残業時間の罰則付き上限規制が始まります2

昨日に引き続き,残業時間の罰則付き上限規制について解説します。

 

 

昨日の復習になりますが,1日8時間を超えて

労働時間を延長する場合,36協定による原則的な

時間外労働の限度時間は1ヶ月45時間,

1年に360時間までとなっています。

 

 

そして,例外として,「通常予見することのできない業務量の

大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合」

には,1年のうち6ヶ月に限り,1ヶ月45時間,

1年360時間を超えて残業させることが可能ですが,

1ヶ月の時間外労働と休日労働の合計が100時間を超えると,

会社に,6ヶ月以下の罰金若しくは30万円以下罰金が科せられます。

 

 

 

 

あくまで原則として残業の上限は1ヶ月45時間なので,

36協定には,臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合を

できる限り具体的に定める必要があり,

「業務上やむを得ない場合」などの抽象的な文言では,

恒常的な長時間労働をまねくおそれがあることから,

このような表現は避けるべきです。

 

 

また,限度時間を超えて労働させられる上限時間についても,

1ヶ月100時間に近づけるのではなく,

1ヶ月45時間に限りなく近づける必要があります。

 

 

そのため,労働者は,今後,36協定が改定される際に,

1ヶ月45時間を超えて働かされる場合はどのような時か,

1ヶ月45時間を超える上限時間は何時間かについて,

チェックして,なるべく原則どおり1ヶ月45時間となるように

会社にはたらきかけるようにしましょう。

 

 

さて,この残業時間の罰則付き上限時間が

適用されない業種があります。

 

 

それは,専門的,科学的な知識,技術を有する者が

従事する新技術,新商品等の研究開発業務です。

 

 

 

そのため,新技術・新商品等の研究開発業務については,

残業時間の上限規制がなく,事実上,

長時間労働が是認されてしまいます。

 

 

また,他にも,残業時間の罰則付き上限規制の

適用が猶予される業種があります。

 

 

建設事業については,5年間,

残業時間の罰則付き上限規制の適用が猶予されます。

 

 

もっとも,災害時の復旧及び復興の事業については,

1ヶ月100時間未満,2~6ヶ月平均で80時間以内の

上限規制は適用されません。

 

 

自動車の運転業務については,5年間,

残業時間の罰則付き上限規制の適用が猶予され,

5年後に1年間960時間以内の上限規制が導入される予定です。

 

 

医師については,5年間,

残業時間の罰則付き上限規制が猶予されました。

 

 

医師の残業時間規制については,先日,

報告書が発表されましたので,

別の機会にブログで紹介します。

 

 

実は,4月1日から施行された残業時間の罰則付き上限規制は,

中小企業については,適用が1年間猶予されていて,

来年の4月1日から導入されます。

 

 

ここでいう中小企業とは,資本金の額又は出資の総額が3億円以下

(小売業又はサービス業については5千万円以下,

卸売業については1億円以下),及び,

常時使用する労働者の数が300人以下

(小売業については50人以下,

卸売業又はサービス業については100人以下)の会社のことです。

 

 

そのため,多くの中小企業では,

来年4月1日から残業時間の罰則付き上限規制が導入されます。

 

 

しかし,大企業であっても,ここまで説明してきた

残業時間の上限時間を守れているのか疑問です。

 

 

 

 

日立製作所の小会社日立プラントサービスでは

1ヶ月の時間外労働が100時間を超えていたのに,

残業代が未払であったとして,

富山労働基準監督署から是正勧告を受けていました。

 

 

日産自動車では,管理監督者の労働者に対して

350万円余りの未払残業代を支払うよう命じた判決がでました。

 

 

KDDIでは,1ヶ月90時間を超える時間外労働をした

労働者の過労自殺がきっかけで,

労働基準監督署から是正勧告を受けて,

社内調査をした結果,4600人の労働者に対して,

合計6億7千万円の未払残業代があったようです。

 

 

このように著名な大企業であっても,

労働基準法を守っていなかったのです。

 

 

残業時間の罰則付き上限規制が導入されると,会社は,

労働者の労働時間をしっかりと管理し,

適切に残業代を支払わないと,

手痛いしっぺ返しをくらうおそれがあります。

 

 

また,1ヶ月45時間を超える固定残業代も違法になる可能性がでてきます。

 

 

4月1日から導入された残業時間の罰則付き上限規制を契機に,

長時間労働が是正されていくことを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

残業時間の罰則付き上限規制が始まります

2019年4月1日,新元号「令和」が発表され,

日本全体が新時代の幕開けを予感させる高揚感に包まれました。

 

