ハラスメント事件における実務対応

1 日本労働弁護団第63回全国総会に参加してきました

 

 

11月8日と9日に,岡山市で開催された

日本労働弁護団第63回全国総会へ参加してきました。

 

 

(徳住堅治団長のごあいさつ)

 

 

労働者側で労働事件を多く担当している弁護士が全国から集まり,

最近の労働法制の動きや,担当している事件の報告があり,

最新の知識と情報を入手できるので,私は,毎年参加しています。

 

(棗一郎幹事長のご報告)

 

 

今年は,総会後に,スタディグループという,

先輩弁護士から実務でよく問題になる争点について,

ノウハウを教えてもらえる勉強会が開催されました。

 

 

私は,「ハラスメント事件における実務対応」の

スタディグループに参加してきました。

 

 

講師の先生は,福井の海道宏実先生,

埼玉の金子直樹先生,大阪の大橋さゆり先生の3名です。

 

 

 

総会が終わって,通常であれば,すぐに帰るか,

観光にいくかという時間帯でしたが,

若手から中堅の弁護士が70人ほど参加しており,

いかにハラスメント事件への対応に関心が強いのかがよくわかります。

 

 

2 ハラスメント事件は悩ましい

 

 

それもそのはず,今では,労働事件の法律相談で

最も多いのがハラスメント事件です。

 

 

そして,ハラスメント事件は,

①立証の問題,

②ハラスメントと業務指導の線引の問題,

③慰謝料額の問題

という3つのハードルがあるため,

弁護士にとって,法律相談の対応が難しいのです。

 

 

ハラスメントを受けて苦しんでいる方が目の前にいるのに,

証拠がなかったり,業務指導との線引が難しかったり,

認められる慰謝料の額が少なかったりして,

依頼を断らざるをえないこともしばしばあります。

 

 

3名の経験豊富な先生のお話をお聞きして,

この悩みは労働者側の弁護士の共通の悩みなのだと痛感できました。

 

 

3 実践から学ぶ主張・立証・対応の工夫

 

 

それでは,今回のスタディグループで得た気づきを,

アウトプットします。

 

 

パワハラの労災では,1回だけの暴言だけでは,

心理的負荷が強とは認められず,

執拗に行なわれていなければならないので,ハードルが高い。

 

 

・パワハラの労災では,パワハラの出来事以外にも,

1ヶ月100時間を超える時間外労働などの

他の要素と組み合わせることで,

心理的負荷が強であったと主張していく。

 

 

・相談者がまだ在職中であれば,

会社に出社する直前にICレコーダーで録音を開始し,

会社を退社した後に録音を停止することで,パワハラの証拠をつかむ。

 

 

 

・相談者がパワハラのことを上司に相談していた場合には,

相談者から上司に電話をさせて,

パワハラの相談したことを確認させて,

それを録音するという方法がある。

 

 

・相談者が精神科の医師にパワハラの出来事を話しており,

それがカルテに記載されていれば,有効な証拠になる

(医師に嘘をつくことはないから)。

 

 

・残業代請求や解雇を争うときに,

パワハラの慰謝料をセットで請求する。

 

 

・パワハラ事件で弁護士が代理人としてアクションを起こす前に,

精神科の医師に意見を求めることがある。

 

 

労災の再審査請求では,黒塗りされていない事件プリントが入手できる。

 

 

・大企業における自殺事件では,

顧問弁護士が既に調査していることがあるので,

調査結果を証拠保全手続で獲得する。

 

 

・証拠保全手続でメールをおさえる場合,

誰の誰へのいつのメールというかたちで特定する。

 

 

先輩弁護士からの貴重な経験談を聞くことができましたので,

早速,日々の事件対応で活用していきます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

部下から上司に対する逆パワハラ

1 産業医科大学の逆パワハラ事件

 

 

産業医科大学の医学部の教授が,

部下に大勢の医局員の前で謝罪するように強要されたり,

病院の外で誹謗中傷されたりしたとして,

部下及び大学に対して,損害賠償請求の訴訟を提起しました。

 

 

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191028-00010000-nishinpc-soci

 

 

部下の上司に対する,いわゆる逆パワハラ

ということで注目されています。

 

