なぜ労働者は裁判を起こすのか~ディズニーパワハラ訴訟から考える~

以前ブログに記載しましたが,現在,

千葉地裁において,東京ディズニーランドで

着ぐるみをかぶってショーに出演していた

契約社員の女性2人が,過重労働やパワハラで

心身に苦痛を受けたとして,

運営会社であるオリエンタルランドに対して,

損害賠償を請求する裁判が争われています。

 

 

(東京ディズニーリゾートのサイトより)

 

30代の契約社員の女性は,

来場者との記念撮影中に男性客から暴行を受けて負傷したため,

上司に労災申請の協力を求めましたが,上司から

「エンターテイナーなんだから,それくらい我慢しなきゃ」,

「君は心が弱い」と言われて,

労災申請に協力してもらえなかったようです。

 

 

いわゆる労災隠しです。

 

 

会社は,労働者に労災保険を利用されると,

労働基準監督署が労災について会社を調査して,

行政指導や刑事告発をしてくるおそれがあったり,

会社が負担する労災保険料が増額される可能性があるため,

労災事故が発生しても,労働者に労災保険を使わせないように,

はたらきかけることがあります。

 

 

しかし,労災事故が発生した場合,

会社は労働基準監督署に報告する義務

を負っていますので,労災隠しは明らかに違法なことなのです。

 

 

 

 

さらに,30代の契約社員の女性は,

体調が悪かったことを上司に相談したところ,

「30歳以上のババァはいらねーんだよ。辞めちまえ」

と言葉の暴力によるパワハラを受けたようです。

 

 

もうひとりの原告である20代の契約社員の女性は,

10~30キロの着ぐるみを着用してショーに出演し続けたところ,

左腕が重くなりはじめ,休みをとるためには

代わりの出演者を見つけなければならないために休めず,

腕や肩にしびれが生じる胸郭出口症候群を発症したようです。

 

 

労働者が6ヶ月間継続勤務し,8割以上出勤した場合,

会社は,10日間の有給休暇を与えなければならないのですが,

代わりの出演者を見つけなければ休みをとれないのでは,

十分な有給休暇がとれていなかったことが予想されます。

 

 

通常,会社から理不尽な仕打ちを受けた労働者は,

このまま泣き寝入りするか,会社に一矢報いるために

弁護士に相談するか,相当悩みます。

 

 

特に,裁判まで起こすとなれば,

時間とお金がかかりますし,

何かうわさをされるのではないかと不安になるものです。

 

 

それでも裁判を起こす労働者は,

会社の職場環境を少しでもよくしたいという

希望をもって裁判を起こすことがあります。

 

 

 

 

このまま,自分が何もしなければ,

職場はそのままであり,

職場に残ってがんばっている同僚のためにも,

裁判を決意する労働者がいます。

 

 

未払い残業代請求やパワハラの損害賠償請求

の裁判が起こされれば,会社は,弁護士に相談し,

今後,労働者から裁判を起こされないようにするために,

労働基準法などを守るように対策をとるようになります。

 

 

さらに,裁判がマスコミに報道されると,

あの会社は労働者を大切にしないブラックな会社だ

とレッテルをはられてしまい,人を採用したくても,

求人が集まらなくなるリスクも生じます。

 

 

会社も,労働者との裁判を避けたいのです。

 

 

ディズニーパワハラ訴訟の2人の原告も,

上司に相談しても何も変わらず,裁判をすることで,

職場が変わることを願って,提訴したようです。

 

 

裁判をすることは勇気のいることですが,

裁判をすることで,会社の職場環境がよくなることも期待できます。

 

 

泣き寝入りせずに,職場環境をよくするために,会社に一矢報いたい。

 

 

このような労働者の思いを大切にして,

今後とも,労働者をサポートしていきます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

言葉の暴力によるパワハラを受けたら録音しましょう

バカ,ふざけるな,役立たず,給料泥棒,死ね

などの暴言を吐かれるという

パワハラの被害があとを絶ちません。

 

 

パワハラの法律相談で最も多いのが,

言葉による精神的な攻撃です。

 

 

 

 

しかし,このような言葉の暴力の事案には

特有の難しさがあります。

 

 

それは,加害者の暴言をどうやって

証明するかという問題です。

 

 

