投稿

郵便局における正社員と非正規雇用労働者の労働条件の格差は不合理か

最近,正社員と非正規雇用労働者との労働条件の格差

が不合理であるとして,労働契約法20条違反

が争われるケースが増えています。

 

 

本日は,日本郵便において,正社員と非正規雇用労働者の労働条件

の相違が不合理か否かが争われた大阪地裁平成30年2月21日判決

(労働判例1180号・26頁)について解説します。

 

 

一般的に,正社員と非正規雇用労働者との仕事内容や責任,

配置の変更が同じであれば,手当等の労働条件は

同じにしないと不合理と考えられます。

 

 

他方,正社員と非正規雇用労働者との仕事内容や責任,

配置の変更について,正社員の方が負担が重く,

その見返りの意味も含めて,正社員に,

手厚い手当等が支給されることは,不合理とはいえないと考えられます。

 

 

 

 

 

日本郵便では,正社員は,郵便物の集荷や配達といった仕事以外に,

郵便局内部の事務作業も行い,昇任によってシフト管理や企画立案,

労務管理といった管理業務を行い,異動や配置転換が実施されています。

 

 

他方,非正規雇用労働者は,郵便物の集荷や配達

といった仕事に限定され,昇任はなく,異動や配置転換はありません。

 

 

このように,正社員と非正規雇用労働者との間に,

仕事内容や責任,配置の変更について,違いが存在します。

 

 

そうなると,正社員と非正規雇用労働者との

手当などの労働条件について違いがあっても,

不合理とはいえないと判断されそうです。

 

 

しかし,本件では,年末年始勤務手当,住居手当,扶養手当について,

正社員に支給されているのに,非正規雇用労働者に

支給されていないのは不合理と判断されました。

 

 

まず,年末年始勤務手当について,郵便局の労働者は,

普通の会社は休みとしている12月29日から1月3日に

年賀状の集荷と配達をしなければならず,

1年で最も繁忙な時期に働いた場合に,

年末年始勤務手当として一律の金額が支給されています。

 

 

 

 

年末年始勤務手当は,繁忙期である年末年始に働いたことに

注目して支給される性質のものであり,

非正規雇用労働者も正社員と同様に年末年始に働いているので,

非正規雇用労働者にも同じ取扱にする必要があります。

 

 

そのため,年末年始勤務手当の性質から,

正社員にのみ支給して,非正規雇用労働者に支給しないことは

不合理であると判断されました。

 

 

住居手当については,配転に伴う住宅の費用負担の軽減

という性質があり,配転が予定されている正社員に支給されて,

配転が予定されていない非正規雇用労働者に支給されなくても,

問題がないように思えます。

 

 

しかし,正社員の中にも,配転が予定されていない労働者がいるのに,

正社員全員に住居手当が支給されており,

住居手当の支給があるのとないのとでは,

最大で月額2万7000円の差が生じていることから,住居手当を,

正社員にのみ支給し,非正規雇用労働者に支給しないことは

不合理であると判断されました。

 

 

これまでの裁判例は,配転が予定されているか否かで,

住居手当の支給に差があっても,不合理とはいえないと

判断される傾向にあったため,

住居手当で不合理と判断されたのは画期的だと思います。

 

 

そして,扶養手当については,労働者が扶養する家族の生活保障

としての性質があり,扶養家族の有無や状況に応じて

一定額が支給されており,扶養家族の状況によっては,

支給額が大きくなることから,扶養手当を正社員にのみ支給し,

非正規雇用労働者に支給しないことは不合理と判断されました。

 

 

本判決は,仕事や内容や責任,配転の可能性で差異があっても,

手当の性質に注目して,手当の差異が不合理であると判断される

余地があること,手当の金額で大きな格差が生じることも

考慮されることが,これまでの裁判例と異なるところであり,

労働者にとって有利に活用できそうです。

定年退職後に30~40%も賃金が減額されても合法なのか?

正社員と非正規雇用労働者との労働条件の格差が,

労働契約法20条に違反するかが争われている

事件が増えています。

 

 

労働契約法20条では,

正社員と非正規雇用の労働者の労働条件の違いが,

「労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度,

当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して」,

不合理であってはならないと定められています。

 

 

 

 

 

仕事内容が同じなのに,正社員ではないというだけで,

非正規雇用労働者の賃金が低いのはおかしいと考える

非正規雇用労働者が増えているのかもしれません。

 

 

本日は,定年後再雇用された労働者が,

定年前の賃金から30~40%ほど減額されたことについて,

労働契約法20条に違反しているとして,

定年前との差額賃金を請求した学究社事件

(東京地裁立川支部平成30年1月29日判決・

労働判例1176号・5頁)を紹介します。

 

 

原告の労働者は,被告が経営している進学塾の

正社員の講師をしていて,定年退職しました。

 

 

 

原告が定年退職した後,被告との間で,再雇用契約について,

労働条件の交渉が行われましたが,

被告から定年退職後の賃金が定年退職前の賃金の

30~40%削減された額になるとの労働条件を提示されて,

原告は,再雇用契約書にサインをしませんでしたが,

再雇用後の労働の対価として,定年退職前の賃金から

30~40%削減された金額が支給されていました。

 

