高速バスの交代運転手の乗車時間や仮眠時間は労働時間か

1 未払残業代事件では労働時間が争点になることがあります

 

 

未払残業代請求事件では,労働時間か否かが

争われることがよくあります。

 

 

働いているような,休んでいるような労働密度の低い時間があると,

その時間が労働時間なのか,休憩時間なのかが問題になるのです。

 

 

 

労働時間と認められれば,労働時間が長くなり,

その分,未払残業代が認められることになるので,

会社側が激しく争ってくることになります。

 

 

この労働時間について判断した裁判例で,

興味深いものを見つけましたので,紹介します。

 

 

カミコウバス事件の東京高裁平成30年8月29日判決です

(労働判例1213号60頁)。

 

 

この事件では,高速バスの交代運転手が高速バスを運転しておらず,

交代運転手としてバスに乗車している時間が労働時間かが争われました。

 

 

2 労働時間とは

 

 

まず,労働時間とは,労働者が

会社の指揮命令下に置かれている時間をいいます。

 

 

どのような場合に,会社の指揮命令下に置かれているかといいますと,

労働からの解放が保障されていない場合です。

 

 

労働者が労働から解放されて,自由に過ごしていい場合には,

会社の指揮命令下に置かれておらず,労働時間ではないとされます。

 

 

労働からの解放が保障されているかについては,

個々の事件の事実を丁寧に分析する必要があります。

 

 

3 交代運転手の不活動仮眠時間は労働時間か

 

 

この事件の交代運転手の座席は,運転席の真後ろにある客席で,

リクライニングシートを利用することができ,交代運転手は,

運転の際に残った疲れが交通事故の原因になることがないように,

交代運転手として乗車している時間は休憩するように

会社から指導されており,仮眠するなどして休憩していました。

 

 

 

このような仮眠時間を不活動仮眠時間といいます。

 

 

また,交代運転手は,乗客の要望や苦情に対応することや,

運転手の補助をすることはなく,

会社から非常用の携帯電話を支給されていましたが,

会社から着信があることはほとんどありませんでした。

 

 

そのため,交代運転手の不活動仮眠時間については,

労働からの解放が保障されているとして,

労働時間ではなく,休憩時間と判断されました。

 

 

交代運転手は,高速バスの客席という狭い空間に拘束されているので,

交代運転手の身体的負担がある程度存在するものの,会社は,

明確に休憩するように指示していたこと,実際には,

労働といえる作業を何もしていないこと,

携帯電話で会社から指示がないことからすると,

この事件の不活動仮眠時間は,

労働時間ではないと判断されてもやむを得ないと考えます。

 

 

携帯電話に会社からの業務指示が頻繁にあったり,

乗客の対応を頻繁にしていたのであれば,

労働時間と判断される余地がでてきます。

 

 

未払残業代請求事件でよく争点となる労働時間について,

どのような事実を分析すべきかについて参考になりますので,

紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の制度が始まりました

1 未だに多い休業手当の相談

 

 

東京では,連日,新型コロナウイルスの感染者が200人を超えており,

再び休業を強いられる会社がでてくるかもしれません。

 

 

先日,日本労働弁護団主宰の新型コロナウイルスの

労働問題の電話相談を実施したところ,

解雇や雇止めの相談が増えると予想していましたが,

未だに休業していた期間の賃金が支払われていない

という相談が多かったです。

 

 

休業手当が支払われずに困っている労働者が多いことを実感しました。

 

 

 

このような休業期間中に賃金が支払われていない場合に,

労働者に対して,直接支給金が支払われる制度が

7月10日から始まりました。

 

 

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金というものです。

 

 

2 新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金

 

 

新型コロナウイルス感染症及びその蔓延防止の措置の影響により

休業させられた中小企業の労働者のうち,

休業期間中に賃金の支払を受けることができなかった方に対して,

その労働者の申請により,給付金が支給される制度です。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/stf/kyugyoshienkin.html

(こちらの厚生労働省のサイトをご参照ください)

 

 

対象となるのは,2020年4月1日から9月30日までの間に

会社の指示を受けて,賃金の支払いなしに休業をした

中小企業の労働者です。

 

 

