ハラスメントの境界線3~様々なハラスメント対策~

昨日に引き続き,白河桃子先生の

ハラスメントの境界線~セクハラ・パワハラに戸惑う男たち~

についてのアウトプットを行います。

 

 

 

本日は,この本に記載されていたハラスメントの

防止策について紹介していきます。

 

 

企業がハラスメントを防止するための枠組みとして,

①ポリシーの表明,②窓口の設置,

③調査体制の整備,④是正措置・再発防止策

の4つが挙げられています。

 

 

白河桃子先生は,①ポリシーの表明として,

経営者が「ハラスメントを許さない」,

「ハラスメントにはこうした懲戒処分をする」

と明言することを提案されています。

 

 

厚生労働省が作成した「パワーハラスメント対策導入マニュアル」にも,

企業として,「職場のパワハラはなくすべきものである」という方針を,

トップのメッセージとして明確に打ち出すことが推奨されています。

 

 

ポリシーが表明されることで,職場において,

相手の人格を認め,尊重しあいながら仕事を進める意識が育まれ,

ハラスメントの被害者や周囲の労働者が,問題点の指摘や解消に関して

発言がしやすくなることが期待されます。

 

 

 

②窓口の設置については,昨日のブログに記載したとおり,

相談者が安心して相談できるように,

「独立性」,「非公開」,「匿名」が守られることが重要となります。

 

 

会社内における電話やメールなどの

「通報ホットライン」だけですと,

相談しにくいことも考えられますので,

第三者機関などに委託して外部窓口を設置するなど,

複数の窓口を整備すると,相談しやすい環境を

作れるようになるようです。

 

 

③調査体制の整備については,

中立的な立場で事実を確認し,

報復を禁止させる仕組みが必要になると思います。

 

 

④是正措置・再発防止策については,

管理職向けや一般従業員向けのハラスメント研修や,

パワハラは許されないことであることを

会社内で周知することが重要になってきそうです。

 

 

次に,最新のハラスメント対策を実施している企業が紹介されており,

その中の一つに,ビザ・ワールドワイド・ジャパンの

ハラスメントを目撃した人に通報義務があるというものがありました。

 

 

 

 

ビザ・ワールドワイド・ジャパンでは,

報復禁止方針を徹底した上で,

ハラスメントを目撃した社員は,

人事部に通報しなければならないようです。

 

 

安心して通報できる環境が整い,かつ,

企業が通報を義務化していることで,

ハラスメントを撲滅できるのかもしれません。

 

 

https://www.sbbit.jp/article/cont1/34691

 

 

また,通報窓口に相談することに躊躇する場合,

国内最大級のハラスメント改善プラットフォーム

ソレハラ」というサイトがあります。

 

 

https://sorehara.com/

 

 

匿名で誰かの行為がハラスメントにあたるのかを,

ほかのユーザーに投票してもらう

「匿名ネコ裁判」というものがあります。

 

 

これってハラスメントかも?と思ったら,いきなり,

会社の窓口に相談するのはハードルが高いと感じたなら,

まずは,このサイトにゆるく問いかけてみるのもいいかもしれません。

 

 

そして,究極のセクハラ対策は,

管理職の多様性を進めていくことだと

白河桃子先生は提言しています。

 

 

 

日本の組織内で重要な意思決定をしている層は,

年齢や学歴,社歴などが同質な男性で構成されています。

 

 

同質性の高い組織では,「これくらいなら許される」という「本音」が,

「それは許されないことである」という建前とずれてしまい,

かつては通用した組織内の「本音」がすでに

社会で許されなくなってしまい,不祥事につながるというわけです。

 

 

財務省セクハラ事件を例にすれば,

「優秀な成績をあげていれば,多少セクハラは多目にみてもらえる」

という本音と,「セクハラをする人物は,

成績が優秀であっても組織にリスクをもたらす」

という建前がずれていたために問題が大きくなったと考えられます。

 

 

男性だけの同質な組織に,女性が進出すれば,

女性からの異なる意見がでることで,

本音と建前のずれに気付くことができます。

 

 

多様性のある職場では,

ハラスメントや不祥事が減る可能性がありそうです。

 

 

このように,様々なハラスメント対策が記載されていますので,

ハラスメントについて勉強するためには,

まず最初に読んでおいたほうがよい一冊だと思いました。

 

 

ハラスメントのある職場は,安心して働くことができない職場ですので,

多くの企業にハラスメント対策に取り組んでもらいたいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ハラスメントの境界線