裁判では,被害者である労働者が,

加害者から具体的な暴言を吐かれたことを

証明できなければ,被害者の損害賠償請求

は認められないのです。

 

 

加害者が,そのような暴言を吐いていないと主張すれば,

被害者は,暴言を吐かれた事実をどうやって証明しようかと

頭を悩ませることになります。

 

 

職場の同僚が加害者の暴言を聞いていたのであれば,

その同僚に証言してもらう方法がありますが,

同僚は,会社からの報復を恐れて,

正直に証言してくれないリスクがあります。

 

 

そこで,私は,言葉の暴力のパワハラの場合,

録音をするようにアドバイスしています。

 

 

 

 

加害者の暴言が録音されていれば,

暴言を吐かれた事実を証明することができます。

 

 

言葉の暴力を録音する場合,

加害者に録音の許可をとる必要はありません。

 

 

加害者に録音の許可を求めると,

加害者は警戒してしまい,暴言を吐かなくなり,

証拠を確保することができなくなるからです

(暴言を辞めさせるためには効果がありますが・・・)。

 

 

それでは,言葉の暴力を秘密に録音していたことが

会社にばれてしまい,秘密録音を禁止するように

求められた場合,どうすればいいでしょうか。

 

 

秘密録音との関係では,労働者の守秘義務が問題になります。

 

 

労働者は,在職中に知り得た企業情報

について守秘義務を負っています。

 

 

ここでいう企業秘密とは,公に知られておらず,

企業の外に漏れると,企業の正当な利益を害する情報です。

 

 

 

 

そのため,労働者が会社の機密情報を秘密録音して,

外部に漏らした場合,守秘義務違反により,

懲戒処分をされる可能性があります。

 

 

しかし,秘密録音の対象が,機密情報ではなく,

パワハラの暴言に限定されているのであれば,

守秘義務違反にはならず,

会社は懲戒処分できないことになると考えます。

 

 

最初に説明したとおり,言葉の暴力によるパワハラを,

労働者が証明するためには,秘密録音が最も効果的ですので,

労働者が自分の身を守るために,秘密録音をして,

録音内容を,パワハラ問題の解決のためだけに

利用する分には,何も問題はないと考えます。

 

 

言葉の暴力によるパワハラの被害にあった場合は,

言葉の暴力を証明するためにも,

こっそりと録音をするようにしましょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラの3つのハードル

平成29年度に全国の総合労働相談コーナーに寄せられた

労働相談の中で,もっとも多かった労働相談は,

「いじめ・嫌がらせ」で,全体の相談のうち23・6%を占めています。

 

 

約4分の1が「いじめ・嫌がらせ」に関する相談であり,

職場におけるパワハラが深刻な問題となっていることを物語っています。

 

 

 

 

深刻なパワハラ問題ですが,パワハラを理由に会社に

損害賠償請求をするには,3つのハードルがあります。

 

 

1つ目は,立証のハードルです。

 

 

「バカ」,「アホ」,「給料泥棒」といった言葉の暴力の場合,

ボイスレコーダーなどで録音しておかないと,

言った言わないの問題となり,

パワハラの事実を証明することが困難となります。

 

 

労働者は,パワハラの事実を証明するために,言葉の暴力を受けた場合,

ボイスレコーダーなどで録音するようにしてください。

 

 

 

 

2つ目は,どのような言動が違法なパワハラと

認定されるのかというハードルです。

 

 

上司が部下のミスを注意・指導することは必要なことであり,

どこまで厳しく叱責すれば,

違法なパワハラになるのかという線引が難しいのです。

 

 

そこで,どのような言動が違法なパワハラと認定されるのかについて,

パワハラの裁判例を分析することが重要になります。

 

 

最近の裁判例ですと,A住宅福祉協会理事らほか事件において,

パワハラによる損害賠償請求が認められました

(東京地裁平成30年3月29日判決・労働判例1184号5頁)。

 

 

この事件では,次のような理事の言動が,

侮辱的かつ威圧的に,繰り返し退職を強要するものであり,

原告の名誉感情を侵害し,社会通念上許される範囲を超えて,

違法なパワハラに該当するとされました。

 

 

