医師の未払残業代請求事件(年棒制と固定残業代の関係)

会社が労働者に対して,年棒制で給料を支払っている場合,

年俸の中に残業代が含まれているとして,

残業代を支払わないことは適法なのでしょうか。

 

 

この問題について,残業代込みの年棒制の給料を受給していた

医師が,病院に対して,未払残業代を請求した,

医療法人社団康心会事件を紹介します。

(東京高裁平成30年2月22日判決・労働判例1181号11頁)

 

 

 

 

最近,残業代を労働者に支払われる基本給や諸手当に

予め含めることで,残業代を支払うという

固定残業代制を導入している会社が多いです。

 

 

おそらく,毎月,労働者の残業時間をチェックして,

残業代を計算するのが複雑でめんどうなので,

とりあえず,何時間か残業したとして定額で残業代

を支払っていることにしているのだと思います。

 

 

本来,残業代は,労働基準法や厚生労働省令で定められている

計算方法で算出して個別に支払われるべきなのですが,

労働基準法などで定められた計算方法で算出された

残業代を下回らなければ,固定残業代という方法で

残業代を支払っても違法とはなりません。

 

 

もっとも,固定残業代の支払いを受ける労働者としては,

会社から支給される固定残業代が,本当に労働基準法等で

定められた計算方法で算出されるべき残業代を下回っていないか

を検討できないと,本来もらえるはずの残業代を

もらえていないかもしれず,損をすることになりかねません。

 

 

 

そこで,最高裁は,固定残業代の有効要件として,

①労働契約の基本給などの定めにつき,

通常の労働時間の賃金にあたる部分と割増賃金に当たる部分

とを判別できなければならず(判別要件),

②判別されたところの割増賃金にあたる部分の金額は,

労働基準法などで算定されるところの金額以上であること

(金額適格性)が必要となります。

 

 

康心会事件では,年俸1700万円と合意されていただけであり,

1700万円のうち,いくらが時間外労働に対する割増賃金

にあたる部分かが明らかにされていませんでした。

 

 

よって,原告の医師に支払われた1700万円の年俸について,

通常の労働時間の賃金にあたる部分と割増賃金にあたる部分

とを判別することができないとして,

病院の固定残業代の主張は退けられました。

 

 

結果として,原告の医師の未払残業代273万円が認められました。

 

 

また,被告の病院は,原告の医師との年俸の合意の

合理的な解釈として,年俸によりすでに割増賃金の一部が

支払済みであると主張しました。

 

 

しかし,労働契約書や賃金規定に,

法定労働時間(1日8時間)分の労働の対価と

時間外労働の対価の対応関係を示す記載がなく,

被告の病院から,原告の医師に対して,

そのような説明をしたこともないことから,

被告の病院の主張は退けられました。

 

 

最近の裁判例は,労働契約書や就業規則,賃金規定に,

固定残業代の計算根拠をしっかり記載するか,

労働者に固定残業代の計算根拠を説明するかしないと,

固定残業代を有効と判断しない傾向にあり

この流れは労働者にとって,有利であります。

 

 

年棒制と固定残業代について判断した重要な裁判例ですので,

紹介させていただきました。

 

 

本日も,お読みいただき,ありがとうございます。

タクシーの客待ち時間は労働時間なのか

タクシーの運転手が客待ちをしている時間は

労働時間になるのでしょうか。

 

 

本日は,タクシー運転手の客待ち時間が労働時間にあたるか

否かが争われた中央タクシー事件

(大分地裁平成23年11月30日判決・労働判例1043号54頁)

を紹介します。

 

 

大きな駅にいくと,タクシーが順番に並んで,

お客さんを乗せて,出発していきます。

 

 

 

 

 

大きな駅のタクシーの順番に並んでいると,

お客さんを乗せるまでの待ち時間が長いので,

タクシー運転手の仲間たちとおしゃべりをしている人,

タクシーの中で弁当を食べている人,

タクシーの中でスポーツ新聞を読んでいる人,

タクシーの中で昼寝をしている人

などタクシーの運転手はさまざまな過ごし方をしています。

 

