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専門的な職種の労働者は職種限定合意で配置転換命令を争える

昨日,「ドクターX 外科医・大門未知子」

のスペシャルドラマが放映されていました。

 

 

「わたし,失敗しないので」という決めゼリフが

有名な天才外科医のドラマは,人気があるためか,

何年にもわけて放映されています。

 

 

さて,大門未知子は,フリーランスなので,病院との間で,

どのような契約を締結しているのかよくわかりませんが,

通常の場合,医師は,病院との間で労働契約を締結し,

病院から賃金の支払を受けて,

患者の治療という労務の提供を行います。

 

 

医師も病院と労働契約を締結するので,労働契約に基づき,

病院から配置転換を命令されることがあります。

 

 

もっとも,医師の専門性から,

病院の配置転換命令が有効となるのかが

問題となることがあります。

 

 

本日は,外科医に対する配置転換・診療禁止命令の有効性が争われた,

地方独立行政法人岡山市立総合医療センター事件の

広島高裁岡山支部平成31年1月10日決定

(労働判例1201号5頁)を紹介します。

 

 

この事件では,消化器外科部長であった外科医に対する,

がん治療サポートセンター長に任命する配置転換命令と,

外科の一切の診療に関与することを禁止する命令が

有効なのかが争われました。

 

 

配置転換とは,同一企業内における労働者の

職種,職務内容,勤務場所のいずれかを

長期間にわたって変更する企業内人事異動の一つです。

 

 

職種,職務内容,勤務場所は,いずれも労働条件なので,

会社と労働者との労働契約において,

これらを限定する合意がされている場合には,

配置転換命令は,限定された範囲内に制約されます。

 

 

職種を限定した合意をしていた場合,会社は,労働者に対して,

限定している職種以外の職種への配置転換命令をだせないのです。

 

 

この職種限定合意については,専門業務をしている

労働者には認められやすい傾向があります。

 

 

本件事件では,外科医と病院との間に,

職種を外科医に限定する明示の合意はありませんでした。

 

 

しかし,外科医は,極めて専門的で

高度の技能・技術・資格を要するものであり,

長年にわたり特定の職務に従事することが必要で,

熟練度や経験が仕事を進めていくうえで重要になります。

 

 

 

そのため,技能・技術・資格を維持するために,

外科医としての臨床に従事することは必要不可欠であり,

その意に反して外科医としての臨床に従事しないという

労務形態は想定できないとして,

黙示の職種限定合意があったとしました。

 

 

そして,医師の同意なく,専門とする診療科での診療を禁止することは,

医師としての高度の技能・技術・資格を一方的に奪うことになるから,

本件の配置転換命令と診療禁止命令は無効と判断されました。

 

 

さらに,本件事件では,民事保全という裁判手続がとられており,

民事保全では,保全の必要性という要件が必要になります。

 

 

本件の配置転換命令と診療禁止命令によって,

外科医としての技能・技術の質を低下させられ,

専門医の資格を失うことにより,

外科医としての専門性が失われるという不利益が大きいことから,

保全の必要性が認められました。

 

 

このように,専門性のある仕事をしている労働者の場合,

黙示の職種限定合意があったとして,

配置転換命令を争う可能性があるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

配転命令でキャリア形成が阻害される場合の対処法

昨日は,労働者の著しい生活上の不利益を理由に,

配転命令が権利の濫用として無効になる

場合があることを説明しました。

 

 

 

 

本日は,労働者の著しい職業上の不利益を理由に,

配転命令が権利の濫用として無効になる

場合があることについて解説します。

 

 

専門的な知識を身に着けた労働者を,

その専門的な知識を全く活かせない部署に配転した場合に,

労働者のキャリア形成上の不利益が,

労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

に該当するかが問題となるのです。

 

 

 

 

労働者が専門職としてキャリアを形成していくことが,

配転によって阻害されると,労働者は,専門知識を磨いて

キャリアをアップすることができないという

不利益を被ってしまいますので,問題となります。

 

 