「自分の身の振り方を考えてください」

「ほら,返事がないの。業務命令違反になっちゃうよ,ほら」

「働けないという前提で,どうしますか」

「これやらないと,今度,懲戒解雇になるよ。退職金出ないよ」

「著しい障害だろう。おかしくなってるんだろう,

そういう行動をとるということは」

 

 

3つ目は,慰謝料の金額のハードルです。

 

 

労働者がパワハラの事実を立証して,

違法なパワハラだと認められたとしても,

労働者にとって満足できる慰謝料が認められない可能性があります。

 

 

慰謝料の金額は,ケース・バイ・ケースで判断されますが,

おおむね10万~150万円の範囲でしか認められていません。

 

 

上記の事件では,慰謝料の合計が50万円であり,

パワハラの被害者が納得できる金額に届いていないです。

 

 

このように,パワハラ事件は,頻繁に発生しているのですが,

上記の3つのハードルがあることから,

労働者が泣寝入りしてしまうことも多いのが現実です。

 

 

 

 

そこで,労働者が泣寝入りしないように,

せめて,2つ目のハードルである,

どのような言動が違法なパワハラになるのかについて,

法律で明確にするべきなのです。

 

 

法律で明確に禁止されるべきパワハラの類型が定められれば,

人は禁止される行為を控えるようになって,

パワハラが減少していく可能性があります。

 

 

現在,労働政策審議会において,

パワハラを禁止する法律を制定するかが議論されています。

 

 

パワハラで苦しむ労働者を少なくするためにも,

パワハラを禁止する法律の制定を実現させたいので,

下記のサイトにおいて電子署名にご協力いただければ幸いです。

 

 

http://ur0.work/Mu9I

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラの定義とは?

現在,労働政策審議会において,

パワハラの定義をどのように定めるかが議論されています。

 

 

職場のパワハラ防止対策に関する検討会報告書では,

次の3つの要素のいずれも満たすものが

職場のパワハラとして整理されています。

 

 

①優越的な関係に基づいて行われること

 ②業務の適正な範囲を超えて行われること

 ③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること,

または就業環境を害すること

 

 

 

 

労働政策審議会では,労働者側は,上司だけではなく,

同僚や部下からのパワハラもあるので,

①の「優越的な関係に基づき」という言葉は,

パワハラの定義を狭めるので,パワハラの定義を

もっと拡大するべきだと主張しています。

 

 

他方,経営者側は,パワハラの定義を狭くしないと,

上司が部下を指導することが困難になり,

人材が育たなくなると主張しています。

 

 

労働者側の言い分も,経営者側の言い分もよくわかります。

 

 

それだけ,パワハラの定義を決めるのは難しいということなのです。

 

 

パワハラの法律相談を受けていると,

なぐるけるといった暴力の場合や,

「バカ」,「役立たず」,「給料泥棒」などの暴言の場合は,

わりと簡単にパワハラだと判断できるのですが,

それ以外の場合は,パワハラといえるのか判断に迷うことがほとんどです。

 

 

例えば,次のようなケースで考えてみます。

 

 

男性の正社員が,新人の女性派遣社員と休憩時間に

仲良くしていたところ,男性の正社員は,上司から,

女性派遣社員を休憩時間中にあまり誘わないようにと指導されたとします。

 

 

 

 

男性正社員としては,たんに女性派遣社員と

コミュニケーションをしているだけだったのに,上司から,

職場の人間関係についてとやかく言われて不快に感じると思います。

 

 

他方,上司としては,男性正社員が,

女性派遣社員からセクハラと言われないように気をつけなさい

というアドバイスをしただけだったかもしれません。

 

 

また,指導の回数も1回だけであり,

しつこく女性派遣社員との関係を詮索されたのでないのであれば,

上記の②の「業務の適正な範囲」を超えていない指導と判断されて,

パワハラとはいえないと考えられます。

 

 

ただ,女性派遣社員が何も苦情を言っていないのに,

上司から何度も女性派遣社員との関係を詮索されたりすれば,

男性正社員のプライバシーに過度に踏み込むことになりますので,

上記の②の「業務の適正な範囲を超えて行われる」指導として,

パワハラと判断される可能性があります。

 

 

このように,会社内における上司の言動が

パワハラに該当するかは,非常に微妙で判断が難しいものです。

 

 

そのため,パワハラの定義をある程度法律で明確にした方が,

どこまでがだめで,どこまでなら大丈夫という

線引がしやすくなるのではないかと考えます。

 

