟で気になったのが,国家公務員の赤木さんを任用していた

国以外に,佐川氏も被告として,提訴したことです。

 

 

国に対する損害賠償請求をする際に,

公務員に対しても損害賠償請求をすることができるのかが,

問題となるからです。

 

 

本日は,公務員個人に対する損害賠償請求について解説します。

 

 

2 不法行為と使用者責任

 

 

ある者が他人の権利や利益を違法に侵害することを不法行為といいます。

 

 

具体的には,AさんがBさんを殴って怪我をさせた場合,

Aさんの殴る行為が不法行為になり,Aさんは民法709条に基づき,

Bさんに対して,損害賠償責任を負います。

 

 

 

そして,労働者が仕事中に不法行為をした場合,

労働者の雇用主である会社も,損害賠償責任を負います。

 

 

これを使用者責任といいます。

 

 

使用者責任については,民法715条に規定されています。

 

 

被害者は,不法行為をした労働者に対して,

民法709条に基づく損害賠償請求をでき,

使用者責任を負う会社に対して,

民法715条に基づく損害賠償請求をできるのです。

 

 

このように,会社と労働者の両方を訴えることができるのです。

 

 

3 国家賠償法1条に基づく損害賠償請求

 

 

これに対して,公務員が不法行為をした場合,

被害者は,国家賠償法1条に基づいて,

国または地方公共団体に対して,損害賠償請求をします。

 

 

国家賠償法1条に基づく損害賠償請求をする場合,

不法行為をした公務員個人の損害賠償責任は否定されます。

 

 

すなわち,国または地方公共団体を訴えることができても,

不法行為をした公務員個人を訴えることができないのです

(公務員個人を訴えても,請求が認められません)。

 

 

その理由は,公務員が負うべき責任を国または地方公共団体が

代位して負担するからなのです。

 

 

そのため,被害者は,国または地方公共団体を被告として訴えて,

勝てば,国または地方公共団体から損害賠償をしてもらい,

その後,国または地方公共団体が不法行為をした公務員個人に対して,

求償していくことになります。

 

 

しかし,不法行為をした公務員個人を訴えれない場合,

被害者としては納得できないことがあります。

 

 

4 公務員個人に対する損害賠償請求が認められた裁判例

 

 

例外的に,公務員個人に対して損害賠償請求ができないのでしょうか。

 

 

この公務員個人に対する損害賠償請求を

例外的に認めた裁判例があります。

 

 

共産党幹部宅盗聴事件の東京地裁平成6年9月6日判決です

(判例タイムズ855号125頁)。

 

 

この事件では,現職の警察官が犯罪にも該当すべき

違法な盗聴行為を行い,自分達の行為が違法であることを

当初より十分認識しつつ,あえて公務として盗聴行為に及んだもので,

警察官個人に対する損害賠償請求が認められました。

 

 

 

そのため,公務としての特段の保護を何ら必要としないほど

明白に違法な公務で,かつ,行為時に行為者自身が

その違法性を認識していたような事案については,

公務員個人に対する損害賠償請求が認められる余地があるのです。

 

 

赤木さんの事件の場合,公文書を改ざんする行為は犯罪であり,

明白に違法な公務になります。

 

 

 

また,佐川氏は,公文書改ざんが違法な公務であることを認識しながら,

指示をしていたはずです。

 

 

そのため,佐川氏個人の不法行為責任が認定される

可能性があると考えます。

 

 

公務員個人に対する損害賠償請求は認められにくいのですが,

赤木さんの事件では,佐川氏に対する損害賠償請求が認められる

可能性がありますので,訴訟の経緯に注目したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

森友学園の公文書改ざんによる財務局職員の自殺の損害賠償請求事件

1 公文書改ざんと財務局職員の自殺

 

 

森友学園への国有地売却と財務省の公文書改ざん問題で,

財務省近畿財務局の赤木俊夫さんが自殺したのは,

公文書改ざんに加担させられたからであるとして,

赤木さんの奥様が国と元財務省理財局長の佐川宣寿氏に対して,

損害賠償請求の訴訟を提起しました。

 

https://www.asahi.com/articles/ASN3L4WFBN3LPTIL00H.html

 

 

報道によりますと,赤木さんが残した手記には,

公文書を改ざんするに至る経緯がなまなましく記載されているようです。

 

 

赤木さんは,公文書の記載のうち,森友学園を優遇した部分の記載を

削除するように上司から指示を受けたようです。

 

 

 