昨日,パワハラ研修をさせていただき,その際に,

パワーポイントのスライドを作成する際に

参考になった文献を紹介します。

 

 

白河桃子先生の

ハラスメントの境界線~セクハラ・パワハラに戸惑う男たち~

という新書です。

 

 

 

この本には,ハラスメントに関する鋭い分析が

多く記載されていますので,

そのいくつかを紹介させていただきます。

 

 

白河先生は,日本のハラスメント問題の

ターニングポイントになったのは,

2018年4月に発生した財務省セクハラ事件だと分析しています。

 

 

財務省セクハラ事件とは,週刊新潮において,

財務省の福田淳一事務次官が,テレビ朝日の女性記者に対して,

ひどいセクハラ発言をしたことが告発され,

福田事務次官は辞職し,

6ヶ月2割の減給の懲戒処分を受けたという事件です。

 

 

週刊新潮によると,福田事務次官は,

テレビ朝日の女性記者に対して,

「抱きしめていい?」,「浮気しようね」,

「胸触っていい?」,「手しばっていい?」

などと発言したようです。

 

 

 

テレビ朝日の女性記者が福田事務次官とのやりとりを録音していたので,

生々しいセクハラ発言の証拠が保全された結果,

福田事務次官としては,言い逃れができなかったものと考えられます。

 

 

この財務省セクハラ事件の顛末をみて,白河先生は,

非常に有能な人材が組織にもたらす利益よりも,

有害な人材がもたらす人材デメリットの方が大きいと分析しています。

 

 

昔であれば,仕事ができて優秀な成績をあげる人であれば,

ハラスメントをしても多目にみてもらえていました。

 

 

福田氏は,霞ヶ関の官庁の中で最強官庁と言われる財務省の,

事務方のトップである事務次官にのぼりつめた人物であり,

当然に優秀な官僚だったのだと思います。

 

 

 

そのため,麻生財務大臣も,当初は,

福田事務次官をかばおうと必死でした。

 

 

しかし,「セクハラ罪という罪はない」などの麻生財務大臣の言動や,

被害者は名乗り出てほしいという調査手法をとった財務省の対処に,

世間の人々は怒りや疑問の声を投げかけ,

結局,福田事務次官は辞任したのです。

 

 

この一連の報道をみて,多くの国民は,

財務省の信頼は地に落ちたと感じたと思います。

 

 

このように,現在では,どれだけ優秀で仕事ができる人であっても,

ハラスメントをしたことが告発されれば,

経営者であっても,国会議員であっても,首長であっても,

辞任に追い込まれてしまうのです。

 

 

今では,ハラスメントをする優秀な人は,

組織にリスクをもたらす危険な人になっているのです。

 

 

そう,時代が変わったのです。

 

 

昭和でも平成でもない,令和の時代になったのです。

 

 

 

 

ハラスメントに対する考え方を変えないと,

組織も人も生き残れないのです。

 

 

時代が変わったからこそ,白河先生は,

ハラスメントについてアンラーニングする必要があると説いています。

 

 

アンラーニングとは,

いったん学んだ知識や既存の価値観を棄て去り,

新たに学び直すことです。

 

 

昭和の後半から平成の前半のバブル時代を

バリバリ働いてきた世代の男性にとっては,

あれもこれもハラスメントと言われるのがめんどうだ

と思うかもしれません。

 

 

しかし,今まで無自覚にしていたことを,

めんどうだと思うというのは,それだけ自分の行動や言葉に

気を使うようになったということですので,

めんどうだと思っても,プラスに捉えて,

ハラスメントについてアンラーニングをしてもらいたいです。

 

 

何がハラスメントに該当するのかを知ることが,

ハラスメントを防止するための第一歩だと思います。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

セクハラ被害における心理的監禁状態とは

現在,セクハラの損害賠償請求の裁判を担当している関係で,

セクハラ被害者の心理状態について,勉強しています。

 

 

その過程で,NPO法人日本フェミニストカウンセリング学会の

性犯罪者の被害者心理への理解を広げるための全国調査グループがまとめた

なぜ逃げられないのか~継続した性暴力の被害者心理と対処行動の実態~

という文献を読みましたので,アウトプットします。

 

 

セクハラの被害は,第三者が目撃することができない密室で発生します。

 

 

 

そのため,セクハラ行為があったことを

立証できるかが最初のハードルとなります。

 

 

次に,セクハラ行為を立証できたとしても,加害者からは,

被害者の合意があったという反論があります。

 

 