 

一見すると仕事をしていないように見えるので,

労働時間とはいえないようにも思えますが,

タクシーの客待ち時間は労働時間になります。

 

 

そもそも,労働時間とは,会社の明示または黙示の

指揮命令下に置かれている時間をいいます。

 

 

タクシーの運転手は,客待ち時間中にも,

無線で呼び出しがあれば,呼び出しのあった場所へ

お客さんを迎えにいかなくてはならないので,

会社の指揮命令下に置かれていると評価できます。

 

 

また,駅でタクシーの順番に並んでいても,

前に並んでいるタクシーが順番に進んでいくので,

それに続いて進まないと,後がつかえるので,

お客さんを乗せるために運転を継続しているのといえ,

タクシーの客待ち時間は労働時間になるのです。

 

 

 

 

中央タクシー事件では,30分を超える客待ち時間は,

一律に労働時間ではないという取扱がされていましたが,

30分を超える客待ち時間も労働時間にあたると判断されて,

タクシー運転手の未払残業代請求が認められました。

 

 

さらに,中央タクシー事件では,会社は,会社と労働組合との間で,

会社の指定する場所以外の場所で30分を超える客待ち時間は,

労働時間からカットするという内容の労働協約が締結されていた

と主張していました。

 

 

しかし,そのような労働協約があったとしても,

ある時間が労働時間にあたるか否かは当事者の約定にかからわず,

客観的に判断するべきとされ,客観的に判断すれば,

客待ち時間は会社の指揮命令下に置かれている時間であり,

労働時間にあたると判断されました。

 

 

会社の就業規則などで,ある時間が労働時間ではないと

定められていても,客観的にみて,

ある時間が会社の指揮命令下に置かれている時間であれば,

ある時間は労働時間になるのです。

 

 

以前私が担当した,タクシー運転手の賃金が最低賃金を

下回っているとして,支給された賃金と最低賃金との差額

を請求した事件において,客待ち時間が労働時間か否か

が争われましたが,裁判所は,客待ち時間を労働時間として,

最低賃金との差額を認めてくれました。

 

 

タクシー会社によっては,客待ち時間を労働時間に含めずに,

賃金を支払っている場合がありますので,

客待ち時間を労働時間として計算すれば,

タクシー運転手は残業代を請求できる場合があります。

 

 

タクシー運転手は,タコグラフやアルコールの呼気検査,

運転日報などで労働時間を証明できるので,

働いているわりに,賃金が低いと感じるのであれば,

未払残業代の請求を検討してみることをおすすめします。

 

 

本日も,お読みいただき,ありがとうございます。

移動時間は労働時間なのか

未払残業代請求の事件では,ある時間が労働時間か否か

が争われることがよくあります。

 

 

ある時間が労働時間に該当すれば,会社は,その時間分の賃金を,

労働者に支払わなければならなくなります。

 

 

また,会社が労働時間ではないと主張していた時間が

労働時間になれば,労働者は,会社が想定していたよりも

長く働いていたことになり,残業していたことになるので,

未払残業代が発生するのです。

 

 

そこで,本日は,労働時間か否かが争いになる

移動時間について解説します。

 

 

まず,通勤時間について検討します。

 

 

 

 

そもそも,労働時間とは,労働契約に基づき,

労働者が会社に対して,労働を提供している時間です。

 

 

これに対し,通勤とは,労働者が会社に労働を提供する

前の準備行為と位置づけられています。

 

 

また,電車やバスの通勤であれば,通勤時間中は寝ていても,

本を読んでいても,スマホをしていても,労働者の自由です。

 

 

そのため,通勤時間は労働時間とはいえません。

 

 

会社へ通勤するのではなく,会社の外の仕事現場へ

直行直帰する場合の移動時間も,

通勤時間と同じで労働時間とはいえません。

 

 

次に,外回りの営業マンが営業先から営業先へ

移動する時間について検討します。

 