休業前の1日あたりの平均賃金の8割が,

休業した日に応じて支給されるのです。

 

 

日額の上限は11,000円となっています。

 

 

休業した労働者が,申請書類を作成して,

都道府県労働局に設置された集中処理センターに提出し,

審査に通れば,支給されます。

 

 

3 支給要件確認書の問題点

 

 

申請書類として,支給要件確認書という書類を提出します。

 

 

支給要件確認書は,事業主の指示による休業であること等の

事実を確認するもので,労働者と事業主が

それぞれ記入して押印する必要があります。

 

 

 

支給要件確認書には,会社が休業期間中に

労働者に賃金を支払っていないことを記載する欄があります。

 

 

不可抗力以外で会社が休業する場合,会社は,

休業期間中に労働者に対して,

平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければならず

(労働基準法26条),これに違反した場合,

30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法120条)。

 

 

支給要件確認書を記載する際には,会社は,

労働基準法に違反していることを自認しなければならないのです。

 

 

そのため,会社は,労働基準法に違反していることを隠すために,

支給要件確認書に記入押印することを拒否することが考えられます。

 

 

仮に,労働者が会社に支給要件確認書の記入押印を

申し出たにもかかわらず,会社が休業証明を拒否した場合には,

労働者は,支給要件確認書に,会社の協力が得られないことを記載すれば,

受け付けてもらえそうです。

 

 

もっとも,その場合には,都道府県労働局が会社に対して,

報告を求めることになり,会社からの回答があるまでは

審査を行わないことになるようです。

 

 

そうなると,労働者が申請をしても,

会社が都道府県労働局に対して,休業のことを回答しない場合,

労働者に,新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金が

支給されなくなってしまいます。

 

 

それでは,あまりにも労働者にとってかわいそうなので,

おそらく,都道府県労働局が何かしらの対応をしてくれるものと

期待したいですが,支給まで時間がかかってしまいます。

 

 

このような事態が生じる可能性がありますので,

都道府県労働局には,しっかりと対応してもらいたいです。

 

 

また,新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金は,

休業期間中に,会社から,6割未満の休業手当を受給していた場合には,

支給されないことにも注意が必要です。

 

 

中途半端な金額の休業手当が支払われていると,

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金が

支給されないのはおかしな話なので,支払われた休業手当と,

本来支払われるべき新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金

との差額を支給するようにすべきと考えます。

 

 

いろいろと不備はありそうですが,労働者に直接,

休業手当に相当する給付金が支払われる制度ができたので,

労働者が救済されることを願いたいです。

 

 

会社は,この制度ができたからといって,

休業手当を支払わなくてよくなったわけではないので,

注意すべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

セクハラ防止措置の拡充

1 取引先の社員からのセクハラにも対応する必要があります

 

 

今年の6月1日から大企業に対して,

パワハラ防止の措置を義務付ける法律が施行されたことは有名ですが,

セクハラについても,会社が実施すべきセクハラ防止措置について,

改正がされました。

 

 

1つ目の改正点は,取引先の事業主またはその雇用する社員,

顧客などからのセクハラについても,会社は,

対応しなければならないことです。

 

 

会社内における上司からの部下に対するセクハラなどについては,

従来から,会社は,セクハラ問題に対応しなければならなかったのですが,

会社外部の取引先の社員などから自社の労働者がセクハラを受けた場合に,

会社がセクハラ問題に対応しなければならないかについては,

不明確となっていました。

 

 

 

そのため,重要な取引先の社員が自社の労働者にセクハラをしても,

セクハラ問題を明らかにすると,重要な取引先から,

取引を打ち切られることを恐れて,会社としては,

セクハラ問題に蓋をして,何もなかったように

取り扱うことがあったかもしれません。

 

 

しかし,今年の6月1日からは,このような会社の対応は,

セクハラ防止措置義務に違反することになり,場合によっては,

労働者から損害賠償請求をされるリスクが生じます。

 

 

会社としては,取引先の社員からのセクハラについても,

自社の労働者からの相談に対応し,取引先に対して,

事実関係の確認の協力を求めることになります。

 

 

