北國新聞社員の過労自殺で労災と認定された事件

平成30年7月31日付で,当事務所の宮西香弁護士が

担当している北國新聞社の社員の過労自殺の労災事件で,

労災認定がされましたので,本日は,この労災認定について説明します。

 

 

過労自殺の場合,遺族は,労働基準監督署に対して,労災請求をします。

 

 

 

 

労働基準監督署の段階で,過労自殺が労災と認定されれば,

遺族は,国から遺族補償給付を受けられます。

 

 

他方,労働基準監督署の段階で,不支給決定処分という

労災と認定されない判断をされた場合,遺族は,不服申立てができます。

 

 

この不服申立てを審査請求といいます。

 

 

審査請求は,労働基準監督署の所在地である各都道府県の

労働局に置かれた労働者災害補償保険審査官に対して行います。

 

 

北國新聞社の事件では,労働基準監督署の段階では,

労災と認定されませんでしたが,審査請求の段階で

労災と認定されました。

 

 

さて,過労自殺で労災と認定されるためには,

仕事の心理的負荷が原因でうつ病などの精神疾患を

発症したと判断されなければなりません。

 

 

この心理的負荷について,厚生労働省は,

心理的負荷による精神障害の認定基準

という判断基準を公表しており,

労働者が負担に感じる出来事ごとに,

心理的負荷の程度を弱中強に分類し,

労働者が精神疾患を発症するおおむね6ヶ月の間に

体験した出来事の心理的負荷が「強」と判断されれば

基本的に労災と認定されます。

 

 

 

 

では,心理的負荷が「強」の出来事はなかったものの,

労働者が体験した出来事が複数あり,その心理的負荷が

「中」だった場合はどうなるのでしょうか。

 

 

厚生労働省の認定基準によれば,

労働者が体験した出来事が関連して生じている場合には,

全体評価を行い,「中」が複数ある場合には

「強」と評価されることがあります。

 

 

労働者災害補償保険審査官の判断によれば,

北國新聞社の事件では,労働者が体験した出来事が3つあり,

その3つの出来事の心理的負荷は「中」でしたが,

全体評価として「強」となりました。

 

 

まず,1つ目の出来事は,当該被災労働者は,

北國新聞社のグループ会社である北國新聞小松販売へ出向中に,

新聞配達員の欠員が生じたので,営業の仕事の他に,

朝刊の新聞配達をしていました。

 

 

この朝刊の新聞配達の仕事が増えたことで,

当該被災労働者の残業が1ヶ月あたり45時間以上となりました。

 

 

 

 

この出来事が,認定基準の

「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」

に該当し,心理的負荷は「中」と認定されました。

 

 

次に,2つ目の出来事は,当該被災労働者は,

「2週間以上にわたって連続勤務を行った」

ことが6ヶ月の間に5回ありました。

 

 

2週間以上連続で勤務するということは,

まったく働かない日が2週間の間に1日もないため,

十分に疲労を回復することができず,疲労が蓄積していきます。

 

 

この「2週間以上にわたって連続勤務を行った」ことの

心理的負荷は「中」と認定されました。

 

 

最後に,3つ目の出来事は,当該被災労働者は,

深夜の新聞配達の仕事を連続して27日間行ったことです。

 

 

新聞配達の仕事は,普通の人が寝ている早朝の時間帯

(午前3時ころから午前5時ころ)に行われます。

 

 

そして,新聞配達の仕事をした後に,

休憩時間をはさんだとしても,

日中の時間帯に営業の仕事をするのは大変なことです。

 

 

この出来事も,認定基準の

「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」

に該当し,心理的負荷は「中」と認定されました。

 

 

これら3つの心理的負荷が「中」の出来事が全体評価されて,

「強」となり,労災認定されたのです。

 

 

1つ1つの心理的負荷は「中」ですが,

深夜に連続で新聞配達の仕事をしてから,

日中の時間帯に通常の営業の仕事をすれば,

睡眠のリズムが崩れて,質の悪い短い睡眠が積み重なって,

疲労が蓄積されるので,全体評価として

心理的負荷が「強」となりました。

 

 

