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パワハラを巡る内紛を理由とする懲戒解雇

先日,ブログで紹介しましたが,パワハラを防止するための法律案

が閣議決定され,今後,会社は,パワハラを防止するための

措置を講じる必要がでてきます。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201903257760.html

 

 

そのため,会社は,労働者からパワハラの相談を受けて,

調査をした結果,パワハラの事実があると判断すれば,

パワハラをした労働者に対して懲戒処分を

科すことを検討することになります。

 

 

しかし,この懲戒処分を適切に科さないと,

懲戒処分を受けた労働者から,懲戒処分の無効を主張されて,

裁判に発展していくこともあります。

 

 

本日は,パワハラを巡る内紛を理由になされた,

幼稚園の園長に対する懲戒解雇の効力が争われた,

学校法人名古屋カトリック学園事件を紹介します

(名古屋地裁岡崎支部平成30年3月13日判決・

労働判例1191号64頁)。

 

 

原告の園長は,ある職員に対して,送迎バスの添乗時に

保護者や園児に不遜な態度をとるなど,

振る舞いや勤務態度を問題視していました。

 

 

 

 

他方,ある職員は,原告の園長に対して,

幼稚園の運営が強引で独善的であるとか,

職員に対する原告の言葉の暴力がひどすぎると感じ,

原告に対して,批判的・反抗的な態度を示して,

原告と対立していました。

 

 

そのような対立状況の中,ある職員は,

幼稚園の経営者に対して,原告の園長から,

「給料泥棒」などの暴言を浴びせられたので,

園長を交代させてほしいという嘆願書を提出しました。

 

 

幼稚園の経営者は,原告を呼び出し,

嘆願書について説明を求め,原告に対して,

事態を収拾するように説得し,原告は,

これに応じて,職員に謝罪しました。

 

 

しかし,その後も原告の振る舞いが変わらないとして,

再度,園長交代の嘆願書が提出され,幼稚園の経営者は,

原告が嘆願書に記載された言動をしたと判断して,

原告を懲戒解雇しました。

 

 

 

 

懲戒解雇の理由は,

①幼稚園又は他の職員の名誉又は信用を傷つけること,

②いたずらに感情に走り,他の者を誹謗したり,排斥すること,

③職務の遂行が越権専断的となること,

に該当するということです。

 

 

裁判所は,①と②の懲戒理由について,被告は,

職員の嘆願書を根拠に,嘆願書記載の原告の言動があった

と判断しましたが,それを裏付ける客観的な証拠がないことから,

たやすく嘆願書記載の原告の言動があったとは認定できないとしました。

 

 

また,③の懲戒理由について,原告が職員に謝罪をして

事態の収拾が図られていたとして,

情状が極めて重いとはいえないとしました。

 

 

その結果,原告には,懲戒解雇に該当する行為をしたとはいえず,

懲戒解雇は無効となりました。

 

 

そして,原告の雇用期間があと2年間残っていたことから,

2年分の未払賃金の請求が認められました。

 

 

他方,原告は,懲戒解雇による精神的苦痛を被ったとして,

慰謝料の損害賠償請求をしていましたが,

裁判所は,解雇が無効であると判断されて,

未払賃金の支払いを受けることができるようになるので,

なお償われない精神的苦痛が残るとは認められないとして,

慰謝料請求は認められませんでした。

 

 

解雇事件において,未払賃金請求と一緒に

慰謝料の損害賠償請求をしても,

なかなか認められないのが現状です。

 

 

本件事件では,被告が,原告の園長のパワハラの有無を,

丁寧に調査せずに,一方当事者の主張のみを理由に

懲戒解雇をしてしまったがゆえに,裁判になって,

懲戒該当理由がなかったと判断されました。

 

 

今後,パワハラを巡る労使紛争が増加していくことが予想されますが,

会社は,パワハラの事実があったかなかったかについては,

入念に調査した上で,懲戒処分をくだしていく必要があります。

 