この点について判断がされたエルメスジャポン事件を紹介します

(東京地裁平成22年2月8日判決・労働判例1003号84頁)。

 

 

この事件では,被告会社の本社の情報システム部で働いていた労働者が,

銀座店の倉庫係に配転されたことが問題となりました。

 

 

この事件の原告労働者は,8年間,ITプロジェクトに

システムエンジニアまたはプロジェクトリーダーとして

携わってきたという経歴を有し,被告会社には,

情報技術に関する経歴と能力が見込まれて,

情報システム専門職に就くべき者として中途採用され,

実際に,約5年半の間,情報システム部に所属し,

情報システム関連の仕事をしていました。

 

 

 

 

これらの事実から,原告労働者が,被告会社において

情報システム専門職としてのキャリアを

形成していくことができるという期待は,合理的で,

法的保護に値するものであり,原告労働者の

このような期待に対して相応の配慮が求められると判断されました。

 

 

他方,原告労働者が配転された先の銀座店の倉庫係の仕事は,

在庫管理がメインであり,原告労働者が有している

情報技術や経験を活かすことができるものではなく,

むしろ労務的な側面をかなり有するものでした。

 

 

そのため,裁判所は,本件配転命令は,

業務上の必要性が高くないにもかかわらず,

情報システム専門職としてのキャリアを形成していくという

原告労働者の期待に配慮せず,原告労働者の理解を求めるなどの

実質的な手続を行わないまま,漫然と,

原告労働者の技術と経験をおよそ活かすことのできない

倉庫係に配転したものであり,権利の濫用として,

無効であると判断されました。

 

 

専門的な仕事の場合,労働契約に,

職種を限定する合意があることがあれば,

限定された職種以外に配転されることはありません。

 

 

もっとも,職種を限定する合意があったとは

認定されない場合があり,そのようなときには,

ある程度職種を特定して採用されたなど,

労働者のキャリアに相応の配慮をする必要があれば,

キャリア形成上の不利益が,

労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

と認められて,配転命令が無効になる可能性があります。

 

 

 

 

そのため,専門的な仕事をしている労働者が,

別の仕事に配転する命令を受けたものの,

今の専門的な仕事を継続したい場合,

労働契約に職種を限定する合意があるか,または,

会社が労働者のキャリアに相応の配慮をする必要があるかを検討するべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

客室乗務員の配転命令事件

フィンランド航空は,名古屋ベースを廃止することから,

名古屋ベースで勤務している客室乗務員に対して,

成田ベースへ配転する命令をしました。

 

 

 

 

名古屋ベースで勤務している客室乗務員は,東海地方において,

自宅で育児や介護をしている関係で,

成田に単身赴任をするのが困難であり,

片道約4時間かけて成田に通勤することを余儀なくされました。

 

 

この名古屋から成田への配転命令が違法無効であるとして,

客室乗務員が裁判を起こしたのです。

 

 

https://www.bengo4.com/c_5/n_9274/

 

 

このように,遠い勤務地への配転は,

育児や介護を抱える労働者にとって,過酷となります。

 

 

それでは,育児や介護を根拠に,配転命令が

違法無効となるのはどのような場合なのでしょうか。

 

 

本日は,会社の配転命令が違法となり,

慰謝料請求が認められたNTT西日本(大阪・名古屋配転)事件

を紹介します(大阪高裁平成21年1月15日判決・

労働判例977号5頁)。

 

 

この事件は,大阪支店から名古屋支店への配転命令が争われ,

配転命令に関して,様々な争点について,検討されていますが,

労働者の生活上の不利益の部分について,みていきます。

 

 

配転命令は,配転命令を受けた労働者に,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じる場合には,

権利の濫用として無効と判断されます。

 

 

そして,育児介護休業法26条では,会社が労働者に対して,

配転命令をする場合,子供の養育,家族の介護の状況に

配慮しなければならないと定められているので,

労働者の育児や介護の状況が,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

を検討する際に考慮されるのです。

 

 

NTT西日本の事件では,複数の労働者について,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が認められました。

 

 