 

なお,職場内のコミュニケーションが十分とられていて,

信頼関係が構築されているのであれば,

パワハラと言われることはないのだと思います。

 

 

今後,上司は,部下との信頼関係を構築するために,

コーチングなどのコミュニケーションのスキル

を学ぶ必要があると考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラによるアイドルの自殺

松山市を拠点とする農業アイドル愛の葉Girls

のメンバーだった大本萌景さん(当時16歳)が自殺したのは,

過重労働やパワハラなどが原因であったとして,

遺族が所属していた会社Hプロジェクトなどに対して,

約9200万円の損害賠償請求訴訟を松山地裁に起こしました。

 

 

(弁護士ドットコムニュースより抜粋)

 

遺族が主張する過重労働は,

早いときには午前4時30分に集合し,

解散は翌日の午前2時ころになるなどの長時間の拘束,

平日もイベントに駆り出され,休みの日がほとんどなく,

学業よりも仕事を優先させられたなどというものです。

 

 

また,遺族が主張するパワハラは,

スタッフに脱退したい旨を伝えると,

LINEで「次また寝ぼけた事言い出したらマジでブン殴る」と返信され,

休日を希望すると「お前の感想はいらん」,

「その理由によって,今後事務所はお前の出演計画を考えにゃならん。

そこまで考えて物を言え」と返信されたとなどというものです。

 

 

過重労働については,大本さんが自殺前の6ヶ月間に,

どれだけの時間,労働していたかが重要なポイントになります。

 

 

アイドルの場合,タイムカードとかがなさそうですので,

どうやって労働時間を証明するのかが気になります。

 

 

 

 

大本さんは,当時16歳でしたので,過重労働が真実であれば,

会社は,労働基準法の年少者の保護規定に違反したことになります。

 

 

労働基準法60条で,15歳以上18歳未満の年少者については,

36協定による残業や休日労働が禁止されています

 

 

ただし,1週間の労働時間が40時間をこえない限り,

1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合においては,

1日に労働時間を10時間まで延長することが可能となります。

 

 

また,労働基準法61条により,

満18歳に満たない年少者については,

午後10時から午前5時までの深夜の時間帯

に働かせることが禁止されています。

 

 

会社が労働基準法の年少者の保護規定を守っていなかったとすれば,

会社が労働者の生命や健康に配慮しなければならない義務

安全配慮義務といいます)に違反していたといいやすくなると考えます。

 

 

また,パワハラについては,パワハラの事実を

どうやって証明するのかがハードルになります。

 

 

しかし,本件においては,LINEのメッセージが残っていたので,

パワハラの事実は証明できると遺族側は考えたのだと思います。

 

 

16歳の女子学生に対して,

上記のようなLINEのメッセージを送ることは

パワハラに該当すると考えられますが,

他のパワハラ事件では,どの程度までいけば,

違法なパワハラになるのかについて線引が難しいことが多いです。

 

 

そこで,現在,労働政策審議会において,

職場でのハラスメントを法律で禁止して,

パワハラ防止を企業に義務付ける法律を

制定するべきかが議論されています。

 

 

 

 

アイドルのパワハラによる自殺という痛ましい事件によって,

パワハラを防止する機運が高まっていますので,

パワハラ防止策の法制化をぜひ実現してもらいたいです。

 

 

こちらのURLにアクセスしていただくと,

パワハラ禁止の法律作成の電子署名のサイトがありますので,

ぜひ電子署名にご協力いただければ幸いです。

 

 

http://ur0.work/Mu9I

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラ行為と自殺との因果関係

今年はスポーツの世界でパワハラがよく問題になっています。

 

 

レスリング,体操,駅伝など,多くのスポーツで,

パワハラ問題がマスコミで報道されています。

 

 

(https://dot.asahi.com/aera/2018090300059.htmlから抜粋)

 

このパワハラですが,労働の世界では,

もっと悲惨な結果が発生しているのです。

 

 

上司のパワハラを苦に自殺してしまう事件が後を絶たないのです。

 

 

パワハラを苦に自殺した事件では,

パワハラ行為と自殺との間に因果関係があるのか

ということが争点になります。

 

 