 

 

 

特に,懲戒解雇をする場合には,より慎重な調査が求められます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

休職と復職を繰り返した労働者に対する解雇事件

最近,新聞をみていますと,がんを宣告されても,

その人の治療にあわせて,無理のない範囲で仕事を

継続させる取り組みがあるようです。

 

 

今後,労働人口が減少していく中で,

病気の人も安心して働ける環境の整備が必要になっていきそうです。

 

 

 

 

さて,本日は,病気で休職していた労働者の解雇が

問題になった裁判例を紹介します。

 

 

本日,紹介するのは,12年間休職と復職を繰り返した

営業社員に対する解雇が争われた三洋電機事件です

(大阪地裁平成30年3月29日判決・労働判例1189号106頁)。

 

 

原告の労働者は,自転車通勤の途上で,

自動車との接触事故により,外傷性頚椎・腰椎ヘルニアの傷害を負い,

休職し,併合10級の後遺障害の認定を受けました。

 

 

その後,復職しましたが,頚椎症,腰椎椎間板ヘルニアや

その他の病気を理由に,3回休職と復職を繰り返し,

12年間のうち,原告の労働者が実際に就労したのは,

約2年11ヶ月でした。

 

 

 

 

そうしたところ,被告会社は,原告の労働者に対して,

身体上の故障のため,業務に堪えられないとして,解雇しました。

 

 

原告の労働者は,仕事が原因で,

腰痛が悪化したことから休業していたのであり,

本件解雇は労働基準法19条に違反すると主張しました。

 

 

労働基準法19条には,仕事が原因で労働者が負傷して,

休業している期間,解雇できないと規定されています。

 

 

ところが,原告の労働者は,ほとんど営業活動を行っておらず,

腰痛による体調悪化を訴えていなかったことから,

腰痛の悪化があったとしても,その原因は仕事ではないと判断され,

労働基準法19条による解雇制限は適用されませんでした。

 

 

また,被告の三洋電機は,パナソニックから,

余剰人員の削減をせまられている状況において,

原告の労働者に対して,就労可能と考えられる業務を提示して,

復職を希望する原告の労働者の意向に

最大限応えるように対応してきました。

 

 

そのため,被告は,原告の労働者に対して,

必要とされる配慮を十分に行っていることから,

本件解雇は有効と判断されました。

 

 

病気による休職と復職が問題になる事案では,

医学的な検討が必要になり,復職させるにしても,

どのような仕事ができるのかなどを慎重に判断する必要があります。

 

 

今後,病気になった労働者にも継続して働ける環境の整備が

求められていくことから,企業もどこまで,

労働者に配慮していかなければならないのか

について検討が続きそうです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

和解や調停の解決金から源泉徴収されてしまうのか?

労働者が解雇されたものの,

解雇に納得がいかない場合,

解雇が無効であるとして,

労働者としての権利を有することの確認と,

未払賃金の請求をすることが多いです。

 

 

 

 

このように争うとき,形式的には

会社に復職することを主張するのですが,

労働者としては,自分を解雇するような

会社に戻りたいとは通常考えないため,

労働審判手続などでは,会社から

いくらかの金銭の支払いを受けて,

労働契約を合意で解約するという

解決がされることが多いです。

 

 

このように,労働契約を合意解約した上で,

会社からいくらかの金銭の支払いを受ける

という調停や和解が成立する場合,会社は,

労働者に対して,解決金という名目で

金銭を支払うことが多いです。

 

 

これは,解雇した日ではなく,

和解や調停が成立した日に労働契約を合意で解約するので,

解雇日から和解や調停が成立した日までの未払賃金とすると,

失業給付の返還や,社会保険をさかのぼって適用するのか

というややこしい問題が生じるので,

和解や調停が成立した日に労働契約を解約して,

会社が労働者に対して,未払賃金ではなく

解決金を支払うことにしているのです。

 