加害者からは,合意の上での恋愛関係であった,その証拠に,

被害者から加害者に対して好意を抱いているようなメールを送っている,

という反論をしてくることが多いです。

 

 

この被害者の合意が第2のハードルとなります。

 

 

セクハラ行為について,被害者の合意があったか否かについては,

被害者の主張と加害者の主張のどちらが信用できるか

によって判断されます。

 

 

このとき,被害者の主張する,被害者の言動が,

一般の人にはなかなか理解できないことがあります。

 

 

例えば,セクハラ被害にあったにもかかわらず,その後に

「今日も来てくれてありがとう」,「会えないとさみしい」

などの加害者に対して好意的なメールを送っていることがあります。

 

 

 

このメールを一般の人が読むと,被害者は,加害者に対して,

好意を抱いていたのではないか,だから,

被害者の合意があったに違いないと考えてしまがちです。

 

 

しかし,一見不合理に見える被害者の言動ですが,

フェミニストカウンセラーが,セクハラ被害者の

一般的な心理や行動から分析すれば,

セクハラ被害者の言動として自然であるといえます。

 

 

セクハラ被害者は,心理的監禁状態に陥ることがあります。

 

 

心理的監禁状態とは,物理的に監禁されているわけではないのに,

現実には逃げることができなくなってしまう状態です。

 

 

 

職場におけるセクハラの場合,上司や経営者といった

支配的地位を利用して,被害者が加害者の言いなりにならなければ,

仕事の関係で様々な嫌がらせをして,報復行為をすることがあります。

 

 

被害者は,加害者からの報復行為を避けるために

常に加害者の顔色をうかがいます。

 

 

このように,被害者は,加害者のマインドコントロール下に

置かれてしまいます。

 

 

被害者が心理的監禁状態のもとで生き延びるためには,

加害者に逆らわないばかりでなく,加害者のよい面をみようとし,

加害者に迎合的な態度をとるのもやむなしという心境になっていきます。

 

 

心理的監禁状態では,被害者は,一定の精神的安定を保つために,

加害者に迎合して2人の関係を荒立てないようにして,

周りに関係がばれないように気配りをすることがあるのです。

 

 

このように心理的監禁状態に置かれたセクハラ被害者の

心理状態や対処行動を理解すれば,

被害者の言動を合理的に説明することができます。

 

 

そのため,セクハラ事件では,通常人の常識を捨てて,

セクハラ概念を判断枠組みとして,被害者の行動の全体を捉えて,

被害者の言動をもうひとつの物語として語ることで,

説得力をもたせることができるのです。

 

 

セクハラ事件を担当するうえで,セクハラ被害者の心理を

理解することが重要であることを痛感しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

店員の笑顔はセクハラの同意ではありません

セクハラの裁判では,セクハラ行為について

同意があったか否かが争われることが多いです。

 

 

被害者がセクハラ行為について,抵抗していなかった場合,

加害者から,嫌がっていなかったので,

同意があったなどの主張がなされます。

 

 

 

しかし,セクハラは,上司から部下,顧客から店員というように,

上下関係や強い立場を利用して行われることが多く,

被害者は,セクハラを受けて,内心では嫌だと思っていても,

部下や店員という立場上,上司や顧客に対して,

明確に拒否反応を示すのが難しいのです。

 

 

このような被害者の心理状態をふまえて,

セクハラの懲戒処分が検討された

最高裁平成30年11月6日判決を紹介します。

 

 

この事件では,加古川市環境部でゴミの運搬の仕事をしていた

50代の男性公務員が,勤務時間中に,コンビニを訪れて,

女性店員に対して,わいせつ行為をしたとして,

停職6ヶ月の懲戒処分を受けました。

 

 

懲戒処分の対象となった,わいせつ行為とは,

女性従業員の手を握って店内を歩き,

女性従業員の手を男性公務員の股間の上に

軽く触れさせたというものです(行為1)。

 

 

最高裁判決からは,明らかにされていませんが,

弁護士ドットコムニュースの記事によれば,

男性公務員は,コンビニの女性従業員に対して,

手を握る,胸を触る,男性の裸の写真を見せる,

胸元をのぞき込むといった行動をしたり,

「乳硬いのう」,「乳小さいのう」,

「制服の下,何つけとん」,「胸が揺れとる。何カップや」

などと発言するなど,そこで働く従業員らを

不快に思わせる不適切な言動を行ったようです(行為2)。

 

 

 

 

