医師の残業代込の年俸が労働基準法37条に違反した事例

以前,ブログで紹介した,残業代込の年俸1700万円の高額の報酬を得ていた医師の残業代請求事件について(最高裁平成29年7月7日判決),労働判例1168号49頁に掲載されたので改めて紹介します。

 

原告の医師の年俸1700万円の内訳は,①本給月86万円,②諸手当(役付手当3万円,職務手当15万円,調整手当16万1000円)合計34万1000円,③賞与(本給3ヶ月分相当額を基準として,成績により勘案する)とされていました。被告の病院では,通常業務の延長とみなされる時間外業務は時間外手当の対象とはならないことになっていました。

 

労働基準法37条により,使用者には,時間外労働について残業代が支払われることが義務付けられていますが,労働基準法37条に定めれられた方法により算定された残業代を下回らなければ,労働基準法37条違反にはなりません。そのため,基本給や諸手当に残業代をあらかじめ含めることで残業代を支払うという方法が,直ちに労働基準法37条に違反することにはなりません。

 

もっとも,本件最高裁判決でも,労働契約における基本給等の定めについて,通常の労働時間の賃金に当たる部分と残業代に当たる部分とを判別できることが必要であり,残業代に当たる部分の金額が労働基準法37条に定められた方法により算定した残業代の金額を下回るときには,使用者は,その差額を労働者に対して支払わなければならないという,従来の最高裁判決の明確区分性について確認しました。

 

そして,本件事件では,原告の医師に支払われた年俸について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と残業代に当たる部分とを判別することができないとして,本件の年俸の支払により,残業代が支払われたことにはならないと判断されました。

 

いくら高額の年俸を設定しても,通常の労働時間の賃金部分と時間外労働の残業代部分とが明確に別れていなければ,労働者は,使用者に対して,残業代を請求できます。特に,医師や経営コンサルタントといった高額所得者の場合,本件のように年俸だけ決まっていて,残業代部分が不明なことがあるので,残業代が請求できるか一度検討してみるといいと思います。経営者側としては,就業規則等を整備して,通常の労働時間の賃金部分と時間外労働の残業代部分とを明確区分しなければ,膨大な残業代を追加で支払わなければならなくなるリスクを負います。労使共に重要な判決だと思い,改めて紹介します。

産婦人科医の残業代請求

あけましておめでとうございます。労働問題について情報発信していきますので,今年もブログをよろしくお願い致します。

 

産婦人科医である原告が,勤務していた産婦人科診療所を経営する医療法人社団に対して,未払残業代約1761万円を請求した事件で,約1525万円の未払残業代が認められた判例を紹介します(東京地裁平成29年6月30日判決・労働判例1166号・23頁)。

 

被告の産婦人科診療所では,当直の際に1回当たり7万円が支給されていました。被告は,当直は,常勤契約とは別個の非常勤契約であり,時間外労働には該当しないと主張しました。しかし,当直が,労働基準法41条3号の「断続的労働」に該当し,かつ,労働基準監督署の許可を得ない限り,労働時間の規制が及ぶことから,当直だからといって,残業代を支払わなくてよいことにはなりません。そのため,原告の年俸1820万円を基礎賃金として残業代を計算し,支給済みの当直手当合計を控除しても,未払の残業代があるとされました。

 

また,本件では,手待時間が労働時間か休憩時間かが争われました。休憩時間といえるには,当該時間に労働から離れることが保障されて,労働者がその時間を自由に利用できて,使用者の指揮命令下から離脱できていなければなりません。被告の産婦人科診療所では,休憩時間を午後何時までや何分間といった形で確定的に定めておらず,「別途指示するまで」や「新たな仕事の必要が生じる時まで」と曖昧に定めていたので,当該時間に労働から離れることが保障されていないとして,手待時間は休憩時間ではなく労働時間と認定されました。

 

原告は,年俸1820万円という高額な給料とは別に,当直をした場合に1回7万円の当直手当の支給を受けていたので,経営者側としては,これ以上の人件費の高騰を抑止しようとして,労働基準法に基づかずに対応してきたのですが,結果として,約1525万円の高額な未払残業代の支払を命じられてしまいました。いくら高額な給料を支給しているからといって,労働基準法を無視して残業代を全く支払わないのでは,痛い目をみることになります。

 

もっとも,医師の未払残業代請求の事案では,残業代が高額になり,医療機関の経営にかなりのダメージを与えることになります。医師の労働環境の改善と病院経営の両立を模索する必要があるように感じます。残業代の計算や労働時間の認定で参考になる判例ですので紹介します。

あかし農協で残業代不払

兵庫県明石市のあかし農協において,労働者が申告する残業時間に上限が設けられており,実際の労働時間に対応した残業代が支払われていないとして,労働基準監督署から改善指導がされたようです。