 

 

 

季節は春で,新生活がスタートすることもあり,

昨日はわくわくする気分になりました

(石川県では雪が降りましたが・・・)。

 

 

新元号の発表と共に,昨日,重要な法令が施行されました。

 

 

昨年6月に成立した働き方改革関連法のうち

残業時間の罰則付き上限規制が,昨日施行されました。

 

 

本日は,残業時間の罰則付き上限規制について解説します。

 

 

まず,昨日よりも以前は,残業時間に上限はないに等しかったのです。

 

 

労働基準法32条では,1日8時間,1週間で40時間を超えて

労働させてはならないと規定されていますが,

36協定が締結されていれば,労働時間を延長し,

休日労働をさせることができます。

 

 

平成10年12月28日労働省告示第154号の基準において,

1ヶ月の時間外労働の限度を45時間,

1年の時間外労働の限度を360時間とすることが

定められていたのですが,この限度時間を超えて

労働時間を延長しなければならない特別の事情

(臨時的なものに限ります)が生じたときには,

限度時間を超えて時間外労働をさせてもよいことになっていました。

 

 

そして,特別の事情がなくても,1ヶ月45時間を超える

時間外労働が常態化しており,臨時的ではない恒常的な業務を

残業でこなしている実情があり,この基準がほとんど

守られていませんでした。

 

 

 

 

また,特別の事情の場合に限度時間を超えて

時間外労働をさせる場合の上限が定められておらず,

残業時間は青天井となっていたのです。

 

 

その結果,長時間労働が是正されないまま,

過労死や過労自殺に至る悲惨な事件があとを絶たず,

電通の過労自殺事件が大々的に報道され,

青天井の残業時間に規制をかけなければならない

ということになり,残業時間の罰則付き上限規制が導入されたのです。

 

 

長時間労働は,健康の確保だけでなく,

仕事と家庭生活の両立を困難にし,少子化の原因や,

女性のキャリア形成を阻む原因,

男性の過程参加を阻む原因となっており,

これを是正することで,ワークライフバランスを改善させ,

女性が仕事に就きやすくなることを目的としているのです。

 

 

 

 

具体的には,労働基準法36条が改正されて,

36協定による原則的な時間外労働の限度時間は

1ヶ月45時間,1年に360時間までと定められました

 

 

これは,上記の告示の基準を法律に格上げしたものです。

 

 

 

確認しておきたいのは,あくまで残業時間の限度は

1ヶ月で45時間,1年で360時間が原則であるということです。

 

 

もっとも,原則には例外があるものでして,

改正労働基準法36条5項において,

通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い

臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合

において,次の例外が認められます。

 

 

①1ヶ月の時間外労働と休日労働の

合計の時間数の上限を100時間未満とする

 ②連続する2ヶ月,3ヶ月,4ヶ月,5月及び6ヶ月の

それぞれについて,1ヶ月当たりの時間外労働と休日労働の

合計の時間数の上限を80時間以内とする

 ③1年の時間外労働の時間数の上限を720時間以内とする

 

 

そして,①と②の基準を超過すると,

会社に対して6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金

が科せられることになります。

 

 

 

 

また,1ヶ月45時間を超えて時間外労働をさせることができる

月数は,1年について6ヶ月以内とすることも

労働基準法に定められました(改正労働基準法36条5項)。

 

 

気をつけなければならないのは,

③の基準には,休日労働が規制の対象外となっており,

違反しても罰則がないことです。

 

 

そのため,ブラック企業が,休日労働を増やして規制を免れる

危険がありますので,労働者は,休日労働によって,

過労がたまらないように気をつける必要があります。

 

 

③の基準に休日労働を含めた上で,罰則で規制した方が,

わかりやすいのですが,なぜ,このように区別したのかはなぞです。

 

 

罰則が科される上限時間が100時間という

過労死ラインに設定されていたり,

③の基準に休日労働が含まれていないなど,

不十分な点もありますが,残業について初めて

罰則付きで規制されることになりますので,今後は,

長時間労働が是正されていく方向に進んでいくことになると思います。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

働き方改革関連法に盛り込まれた毒

読者の皆様,新年あけましておめでとうございます。

 

 

今年も,働く人にとって役に立つ労働に関する情報を

発信していきますので,どうぞよろしくお願い致します。

 

 

さて,今年の4月から,いよいよ

働き方改革関連法が施行されます。

 

 

残業時間の罰則付き上限規制,同一労働同一賃金,

年休取得の罰則付きの義務化など,労働者を保護するための,

まさに「働き方改革」と称するにふさわしい制度もありますが,

働き方改革関連法には,労働者にとって

毒となる制度も盛り込まれています。

 

