住宅手当の格差について労働契約法20条違反が認められた裁判例

正社員には,賞与や各種手当が支給されているにもかかわらず,

非正規雇用労働者には,賞与や各種手当が支給されていない場合,

このような格差は認められるのでしょうか。

 

 

最近,正社員と非正規雇用労働者との賃金格差が

労働契約法20条に違反するか否かが争われる事件が増えてきています。

 

 

 

 

本日は,最近増加傾向にある労働契約法20条をめぐる

裁判の中において,労働者に有利な判断がされた

井関松山製造所事件を紹介します

(松山地裁平成30年4月24日・労働判例1182号20頁)。

 

 

労働契約法20条には,正社員と非正規雇用労働者との間の,

①仕事の内容と責任の程度,

②仕事内容と配置の変更の範囲,

③その他の事情を考慮して,

正社員と非正規雇用労働者との労働条件の違いが

不合理であってはならないと規定されています。

 

 

ようするに,正社員と非正規雇用労働者の仕事内容や責任が同じで,

同じように配置転換がされているのに,正社員にだけ,

各種手当が支給されていて,非正規雇用労働者には,

各種手当が支給されていないのであれば,

それは不合理な格差となり,会社は,非正規雇用労働者に対して,

各種手当分の損害を賠償しなければなりません。

 

 

さて,井関松山製造所事件では,正社員には,

36~39万円ほどの賞与が支給され,

家族手当や住宅手当も支給されていましたが,

非正規雇用労働者には,賞与は支給されず,

5万円ほどの寸志が支給され,

家族手当や住宅手当が一切支給されていませんでした。

 

 

そこで,非正規雇用労働者が,正社員に支給されている

賞与,家族手当,住宅手当が,非正規雇用労働者に

支給されていないのは,労働契約法20条

に違反するとして,裁判を起こしました。

 

 

まず,上記①仕事の内容について,被告会社には,

正社員と非正規雇用労働者との間に違いはあまりみられませんでした。

 

 

②仕事内容と配置の変更の範囲について,被告会社には,

部長,次長,課長,職長,組長という5つの職制があり,

非正規雇用労働者は,組長以上の職制に就任することはありませんでした。

 

 

③その他の事情として,被告会社では,

非正規雇用労働者から正社員への中途採用が多く実施されており,

正社員と非正規雇用労働者との地位が

固定的ではないことが考慮されました。

 

 

その上で,賞与については,将来,

組長以上の職制に就任する可能性がある正社員に対して,

より高額な賞与を支給することで,

有為な人材の確保とその定着を図ることに

合理性があると判断されました。

 

 

 

 

また,非正規雇用労働者には5万円ほどの寸志が支給されており,

中途採用制度により,非正規雇用労働者から正社員になることが

可能であり,その実績もあることから,

賞与についての格差は不合理とは認められませんでした。

 

 

他方,家族手当は,生活補助的な性質があり,

労働者の仕事内容とは無関係に,

扶養家族の有無,属性,人数に着目して支給されていることから,

扶養家族がいることで生活費が増加することは,

正社員でも非正規雇用労働者でも変わらないので,

正社員にだけ家族手当を支給しているのは不合理と判断されました。

 

 

また,住宅手当についても,被告会社では,

住宅費用の負担の度合いに応じて対象者を類型化して,

費用負担を補助するものであるから,非正規雇用労働者であっても

住宅費用を負担する場合があるので,

正社員にだけ住宅手当を支給しているのは不合理と判断されました。

 

 

 

 

近年,手当の性質に注目して,

不合理が否かが判断される傾向にあります。

 

 

他の裁判例では,住宅手当について,

正社員は転勤の可能性があり,

非正規雇用労働者には転勤の可能性がないから,

正社員にだけ住宅手当を支給していることは不合理とはいえない

と判断されることが多かったのですが,本件では,

住宅手当についても,不合理と判断された点が注目されます。

 

 

手当の性質や,正社員と非正規雇用労働者との

労働条件の格差の実態を丁寧に検討していけば,

労働契約法20条違反が認められる可能性がでてくると思います。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