本日は,パワハラを苦に自殺した労働者の遺族が,

会社と上司に損害賠償請求の裁判を起こした事件の裁判例を紹介します

(名古屋高裁平成29年11月30日判決・判例時報2374号78頁)。

 

 

青果物の仲卸業の会社に勤務していた女性労働者が,

上司から「てめえ。」,「あんた,同じミスばかりして。」,

「親に出てきてもらうくらいなら,社会人としての自覚を持って

自分自身もミスのないようにしっかりしてほしい。」

などと厳しい口調で叱責されていました。

 

 

女性労働者が配置転換となった後にも,

この上司から頻繁に呼び出しがあり,叱責されていました。

 

 

 

 

このような上司の一方的に威圧感や恐怖感を与える叱責は,

女性労働者にとって大きな心理的負荷となり,

配置転換後の業務過剰とあいまって,

心理的負荷の程度は全体として「強」に相当すると判断されました。

 

 

また,女性労働者の配置転換後の時間外労働が増加していたこと,

身なりにかまわなくなったこと,

食欲が減退し,趣味に関するツイート数が大幅に減少し,

上司から叱責されて落ち込んでいたことから,

女性労働者はうつ病に罹患していたと判断されました。

 

 

自殺した労働者は,生前に精神科へ通院していないことも多いのですが,

そのような場合でも,生前の労働者の行動から,

うつ病に罹患していたと判断されることがあります。

 

 

 

 

その上で,女性労働者の心理的負荷は,

うつ病を発症させる程度に荷重なものとなっていたことから,

会社が上司のパワハラ行為について適切な対応をとらずに

業務内容の見直しをしなかったことと,

女性労働者がうつ病を発症して自殺したこと

との間に因果関係が認められました

 

 

他方,上司のパワハラのみでは,

うつ病を発症させる程度に荷重であったとはいえず,

上司のパワハラ行為とうつ病発症による自殺との間に

因果関係は認められませんでした。

 

 

その結果,会社に対しては,女性労働者の死亡による損害が認められ,

パワハラをした上司に対しては,慰謝料50万円が認められました。

 

 

会社に対する多額の損害賠償請求が認められたので,

パワハラをした上司個人に対しても多額の損害賠償請求を認めるのは

酷だと裁判所が判断したのかもしれません。

 

 

上司のパワハラ行為とうつ病発症による自殺との

因果関係は否定されましたが,

会社が上司のパワハラ行為を止めずに,かつ,

業務内容の見直しをしなかったことで,

会社の安全配慮義務違反とうつ病発症による自殺との

因果関係が認められたのです。

 

 

このように,パワハラ行為以外の出来事と全体評価することで,

うつ病発症による自殺との因果関係が認められることがあります

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラ事件における3つのハードル

パワハラの法律相談を受けていると,次の3点が問題となります。

 

 

①パワハラを証明する証拠があるか

(ボイスレコーダーなどでやりとりを録音していれば,

この問題はクリアできる可能性があります)。

 

 

②損害賠償請求が認められるほど酷いパワハラと判断されるのか

(どのような言動であれば,違法なパワハラといえるのか)。

 

 

③損害額が小さい(パワハラでうつ病になった場合ですと,

治療費,休業損害,慰謝料が損害となりますが,

損害賠償額があまり多くなりません)。

 

 

この3つのハードルがあるため,パワハラの法律相談を受けても,

「会社や上司に対して,損害賠償請求をしたほうがいいですよ」

とアドバイスしにくいのが現状です。

 

 

 

 

また,パワハラでうつ病になった場合,

労災申請をすることも検討しますが,損害賠償請求と同様に,

①パワハラを証明する証拠があるのかが問題となりますし,

労災と認定される件数が少ないのが現状です。

 

 

このようにパワハラの案件では,損害賠償請求まで行き着くのに

ハードルがありますが,パワハラの損害賠償請求が認められた

裁判例がありましたので,紹介します。

 

 

建築会社で働いていた労働者が上司からパワハラを受け,

うつ病を発症して働けなくなったとして,

パワハラをした上司と会社を訴えました

(名古屋地裁平成29年12月5日・判例時報2371号121頁)。

 

 

なお,この原告の労働者は,裁判を起こす前に,

労災の申請をして,うつ病発症前6ヶ月の間に,

「ひどい嫌がらせやいじめ,又は暴力を受けた」,

「達成困難なノルマを課された」という出来事があり,

心理的強度の負荷が「強」と判断されて,労災認定されました。

 