 

 

 

また,解決金には,不当解雇に対する

慰謝料の趣旨も含まれると解することもできます。

 

 

このような性質の解決金について,

会社は,和解や調停で決まった金額を

そのまま支払ってくることがほとんどです。

 

 

しかし,会社が,和解や調停で決まった解決金は

退職所得であるとして,所得税を源泉徴収してきた場合,

労働者は,どのように対処するべきなのでしょうか。

 

 

ややマニアックな論点ですが,

長崎地裁平成30年6月8日判決は,

解決金は退職所得ではないと判断しました。

 

 

和解や調停の条項に解決金と記載された場合の金員については,

当事者には,和解や調停によって裁判手続を終了させるための

支払であるということ以上に,

その金員の性質について認識の一致がなく,

裁判所を含めて,和解や調停の成立のための金員という以上に

その法的性質を判別することはできません。

 

 

解決金は,裁判手続を終了させるために支払われる金員

という以上にその法的性質を確定することは

事実上極めて困難であるため,

退職所得の性質を有するとは認められませんでした。

 

 

この裁判例からは,会社が解決金を源泉徴収義務のある

給与所得や退職所得などと考えたとしても,

労働者がそれを争う限り,会社は,

解決金の中から源泉徴収することはできず,

労働者に対して,解決金の全額を

支払わなければならないことが導かれます。

 

 

 

 

もし,会社が解決金から源泉徴収をして,

解決金全額を支払わなかった場合,

和解や調停が成立しているので,

労働者は,会社が源泉徴収した部分について,

会社が保有する財産を差押えて,

強制的に支払いを求めることができるのです。

 

 

ややマニアックな論点ですが,

解雇の事件が終了するときに問題となることがありますので,

紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

試用期間中の解雇

入社後の一定期間を試用期間や見習期間として,

その間に労働者を評価して本採用するかどうかを

決めることがよくあります。

 

 

 

会社にとっても労働者にとっても,

入社面接をしただけでは,

お互いに合う合わないがわかりませんので,

試用期間中に,お互いをよく知るというのは合理的だと思います。

 

 

ところが,試用期間の途中で突然,

会社から解雇を告げられてしまうと,今後も,

会社で働き続けたいと考えていた労働者としては,

途方に暮れてしまいます。

 

 

本日は,試用期間中の解雇はどのようなときに

認められるのかについて説明します。

 

 

そもそも,労働契約において試用期間が設定される趣旨は,

採用決定の当初ですと,労働者の資質・性格・能力などの

適格性の有無に関連する事項について

資料を十分に収集することができないので,

後日における調査や観察に基づく

最終決定を留保することにあります。

 

 

そのため,会社には,労働契約の解約権が留保されています。

 

 

試用期間の会社の解約権は,本採用後の解雇と比べて

緩やかに判断される可能性があります。

 

 

 

 

もっとも,会社が採用決定後における調査の結果により,

または試用期間中の勤務状況などにより当初知ることができず,

また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合に,

その労働者を引き続き会社で雇用することが適当ではないときに,

会社は,留保されている解約権を行使することができるのです。

 

 

この判断枠組みは,試用期間満了時点での本採用拒否と,

試用期間の途中での解雇とでは,それほど変わらないといわれています。

 

 

裁判例の中には,試用期間の途中の解雇の場合,

残りの試用期間を勤務することによって会社の要求する

水準に達する可能性があったので,

解雇する時期の選択を誤ったとして,

本採用拒否の場合よりも厳格に判断されるとしたものもあります

(医療法人財団健和会事件・

東京地裁平成21年10月15日判決・

労働判例999号54頁)

 

 

まとめますと,試用期間中の解雇は,

本採用拒否の場合よりも厳格に判断される可能性はありますが,

本採用後の解雇と比較すると緩やかに判断される可能性

があるということになります。

 

 

それでも,試用期間中の解雇は,

採用段階では分からなかった労働者の不適格性について,

引き続き会社で雇用することが不適当であると,

客観的に相当である場合にしかできず,

試用期間中の解雇を争うことは十分可能ですので,

解雇に身に覚えがない労働者は,

弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

解雇期間中に別の会社で働いた収入は未払賃金から控除されてしまうのか?