不服申立ての段階で,心理的負荷が「中」の出来事が複数あって,

それが全体評価で「強」と判断されて,

労災と認定されるのは珍しいので,紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

過労死防止大綱の改訂

7月24日に,厚生労働省が過労死防止大綱を3年ぶりに改訂しました。

 

 

過労死防止大綱を読むと,現代社会の労働の現状と課題,

過労死を防止するには,どのような対策を行えばいいのかが

分かりますので,本日は,労働者の方々に

知っておいていただきたい点をアウトプットします。

 

 

まず,現状と課題ですが,月末1週間の労働時間が

60時間以上の労働者の割合は,平成26年から平成29年の間

に0.8ポイント(32万人)減少し,平成29年は

7.7%(432万人)となっており,

長時間労働している労働者がなかなか減少していない現状があります。

 

 

 

 

1つの勤務と1つの勤務の間に連続した休息時間をもうける

勤務間インターバルの導入状況は,「導入している」企業が1.4%,

「導入を予定又は検討している」企業が5.1%,

「導入の予定はなく,検討もしていない」企業が92.9%であり,

まだまだ勤務間インターバルについての理解が広がっていません。

 

 

年休の取得日数は横ばいで推移しており,

取得率は直近2年間で微増しているものの,

平成28年で49.4%と近年5割を下回る水準で推移しています。

 

 

過労死を発生させる一つの原因は長時間労働ですので,

長時間労働する労働者に着目して,労働時間の短縮,

年休の取得の促進,労働時間の把握を客観的に行う

ことが課題となっています。

 

 

この現状と課題を踏まえて,過労死防止大綱では,

数値目標が設定されています。

 

 

労働時間については,2020年までに

週労働時間60時間以上の労働者の割合を5%以下とする。

 

 

勤務間インターバルについて,2020年までに

勤務間インターバルを知らなかった企業の割合を20%未満とし,

勤務間インターバルを導入している企業の割合を10%以上とする。

 

 

年休について,2020年までに年休の取得率を70%以上とし,

年休の取得日数が0の労働者を解消する。

 

 

現状の労働実態からすると野心的な目標ですが,

過労死防止大綱ができてからも,過労死や過労自殺がなくならず,

事件も大きく報道されていることから,

過労死や過労自殺をなくすために,

国民が一丸となって達成すべき目標なのです。

 

 

また,働きすぎが多いとして特別に調査する対象業種として,

自動車運転者,教職員,IT産業,外食産業,医療,建設業,メディア

の7業種が選ばれました。

 

 

最近,過労死や過労自殺がマスコミで大きく報道されたり,

労働判例の過労死や過労自殺で紹介されている

業種と一致しているので,まずはこれらの業種の

長時間労働対策をいかにしていくのかが重要になります。

 

 

 

今後,国は,過重労働の疑いのある会社への監督指導の徹底,

過労死を発生させた会社に対する原因究明と再発防止の指導,

違法な長時間労働が認められた企業の公表,

36協定を締結していない会社に対する監督指導など,

長時間労働を削減する取り組みを実施していきます。

 

 

過労死をなくしていくためには,

労働者が自分の労働時間や健康状態を把握し,

周囲の人も働き過ぎを警戒するなど,

国民一人ひとりの小さな実践が不可欠だと考えます。

 

過労死防止大綱が,少しでも多くの国民に,

過労死の実態を知ってもらい,過労死をなくすために

どうすればいいのかを真剣に考えるきっかけになることを願います。

過労事故死について会社に損害賠償請求できるのか

過労状態で仕事中や帰宅途中に自動車などの

運転操作を誤って,交通事故をおこして死亡した場合,

遺族は,会社に対して,損害賠償を請求できるのでしょうか。

 

 

過労の蓄積で脳・心臓疾患を発症して死亡した過労死や,

過労により精神疾患を発症して自殺した過労自殺については,

厚生労働省から労災の認定基準が公表されており,

会社に対する損害賠償請求が認められている裁判例もあります。

 

 

他方,過労状態で仕事中や通勤途中に交通事故で死亡した,

いわゆる「過労事故死」の場合,労災で補償が受けられますが,

過労死や過労自殺のような認定基準は定められていません。

 

 

 

 