 

 

 

その毒といえるものとは,

高度プロフェッショナル制度です(以下,「高プロ」といいます)。

 

 

高プロとは,高収入の専門職の労働者に対して,

労働基準法で定められている労働時間規制が適用されなくなり,

どれだけ働いても,会社は,

残業代を支払わなくてもいいことになってしまう制度です。

 

 

この高プロについての省令案や指針案について,

昨年12月に公表されましたので,

本日は,この点について解説します。

 

 

高プロの対象となる労働者は,年収1075万円以上の

次の5つの業務に従事している者です。

 

 

 

 

①金融商品の開発

②投資判断に基づく資産運用や有価証券の売買(ディーラーなど)

③相場の動向などに基づく助言(アナリスト)

④顧客の事業運営に関する調査分析や助言(経営コンサルタント)

⑤新商品の研究開発

 

 

ここで注意しなければならないのは,

単にこれら5つの業務の名称がついているだけで

高プロが適用されることにはならず,

実質的かつ具体的に労働時間規制になじまない

業務に限定されています。

 

 

さらに,高プロの対象業務は,「当該業務に従事する時間に関し

使用者から具体的な指示を受けて行うものではないこと

という要件を満たす必要があります。

 

 

具体的には,次のような指示がされていると,

高プロは適用されないことになります。

 

 

①出勤時間の指定等始業・終業時間や深夜・休日労働など

労働時間に関する業務命令や指示

②労働者の働く時間帯の選択や時間配分に関する

裁量を失わせるような成果・業務量の要求や納期・期限の設定

③特定の日時を指定して会議に出席することを一方的に義務付けること

④作業工程,作業手順などの日々のスケジュールに関する指示

 

 

 

 

このように,高プロの対象となる労働者は,

かなり限定されていますので,来年4月以降,

会社から高プロの適用の打診を受けた場合,

本当に自分の仕事が高プロの対象業務なのかを

慎重に確認することが必要です。

 

 

そして,高プロを導入するためには,

適用される労働者個人の同意と労使委員会の決議

という手続が必要になります。

 

 

労働者は,高プロの適用を拒否しても,

そのことを理由に給料を減額されるなどの

不利益な取扱はされませんので,

高プロの適用に同意しないようにしましょう。

 

 

仮に,同意をしたとしても,後から撤回できますし,

撤回をしたことで不利益な取扱はされません。

 

 

また,労使委員会で決議されなければ

高プロは導入できませんので,労働組合は,

高プロが導入されないように必死で

抵抗するようにしてください。

 

 

労働者の同意も労使委員会の決議も,

会社からの十分な説明や情報開示がされることが

前提となっていますので,会社からの十分な説明がない場合にも

高プロが無効になる可能性があります。

 

 

さらに,会社に義務付けられている1年間に104日以上,

かつ,4週間で4日以上の休日確保が守られていない場合にも,

高プロは無効になる可能性があります。

 

 

このように導入するためのハードルがかなり高いので,

おそらく地方の中小企業で,

これらの要件を全て満たして適法に運用できる会社は

ほとんどないと考えられます。

 

 

働き方改革関連法に盛り込まれた毒である高プロですが,

まずは会社に高プロを導入させない,

導入されたとしても無効になる点はないかを

詳細に検討していくことが重要になります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

教師の労働時間規制

昨日の医師の労働時間の規制に関連して,

本日は,教師の労働時間の規制について解説します。

 

 

12月7日に,教師の働き方改革を議論している

中央教育審議会の特別部会が,

教師の長時間労働の解消策に向けた答申素案を公表しました。

 

 

 

 

このブログで何回か記載しましたが,教師の残業については,

「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する法律」

給特法といいます)が,非常に大きな問題となっていました。

 

 

給特法では,基本給の4%に相当する

教職調整額が支給される代わりに,どれだけ残業しても,

残業代が支払われない取り扱いとなっています。

 

 

この基本給の4%という水準は,

給特法が成立した1971年当時の

平均的な教師の残業時間をもとに設定されているようです。

 

 

時代が変化し,学校における保護者対応が複雑になっており,

ICTを活用した授業や,アクティブラーニングなどの

新しい学習法に対応しなければならないなど,

教師の仕事が増えているにもかかわらず,

給特法の取り扱いは変わらないまま続けられてきたのです。

 

 