労働者が解雇されている期間に別の会社で働いて得た収入

中間収入といいます)は,解雇が無効と判断されるまでの期間の

未払賃金(バックペイといいます)から控除されてしまうのでしょうか。

 

 

労働者は,解雇されてしまうと,給料がもらえなくなるので,

生活するために収入を確保する必要があるので,別の会社で働きます。

 

 

 

 

もっとも,解雇に納得ができない労働者は,会社に対して,

解雇が無効であるので,労働契約上の地位があることの確認と,

バックペイの支払いを求めて,労働審判または裁判を行います。

 

 

労働者が解雇した会社に対して,お金の支払いを求めたいだけ

であっても,裁判手続では,解雇した会社に戻ることを

建前として主張することになります。

 

 

解雇した会社に戻ることを建前として主張しているのに,

別の会社で働いていることは一見すると矛盾していますが,

労働者としては,生活していかなければなりませんので,

解雇した会社に戻ると主張して裁判で争っていても,

別の会社で働くことは問題ありません。

 

 

さて,解雇を争う事件ですと,会社から,

解雇期間中に労働者が得た中間収入をバックペイから

控除するべきだという主張がされることが多いです。

 

 

 

 

本日は,バックペイから中間収入を控除できるのかについて解説します。

 

 

現行民法536条2項には次のように規定されています。

 

 

「債権者の責めに帰すべき事由によって

債務を履行することができなくなったときは,

債務者は,反対給付を受ける権利を失わない。

この場合において,自己の債務を免れたことによって

利益を得たときは,これを債権者に償還しなければらならない。」

 

 

労働者が会社で働こうとしても,会社が不当な解雇で,

労働者の就労を拒否している場合,労働者は,

会社に労務を提供することができません。

 

 

そこで,現行民法536条2項の第1文によって,

会社の不当解雇という「責めに帰すべき事由」によって,

労働者は,労務を提供する債務を履行できないので,

反対給付である賃金請求権を行使できるのです。

 

 

これが,解雇事件で,労働者がバックペイを請求できる根拠です。

 

 

しかし,労働者が,会社で労務を提供することを免れたことで,

別の会社で働いて中間収入という利益を受けているので,

現行民法536条2項第2文によって,

中間収入分を会社に返さなければならないことになります。

 

 

労働者は,解雇されてやむなく別の会社で働いて

なんとか稼いだ収入が「自己の債務を免れたことによって利益を得たとき」

に該当するのは,労働者としては,釈然としないと思います。

 

 

 

 

ところが,労働基準法26条には,

「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては,

使用者は,休業期間中当該労働者に,

その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」

と規定されています。

 

 

民法よりも労働基準法が優先適用されますので,

会社がバックペイから控除できる中間収入は,

平均賃金の4割に限定されており,

平均賃金の6割分は,労働者が確保できます。

 

 

労働基準法の平均賃金とは,

3ヶ月間に労働者に支払われた賃金の総額を,

その期間の総日数で割って算出されます。

 

 

まとめますと,解雇期間中に別の会社で働いた場合,

解雇された会社で働いていたときの平均賃金の6割については,

労働者は,中間収入を確保することができ,

平均賃金の6割を超える残りの4割の部分については,

バックペイから中間収入が控除されることになります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

医師が解雇されるのはどのような場合か

契約期間が定められている労働契約(有期労働契約といいます)を,

契約期間が満了する前の期間の途中において,

会社は,労働者を解雇することができるのでしょうか。

 

 

