派遣先会社の上司による派遣社員に対するパワハラ

先日,ブログに記載しましたが,パワハラについては,

①パワハラの事実を証明できるのか,

②違法なパワハラと評価できるのか,

③損害額はいくらになるのか,

という3つのハードルがあります。

 

 

このハードルのうち,

②違法なパワハラと評価できるのかと,

③損害額はいくらになるのかについては,

ケースバイケースで判断していくしかないので,

パワハラに関する裁判例を多く分析しておくことが

効果的だと考えています。

 

 

そこで,本日は,派遣先会社の上司の派遣社員に対する叱責が

パワハラと判断されたアークレイファクトリー事件を紹介します

(大阪高裁平成25年10月9日判決・労働判例1083号24頁)。

 

 

この事件では,派遣社員である原告が,派遣先会社の上司から,

「殺すぞ」,「お前」,「あほ」,「休みやがって確信犯やな」,

「頭の毛,もっとチリチリにするぞ。ライターで」,「崖から落ちろ」

などの暴言をはかれて叱責されたことが,

業務上必要かつ相当な範囲を超えた

違法なパワハラに該当するかが争点となりました。

 

 

 

特に,この事件で注目すべき点は,

被害者である労働者が派遣社員という,

不安定な雇用状況にある者であり,

派遣先会社の上司からの発言に対して,

容易に反論することが困難であり,

弱い立場にある労働者へのパワハラが

問題になったということです。

 

 

裁判所は,上司が部下を叱責する際の注意点として,

次のように判断しました。

 

 

監督者が監督を受ける者を叱責し,あるいは指示を行う際には,

労務遂行の適切さを期する目的において

適切な言辞を選んでしなければならないのは当然の注意義務

であるとしました。

 

 

ようするに,上司は,部下の反省を促し,成長を促す目的で,

適切な言葉を使って部下を叱責しなければならないのです。

 

 

そして,本件事件では,上司の言動はいかにも粗雑で,

極端な表現を用い,配慮を欠く態様で指導されており,

監督を受ける部下としても,上司の発言が真意でないことを

認識しえるとしても,日常的にこのような上司の監督を

受任しなければならないものではないと判断されました。

 

 

 

 

やはり,上司には,労務遂行上の指導・監督を行うにあたり,

そのような言動をもってする指導が

部下との人間関係や部下の理解力を考慮して,

適切に指導の目的を達成して,その真意が

伝わっているかを注意すべき義務があるのです。

 

 

このように,上司が部下を叱責する際の注意義務について

詳細に分析されているので,参考になります。

 

 

この事件では,部下が当惑や不快の意思を示しているのに,

上司は上記の暴言を繰り返していたので,

この上司の叱責は嫌がらせや侮辱といえ,

違法なパワハラであると認定されました。

 

 

もっとも,この上司には,強い害意や

常時嫌がらせの指向があるわけではなく,

態様としても受け止めや個人的な感覚によっては,

単なる軽口として聞き流すことも不可能ではない,

多義的な部分も多く含まれているとして,

慰謝料としては30万円しか認められませんでした。

 

 

慰謝料の金額で不十分な点があるものの,

正社員と派遣社員との支配関係に着目して,

上司が部下を叱責するときの注意義務が

具体的に明らかにされた点において参考になる裁判例です。

 

 

 

派遣先会社の上司による派遣社員への叱責は,

違法なパワハラとやや認定されやすくなるかもしれません。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

250万円の慰謝料請求が認められたパワハラ事件

労働事件の法律相談で最近多いのが

パワハラや職場の嫌がらせ,いじめの問題です。

 

 

もっとも,パワハラについては,

①パワハラの事実を証明できるのか,

②違法なパワハラと評価できるのか,

③損害額はいくらになるのか,

という3つのハードルがあるため,費用対効果の関係で,

弁護士に解決の依頼をするところまで至らないことも多いです。

 

 

 

 

①パワハラの事実を証明できるかについては,

録音,病院のカルテ,日記などをもとに判断していきますが,

②違法なパワハラと評価できるのかと,

③損害額はいくらになるのかについては,

ケースバイケースで判断していくしかないので,

パワハラに関する裁判例を多く分析しておくことが

効果的だと考えています。

 

 

そこで,本日は,パワハラの慰謝料として250万円という,

比較的高額な慰謝料が認められた

プラネットシーアール事件を紹介します

(長崎地裁平成30年12月7日判決・労働判例1195号5頁)。

 

 

この事件では,上司の原告労働者に対する次の言動が,

原告の人格権を違法に侵害する不法行為にあたると判断されました。

 

 

上司は,原告の業務負担が前より増加する中,

逆により短時間で結果を出すように

原告にとって困難な目標達成を求め続けたり,

営業部門との板挟みになって対処に窮するような指示をし続け,

それらが実現できないと,指示に従わないとして

厳しく注意,叱責することを繰り返しました。

 

 

 

 

しまいには,叱責中の原告の目つきや態度が気に食わない

として叱責したり,過去に叱責した問題を蒸し返して叱責したり,

上司が何について叱責したいのか告げないまま叱責し,

原告が何について叱責されているのかわからないことを

更に叱責するといった,内容的にはもはや叱責のための叱責となり

業務上の指導を逸脱した執拗ないじめとなっていました。

 

 

具体的には,「何だその目つきは。文句があるのか。

言いたいことがあるなら口で言え。恨めしげににらみやがって,腹の立つ。」,

「反抗的な,もの言いたげな,口を尖らせたような顔をしとる」,

「言い訳するな,お前が悪い」,

「今までのミスを俺が明らかにすれば,お前クビぞ,脅しじゃなかぞ」,

「始末書を書くのにパソコンを書くのかお前は。

お前の始末書に会社の財産を使うのか。」,

「お前は素直なふりをしているが,素直そうなその返事も,

俺にはうそとしか思えない。うそをつくやつには仕事を任せられない」

などというものです。

 

