就業規則に退職届を退職の90日前までに提出しなければならない規定があっても,退職届を提出してから2週間で退職できます

1 自己都合退職に関する労働相談

 

 

ここ2年ほど前から,会社を辞めさせてもらえないという

労働相談が増えているように感じています。

 

 

人手が不足している会社では,労働力を確保するために,

勝手に仕事を投げ出すのは逃げだ,などと言って,

退職を認めてくれないことがあります。

 

 

 

また,就業規則で,自己都合退職をするには,

90日前までに会社に退職届を提出しなければならなかったり,

退職をするには,会社の承認が必要としている場合があります。

 

 

このような就業規則がある場合,

就業規則の規定を守らないと退職できないのでしょうか。

 

 

本日は,自己都合退職について解説します。

 

 

2 自己都合退職をするには

 

 

まず,労働者には,憲法22条で職業選択の自由が保障されており,

憲法18条と労働基準法5条によって,

奴隷的拘束や強制労働も禁止されています。

 

 

そのため,労働者による労働契約の一方的解約である自己都合退職は,

原則として自由であり,会社を辞めるにあたって,

会社の承諾を必要としません。

 

 

労働者は,退職届を会社に提出して,

2週間が経過すれば会社を辞めれるのです(民法627条1項)。

 

 

そして,土日が休みの週休二日制の会社であれば,

平日の10日間,年次有給休暇を取得することで,退職届を提出してから,

会社に出社することなく会社を退職できるのです。

 

 

3 民法の規制よりも厳しい就業規則の規制がある場合

 

 

ここで問題になるのが,就業規則で民法の規制である

2週間よりも長い期間,退職を制限している場合です。

 

 

この点について,問題となったプロシード元従業員事件の

横浜地裁平成29年3月30日判決を紹介します

(労働判例1159号5頁)。

 

 

この事件では,労働者が虚偽の事実を捏造して退職し,

就業規則に違反して業務の引き継ぎをしなかったことが違法であるとして,

会社が労働者に対して,1270万円もの損害賠償請求をしました。

 

 

この事件の会社では,冒頭のように,退職をするためには,

90日前までに退職届を提出しなければならないと,

就業規則に記載されていました。

 

 

裁判所は,退職届を提出してから2週間経過後においては,

労働契約は終了しているので,会社が主張している損害と

労働者の行為との間には何も因果関係はないとして,

会社の損害賠償請求は認められませんでした。

 

 

むしろ,会社の訴訟の提起が不当訴訟にあたるとして,

労働者からの損害賠償請求が認められたのです。

 

 

 

このように,裁判所は,就業規則で退職届を退職前の90日前までに

提出しなければならないとしていても,

退職届を提出してから2週間経過後に退職できると判断したのです。

 

 

そのため,就業規則に退職するにあたり,

民法627条1項の規定よりも厳しい規制があったとしても,

すぐに会社を辞めたいのであれば,退職届を提出して,

年次有給休暇を取得して,2週間経過後に辞めれはいいのです。

 

 

とくに,うつ病などの心の病気を患っていて,

早く会社を辞めたい場合には,ご自身の健康を第一に考えて,

引き継ぎとかも考えずに,早く退職届を提出したほうがいいと考えます。

 

 

引き継ぎがあるから,なかなか退職届を出せず,

そのまま仕事をしていると,体調がさらに悪化するおそれがありますので,

そのようなことは避けるべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。