赤木さんは,上司の指示に対して抵抗したようですが,

複数回改ざんを強要されたようです。

 

 

赤木さんは,公文書改ざんを強要されたストレスからうつ病と診断され,

検察庁から事情聴取を受けるころに体調が悪化し,自殺に至ったようです。

 

 

本日は,今回の損害賠償請求について解説します。

 

 

2 安全配慮義務

 

 

まず,国は,国家公務員に対して,

生命と健康を危険から保護するように配慮する義務を負っています。

 

 

これを安全配慮義務といいます。

 

 

国は,この安全配慮義務に違反して,

国家公務員が損害を被った場合に,

損害賠償責任を負います。

 

 

過労自殺事案における安全配慮義務について,

電通事件の最高裁平成12年3月24日判決は,

次のように判断しました。

 

 

「使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めて

これを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が

過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう

注意する義務を負う」

 

 

使用者は,このような安全配慮義務を負っているので,

過労自殺した労働者の業務の量などを適切に調整するための

措置を採ることをしなかった場合には,

安全配慮義務に違反したことになるわけです。

 

 

3 公文書改ざんの業務命令の心理的負荷

 

 

さて,赤木さんの事件の場合,反対したにもかかわらず,

上司から違法行為を複数回強要されたわけですが,これは,

民間の精神障害の労災認定基準の中では,

心理的負荷の強度は「強」と判断されます。

 

 

特に,財務局という公的な職場で,

公文書を改ざんするという犯罪行為を強要されれば,

良心のある公務員であれば,

多大なストレスを感じたはずです。

 

 

 

そのため,公文書を改ざんする業務命令は,

それだけで労働者の心身の健康を損なう危険のあるものといえます。

 

 

また,報道によると,赤木さんは,公文書の改ざんの指示を受けて

長時間労働をしたとされています。

 

 

長時間労働による睡眠不足などで疲労が回復せず,

うつ病などを発症してしまうことがあるので,国は,

赤木さんが長時間労働をしないように

業務量を調整する義務を負っていたのです。

 

 

50代中ころの財務局の職員が自殺したのは

よほどのことがあったからといえますし,何よりも,

残された手記の証拠としての価値は高いといえるでしょう。

 

 

そのため,赤木さんの事件では,

国の安全配慮義務違反が認められる可能性があると考えます。

 

 

また,公務災害の認定も出ていますので,

国の安全配慮義務違反と赤木さんの自殺との

因果関係も認められやすいと考えます。

 

 

赤木さんの奥様の「夫が自殺したことの真実を知りたい」という思いが,

この訴訟の証人尋問などで実現されることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働基準法26条の休業手当と民法536条2項による賃金請求権の関係

1 労働基準法26条と民法536条2項

 

 

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて,

労働者が本来働かなければならない日に,

会社が労働者を休ませた場合に,

労働者に対していくらの賃金を補償しなければならないのか

ということについて,労働基準法26条の休業手当が注目されています。

 

 

 

労働基準法26条では,「使用者の責に帰すべき事由」

による休業の場合には,会社は,休業期間中,

労働者に対して,平均賃金の60%以上の手当

を支払わなければならないと規定されています。

 

 

これと,似た規定が民法536条2項にあります。

 

 

民法536条2項には,「債権者の責に帰すべき事由によって

債務を履行することができなくなったときは,債権者は,

反対給付の履行を拒むことができない」と規定されています。

 

 

ここでいう債権者とは会社のことです。

 

 

債務を履行することができなかったとは,

労働者が労務を提供できなかったことをいいます。

 

 

反対給付の履行とは,労働者からの賃金全額の請求のことです。

 

 

まとめると,会社の落ち度で労働者が

労務を提供することができなかったとしても,会社は,

労働者からの賃金全額の請求を拒むことができないのです。

 

 

2 会社の責に帰すべき事由とは

 

 

労働基準法26条と民法536条2項では,

会社の「責に帰すべき事由」という言葉は共通していますが,

労働基準法26条の方が労働者を保護するために,

会社の「責に帰すべき事由」を広く捉えています。

 

 

すなわち,労働基準法26条の会社の「責に帰すべき事由」とは,

会社の故意(わざと)・過失(落ち度)に加えて,

会社側に起因する経営・管理上の障害を含むと解されています。

 

 

ようするに,天災などの不可抗力以外によって,

会社が休業することになっても,会社は,休んでいる労働者に対して,

平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければならないのです。

 

 