どれだけ働いても基本給の4%以上の残業代が

発生しないのであれば,教師に対する労働時間の管理が甘くなり,

生徒のためにとがんばる教師の善意に依存した結果,

教師に長時間労働が蔓延したのです。

 

 

その結果,過労死ラインと言われている

1ヶ月の時間外労働が80~100時間を超えて

働いている教師が増え,教師の過労死や過労自殺の

原因になっているのです。

 

 

 

 

この悪循環を断ち切るための政策が求められていたところ,

ようやく教師の労働時間についての規制が動き出したのです。

 

 

今回の答申素案では,原則として,

1ヶ月の時間外労働が45時間を超えないこと,

1年間の時間外労働が360時間を超えないこととされました。

 

 

例外的に,児童生徒に係る臨時的な特別の事情により

勤務せざるを得ない場合についても,

1ヶ月の時間外労働が100時間未満であること,

連続する複数月の1ヶ月あたりの平均の時間外労働が

80時間未満であること,1年間の時間外労働が

720時間を超えないこととされました。

 

 

ただし,この例外的な場合に残業時間の上限を超えて残業しても,

教師の雇用主である自治体に罰則は科せれられません。

 

 

この点が,民間企業と異なるところです。

 

 

働き方改革関連法の成立によって,民間企業で,

上記の上限を超えて労働者に残業をさせた場合,

会社には,6ヶ月以下の懲役または

30万円以下の罰金が科せられます。

 

 

また,教師が校内に在校している時間を,

基本的には労働時間とし,校外での勤務についても,

職務として行う研修への参加や児童生徒の引率の職務に

従事している時間については,職務命令に基づくもの以外も含めて

外形的に把握して,労働時間とすることになりました。

 

 

さらに,タイムカードによる記録や

電子機器の使用時間の記録などの客観的な方法によって,

労働時間を適正に把握することになりました。

 

 

 

 

給特法そのものが廃止されておらず,

残業の罰金付上限規制が導入されていない点で不十分なのですが,

教師の労働時間を適切にしていくための第一歩として評価できます。

 

 

これを機に,教師の働き方が見直されて,

教師の労働時間が削減されて,

教師の過労死や過労自殺が減少していくことを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

医師の労働時間規制

昨日に引き続き,医師の働き方改革について記載します。

 

 

東京都内の病院で産婦人科医として働いていた

30代の男性が自殺したのは,1ヶ月170時間を超える

時間外労働が原因であるとして,

品川労働基準監督署が労災認定をしました。

 

 

電子カルテのアクセス記録によれば,

この男性医師は,月に4回程度,当直勤務をし,

自殺する1ヶ月前の時間外労働が約173時間で,

6ヶ月間ほとんど休日がない状態で働いていたようです。

 

 

 

 

精神障害の労災認定基準では,

1ヶ月以上にわたって連続勤務を行った場合,

心理的負荷は「強」となり,

1ヶ月の時間外労働が100時間以上でもあることから,

労災が認定されたのだと思われます。

 

 

医師は,高度な専門知識を求められる職業であるため,

若いころに,知識と手技を身につけるために,

長時間労働となりやすいようです。

 

 

実際,1ヶ月の時間外労働80時間が

過労死ラインとされているのですが,

過労死ラインの2倍である1ヶ月の時間外労働160時間

を超えて働いた医師の約半数以上を

20代と30代の医師が占めており,

20代と30代の医師の勤務時間が長くなっているのです。

 

 

また,長時間労働以外にも,宿直勤務の負担も,

医師の過労の原因になっていると考えられます。

 

 

夜働いて,昼間眠ると,睡眠の質が落ちてしまい,

疲労が回復しにくくなるのです。

 

 

このように,過労死ラインを超えて

働いている医師が多いことから,

医師が健康で働くための労働環境を

整備することが求められているのです。

 

 

 

 

そこで,医師の働き方に関する検討会は,

医師の残業時間の上限の設定方法について案を提示しました。

 

 

まず,1ヶ月の時間外労働が100時間未満,

複数月の時間外労働の平均が80時間未満

という残業時間の上限が提示されました。

 

 

この基準は,今回の働き方改革関連法で導入された,

罰則付きの残業時間の上限と同じになります。

 

 

次に,必要な地域医療が適切に確保されるため,及び,

医療の質を維持・向上するための診療経験が担保されるために,

一定の条件をもとに,上記の上限規制を緩和する案が提示されました。

 

 

1つは,地域医療提供体制の確保の観点から,

対象となる医療機関を特定して,経過措置としての,

上記の上限規制を緩和する水準を設定するという案です。

 

 