 

通常,営業マンは,営業先から営業先へ寄り道をせず,

まっすぐに移動するように指示されております。

 

 

そのため,営業先から営業先への移動は,

会社からの指揮命令下に置かれている時間

といえますので,労働時間となります。

 

 

最後に,出張中の移動時間について検討します。

 

 

 

 

出張中の移動時間も,就労場所へ移動するという,

労働を提供するための準備時間といえます。

 

 

また,電車で長距離移動しても,電車の中で,

寝ていようが,スマホをしていようが,

労働者の自由であることがほとんどです。

 

 

そのため,原則として,出張の移動時間も労働時間にはなりません

 

 

もっとも,移動時間中に,出張先の会議で使用する資料を

パソコンで作成していたり,出張の目的が物品を運ぶことであり,

移動中その物品を監視しなければならない場合には,

出張の移動時間であっても労働時間といえることがあります。

 

 

なお,出張先への移動が休日に行われたとしても,

休日労働として取り扱われないことになります。

 

 

このように,通勤時間や出張先への移動時間は

労働時間とはいえませんので,未払残業代を計算するときに,

何時から何時まで働いたのかを算出する際,注意する必要があります。

外回りの営業マンの残業代請求

外回りの営業マンの場合,会社の外で仕事をしているので,

会社は,営業マンが外回りをしているときの

労働時間を算定することが難しいときがあります。

 

 

そのような場合,会社が,事業場外労働のみなし時間制という制度

を利用して,会社の外で行った仕事について,

一定の労働時間仕事したものとみなして,

残業代を支払わないようにしていることがあります。

 

 

例えば,営業マンが会社の外で9時間働いたとします。

 

 

 

 

通常であれば,この営業マンは,1日8時間を超えた

1時間分の残業代を会社に対して請求できます。

 

 

ところが,事業場外労働のみなし時間制が適用されれば,

営業マンが会社の外で働いた時間が9時間であっても,

所定労働時間(労働契約で定められている勤務時間)である

7時間45分働いたとみなされてしまい,

1日8時間以内の労働となり,

残業代を請求することができなくなります。

 

 

会社から,事業場外労働のみなし時間制だから,

残業代は一切支払う必要がないと言われた場合,

労働者は,残業代請求をあきらめなければならないのでしょうか。

 

 

結論をいうと,事業場外労働のみなし時間制が有効に適用される

ことは少なく,労働者は,残業代請求をあきらめなくてもよいのです。

 

 

事業場外労働のみなし時間制を適用するための要件の一つに,

労働時間を算定し難いとき

というものがあります(労働基準法38条の2第1項)。

 

 

会社の外で働いている労働者の労働時間を会社が把握・算定できる

のであれば,事業場外労働のみなし時間制は適用されないのです。

 

 

そして,「労働時間を算定し難いとき」とは,

「就労実態等の具体的事情をふまえ,社会通念に従い,

客観的にみて労働時間を把握することが困難であり,

使用者の具体的な指揮監督が及ばないと評価される場合

とされています(東京高裁平成23年9月14日判決・

阪急トラベルサポート事件・労働判例1036号14頁)。

 

 

もうすこし具体的に検討すると,

会社の事前の具体的指示があったり,

労働者が日報を提出して,

事前または事後に業務予定の報告を会社にしていたり,

携帯電話や電子メールを利用して業務指示や

業務報告が行われていたならば,

労働時間を把握することが可能であり,

会社の具体的な指揮監督が及んでいるといえます。

 

 

このように,会社から,事業場外労働のみなし時間制を主張されても,

これらの事情があれば,事業場外労働のみなし制は適用されなくなり,

実際に働いた時間で残業代を計算して

会社に請求すれば,認められることになります。

 

 

また,仮に,事業場外労働のみなし時間制が適用されたとしても,

外回りの営業マンが仕事をするために必要とされる時間が

平均的に7時間45分ではなく,9時間であれば,

みなし労働時間は7時間45分ではなく9時間となり,

1日8時間を超える1時間分の残業代を請求できます。

 