加古川市は,行為1を懲戒該当事由とし,

行為2は,行為1の悪質性を裏付ける事情とした上で,

男性公務員を停職6ヶ月の懲戒処分としたところ,

男性公務員は,懲戒処分が重すぎるとして,

懲戒処分の取消を求めて裁判を起こしました。

 

 

原審の大阪高裁は,次の理由から,

停職6ヶ月の懲戒処分を取り消すと判断しました。

 

 

①女性従業員が,男性公務員から手や腕を絡められるという

身体的接触について渋々ながらも同意していたこと

 

 

②女性従業員やコンビニのオーナーが

男性公務員の処罰を望んでいないこと

 

 

③男性公務員が常習として行為1と

同様の行為をしていたとは認められないこと

 

 

④行為1が社会に与えた影響が大きいとはいえないこと

 

 

これに対して,最高裁は,次の理由から,

停職6ヶ月の懲戒処分は相当であると判断しました。

 

 

①女性従業員が終始笑顔で行動し,男性公務員による

身体的接触に抵抗を示さなかったとしても,それは,

客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地があり,

身体的接触の同意があったとは評価できないこと

 

 

 

 

②女性従業員が処罰を求めていないことは,

事情聴取の負担やコンビニの営業への悪影響を

懸念したことと考えられること

 

 

③男性公務員が以前から,行為2のような,

従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており,

これを理由の一つとして退職した女性従業員がいたこと

 

 

④行為1が勤務時間中に制服を着用してされたものであり,

複数の新聞で報道され,記者会見まで行われたので,

公務一般に対する住民の信頼が大きく損なわれ,

社会に与えた影響は決して小さいものではないこと

 

 

大阪高裁と最高裁で,結論が全く異なっていることから,

セクハラ行為に対する懲戒処分については,

どの程度の重さの処分が妥当なのかの見通しがたてにくいです。

 

 

特に,本件事件では,男性公務員が重要な役職に就いていなかったこと,

過去に懲戒処分を受けたことがないことなどの事情を考慮すると,

停職6ヶ月は重すぎると判断される余地は十分あったと思います

(停職1ヶ月程度であれば,ここまでもめなかったのではないでしょうか)。

 

 

それでも,最高裁は,停職6ヶ月を相当と判断したので,

セクハラについては,厳しく判断するということなのかもしれません。

 

 

海遊館事件の最高裁平成27年2月26日判決からも,

最高裁が,セクハラについて厳しく判断する流れにあるといえそうです

(下記のブログをご参照ください)。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201809056472.html

 

 

このように,セクハラ行為に対して,

重い懲戒処分が課せられる危険がありますので,

男性労働者は,被害者が抵抗していないから

同意があるなどと勘違いしてはならず,

セクハラ行為を絶対にしないようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

セクハラ被害者の心理状態2

会社の上司から異性関係についてしつこく聞かれる,

髪や腰,肩を触ってくるというセクハラの被害があとを絶ちません。

 

 

 

セクハラの被害者は,職場の人間関係が悪化することをおそれて,

被害を訴えることを控えることも多く,

被害が表面化しにくいのです。

 

 

また,セクハラの被害者は,

嫌なことは早く忘れたいという心理が働くことから,

記憶があいまいになっていたり,

混乱していることもあり,真相が分からないこともあります。

 

 

最近は,「#MeToo」運動の動きがありますが,

それでもなかなか,被害者が勇気をもって声をあげくにいのが現状です。

 

 

ニューズウィーク日本版より)

 

セクハラの被害を防止するために,セクハラをしてはならないという禁止規定

を明記した法律を制定することを求める運動も起こっています。

 

 

 

 

セクハラ被害は潜在化しやすいのですが,

勇気をもって裁判に訴え,勝訴を勝ち取った裁判もあります。

 

 

本日は,セクハラ被害者が勝訴した横浜セクハラ事件を紹介します

(東京高裁平成9年11月20日判決・労働判例728号12頁)。

 

 

横浜セクハラ事件では,

①事務所で上司と2人きりのときに,

上司が被害者の肩をたたいたり,

揉んだりしてきたこと,

②上司が被害者の腰を触ってきたこと,

③事務所で2人きりのときに,後ろから抱きついてきて,

キスをし,服の上から胸や下腹部を触ってきたこと

が問題となりました。

 

 

このようなセクハラは当然,密室で行われるため,

目撃者はおらず,セクハラ行為を証明するための

客観的な証拠がありません。

 

 

そのため,被害者の言い分と上司の言い分の

どちらが信用できるかが争点となります。

 

 