具体的には,①実父が介護を必要とする状況にあり,

実母についても頻繁に世話をすることが必要な状況にあったが,

家族の中には,原告労働者以外に介護を行う余力がある者が

いなかったこと,②肺がん手術後で,再発の可能性のある妻を抱えており,

新幹線通勤が認められても,妻の見舞いに大きな制約があったこと,

③妻の両親の介護について,妻を補助し,

自らも介護を手伝う必要があったこと,

などの事情が考慮されて,慰謝料請求が認められました。

 

 

 

 

このように,裁判所は,家族が病気を抱えていたり,

要介護度が重い家族の介護をしている場合に,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

を認めてくれる傾向にあります。

 

 

もっとも,共働き世帯で,健康な子供の面倒をみているという

事情だけで,通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を

認めてくれるのかは,今のところ,よくわかりません。

 

 

ただ,子供をもって思うのは,育児とは

本当に大変であるということです。

 

 

小さい子供は,大人の言うことを聞かずに,

好きなことをするので,目がはなせず,

子供といるときは,何もできません。

 

 

実家の親が遠くに住んでいて,夫婦だけで

子供を育てなければならない共働き世帯では,

片方の親が遠くに配転されると,育児が大変になります。

 

 

 

 

そうなると,片方の親が一旦仕事を辞めるや,

子供を生むのをあきらめるなどの悪循環に陥ります。

 

 

そのため,仕事と家庭を両立するために,

育児介護休業法26条の趣旨から,

育児の困難さを考慮して,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益について,

検討してもらいたいものです。

 

 

フィンランド航空の配転命令事件の裁判において,

育児や介護の困難な状況が考慮されて,

労働者に有利な判断がされることを願っています。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

転籍の対処法

人事異動の一つに転籍というものがあります。

 

 

転籍とは,会社と労働者との間の現在の労働契約関係を終了させて,

新たに他の会社との労働契約関係を成立させ,

労働者がその他の会社の業務に従事する人事異動のことです。

 

 

 

 

関連小会社が複数ある企業や,外郭団体が複数ある

中央官庁や地方公共団体で,転籍が行われることがあります。

 

 

それでは,労働者は,転籍に応じたくない場合には,

どのように対処すればいいのでしょうか。

 

 

本日は,転籍が争われた大阪地裁平成30年3月7日判決

を紹介します(判例時報2384号112頁)。

 

 

この事件は,もともとは厚生労働省の一部局であった

国立研究開発法人に勤務していた労働者が,

別の独立行政法人への人事異動を命じられたのですが,

この労働者は,妻が重篤な精神疾患にかかっていることから,

人事異動に応じなかったところ,懲戒解雇されたというものです。

 

 

 

 

まずは,本件事件の人事異動が,

転籍にあたるか否かが争われました。

 

 

転籍になれば,労働者の個別の同意が必要になり

(民法625条1項参照),就業規則の転籍条項を根拠に

転籍を命令することができないため,そもそも,

当該人事異動が転籍なのかが争点となったのです。

 

 

本件事件では,異動元の退職手続と

異動先の採用手続がとられており,

人事異動後においては異動先の就業規則が適用され,

懲戒権も異動先が持ち,異動した職員が異動元に対し,

何らかの権利を有することは認められておらず,

異動元に復帰できるかはその時々の人事異動の結果に

よらざるをえないことから,本件の人事異動は,

実質的にみて転籍であると判断されました。

 

 

さらに,原告労働者の妻は,本件人事異動を聞いて

パニック状態となり,自殺未遂を起こすまでの状況となっており,

原告労働者は,不当な目的で人事異動を

拒否しているわけではないこと,本件人事異動は,

ジョブローテーションの一環として定期的に行われるものであり,

原告労働者を異動させることに高度な必要性はなかったことから,

本件転籍は,権利の濫用にあたると判断されました。

 

 

その結果,原告労働者に対する懲戒解雇は無効となりました。

 

 

転籍になっとくできない場合,

転籍には労働者の個別同意が必要なので,

同意しなければいいのです。

 

 

 

 

転籍に同意しないことを理由に解雇されたとしても,

その解雇は無効になることがほとんどです。

 

 

また,仮に転籍に同意してしまったとしても,

家族が病気であり,それに対応できなくなるといった事情があれば,

転籍命令が権利の濫用として無効になる可能性もあります。

 

 

転籍になっとくできない場合には,

これらの対処法がありますので,

早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

家族の病気や介護を理由に配転命令を拒否できるのか?