 

本日は,逆パワハラについて,検討します。

 

 

2 パワハラの定義

 

 

まず,今年の通常国会で成立した改正労働施策総合推進法において

定義されたパワハラとは,

①優越的な関係を背景とした言動であって,

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,

③労働者の就業環境が害されるもの,

というものです。

 

 

 

通常,パワハラは,上司から部下に対して行なわれることが多く,

その場合には,①優越的な関係を背景とした言動という要件を満たします。

 

 

しかし,部下から上司に対するパワハラの場合,通常,

上司は,部下に対して指導監督することができる立場にあるので,

①優越的な関係を背景とした言動という要件を

満たさないのではないかが問題となります。

 

 

ここで,部下から上司に対するパワハラが問題になった

労災の裁判例を紹介します。

 

 

3 逆パワハラの裁判例

 

 

1つは,国・渋谷労基署長(小田急レストランシステム)事件の

東京地裁平成21年5月20日判決(労働判例990号119頁)です。

 

 

この事件では,部下が上司について,売上を着服している,

金庫から金銭を盗んだ,女性社員にセクハラをしている,

などが記載されている中傷ビラを配布し,

上司がその対応におわれ,店長の職を解任されました。

 

 

その後,この上司はうつ病を発症し,自殺しました。

 

 

裁判では,部下とのトラブルが他の事情とあいまって,

強い心理的負荷が生じていたとして,労災と認められました。

 

 

もう1つは,京都地裁平成27年12月18日判決です。

 

 

この事件では,部下が上司のことを,

「給与が高いくせに仕事ができない」などと言い,

部下が,病気で字がうまく書けない上司に対して,

「日本語わかっていますか」という辛辣な発言をしました。

 

 

その後,この上司は,うつ病に罹患しました。

 

 

裁判では,部下とのトラブルがあったとして,

心理的負荷の強度は中でしたが,総合評価で強となり,

労災と認められました。

 

 

部下から上司の逆パワハラの場合,

①上司の業務上の経験や適性の有無,

②上司の部下に対する監督権限の有無,

③部下の不適切な行動を容認するような状況,

といった要素をもとに,

部下の上司に対する優越的な関係を背景とした言動といえるかが

検討されます。

 

 

 

4 職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案の問題点

 

 

なお,先日公表された「職場におけるパワーハラスメントに関して

雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案」において,

優越的な関係を背景とした言動については,

当該言動を受ける労働者が行為者に対して

抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として

行なわれるものとされました。

 

 

その具体例として,次のことが例示されました。

 

 

同僚または部下による言動で,当該言動を行う者が

業務上必要な知識や豊富な経験を有しており,

当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの

 

 

同僚または部下からの集団による行為で,

これに抵抗または拒絶することが困難であるもの

 

 

部下から上司に対する逆パワハラも,

優越的な関係を背景とした言動に含まれることが明らかとなりました。

 

 

しかし,抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係

という解釈では,パワハラに該当する言動が不当に狭められてしまい,

パワハラの被害救済に支障が生じるおそれがあると考えます。

 

 

そのため,抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係

という解釈を,もっと被害者救済に有利に改善していく必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラに該当する具体例と会社のパワハラ防止措置義務の具体化

1 パワハラに該当する例と該当しない例

 

 

昨日に引き続き,厚生労働省が公表した,

職場におけるパワーハラスメントに関して

雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案」について解説します。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000559314.pdf

 

 

今回の素案には,改正労働施策総合推進法に規定された

パワハラの定義の解釈以外に,具体的に,

このようなケースではパワハラに該当する,若しくは,該当しない,

というように例示されています。

 

 

脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言の類型では,

パワハラに該当する例としては,次のものが挙げられています。

 

 

 

・ 人格を否定するような発言をすること

 

 

・ 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる

厳しい叱責を繰り返し行うこと

 

 

・ 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと

 

 

・ 相手の能力を否定し,罵倒するような内容の電子メール等を

当該相手を含む複数の労働者宛に送信すること

 

 

他方,パワハラに該当しない例としては,次のものが挙げられています。

 

 