 

さらに,事業場外労働のみなし時間制が適用されたとしても,

休日労働と深夜労働については,通常どおり残業代を請求できます

 

 

現在では,通信技術が発達しており,会社は,

労働者が今どこにいるのかをリアルタイムに把握することができ,

思い立ったときに,指示を与え,報告を求めることができますので,

「労働時間を算定し難いとき」は少なくなっています。

 

 

 

そのため,会社から事業場外労働のみなし時間制を主張されても,

認められることはあまりないと考えられますので,

労働者,あきらめずに残業代請求を検討してみてください。

タイムカードがなくても未払残業代請求をあきらめない

未払残業代の法律相談を受けていると,

タイムカードなどで労働時間の把握をしていない中小企業があり,

労働者も自分で労働時間の記録をつけておらず,

労働時間をどうやって証明するべきかについて悩む場面が多々あります。

 

 

 

 

厚生労働省は,

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準

を定めており,会社は,労働時間を適正に管理するため,

労働者の労働日ごとの始業時刻・終業時刻を確認し,

これを記録することが義務付けられています

 

 

しかし,この労働時間把握義務が守られていないのが現状です。

 

 

また,自分の労働時間を,残業代計算アプリなどを利用して,

自分自身で記録している労働者も少ないのが現状です。

 

 

他方で,裁判では労働時間を証明する責任は労働者にあるので,

労働者は,労働日ごとに,何時から何時まで働いたのかを

特定して主張しなければならないので,

労働時間を証明するための証拠がない場合には,

どう対応すべきか頭を悩ませます。

 

 

この労働時間の証明において,

労働者に有利な判断をした裁判例を見つけたので,

紹介させていただきます。

 

 

その裁判例とは,大阪高裁平成17年12月1日判決・

ゴムノイナキ事件・労働判例933号69頁です。

 

 

この事件では,被告会社では,タイムカードなどを

用いた出退勤管理は行われていませんでした。

 

 

原告の妻は,原告の帰宅が遅いことから,

その体調を心配して,7ヶ月間ほど,

原告の帰宅時間を30分単位でノートに記載していました。

 

 

 

 

原告が退社後に飲み会に参加するなどの寄り道をした可能性があり,

また,原告が帰宅したときに妻が寝ていたときには,翌朝,

原告が妻に帰宅時間を伝えたのですが,それでは正確な記録とはいえず,

妻のノートの帰宅時間だけでは,

退社時刻を確定することはできませんでした。

 

 

ようするに,妻のノートは,

証拠としての価値は低いと判断されたのです。

 

 

自宅と会社の距離が近く,

退社時刻と帰宅時間との時間差が短いのであれば,

帰宅時間で退社時刻を確定することも可能だったのかもしれません。

 

 

しかし,裁判所は,タイムカードなどによる

出退勤管理をしていなかったのは被告会社の責任によるものであり,

これを原告に不利益に扱うべきではないと判断しました。

 

 

また,被告会社は,休日出勤や残業の許可願を提出せずに

残業している従業員がいたことをわかっていながら,

これを放置していました。

 

 

 

そのため,裁判所は,原告の具体的な終業時刻や

残業時間に行った仕事内容が明らかではないことをもって,

時間外労働の証明が全くされていないとして扱うべきではなく

全ての証拠を総合考慮して,ある程度概括的に時間外労働を推認し

原告は,平均して午後9時まで残業していたと判断して,

原告の未払残業代請求を認めたのです。

 

 

このように,タイムカードなどの労働時間を客観的に

記録した証拠がなかったとしても,

手持ちの証拠を総合考慮することで,

平均的な残業時間を計算すれば,

未払残業代請求が認められる可能性があります。

 

 