また,過労が原因で交通事故が発生したのか,

運転者のミスで交通事故が生じたのか明確に分からなかったり,

交通事故の場合,自動車保険で損害が補填されることから,

過労事故死の場合に,会社に対して

損害賠償請求することは少なかったと考えられます。

 

 

このような状況の中,過労事故死について,

平成30年2月8日に横浜地裁川崎支部において

重要な和解がありましたので,紹介させていただきます。

 

 

24歳だった若者が,夜通しの仕事を終えて,

片道1時間かかる自宅へ原付バイクで帰宅途中に,

見通しのよい直線道路を走行中に左前方へ斜走して

路側帯にはみ出して電柱に激突して

死亡したという交通事故がありました。

 

 

通勤災害として,労災から補償はでますが,

自損事故のため,事故相手の自動車保険が利用できず,

自分の原付バイクに十分な損害保険をかけていなければ,

遺族に対する損害は十分に補填されません。

 

 

そこで,過労状態で原付バイクで帰宅させたことについて,

会社に対して,安全配慮義務違反

(会社には労働者の安全を確保する義務があります)

による損害賠償請求をすることが考えられます。

 

 

本件では,被害者の仕事が顧客の店舗で観葉植物などの

設置や撤去をするという重い荷物の積卸しなど,

身体的な負荷の高い仕事をしており,被害者は,

複数の取引先を社用車を運転して頻繁に移動しながら,

深夜と早朝における作業をしていました。

 

 

そして,本件事故の日の前日から夜通しで,

拘束時間が21時間以上に及ぶ仕事をし,

他の日の時間外労働も多かったのです。

 

 

 

 

そのため,被害者は,深夜と早朝の勤務を含む不規則で

過重な仕事をし,事故直前に夜通しで仕事をしたため,

疲労が過度に蓄積して,顕著な睡眠不足の状態に陥り,

本件事故が発生したと認定されました。

 

 

そして,被告の会社は,被害者の仕事の負担を軽くする

などの措置をとることなく,深夜や早朝の仕事の場合に,

原付バイクによる通勤を明確に指示していたので,

安全配慮義務違反が認められました。

 

 

その結果,7590万円の損害賠償が認められました。

 

 

さらに,本件では,和解において,

被告会社が遺族に謝罪すること,

再発防止策を実施することを確約して,

実施状況をホームページで公表すること,

和解内容を公表することが合意されました。

 

 

判決では,単に,損害賠償としてお金を支払えで

終わるのですが,和解では,謝罪や再発防止策という

遺族が求める解決が実現できるメリットがあります。

 

 

通常,和解内容は,秘密にすることが多いのですが,

本件は社会的に重要な事件であることから,

和解内容が公表されたことが非常に画期的です。

 

 

過労が原因で交通事故が発生していることは多いと思いますが,

過労事故死は今まで表面化していなかっただけなのだと考えられます。

 

 

この和解をきっかけに,過労事故死の

救済がすすんでいくことに期待したいです。

過酷な労働で健康を害する労働者が減らない日本社会

厚生労働省が平成29年度の過労死等

の労災補償状況を公表しました。

 

 

厚生労働省では,過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や,

仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害

の状況について,毎年公表をしています。

 

 

まず,脳・心臓疾患については,

労災請求件数が840に対して,

支給決定件数が253であり,

認定率は38%です。

 

 

このうち,脳・心臓疾患を発症して死亡した,

いわゆる過労死の労災請求件数が241に対して,

支給決定件数が92であり,

認定率は39%です。

 

 

脳・心臓疾患の労災請求件数は,

平成26年度以降増加していますが,

支給決定件数は,その年で増えたり減ったりしています。

 

 

発症前1ヶ月間におおむね100時間または

発症前2ヶ月間から6ヶ月間にわたって,

1ヶ月当たりおおむね80時間を超える

時間外労働が認められると,長時間労働が原因で

脳・心臓疾患を発症したと認定されやすいです。

 

 

 

 

そのため,脳・心臓疾患の労災請求件数が増えている

ということは,長時間労働が原因で,

脳や心臓を悪くした労働者が増加しているといえ,

長時間労働による労働者の健康悪化の状況が

改善されていないと考えられます。

 

 

もっとも,過労死は,平成27年度から減少傾向にあります。

 

 