・ 遅刻や服装の乱れなど社会的ルールや

マナーを欠いた言動・行動が見られ,

再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注意すること

 

 

・ その企業の業務の内容や性質等に照らして

重大な問題行動を行った労働者に対して,強く注意をすること

 

 

一見すると,まあそうかなと思う例が記載されています。

 

 

しかし,上記のパワハラに該当しない例をみると,

労働者側に問題行動があり,それに対する強い叱責であれば,

パワハラに該当しないように捉えられてしまう

おそれがあることに注意が必要だと思います。

 

 

たとえ,労働者側に問題行動があり,

それを正すために業務指導が必要になるのはわかりますが,

その業務指導が度を過ぎて,労働者の人格を否定する言動がされれば,

それはパワハラに該当します。

 

 

そのため,パワハラに該当しないと考えられる例は,

あくまで参考例にすぎず,これを会社の免罪符にしてはなりません。

 

 

やはり,事案ごとに,パワハラに該当するかについて,

様々な要素を考慮して,

証拠に基づいて認定していくことが重要になります。

 

 

2 会社のパワハラ防止措置義務の具体化

 

 

次に,今回の素案において,会社のパワハラ防止措置義務の

具体的な内容が明確化されました。

 

 

 

・ 職場においてパワハラをおこなってはならない旨の方針を明確化し,

研修や講習などをつうじて,労働者に周知啓発すること

 

 

・ 就業規則にパワハラを行った労働者に対する懲戒規定を定めて,

労働者に周知啓発すること

 

 

・ パワハラの相談窓口を整備して,労働者に周知すること

 

 

・ パワハラの相談があった場合には,

事実関係を迅速かつ正確に確認し,

パワハラの事実が確認できた場合には,

加害者と被害者を引き離すために配置転換を実施し,

加害者に謝罪をさせ,

加害者に対する必要な懲戒処分を実施する,

などの措置を講ずること

 

 

この中で,相談窓口の整備が肝になると考えます。

 

 

会社にパワハラの相談窓口ができたので,

パワハラの被害者が相談したけれども,

会社が何もしてくれなくて,パワハラの被害が継続した,

という事態にならないようにする必要があります。

 

 

神戸市の東須磨小学校の教員同士のいじめ問題では,

被害者が学校管理者にいじめの被害を相談したけれども,

放置されて,いじめの被害が継続したので,

パワハラやいじめの相談に対しては,

適切に対処しなければなりません。

 

 

そのためには,パワハラの相談窓口には,

当事者の話を真摯に傾聴するスキル,

守秘義務やプライバシーを遵守する倫理観

などを備えた人材を配置するべきです。

 

 

可能であれば,パワハラの相談窓口の担当者は,

会社から独立して利害関係のない外部の人物がふさわしいです。

 

 

とにかく,パワハラの被害者が安心して,

パワハラの相談窓口に相談できる仕組みを

作っていくことが重要になると思います。

 

 

今回の素案が,労働者にとって

よい方向に改善されることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラの定義が具体化されます~職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案~

1 パワハラの定義

 

今年の通常国会において,労働施策総合推進法が改正されて,

30条の2第1項に,パワハラの定義が初めて法律に規定されました。

 

 

改正労働施策総合推進法30条の2第1項で規定された,

パワハラの定義とは,次のとおりです。

 

 

①職場において行なわれる優越的な関係を背景とした言動であって,

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,

③労働者の就業環境が害されること

 

 

 

この①から③の要件を満たせば,

違法なパワハラに該当することになります。

 

 

もっとも,この①から③の要件は,抽象的であるため,

具体的にどのような言動が違法なパワハラに該当するのかが,

はっきりせず,適法な業務指導と違法なパワハラの線引を

どうするかが問題となります。

 

 

2 職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案

 

 

そこで,厚生労働省は,この①から③の解釈について,

指針を作成する作業をすすめており,10月21日に,

その指針の素案を公表しました。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000559314.pdf

 

 

まず,①職場において行なわれる優越的な関係を背景とした言動

について,当該事業主の業務を遂行するに当たって,

当該言動を受ける労働者が行為者に対して

抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を

背景として行なわれるもの,とされています。

 

 