本日も昨日に引き続き,家庭生活上の不利益を理由に

配転命令を拒否できるかという論点に関連して,

ネスレジャパンホールディングス事件を紹介します

(神戸地裁姫路支部平成17年5月9日判決・労働判例895号5頁)。

 

 

姫路工場のギフトボックス係が廃止されることになり,

そこで働いていた労働者は,霞ヶ浦工場へ転勤するか,

やむを得ない事由で応じられない場合には

退職してもらうことになりました。

 

 

 

 

会社は,時として,労働者に対して,

非情な決断を迫ってくることがあるのです。

 

 

原告の1人の労働者は,妻が非定型精神病に罹患しており,

妻が援助を必要していることを理由に配転命令を拒否しました。

 

 

もう1人の原告の労働者は,単身赴任になれば,

母親の介護ができなくなり,妻の負担が大きくなること

を理由に配転命令を拒否しました。

 

 

 

 

配転命令が権利の濫用にあたれば,

労働者は,配転命令を拒否できます。

 

 

配転命令が権利の濫用にあたるかは,

①配転をする業務上の必要性があるか,

②不当な動機・目的があるか,

③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか,

という3つの要件にあてはめて決定されます。

 

 

まずは,会社がその生産,販売体制を

より効率的なものに変更することは,

会社の経営権の範囲であり,会社の一部署を廃止し,

その部署の労働者を配置転換することには,

①業務上の必要性があると判断されました。

 

 

次に,私企業が利潤追求の観点から労働者の配置転換をすることは,

②不当な動機・目的があることにはならないと判断されました。

 

 

そして,1人の原告の労働者については,

妻が非定型精神病に罹患して,

単身で生活することが困難で,

治療や生活のために,

原告労働者の肉体的精神的援助が必要となり,

原告労働者が単身赴任すれば,

妻の病状が悪化する可能性があると判断されました。

 

 

もう1人の原告の労働者については,

妻と共に母の介護を担当しなければならず,

原告労働者が単身赴任となれば,

妻1人では母の介護が困難になり,

母の症状が悪化する可能性があると判断されました。

 

 

その結果,③労働者が配転によって受ける不利益が

通常甘受すべき程度を超えていると判断されて,

本件の配転命令は権利の濫用にあたり,無効とされました。

 

 

この裁判例で注目すべきなのは,

③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか

の要件を検討するに際して,

育児介護休業法26条の配慮義務について,

次のように判断した点です。

 

 

すなわち,配転によって子の養育または

家族の介護が困難な労働者に対しては,

配転を避けることができるのであれば避け,

避けられない場合には,

より負担が軽減される措置をするようにしなければならず,

その会社の配慮の有無や程度が,

配転命令が権利の濫用になるかの判断に影響を与えるということです。

 

 

家族に病気があったり,介護が必要な場合には,おそらく,

③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益がある

と判断される可能性は高いといえそうです。

 

 

 

 

他方,家族に病気がなく,介護も必要ない場合,

すなわち,共働き世帯で子供が小さいという理由で

配転命令を拒否できるかは,正直なところ,不透明です。

 

 

育児介護休業法26条の労働者に対する配慮義務と,

労働契約法3条3項の仕事と生活の調和の配慮義務,

さらに,昨今の働き方改革と女性の社会進出などから,

今後は,共働き世帯で子供が小さいという理由で

配転命令を拒否できる可能性がでてくるかもしれません。

 

 

今後の裁判例の動向を注目していきたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

連続転勤ドラマ「辞令は突然に・・・」から配転命令の要件を考える

私は,仕事柄,出張が多いので,

各地のご当地グルメが紹介される

「秘密のケンミンSHOW」が好きです。

 