本日は,有期労働契約の期間途中の解雇の有効性について説明します。

 

 

 

 

まず,有期労働契約を締結している労働者は,

契約社員,派遣社員,嘱託社員などの,

いわゆる非正規雇用労働者です。

 

 

非正規雇用労働者は,労働契約の契約期間が満了する時点で,

会社が労働契約を更新してくれない限り,

原則として,労働契約が終了して,職を失います。

 

 

そのため,非正規雇用労働者の雇用は不安定なのです。

 

 

 

 

他方,契約期間が定められていない労働契約

を締結している労働者が正社員です。

 

 

正社員には,契約期間が定められていないので,

会社から解雇されない限り,会社で働き続けることができるのです。

 

 

そのため,正社員の雇用は安定しているのです。

 

 

正社員に比べて,非正規雇用労働者の雇用は不安定なのですが,

労働契約で定められている期間中は,雇用が安定しています。

 

 

すなわち,非正規雇用労働者は,契約期間が満了すれば,

仕事がなくなりますが,契約期間中はよほどのことがない限り,

解雇されずに,労働契約が維持されるのです。

 

 

この点について,労働契約法17条には,

やむを得ない事由がある場合でなければ」,

会社は,労働者を解雇できないと規定されています。

 

 

以上を前提に,5年の契約期間で労働契約を締結した

国立研究開発法人国立A医療研究センターの歯科医長が,

歯科医療に適格性を欠く行為があり,

部下職員を指導監督する役割を果たしていないなどとして,

契約の途中で解雇された事件を紹介します

(東京地裁平成29年2月23日・労働判例1180号99頁)。

 

 

この事件では,医師としての能力不足の解雇は

どのような場合に認められるかという,珍しい論点が争われました。

 

 

医師という専門職としての治療行為が,

どの程度までひどいと解雇されてしまうのかについて,

裁判所が基準をだしました。

 

 

医師は,患者の身体状態や意思をふまえつつ,

その都度適切な医療行為を選択して実施していくので,

医師には相当広い裁量が認められています。

 

 

 

 

そして,裁判所は,

医師の治療行為が相当な医学的根拠を欠いているか,

患者の身体の安全に具体的な危険を及ぼしたか,

治療行為に際して認められる裁量を考慮しても

合理性を欠いた許容できない治療といえるか,

という観点から検討すべきという基準を示しました。

 

 

さらに,本件では,契約期間の途中での解雇であるため,

解雇について「やむを得ない」理由があったかが

厳格に判断された結果,被告病院が主張する解雇理由について,

原告に医師として適格性を欠く行為はなかったと判断されました。

 

 

有期労働契約を契約の途中で解雇する場合には,

よほどの理由がないと解雇できないということと,

医師が能力不足で解雇されるのは,

どのような場合かについて判断された

珍しい裁判例ですので,紹介させていただきました。

 

 

労働者は,有期労働契約は契約期間の途中では,

よほどのことがない限り,解雇されないことを知っておいてください。

 

 

本日も,お読みいただき,ありがとうございます。

解雇されたら失業給付を受給する

会社を解雇されてしまったら,

次の仕事がみつかるまで,

収入がゼロになってしまいます。

 

 

次の仕事が早く見つかればいいのですが,そうでない場合,

労働者は,今後どうやって生活をしていくか悩みます。

 

 

そこで,解雇された労働者は,ハローワークへ行き,

失業給付(雇用保険の基本手当といいます)を受給するべきです。

 

 

 

 

失業給付を受給できれば,当面の生活を

維持することができますので,その間に再就職したり,

会社と争う準備をすることができます。

 

 

さて,この失業給付を受給するには,受給資格が必要です。

 

 

失業給付の受給資格とは,基本的には,

離職した日以前2年間に,

雇用保険の対象者であった期間が

通算12ヶ月以上であることです。

 

 

そのため,働いていた期間が1年未満であれば,

失業給付を受給できない可能性があります。

 