 

労災の認定があると,裁判でも,

パワハラがあったと認定されやすくなります。

 

 

裁判所が認定した上司のパワハラは次のとおりです。

 

 

 

 

・上司は原告に対し,社内の雰囲気が緩むとして,

他の社員と接触しないように定時よりも早く帰社して

タイムカードに打刻した上で夜の営業にいくように指示しましたが,

この指示に従った原告に対して,「なんでこんなに早く帰ってきたのか。

他の社員がまだがんばって外回りしているのに,何を考えているのだ」

と叱責しました。

 

 

・「お前は営業センスがないから退職を考えたほうがいい」

と言って退職勧奨しました。

 

 

・上司は,病気休暇あけの原告に対し,

「これだけ休んでおいて,新規顧客はないのか。

一度ケツをわった人間がのこのこ帰ってこられると思うなよ。

新規顧客をそろえなかった場合には,今度こそ引導を渡すからな」,

「支店長もおまえはガンだと言っている」と言って,

過酷なノルマをかして,侮辱しました。

 

 

・上司は,原告に対し,「支社に顔を出すな。

おまえみたいながんウイルスがいると会社の雰囲気が悪くなるし,

みんなにうつるから直行直帰で仕事をするように」

と言って,侮辱しました。

 

 

・上司は,原告に対し,「会社にいる必要はない。辞めてほしい。

使えない社員がいると分母が広がって目標達成できない」,

「お前,キモいねん。もういいからお願いだから辞めてくれ」

と言って,退職勧奨をしました。

 

 

判決文からは,原告が上司の言動をどうやって証明したのかは

よくわかりませんが,さすがにこんな酷いことを言われたのであれば,

違法なパワハラと認定されます。

 

 

さらに,会社は,パワハラの研修をしたり,

パワハラの抜き打ち調査をするなど一定の措置をとっていましたが,

それが奏功していなかったとして,

上司の選任や監督について相当の注意をしていないとして,

会社に対する責任が認められました。

 

 

上司のパワハラが認定されて,上司と会社に責任が認められたのですが,

慰謝料は100万円となりました。

 

 

パワハラの事件では,慰謝料100万円は高い方ですが,

交通事故の慰謝料は,後遺障害が一番低い14級でも

慰謝料110万円なので,交通事故と比較すると

慰謝料の金額が低いことがわかります。

 

 

パワハラの慰謝料の金額が高くなれば,

そんなに高額な慰謝料を支払いたくないから

パワハラをしないように気をつけようと考える人が多くなって,

パワハラの予防になるのではないかと思います。

 

 

今後は,パワハラ事件の慰謝料の金額が

増額されていくことを期待したいです。

休日の朝に出勤を命じることはパワハラか

教師が休日の朝に突然,校長や教頭から

「今すぐ出勤して」という連絡を受けた場合,

このような連絡はパワハラにあたるのでしょうか。

 

 

また,教師がこの連絡に従って休日に働いた場合,

休日労働の割増賃金を請求することができるのでしょうか。

 

 

まず,休日労働の朝に出勤を命じることが

パワハラに該当するかについて検討します。

 

 

そもそも,職場のパワハラとは,

同じ職場で働く者に対して,

職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,

業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える

又は職場環境を悪化させる行為と定義されています。

 

 

 

 

そして,厚生労働省は,職場のパワハラに

あたりうる行為類型として,以下の6つをあげています

職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告)。

 

 

①身体的な攻撃(暴行・傷害)

②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)

③人間関係からの切り離し(隔離・仲間はずし・無視)

④過大な要求

(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制,仕事の妨害)

⑤過小な要求(業務上の合理性なく,

能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

 

 

もっとも,上記の6類型は,職場のパワハラのすべてを

網羅するものではなく,最終的に損害賠償請求できる

違法なパワハラか否かは,社会通念に照らして

ケースバイケースで判断することになります。

 

 

パワハラが人事権の行使のかたちで行われた場合には,

次の3つの基準に照らして違法か否かが判断されます。

 

 

ア 当該業務命令が業務上の必要性に基づいているか

イ 当該業務命令が退職強要目的など社会的にみて

不当な動機・目的に基づきなされたか

ウ 当該業務命令が労働者に対して

通常甘受すべき程度を超える不利益を与えたか

 