通常,パワハラは,上司から部下に対してなされるものですが,

場合によっては,部下から上司に対する言動や,

同僚から同僚に対する言動も,パワハラに該当する場合があります。

 

 

そのため,「優越的な関係」については,広くとらえることで,

パワハラによる被害を広く救済することにつながると考えます。

 

 

しかし,今回の素案の

「抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係」

という解釈では,パワハラの被害者が嫌がって少し

抵抗や拒絶をした場合には,

違法なパワハラに該当しなくなるリスクがあります。

 

 

すなわち,「抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係」

という解釈では,パワハラを限定することにつながり,

パワハラの被害が切り捨てられるリスクがあります。

 

 

私個人としては,優越的な関係の解釈は,もっと広く,

パワハラの被害が含まれるようにするべきだと考えます。

 

 

 

次に,②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものについて,

社会通念に照らし,当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要がない,

またはその態様が相当でないもの,とされています。

 

 

そして,この判断をするには,

当該言動の目的,

当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む

当該言動が行なわれた経緯や状況,

業種・業態,

業務の内容・性質,

当該言動の態様・頻度・継続性,

労働者の属性や状況,

行為者との関係性

などの要素を総合的に考慮されることになります。

 

 

②の要件については,言葉の性質上,

これ以上具体化はできないと思いますので,

判断要素が具体化されたのは良かったと思います。

 

 

今後のパワハラの損害賠償請求において,

上記の要素を検討していくことが重要になると思います。

 

 

最後に,③就業環境を害することについて,

当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ,

労働者の就業環境が不快なものとなったため,

能力の発揮に重大な悪影響が生じる等

当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること,

とされました。

 

 

看過できない程度の支障という表現で,

パワハラの範囲が制限されることがないように,

被害者である労働者の主観が考慮される必要があると思います。

 

 

このように,パワハラの3つの要件について,具体化されましたが,

パワハラを制限する方向にはたらく表現がありますので,

この素案を改善してく必要があると考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

Jリーグのパワハラ問題を考える

Jリーグの湘南ベルマーレの曹貴裁監督が,

選手やスタッフに対して,パワハラをしたとして,

譴責と公式試合5試合の出場停止の処分を受け,

監督を退任しました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASMB852CGMB8ULZU00C.html

 

 

報道によりますと,曹貴裁監督の行ったパワハラの内容は,

コーチの胸ぐらをつかんで壁に押し付け,

怒鳴りながら顔に手を当てて床に押し倒した,

選手に対して「チームのがんだ」と怒鳴ったなどのようです。

 

 

 

身体に対する暴行や,選手の人格を否定する暴言をはいていることから,

明らかに違法なパワハラに該当します。

 

 

これらのパワハラに対して,譴責という懲戒処分は軽いと思います。

 

 

譴責とは,始末書などを書かせて,将来を戒めるもので,

給料が減額されるなどのペナルティがない,

懲戒処分の中では最も軽いものです。

 

 

パワハラの定義が法律に明文化されて,会社に対して,

パワハラ防止措置義務が課せられるという法改正がなされるなど,

パワハラに対して厳しく対処していこうという潮流の中において,

もう少し重い懲戒処分もありえたと思います。

 

 

Jリーグのパワハラ問題に関連して,

最近のパワハラの裁判例を紹介したいと思います。

 

 

福岡地裁平成30年9月14日判決

(判例時報2413・2414合併号195頁)です。

 

 

この事件では,被害者である労働者が髪を丸刈りにされたり,

下着姿にさせられた上で,洗車用の高圧洗浄機を

至近距離から体に向けて噴射させられたり,

ロケット花火を発射させられて川に逃げることになったり,

会社の入り口前で数時間にわたり土下座をさせられたりしました。

 

 

さらに,これらのパワハラやいじめ行為が,

社長のブログに写真付きで掲載されていたのです。

 

 

被告会社は,パワハラやいじめ行為があったことを争いましたが,

社長のブログの記事に明確な証拠が残っていたことから,

パワハラやいじめ行為が認定されました。

 

 

 

パワハラ行為は密室で行なわれることが多く,

証拠が残らないことが多いのですが,本件事件では,

社長のブログという,強力な証拠があったため,

パワハラ行為を認定するのは容易だったと考えられます。

 