未払残業代請求事件では,諦めずに,知恵を絞って,

証拠をなんとか探し出して,

せめて平均的な残業時間を計算できるところまでもっていけば,

道が開けるかもしれません。

休日の朝に出勤を命じることはパワハラか

教師が休日の朝に突然,校長や教頭から

「今すぐ出勤して」という連絡を受けた場合,

このような連絡はパワハラにあたるのでしょうか。

 

 

また,教師がこの連絡に従って休日に働いた場合,

休日労働の割増賃金を請求することができるのでしょうか。

 

 

まず,休日労働の朝に出勤を命じることが

パワハラに該当するかについて検討します。

 

 

そもそも,職場のパワハラとは,

同じ職場で働く者に対して,

職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,

業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える

又は職場環境を悪化させる行為と定義されています。

 

 

 

 

そして,厚生労働省は,職場のパワハラに

あたりうる行為類型として,以下の6つをあげています

職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告)。

 

 

①身体的な攻撃(暴行・傷害)

②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)

③人間関係からの切り離し(隔離・仲間はずし・無視)

④過大な要求

(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制,仕事の妨害)

⑤過小な要求(業務上の合理性なく,

能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

 

 

もっとも,上記の6類型は,職場のパワハラのすべてを

網羅するものではなく,最終的に損害賠償請求できる

違法なパワハラか否かは,社会通念に照らして

ケースバイケースで判断することになります。

 

 

パワハラが人事権の行使のかたちで行われた場合には,

次の3つの基準に照らして違法か否かが判断されます。

 

 

ア 当該業務命令が業務上の必要性に基づいているか

イ 当該業務命令が退職強要目的など社会的にみて

不当な動機・目的に基づきなされたか

ウ 当該業務命令が労働者に対して

通常甘受すべき程度を超える不利益を与えたか

 

 

さて,休日の朝に出勤を命じることは,

パワハラの6類型には該当しません。

 

 

また,仮に,休日にしなければならない仕事があり,

嫌がらせ目的もなく,代休が与えられているのであれば,

損害賠償請求できる違法なパワハラとはいえないと考えられます。

 

 

次に,教師は,休日労働した場合に,

割増賃金を請求できるのかについて検討します。

 

 

 

公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法

(「給特法」といいます)第3条2項には

教育職員については,時間外勤務手当及び休日勤務手当は,支給しない。

と定められています。

 

 

教師に対しては,以下の「超勤4項目」の場合以外は,

原則として時間外勤務を命じないこととされています。

 

 

①校外実習その他生徒の実習に関する業務

②修学旅行その他学校の行事に関する業務

③職員会議に関する業務

④非常災害などのやむをえない場合の業務

 

 

そして,教師に対して,残業代が支払われない代わりに,

給料月額の4%に相当する教職調整額が支給されています。

 

 

しかし,実際には上記の超勤4項目以外の業務を

時間外や休日にせざるをえないことはよくあるものの,

実務上は残業代は支払われません。

 

 

結論として,教師は,休日労働しても割増賃金を請求するのは困難です。

 

 

もっとも,教師が休日に勤務することが命じられて勤務した場合,

代休が与えられます。

 

 

本来,休日に勤務を命じることは,

労働者のワークライフバランスの観点から負担が重く,

また,教師の場合は,超勤4項目でしか

休日の勤務を命じることができないのですが,

実際は,超勤4項目以外でも休日労働がまんえんしています。

 

 

教師の労働環境を改善するためにも,

給特法を廃止して,教師にも労働基準法に基づいて

残業代が支払われるようにするべきと考えます。

トラック運転手の待機時間は労働時間か

未払残業代請求の裁判では,会社の指示があれば

直ちに作業にとりかからなければならない状態にある

手待ち時間が労働時間なのか,休憩時間なのかで

争われることがあります。

 

 

本日は,トラック運転手の出荷場や配送先における

待機時間が労働時間なのか,休憩時間なのかが争われた田口運送事件

(平成26年4月24日横浜地裁相模原支部判決

・労働判例1178号86頁)を紹介します。

 

 

この事件のトラック運転手は,集荷場で乳製品や冷凍食品を

トラックに積み込み,運送して,配送先で荷物をおろす

という仕事をしていました。

 

