固定給と歩合給とでは残業代の計算が異なる

1 固定給と歩合給

 

 

トラック運転手やタクシー運転手の場合、

歩合給制が取り入れられていることがあります。

 

 

歩合給とは、売上や成績によって

給料の金額が変動する給料のことをいいます。

 

 

売上がよけれは、給料も上がっていいのですが、

売上が低ければ、給料も低くなり、

生活ができなくなるというリスクもあります。

 

 

 

これに対して、固定給の月給制の給料は、

一定時間働けば、一定の給料が毎月支給されるものです。

 

 

固定給の月給制と歩合給とでは、残業代の計算が異なります。

 

 

2 固定給の残業代の計算

 

 

固定給の月給制の場合、毎月の賃金を

1ヶ月の所定労働時間(契約で決められた勤務時間)で割って、

1時間あたりの単価を計算し、1時間あたりの単価に、

1ヶ月の残業時間と割増率(1.25)をかけて、残業代を計算します。

 

 

例えば、固定給30万円の労働者が、

1ヶ月の所定労働時間は170時間、残業時間30時間、

総労働時間200時間、働いたとすると、

残業代は次のように計算されます。

 

 

(30万円÷170時間)×30時間×1.25=66,188円

 

 

3 歩合給の残業代の計算

 

 

他方、歩合給の場合、歩合給の総額を、

賃金算定期間における総労働時間で割って、

1時間あたりの単価を計算し、1時間あたりの単価に、

1ヶ月の残業時間と割増率(0.25)をかけて、残業代を計算します。

 

 

先ほどのケースで検討すると、残業代は次のように計算されます。

 

 

(30万円÷200時間)×30時間×0.25=11,250円

 

 

1時間あたりの単価を計算する時に、

1ヶ月の所定労働時間ではなく、1ヶ月の総労働時間で計算するので、

歩合給の場合、固定給に比べて、1時間あたりの単価が低くなります。

 

 

また、歩合給の場合、残業時間に対する時間当たりの賃金、

つまり、1.0の部分については、既に支払われているとされるので、

割増率は0.25となるので、残業代は、

固定給と比べて、低くなるのです。

 

 

このように、固定給の月給制と歩合給とでは、

残業代の金額が大きく異なってくるのです。

 

 

4 歩合給か固定給の月給制のどちらが適用されるかが争われた事件

 

 

それでは、就業規則には、固定給の月給制で規定されているのに、

会社から歩合給を適用された場合、労働者が残業代を請求する際に、

固定給と歩合給のどちらをベースに残業代を計算すべきなのでしょうか。

 

 

この点が争われたコーダ・ジャパン事件の

東京高裁平成31年3月14日判決(労働判例1218号49頁)

を紹介します。

 

 

この事件では、就業規則に歩合給についての定めはなく、

歩合給について定めた労働契約書もなかったのですが、

歩合給が適用されていました。

 

 

 

裁判所は、就業規則と異なる労働条件を内容とすることは、

就業規則に定められた労働条件の変更にあたるといえるので、

以下の事情を考慮する必要があるとしました。

 

 

①当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度

 

 

②労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様

 

 

③当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容

 

 

そして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと

認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否か

という観点から判断されるのです。

 

 

本件事件では、会社から、残業代についての説明はなく、

就業規則の月給制で賃金が支給される場合との比較について説明がなく、

歩合給による不利益の内容及び程度について

十分な情報提供や説明がなかっとして、原告の労働者が、

自由な意思に基づいて、歩合給を受け入れたと認めるに足りる

合理的な理由が客観的に存在しないと判断されました。

 

 

結果として、就業規則の月給制で残業代が計算され、

1364万円もの未払残業代請求が認められました。

 

 

固定給の月給制と歩合給とでは、残業代が大きく異なりますので、

就業規則や労働契約書をチェックして、

どちらが適用されるのかを吟味する必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。