その結果,取引先の社員が自社の労働者に対して

セクハラをしていたことが発覚したならば,取引先に対して,

セクハラをした社員に適切な処分をすることを求めたり,

セクハラ被害にあった労働者を,当該取引先の担当から外したり,

しばらく仕事を休ませるなどの適切な対応をしなければなりません。

 

 

セクハラの行為者の範囲が拡大したことがポイントです。

 

 

会社としては,社内のセクハラだけでなく,

取引先からのセクハラにも注意する必要があるでしょう。

 

 

また,取引先から,自社の労働者が

セクハラをしている疑いがあるとして,

必要な協力を求められた場合には,

調査などに応じるように努めなければなりません。

 

 

2 不利益取扱いの禁止

 

 

2つ目の改正点は,セクハラの被害者などが

セクハラの相談をしたことを理由に

解雇などの不利益取扱いをしてはならないことが明確化されたことです。

 

 

 

セクハラ被害者が被害を申告したことで

不利益な取扱いを受けたのでは,

誰もセクハラ被害を申告しなくなり,

セクハラ被害が放置されてしまいます。

 

 

また,セクハラ被害を目撃した労働者が,

調査に協力したことで不利益な取扱いを受けたのでは,

誰もセクハラ被害の調査に協力しなくなり,

セクハラ被害の実態を明らかにできなくなってしまいます。

 

 

そこで,セクハラ被害の相談をしたり,

調査に協力したことを理由に,

不利益な取扱いをすることを名文で禁止することにしたのです。

 

 

セクハラ被害を防止するための取組が拡充されたことは,

労働者にとっては喜ばしいことです。

 

 

今後は,セクハラを防止するための研修が

実施されることが多くなるので,

私もご依頼がありましたら,研修の講師をしたいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

 

客室乗務員に対する整理解雇が有効となった事例

1 整理解雇が増加しそうです

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の停滞などの影響により,

今年の5月から6月にかけて,解雇や雇止めが増加しています。

 

 

会社の業績悪化を理由とする解雇を整理解雇といい,

今後も,整理解雇が増えていくことが予想されます。

 

 

 

整理解雇に関する労働相談のニーズが増えていくので,

どのような場合に,整理解雇が無効になるのかを

知っておくことが重要になります。

 

 

2 整理解雇の4要件(4要素)

 

 

整理解雇は,会社の経営事情によってされる解雇であり,

労働者には落ち度がないので,整理解雇が有効になるかについては,

次の4要件(4要素)を総合考慮して,厳格に判断されます。

 

 

①人員削減の必要性

 

 

 ②解雇回避努力を尽くしたこと

 

 

 ③人選の合理性

 

 

 ④労働者や労働組合に対する説明・協議

 

 

裁判では,この4つの要件(要素)について,

どのような事実をどのように評価してあてはめるのかが

重要になりますので,裁判例を検討することが有意義となります。

 

 

3 客室乗務員の整理解雇事件

 

 

そこで,本日は,最近の整理解雇の事案である

ユナイテッド・エアーラインズ事件の

東京地裁平成31年3月28日判決

(労働判例1213号31頁)を紹介します。

 

 

この事件は,グアムに本社がある航空会社の

成田ベースで勤務していた客室乗務員が,

成田ベースが閉鎖されることに伴い整理解雇されました

(子会社が親会社に吸収合併される過程で,

成田ベースが閉鎖となりました)。

 

 

 

整理解雇の4要件(要素)の①について,

グアムと成田の路線の旅客数が減少し続けており,

客室乗務員の業務量が減少していたこと,

成田ベースの客室乗務員の業務を

グアムベースの客室乗務員に担当させることで,

約10万ドルを超えるコスト削減が可能であったこと,

から人員削減の高度の必要性があったと判断されました。

 

 

②について,被告会社は,客室乗務員の年収と同じ水準で

地上職のポストを選択肢として示していたこと,

退職金に加えて20ヶ月分の特別退職金を加算して

支払うという早期退職の提案をしていたとして,

相当に手厚い解雇回避努力を尽くしていたと判断されました。

 

 

③について,希望退職や地上職への配置転換に応じない,

成田ベースの客室乗務員が全員,整理解雇の対象になっているので,

人選に不合理な点は見当たらないと判断されました。

 

