会社から基本給の減額の打診を受けた場合の対処法

1 会社から基本給の減額を求められたらどうするか

 

 

先日、次のような法律相談を受けました。

 

 

仕事中にケガをしてしまい、長期間治療をしていたものの、

後遺障害があり、労災事故前のように働くことはできないものの、

今の自分の能力を活かした働き方ができるとして、

職場復帰したところ、基本給を減額する内容の労働条件通知書に

サインするように求められたというものです。

 

 

不幸にも労災事故にあい、後遺障害が残ったものの、

なんとか職場復帰したのに、基本給を減額することを求められのでは、

やるせない気持ちになります。

 

 

 

このように、会社から基本給の減額を求められ場合には、

どのように対処すべきなのでしょうか。

 

 

2 自由な意思に基づく同意が必要

 

 

結論から言うと、会社が基本給を減額するには、

原則として、労働者の同意が必要となり、

労働者が基本給の減額に納得がいかないのであれば、

同意しなければ、会社は、基本給の減額をできないのです。

 

 

就業規則などに、降格などの減給の根拠規定があり、

その根拠規定に基づいて基本給を減額する場合には、

減給が認められる余地があるのですが、

そのような根拠規定がない場合、会社は、

労働者の同意なくして、一方的に、

基本給を減額することはできません。

 

 

この点について、労働者に有利な裁判例がありますので、紹介します。

 

 

木の花ホームほか1社事件の宇都宮地裁令和2年2月19日判決です

(労働判例1225号27頁)。

 

 

この事件では、原告の労働者は、

最初に毎月の月額賃金が8万3333円減額され、

次に毎月の月額賃金が6万4500円減額されて、

合計14万7833円も減額されました。

 

 

原告の労働者は、2回も賃金を減額させられたのですが、

この減額に格別異議を述べなかったものの、

これに同意する書面は提出していませんでした。

 

 

このような賃金の減額の同意については、裁判所は厳格に判断します。

 

 

すなわち、賃金は最も重要な労働条件であり、

その引き下げが労働者の生活に重大な影響を及ぼすことに鑑みると、

労働者の賃金減額に対する同意は、

その自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が

客観的に存在するか否かという観点から判断されます。

 

 

この事件では、被告会社が、減給の根拠や理由について、

これを受け入れざるを得ないような合理的な説明を

行った形跡がうかがわれないなどの事情から、

原告の労働者が自由な意思に基づいて、

減額に同意したとはいえないと判断されました。

 

 

そのため、会社が勝手に基本給を減額してきて、

労働者が異議を述べていなかったとしても、

会社が減額の理由などの説明をしていない場合には、

自由な意思に基づいて減額に同意していないとして、

基本給の減額が無効になるのです。

 

 

基本給の減額が無効になれば、

減額された分の基本給を会社に対して、

請求することができるのです。

 

 

なお、木の花ホームほか1社事件では、職務手当28万円が、

131時間の時間外労働に対する固定残業代として支給されていましたが、

過労死ラインと言われる80~100時間の時間外労働

をはるかに超えていますので、

長時間労働の温床ともなり得る危険性を有しているため、

公序良俗に違反して無効と判断されました。

 

 

会社から、基本給の減額を求められても、応じたくない場合には、

断固として、基本給の減額に同意しないようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。