 

秘密のケンミンSHOWで紹介される

ご当地グルメをメモしておき,出張のときに,

そのご当地グルメを堪能するのが,出張の楽しみになります。

 

 

この秘密のケンミンSHOWでは,

連続転勤ドラマ「辞令は突然に・・・」というコーナーがあり,

東京一郎というサラリーマンが毎回,

不条理にも全国各地へ転勤させられるというドラマです。

 

 

ドラマなので,毎回全国各地へ転勤させられても

笑って見ていられますが,あのような転勤が本当に行われたら,

労働者が退職していくか,裁判を起こされるか,どちらかとなるでしょう。

 

 

仮に,東京一郎が連続転勤を不服として裁判を起こせば,

あれだけ頻繁に全国転勤をさせる業務上の必要性がないとして,

連続転勤は権利の濫用として無効と

判断される可能性があると考えられます。

 

 

では,労働者はどのような場合に転勤

(労働法の世界では,配転と言われます)を断れるのでしょうか。

 

 

まずは,就業規則に配転の条項がなかったり,

労働契約において勤務地を限定する特約があれば,

労働者は,配転を拒否できる可能性があります

 

 

次に,配転命令が権利の濫用となれば,

労働者は,配転を拒否できます。

 

 

配転命令が権利の濫用の濫用となるかは,

①配転の業務上の必要性があるか,

②不当な動機や目的があるか,

③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか,

という3つの要件を検討して決められます。

 

 

通常の配転命令では,

①業務上の必要性があることが多く,

②不当な動機や目的がないことが多く,

③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか,

という要件が実質的な争点となります。

 

 

特に,共働き世帯が増えてきたことで,

配偶者も働いており,子供がまだ小さいことを理由に,

配転命令を拒否できるかが争われやすいです。

 

 

この点について争われたのが明治図書出版事件です

(東京地裁平成14年12月27日決定・労働判例861号69頁)。

 

 

この事件で東京支社から大阪支社へ転勤を命じられた労働者には,

3歳の長男と6ヶ月の長女がおり,

2人の子供がアトピー性皮膚炎にかかっていました。

 

 

特に,6ヶ月の長女のアトピー性皮膚炎が重症で,

顔をはじめ身体全体に出ており,かゆくてかいては出血し,

リンパ液が出てかさぶたになり,またかいての繰り返しが続いており,

長女がかかないように親が注意している必要がありました。

 

 

また,労働者の妻は,正社員で,

外国人顧客の旅行のコーディネートの業務をしており,

1ヶ月に1~2度は泊まりの出張がありました。

 

 

このような育児負担の重い労働者の状況からすると,

労働者かその妻の一方が仕事を辞めることでしか

回避できない不利益は通常の不利益ではないと判断されました。

 

 

また,育児介護休業法26条において,

会社は,子供の養育状況に配慮しなければならない

と規定されており,労働者が配転を拒否しているときは,

真摯に対応しなければならず,

既に配転命令を所与のものとして労働者に

押しつけるような態度を一貫してとる場合は,

配転命令が権利の濫用として無効になると判断されました。

 

 

 

 

結果として,東京支社から大阪支社への転勤は,

権利の濫用として無効となったのです。

 

 

この事件では,子供が重度のアトピー性皮膚炎に

かかっていたことが決定打になったと考えられます。

 

 

共働き世帯の育児負担に配慮した判決内容となっていますが,

子供に病気がなく,共働き世帯で子供がまだ小さいということだけで,

転勤を拒否できるのかは,それを否定した裁判例もあるので,

今後の裁判例の動向をチェックしていく必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

配転命令に対する対処の仕方(労働審判前の措置の申立)

会社に対して,未払残業代を請求したところ,

社長が激怒し,遠くの勤務地へ配転させられてしまいました。

 

 

 

 

労働者としては,このような報復人事には当然納得できません。

 

 

とはいえ,会社の配転命令は業務命令ですので,

配転命令に従わなければ,業務命令違反として,

懲戒処分をされてしまうリスクがあります。

 