もう1つは,一定の期間集中的に

技能の向上のための診療を必要とする医師について,

医療機関を特定した上で,本人の申し出に基づき,

上記の上限規制を緩和する別の水準を設定するという案です。

 

 

この2つの場合には,医師に最低限必要な

睡眠時間が確保できるように,勤務と勤務の間に

一定時間の休息を設けて,連続勤務時間を制限する

勤務間インターバルが義務付けられます。

 

 

 

 

そもそもの残業時間の上限規制が

過労死ラインに設定されていることの問題点があるものの,

まずは,医師の健康を確保するための労働時間の規制が

一歩進んだことは評価すべきと考えます。

 

 

過労死や過労自殺する医師をなくし,

医師が健康に働ける労働環境を整備するためにも,

医師の労働時間の規制を着実にすすめていくべきです。

 

 

今後の医師の働き方改革の行方に注目したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

医師の自己研鑽は労働時間なのか?

現在,厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会

という組織において,医師の長時間労働などを

どのように改善していくべきかが議論されています。

 

 

医師の労働には,次のような特殊性があります。

 

 

 

 

病気の発生や症状の変化が予測不可能であり,

治療効果が不確実である一方,

国民の生命と健康を預かるため,

医療安全の確保が必要不可欠です。

 

 

医療の不確実性を重視すれば,

突発的な事態に対応するために,医師は,

長時間労働をせざるをえなくなります。

 

 

他方,医師が働きすぎると,疲労が蓄積し,

医師の過労死や医療事故といった最悪の事態に発展し,

医療の公共性を確保できなくなります。

 

 

平成30年度の過労死白書をみても,

救急や入院患者の緊急対応,診断書やカルテの書類作成などが

,医師の時間外労働の原因として挙げられています。

 

 

このように,医療の不確実性と公共性を両立させる観点から,

医師の働き方をどのように改善していくのかが議論されているのです。

 

 

この検討会で,注目される判断がされました。

 

 

それは,医師の自己研鑽が労働時間に該当するのかという点です。

 

 

 

 

医師は,高度な専門知識を取得して,

医療水準を維持・向上させるために,

自己研鑽が欠かせない職業です。

 

 

この自己研鑽が,労働に該当すれば,

病院としては,医師に賃金を支払わなければなりませんし,

適切に労働時間を管理して,

医師の疲労が蓄積しないようにしなければなりません。

 

 

他方,自己研鑽が労働でないのであれば,

病院は,医師に賃金を支払う必要はなく,

医師の純粋なスキルアップのために,

医師の責任で行うものになります。

 

 

このように,自己研鑽が労働時間に該当するか否かは,

医師と病院にとって気になるところですが,

これまで明確な指針がありませんでした。

 

 

そもそも,労働時間とは,会社の指揮命令下に置かれている時間,

会社の明示または黙示の指示により働く時間といわれており,

労働から離れることが保障されていることが必要です。

 

 

しかし,この基準だけでは,いまいちよく分からず,

個々の事件で,具体的な事実を検討して,

労働時間に該当するかが判断されています。

 

 

今回,厚生労働省は,医師の自己研鑽が労働時間に該当する例を

具体的に提示したので,かなりわかりやすくなりました。

 

 

診療ガイドラインについての勉強,

新しい治療法や新薬についての勉強,

自らが術者である手術や処置についての予習や振り返りは,

診療の準備行為または診療後の後処理として,

基本的に労働時間に該当します。

 

 

学会や外部の勉強会への参加や発表準備,

院内勉強会への参加や発表準備,

本来業務とは区別された臨床研究にかかる診療データの整理,

症例報告の作成,論文執筆,

大学院の受験勉強,

専門医の取得・更新にかかる症例報告作成,講習会受講は,

自由な意思に基づき,業務上必須でない行為を所定労働時間外に,

上司の指示なく行う場合は,労働時間には該当しません。

 

 

 

 

もっとも,実施しない場合には制裁などの不利益が課されて,

実施が余儀なくされている場合,

業務上必須である場合,

業務上必須でなくても上司が指示して行わせる場合

は労働時間に該当します。

 

 

おおむね,今の裁判例の見解をもとに,

自己研鑽が労働時間にあたる場合とあたらない場合を,

具体的に明確化した点が評価できます。

 

 

とてもわかりやすくなりました。

 

 

病院の経営者や管理職には,上記の見解をもとに,

医師の自己研鑽の時間を把握していくのは大変だと思いますが,

医師の働き過ぎを防止して,

国民が安心して医療を受けられる体制を維持するためにも,

少しずつでもいいので検討していってもらいたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

高プロを会社に導入させないためには

10月31日,厚生労働省は,

高度プロフェッショナル制度(以下,「高プロ」といいます)