 

これらパワハラやいじめ行為に対する慰謝料は100万円でした。

 

 

これだけ悪質なパワハラやいじめ行為に対する,

慰謝料の金額としては低額だと思います。

 

 

パワハラを防止するという観点からは,

悪質なパワハラに対する慰謝料の金額を

増額していく必要があると考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

教員間におけるいじめと損害賠償義務

報道によりますと,神戸市東須磨小学校の教員間で,

悪質ないじめが繰り返されていたことが明らかになりました。

 

 

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201910/0012774681.shtml

 

 

いじめの内容としては,「ボケ」,「カス」などの暴言を浴びせる,

コピー用紙の芯で尻を叩く,

ラインで別の女性教員にわいせつなメッセージを無理やり送らせる,

被害者の教員の車の上に乗ったり車内で飲み物をわざとこぼす,

激辛カレーを無理やり食べさせるなど,

耳を疑うような凄惨ないじめ行為が教員の間で実施されていたようです。

 

 

 

いじめ防止対策推進法8条には,学校の教職員の責務として,

いじめ防止及び早期発見に取り組むとともに,

いじめに対して適切かつ迅速に対処することが規定されています。

 

 

生徒のいじめを防止しなければならない立場にある教員が,

凄惨ないじめをしていたという事実に,

多くの人がショックを受けたと思います。

 

 

さらに,校長が加害者を口頭で指導しただけで,

懲戒処分をしなかったこと,

教育委員会も十分な調査をしなかったことも,

通常の組織ではありえず,学校という組織は,

どこか世間からずれているような気がします。

 

 

パワハラの定義が法律に明記され,企業に対して,

パワハラ防止措置義務が課されるようになり,

パワハラを防止していこうという世の中の動きがあるのに,

それに逆行していることに驚きを隠せませんでした。

 

 

さて,このようないじめがあった場合,

加害者は責任をとらなければなりません。

 

 

具体的には,被害者に対して損害賠償を支払わなければなりません。

 

 

おとなのいじめ問題について,

東京都ほか(警視庁海技職員)事件の

東京地裁平成20年11月26日判決

(労働判例981号91頁)が参考になります。

 

 

この事件では,警視庁管内の警察署において,

上司達が特定の部下に対して,

次のようないじめ行為をしました。

 

 

 

「この野郎,ぶっ飛ばすぞ」といいながら,

ネクタイを引っ張って転倒させられた。

 

 

職場に「欠格者」,「この者とは一緒に勤務したくありません」

と記載された被害者の顔写真付ポスターが掲示された。

 

 

被害者は,有機溶剤に対するアレルギー体質があったところ,

被害者のロッカーにシンナーが撒布された。

 

 

拡声器で「税金泥棒,やめちまえよ」と侮辱された。

 

 

つばを吐きかけられた。

 

 

火のついたタバコを当てられた。

 

 

これらの行為は,被害者を退職に追い込むためになされたもので,

違法な退職強要,嫌がらせに該当するとして,

慰謝料270万円の損害賠償請求が認められました。

 

 

大人がいじめをすれば,被害者に対して,

損害賠償を支払わなければならなくなります。

 

 

いじめは,子供の世界だけではなく,

大人の世界でも行なわれているという現実があり,

悲しくなります。

 

 

社会全体からいじめが撲滅されることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラの分水嶺

今年の通常国会において,労働施策総合推進法が改正されて,

パワハラの定義が,次のように,法律に明記されました。

 

 

職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,

業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

その雇用する労働者の就業環境が害されること

 

 

もっとも,「業務上必要かつ相当な範囲」という定義が

抽象的であるため,上司による部下の指導が

違法なパワハラに該当するかについては,

具体的な諸事情を考慮して,ケースバイケースで

判断していくしかないのです。

 

 

 

本日は,違法なパワハラか否かについて,

興味深い判断がされた公益財団法人後藤報恩会ほか事件の

名古屋高裁平成30年9月13日判決

(労働判例1202号138頁)を紹介します。

 

 