郵便局における正社員と非正規雇用労働者の労働条件の格差は不合理か

最近,正社員と非正規雇用労働者との労働条件の格差

が不合理であるとして,労働契約法20条違反

が争われるケースが増えています。

 

 

本日は,日本郵便において,正社員と非正規雇用労働者の労働条件

の相違が不合理か否かが争われた大阪地裁平成30年2月21日判決

(労働判例1180号・26頁)について解説します。

 

 

一般的に,正社員と非正規雇用労働者との仕事内容や責任,

配置の変更が同じであれば,手当等の労働条件は

同じにしないと不合理と考えられます。

 

 

他方,正社員と非正規雇用労働者との仕事内容や責任,

配置の変更について,正社員の方が負担が重く,

その見返りの意味も含めて,正社員に,

手厚い手当等が支給されることは,不合理とはいえないと考えられます。

 

 

 

 

 

日本郵便では,正社員は,郵便物の集荷や配達といった仕事以外に,

郵便局内部の事務作業も行い,昇任によってシフト管理や企画立案,

労務管理といった管理業務を行い,異動や配置転換が実施されています。

 

 

他方,非正規雇用労働者は,郵便物の集荷や配達

といった仕事に限定され,昇任はなく,異動や配置転換はありません。

 

 

このように,正社員と非正規雇用労働者との間に,

仕事内容や責任,配置の変更について,違いが存在します。

 

 

そうなると,正社員と非正規雇用労働者との

手当などの労働条件について違いがあっても,

不合理とはいえないと判断されそうです。

 

 

しかし,本件では,年末年始勤務手当,住居手当,扶養手当について,

正社員に支給されているのに,非正規雇用労働者に

支給されていないのは不合理と判断されました。

 

 

まず,年末年始勤務手当について,郵便局の労働者は,

普通の会社は休みとしている12月29日から1月3日に

年賀状の集荷と配達をしなければならず,

1年で最も繁忙な時期に働いた場合に,

年末年始勤務手当として一律の金額が支給されています。

 

 

 

 

年末年始勤務手当は,繁忙期である年末年始に働いたことに

注目して支給される性質のものであり,

非正規雇用労働者も正社員と同様に年末年始に働いているので,

非正規雇用労働者にも同じ取扱にする必要があります。

 

 

そのため,年末年始勤務手当の性質から,

正社員にのみ支給して,非正規雇用労働者に支給しないことは

不合理であると判断されました。

 

 

住居手当については,配転に伴う住宅の費用負担の軽減

という性質があり,配転が予定されている正社員に支給されて,

配転が予定されていない非正規雇用労働者に支給されなくても,

問題がないように思えます。

 

 

しかし,正社員の中にも,配転が予定されていない労働者がいるのに,

正社員全員に住居手当が支給されており,

住居手当の支給があるのとないのとでは,

最大で月額2万7000円の差が生じていることから,住居手当を,

正社員にのみ支給し,非正規雇用労働者に支給しないことは

不合理であると判断されました。

 

 

これまでの裁判例は,配転が予定されているか否かで,

住居手当の支給に差があっても,不合理とはいえないと

判断される傾向にあったため,

住居手当で不合理と判断されたのは画期的だと思います。

 

 

そして,扶養手当については,労働者が扶養する家族の生活保障

としての性質があり,扶養家族の有無や状況に応じて

一定額が支給されており,扶養家族の状況によっては,

支給額が大きくなることから,扶養手当を正社員にのみ支給し,

非正規雇用労働者に支給しないことは不合理と判断されました。

 

 

本判決は,仕事や内容や責任,配転の可能性で差異があっても,

手当の性質に注目して,手当の差異が不合理であると判断される

余地があること,手当の金額で大きな格差が生じることも

考慮されることが,これまでの裁判例と異なるところであり,

労働者にとって有利に活用できそうです。

大学の研究支援者に対する雇止め問題

大学には,教授などの研究者たちの

仕事を支える「研究支援者」がいます。

 

 

実験装置の保守や資材の調達をする技術職,

特許事務や研究費の管理をする事務職など,

多岐にわたる研究支援者が,大学での研究を支えているのです。

 

 

 

 

この研究支援者の多くが,非正規雇用の労働者であり,

労働契約の期間が満了して,労働契約の更新ができなければ,

雇止めとなり,大学を去らなければなりません。

 