 

原告は,定年退職の前後で,

仕事内容が変わっていないのに,

賃金が30~40%減額されたことが不合理であるとして,

労働契約法20条違反を訴えましたが,

判決では,労働契約法20条違反は認められませんでした。

 

 

労働契約法20条違反が認められるためには,

定年退職の前と後の仕事内容や責任がほぼ同じ

であることが前提になります。

 

 

本件では,原告の定年退職の前と後の仕事内容や

責任が異なると判断されたのです。

 

 

具体的には,原告は,定年退職前には,授業以外にも,

生徒・保護者への対応や研修が義務付けられていたのに対して,

定年退職後には,基本的には授業のみを行い,

生徒・保護者への対応は上司からの指示がある

例外的な場合に限られていました。

 

 

そのため,定年退職の前後で,

仕事の内容や責任の程度に差があり,また,

定年退職後に賃金が下がることは一般的に

どの会社でも実施されていることでもあり,

不合理ではないとして,労働契約法20条違反

ではないと判断されました。

 

 

とはいえ,定年退職後に賃金が30~40%も

減額されたのでは,労働者のモチベーションが下がりますし,

なかなか納得いかないはずです。

 

 

定年退職後に大幅な賃金減額がされるケースでは,

どこまでの減額幅なら許容されるのかが,

まだまだ不明ですので,今後の労働契約法20条

に関する裁判例の動向をチェックしていく必要があります。

アルバイト職員と正社員の賃金格差は不合理か?

今年の6月1日に,ハマキョウレックス事件

と長沢運輸事件の最高裁判決があり,

労働契約法20条が注目されています。

 

 

今日は,アルバイト職員と正社員の労働条件

の違いが労働契約法20条に違反するかが争われた,

学校法人大阪医科薬科大学事件

(大阪地裁平成30年1月24日判決・労働判例1175号5頁)

を紹介します。

 

 

大阪医科薬科大学の事務職員は,

正職員,契約職員,アルバイト職員,嘱託職員

の4種類に分かれており,

正職員には,雇用期間の定めがありませんが,

契約職員,アルバイト職員,嘱託職員には,

雇用期間の定めがあり,雇用期間が満了すれば,

職を失う可能性がある不安定な立場にあります。

 

 

アルバイト職員である原告の時給は950円で,

フルタイムで換算すると月額15万円から16万円の範囲となります。

 

 

 

他方,正社員の初任給は19万2570円です。

 

 

アルバイト職員と正社員の間には,

約2割程度の賃金水準の違いがあります。

 

 

さらに,正社員には,賞与が支給されていますが,

アルバイト職員には,賞与が支給されていません。

 

 

その結果,賞与を含めた年間の給与の総支給額

を比較すると,原告の給与は,新規正職員の

約55%程度の水準になっていました。

 

 

そこで,原告は,正職員との賃金格差が

労働契約法20条に違反すると主張して,

裁判をおこしました。

 

 

 

労働契約法20条は,

仕事の内容や責任の程度などを考慮して,

正職員と非正規雇用労働者との労働条件の違いが

不合理であってはならないと規定されています。

 

 

本件においては,大阪医科薬科大学の正職員は,

学校法人全体に影響を及ぼすような

重要な施策の事務を行うことがあり,

責任も重いものがあり,別の部署への異動もありました。

 

 

他方,アルバイト職員は,

書類のコピーやパソコンへの登録といった

定型的な事務が多く,他の部署へ異動することは

基本的にありませんでした。

 

 

さらに,学校法人内部の登用試験に合格すれば,

アルバイト職員から正職員になることも可能でした。

 

 

これらの事情を考慮すると,

アルバイト職員の原告の給与が新規採用の正職員の

給与の約55%の水準であっても,この給与の違いは,

不合理とはいえないと判断されて,原告が敗訴しました。

 

 

ざっくりと言ってしまえば,

正職員とアルバイト職員とでは,

仕事内容や異動範囲が違うので,

賃金に約55%程度の格差があっても問題ないとされたのです。

 

 

個人的には,どこまで仕事内容が違っているのか

微妙なところもありますので,賃金格差が55%も

開いてしまっているのであれば,是正される余地が

あるのではないかと思います。

 

 

また,大阪医科薬科大学の正職員は,

附属病院を受信した場合,医療費が

月額4000円を上限に補助されていましたが,

アルバイト職員には,医療費の補助はありませんでした。

 

 

この医療費の補助については,

学校法人に広い裁量が認められているので,

正職員にだけ医療費の補助をして,

アルバイト職員に医療費の補助をしなくても

不合理ではないと判断されました。

 

 

しかし,この医療費の補助については,

正社員だけを特別に優遇する必要性が

どこまであるのか疑問ですので,

不合理な格差に該当すると考えます。

 

 

給与や賞与の格差を争う対応の事件では

労働者に不利な判決がだされていますが,

ハマキョウレックス事件のように手当を争う事件であれば,

手当の内容などが慎重に審査されて,

労働者に有利な判決がだされる傾向にあります。

 

 

今後,労働契約法20条をめぐる裁判

が増えていくので,裁判の流れに注目していきます。