 

さて,休日の朝に出勤を命じることは,

パワハラの6類型には該当しません。

 

 

また,仮に,休日にしなければならない仕事があり,

嫌がらせ目的もなく,代休が与えられているのであれば,

損害賠償請求できる違法なパワハラとはいえないと考えられます。

 

 

次に,教師は,休日労働した場合に,

割増賃金を請求できるのかについて検討します。

 

 

 

公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法

(「給特法」といいます)第3条2項には

教育職員については,時間外勤務手当及び休日勤務手当は,支給しない。

と定められています。

 

 

教師に対しては,以下の「超勤4項目」の場合以外は,

原則として時間外勤務を命じないこととされています。

 

 

①校外実習その他生徒の実習に関する業務

②修学旅行その他学校の行事に関する業務

③職員会議に関する業務

④非常災害などのやむをえない場合の業務

 

 

そして,教師に対して,残業代が支払われない代わりに,

給料月額の4%に相当する教職調整額が支給されています。

 

 

しかし,実際には上記の超勤4項目以外の業務を

時間外や休日にせざるをえないことはよくあるものの,

実務上は残業代は支払われません。

 

 

結論として,教師は,休日労働しても割増賃金を請求するのは困難です。

 

 

もっとも,教師が休日に勤務することが命じられて勤務した場合,

代休が与えられます。

 

 

本来,休日に勤務を命じることは,

労働者のワークライフバランスの観点から負担が重く,

また,教師の場合は,超勤4項目でしか

休日の勤務を命じることができないのですが,

実際は,超勤4項目以外でも休日労働がまんえんしています。

 

 

教師の労働環境を改善するためにも,

給特法を廃止して,教師にも労働基準法に基づいて

残業代が支払われるようにするべきと考えます。

会社の一連の行為をパワハラと捉える

上司や社長から,どの程度のことをされたら,

違法なパワハラになるのでしょうか。

 

 

パワハラの法律相談を受けると,違法なパワハラとして

慰謝料を請求できるかについて判断に迷うことがあります。

 

 

 

 

違法なパワハラかどうかを検討する際に,

参考となる裁判例がありましたので紹介します

(東京高裁平成29年10月18日判決・

A社長野販売ほか事件・労働判例1179号・47頁)。

 

 

前の社長が交際費などについて不正な会計処理をしており,

経理を担当していた原告は,前の社長の指示に従い,

会計処理をしていました。

 

 

新しい社長が就任して,前の社長の不正な会計処理が発覚し,

原告に対する調査の中で,新しい社長が,

原告に対して,以下のような発言をしました。

 

 

「私ができないと思ったら降格してもらいます。」

「人間,歳をとると性格も考え方も変わらない。」

「自分の改革に抵抗する抵抗勢力は異動願いを出せ。

50代はもう性格も考え方も変わらない。」

「こいつらの給料で派遣社員なら何人雇える。

若いのを入れてこき使った方がいい。」

「泥棒しなさいと言われたら,泥棒するのか。」

「前任者が言ったことを何でもするのか。子供の使いじゃない。」

「意識のレベルが低い。」

「倉庫に行ってもらう。」

「今までみたいに事務員を優遇しない。

全員がそれほど仕事ができると思っていない。」

「人事権ももっている。」

「会社としては刑事事件にできる材料があり,

訴えることもできるし,その権利を放棄していない。」

「裁判所に行きましょうかという話になる。」

「辞めてもいいぞ。」

 

 

これらの社長の言動については,労働基準監督署

のアドバイスを受けて録音されていました。

 

 

 

その上で,降格処分によって給与が14万円減額され,

賞与を30%減額されてしまい,

原告はやむなく自己都合退職しました。

 

 

さらに,自己都合退職のため,会社都合退職

の場合に比べて,退職金が減額されました。

 

 

原告は,上記一連の行為が違法なパワハラであると主張して,

慰謝料などを請求する裁判をおこしました。

 

 

まず,降格処分について,不正会計は,

前の社長の指示であり,会計事務所からも

問題点を指摘されていなかったので,

原告が不正会計と認識していなくても

やむをえなかったものであり,降格処分の前提

となる懲戒事由がないので無効となりました。

 