 

このように,納得のいかない配転命令を受けた場合に,

労働者は,どのように対処すればいいのでしょうか。

 

 

本日は,配転命令に対する対処の仕方について説明します。

 

 

まずは,就業規則に配転命令の根拠規定があるかをチェックします。

 

 

 

 

就業規則に「会社は業務上の必要がある場合,

配置転換を命じることができる」などの

配転命令の根拠規定がなければ,それだけで,

配転命令が無効になる可能性があります。

 

 

次に,労働契約において勤務地限定特約があるかをチェックします。

 

 

労働契約において,例えば,

勤務地が石川県に限定されているのであれば,

会社の配転命令は石川県に限定されるので,

石川県以外の都道府県への配転命令は無効になります。

 

 

そして,配転命令が権利の濫用にあたるかをチェックします。

 

 

具体的には,①人員配置の変更を行う業務上の必要性があるのか,

②不当な動機や目的があるのか,

③労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じるか否か,

という要件を検討します。

 

 

以上をチェックして,配転命令が無効になる可能性があれば,

会社に対して,配転命令を出さないことや撤回を求めます。

 

 

それでも,会社が配転命令を強行してきそうな場合,

労働審判を申し立てた上で,労働審判法29条,民事調停法12条

に基づき,審判前の措置を求める方法があります。

 

 

 

 

労働審判前の措置を求める申立とは,

労働審判のために特に必要であると認めるときに,

当事者の申立てにより,労働審判前の措置として,

「現状の変更の排除を命じることができる」との措置のことです。

 

 

例えば,営業部から総務部への配転を争う場合,

裁判所は,「相手方は,労働審判事件の終了に至るまで,

申立人を相手方の営業部に配属する旨の配転命令を留保し,

従前通り申立人を総務部で勤務させなければならない。」

という措置命令を出してくれることがあります。

 

 

会社がこの措置命令に従わない場合,

10万円以下の過料の制裁があります(労働審判法32条)。

 

 

裁判所の命令に従わない会社はほとんどないので,

このような措置命令が出れば,配転命令が留保されて,

労働者は,労働審判手続の間は,

以前の職場で働き続けることができ,

労働審判手続で配転命令の有効性について争うことができるのです。

 

 

労働審判前の措置という手段は,

配転命令を争う方法としては,

有効性の高い手段といえそうです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

就業規則に配転命令の根拠規定がない場合,配転命令を拒否できるのか?

池井戸潤氏の半沢直樹シリーズの小説

「オレたちバブル入行組」,

「オレたち花のバブル組」,

「ロスジェネの逆襲」を読むと,

サラリーマンは,辞令という紙切れ一枚で,

配転や出向を命じられ,それに従わざるをえない

理不尽さが痛切に記載されています。

 

 

 

会社が,労働者に人事異動を命じることができるのは,

就業規則に人事異動に関する規定が定められており,

その人事異動の規定が労働契約の内容となっているからなのです。

 

 

通常,会社の就業規則には「業務上の都合により

出張,配置転換,転勤を命ずることがある」という規定があり,

この規定を根拠として配転命令がくだされるのです。

 

 

それでは,就業規則に配転に関する規定がない場合,

会社は,労働者に対して配転を命じることができるのでしょうか。

 

 

本日は,この点が争われた学校法人大手門学院(大手門学院大学)事件

を紹介します(大阪地裁平成27年11月18日判決・

労働判例1134号33頁)。

 

 

この事件では,学長を辞任した大学教授が,

以前の大学の学部の教授から

被告の学校法人の教育研究所へ配転させられました。

 

 

もともと,被告の学校法人の就業規則には,

大学教授についての配転に関する規定が存在せず,

原告が配転させられるころに,就業規則の服務規律の章に

「業務上の都合により,職務の変更を命ぜられた場合は,

旧職務を引き継いだ上,新職務に専念する」

という規定が新設されました。

 

 

裁判では,この規定が配転命令権の根拠となるのかが争われました。

 

 