 

 

集荷場や配送先で,トラック内で待機する時間があり,

その待機時間に具体的な作業をしていなかったと推測されます。

 

 

もっとも,集荷場では,荷物の積み込みを待つトラックの列に

並ばなければならず,行列が前に進むたびに

トラックを前進させなければなりません。

 

 

乳製品や冷凍食品を積み込むので,

トラックの冷凍庫の保冷器を稼働させてままに

しておかなければなりませんし,温度管理を

厳格に行うことが要求されていました。

 

 

集荷場では,荷物が五月雨式にでてくる上,

他の並んでいるトラックの迷惑にならないように,

原告らトラック運転手は,でてきた荷物をすぐにトラックに運び,

他の運転手の積み込みを手伝っていました。

 

 

 

また,配送先にトラックを駐車させるスペースがないこともあり,

配送先から連絡があるまで,トラックの中で荷物を

継続的に保管しなければなりませんでした。

 

 

このように,原告らトラック運転手は,

トラックから離れることができませんでした。

 

 

このような原告らトラック運転手の手待ち時間は

労働時間なのでしょうか,それとも休憩時間なのでしょうか。

 

 

そもそも,労働時間とは,

労働者が会社の指揮命令下に置かれている時間をいいます。

 

 

そして,当該時間において労働契約上の役務の提供が

義務付けられていると評価される場合には,

労働からの解放が保障されているとはいえず

労働者は会社の指揮命令下におかれていると判断されます。

 

 

本件では,原告らトラック運転手の労働実態をみれば,

集荷場や配送先における待機時間は,いずれも

待ち時間が実作業時間にあたり,会社の指揮命令下に

置かれていたと評価できるので,労働時間とされました。

 

 

待機時間に,原告らトラック運転手がトイレにいったり,

コンビニに買い物にいくなどトラックを離れる時間があったとしても,

休憩時間とは評価できないと判断されました。

 

 

会社が手待ち時間は,労働時間ではないとして,

その分の残業代を支払っていなくても,

実際の労働の状況を具体的に明らかにして,

会社の指揮命令下に置かれていたことを積極的に主張することで,

手待ち時間が労働時間と判断されて,

未払残業代請求が認められることがあります。

 

 

手待ち時間に対する給料が支払われていない場合,

自分の労働実態からして,手待ち時間が労働時間といえないか

を検討することをおすすめします。

副業の労働時間管理

近年,副業を希望する労働者が増えています。

 

 

労働者には,離職しなくても別の仕事に就くことができて,

副業先でスキルや経験を得ることで,

主体的にキャリアを形成できたり,本業を続けつつ,

よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備ができる

というメリットがあります。

 

 

 

 

また,企業には,労働者が社外から新たな知識・情報や

人脈を入れることで,事業機会の拡大につながる

というメリットがあります。

 

 

このように副業には,労働者にも企業にも

メリットがあるのですが,様々な制度上の問題があります。

 

 

本日は,副業における労働時間の管理について説明します。

 

 

例えば,本業のA会社で1日5時間働き,

その後,副業のB会社で1日4時間働いた場合,

A会社とB会社のどちらが労働者に残業代を

支払わなければならないのでしょうか。

 

 

結論を先に述べますと,後から働く副業先のB会社が

1時間分の残業代を支払わなければなりません

 

 

労働基準法32条で,会社は,労働者を1日8時間,

1週間40時間を超えて働かせてはならないと定められています。

 

 

もっとも,36協定が締結されていれば,

1日8時間,1週間40時間を超えて労働者を働かせても

問題ないのですが,会社は,1日8時間,1週間40時間

を超えて働かせた場合,労働者に対して,

1時間当たり1.25倍の残業代を支払わなければなりません。

 

 

そして,労働基準法38条には,「労働時間は,

事業場を異にする場合においても,

労働時間に関する規定の適用については通算する。

と規定されています。

 

 