の対象業務の素案を公表すると共に,

高プロの導入手続について,

詳細な素案を公表しました。

 

 

本日は,高プロの導入手続について,解説します。

 

 

このブログで何度も指摘してきましたが,

高プロとは,労働時間の規制が撤廃されてしまい,

どれだけ働いても残業代がゼロになるという制度です。

 

 

 

 

どれだけ働いても残業代ゼロになるので,

会社は,労働者を働かせ放題にできてしまうので,

高プロは,過労死を助長するとして

猛烈な批判を受けながらも成立してしまった,

ブラックな制度です。

 

 

高プロの導入によってメリットがある

労働者はほとんどいないと考えられます。

 

 

そこで,成立してしまった高プロを

いかに利用させないかが重要になります。

 

 

今回,厚生労働省から公表された素案を検討したところ,

高プロの導入を阻止することは十分に可能だと思いました。

 

 

高プロの導入手続は次の5つのステップにわかれます。

 

 

①労使委員会を設置する

②労使委員会で決議する

③決議を労働基準監督署に届け出る

④対象労働者の同意を書面で得る

⑤対象労働者を対象業務に就かせる

 

 

まず,ステップ①の労使委員会ですが,

委員の半数を,労働組合または労働者の過半数代表者が指名できます。

 

 

 

 

労働者にとって有利な決議をしてくれる

委員を送り込むことができるのです。

 

 

労使委員会において,会社の意見に流されずに,

労働者の利益をしっかりと代弁できる委員を

指名することが重要になります。

 

 

次に,ステップ②では,労使委員会において,

対象業務や対象労働者の範囲,

対象労働者の健康確保措置などを決議します。

 

 

労使委員会の決議は,5分の4以上の多数

による決議がなければ有効になりません。

 

 

ステップ①で,労働者の意見を代弁してくれる

委員が半数選任されていれば,労使委員会の決議で,

高プロの導入に反対の意見を示すことができて,

5分の4以上の賛成には届かず,

高プロが導入されないことになります。

 

 

労働組合は,労使委員会で高プロにしっかりと反対すべきです。

 

 

高プロの手続の要件からすれば,

労働組合が反対すれば,

高プロの導入を阻止できるのです。

 

 

労働組合が,安易に高プロに賛成したのであれば,

その労働組合は,ブラック労働組合という

烙印を押される危険があるので,気をつけてください。

 

 

仮に,労使委員会において高プロの導入が決議されても,

ステップ④において,対象労働者が同意しなければ,

その労働者には,高プロは適用されません。

 

 

会社は,対象労働者の同意を得るために,

対象労働者に対して,高プロの制度の概要や

労使委員会の決議の内容,

同意した場合の賃金や評価制度について,

しっかり説明した上で,同意を得る必要があります。

 

 

労働者は,同意しなくても,

不利益な取扱を受けないので,

会社の説明に納得できなければ,

勇気をもって,同意をしないでください。

 

 

 

 

また,同意をしてしまっても,

後から同意を撤回できますし,

同意を撤回しても,

不利益な取扱を受けることはありません。

 

 

このように,高プロを導入するためには,

会社は厳しい要件を満たす必要がありますので,

労働組合や労働者は,安易に高プロが導入されないように,

明確に反対してください。

 

 

高プロを導入しようとする会社は,

ブラック企業の可能性が高いと肝に銘じてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

高プロの対象業務とは?

厚生労働省が,10月31日に,

高度プロフェッショナル制度(「高プロ」といいます)

の具体的な対象業務の素案を公表しました。

 

 

高プロが適用される労働者は,

労働基準法で定められている労働時間の規制が

適用されなくなる結果,どれだけ働いても残業代がゼロになります。

 

 

 

 

そのため,働き方改革関連法の中で,

「残業代ゼロ法案」,「過労死促進法案」などと

度重なる批判をされながらも,成立してしまった残念な制度です。

 

 

働き方改革関連法では,高プロの対象となる業務として,

高度の専門的知識等を必要とし,その性質上

従事した時間と従事して得た成果との関連性が

通常高くないと認められる業務」と定められました。

 

 

しかし,この法律の文言を見ても,

どのような業務が高プロの対象になるのかが,

さっぱり分かりません。

 

 

 

 

法律の文言が抽象的ですと,拡大解釈されるおそれがあり,

対象となる業務が今後拡大していく可能性があります。

 

 

