コロナ解雇を争うために東京地裁で仮処分の申立てがされました

1 ロイヤルリムジングループ事件の仮処分の申立て

 

 

東京のタクシー会社であるロイヤルリムジングループが,

新型コロナウイルスの感染拡大による売上減少を受けて,

タクシー運転手が約600人解雇された事件で,

70代のタクシー運転手が,東京地裁に仮の地位を定める仮処分と

賃金仮払いの仮処分の申立てをしたようです。

 

 

 https://mainichi.jp/articles/20200416/ddm/041/020/064000c

 

 

新型コロナウイルス関係の労働問題が裁判手続に移行するのは

初めてのようで,注目が集まっています。

 

 

 

私と司法修習で同期だった,東京合同法律事務所の

弁護士馬奈木厳太郎先生が代理人をされているので

がんばってもらいたいです。

 

 

さて,本日は仮処分という裁判手続について解説します。

 

 

2 仮処分とは

 

 

通常の裁判手続(通常訴訟または本訴といいます)ですと,

判決がでるまでに最低1年くらいはかかります。

 

 

解雇された労働者は,給料という生活の糧を失ったわけですから,

生活に困窮することになりますので,

1年もの長期間待っていられないわけです。

 

 

なんとか早く事件を解決したい。

 

 

そのようなときに利用するのが仮処分という裁判手続です。

 

 

仮処分の最大のメリットは,手続が早いことです。

 

 

通常訴訟ですと,提訴してから第1回の裁判が始まるまでに

1ヶ月ほどかかりますが,仮処分ですと,

申立てをしてから2週間後くらいに第1回の裁判が始まります。

 

 

仮処分では,2~3週間程度の期間をおいて,

裁判の期日(審尋期日といいます)が繰り返されて,

3~6ヶ月程度で結論(仮処分決定)が出されます。

 

 

そんなに早く進む裁判手続であれば,

どんどん利用すればいいじゃないかと思うかもしれませんが,

仮処分には大きなデメリットがあります。

 

3 保全の必要性

 

 

それは,保全の必要性というものです。

 

 

仮処分では,通常訴訟と同じように,解雇が無効であるとして,

労働者としての地位があることを明らかにすることは共通なのですが,

これに加えて,保全の必要性があることを明らかにしなければなりません。

 

 

保全の必要性とは,労働者に生ずる著しい損害または

急迫の危険を避けるために仮処分が必要であることを言います

(民事保全法23条2項)。

 

 

具体的には,解雇されて会社からの賃金の支払が途絶えるために,

労働者の生計が成り立たなくなる,ということです。

 

 

そのため,仮処分の手続では,労働者が毎月の生活を維持するのに

どの程度の支出があるのか,貯蓄はどれくらいあるのかを,

資料に基づいて明らかにしなければならないのです。

 

 

解雇された労働者に配偶者がいて,

配偶者の収入で生活が維持できたり,貯蓄が十分にあれば,

保全の必要性が否定されることがあります。

 

 

裁判所は,保全の必要性を厳格に判断する傾向にあり,

賃金仮払いは認められても,仮の地位を定める仮処分が

認められることはあまりないようです。

 

 

また,賃金仮払いが認められても,その金額は,

解雇前にもらっていた給料全額ではなく,減額されることもあり,

支払が認められる期間も通常訴訟の一審判決が

言い渡されるまでと制限されます。

 

 

このように,保全の必要性のハードルが高いので,

私は,あまり,仮処分の手続を利用することは少ないです。

 

 

若い労働者ですと,解雇されても次の仕事を見つけて,

当面の生活を維持できるので,

そこまで逼迫した案件が少ないからかもしれません。

 

 

もっとも,ロイヤルリムジングループ事件の場合,申立人は,

70代なので,解雇されると,次の仕事を見つけるのが大変です。

 

 

年金収入だけでは,生活を維持していくのは厳しいかもしれません。

 

 

そして,今は,新型コロナウイルスの感染拡大が続いていて,

どこも人手を減らしているので,仕事を見つけるのが困難ですし,

そもそも,裁判所も裁判の期日を早急に入れてくれません。

 

 

 

そこで,保全の必要性が認められる見込みがあり,

早急に裁判をすすめていく必要があることから,

ロイヤルリムジングループ事件では,

仮処分を選択するのが合理的です。

 

 

この仮処分手続で,労働者が勝訴することを祈念しています。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。