その際,加害者は,被害者が明確な拒否反応を示さなかったり,

セクハラ行為後に普段と何も変わらない生活

を送っていたことなどを理由に,

本当にセクハラ被害にあった者の行動

として不自然であると主張し,

セクハラ行為はなかったや合意があったと

反論することが多いです。

 

 

しかし,横浜セクハラ事件の裁判では,

職場のセクハラの場合,職場での上下関係による抑圧や,

同僚との友好的関係を保つための抑圧が働き,

被害者が身体的抵抗をとらなかったとしても,

不自然ではないと判断されました。

 

 

 

 

そして,被害者が,その場から逃げたり,

悲鳴を上げて助けを求めなかったとしても,

被害者の言い分が不自然にはならず,

被害者の言い分が信用できると判断されました。

 

 

このように,セクハラの被害者は,

職場の人間関係が悪化したり,

仕事を失うことを恐れて,

明確に拒否を示せなかったり,

ときには加害者に迎合する態度をとることがありますが,

それによって,セクハラはなかったや

合意があったと認定されるわけではありません。

 

 

セクハラ事件では,被害者特有の心理状態に配慮しながら,

被害者の言動を慎重に判断していくことが重要になります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

セクハラ被害者の言い分が信用されるポイント

セクハラ事件では,加害者が被害者に対してセクハラ行為を

したのか否かが激しく争われることがあり,

被害者と加害者のどちらの言い分が

信用できるかが争点になることが多いです。

 

 

セクハラ行為は,密室で行われることが多く,

被害者の言い分以外に,セクハラ行為を証明するための

客観的な証拠が残っていないことがほとんどです。

 

 

 

それでは,被害者と加害者の言い分のどちらが

信用できるかについて,どうやって判断していくのでしょうか。

 

 

この論点について,セクハラの被害者の言い分が信用できる

と判断された秋田県立農業短期大学事件を紹介します

(仙台高裁秋田支部平成10年12月10日判決・労働判例756号33頁)。

 

 

この事件の被害者は,短期大学の研究補助員で,

加害者は,被害者が所属する研究室の教授でした。

 

 

被害者は,加害者とともに学会出席のために出張した際に,

宿泊先のホテルの室内において,加害者からベッドに押し倒されて,

胸を触られるなどのわいせつ行為を受けたとして,

加害者に対して,損害賠償請求をしました。

 

 

 

 

これに対して,加害者は,被害者の部屋を訪れて,

室内で2人きりになり,被害者の体に触れたことは認めましたが,

これは,被害者の日頃の仕事に対する協力への感謝と励ましの気持ちを

伝えるつもりで,被害者の肩に軽く両手をかけたものであると主張しました。

 

 

このように両者の言い分は,真っ向から対立していました。

 

 

このような場合,被害者の言い分が,

具体的かつ詳細であり,また,一貫性がある場合に

信用できると判断されやすくなります。

 

 

本件では,被害者の「加害者の手をつかんで,

止めさせようと思ったけれども,

加害者の手が汚らわしく感じられて,

手を引っ込めた」という言い分が,

体験した者としての臨場感を感じさせるとして,

信用できると評価されました。

 

 

また,加害者は,事件直後に,被害者が加害者と一緒に朝食をとり,

学会に参加して,学会の最中に加害者とともに

写真におさまっていることから,

セクハラ被害者の行為として不自然であると主張しました。

 

 

しかし,加害者が職場の上司の場合,

職場の友好関係を保つための抑圧が働くため,

被害者が仕事を続ける限り,

今後も日常的に加害者と付き合っていかなければならないので,

性的被害を受けても,ことを荒立てずに

その場を取り繕う方向で行動することがあるので,

被害者の行動は不自然ではないと判断されました。

 

 

 

 

ようするに,性的被害者は,被害の後に加害者を避ける

行動をとるはずだ,という発想は間違いなのです。

 

 

セクハラ事件では客観的な証拠は少ないのですが,

被害者の言い分が信用できると判断されることがありますので,

セクハラの被害にあわれたのであれば,

専門家へ早目にご相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

セクハラ被害者の心理状態

セクハラの被害者は,被害を忘れようとして,

前と同じように日常生活をおくり,

専門家への相談は遅くなりがちになってしまう。

 

 

このようなセクハラの被害者の言動について,

詳細に判断した熊本バドミントン協会セクハラ事件の裁判例を紹介します

(熊本地裁平成9年6月25日判決・判例時報1638号135頁)。

 

 

この事件の被害者は,会社のバドミントン部に所属し,

国体に出場するなどの活躍をしていました。

 