 

http://www.asahi.com/articles/ASKCG5QKPKCGPTIL01X.html

 

あかし農協では,タイムカードがなく,労働者は,手書きの書類に残業代を記載して自己申告していたようですが,月5~10時間以内の残業の上限が設定されており,労働者が,実際の残業時間を申告しようとしたら,上司が上限時間内に書き直しをさせていたようです。このような労務管理では,労働時間を適正に管理しているとはいえず,労働者は,パソコンの記録や防犯カメラ映像等の客観的な証拠を収集すれば,未払残業代を請求できます。

 

また,休日出勤の場合,顧客とのアポイントを4件こなせば振替休日を1日とれる制度をとり,休日出勤手当を支払っていなかったようです。このような制度は,明確に労働基準法に違反しています。振替休日については,就業規則や労使協定で整備しなければならず,法定休日に働かせたのであれば,35%増の割増賃金を支払う必要があります。

 

あかし農協のような対応は,他の企業においても実施されていると思われます。まずは,適正な労働時間の把握の実施がされるところから改善されるべきです。適正な労働時間の把握がされれば,会社も労働者も残業を抑制しようと認識できます。会社が労働時間の把握をしていない場合,労働者は,自分で労働時間を記録して,いざというときに備えておくといいでしょう。

電通の未払残業代約24億円

電通が平成29年12月中に,過去2年間分の未払残業代約24億円を支払うことを明らかにしたようです。なぜ,未払残業代を2年間分支払うのかというと,労働基準法で未払残業代請求の消滅時効が2年と定められており,時効で消滅していない未払残業代が2年分あるからなのです。

 

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171128-00000018-asahi-bus_all

 

報道によると,電通は,社員が会社に残って過去のCM映像や担当企業の資料を見たり,語学の勉強をした時間を自己研鑽として,労働時間と認めてきませんでした。しかし,電通は,厚生労働省の立入り調査を受けて,この自己研鑽の時間を労働時間と認めました。

 

会社内に残って作業をしていたのであれば,場所的拘束性が認められて,労働時間と認定されやすくなります。過去のCM映像や担当企業の資料を見ることは,社員が時間外に自主的に行ったとしても,会社がそのことを認識して異議を述べていなかったのであれば,労働時間に該当します。

 

語学の勉強については,例えば,海外の取引先と仕事をする関係で,当該語学が必須であり,事実上,語学の勉強が強制されていたのであれば,労働時間と認定されると思います。

 

もっとも,語学の勉強については,裁判になった場合,会社が争ってくると思われ,語学の勉強が,労働者の自由な判断に委ねられていたような場合には,労働時間ではないと判断される可能性もあります。

 

そのため,今回,電通が,労働者の自己研鑽の時間を労働時間と認めたことは重要なことだと思います。会社が労働時間と認めていなくても,裁判では労働時間と認定される場合もありますので,労働者は,自分が行っている業務の時間が労働時間か否かを,一度見直してみるといいかもしれません。

長時間の私的なチャットは労働時間か?

原告は,約7ヶ月間,業務中に,合計5万0158回,概算で1日当たり300回以上,2時間程度,私的なチャットをしていたことが,職務専念義務違反に該当するとして,懲戒解雇された事件で,東京地裁平成28年12月28日判決(ドリームエクスチェンジ事件・労働判例1161号・66頁)は,懲戒解雇は有効としましたが,チャットをしていた時間を労働時間と認めて,未払残業代の請求が認められました。

 

本件判決は,職場における私語や喫煙所での喫煙など他の私的行為については,社会通念上相当な範囲においては許容され,職務専念義務に違反しないという判断基準を設けました。そして,本件チャットは,その内容が顧客情報の流出につながりかねない内容であったり,会社の信用を毀損する内容であったり,会社内の人物に対する誹謗中傷やセクハラにあたる内容であったりしたため,本件チャットは職務専念義務に違反し,懲戒解雇は有効となりました。

 

一方,本件チャットの時間が労働時間に該当するかについては,明らかに業務と関係のないチャットだけを長時間していた時間を特定することが困難であり,本件チャットは,会社から貸与された自席のパソコンで離席せずに行われたものであり,労働からの解放が保障されているとはいえないと判断されました。また,原告が残業することについて,会社は何ら異議を述べていないことから,居残り残業について,黙示の指揮命令があったと判断されました。その結果,本件チャットの時間は,会社の指揮命令下でなされたものであり,労働時間と認定され,未払残業代が認容されました。

 

業務とは関係ない私的なことをしていた時間であっても,労働からの解放が保障されていない場合には,労働時間にあたると判断された点が労働者にとって有利です。残業代請求の事件では,会社から,その時間はさぼっていたはずなので,労働時間ではないという主張がされることがありますが,会社が残業することに異議を述べなければ,黙示の指揮命令が認められ,労働時間と認定される可能性があります。もっとも,明らかに業務と関係のないことをしていた時間を明確に特定できた場合にも,労働時間と認められるかは争いがありそうです。労働時間の認定について労働者にとって有利な判断がされた事例として紹介します。

