公務員の内部通報と懲戒処分

1 内部通報と懲戒処分

 

 

今年の6月に公益通報者保護法が改正されて、

内部通報が保護される範囲が拡大されました。

 

 

改正については、こちらのブログ記事をご参考ください。

 

 

 https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/202006119369.html

 

 

労働者による内部通報については、企業の名誉や信用が毀損され、

また企業秩序を乱すことから、懲戒処分の対象となるリスクがあります。

 

 

本日は、内部通報と懲戒処分について、

興味深い裁判例がありましたので、紹介します。

 

 

 

京都市(児童相談所職員)事件の京都地裁令和元年8月8日判決

(労働判例1217号67頁)です。

 

 

この事件では、児童養護施設で起きた児童虐待の不祥事について、

児童相談所が適切な対応を採っていないと考えた職員が、

市の公益通報窓口に公益通報を行ったところ、

公益通報の前後の時期の行為について、

停職3日の懲戒処分を受けました。

 

 

懲戒事由とされたのは、①勤務時間中に、

自分の担当業務とは関係のない児童の記録データを繰り返し閲覧した行為、

②児童の記録データを出力し、複数枚コピーして、

自宅へ持ち帰った上に無断で廃棄した行為、

③職場の新年会や団体交渉の場で、児童の個人情報を含む発言をした行為、

の3点です。

 

 

これらの3つの行為が、懲戒事由に該当するかが争点となりました。

 

 

①の行為については、担当外の児童の情報を閲覧することが

禁止されておらず、①の行為によって、原告の業務が疎かになったり、

児童相談所の公務が害されたことがないとして、

職務専念義務違反や勤務態度不良という

懲戒事由に該当しないと判断されました。

 

 

②の行為については、市の情報セキュリティ対策に関する

具体的ルールに違反しているとして、

懲戒事由に該当すると判断されました。

 

 

③の行為については、個人情報を含むような

秘密の漏洩があったとは認められないとして、

懲戒事由に該当しないと判断されました。

 

 

そのため、②の行為だけが、懲戒事由となりました。

 

 

2 公務員の懲戒処分の判断枠組

 

 

次に、公務員に懲戒事由がある場合には、懲戒処分を行うか、

懲戒処分を行うとしてどのような懲戒処分を選ぶかについては、

懲戒権者の裁量に任されています。

 

 

次の事情を考慮して、懲戒権者の裁量権の行使が、

社会観念上著しく妥当を欠いて、裁量権を逸脱または濫用した場合に、

懲戒処分が違法となります。

 

 

・行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響

 

 

・公務員の行為の前後における態度、懲戒処分の処分歴

 

 

・選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響

 

 

本件事件では、②の行為について、原告は、

内部通報に付随する形で行われ

重要な証拠を手元に置いておくという

証拠保全や自己防衛という目的があり、

個人情報を外部に流出される不当な動機や目的はありませんでした。

 

 

また、原告は、自宅で情報を破棄しましたが、

翌日に自己申告しており、証拠隠滅を図る

不当な動機や目的もありませんでした。

 

 

 

結果についても、原告が自宅で保管した情報が

外部に流出しないまま、処分されました。

 

 

さらに、原告は、過去に懲戒処分歴はなく、

人事評価も良好で、勤務態度も熱心でありました。

 

 

よって、停職3日は重すぎるとして、本件懲戒処分は、

社会観念上著しく妥当を欠いて、裁量権の逸脱または濫用したもので、

違法であるとして、取り消されました。

 

 

公務員の懲戒処分を争う際に、参考になる視点が提示されており、

内部通報も考慮されているため、参考になります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。