 

④について,労働組合との交渉経過や

原告らに対する説明を踏まえても,

被告会社の交渉態度に不誠実な点は見当たらず,

説明が不相当であったこともないと判断されました。

 

 

結果として,整理解雇は有効と判断されました。

 

 

会社の経営状態がどこまで悪化していたのかについて,

もう少し検討する必要があったのではないかと考えますが,

成田ベースを閉鎖する経営判断が不合理とはいえず,

退職金を優遇する希望退職などの解雇回避努力がなされていることから,

総合判断として,整理解雇が有効になりました。

 

 

解雇回避努力として,退職金を優遇する希望退職

がとられたかは一つのポイントになります。

 

 

また,事業所が閉鎖されて,事業所にいた

労働者全員を整理解雇する場合には,

人選の合理性が問題となりにくいようです。

 

 

解雇事件については,裁判所のあてはめを知る必要がありますので,

紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラの労働相談の増加とあっせん手続

1 パワハラの労働相談が増加しています

 

 

7月1日に厚生労働省から,

「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」が公表されました。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000643973.pdf

 

 

都道府県労働局には,総合労働相談コーナーという

労働相談の窓口があり,そこに寄せられた

労働相談の統計情報が毎年公表されます。

 

 

これを見れば,世の中でどのような労働問題が増えているのかが

よくわかるので,私は,毎年参考にしています。

 

 

さて,令和元年度の統計情報では,

総合労働相談コーナーに寄せられた相談のうち,

会社と労働者との間における個別労働紛争相談件数は

342,966件で,そのうち87,570件が

「いじめ・嫌がらせ」というパワハラに関する相談です。

 

 

 

個別労働紛争相談のうちの25.5%が

パワハラに関する相談ということになります。

 

 

このパワハラに関する相談は,年々右肩上がりに上昇しており,

今年は前年比5.8%で増加しました。

 

 

以前は,解雇の相談が最も多かったのですが,

平成24年度を境にパワハラが解雇を上回り,

以後パワハラが増加し続けています。

 

 

それだけ,パワハラの被害が蔓延しており,

深刻化していることが明らかとなっています。

 

 

そのような状況を受けて,今年の6月から

改正労働施策総合推進法が施行され,大企業に対して,

パワハラ防止措置義務が課されるようになりました。

 

 

今後は,パワハラ防止措置義務によって,

パワハラの相談件数が減少に転じるのかが注目されます。

 

 

2 あっせん手続

 

 

さて,この統計情報には,もう一つ興味深い情報が掲載されていました。

 

 

それは,都道府県労働局でのあっせん手続の処理件数です。

 

 

都道府県労働局では,労働紛争の当事者が話合いをして,

労働紛争を解決するためのあっせん手続が利用できます。

 

 

このあっせん手続の最大のメリットは,お金がかからないことです。

 

 

労働審判などの裁判手続を利用するときには,

基本的には弁護士を依頼することがほとんどですが,

弁護士に依頼するとどうしても費用がかかってしまいます。

 

 

これに対して,あっせん手続を申し立てる際に弁護士は不要で,

ほとんど個人で申立てをしていることが多く,

弁護士に依頼するための費用を節約できます。

 

 

ただ,あっせん手続には,大きなデメリットがあり,

相手方があっせん手続に応じなければ,終了してしまうのです。

 

 

裁判手続では,被告が裁判に応じなければ,

原告の主張が認められる判決がでるので,

被告は,裁判に応じることが多いです。

 

 

あっせん手続では,相手方があっせん手続に応じないと返事をすれば,

あっせん手続は打ち切られてしまいます。

 

 

また,あっせん手続では,最終的な和解が設立する

見通しがたてにくいというデメリットもあります。

 

 

今回の統計情報によりますと,和解が成立したのは36%で,

打ち切りになったのは59%で,和解が成立するよりも,

打ち切られる可能性の方が高いのです。

 

 

 

そのため,あっせん手続では,労働紛争は解決せず,

結局,裁判手続になるのであれば,

最初から裁判手続を選択した方がいいことになります。

 

 

このような事情があるため,私は,

これまであっせん手続を利用したことはありません。

 