ヤマト運輸の違法残業

 福岡労働局は,ヤマト運輸がセールスドライバーに違法な長時間労働をさせたとして,労働基準法違反の疑いで福岡地検に書類送検しました。

 

https://mainichi.jp/articles/20170921/k00/00m/040/100000c

 

 ヤマト運輸は,労使協定で定めた1ヶ月あたりの残業時間の上限95時間を超える102時間の違法な残業をさせた疑いがあるようです。36協定では,残業時間の上限が規制されていないので,残業時間の上限は青天井になっています。ヤマト運輸の残業時間の上限95時間は,精神疾患の労災基準の100時間よりは短いですが,脳心臓疾患の労災基準の80時間よりは長いため,このような36協定は是正されるべきだと考えます。やはり,残業時間の上限規制が早急に導入されるべきです。

 

 さらに,脳心臓疾患の労災基準よりも長い残業時間の上限95時間に違反しているのですから,36協定が機能していないのが現状なのかもしれません。労使が残業時間について,しっかりと議論して36協定を定めるのであれば,労働者も残業時間について意識して,会社に是正を求めていけるのではないかと思います。労働者は,しっかりと自分の会社の36協定をチェックすべきです。

 

 日々,労働紛争に身を置いている者として感じるのは,しっかりと残業時間を把握して,残業代を支払っている企業は少なく,特に運送関係の現場では,長時間労働が常態化しているにもかかわらず,残業代の支払が不十分なことです。労働局のチェックが厳しくなれば,企業も残業代を支払うようになり,長時間労働が是正されていくと思いますので,労働局の担当職員を増加させて,労働基準法違反の取締を強化していってもらいたいです。

 

 電通事件では,公開の法廷で刑事裁判が行われるようになり,労働基準法違反の事件が注目されています。大企業の労働基準法違反は,大々的に報道され,企業イメージにマイナスになりますので,この流れの中で労働基準法を遵守する企業が増えることが期待されます。

 

 労働問題の法律相談は,労働問題を専門に扱う弁護士法人金沢合同法律事務所へ,お気軽にお問い合わせください。

http://www.kanazawagoudoulaw.com/

http://www.kanazawagoudoulaw.com/roudou_lp/

 

 

ほっともっとの店長は管理監督者か?

 ほっともっとの元店長が未払残業代を請求したところ,会社は,元店長が労働基準法41条2号の管理監督者に該当するため,未払残業代を支払わなくてもよいと反論して争ったプレナス事件(大分地裁平成29年3月30日判決・労働判例1158号・32頁)を紹介します。九州労働弁護団の玉木正明先生がご担当した事件です。

 

 労働者が,労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」に該当した場合,会社は,労働者に対して,未払残業代を支払わなくてもよくなりますので,「店長」等の肩書が付いている労働者が,未払残業代を請求すれば,会社は,管理監督者なので残業代を支払いませんと主張して,争いになることがよくあります。しかし,マクドナルドの名ばかり管理職で問題になったように,「店長」等の肩書を付けただけで,管理監督者にできるほど簡単な話ではなく,裁判所は,管理監督者に該当するか否かについて厳格に審査しており,会社が敗訴することが多いです。

 

 プレナス事件の判決では,管理監督者に該当するか否かについて,「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって,労働時間,休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し,現実の勤務態様も,労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを,職務内容,責任と権限,勤務態様及び賃金等の待遇などの実態を踏まえ,総合的に判断すべきである。」という判断枠組みが示されました。

 

 そして,原告である元店長の職務内容,責任と権限について,店長として店員の採用する権限はあっても,採用にあたっての時給の決定や,その後の昇給,雇止めや解雇については,本部の人事担当者と相談する必要があり,月間売上目標が定められていて,店舗の営業時間を自由に決定できないことから,主体的な関与は乏しく,会社の経営に関わる重要な事項に関与していないと判断されました。

 

 次に,原告である元店長の勤務態様について,店員が不足する場合には,自ら弁当の調理・販売を担当して,連日長時間働いていたことから,労働時間に関する裁量は限定的であり,勤務態様が労働時間の規制になじまないものではないと判断されました。

 

 そして,原告である元店長の賃金等の待遇について,店舗管理手当が支給されていたものの,年収約474万円で,会社の平均年収約528万円を下回っており,月300時間を超過する実労働時間となっている月が13回に及んでいる勤務実態から,厳格な労働時間の規制をしなくても,その保護に欠けることがないといえるほどの優遇措置が講じられていたとはいえないと判断されました。