その結果,本業のA会社で1日5時間働き,

その後,副業のB会社で1日4時間働いた場合,

1日の労働時間が通算9時間となり,

1時間残業していることになり,

後から働く副業先のB会社が1時間分の残業代

を支払わなければならないのです。

 

 

 

これは,後から労働契約を締結した会社は,

労働契約の締結にあたって,

その労働者が他の会社で労働していることを確認した上で

労働契約を締結すべきという考え方が前提にあるからです。

 

 

他方,本業のA会社で,労働契約で定められた

勤務時間が4時間で,副業先のB会社で,

労働契約で定められた勤務時間が4時間であった場合,

A会社で5時間働き,その後B会社で4時間働いた場合はどうでしょうか。

 

 

この場合,A会社が1時間分の残業代を支払わなければならないのです。

 

 

このように,副業をする際には,本業と副業とで

労働時間がどれだけかを把握する必要があります

 

 

本業で8時間働いた後に,副業で4時間働いた場合,

副業の4時間全てについて,1.25倍の残業代を

請求できることになるので,労働者は,

副業先の給料をよく確認すべきです。

 

 

他方,企業は,副業で労働者を雇う場合,

労働者が働いた時間が全て残業になって,

人件費が高くなるリスクを意識する必要があると思います。

 

 

副業すれば,複数の収入源を確保できて,

収入が増加するので,今後,

副業が増加していくことが考えられますが,

労働者の労働時間が長くなるので,労働者は,

自分の労働時間をしっかりとコントロールして,

過労に陥らないように気をつける必要があります。

 

 

その定額手当の支払いは適法な残業代の支払いといえるのか

会社から毎月,営業手当,役職手当,技術手当などの

定額手当が支給されていますが,残業代は支払われていません。

 

 

会社に聞くと,それらの定額手当が

残業代の代わりであるという説明を受けました。

 

 

定額手当の金額が低いのに,毎日長時間残業をしていた場合,

労働者は,本当に定額手当の金額は,

自分の残業時間から正確に計算されたものなのか疑問に思い,

残業代が少なくて損をしている気になります。

 

 

 

 

このように,一定金額の定額手当を

残業代の代わりとする制度を固定残業代といいます。

 

 

この固定残業代が適法な残業代の支払いといえるかが,

未払残業代請求の事件ではよく問題になります。

 

 

固定残業代が適法な残業代の支払いとは認めれなかった場合,

会社は,残業代を1時間も支払っていなかったことになり,

固定残業代部分が残業代の計算基礎となる

賃金に組み込まれることになり,1時間当たりの

残業代の単価が跳ね上がることになるので,

会社は,必死に抵抗してくることが多いです。

 

 

固定残業代について,最高裁は平成30年7月19日

に判決を出して,固定残業代が適法な残業代の支払いといえるかを

判断するために,以下の基準を示しました。

 

 

「雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,

使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,

労働者の実際の労働時間等の勤務状況

などの事情を考慮して判断すべきである。」

 

 

①契約書,就業規則,賃金規定などの記載内容,

②会社の固定残業代についての説明,

③実際の労働時間

が判断の基準として考慮されるのです。

 

 

 

 

この最高裁判決の事件では,

薬剤師の毎月の業務手当10万1000円

が適法な残業代の支払いといえるのかが争われました。

 

 

この事件では,賃金規定には,

「業務手当は,一賃金支払期において時間外労働があったものとみなして,

時間手当の代わりとして支給する。」と記載されていました。

 

 

また,会社と労働者との間で作成された確認書には,

「業務手当は,固定時間外労働賃金(時間外労働30時間分)

として毎月支給します。一賃金計算期間における時間外労働が

その時間に満たない場合であっても全額支給します。」

と記載されていました。

 

 

そのため,「会社の賃金体系においては,

業務手当が時間外労働等に対する対価として支払われるもの

と位置づけられていた」と判断されて,

①と②の要件を満たすとされました。

 

 

そして,計算上,業務手当は,

約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当し,

薬剤師の実際の時間外労働の状況と大きくかいりしていない

と判断されて,③の要件を満たすとされました。

 