 

会社から解雇された場合,会社から離職票を送ってくることが多いです。

 

 

会社から離職票が送られてこない場合には,

ハローワークから,会社に離職票を発行してもらうように

連絡をしてもらう必要があります。

 

 

解雇を争う場合であっても,

解雇後の生活を安定させなければならないので,

労働者が離職票を要求しても,

解雇を容認することにはなりません。

 

 

会社から離職票が届いたら,まず,離職票の内容をよくチェックします。

 

 

 

 

離職票のチェックポイントは,

離職票の左の欄の賃金額と,右の欄の離職理由です。

 

 

まず,離職票の賃金額が正確に記載されているかを,

自分の給料明細と照らし合わせながらチェックします。

 

 

離職票の賃金額が不正確ですと,

もらえるはずの失業給付の金額が減るおそれがあるからです。

 

 

次に,離職票の離職理由が,

実際の離職理由と一致しているのかをチェックします。

 

 

解雇の場合,会社がこっそりと離職票の離職理由に

自己都合退職と記載してくることがあります。

 

 

これを訂正せずに,そのまま提出してしまうと,

後から裁判になって,会社は,

解雇ではなく自己都合退職だったと主張してきて,

解雇を争えなくなるおそれがあります。

 

 

そのため,離職票の離職理由をよくチェックし,

間違いがあれば,ハローワークに相談して,

会社に訂正を求めるべきです。

 

 

会社が訂正に応じない場合には,

「離職者記入欄」と「具体的事情記載欄(離職者用)」に

実際の離職理由を記載し,「離職者本人の判断」の欄に

「異議あり」に○をつけます。

 

 

自己都合退職の場合は,失業給付を受給するまで

3ヶ月の給付制限がありますが,解雇の場合は,

このような給付制限はありません。

 

 

 

また,解雇されたけれども,どうしても復職したい場合には,

失業給付の仮給付(条件付給付)という手続きをとります。

 

 

仮給付を受けるためには,ハローワークに,

裁判所の受付印のある訴状や労働審判申立書を

提出しなければなりませんので,手続きに時間がかかります。

 

 

仮給付の場合,復職が認められれば,

受給した仮給付を返還しなければなりません。

 

 

解雇されて復職を求めるのではなく,

金銭解決を求める場合には,

失業給付の本給付(通常の失業給付の受給のことです)を受給します。

 

 

本給付であれば,返還する必要はありません。

 

 

労働者は,解雇された場合,

失業給付を受給して,生活を安定させるべきです。

 

 

その際,離職票をよくチェックしてください。

解雇を争う労働者は解雇予告手当と退職金を請求してはいけない

昨日に引き続き,解雇された労働者が,

解雇に納得できず,会社に一矢報いるために争うための,

解雇の対処法について説明します。

 

 

解雇された労働者が,解雇を争う場合,

解雇を前提とした行動をとってはいけません。

 

 

この解雇を前提とした行動をとらない具体例として,

解雇された労働者は,自分から解雇予告手当を

請求してはいけないということがあります。

 

 

会社は,労働者を解雇するためには,

解雇から少なくとも30日前に解雇の予告をしなければいけません

 

 

30日前に解雇の予告をしない場合,会社は,

労働者に対して,30日分以上の平均賃金

を支払わなければなりません(労働基準法20条1項)。

 

 

 

 

この解雇予告をしない場合に会社が

労働者に対して支払わなければならない,

30日分以上の平均賃金を解雇予告手当といいます。

 

 

例えば,なんの前ぶれもなしにいきなり解雇される即時解雇の場合,

労働者は,会社に対して,解雇予告手当を請求することができるのです。

 

 

この解雇予告手当ですが,労働基準法20条1項に

労働者の責めに帰すべき事由」がある場合には,

支払わなくてもよいと規定されています。

 

 