 

 

 

加害者は,県議会議員をつとめるほか,

県バドミントン協会の副会長,

市バドミントン協会の会長の地位にあった人物です。

 

 

被害者は,加害者から食事を誘われ,

アルコール度が強いお酒を飲まされた後,

加害者の車に同乗したところ,

ホテルへ連れて行かされました。

 

 

 

 

被害者は,「そういうつもりじゃありません。」

と言ったのですが,酒の影響で力が入らず,

ホテルの部屋へ連れ込まれて,性関係を強いられました。

 

 

被害者は,国体前の大事な時期にこの事件が公になれば,

試合に出られなくなり,他の選手に迷惑がかかるかもしれないと思い,

加害者を告訴すれば,バドミントン協会の役員の地位を利用して,

報復として選手生命を奪われるかもしれないと思い,

告訴できませんでした。

 

 

加害者から,「離婚して妻も子供もいない。」,

「結婚を前提に付き合いたい。」と言われ,被害者は,

これらの言葉を信じることでみじめな気持ちが少しでも

救われる感じになり,加害者からの要求を断れば,

どのような報復があるかもしれず,

加害者との性関係が続いてしました。

 

 

 

その後,加害者からは,妻とは離婚できないと言われ,

被害者は,騙されていたことがわかり,

「もう会いません。電話もしないでください。」と言いました。

 

 

被害者は,この事件の後,恋人と別れ,

バドミントン部も会社も辞めることになりました。

 

 

裁判では,被害者と加害者の性関係は合意に基づくものであったのか

が争点となり,被害者の主張と加害者の主張の

どちらが信用できるのかが争われました。

 

 

結論として,被害者の主張は信用でき,

被害者と加害者の性関係は合意に基づくものではなく,

強姦であったと判断されました。

 

 

加害者は,強姦の被害にあったのであれば,

そのショックから立ち直るのに時間がかかるはずなのに,

被害者が次の日から普段どおりに生活しているので,

強姦ではなかったと主張しました。

 

 

しかし,強姦の被害者は,被害の事実と直面することを避けて,

ショックを和らげるための防御反応として,

被害にあう前と同じ日常生活をおくることがよくあるので,

加害者の主張は採用されませんでした。

 

 

また,加害者は,被害者が強姦されたと主張していながら,

加害者との性関係を継続しているので,

加害者を許していたのだと主張しました。

 

 

しかし,被害者は,加害者から,「結婚したい」と言われ,

少しでも愛情があって強姦したのであれば,

単なる暴力的な性のはけぐちとして強姦された場合よりは

救いがあると考えて,加害者の言葉を信じようとして,

性関係を続けてしまったので,加害者の主張は採用されませんでした。

 

 

結果として,加害者に対して,

慰謝料300万円の請求が認められました。

 

 

このように,被害者は,被害を忘れたいが,

加害者を許せないなど,様々な苦悩や葛藤をかかえながら,

ようやく救済のために立ち上がるのです。

 

 

 

 

セクハラの被害者は,救済のためにすぐに

誰かに相談にいくはずであり,そうしなかったのだから,

セクハラはなかったはずだなどという

固定観念はもはや通用しないのです。

 

 

セクハラ事件では,セクハラの被害者の心理状態や行動について,

慎重に検討することが重要になります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

セクハラによる労災

職場においてセクハラを受けたことで,

うつ病などの精神疾患を発症した場合,

セクハラの被害者は,労災を利用することができるのでしょうか。

 

 

 

 

本日は,セクハラによる労災について説明します。

 

 

厚生労働省は,「心理的負荷による精神障害の認定基準

という精神障害の労災の基準を定めています。

 

 

この基準では,「精神障害の発病前おおむね6ヶ月間に,

業務による強い心理的負荷が認められること

という要件を満たす必要があります。

 

 

セクハラが強い心理的負荷と認められるのは次のような場合です。

 

 

まず,胸や腰などへの身体的接触を含むセクハラの場合です。

 

 

 

 

身体的接触が,①継続して行われた場合,

②継続していないが,会社に相談しても適切な対応がなく,

改善されなかった,または会社へ相談した後に

職場の人間関係が悪化した場合に,

セクハラによる心理的負荷が「強」と認定されます。

 

 

次に,身体的接触のない性的な発言のみのセクハラの場合です。

 

 

 

 

①発言の中に人格を否定するものを含み,

かつ継続してなされた場合,

②性的な発言が継続してなされ,

かつ会社がセクハラがあると把握していても適切な対応がなく,

改善がなされなかった場合に,

セクハラによる心理的負荷が「強」と認定されます。

 