業種別でみると,脳・心臓疾患の労災請求件数も支給決定件数も

一番多いのは,運輸業,郵便業のうち道路貨物運送業です。

 

 

他の業種に比べてダントツで多いです。

 

 

長距離トラック運転手は,深夜に長時間運転しますし,

トラックの中で休憩しているので,十分な休息ができておらず,

睡眠の質が悪く,疲労を回復することができずに,

疲労が蓄積して,脳・心臓疾患を発症するのだと考えられます。

 

 

次に,精神障害の労災補償状況ですが,

平成29年度の労災請求件数が1732に対して,

支給決定件数が506で,

認定率は32.8%です。

 

 

労災請求件数は,前年度と比較して146件も多く,

精神障害の労災請求は毎年右肩上がりに増加しています。

 

 

転勤やクレーム処理をしたという出来事の前後に,

1ヶ月100時間程度の時間外労働が認められたり,

発病直前の連続した3ヶ月間に1ヶ月当たり

おおむね100時間以上の時間外労働が認められる場合

長時間労働が原因で精神疾患を発症したと認定されやすいです。

 

 

 

 

労災認定された506人のうち,

最も多かった原因の出来事は

嫌がらせ,いじめ,または暴行を受けた」の88人でした。

 

 

パワハラや長時間労働が原因で精神を

病んでしまう労働者が増加していることが分かります。

 

 

精神疾患では,労災請求件数が多い業種は,医療・福祉の分野です。

 

 

医療や福祉の職場では,夜勤や交替勤務,

組織における人間関係,患者とのトラブルなどが原因で,

疲労とストレスが蓄積して,

精神疾患を発症する労働者が多いのかもしれません。

 

 

平成29年度の過労死等の労災補償状況をみると,

日本の労働者は,過酷な労働をして健康を

害してしまうことがよく分かります。

 

 

過酷な労働で健康を害する労働者を少しでも減らすように,

長時間労働を削減したり,パワハラを防止する施策が求められます。

 

 

また,労災の認定率が30%台で,

労災はやや狭き門となっているので,

労災の認定率が多くなり,一人でも多くの

労働者が労災で救済されることを願っています。

過労死防止対策と高度プロフェッショナル制度の矛盾

5月31日,政府は,新たな「過労死防止大綱」の最終案を発表しました。

 

 

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000209413.html

 

 

過労死防止大綱は,過労死ゼロの実現を目指す

政府の基本方針を示すもので,厚生労働省の施策の土台となるものです。

 

 

この過労死防止大綱を読むと,日本人の働き方がよくわかります。

 

 

月末1週間の就業時間が60時間以上の雇用者の割合は,

平成29年は7.7%で432万人となっています。

 

 

 

 

個人的な感覚としては,月末1週間の就業時間が60時間を

超えている労働者の割合は,もっと多いような気がします。

 

 

政府は,週労働時間60時間以上の雇用者の割合を平成32年までに

5%以下にする目標を掲げているので,まだ達成できていません。

 

 

次に,勤務間インターバル制度について,

導入している企業が1.4%

導入を予定しているまたは検討している企業が5.1%,

導入の予定はなく,検討もしていない企業が92.9%となっています。

 

 

勤務間インターバル制度とは,

勤務終了から次の勤務開始までの間に

十分な休息時間を確保するというものです。

 

 

1日の労働が終了して,次の労働が始まるまでの間に,

十分な休息時間を確保することで,長時間労働を抑制して,

労働者の疲労を回復させ,ワークライフバランスを確保できるようになります。

 

 

この勤務間インターバル制度については,

周知が不十分なのか,

導入企業がわずか1.4%しかありません。

 

 

そこで,政府は,平成32年までに

勤務間インターバル制度を導入する企業の割合を

10%以上

とする目標を掲げました。

 

 

医療,介護,運送業など夜働く業界の場合,

夜働くことで睡眠バランスが崩れて,

疲労が蓄積しやすいので,

労働者保護の観点から勤務間インターバル制度が必要であると思います。

 

 

また,勤務間インターバル制度における休息時間ですが,

睡眠以外にも家族と団らんする時間を確保するためにも,

ヨーロッパで導入されている11時間以上が必要です。

 