 

 その結果,原告である元店長は,管理監督者ではないと認定され,会社に対して,合計約1011万もの未払残業代の支払いが命じられました。管理監督者を否定した判決で,労働者が有利に利用できることから,紹介させていただきます。

 

残業証拠レコーダー

 労働時間を記録する「残業証拠レコーダー」というアプリを紹介します。通称残レコといいます。

 

https://zanreko.com/

 

 このアプリは,スマートフォンのGPS機能を利用して,労働時間を記録するものです。職場によっては,タイムカードがないところもありますが,そのような職場であっても,残業証拠レコーダーを利用して,労働時間を記録すれば,会社との残業代請求の交渉や裁判で証拠として利用でき,残業代の支払いを受けられるかもしれません。残業代請求以外にも過労死や精神疾患の労災でも,残業証拠レコーダーを有効活用できそうです。

 

 

 また,記録された労働時間から残業代を計算する機能もついています。残業代の計算は複雑なので,労働者が自分で計算しようとしても途中で挫折することが多いのですが,簡易に計算してくれるのであれば,非常に便利です。

 

 毎日の労働時間を記録しておけば,いざというときの証拠として使えますし,自分の働き方を見直すきっかけになると思います。残業代を請求するか否かにかかわらず,労働者が自分の労働時間を記録しておくことは,将来何かで役立つことがあるかもしれないので,残業証拠レコーダーを利用してみてはいかがでしょうか。

 

警備員の仮眠時間は労働時間

 平成29年5月17日,千葉地裁で,イオンディライトセキュリティ株式会社の警備員の未払残業代請求事件において,仮眠時間と休憩時間について労働者に有利な判決がなされたので紹介します。

 

http://www.asahi.com/articles/ASK5K4J0HK5KUDCB00J.html

 

 警備員やビル管理会社の従業員は,24時間勤務することがありますが,常に作業しているかといえばそうではなく,仮眠したり休憩したりしています。もっとも,警報が鳴ればすぐに駆けつけなければならず,仮眠をしていても完全に労働から解放されているわけではありません。

 

 仮眠時間が労働時間に該当するかについては,最高裁平成14年2月28日判決の大星ビル管理事件がリーディングケースで,「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には,労基法上の労働時間に当たる」と判断されています。

 

 警備員の場合,仮眠時間であったとしても,緊急の呼び出しがあれば,すぐさま現場に駆けつけなければならず,警備員の仮眠時間は,労働からの解放が保障されていないとして,労働時間と認定される可能性が高いと考えます。

 

 本判決の特徴は,仮眠時間以外に,実作業の発生があまりない休憩時間について,指揮命令の性質が仮眠時間とほぼ同じで,異常発生に即対応しなければならなかったことから,労働時間であるとした点にあります。

 

 警備員が残業代を請求する場合に,参考になる判例ですので,紹介しました。

 

医師の年俸と残業代

 平成29年7月7日,医師の高額年俸に残業代が含まれているかが争われた事件について,最高裁判決がくだされたので紹介します。

 

 http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86897

 

 原告は,40代の医師で,年俸1700万円の雇用契約で神奈川県内の私立病院で勤務していたところ,病院から解雇されたため,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と未払残業代を請求しました。

 

 年俸1700万円には,本給,諸手当,賞与が含まれており,年俸とは別に医師時間外勤務給与規程に基づき,時間外勤務に対する給与が支払われていました。この時間外規程には,時間外手当の対象となる業務は,原則として,病院収入に直接貢献する業務又は必要不可欠な緊急業務に限ること,通常業務の延長とみなされる時間外業務は,時間外手当の対象とならないことが定められています。

 

 本件雇用契約では,時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働に対する割増賃金について,年俸1700万円に含まれることが合意されていたのですが,年俸1700万円のうち時間外労働に対する割増賃金に当たる部分は明らかになっていませんでした。原告に対して,時間外規程に基づき時間外手当が支払われたのですが,この時間外手当には時間外労働を理由とする割増はされていませんでした。

 

 このような事実関係のもと,最高裁は,「労働契約における基本給等の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であり,上記割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負う」という規範を定立した上で,時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働に対する割増賃金を年俸1700万円に含める合意がされても,このうち時間外労働に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされておらず,原告の年俸について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできないとしました。

 

 職業や賃金の額にかかわらず,年棒制であっても,時間外労働に対する割増賃金が明確にされていなければならないという原則が提示されたことに意義がありそうです。医師の仕事は特殊で,給料は高額ですが,これまでの固定残業代の判例と同じように,基本給と割増賃金を判別できるようにしなければなりません。

 

 なお,働き方改革では,労働時間の上限規制について,医師は今後の議論に委ねられました。医師は,過酷な業務に従事していることから,早急に上限規制を検討すべきと考えます。