 

3 パワハラの事案ではあっせん手続が活用できる余地がある

 

 

もっとも,今回の統計情報には,

あっせん手続がうまくいった事例が紹介されており,

パワハラの事案では,あっせん手続が

活用できるかもしれないと思いました。

 

 

紹介された事例では,45万円の慰謝料を求めて

パワハラ被害者の労働者があっせんを申請し,

会社が35万円の慰謝料を支払うことで和解が成立したようです。

 

 

言葉の暴力によるパワハラの場合は,

慰謝料の金額があまり大きくならない傾向にあり,

弁護士に依頼すると費用対効果が悪いので,

あっせん手続であれば,費用がかからないので,

多少低い金額の慰謝料でもなっとくできるのであれば,

あっせん手続を利用する価値はあると思いました。

 

 

弁護士に依頼する費用がもったいないけど,

会社に対して一矢報いたい場合に,

あっせん手続の利用を検討してみるといいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

勤務成績不良を理由とする解雇を争うポイント

1 今後は解雇が増える見込みです

 

 

2020年6月26日時点における,厚生労働省の

「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」

という資料によりますと,解雇などをされそうな見込みのある労働者数は,

全国で28,173人のようです。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000644688.pdf

 

 

石川県では,439人が解雇などをされそうな見込みのある労働者数

として挙げられています。

 

 

首都圏を中心に再び感染者が増加傾向にありますが,

新型コロナウイルスの感染拡大が一応は収まった段階においても,

停滞した経済がすぐに活性化するわけではなく,

経営が悪化した企業は,人件費を削減するために,

解雇や雇止めをしてくることが予想されます。

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大時期には,

休業手当の支払や賃金の減額の法律相談が多かったのですが,

今後は,解雇や雇止めの法律相談が増えてきそうです。

 

 

 

経営状況が悪化してきたことから,

これを機にもともと経営者にとって気に入らなかった

労働者を解雇するような動きもあります。

 

 

例えば,経営状況が悪化してきたものの,

リストラをしなければならないほどまでには悪化していないので,

問題のある労働者を解雇するような場合です。

 

 

2 勤務成績不良を理由とする解雇

 

 

勤務成績が悪いことや協調性がないことを理由として解雇するのです。

 

 

このような解雇が無効となるのかを検討するにあたり,

参考になる裁判例を紹介します。

 

 

アルバック販売事件の神戸地裁姫路支部平成31年3月18日判決

(労働判例1211号81頁)です。

 

 

この事件は,争点がたくさんあるのですが,

解雇についの判断部分を紹介します。

 

 

この事件では,原告の労働者の勤務態度や勤務成績が不良

という解雇理由が問題となったところ,

裁判所は,次のように判断しました。

 

 

単に労働者の勤務成績や勤務態度が不良であるという範疇を超えて,

その程度が著しく劣悪であり,会社が改善を促したにもかかわらず,

改善がないといえるか,会社の業務全体にとって相当な支障

となっているかなどの点を総合考慮して判断するとしたのです。

 

 

この事件では,原告の労働者は,

取引先との間でトラブルがあったものの,

取引が破談になったり,会社が取引先を失うなどの

会社に大きな損害が発生したわけではありませんでした。

 

 

また,原告の労働者は,トラブルについて,

謝罪をしたり,トラブルの原因を報告し,

同じ原因によるトラブルを起こしていませんでした。

 

 

そのため,裁判所は,勤務態度や勤務成績を理由とする解雇について,

客観的合理的理由がないと判断しました。

 

 

さらに,被告の会社が主張している解雇理由が

2年前や1年半前の出来事で古く,

次に取引先とトラブルを起こせば,

解雇を予定していることなどを原告の労働者に

明確に示す注意や指導をしておらず,

解雇よりも軽い懲戒処分などの

他の手段を検討していませんでした。

 

 

そのため,被告会社は,解雇までの間に踏むべき

段取りを踏んでいないとして,

社会通念上相当でないと判断されました。

 

 

結果として,解雇は無効と判断されたのです。

 

 