 

研究支援者が雇止めにあうことから,

研究支援者の雇用が不安定であり,

不安定な雇用は敬遠されるので,

研究支援者になる人が減少し,

研究支援者を確保することが困難になり,

研究者が研究に割ける時間が減少して,

日本の研究者の研究力が低下するという問題が生じます。

 

 

ここで,非正規雇用とよばれる

期間の定めのある労働契約について説明します。

 

 

契約期間が定められていない正社員は,

解雇されない限り,働き続けることができますが,

契約期間が定められている労働契約を締結した

非正規雇用の労働者は,労働契約で定められた

契約期間が満了して,更新されなかったら,

その職場で働き続けることはできません。

 

 

もっとも,同じ職場で,期間の定めのある労働契約が

2回以上更新されて,トータルの契約期間が5年を超えた場合

非正規雇用の労働者は,会社に期間の定めのない労働契約

を申し込めば,期間の定めのない労働契約に転換されます

(労働契約法18条1項)。

 

 

これを無期転換ルールといいます。

 

 

会社は,非正規雇用労働者の人件費が正社員よりも低く,

非正規雇用労働者は,労働契約を更新しなければ,

契約を容易にきることができて,

雇用の調整弁として使い勝手がいいので,

無期転換を嫌がります。

 

 

そこで,会社は,無期転換をさせないために,

契約期間が5年を超える前に雇止めをすることがあります。

 

 

国立大学では,非正規雇用労働者の契約期間を

5年未満に設定しているところが多く,

無期転換ルールが適用されずに,

雇止めされてしまう非正規雇用労働者が多くいるのです。

 

 

 

 

さて,研究支援者が5年未満で雇止めされれば,

研究者が,新しい研究支援者に一から仕事を教えなければならず,

非常に効率が悪いです。

 

 

研究者が本来の仕事である研究に集中するためには,

研究者の仕事をサポートする研究支援者の

雇用が安定していることが重要になりそうです。

 

 

日本の研究力を向上させるためにも,大学には,

研究支援者の雇用を安定させる方法を模索してもらいたいです。

通勤手当の格差は不合理!

最近,労働契約法20条違反を争う裁判例が増えています。

 

 

本日は,正社員と非正規雇用労働者の通勤手当の格差

について争われた九水運輸商事事件を紹介します。

(福岡地裁小倉支部平成30年2月1日判決・

労働判例1178号5頁)

 

 

被告会社では,正社員とパート社員にわかれており,

集荷の段階から配達,検品までを行うのは正社員だけでしたが,

それ以外の仕事は,正社員もパート社員も同じでした。

 

 

被告会社では,正社員には通勤手当が1万円支給され,

パート社員には通勤手当が5千円支給されており,

5千円の差がもうけられていました。

 

 

原告らパート社員は,通勤手当に5千円の差

もうけられていることについて,

労働契約法20条違反を主張して,裁判をおこしました。

 

 

労働契約法20条には,正社員と非正規雇用労働者の

労働条件の違いが,

「労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度,

当該職務の内容及び配置の変更の範囲

その他の事情を考慮して」,

不合理であってはならないと定められています。

 

 

被告会社が通勤手当をもうけた理由は,

少しでも手当が多い方が求人に有利であるというもので,

正社員とパート社員の通勤手当に格差が生じる

合理的な理由ではありません。

 

 

また,正社員もパート社員も仕事場へ自家用車で通勤しており,

パート社員の方が正社員よりも通勤時間や

通勤経路が短いということはなく,

被告会社が通勤手当の金額を決めるに当たり,

正社員の通勤経路を調査したこともありません。

 

 

 

 

被告会社において,通勤手当は,

労働者の通勤のための交通費を補填するものである

という性質からして,正社員とパート社員との間に,

通勤手当に5千円の格差を生じさせることは不合理であるとして,

労働契約法20条違反が認められ,

原告らが主張した毎月の通勤手当5千円の差額分

の損害賠償請求が認められました。

 

 

正社員も非正規雇用労働者も等しく会社に通勤しており,

一般的に通勤手当とは,通勤にかかる交通費の補填

という性質があることから,正社員と非正規雇用労働者との間に,

通勤手当について格差があると,

労働契約法20条違反が認められやすいです。

 