 

その結果,業務手当は,適法な残業代の支払いと認められました。

 

 

さて,この最高裁判決からいえることは,

給料明細で,単に「時間外労働手当」等と

記載されているだけでは不十分であり,

①労働契約書,就業規則,賃金規定に

「時間外労働手当」の記載がなかったり,

②会社が労働者に対して,「時間外労働手当」

の説明を何もしていなかったり,

③実際の残業時間と「時間外労働手当」の金額が不均衡だった場合,

適法な残業代の支払いとは認められません。

 

 

ブラック企業は,低い定額手当が残業代の代わりだと言い張り,

追加で残業代を支払うことなく長時間労働をさせることがありますが,

上記の①~③の要件を検討すると,

定額手当が適法な残業代の支払いと認められない可能性があります。

 

 

定額手当が残業代の代わりに支給されている労働者は,

一度,ご自身の定額手当が適法な残業代の支払いなのかを,

上記①~③の基準をもとに検討してみることをおすすめします。

残業証明アプリ~労働時間を記録しよう!~

未払残業代を請求するには,労働者が,

労働した日に何時から何時まで働いたのかを

証拠によって証明しなければなりません。

 

 

この証明ができないと,未払残業代請求

の裁判をしても,負けてしまいます。

 

 

 

 

タイムカードや会社のシステムなどで

労働時間が管理されている会社であれば,

労働者の代理人弁護士が会社に対して

タイムカードなどの証拠を開示するように求めれば,

たいていの会社は,タイムカードなどの証拠を

開示してくれますので,労働時間の証明は容易にできます。

 

 

タイムカードなどで労働時間の管理が

全くされていない会社の場合,どのようにして

労働時間を証明するかで知恵を絞ります。

 

 

パソコンでデスクワークをしている労働者であれば,

使用しているパソコンにパソコンの起動時刻と

シャットダウンの時刻が記録されたログが

保存されていることがあるので,

このログデータを入手できれば,

労働時間を証明することができます。

 

 

しかし,ログデータは,時間の経過やOSのアップデート

をしたときに,自動的に消去されることがあります。

 

 

また,会社を退職してしまえば,会社のパソコン

からログデータを入手することは困難になります。

 

 

そのため,労働者は,会社に労働時間の管理

を任せるのではなく,いざというときのために,

自分で労働時間を記録するべきです

 

 

具体的には,毎日労働時間をメモするという方法があります。

 

 

 

 

もっとも,メモをし忘れたり,

メモの内容が本当に信用できるのかと争われることがあり,

メモだけですと証拠としてはやや弱いです。

 

 

そこで,最近では,残業時間を記録するアプリが活用されています。

 

 

ソフィアライト株式会社が開発した「残業証明アプリ」は,

GPS機能を活用して,スマホにダウンロードしたアプリに,

何時から何時まで勤務先にいたのかを正確に記録してくれます。

 

 

 

 

このアプリのポイントは,GPSの位置情報が

正確に記録されることにあります。

 

 

このアプリを利用すれば,何時から何時まで

勤務先にいたのかを証明することができ,

勤務先にいたということは通常働いていたと推認できますので,

労働時間の証明が容易になります。

 

 

さらに,自分の給料などの情報を入力しておけば,

残業代を自働で計算してくれます。

 

 

残業代の計算は複雑なので,これはとても便利な機能です。

 

 

労働者の労働時間を把握するのは,会社の義務なのですが,

労働時間把握義務をまもっている会社が

まだまだ少ないのが現状ですので,労働者は,

残業証明アプリ」などを利用して,

自分の労働時間の記録をとるべきです。

 

 

自分の労働時間を記録すれば,自分が働き過ぎ

であることが客観的にわかって,休息をとる

インセンティブがわきますので,健康管理の側面もあります。

 

 

労働時間を記録するこが重要であることを伝えたかったので,

残業証明アプリ」を紹介させていただきました。