採用面接の際に質問されなかったことについて自発的に申告しなかったことを理由に解雇や内定取消はできません

1 採用面接で前の職場とのトラブルを自発的に申告する必要はない

 

 

前の勤務先との間で労働トラブルが生じたため、

前の勤務先を訴えたことを、今の職場が知ることとなり、

今の職場から退職勧奨を受けているという、労働相談を受けました。

 

 

相談者の話しによると、採用面接の際に、

前の勤務先のことは何も聞かられなかったので、

前の勤務先との関係については、何も話さなかったのですが、

今の職場からは、前の勤務先との裁判のことを知っていたら、

採用しなかったので、信頼関係が崩れたと言われたようです。

 

 

それでは、労働者は、採用面接の際に、

採用に当たり不利になる情報を、会社から聞かれなくても

自発的に答えなければならないのでしょうか。

 

 

 

結論としては、労働者は、採用面接の際に、

聞かれなかったことを自己申告しなかったを理由に

解雇や内定取消をされることはありません。

 

 

会社は、労働者の能力や適性を判断するために必要であれば、

積極的に質問すればいいのであり、労働者は、

自分にとって不利なことを自発的に申告すべき義務はないからなのです。

 

 

2 HIV感染不告知を理由とする内定取消が違法とされた裁判例

 

 

この問題について、参考となる裁判例を紹介します。

 

 

社会福祉法人北海道社会事業協会事件の

札幌地裁令和元年9月17日判決(労働判例1214号18頁)です。

 

 

この事件では、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染している原告が、

病院の求人に応募して、内定を得たものの、

採用面接時や面接後の病院職員からの、持病に関する質問に対して、

HIVに感染している事実を告げなかったことを理由に、

内定取消をされました。

 

 

 

原告は、以前、この病院を受診したことがあり、

病院のカルテにHIVに感染している情報が記載されていたため、

病院は、原告がHIVに感染していることを知ることができました。

 

 

原告のHIV感染症ですが、就労に問題はなく、

職場での他者への感染の心配はないものでした。

 

 

裁判所は、HIVに感染しているという情報は、

極めて秘密性が高く、その取扱には極めて慎重な配慮が必要であり、

原告から他者へHIVが感染する危険性は、無視できるほど小さく、

原告が、HIV感染の事実を申告すべき義務はなかったと判断しました。

 

 

そして、採用に当たって、応募者に対して、

HIV感染の有無を確認することすら、許されないのであり、

原告が、HIV感染の事実を否定しても、

自らの身を守るためにやむを得ず虚偽の発言に及んだものであり、

そのことを理由に内定取消をすることは違法であると判断されました。

 

 

会社側が聞いてはいけないことを聞いてきたのであれば、

それに対して、真実を回答しないことを理由に

解雇や内定取消はできないということです。

 

 

さらに、病院は、原告の同意を得ずに、原告の医療情報を、

採用活動に利用したのであり、個人情報の目的外利用に当たり、

原告のプライバシー侵害に当たるとされました。

 

 

結果として、慰謝料150万円の損害賠償請求が認められました。

 

 

採用面接の際に、HIVのように極めて秘匿性が高い情報については、

真実を回答しなくても問題はないことになります。

 

 

ましてや、採用面接の際に聞かれもしなかったことについて、

自発的に答えなかったことを理由に、

解雇や内定取消をすることはできないことになります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。