 

次に,賞与の減額について,

前の社長の評定が高くて支給額が高いという理由だけで,

恣意的に賞与の減額査定をしているとして,

賞与の減額も無効とされました。

 

 

そして,上記の今の社長の言動や,

無効な降格処分と賞与の減額により,

原告は退職せざるをえない状況に追い込まれたことから,

今の社長の一連の行為は,退職を強要するもの

として違法と判断されました。

 

 

さらに,原告の退職は強要されたものであり,

自己都合退職ではなく,会社都合退職として扱うべきとされました。

 

 

 

その結果,パワハラの慰謝料100万円,

降格処分がされる前との差額賃金,

減額される前の賞与との差額,

会社都合退職による退職金の差額の請求が認められました。

 

 

本件では,労働基準監督署のアドバイスに従って,

今の社長の言動を録音していたので,

パワハラの実態を証明することに成功しました。

 

 

パワハラにあったら,まずは録音して証拠を集めることが重要です

 

 

また,見せしめや報復として,

会社が降格処分や賞与の減額をしてくることもありますが,

それらも一連の行為としてパワハラと認定されることがあります。

 

 

パワハラを苦に自己都合退職しても,退職強要になれば,

会社都合退職の退職金を請求できる可能性があります。

 

 

パワハラへの対処法を教えてくれる裁判例

として紹介させていただきました。

ハラスメント禁止の世界基準作り

国際労働機関(ILO)は,働く場での

暴力やハラスメントをなくすための条約

をつくる方針を決めました。

 

 

 

ILOがハラスメントをなくすための条約を作成し,

日本がその条約を批准すれば,今の日本には,

ハラスメントを禁止する法律がないので,

日本は,ハラスメントを禁止する法律を

整備しなければならなくなります。

 

 

ハラスメントを禁止する法律が成立すれば,

労働者は,これまでは泣き寝入りを強いられていたのが,

ハラスメントは違法であると訴えやすくなります。

 

 

また,会社は,職場でハラスメントが起きると,

労働者から訴えられるリスクがありますので,

そのリスクを回避するために,積極的に

ハラスメントを防止する対策をとるようになります。

 

 

労働問題の法律相談を受けていると,

職場のパワハラに関する相談が

多くなっていると実感しています。

 

 

6月8日に実施された,日本弁護士連合会主催の

労働ホットライン(電話による労働の法律相談)では,

金沢弁護士会に8件の電話相談があり,

そのうち3件がパワハラに関する相談でした。

 

 

労働局の労働相談においても,

「いじめ・嫌がらせ」が年々増加しており,

相談内容の中ではパワハラが一番多いようです。

 

 

 

 

今最も労働者が悩んでいるハラスメント

を防止するためには,職場におけるハラスメント

が許されない行為であることを社会に広く知ってもらい,

会社に対して,職場におけるハラスメントの

予防・解決のための措置義務を課す必要があります。

 

 

さて,ハラスメントに関して,判例を一つ紹介します。

 

 

パワハラを苦に自殺した労働者の遺族が,

会社に対して損害賠償請求をした事件において,

合計5574万6426円の損害賠償請求が認められました

(乙山青果ほか事件・

名古屋高裁平成29年11月30日判決・

労働判例1175号26頁)。

 

 

本判決では,社会通念上許容される

業務上の指導の範囲を超えて

精神的苦痛を与える注意・叱責行為(パワハラ)

を会社が制止したり,改善するように

注意・指導する義務が会社にはあり,

本件会社は,その義務を怠ったと認定されました。

 

 

また,会社は,労働者の自殺を予見すること

ができなかったと争いましたが,

会社が労働者のうつ病発症の原因となる事実や状況

(パワハラが行われていたのに会社が何もしなかったこと)

を認識し,あるいは容易に認識することができた場合には,

労働者が業務上の原因で自殺することを

予見することが可能であったとされました。

 

 

パワハラによって労働者がうつ病になり,

自殺することが現実に起きている時代状況にてらして,

会社の予見可能性を広く捉えたのです。

 

 

現実に,ハラスメントを苦に自殺する悲劇が起きているので,

ハラスメントを禁止する法律が早急に制定することが重要であります。

 

 

ILOで,どのような内容の条約が

制定されるのか注目していきます。