裁判所は,この規定について,

職務の変更を命ぜられる原因となる事由について

何も記載されていないこと,

この規定が人事の章ではなく,

服務規律の章に定められていることから,

この規定は,職務変更がなされた後の服務規律に関する規定であり,

配転命令権の根拠になるものではないと判断しました。

 

 

また,被告は,本件配転は,労働契約に内在する

人事権を行使して行ったものであると主張しました。

 

 

 

 

しかし,裁判所は,配転命令権は労働契約により

その範囲が画されており,配転命令権の根拠となる

具体的な規定がないことから,被告は,

原告の同意をえることなく,

配転を命じることはできないとしました。

 

 

裁判所が,就業規則に配転の規定がなくても,

労働契約に内在する人事権を根拠に

配転ができるとしなかったことは重要です。

 

 

これが認められると,会社は労働者に対して,

広い配転命令権をもってしまう危険があり,

会社の配転命令権に一定の歯止めをかける必要があるからです。

 

 

本件事件では,原告が大学教授のという

専門性の高い職種であり,過去に専門の学部以外への

配転が行われていなかったという特殊事情があったものの,

就業規則に配転命令の根拠規定が全くない場合に,

配転が無効になると判断されたことは,

労働者に有利に活用できます。

 

 

労働者は,配転を命令された場合,

まずは,就業規則を確認して,

就業規則に配転命令の根拠規定があるのかを

チェックしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

自治労職員の配転問題

弁護士ドットコムニュースによりますと,

全日本自治団体労働組合(自治労といいます)の

新潟県本部に勤務する男性労働者が,

東京へ転勤を命じられたのは不当配転であるとして,

労働審判を申し立てたようです。

 

 

自治労とは,全国の地方公共団体などの労働組合が

結集された労働組合で,2017年1月時点で

約81万人の組合員が加入しています。

 

 

申立人の男性は,勤務地を新潟に限定することで

入社したにもかかわらず,東京への配転は

無効であると主張しているようです。

 

 

労働者としては,勤務地が限定されているから

入社したにもかかわらず,後から別の勤務地で

働くように命令されても,なかなか納得できません。

 

 

それでは,どのような場合に,労働者は,

勤務地限定の合意があったとして,

配転を拒めるのでしょうか。

 

 

そもそも,配転とは,同一企業内における労働者の

職種,職務内容,勤務場所のいずれかを

長期間にわたって変更する企業内人事異動の一つです。

 

 

 

会社が労働者に対して,配転を命令できるのは,

労働契約や就業規則に配転命令の根拠規定があり,

配転が労働契約の内容になっているからなのです。

 

 

一般的には,就業規則に「業務上の都合により,

出張,配置転換,転勤を命ずることがある」という規定が

設けられていることが多く,このような規定があれば,

会社は,裁量で,労働者に配転を命令することができるのです。

 

 

もっとも,転勤を伴う配転は,

労働者の生活環境が大きく変わり,

労働者の家族にも多大な影響が生じることから,

会社は,無制限に配転を命令できるわけではありません。

 

 

労働契約において,職種や仕事内容,勤務地を

限定する合意がされていれば,会社は,

その合意の範囲を超えて配転を命令することはできません。

 

 

ここで,労働契約を締結するときに,

会社が労働者に交付した労働条件通知書に記載されていた

勤務地が必ずしも勤務地限定の合意になるとは限らないのです。

 

 

労働契約書に勤務地を限定する規定が明確に記載されていたり,

面接の際に,労働者が家族や病気の関係で

他の地域に転勤することはできないことを採用担当者に伝えて,

会社側もこれを了承していた場合に,

勤務地限定の合意が認められるのです。

 

 

 

 

配転命令が争われた裁判例を検討すると,

①労働者に固定された生活の本拠があることが前提とされていること,

②求人票に勤務場所を特定する記載があること,

③同様の配転実績が乏しいこと等が,

勤務地限定の合意を肯定する事情となります。

 

 

逆に,①就業規則の配転条項の適用があること,

②会社において長期的にキャリアを発展させることが予定されていること,

③同様の配転実績があること等は,

勤務地限定の合意を否定する事情となります。

 