 

休息時間が短い「名ばかり」勤務間インターバル制度

が導入されないようにチェックする必要があります。

 

 

過労死防止の観点から,早急に多くの企業で

勤務間インターバル制度が導入されることを願います。

 

 

その他にも,年休の取得率約50%を平成32年までに70%以上にし,

年休取得数が0の労働者を解消する目標も掲げられています。

 

 

過労死を防止するための対策が具体的数値と共に記載されており,

過労死をなくすための意気込みを感じますが,一方で,

5月31日に高度プロフェッショナル制度を含む

働き方改革関連法案が衆議院を通過しました。

 

 

何度もブログで投稿してきましたが,高プロは,

労働時間の規制を撤廃して,過労死を助長する制度です。

 

 

過労死防止対策をすすめながら,

一方で過労死を助長する高プロを導入するので,

政府の対応に矛盾を感じます。

なくならない大企業の過労死・過労自殺

ここ数日の新聞報道によれば,

大企業における過労死・過労自殺

労災のニュースが目にとまります。

 

 

テレビ朝日のドラマプロデューサーであった男性従業員が,

出張先のホテルで心臓病で倒れて,その後に死亡しました。

 

 

この男性従業員の倒れる直前3ヶ月間の

時間外労働は70~130時間の長時間労働だったようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASL5J76QTL5JUCLV010.html

 

 

さらに,テレビ朝日では,

36協定で残業時間の上限を月80時間としていますが,

実際には月100時間を超えて残業をさせており,

労働基準監督署から是正勧告を受けていました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASL5L6SRTL5LUCLV014.html

 

 

労働基準法では,1日8時間を超えて

労働者を働かせてはいけないのですが,

会社は,労働者の過半数で組織する労働組合などとの間で,

時間外労働について協定を締結すれば,

1日8時間を超えて,労働者を働かせることができます。

この協定を36協定といいます。

 

 

テレビ朝日では,36協定が守られず,

長時間労働が当たり前になっていたのかもしれません。

 

 

また,高野山の寺院に勤務している僧侶が,

宿坊での32日間や64日間の連続勤務が原因で,

うつ病を発症して休職したことについて,労災認定がされました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASL5K3Q9XL5KPXLB004.html

 

 

人間は,休みなく働き続けると,

リフレッシュすることができずに,

仕事のストレスがたまって,

精神を壊してしまうのです。

 

 

さらに,野村不動産では,

本来,裁量労働制が適用できない労働者に対して,

裁量労働制を違法に適用しており,

違法な長時間労働を強いられて,

男性労働者が過労自殺をした事件で,労災認定されました。

 

 

裁量労働制とは,実際にはどれだけ働いても,

一定の時間しか働いていないとみなされて,

残業代が低額におさえられる制度です。

 

 

野村不動産の事件では,労働基準監督署も,

裁量労働制が違法に適用されていることを

見抜けなかったようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/DA3S13499064.html

 

大企業ですら,労働基準法を守らずに,

長時間労働が当たり前のようになっているのですから,

中小企業においては,もっとひどい状況にあると予想されます。

 

 

そのため,長時間労働を改善するための法規制が必要なのです。

 

 

しかし,今国会で審議されている働き方改革関連法案の中の

「高度プロフェッショナル制度」(通称「高プロ」といいます)は,

長時間労働の改善とは真逆で,残業代が0円になってしまい,

どれだけでも働かされることが可能になる危険な制度なのです。

 

 

高プロは,高収入の専門職労働者に対する,

労働時間法制の適用が除外されてしまうので,

どれだけ働いても残業代が0円になります。

 

 

会社としては,どれだけ働かせても,残業代が0円なので,

どれだけでも働かせて成果をあげさせようとします。

そうすると,長時間労働がますます増加して,

過労死や過労自殺が増加する危険があります。

 

 

高プロは,過労死や過労自殺を増加させることにつながることから,

全国過労死を考える家族の会は,高プロに猛反対しています。

 

 

https://www.bengo4.com/c_5/n_7891/

 

ただでさえ,過労死・過労自殺が新聞紙上を騒がせている現状において,

高プロを導入することは,

さらなる過労死・過労自殺の悲劇を繰り返すことになるので,

私は,高プロの導入に反対です。

 