そのため,コロナウイルス感染拡大が不可抗力になるかは

判断が難しいですが,2020年3月19日時点での日本においては,

まだ不可抗力とまではいえないと考えられ,

会社は,労働者に対して,休業手当を支払うべきだと考えます。

 

 

 

他方,民法536条2項の会社の「責に帰すべき事由」とは,

会社の故意または過失による休業のことです。

 

 

会社が労働者を退職に追い込むために休業させる場合などが,

これに当たります。

 

 

このような休業であれば,労働者は,

会社に対して,賃金全額を請求できます。

 

 

ノースウエスト航空事件の昭和62年7月17日判決

(労働判例499号6頁)は,民法536条2項に基づく賃金請求権と

労働基準法26条休業手当請求権とは,

それぞれの要件を満たす限りにおいて,競合するので,

労働者は,全額の賃金請求権を失わないと判断しました。

 

 

そのため,会社が6割の平均賃金を支払っていても,

民法536条2項の要件を満たすのであれば,労働者は,

賃金全額と6割の休業手当の差額の4割分を請求できるのです。

 

 

コロナウイルス感染拡大による休業の場合,

会社には故意過失は認められないと考えられますので,

民法536条2項に基づいて,賃金全額を請求するのは難しいと考えます。

 

 

コロナウイルス感染拡大以外の会社の落ち度で休業に至った場合には,

労働者は,民法536条2項を根拠に賃金全額の請求をしてみてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルスの感染拡大による業績不振を理由に給料を減額できるのか

1 新型コロナウイルスの感染拡大による業績不振を理由とする給料の減額

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で企業の業績が悪化して,

給料がカットされるという労働相談があるようです。

 

 

 https://www.kobe-np.co.jp/news/keizai/202003/0013198554.shtml

 

 

本日は,新型コロナウイルス感染拡大による業績不振を根拠に

給料を減額することが認められるのかについて,解説します。

 

 

 

2 給料を減額できる場合とは

 

 

そもそも,給料は,労働者にとって,

生活の原資となる大切なお金なので,労働基準法24条1項で,

賃金全額払の原則が定められているように,

原則として,減額ができません。

 

 

例外的に,会社が労働者の給料を減額できるのは次の場合に限られます。

 

 

 ①懲戒処分としての賃金減額

 

 

 ②業務命令としての降格に伴う賃金減額

 

 

 ③就業規則中の賃金の査定条項に基づく賃金減額

 

 

 ④就業規則の変更による賃金減額

 

 

 ⑤労働協約に基づく賃金減額

 

 

 ⑥労働者との合意に基づく賃金減額

 

 

このうち,①~③については,就業規則に

懲戒処分,降格,賃金査定の条項が存在していることが前提となります。

 

 

④と⑤については,就業規則と労働協約が

存在していることが前提となります。

 

 

すなわち,労働者の給料を減額するためには,

就業規則や労働協約などの根拠規定が必要になるわけです。

 

 

そのため,会社の業績不振を理由に給料を減額できるという条項が

就業規則にあれば,それを根拠に減額できる余地があるのですが,

そのような条項が就業規則にないのであれば,給料を減額できません。

 

 

私は仕事柄,多くの会社の就業規則を見ますが,

業績不振を理由に給料を減額できるという条項がある

就業規則はほとんどありません。

 

 

3 合意に基づく給料の減額

 

 

次に,就業規則に業績不振を理由に給料を減額できるという

条項がない場合,上記の⑥の労働者との個別の合意に基づいて,

給料を減額できる場合があります。

 

 

 

しかし,労働者との個別の合意に基づく給料の減額の場合,

労働者の合意が厳格に判断されます。

 

 

すなわち,山梨県民信用組合事件の最高裁平成28年2月19日判決

が示した次の判断基準をもとに労働者の合意が厳格に判断されるのです。

 

 

労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,

労働者が同意に至った経緯及び態様,

同意に先立つ労働者への情報提供または説明の内容などから,

給料の減額への同意が,労働者の自由な意思に基づいてされたものと

認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否か

という観点から判断されます。

 

 

そのため,会社から給料の減額を求められて,

十分な説明がないまま,会社からの圧力を感じて,しぶしぶ,

給料の減額に合意した場合には,

給料の減額が無効になる可能性があります。

 

 

以上まとめると,労働者は,コロナウイルス感染拡大による

業績不振を理由に給料を減額すると会社から言われても,

就業規則に給料の減額規定が存在しないのであれば,拒否すればよく,

給料の減額への同意を求められても,拒否すればいいのです。

 

 