 

実際に,労働契約法20条違反が争われた

最近の裁判例をみてみると,通勤手当については,

労働者の主張が認められています。

 

 

さらに,先日成立した働き方改革関連法の中の

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律

9条において,非正規雇用労働者であることを理由として,

基本給,賞与その他の待遇について,

差別的取扱をしてはならないと改正されました。

 

 

今後は,この条文を根拠に,非正規雇用労働者は,

正社員との待遇の格差の是正を求めやすくなります。

 

 

非正規雇用労働者が通勤手当の格差に

疑問をいだいたのであれば,

専門家に相談することをおすすめします。

定年退職後に30~40%も賃金が減額されても合法なのか?

正社員と非正規雇用労働者との労働条件の格差が,

労働契約法20条に違反するかが争われている

事件が増えています。

 

 

労働契約法20条では,

正社員と非正規雇用の労働者の労働条件の違いが,

「労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度,

当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して」,

不合理であってはならないと定められています。

 

 

 

 

 

仕事内容が同じなのに,正社員ではないというだけで,

非正規雇用労働者の賃金が低いのはおかしいと考える

非正規雇用労働者が増えているのかもしれません。

 

 

本日は,定年後再雇用された労働者が,

定年前の賃金から30~40%ほど減額されたことについて,

労働契約法20条に違反しているとして,

定年前との差額賃金を請求した学究社事件

(東京地裁立川支部平成30年1月29日判決・

労働判例1176号・5頁)を紹介します。

 

 

原告の労働者は,被告が経営している進学塾の

正社員の講師をしていて,定年退職しました。

 

 

 

原告が定年退職した後,被告との間で,再雇用契約について,

労働条件の交渉が行われましたが,

被告から定年退職後の賃金が定年退職前の賃金の

30~40%削減された額になるとの労働条件を提示されて,

原告は,再雇用契約書にサインをしませんでしたが,

再雇用後の労働の対価として,定年退職前の賃金から

30~40%削減された金額が支給されていました。

 

 

原告は,定年退職の前後で,

仕事内容が変わっていないのに,

賃金が30~40%減額されたことが不合理であるとして,

労働契約法20条違反を訴えましたが,

判決では,労働契約法20条違反は認められませんでした。

 

 

労働契約法20条違反が認められるためには,

定年退職の前と後の仕事内容や責任がほぼ同じ

であることが前提になります。

 

 

本件では,原告の定年退職の前と後の仕事内容や

責任が異なると判断されたのです。

 

 

具体的には,原告は,定年退職前には,授業以外にも,

生徒・保護者への対応や研修が義務付けられていたのに対して,

定年退職後には,基本的には授業のみを行い,

生徒・保護者への対応は上司からの指示がある

例外的な場合に限られていました。

 

 

そのため,定年退職の前後で,

仕事の内容や責任の程度に差があり,また,

定年退職後に賃金が下がることは一般的に

どの会社でも実施されていることでもあり,

不合理ではないとして,労働契約法20条違反

ではないと判断されました。

 

 

とはいえ,定年退職後に賃金が30~40%も

減額されたのでは,労働者のモチベーションが下がりますし,

なかなか納得いかないはずです。

 

 

定年退職後に大幅な賃金減額がされるケースでは,

どこまでの減額幅なら許容されるのかが,

まだまだ不明ですので,今後の労働契約法20条

に関する裁判例の動向をチェックしていく必要があります。

アルバイト職員と正社員の賃金格差は不合理か?