この事件は,美術館の学芸員が恩師のお通夜と葬儀に

参列しようとして,美術館に有給休暇の申請をしたものの,

無断欠勤とされて,上司から,次のような言動をされたことが

違法なパワハラに該当するかが争われました。

 

 

すなわち,上司は,原告の学芸員に対して,

「非常識」,「信頼関係ゼロ」,「ここの職員としてふさわしくない」

などと非難し,原告の性格では美術館で任せられる仕事はなく,

性格を変えられないのであれば,

辞表を書いて退職することを求めることを伝えました。

 

 

この際,上司には,声を荒げたり,

高圧的な態度はなかったようです。

 

 

一審の名古屋地裁は,上司の言動は,

部下に対する仕事上の注意や指導として,

社会通念上許容しうる限度を超えた違法なものとはいえないとして,

原告の損害賠償請求を否定しました。

 

 

言葉はきつくても,指導の範囲内と判断されたのです。

 

 

他方,控訴審の名古屋高裁は,採用間もない原告に対して,

一方的に非があると決めつけ,原告の性格や感覚を非難して,

職場から排除しようとするものであり,

社会的相当性を逸脱する違法な退職勧奨であるとして,

慰謝料60万円の損害賠償請求が認められました。

 

 

 

このように,一審と控訴審とで判断が分かれました。

 

 

一審は,上司の言動を個々にとらえて,

違法なパワハラではないとしましたが,

控訴審は,半月ほどの期間に集中して,

パワハラな言動が複数回行われた一連の経過を重視して,

違法な退職勧奨があったとしました。

 

 

微妙な判断ではありますが,パワハラの期間や,

連続性,一連のものといえるかといった事情も,

違法なパワハラといえるかの考慮要素になります。

 

 

やはり,違法なパワハラといえるか否かは,

様々な事情を総合考慮して判断されるため,

どのような結論になるのか見通しが立てにくく,

難しい事件類型の一つであると思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社におけるいじめ防止義務とは?

子供の世界でも大人の世界でも,残念ながら,

いじめというものはなかなかなくならないです。

 

 

都道府県の労働局で実施されている総合労働相談において,

平成30年度における職場におけるいじめや嫌がらせに関する相談が

全国で82,797件となり,増加の一途をたどっています。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000521619.pdf

 

 

職場におけるいじめや嫌がらせに関する

相談の増加は今後も続きそうです。

 

 

 

では,労働者が,職場でいじめにあった場合,

会社に対して,いじめを防止するための対策をとるように

要求することはできるのでしょうか。

 

 

本日は,使用者がとるべき職場いじめ防止義務について解説します。

 

 

まず,使用者は,労働者が労働するにあたり,

労働者の生命や身体の安全の確保をするように

配慮すべき義務を負っています(労働契約法5条)。

 

 

これを安全配慮義務といいます。

 

 

この安全配慮義務の具体的内容として,使用者には,

職場の上司や同僚からのいじめ行為を防止する,

いじめ防止義務を負っているといわれています。

 

 

このいじめ防止義務の具体的な内容について,

判断した裁判例を紹介します。

 

 

川崎市水道局(いじめ自殺)事件の

横浜地裁川崎支部平成14年6月27日判決

(労働判例833号61頁)です。

 

 

この事件では,上司が部下に対して,

「なんであんなのがここに来たんだよ。」,

「なんであんなのがA評価なんだよ。」などと嫌味をいい,

「経験のために風俗店に連れて行ってやれ。」などとからかい,

オウム真理教の麻原彰晃に似ているとして

「むくみ麻原」,「ハルマゲドンが来た」などと嘲笑していました。

 

 

 

また,団体旅行の際に,上司が部下に対して,

果物ナイフを示して「今日こそは刺してやる」

などと脅かすようなことを言いました。

 

 

このような酷いいじめが執拗に繰り返されて,部下は,

精神的に追い詰められ,欠勤しがちになり,その後,

精神分裂病を発症し,自殺してしまいました。

 

 

この部下の遺族が,いじめをした上司とその使用者である

川崎市に対して,損害賠償請求をしました。

 

 