 

今の国会で,高プロが成立しないことを願います。

 

 

上司からのパワハラを受けて自殺した労働者について,労災が認められた判例

上司からパワハラを受けて労働者が自殺した場合,残された遺族は,絶望に打ちひしがれて途方に暮れてしまいます。しかし,その自殺が労災であったなら,労働者のせいで自殺したのでないことが明らかになり,いくばくかは遺族が救われることがあるかもしれません。

 

阪神高速道路の巡回パトロールの仕事をしていた当時24歳の男性労働者が,上司からのパワハラを苦に自殺したことから,ご両親が,労働基準監督署に対し,遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求しましたが,認められず,行政訴訟を提起しました。1審では,遺族は敗訴しましたが,控訴審で,遺族が勝訴し,労災と認められました(大阪高裁平成29年9月29日判決・阪神高速パトロール事件・労働判例1174号・43頁)

 

被災労働者が上司から受けていたパワハラは次のようなものでした。上司は,空手をしていたため,被災労働者に対して,「道場にこい」と言っていたようです。被災労働者は,「道場にこい」という言葉を,道場にいけば空手を口実に暴力を受けると捉えて,恐れていました。

 

また,被災労働者は,上司から「何もするな言うたやろ,殺すぞ」,「あいつは,もう使い物になりませんわ」,「小学生の作文みたいやな」と発言され,侮辱されました。

 

本件の上司のパワハラは,同じ日に連続的になされたもので,継続的かつ執拗に行われたものではないのですが,控訴審では,心理的負荷の強度は「強」であると判断されました。そして,被災労働者は,上司のパワハラによる強い心理的負荷によって,自殺の直前にうつ病を発症していたとして,パワハラとうつ病,自殺の業務起因性が認められました。

 

パワハラによる自殺の場合,証拠を収集するのが困難であったり,労災と認定されるハードルが高い等の壁はありますが,本件のように,行政訴訟において労災と認められる可能性もありますので,一度,弁護士にご相談することをおすすめします。

 

過労死や過労自殺についての法律相談は,金沢合同法律事務所へお問い合わせください。

過労事故死において安全配慮義務が認められる

当時24歳であった労働者が,長時間不規則労働の末に帰宅途中に電柱にぶつかるという単独バイク事故を起こして死亡しました。遺族は,被告会社に対して,安全配慮義務違反があったとして,損害賠償請求訴訟を提起しました。

 

今年2月8日,横浜地裁川崎支部は,通勤途中の過労運転事故を防ぐ安全配慮義務を認定したうえで,約7600万円の損害賠償と謝罪及び再発防止を約束させる和解決定をし,これが受託されました。

 

裁判所は,被害者が長時間労働,深夜早朝の不規則勤務による過重な業務によって,疲労が過度に蓄積し顕著な睡眠不足の状態に陥っていたことが原因で,居眠り状態に陥って,交通事故死するに至ったことと,被告会社が原付バイクによる出勤を指示,容認していたことを認定しました。

 

そして,裁判所は,「使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務内容及び態様を定めてこれを指揮監督するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積したり,極度の睡眠不足に陥るなどして,労働者の心身の健康を損ない,あるいは労働者の生命・身体を害する事故が生じないよう注意する義務(安全配慮義務)を負う」と判断しました。

 

安全配慮義務とは,労働者が生命や身体の安全を確保しつつ働けるように必要な配慮をする義務です(労働契約法5条)。これまで,通勤帰宅途中の交通事故は,会社の指揮命令の外のことであり,労働者の自己責任とされて,会社の安全配慮義務違反の責任を問うのは難しいとされていました。

 

また,労災認定上,通勤災害は,通勤経路上の交通事故であれば労災認定されるのですが,交通事故の背景にある長時間労働等の過労実態については調査されることはなく,会社は過労事故の対策を怠っていました。

 

本件事件は,通勤の方法についても,会社の安全配慮義務の範囲を明確に拡張した点で重要です。また,和解では,被告会社が,再発防止策として,11時間の勤務間インターバルを就業規則に明記すること,男女別仮眠室の設置や深夜タクシーチケットを導入することを約束したようで,このことも画期的です。