今年の6月1日に,ハマキョウレックス事件

と長沢運輸事件の最高裁判決があり,

労働契約法20条が注目されています。

 

 

今日は,アルバイト職員と正社員の労働条件

の違いが労働契約法20条に違反するかが争われた,

学校法人大阪医科薬科大学事件

(大阪地裁平成30年1月24日判決・労働判例1175号5頁)

を紹介します。

 

 

大阪医科薬科大学の事務職員は,

正職員,契約職員,アルバイト職員,嘱託職員

の4種類に分かれており,

正職員には,雇用期間の定めがありませんが,

契約職員,アルバイト職員,嘱託職員には,

雇用期間の定めがあり,雇用期間が満了すれば,

職を失う可能性がある不安定な立場にあります。

 

 

アルバイト職員である原告の時給は950円で,

フルタイムで換算すると月額15万円から16万円の範囲となります。

 

 

 

他方,正社員の初任給は19万2570円です。

 

 

アルバイト職員と正社員の間には,

約2割程度の賃金水準の違いがあります。

 

 

さらに,正社員には,賞与が支給されていますが,

アルバイト職員には,賞与が支給されていません。

 

 

その結果,賞与を含めた年間の給与の総支給額

を比較すると,原告の給与は,新規正職員の

約55%程度の水準になっていました。

 

 

そこで,原告は,正職員との賃金格差が

労働契約法20条に違反すると主張して,

裁判をおこしました。

 

 

 

労働契約法20条は,

仕事の内容や責任の程度などを考慮して,

正職員と非正規雇用労働者との労働条件の違いが

不合理であってはならないと規定されています。

 

 

本件においては,大阪医科薬科大学の正職員は,

学校法人全体に影響を及ぼすような

重要な施策の事務を行うことがあり,

責任も重いものがあり,別の部署への異動もありました。

 

 

他方,アルバイト職員は,

書類のコピーやパソコンへの登録といった

定型的な事務が多く,他の部署へ異動することは

基本的にありませんでした。

 

 

さらに,学校法人内部の登用試験に合格すれば,

アルバイト職員から正職員になることも可能でした。

 

 

これらの事情を考慮すると,

アルバイト職員の原告の給与が新規採用の正職員の

給与の約55%の水準であっても,この給与の違いは,

不合理とはいえないと判断されて,原告が敗訴しました。

 

 

ざっくりと言ってしまえば,

正職員とアルバイト職員とでは,

仕事内容や異動範囲が違うので,

賃金に約55%程度の格差があっても問題ないとされたのです。

 

 

個人的には,どこまで仕事内容が違っているのか

微妙なところもありますので,賃金格差が55%も

開いてしまっているのであれば,是正される余地が

あるのではないかと思います。

 

 

また,大阪医科薬科大学の正職員は,

附属病院を受信した場合,医療費が

月額4000円を上限に補助されていましたが,

アルバイト職員には,医療費の補助はありませんでした。

 

 

この医療費の補助については,

学校法人に広い裁量が認められているので,

正職員にだけ医療費の補助をして,

アルバイト職員に医療費の補助をしなくても

不合理ではないと判断されました。

 

 

しかし,この医療費の補助については,

正社員だけを特別に優遇する必要性が

どこまであるのか疑問ですので,

不合理な格差に該当すると考えます。

 

 

給与や賞与の格差を争う対応の事件では

労働者に不利な判決がだされていますが,

ハマキョウレックス事件のように手当を争う事件であれば,

手当の内容などが慎重に審査されて,

労働者に有利な判決がだされる傾向にあります。

 

 

今後,労働契約法20条をめぐる裁判

が増えていくので,裁判の流れに注目していきます。

定年退職後に再雇用された労働者の賃金格差は不合理なのか?

6月1日にあった重要な2つの最高裁判決のうちの

1つである長沢運輸事件について説明します。

 

 

昨日紹介したハマキョウレックス事件の原告らは,

定年退職するの非正規雇用の労働者でしたが,

長沢運輸事件の原告らは,

定年退職に再雇用された非正規雇用の労働者でした。

 

 

長沢運輸では,定年退職後に再雇用された非正規雇用の労働者を

嘱託社員と呼んでおり,嘱託社員の年収は定年退職前の79%程度となります。

 

 

 

正社員と嘱託社員との間に,

仕事の内容や責任の程度に違いはありませんでした。

 

 

また,ハマキョウレックスとは異なり,

長沢運輸では,嘱託社員であっても転勤の可能性がありました。

 

 

そこで,長沢運輸の嘱託社員らは,正社員には支給されている

能率給,職務給,精勤手当,住宅手当,家族手当,役付手当,賞与が,

嘱託社員に支給されないのは,不合理であるとして,

労働契約法20条に違反していると主張しました。

 

 