 

精神疾患の労災の場合,精神疾患発症から6ヶ月間

に生じた出来事をチェックしますが,セクハラの場合は,

いったんセクハラがなされ始めると

セクハラが繰り返し行われる性質があります。

 

 

そこで,精神疾患発症の6ヶ月よりも前にセクハラが始まり,

セクハラが継続している場合には,6ヶ月よりも前に

セクハラが始まった時点からの心理的負荷を評価することになります。

 

 

さて,セクハラは,された方が,

職場の上下関係や支配関係があることで,

「No」と言いづらいところに本質があります。

 

 

セクハラ後の仕事上の不利益や職場環境の悪化を恐れてしまい,

被害者は,どうしても「No」と言いづらいのです。

 

 

 

 

このセクハラの本質を理解しなければ,

セクハラによる心理的負荷の強さを見誤ってしまいます。

 

 

そこで,労災の認定基準には,セクハラ事件について,

以下の留意事項をあげています。

 

 

①セクハラの被害者は,勤務を継続したいとか,

加害者からのセクハラの被害をできるだけ軽くしたいとか

の心理などから,やむを得ず加害者に迎合するような

メールを送ることや,加害者の誘いを受け入れることがあるが,

これらの事実がセクハラを受けたことを

単純に否定することにはならないこと。

 

 

②被害者は,被害を受けてからすぐに

相談行動をとらないことがあるが,

この事実が心理的負荷が弱いと

単純に判断する理由にならないこと。

 

 

③被害者は,医療機関でもセクハラを受けたということを

すぐに話せないこともあるが,初診時にセクハラの事実を

申し立てていないことが心理的負荷が弱いと

単純に判断する理由にならないこと。

 

 

加害者が上司であり被害者が部下である場合

加害者が正規職員であり被害者が非正規労働者である場合など,

加害者が雇用関係上被害者に対して優越的な立場にある

事実は心理的負荷を強める要素となり得ること。

 

 

このように,労災基準は,セクハラの被害者が

「No」と言いづらい本質に留意するように注意を促しているのです。

 

 

セクハラが原因でうつ病などの精神疾患を発症した場合は,

労災保険の対象になりますので,

労災に強い弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日も,お読みいただき,ありがとうございます。

セクハラ相談リーフレット

先日,異業種交流会で,ある女性と

名刺交換をさせていただいた際,

男性ばかりの職場なので,

セクハラ発言が多くて困っているというお話を聞きました。

 

 

その発言は,明らかにセクハラだとわかるようなことでも,

男性ばかりの職場ですと,セクハラ発言が頻繁に

生じている現実を知りました。

 

 

財務省のセクハラ事件や#MeToo運動などで,

セクハラが広く問題になっていても,

なかなかセクハラがなくらない現実があります。

 

 

そのような現状において,日本労働弁護団が,

セクハラを受けた場合に,どのように対処すべきか,

どこに相談すればいいのかをまとめた

リーフレットを作成したので,紹介します。

 

 

 

 

(こちらのURLからダウンロードできます)

http://roudou-bengodan.org/wpRB/wp-content/uploads/2018/07/c06d6f8fe4d42f26395283418205edea.pdf

http://roudou-bengodan.org/wpRB/wp-content/uploads/2018/07/c2f831de625f3bed06199cfbc63cc53c.pdf

 

 

まず,何がセクハラなのかという問題がありますが,

このリーフレットにはセクハラの具体例が

コンパクトにまとめられています。

 

 

セクハラとは,かんたんにいえば

相手方の望まない性的な言動のことです。

 

 

そのため,「しつこくメールがきたり,食事に誘われた」,

「交際を断ったら異動させられた」,

「容姿や体型,結婚の予定を聞かれた」,

「交際相手についてしつこく聞かれた」

といったことは,相手が嫌がるのであれば,セクハラになります。

 

 

次に,セクハラを受けた時の対処法について,

「嫌だなと感じたら,はっきり断りましょう」,

「セクハラで困ったら信頼できる人に相談しましょう」,

「職場の相談窓口への相談を検討してみましょう」,

「嫌だと言えなくて応じてしまった場合でも,

あきらめたり,自分を責めたりしないでください」,

「心身の不調を感じたら医師などに相談しましょう」

など具体例に記載されています。

 

 

セクハラの対処法としては,まず,

録音やメモなどで記録化し,証拠を確保することが必須です。

 

 