さらに,対象業務を法律ではなく,

省令で決めることになるので,国会審議を経ずに,

厚生労働省が国民の監視が届かないところで

決めてしまうおそれもあります。

 

 

このように,高プロは欠陥だらけなのですが,

ようやく具体的な対象業務が明らかになりました。

 

 

高プロの対象業務は,次の5つです。

 

 

①金融商品の開発業務

 ②金融商品のディーリング業務

 ③アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)

 ④コンサルタントの業務

(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)

 ⑤研究開発業務

 

 

この5つの業務であっても,

対象になりえる業務と対象にならない業務

の具体例も公表されました。

 

 

①金融商品の開発業務では,

金融工学や統計学の知識を用いた

新たな金融商品の開発業務は対象になりえて,

金融サービスの企画立案や

データの入力・整理の業務は対象にならないとされました。

 

 

②金融商品のディーリング業務では,

資産運用会社のファンドマネージャーやトレーダーの業務,

自社の資金で株式や債券の売買をする業務は対象になりえて,

投資判断を伴わない顧客からの注文の取次や

金融機関の窓口業務は対象にならないとされました。

 

 

 

 

③アナリストの業務では,

運用担当者に対し有価証券の投資に関する

助言を行う業務は対象になりえて,

一定の時間を設定して行う相談業務や

分析のためのデータ入力・整理を行う業務は

対象にならないとされました。

 

 

④コンサルタントの業務では,

業務改革案などを提案してその実現に向けて

アドバイスや支援をしていく業務は対象になりえて,

個人顧客を対象とする助言の業務は

対象にならないとされました。

 

 

⑤研究開発業務では,

新型モデル・サービスの開発の業務は対象になりえて,

既存の商品やサービスにとどまり,

技術的改善を伴わない業務は対象にならないとされました。

 

 

 

 

ある程度,対象業務が具体的になりましたが,

それでも,あいまいな点が残っています。

 

 

一般的には5つの業務の範疇に入っていても,

会社から労働時間に関する具体的な指示がされていれば

対象業務になりませんし,単純な作業も対象業務になりません。

 

 

高プロが導入されそうな場合には,

自分の仕事が5つの対象業務に含まれるのかを

注意深く検討する必要があります。

 

 

高プロの対象業務をなるべく狭くして,

高プロによって過労死する労働者がでないようにしたいものです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

高度プロフェッショナル制度はどのような労働者に適用されるのか?

今年の6月に成立した働き方改革関連法の中で,

一番問題があったのが高度プロフェッショナル制度

(高プロといいます)です。

 

 

 

 

高プロは,高い年収をもらっている一部の専門職の労働者について,

労働時間規制を外すという制度です。

 

 

労働基準法では,1日8時間以上,

1週間で40時間以上働かせてはならず,

これを超えて働かせるのであれば,企業は,

労働者に残業代を支払わなければなりません。

 

 

また,休日に働かせたり,

午後10時から午前5時までの深夜の時間帯に働かせた場合には,

企業は,労働者に割増賃金を支払わなければなりません。

 

 

これが労働時間規制です。

 

 

高プロでは,この労働時間規制が外される結果,

どれだけ働いても残業代はゼロとなり,

長時間労働が助長されて,過労死が増えるリスクがあります。

 

 

 

 

そのため,高プロは,残業代ゼロ法案,

過労死促進法案として,批判されてきました。

 

 

しかし,残業代の支払いを削減したい

経済界の意向が反映されたのか,残念ながら,

高プロは成立してしまいました。

 

 

高プロの法律が成立したのですが,

高プロの対象者となる労働者は具体的にどのような労働者なのかは,

これからの労働政策審議会での議論を経て,

厚生労働省令で定められます。

 

 

まず,高プロの対象となる業務ですが,

法律では「高度の専門的知識等を必要とする」とともに

「従事した時間と従事して得た成果との関連性が

通常高くないと認められる」という性質の業務と規定されています。

 

 

これを読んだだけでは,どのような業務が

対象になるのかがさっぱり分かりません。

 

 

 

 

ということは,高度の専門的知識という言葉が拡大解釈されたり,

時間と成果の関連性が高くない仕事も多くあるわけなので,

高プロの対象業務がどんどん拡大されていくおそれがあります。

 

 

あいまいな言葉で法律が作られると,

権力者にとって都合のいいように拡大解釈される危険があるのです。

 

 

次に,年収要件ですが,法律では,

「1年間に支払われると見込まれる賃金の額が,

平均給与額の3倍を相当程度上回る」水準と規定されています。

 

 

ここで,平均給与額とは,厚生労働省の毎月の勤労統計をもとに

算定される,労働者1人あたりの給与の平均額のことです。

 