労働契約法20条では,正社員と非正規雇用の労働者の労働条件の違いが,

「労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度,

当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して」,

不合理であってはならないと定められています。

 

 

長沢運輸事件の最高裁判決では,

その他の事情」に,

非正規雇用の労働者が定年退職後に再雇用された者である

という事情が考慮されると判断されました。

 

 

どういうことかといいますと,

定年退職後に再雇用された労働者は,

長期間雇用されることは前提となっておらず,

定年退職するまでの間に賃金の支給を受けており,

一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けれることを考慮すれば,

正社員との賃金に差があったとしても,

割と寛大にみてもらえることになります。

 

 

嘱託社員は,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けられますし,

老齢厚生年金の支給が開始されるまでの間,

2万円の調整給が支給されていることから,

能率給,職務給,住宅手当,家族手当,賞与については,

正社員にのみ支給されて,嘱託社員に支給されなくても

不合理ではないと判断されました。

 

 

他方,精勤手当については,

従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤する

ことを奨励するために支給されるものであり,

正社員と嘱託社員との間に皆勤を奨励する必要性に違いはないので,

精勤手当を正社員にのみ支給し,

嘱託社員に支給しないことは不合理であると判断されました。

 

 

手当の実質的な中身が慎重に吟味されていますが,

役付手当がなぜ不合理ではないのかが,

判決文を読んでいて腑に落ちませんでした。

 

 

定年退職後に再雇用された労働者の場合,

正社員との労働条件の差について不合理とはいいにくくなりましたが,

賃金の格差が大きく拡大していたり,

手当の支給の有無の説明がよくわからない場合には,

定年退職後に再雇用された労働者であっても,

労働契約法20条違反が認められる余地があると考えます。

 

 

いずれにせよ,ハマキョウレックス事件と

長沢運輸事件の最高裁判決は,

企業の賃金体系に多大な影響を与えます。

非正規雇用の待遇差が不合理になる場合

6月1日に最高裁で,非正規雇用の労働条件についての

重要な判決が2件あったので,報告します。

 

 

ハマキョウレックス事件と長沢運輸事件です。

 

 

2つの事件とも,非正規雇用の運転手が,

正社員に支給されている手当が,

非正規雇用の労働者に支給されていないのは「不合理」であると主張して,

正社員に支給されている手当分の請求をしました。

 

 

 

労働契約法20条では,

正社員と非正規雇用の労働者の労働条件の違いが,

「労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度,

当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して」,

不合理であってはならないと定められています。

 

 

2つの事件とも,裁判をおこした原告らは運転手であり,

正社員であっても,非正規雇用の労働者であっても,

おこなっている仕事の内容は変わりません。

 

 

そこで,原告らは,仕事内容が変わらないのに,

ある手当が正社員にだけ支給されて,

非正規雇用の労働者には支給されないのは,

不合理であるとして,

労働契約法20条に違反すると主張したのです。

 

 

ハマキョウレックス事件では,

住宅手当については不合理ではないと判断されましたが,

住宅手当以外の手当については不合理であると判断されて,

原告らの主張が認められました。

 

 

ハマキョウレックスでは,正社員には,

全国規模の広域異動の可能性がありますが,

非正規雇用の労働者には,転勤がありません。

 

 

正社員は,転勤が予定されているので,

非正規雇用の労働者と比較して住宅に要する費用が多額になるので,

正社員にのみ住宅手当が支給されて,

非正規雇用の労働者に住宅手当が支給されなくても不合理ではないと判断されました。

 

 

他方,

①実際に出勤する運転手を一定数確保することを目的として支給される皆勤手当,

②優良ドライバーの育成などを目的として支給される無事故手当,

③支給対象となる特殊な作業の内容が具体的に定まっていない作業手当,

④従業員の食事にかかる補助として支給される給食手当

については,正社員のみに支給されて,非正規雇用の労働者に

支給されないことは不合理であると判断されました。

 

 

手当がどのような意図で支給されているのか,

手当の実質的な中身は何なのか

を厳密に分析していくことが重要になります。

 

 

漫然と,正社員にだけ支給されていて,

非正規雇用の労働者に支給されていない手当があれば,

不合理と判断される可能性があります。

 