証拠を確保した上で,加害者に対して,

はっきりとセクハラをやめるように伝え,

会社の相談窓口にセクハラの相談をします。

 

 

 

 

会社には,セクハラを防止し,

セクハラ被害の相談があった場合には,

事実を確認して,被害回復や再発防止のための

適切な対応をする義務があります。

 

 

会社に相談したけれども,会社が何もしてくれずに,

セクハラが続いた場合,会社に対して,

損害賠償請求することを検討します。

 

 

加害者や会社にセクハラをやめるように申し入れても,

セクハラがとまらない場合には,弁護士に相談して,

法的手段にでるかを検討するといいでしょう。

 

 

セクハラが社会問題になっている現状において,

セクハラについてわかりやすくまとめたリーフレットですので,

多くの方々に知ってもらいたくて,紹介させていただきました。

 

 

本日も,お読みいただき,ありがとうございます。

セクハラの同意は厳しく判断されます

セクハラの被害者が,セクハラにNoと言わなかった場合,

セクハラについて同意したと判断されてしまうのでしょうか。

 

 

 

 

本日は,セクハラにおける同意について判断された

重要な最高裁判例を紹介します(海遊館事件・

最高裁平成27年2月26日判決・労働判例1109号5頁)。

 

 

大阪の海遊館という水族館で管理職をしていた男性労働者2名は,

複数の女性従業員に対して,セクハラ発言を繰り返したとして,

出勤停止の懲戒処分(一人は30日間,もう一人は10日間)

を受け,その結果,降格となり,給料が減額となりました。

 

 

1名の男性労働者は,女性従業員に対して,

自分の不倫相手に関することや,自分の性欲について,

次のような発言をしました。

 

 

 

「俺のでかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」

「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」

「でも,俺の性欲は年々ますねん。なんでやろうな。」

 

 

もう1名の男性労働者は,女性従業員に対して,

次のような発言をしました。

 

 

「いくつになったん。」

「もうそんな歳になったん。

結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」

「30歳は,22~23歳の子からみたら,おばさんやで。」

「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん。」

 

 

このようなセクハラが1年ほど続いた結果,

ある女性従業員は,会社を退職しました。

 

 

2名の男性労働者は,出勤停止の懲戒処分は

無効であるとして,裁判を起こしました。

 

 

セクハラを理由とする出勤停止処分について,

一審の大阪地裁は有効と判断し,

二審の大阪高裁は無効と判断し,

最高裁は有効と判断しました。

 

 

二審の大阪高裁は,女性従業員から明確な

拒否の姿勢が示されておらず,加害者である男性労働者は,

上記のセクハラ発言が女性従業員から許されている

誤信していたことなどを理由に,

出勤停止処分は重すぎるとして無効と判断しました。

 

 

 

 

これに対して,最高裁は,加害者である男性労働者は,

管理職としてセクハラ防止のために部下を指導すべき立場

にあるにもかかわらず,1年ほどにわたり繰り返した

セクハラ発言は,女性従業員に対して,

強い不快感・嫌悪感・屈辱感を与えて,

女性従業員の職場環境を著しく害するものであり,

女性従業員の就業意欲の低下や

能力発揮の阻害をまねく行為であると,

厳しく批難しました。

 

 

そして,職場におけるセクハラは,

被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感などを抱きながらも,

職場の人間関係の悪化などを懸念して,

加害者に対する抗議や抵抗,会社に対する被害の申告を

躊躇することが少なくないので,加害者である男性労働者が,

被害者である女性従業員から明確な拒否の姿勢が示されておらず,

上記の言動が許されていると誤信したとしても,

そのことを加害者に有利に扱うべきではないと判断して,

出勤停止処分は有効と判断しました。

 

 

このように,最高裁は,そもそもなぜ被害者である女性が,

職場において男性上司からセクハラを受けてもNoと言えないのか,

というセクハラの本質を的確にとらえ,

加害者がよく主張する被害者の同意をそう簡単には採用しない

と示したものであり,実務に与えるインパクトは大きいです。

 

 

セクハラの被害者は,会社での勤務を継続したい,

セクハラの被害をなるべく少なくしたいと考えて,

やむを得ず,加害者に迎合することがありますが,

それらの事実から,被害者の同意があったと

安易に判断すべきではないのです。

 

 

セクハラに対する世間の目も厳しくなってきていますので,

被害者から好意をもたれているという加害者の勘違いは,

もはや通用しない世の中になってきています。

 

 

本日も,お読みいただき,ありがとうございます。