 

 

 

この厚生労働省の勤労統計の調査対象者には,

年収の低いパート労働者などが含まれています。

 

 

年収が低い労働者が含まれる結果,

平均すると給与額が低くなり,平均給与額の3倍の金額も低くなります。

 

 

そうなると,年収要件が低くなり,

高プロを適用される労働者が増えていくことになるのです。

 

 

今は,年収1075万円以上の労働者が対象となるかが

議論されていますが,統計の数値は変化していくので,

年収要件がどんどん低くなって,高プロの対象者が

拡大されていくのではないかが懸念されています。

 

 

そもそも,対象者をどの範囲にするかという重要な議論が,

国会審議なしに,国民の目が行き届かない

諮問機関でなされているのがおかしな話です。

 

 

来年4月から高プロが導入されるのですが,

労働者の方々は,高プロにくれぐれも気をつけてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

残業時間の上限規制を厳格に

今年の6月下旬に働き方改革関連法が成立し,現在,

厚生労働省において,法律の施行に伴う関係政令

を制定する作業が進められています。

 

 

 

 

つい最近,厚生労働省から,この政令案が発表されました。

 

 

http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000176581

 

 

働き方改革関連法をより詳しく理解するために

重要な政令案ですので,解説します。

 

 

働き方改革関連法では,これまで青天井だった

残業時間について,罰則付きの上限規制がもりこまれました。

 

 

これ以上の時間,残業させた場合,会社に対して刑事罰を科すよ

と規制することで,長時間労働を抑制しようとするものです。

 

 

この残業時間の上限が,原則1ヶ月45時間まで

となっているのですが,36協定で例外をもうければ,

1ヶ月100時間未満まで残業させても合法となり,

1ヶ月の残業が100時間を超えた場合に初めて

罰則が科されるようになっています。

 

 

この1ヶ月100時間の残業時間が,

精神障害の労災基準であることから,

過労死や過労自殺を助長すると批判されています。

 

 

1ヶ月100時間未満までなら残業が許容されるかのような

法律構成になっているので,政令案では,

上限ぎりぎりまではOKというわけではない

と示していくことになっています。

 

 

 

具体的には,36協定(残業できる条件を定める労使協定のことです)

で労働時間を延長するための留意すべき事項として,

次のような指針案が示されました。

 

 

「労働時間の延長をできる限り短くする

よう努めなければならないこととすること」

 

「年720時間までの特例に係る協定を締結するに当たっては,

次の点に留意すること。

・あくまで通常予見することができない業務量の大幅な増加等の

臨時の事態への特例的な対応であるべきこと。

・具体的な事由を挙げず,単に「業務の都合上必要な時」

「業務上やむを得ないとき」といった定め方は認められないこと。

・特例に係る協定を締結する場合にも,

可能な限り原則である月45時間,

年360時間に近い時間外労働とすべきであること。」

 

「使用者は,特例の上限時間内であっても,

労働者への安全配慮義務を負うこと」

 

 

残業時間を原則の1ヶ月45時間までに抑制し,

例外的な1ヶ月100時間未満をなるべく使えないように

しようとしているので,労働者にとっては喜ばしいことです。

 

 

抽象的な「業務の都合上必要な時」「業務上やむを得ないとき」

といった規定で1ヶ月100時間未満の例外が適用されてしまえば,

なし崩し的に1ヶ月100時間未満の残業が

許容されてしまうおそれがあります。

 

 

そこで,このような抽象的な規定では例外は認められないとして,

1ヶ月100時間未満の残業が許容されないように,

規制を強化するべきと考えます。

 

 

また,36協定を締結するには,

労働者の中から過半数を代表する者を選出して,

その過半数代表者が会社と36協定を締結します

 

 

この過半数代表者は,往々にして,

会社の社長の意向や影響が及んだ形で選出されます。

 

 

社長が適当に,社員をつかまえて,

この書面にサインしてと言って,

36協定が締結されているのが現状だと思われます。

 

 

残業時間の上限規制は,労働者の健康を守る重要なものであり,

そのような重要なことを定める36協定を

いい加減な手続で適当に定めては,労働者の保護として不十分です。

 

 

そこで,36協定を締結する過半数代表者の選出にあたって,

会社の意向が及んでいる場合は手続違反であり,

そのような36協定には効力が認められないことを

明確に規定すべきと考えます。

 

 

過労死や過労自殺をなくすためにも,

残業時間の上限規制は,非常に重要ですので,

厚生労働省の動きに注目していきます。