給料の減額を求められたら,就業規則に減額の根拠規定があるのかを

チェックしてみてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で内定取消が認められるのか

1 新型コロナウイルス感染拡大を理由とする内定取消

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で,

製造業の企業に入社する予定だった高校生の

内定が取り消されたようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN3F5T40N3FULFA013.html

 

 

ハローワークは,企業から内定取消の相談があった場合,

休業補償の助成金を活用するなどして

内定を取り消さないように助言をしているようです。

 

 

本日は,新型コロナウイルスの影響で

内定取消が認められるのかについて,解説します。

 

 

 

2 内定で労働契約が成立する

 

 

まず,企業が採用予定者に対して,内定を通知することで,

入社予定日を就労の始まりとする解約留保権付の労働契約が成立します。

 

 

内定段階でも労働契約が成立しているので,

企業が自由に内定を取り消すことは許されません。

 

 

内定を取り消すことができるのは,

内定当時には知ることができなかった事実が後から判明して,

それによって,内定を取り消すことが

「客観的に合理的と認められ,社会通念上相当」

と認められるときに限られます。

 

 

具体的に内定取消ができるのは,重大な経歴詐称が発覚したり,

内定から就労開始日までに犯罪行為を行ったような場合です。

 

 

以上述べたのは,採用予定者側に問題があった場合です。

 

 

コロナウイルス感染拡大の影響による内定取消の場合,

採用予定者側には何も問題はありません。

 

 

3 整理解雇の4要件

 

 

このような場合の内定取消の場合には,

整理解雇の4要件を総合考慮して,

内定取消が有効かが判断されます。

 

 

整理解雇の4要件とは,

①人員削減の必要性があること,

②解雇回避努力を尽くしたこと,

③人選が合理的であること,

④説明・協議を尽くすなど,解雇手続が相当であること,です。

 

 

①人員削減の必要性については,経営状況が悪化し,

経費削減の必要性が認められても,

それが人員削減によって達成されなければならない程度に

達していない場合には,否定されます。

 

 

②解雇回避努力を尽くすとは,役員報酬カットを含む経費削減策や

希望退職を募集するなどをすることです。

 

 

③人選の合理性とは,どの労働者を解雇するかについては,

客観的に合理的な選定基準を設定して,

その基準に基づき公正に選定しなければならないことです。

 

 

④については,解雇に先立ち,会社は,労働者に対して,

整理解雇の必要性とその内容,人選基準について,

十分な説明を行い,誠意をもって協議しなければなりません。

 

 

整理解雇の4要件をもとに内定取消を無効と判断した

インフォミックス事件の東京地裁平成9年10月31日決定は

(労働判例726号37頁),この④の要件を重視しました。

 

 

すなわち,採用予定者に対して,必ずしも納得を得られるような

十分な説明をしたとはいえず,会社の対応は誠実性に欠けていたとして,

社会通念上相当といえず,内定取消は無効と判断したのです。

 

 

 

コロナウイルス感染拡大の影響による内定取消については,

ハローワークが助言しているように休業補償の助成金を活用するなどして,

②の要件の内定取消を回避する努力を尽くすことが必要になります。

 

 

そして,④の要件として,採用予定者に対して,

内定取消の必要性を誠実に説明して,

代替手段などを提案するなどして,

誠意を尽くす必要があります。

 

 

このような会社の誠意ある対応がないまま,

単にコロナウイルスの感染拡大の影響で経営が苦しいという理由だけでは,

内定取消は無効になる可能性があります。

 

 

とにかく,早くコロナウイルス感染拡大による

混乱が収束してほしいものです。

 

 

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就業規則に退職届を退職の90日前までに提出しなければならない規定があっても,退職届を提出してから2週間で退職できます

1 自己都合退職に関する労働相談

 

 

ここ2年ほど前から,会社を辞めさせてもらえないという

労働相談が増えているように感じています。

 

 

人手が不足している会社では,労働力を確保するために,

勝手に仕事を投げ出すのは逃げだ,などと言って,

退職を認めてくれないことがあります。

 

 

 

また,就業規則で,自己都合退職をするには,

90日前までに会社に退職届を提出しなければならなかったり,

退職をするには,会社の承認が必要としている場合があります。

 

 

このような就業規則がある場合,

就業規則の規定を守らないと退職できないのでしょうか。

 

 

本日は,自己都合退職について解説します。

 

 

2 自己都合退職をするには

 

 

まず,労働者には,憲法22条で職業選択の自由が保障されており,

憲法18条と労働基準法5条によって,

奴隷的拘束や強制労働も禁止されています。

 