 

勤務地限定の合意が否定されたとしても,

配転について,業務上の必要性があったのか,

不当な動機・目的で配転命令がされていないか,

配転によって労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を被るか,

という要件を検討して,配転が有効か否かが判断されます。

 

 

さて,自治労は,労働者の権利と生活を守る

活動をしている団体ですので,今回,

新潟から東京の配転によって,

一人の労働者の権利と生活が不利益を被ろうとしており,

労働審判において,早期に解決されることを願いたいです。

 

 

サラリーマンには,転勤は宿命的なものでありますが,

理不尽な転勤については,争う余地がありますので,

転勤に納得できないときには,

弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

追い出し部屋的な配置転換

 

会社は,時として非情な人事異動を労働者に命じることがあります。

 

 

例えば,これまでバスの運転手として働いていた労働者が,

突然,駅のトイレ掃除の業務に配置転換させられたとします。

 

 

 

 

労働者によっては,バスの仕事がしたくて働いていたのに,

トイレ掃除に配置転換されたのでは,

仕事に対するモチベーションが下がってしまいます。

 

 

このように,労働者に対して,

軽微な仕事をさせることによって,

仕事に対するモチベーションを下げさせて,

退職させるように追い込む手法を

追い出し部屋」といいます。

 

 

本日は,このような追い出し部屋的な手法が

争われた相鉄ホールディングス事件を紹介します

(横浜地裁平成30年4月19日判決・労働判例1185号5頁)。

 

 

この事件では,バス運転手の出向を解除して,

出向元へ復職が命じられたのですが,

出向元での復職命令の内容が,

駅のトイレ掃除等だったため,

出向元への復職命令が権利の濫用にあたるかが争われました。

 

 

 

 

まずは,原告らバス運転手には,

バス運転手の仕事以外の業務を命じられることがないという

職種限定の合意があったかが検討されました。

 

 

原告らの業務が,バス運転手の仕事に限定されていた

という合意が出向元の会社との間でなされていれば,

会社は,原告らに対して,

バス運転手の仕事以外の業務を命じることはできないのです。

 

 

この点については,バス運転手が

高度の専門性を有する職種ではないことなどを理由に,

職種限定の合意は認められませんでした。

 

 

就業規則に,配置転換ができる旨の規定が存在するため,

会社は,原告らをバス運転手の仕事以外の

業務に変更できることになります。

 

 

とはいえ,出向先からの復職命令による配置転換が

権利の濫用に該当すれば,無効になります。

 

 

復職命令が権利の濫用にあたるのは,次のような場合です。

 

 

①業務上の必要性・合理性がない場合

 ②他の不当な動機・目的がある場合

 ③労働者に対して通常甘受すべき程度を

著しく超える不利益を負わせる場合

 

 

本件事件では,①出向元による,

出向補填費が営業利益を上回っており,

出向補填費を削減する必要があったので,

復職命令には,業務上の必要性・合理性があると判断されました。

 

 

また,③原告らをバス運転手から,

トイレ掃除などの業務に変更になった点について,

トイレ掃除などの業務は研修などの空き時間にされたものであり,

期間も最大17日間であり,

再出向までの期間に限定されていたことから,

追い出し部屋的な処遇とは認められませんでした。

 

 

そして,長年バス運転手をしてきた原告らが,

バス運転手の仕事から離れることについて,

仕事が自己実現の手段であることを考慮すれば,

原告らの不利益は主観的には相当大きいものの,

そのような主観的な利益は限定的にしか保護されないとして,

復職命令によって,原告らに著しい

不利益は生じていないと判断されました。

 

 

仕事内容が,労働者にとってやる気を失わせるものであれば,

労働者の不利益はとても大きいのですが,

会社の配置転換が追い出し部屋的な対応と評価されるのは,

会社の対応があからさまに悪質な場合などでないと,

難しいのかもしれません。

 

 

 

 

会社の追い出し部屋的な対応が争われた

珍しい事件ですので,紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。