 

非正規雇用の労働者は,

正社員には支給されているけど,

非正規雇用の労働者に支給されていない手当があれば,

その手当についての説明が,

就業規則や賃金規定にどのように記載されているのかをチェックしてみましょう。

 

 

就業規則や賃金規定を読んでも,

その手当が,正社員には支給されているけど,

非正規雇用の労働者に支給されていない理由がよくわからない場合は,

労働契約法20条違反を疑ってみるべきです。

日本郵便事件その2

平成29年9月15日のブログで,日本郵便事件・東京地裁平成29年9月14日判決について記載しましたが,労働判例1164号5頁に判決文が掲載されたので補足します。

 

日本郵便事件は,時給制契約社員である原告らが,日本郵便の正社員と同一内容の業務に従事していながら,手当等の労働条件について正社員と差異があることが労働契約法20条に違反するとして争った事件です。

 

まず,原告らと比較すべき正社員はどの正社員かという点が問題になります。日本郵便には,正社員がいくつかに分類されているようで,どの正社員と比較するかによって,労働条件の相違が不合理か否かが変化します。例えば,正社員の中でも全国転勤が予想される正社員と比較すれば,手当に相違があっても,不合理ではないと判断されやすいと思います。一方,正社員の中でも全国転勤がない正社員比較すれば,手当に相違があれば,不合理と判断されやすくなると思います。

 

本件では,原告ら時給制契約社員と労働条件を比較すべき正社員は,担当業務や異動等の範囲が限定されている点で類似する新一般職という正社員とするのが相当であると判断されました。これにより,およそ正社員一般と比較されなかったので,労働条件の相違が不合理であると判断されやすくなったのではないかと思います。

 

その上で,①年末年始手当,②住居手当,③夏期冬期休暇,④病気休暇の相違については,不合理と判断され,外務業務手当,早出勤務手当,祝日給,夜間特別勤務手当,夏期年末手当,郵便外務・内務業務精通手当の相違については,不合理とは認められないと判断されました。

 

特に,これまでの労働契約法20条の裁判では,②住居手当について,不合理ではないと判断されてきましたが,本件では,転居を伴う可能性のある人事異動等が予定されていない新一般職と時給制契約社員との間の住居手当の相違は,時給制契約社員に住居手当が全く支払われていないという点で不合理であると判断されました。比較する正社員が絞り込まれた成果なのではないかと考えています。

 

労働契約法20条の裁判で労働者に有利な判断がされた判決ですので,補足しました。

自動車メーカー大手が無期雇用回避

朝日新聞の報道によれば,トヨタ自動車やホンダといった,自動車メーカーの大手が,有期雇用労働者が,無期労働契約への転換を求める権利を行使できないようにするために雇用ルールを変更したようです。

 

http://www.asahi.com/articles/DA3S13213011.html

 

労働契約法18条1項において,2以上の有期労働契約の通算期間が5年を超えた場合,有期雇用労働者は,会社に対して,無期労働契約への転換の申込ができ,会社は,無期労働契約への転換を拒めないことになっています。

 

しかし,労働契約法18条2項において,2以上の有期労働契約の間に,6ヶ月の空白期間がある場合,以前の有期労働契約の契約期間を5年の通算期間に算入できず,リセットされてしまう結果,有期雇用労働者は,無期労働契約への転換の申込ができなくなり,有期雇用労働者のままとなります。

 

そもそも,非正規雇用は,契約期間満了で雇止めされれば,すぐに失職し,雇用が不安定であることから,有期労働契約の契約期間が長くなった場合,有期労働契約から無期労働契約へ転換して,雇用を安定させることを目的にして,労働契約法18条は立法されました。

 

今回,自動車メーカー大手が,有期労働契約の空白期間を1ヶ月や3ヶ月だったのを6ヶ月に変更して,有期雇用労働者が無期労働契約へ転換できなくしました。労働契約法18条の立法趣旨が没却させられたことになります。

 

空白期間を6ヶ月にする企業が増えれば,有期雇用労働者が無期労働契約に転換できず,雇用が不安定なまま固定されるおそれがあります。他の業界に,空白期間6ヶ月が波及しないことを望みます。