この「労働者の責めに帰すべき事由」とは,典型的には,

労働者に会社のお金を着服したなどの懲戒事由が認められて,

懲戒解雇されたような場合のことをいいます。

 

 

 

 

会社が,「労働者の責めに帰すべき事由」があるので,

解雇予告手当を支払わないようにするためには,

労働基準監督署の認定を受けなければなりません(労働基準法20条3項)。

 

 

この認定を除外認定といいます。

 

 

もっとも,除外認定事由があるのに除外認定を受けないで行った

即時解雇について,除外認定事由が客観的に存在すれば,

その即時解雇は有効とされてしまいます。。

 

 

また,除外認定事実が客観的に存在すれば,

除外認定を受けていなくても,会社は,労働者に対して,

解雇予告手当を支払わなくてもよいことになっています。

 

 

そのため,除外認定を受けることなく,

解雇予告手当を支払っていない会社が多いのが実情です。

 

 

労働者が,解雇に納得して,解雇を受け入れるのであれば,

解雇予告手当を請求すればいいのですが,

解雇に納得しておらず,解雇を争うのであれば,

労働者は,自分から解雇予告手当を請求してはいけません

 

 

解雇予告手当を請求することは,

解雇が有効であることを自分から認めれることに等しく,

解雇を争えなくなるおそれがあります。

 

 

さらに,解雇予告手当と同様に,

退職金を労働者が自分から請求すれば,

解雇を容認したことになり,

解雇を争えなくなるおそれがありますので,

解雇を争う労働者は,自分から退職金を請求してはいけません

 

 

会社が,解雇予告手当や退職金を労働者の預金口座へ

勝手に振り込んできた場合,労働者は,

この金銭を預かり保管して,今後発生する未払賃金に充当することを

会社に通知しておけばいいのです。

 

 

このように,解雇を争う労働者は,

自分から解雇予告手当と退職金を請求してはいけないのです。

解雇されても就労意思を明示する

会社から解雇されたとき,多くの人は,

なんで私が解雇されるのか,解雇に納得できないと思います。

 

 

会社に対してなにかできないかと考え,

弁護士のもとへ相談にいらっしゃる方もいます。

 

 

解雇に納得いかず,会社に対して,

なにかしたいと考える人のために,

解雇への対処の仕方について説明します。

 

 

 

 

解雇への対処方法で重要なことは,

解雇を容認する行動をとってはならないということです。

 

 

具体的には,解雇と言われて,

そのまま出勤しなくなるのはよくないのです。

 

 

解雇されたのに,会社へ出勤しなくなるのはよくないというのは,

なにやら矛盾しているようですが,これには理由があります。

 

 

労働者は,会社に対して,労働を提供することで,

会社から給料をもらいます。

 

 

 

 

解雇の場合,労働者は,会社に労働を提供したくても,

会社の落ち度(解雇理由がないのに解雇したような場合です)によって,

労働を提供できなくなります

 

 

会社の落ち度で,労働者が労働を提供できないのであれば,

会社は,労働者が実際に働いていなくても,給料を支払う義務があります。

 

 

解雇された後に,労働者が会社に対して未払賃金を請求できるのは,

会社の落ち度で労働を提供できなくなったからなのです。

 

 

この前提として,労働者は,会社に対して

労働を提供できる状態である必要があります。

 

 

そのため,労働者は,会社に対して,

いつでも働く意思(就労意思といいます)がありますよ

と伝える必要があるのです。

 

 

とはいえ,解雇するような会社に,出勤しなさいというのは,

よほどメンタルが強い労働者でないとできませんし,とても大変です。

 

 

そこで,一般的には,解雇した会社に対して,

解雇は無効なので,解雇を撤回して,就労させるように請求します。

などと記載した通知書を,配達証明付内容証明郵便で送ります。

 

 

配達証明付内容証明郵便を利用すれば,

このような内容の通知書が会社に送られたことが証明できますので,

会社に対して就労意思を明確にできます。

 