裁判所は,川崎市の責任者には,いじめの有無を積極的に調査し,

速やかに善後策(防止策,加害者など関係者に対する適切な措置,

配転など)を講じるべきだったのに,これを怠り,

いじめを防止するための職場環境の調整をしなかったとして,

川崎市の安全配慮義務違反を認めて,

遺族の損害賠償請求を認めました。

 

 

この裁判例からは,使用者がとるべき職場のいじめ防止義務の

具体的な内容としては,

①いじめの事実の有無・内容についての迅速かつ積極的な調査,

②いじめの制止などの防止策,

③被害者への謝罪,

④異動などの加害者関係者に対する適切な措置

などが考えられます。

 

 

使用者が,職場のいじめを知ったにもかからわず,

上記の適切な措置をとらなかった場合,

いじめ防止義務に違反したとして,

損害賠償請求をされるリスクがあります。

 

 

会社ではいじめが生じないように,

職場環境を整備していく必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

吉本興業の岡本社長の宮迫博之氏に対するパワハラと録音問題

3日連続になりますが,宮迫博之氏の記者会見と

吉本興業の岡本社長の記者会見について記載します。

 

 

本日は,岡本社長の宮迫博之氏に対するパワハラと

録音について解説します。

 

 

 

まず,宮迫博之氏は,記者会見を開こうとしたところ,岡本社長から,

「やってもええけど,そしたら全員連帯責任,クビにする。

俺にはお前ら全員クビにする力があるんだ」

と告げられたことを記者会見で明らかにしました。

 

 

これに対して,岡本社長は,記者会見で,

「父親が息子に言う『勘当や』『ええかげんにせえ』という意味合いだった」

と説明しました。

 

 

岡本社長は,クビ発言を認めた上で,

その意味するところは宮迫博之氏が受け取ったところとは

違うことだったのだと言いたかったのでしょう。

 

 

しかし,岡本社長が,このクビ発言を認めた時点で,

パワハラを認めたことになります。

 

 

今年の通常国会で労働施策推進法が改正されて,パワハラの定義が,

「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,

業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

その雇用する労働者の就業環境が害されること」

と法律で明記されました。

 

 

 

吉本興業は芸能人と契約書を締結していないので,芸能人は,

どのような場合に,契約を解除されるのか分かりません。

 

 

また,社長の言うことを聞かないと,

仕事をまわしてもらえなくなるかもしれず,

そうなれば,食べていけなくなるので,社長の言うことは,

ほぼ絶対なのだと予想されます。

 

 

そのため,岡本社長は,宮迫博之氏に対して,

優越的な関係にあるといえます。

 

 

次に,不適切な言動があった宮迫博之氏だけの契約を

解除するならまだしも,その他の芸能人の契約を解除することで

圧力を加えることは,業務上必要かつ相当な範囲を超えていると思います。

 

 

個人的には,宮迫博之氏だけに対する処分のことを伝えたのであれば,

まだセーフかもしれませんし,

ここまで問題が大きくならなかったかもしれませんが,

「全員クビにする」は,さすがに行き過ぎであり,

宮迫博之氏に対して,世間が同情し,

吉本興業の対応がおかしいという世論を形成したのだと思います。

 

 

そして,宮迫博之氏としては,自分だけが契約解除になるならまだしも,

他の後輩芸能人も契約解除になると言われれば,

他の後輩芸能人の人生が自分の言動で暗転することになり,

多大な精神的圧力を加えられたと感じたはずで,

当然,吉本興業での就業環境が害されました。

 

 

以上より,岡本社長の言動は,上記の法律で明記された

パワハラの定義に該当すると考えます。

 

 

次に,宮迫博之氏は,岡本社長から「テープを回してないやろうな」

と言われたと記者会見し,岡本社長は,この発言のことを

「冗談だった」と説明しました。

 

 

宮迫博之氏が岡本社長の言動を録音していたかは不明ですが,

岡本社長の許可なく無断で録音しても,

営業上の秘密情報等が録音されていない限り,

法律上問題はありません。

 

 

むしろ,パワハラの言動は,録音されていないと

パワハラの事実を証明ができないので,

録音するべきなのです。

 

 

録音がなければ,パワハラ発言について,

言った言わないの論争となり,そうなれば,

パワハラの被害者の請求が認められなくなるのが現状です。

 