 

そのため,労働者による労働契約の一方的解約である自己都合退職は,

原則として自由であり,会社を辞めるにあたって,

会社の承諾を必要としません。

 

 

労働者は,退職届を会社に提出して,

2週間が経過すれば会社を辞めれるのです(民法627条1項)。

 

 

そして,土日が休みの週休二日制の会社であれば,

平日の10日間,年次有給休暇を取得することで,退職届を提出してから,

会社に出社することなく会社を退職できるのです。

 

 

3 民法の規制よりも厳しい就業規則の規制がある場合

 

 

ここで問題になるのが,就業規則で民法の規制である

2週間よりも長い期間,退職を制限している場合です。

 

 

この点について,問題となったプロシード元従業員事件の

横浜地裁平成29年3月30日判決を紹介します

(労働判例1159号5頁)。

 

 

この事件では,労働者が虚偽の事実を捏造して退職し,

就業規則に違反して業務の引き継ぎをしなかったことが違法であるとして,

会社が労働者に対して,1270万円もの損害賠償請求をしました。

 

 

この事件の会社では,冒頭のように,退職をするためには,

90日前までに退職届を提出しなければならないと,

就業規則に記載されていました。

 

 

裁判所は,退職届を提出してから2週間経過後においては,

労働契約は終了しているので,会社が主張している損害と

労働者の行為との間には何も因果関係はないとして,

会社の損害賠償請求は認められませんでした。

 

 

むしろ,会社の訴訟の提起が不当訴訟にあたるとして,

労働者からの損害賠償請求が認められたのです。

 

 

 

このように,裁判所は,就業規則で退職届を退職前の90日前までに

提出しなければならないとしていても,

退職届を提出してから2週間経過後に退職できると判断したのです。

 

 

そのため,就業規則に退職するにあたり,

民法627条1項の規定よりも厳しい規制があったとしても,

すぐに会社を辞めたいのであれば,退職届を提出して,

年次有給休暇を取得して,2週間経過後に辞めれはいいのです。

 

 

とくに,うつ病などの心の病気を患っていて,

早く会社を辞めたい場合には,ご自身の健康を第一に考えて,

引き継ぎとかも考えずに,早く退職届を提出したほうがいいと考えます。

 

 

引き継ぎがあるから,なかなか退職届を出せず,

そのまま仕事をしていると,体調がさらに悪化するおそれがありますので,

そのようなことは避けるべきです。

 

 

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会社は労働者からの年次有給休暇の取得を拒否できるのか~年次有給休暇の時季変更権~

1 会社から年次有給休暇の取得を認められなかったケース

 

 

会社に年次有給休暇の申請をしたところ,

今会社の業務が忙しいので年次有給休暇の取得は認められない

と言われて困っています,という法律相談を受けました。

 

 

 

このような会社の対応は認められるのでしょうか。

 

 

本日は,年次有給休暇の時季変更権について解説します。

 

 

2 年次有給休暇を取得するには

 

 

まず,労働者は,6ヶ月以上継続勤務し,

全労働日の8割以上出勤すれば,

10日以上の年次有給休暇を取得できます。

 

 

労働者が,年次有給休暇を取得しようと考えたなら,

会社に対して,労働者が有する年次有給休暇の日数の範囲内で

具体的な年次有給休暇の始期と終期を特定して会社に通知するだけで,

年次有給休暇は成立します。

 

 

会社から年次有給休暇を取得することの承認をもらう必要はありません。

 

 

これを労働者の年次有給休暇の時季指定権の行使といいます。

 

 

3 会社による時季変更権の行使

 

 

これに対して,会社は,労働者がその時に年次有給休暇を取得すると,

事業の正常な運営を妨げる場合」があれば,

労働者が指定した時ではなく,

別の日に年次有給休暇を取得させることができます。

 

 

 

これを,会社の時季変更権といいます。

 

 

年次有給休暇をめぐる裁判では,

この「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するかが争点となります。

 

 

この「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するには,

①当該労働者が属する課・班・係など相当な単位の業務において

必要人員を欠くなど業務上の支障が生じるおそれがあることが必要です。

 

 

加えて,②人員配置の適切さや代替要員確保の努力など

労働者が指定した時季に年次有給休暇が取得できるように

会社が状況に応じた配慮を行っていることが必要です。

 

 

具体的な事例をみてみましょう。

 

 

年次有給休暇の時季変更権が争われた西日本JRバス事件の

名古屋高裁金沢支部平成10年3月16日判決を紹介します

(労働判例738号32頁)。

 