このように,勤務成績が不良であることを理由とする解雇は,

会社に損害が生じていなかったり,

次に問題を起こしたら解雇するという

イエローカードを告知していなかったり,

古い出来事を持ち出した場合には,

無効になる可能性があります。

 

 

 

解雇されてもあきらめずに,自分の主張を貫くことで,

会社に対する金銭請求が認められることがありますので,

解雇された場合には,弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ハイヤー会社の1ヶ月単位の変形労働時間制が無効となり未払残業代約1454万円の支払いが命じられた判決

1 変形労働時間制とは

 

 

未払残業代請求の事件を担当していると,会社側から,

よくでてくる反論が変形労働時間制についての主張です。

 

 

変形労働時間制とは,一定の期間につき,

1週間当たりの平均所定労働時間が法定労働時間を超えない範囲内で,

1週または1日の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

 

 

所定労働時間とは,労働契約で定められた労働時間のことで,

例えば,午前9時に出社し,午前12時から午後1時までが昼休憩,

午後6時に退社することが会社から決められている労働時間をいいます。

 

 

 

法定労働時間とは,労働基準法32条に定められている

労働時間のことで,1日8時間,1週間40時間を超えて

労働させてはならないとされています。

 

 

例えば,1ヶ月単位の変形労働時間制では,

30日の月の場合,総所定労働時間が

40時間×30日÷7日≒171時間25分

の範囲内に収まっている必要がありますが,

その範囲内に収まっていれば,

ある日の所定労働時間を8時間ではなくて,

10時間としても許されることになるのです。

 

 

通常であれば,8時間を超えて10時間働かされたら,

労働者は,2時間分の残業代を請求できるのですが,

1ヶ月単位の変形労働時間制が適法に運用されていれば,

ある日に10時間労働しても,

2時間分の残業代を請求できなくなるのです。

 

 

そのため,変形労働時間制が適法に運用されていれば,

労働者に認められる残業代は少なくなるのです。

 

 

とはいえ,変形労働時間制が有効になるためには,

労働基準法に定められている要件を全て満たす必要があり,

この要件を満たしていない会社は,けっこう多いです。

 

 

特に,変形労働時間制では,変形期間とその起算日,

期間中の全日について,労働日と所定労働時間を

特定する必要があるのですが,

この特定ができていない会社が多いです。

 

 

2 イースタンエアポートモータース事件の東京地裁令和2年6月25日判決

 

 

例えば,つい最近でたイースタンエアポートモータース事件の

東京地裁令和2年6月25日判決では,

1ヶ月単位の変形労働時間制が労働基準法32条の2の要件を

満たしていないとして無効とされ,会社に対して,

総額1453万8323円の未払残業代を支払うよう命じました。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/4f7b61ee17d5eeb822eff76c8f1e6c034699b530

 

 

この事件は,ハイヤー会社の配車業務を担当していた労働者が,

会社に対して,未払残業代を請求した事件で,

就業規則に1ヶ月単位の変形労働時間制の記載があり,

勤務割表で労働時間が決められていました。

 

 

判決では,「月ごとに勤務割表を作成する必要がある場合には,

労働者に対し,労働契約に基づく労働日,

労働時間数及び時間帯を予測可能なものとするべく,

就業規則において,少なくとも,

各直勤務の始業終業時刻及び休憩時間,

各直勤務の組み合わせの考え方,

勤務割表の作成手続及び周知の方法を記載する必要がある

と判断されました。

 

 

 

そして,この事件では,就業規則に,

「配車職員の労働時間は毎月16日を起算日とする

1ヶ月単位の変形労働時間制による。」とだけ記載されているだけで,

各直勤務の始業終業時刻及び休憩時間,

各直勤務の組み合わせの考え方,

勤務割表の作成手続及び周知き方法の記載がないため,

労働基準法32条の2の要件を満たさず,

1ヶ月単位の変形労働時間制は無効とされました。

 

 

その結果,1日8時間を超える労働時間について,

残業代が支払われていないとして,

1.25倍の未払残業代請求が認められたのです。

 

 

タクシーやトラックの運転手,

医療機関や介護施設でシフトで働く労働者は,

変形労働時間制が適用されていることが多いのですが,

変形労働時間制が無効とされることも多く,

残業代請求が認められることも多いのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。