 

これを避けるためにも,パワハラを受けた被害者は,

パワハラ発言を録音するべきなのです。

 

 

録音するにあたり,パワハラ発言をした人の許可をとる必要はなく,

無断でこっそり録音すればいいのです。

 

 

ですから,宮迫博之氏が岡本社長の発言を録音していても,

営業上の秘密情報等が録音されていない限り,何も問題はありません。

 

 

岡本社長としては,「テープを回してないやろうな」

といって圧力をかけるのではなく,

宮迫博之氏から録音されていることを前提に,

後からパワハラだと言われないような

適切な言動をすべきだったのです。

 

 

宮迫博之氏と岡本社長の記者会見の報道を見て,

パワハラ事件では録音が重要であると改めて感じた次第です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラ事件では証拠の確保が重要です

労働施策総合推進法の改正によって,

法律にパワハラの定義が規定されたり,

会社に対するパワハラ防止措置義務が明記されました。

 

 

また,ILOにおいて,仕事の世界における

暴力やハラスメントを撤廃するための条約が採択されました。

 

 

このように,パワハラを防止していこうという

機運がいまだかつてないくらいに高まっています。

 

 

 

しかし,実際にパワハラで裁判をするには,

まだまだハードルが高いのが現状です。

 

 

パワハラの裁判のハードルが高いのには3つの理由があります。

 

 

1つ目は,パワハラを立証できるのかというハードルです。

 

 

問題となるパワハラのほとんどが,

言葉による暴力なのですが,言葉の暴力は,

録音をしておかないと,言った言わないの問題となり,

パワハラの被害者が,言葉の暴力があったことを証明できないと,

裁判では負けてしまいます。

 

 

2つ目は,違法なパワハラといえるのかというハードルです。

 

 

パワハラの定義は,①優越的な関係に基づく,

②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により,

③労働者の就業環境を害すること,とされています。

 

 

このうち,適法な業務指導か違法なパワハラかについて,

②の要件にあてはまるかが問題となります。

 

 

3つ目は,慰謝料の金額というハードルです。

 

 

パワハラの慰謝料は,そこまで高くはなく,

費用対効果を考えると,パワハラで損害賠償請求をすることに

二の足を踏んでしまいます。

 

 

 

実際に,労働者のパワハラの損害賠償請求が否定された

裁判例を見てみましょう。

 

 

コンチネンタル・オートモーティブ事件の

東京高裁平成29年11月15日判決と

横浜地裁平成29年6月6日判決です

(労働判例1196号63頁)。

 

 

この事件では,上司の原告労働者に対する言動が

違法なパワハラにあたるかが問題となりました。

 

 

原告労働者は,上司から

「人事を巻き込んで何かと思えば,プロジェクトの話か。

プロジェクトの失敗で責任を取らせることはないが,

パフォーマンスが出ていないので,それで首にすることはあり得る」,

「お前,今すぐちゃんとやるかどうか決めろ」,

「お前の期待値は20パーセントだ」

と言われたと主張しました。

 

 

これに対して,上司は,原告労働者に対して,

プロジェクトがうまくいかなかっただけで解雇にならないと説明し,

原告労働者のパフォーマンスが悪く,

期待値の20パーセント程度しか発揮できていない

として注意,指導したと主張しました。

 

 

裁判所は,上司の主張を採用し,この上司の言動は,

業務上の注意指導の範囲を逸脱していないとして,

違法なパワハラではないと判断しました。

 

 

パワハラの定義の②の要件を満たさないと判断されたわけです。

 

 

パワハラの損害賠償請求の裁判では,

損害賠償請求をする人に,パワハラの事実が存在したことを

証明する責任があるので,裁判所は,

原告労働者と上司の主張を対比して,

概ね合致しているところで,

事実を認定したのだと考えられます。

 

 

パワハラの被害者の主張と,加害者の主張が

真っ向から対立する場合,録音などの証拠がないと,

パワハラ被害者の主張が認められるのは困難だと言えます。

 

 

 

パワハラ事件では,やはり,

パワハラの言動を録音するなどして,

証拠化しておくことが重要なのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。