 

この事件は,当事務所の菅野弁護士,

飯森弁護士,宮西弁護士が担当しました。

 

 

この事件では,恒常的な人員不足に基づく人員配置が行われ,

常に代替要員確保が困難な状況にある場合には,

いかに代替要員の確保が困難・不可能であっても,

会社は適切な人員配置を欠いていたとして,

会社の時季変更権の行使は違法と判断されました。

 

 

そして,7日分の年次有給休暇を取得できる権利を失効させたことは,

労働契約に違反しているとして,25万円の慰謝料請求が認められました。

 

 

このように,会社には,適切な人員配置,

代替要員確保の努力などを含め,

できる限り労働者が指定した時季に年次有給休暇を取得させるように

状況に応じた配慮を行うことが求められているのです。

 

 

そのため,単に,会社の業務が忙しいとった理由のみでは,

会社の時季変更権は適法にならず,労働者は,

自分が指定した時季に年次有給休暇を取得できます。

 

 

仮に,会社に年次有給休暇の取得を妨害されたのであれば,

慰謝料の損害賠償請求をすることを検討します。

 

 

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会社が労働者の年次有給休暇の取得を妨害することは違法です

1 年次有給休暇の申請をしたのに取得できなかった

 

 

年次有給休暇の申請をしたにもかかわらず,会社から,

年次有給休暇の取得は認められないと言われてしまい,結局,

年次有給休暇を取得できなかったという法律相談を先日受けました。

 

 

本日は,年次有給休暇の取得を妨害された場合に,

労働者がとりえる手段について,説明します。

 

 

会社から年次有給休暇の取得を妨害された場合,会社に対して,

慰謝料の損害賠償請求をすることを検討します。

 

 

2 年次有給休暇の取得の妨害に対する損害賠償請求

 

 

年次有給休暇の取得の妨害について,

慰謝料の損害賠償請求を認めた,

日能研関西ほか事件の大阪高裁平成24年4月6日判決を紹介します

(労働判例1055号28頁)。

 

 

この事件では,年次有給休暇の申請をした労働者に対して,

上司が次のような言動をしたと認定されました。

 

 

「今月末にはリフレッシュ休暇をとる上に,

6月6日まで有給をとるのでは,非常に心証が悪いと思いますが。

どうしてもとらない理由があるのでしょうか」

 

 

 

「こんなに休んで仕事がまわるなら,

会社にとって必要のない人間じゃないのかと,

必ず上はそう言うよ。その時,僕は否定しないよ」

 

 

この上司の発言を受けて,原告の労働者は,

年次有給休暇の申請を取り下げました。

 

 

この上司の発言は,原告の労働者が年次有給休暇の申請を

したことに対する嫌がらせであり,

原告の労働者の年次有給休暇を取得する権利を侵害する違法行為となり,

原告の人格権を侵害したものと判断されました。

 

 

結果として,原告の労働者が被った精神的苦痛に対する

慰謝料として60万円が認められました。

 

 

もう一つ,年次有給休暇の取得の妨害について,

慰謝料の損害賠償請求を認めた,

出水商事事件の東京地裁平成27年2月18日判決を紹介します

(労働判例1130号83頁)。

 

 

この事件では,会社が,給料明細に記載されている

年次有給休暇の残日数を勝手に0日に変更したり,

通達を発して,取得できる年次有給休暇の日数を勝手に6日に限定し,

年次有給休暇の取得理由を冠婚葬祭や病気休暇に限定しました。

 

 

裁判所は,次のように判断しました。

 

 

年次有給休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり,

本来,年次有給休暇をどのように利用するかは,

会社の干渉を許さない労働者の自由であって,

会社が,労働者に対して,冠婚葬祭や病気などの理由でなければ,

年次有給休暇の取得を認めないという取扱は許さないと判断されました。

 

 

そして,労働基準法に基づいて労働者に

年次有給休暇を取得する権利が発生した場合には,会社は,

労働者が年次有給休暇を取得する権利を行使することを

妨害してはならない義務を労働契約上負っていることから,

上記の会社の対応は,労働契約上の債務不履行にあたると判断されました。

 

 

 

結果として,50万円の損害賠償請求が認められました。

 

 

このように,会社から,年次有給休暇の取得を妨害された場合,

会社に対して,慰謝料の損害賠償請求が可能となりますので,

年次有給休暇の取得を妨害する会社の対応は違法であるとして,

年次有給休暇を取得させるように交渉してみるのがいいでしょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。