 

このように,解雇された後も賃金を請求するためには,

労働者が会社に労働を提供したこと,具体的には,

就労意思があることを会社に明示することが必要になります。

 

 

 

 

解雇されたからといって,

何もしないまま時間が経過してしまえば,

解雇を容認したと言われてしまい,

解雇された後に,賃金を請求できなくなるおそれがあります。

 

 

解雇されたら,なるべく早く,

会社に対して,就労意思を通知することが重要なのです。

会社から退職勧奨を受けた場合の対処法

会社から退職をすすめられた場合,

労働者が会社をやめたくなかったり,

このまま会社の言いなりになるのには納得がいかない場合,

どのように対処すればいいのでしょうか。

 

 

まず,会社から退職をすすめられた場合,

労働者は,会社を辞めたくないのであれば,

きっぱりと「辞めません」と断ればいいのです

 

 

 

 

会社が退職をすすめてきても,労働者には,

これに応じる義務はありませんので,断固として拒否してください。

 

 

それでも会社がしつこく退職をすすめてくるようであれば,

内容証明郵便で,退職をすすめることをやめるように通告します

 

 

内容証明郵便を出せば,こういった退職勧奨はとまることが多いです。

 

 

会社が退職をすすめてきて,労働者がこれに応じて,

退職届をだしてしまった場合,会社が退職届を受け取ってしまえば,

労働契約が合意によって解約されてしまいます。

 

 

このような合意解約の場合,労働者が,あとから考えて,

やっぱり退職を撤回したいと思い返しても,

会社が退職の撤回に同意してくれない限り,撤回はできません。

 

 

例外として,労働者が退職届を会社に提出する際に,

会社から騙されて,労働者が勘違いしていたり,

会社から退職するように執拗に強要されたために,

退職届をだしてしまったような場合には,

退職が無効になったり,取り消したりできることがあります。

 

 

例えば,懲戒解雇される理由がないのに,

懲戒解雇されれば退職金が支給されなくなるから,

その前に退職届を提出するようにすすめられて,

労働者がこれを信じて退職届を提出してしまったような場合です。

 

 

 

 

しかし,労働者が退職を無効にしたり,取り消したりできるのは,

社長などから,虚偽の事実を述べられたり,

しつこく退職を強要されたことを,

ボイスレコーダーなどで録音しておくなどして,

これらの事実を証明できる証拠がある場合に限られます。

 

 

通常,退職勧奨は突然言われて,労働者が戸惑っているうちに,

労働者が退職届を提出してしまうことが多いので,

ボイスレコーダーで録音していることが少なく,

社長などから虚偽の事実を述べられたり,

しつこく退職を強要されたことを証明するのが困難なのです。

 

 

このように,会社から理由はどうであれ,

退職届を出すように求められても,労働者は,

退職に納得していないのであれば,

その場で退職届を書いてはいけません

 

 

労働者は,「いったん考えさせてください」と言って,

回答を留保して,専門家へ相談して,

対処法をアドバイスしてもらった後に,回答すればいいのです。

 

 

いったん退職届を出してしまうと,非常に争いにくくなりますので,

その場で即答せずに,誰かに相談してください。

 

 

逆に,会社が解雇を通告してきた場合,

会社は労働者をそう簡単に解雇できませんので,

解雇の方が労働者は争いやすいのです。

 

 

①労働者が自分から会社をやめる自己都合退職や

②労働契約の合意解約を後から争うのは困難ですが,

③解雇は争いやすいので,法律相談の事案が

①自己都合退職,②労働契約の合意解約,③解雇

のどれにあたるのかを検討します。

 

 

会社はこの3つを明確に区別していないこともあるので,

この3つのどれかあいまいな場合には,

会社に解雇理由証明書を求めるなどして,

本件事案が解雇なのか否かを明確にしておくべきです。