 

今後,過労事故死の撲滅に向けて,実態解明と防止対策が進むことを期待したいです。

 

過労死,過労自殺,過労事故死については,金沢合同法律事務所へご相談ください

市職員の精神疾患発症・自殺の公務起因性が認めれた事例

岐阜県内のある市の職員が,勤務時間中に市庁舎から飛び降りて死亡した事件が発生しました。遺族は,当該職員が事故対応のため時間外や休日の勤務が多く,上司や議員への対応,部下らとの対立,市民からの苦情・クレームやマスコミ対応,公園事業を巡る裁判対応等の過重な公務が原因となって,精神疾患を発症し,自殺に至ったとして,公務災害認定を請求しました。

 

しかし,当該職員の精神疾患発症・自殺は,公務に起因するとは認められないと判断されて,公務災害と認定されませんでした。そこで,遺族が,国を相手に,公務外災害認定処分の取消を求める行政訴訟を提起しました。そして,1審と控訴審で遺族が勝訴して,公務起因性が認められました(名古屋高裁平成29年7月6日判決・地公災基金岐阜県支部長事件・労働判例1171号・5頁)。

 

厚生労働省が発表している,精神疾患の労災認定基準には,「業務による強い心理的負荷が認めれるかどうか」という要件があります。業務による出来事ごとに,心理的負荷の強さを検討していき,この心理的負荷が「強」と認定されれば,この要件を満たすことになります。精神疾患や過労自殺の事案では,労働者が体験した出来事の心理的負荷が「強」といえるかが重要な争点となります。

 

本件において,当該職員の直前の時間外労働はそれほど多くはなく,当該職員が行っていた市民からのクレーム対応や事故対応,上司や部下とのトラブルは,出来事ごとの心理的負荷の強さは,「弱」であってもやや「中」に近いや,「中」の中でも「強」に近いと認定されて,「強」そのものに該当する出来事があったとは認定されませんでした。

 

しかし,複数ある出来事を全体として評価すれば,その心理的負荷は「強」に至るものであったとして,公務起因性が認められました。

 

労災や公務災害の認定段階では,心理的負荷が「強」とは認定されなくても,行政訴訟の段階で,出来事を総合的に判断して,平均的な労働者にとって精神疾患を発症させる程度の負荷があったと認められるときは,他に発症要因が見当たらない限り,業務起因性や公務起因性が認められる事例が増えています。

 

労災や公務災害の認定段階では認められなくても,行政訴訟で認定されることもありますので,労災に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

GPSによる労働時間管理

GPSによって労働時間を管理されていたドーナツ店の店長が,長時間労働により過労死したとして,遺族が会社に対して損害賠償請求をした事件において,津地裁平成29年1月30日判決は(労働判例1160号72頁・竹屋ほか事件),遺族の損害賠償請求を認めました。

 

この事件で特徴的だったのは,店長は,日中30分ごとに位置情報を自動的に送信するGPSを携行し,店長が出社,退社のデータを送信することにより労働時間管理が行われていたことです。

 

未払残業代請求事件や過労死事件では,労働者が何時間働いていたのかが重要なポイントになり,労働者側が労働時間の立証をしなければなりません。この労働時間を立証するために,どのような証拠が残っているのか,証拠をどうやって確保するかについて,労働者側の弁護士は,日々頭を悩ませています。

 

本件事件では,GPSという最近利用が注目されている機器によって,労働時間の認定がされた点が参考になります。GPSのデータから,発症前6ヶ月間にわたり,月平均112時間の時間外労働をしていたことが立証され,店長の業務と死亡との間に因果関係が認められました。

 

本件事件のGPSは,データ送信をした時点に居た場所として記録される地名には誤差があったようですが,労働者が,出社と退社の時間をしっかりと送信していたのであれば,時間が正確に記録されることから,GPSに記録された労働時間は,客観的であり信用できると判断されたものと考えられます。

 

テクノロジーの進歩により,労働時間を立証するための証拠も進歩していきますので,様々な分野に関心を広げていきたいと思います。今は,タイムカードによる労働管理が主流ですが,GPSの精度がさらによくなれば,今後,GPSのデータが労働時間を立証するために必要不可欠になるかもしれません。