 

理由もなく叱責したり,解雇をちらつかせたり,

仕事から排除する場合には,違法なパワハラと

認定される可能性があります。

 

 

上司のこれらのパワハラは約1年間も続き,原告は,

適応障害を発症し,最終的には精神的に不安定となり,

希死念慮にかられるまで精神的に追い詰められて

働けなくなってしまいました。

 

 

 

 

上司のパワハラの態様や,原告の被害状況,

会社のその後の対応などを考慮して,

慰謝料250万円が認められました。

 

 

さらに,この事件では,もう一つ注目される判断がされました。

 

 

原告は,上司のパワハラが原因で働けなくなったので,

会社の責めに帰すべき事由によって,労務提供ができないので,

民法536条2項により,賃金請求ができ,

原告は,労災保険から休業補償を受給していましたが,

このような給付は賃金を補填する趣旨で支給されるものではないから,

休業補償を受給したことで,被告が賃金額を減額することはできない

と判断されたのです。

 

 

解雇の事件では,解雇が無効になった場合,

民法536条2項を根拠に未払賃金を請求できますが,

他の会社で働いていた場合,平均賃金の4割ほど

減額されることがあるのですが,

労災保険の休業補償を受給していても,

未払賃金から減額されないというわけです。

 

 

この判断は,労働者にとって有利なものです。

 

 

パワハラ事件で高額な慰謝料が認められるのはどのような場合か

を検討するのに参考になりますので,紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラが発生した場合に会社がしなければならないこと

現在,通常国会でパワハラを規制する法改正が議論されており,

立憲民主党が労働安全衛生法の一部を改正する

パワハラ規制法案を提出したようです。

 

 

https://cdp-japan.jp/news/20190410_1540

 

 

パワハラによって労働者の職場環境が害されないように,

必要な措置を講ずることが会社に義務付けられるという内容です。

 

 

特に,取引先からのハラスメントや,

消費者からのハラスメントについても,

労働者の職場環境が害されないように,

必要な措置を講ずることが会社に義務付けられるという点で,

労働者の保護の範囲を拡大していることが注目されます。

 

 

 

 

パワハラの問題が拡大していく中,会社は,

パワハラにどう対応していけばいいのでしょうか。

 

 

本日は,会社のパワハラ対応について,

興味深い判断がされたいなげや事件を紹介します

(東京地裁平成29年11月30日・労働判例1192号67頁)。

 

 

この事件では,原告である知的障害者の労働者に対する,

パートタイム労働者の言動が問題となりました。

 

 

原告は,そのパートタイム労働者から様々なパワハラを受けた

と主張しましたが,客観的な証拠は乏しく,

原告が提出した証拠は,原告の母が原告から聞いたことを

記載したメモなどの伝聞の証拠であったことから,

「幼稚園児以下」,「バカでもできる」という発言以外は,

証拠がないとして認められませんでした。

 

 

「あの人がこう言っていました」というように,

人から聞いたことを証言しても,

自分が直接体験したことを証言することに比べて,

聞き間違い,記憶違い,言い間違いが入り込むリスクがあり,

証言の信用は低くなるのです。

 

 

このように,伝聞の証拠は信用されにくいのです。

 

 

 

 

暴言によるパワハラの場合,言った言わないという

水掛け論となりやすく,パワハラ発言を

証明できるかをまず検討することになります。

 

 

暴言によるパワハラを証明するためには,

録音をするのが最も効果的です。

 

 

この事件では,「幼稚園児以下」,「バカでもできる」

という発言が認定されて,パートタイム労働者に対して,

不法行為が認められ,会社に対しても,

民法715条の使用者責任が認められました。

 

 

使用者責任とは,労働者が仕事に関連して,

不法行為をして,他人に損害を与えた場合には,

会社も不法行為責任を負うというものです。

 

 

他方,原告は,会社に対して,安全配慮義務違反の主張もしていました。

 

 

裁判所は,労働者が職場において他の労働者から

暴行・暴言を受けている疑いのある状況が存在する場合,

会社は,事実関係を調査し適正に対処する義務を負い,

どのように事実関係を調査し,そのように対処すべきかは,

会社の置かれている人的物的設備の現状により異なることから,

各会社において判断すべきとしました。

 

 

 

 

会社には,労働者に対して,安全配慮義務として,

合理的な範囲で,事実関係の調査と適正な対処をする義務があるわけです。

 

 

本件事件では,店長が,事実関係を調査し,

パートタイム労働者に対して,原告を他人と比べるような

発言をしないように注意した上で,

配置転換や職務の切り分けなどを検討していました。

 

 

被告は,配置転換や職務の切り分けを検討したのですが,

実際にそれは困難となったものの,知的障害者である原告に対して,

困っているときには気付いた従業員が声をかけたり,

連絡ノートを使って家族と情報交換をしたり,

休暇や勤務日の変更に柔軟に応じていたなどの配慮をしていました。

 

 

そのため,被告には,事後対応義務違反はなく,

合理的配慮が足りなかったとはいえず,

安全配慮義務違反は認められませんでした。

 

 

結果として,安全配慮義務違反は否定されたものの,

使用者責任が認められ,慰謝料20万円が認められたのです。

 

 

会社は,パワハラを認めた場合,合理的な範囲において,

事実関係の調査をし,適正な調査をする義務を負っており,

それを怠った場合には,損害賠償をしなければならないリスクが生じます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

上司の叱責はどのような場合に違法なパワハラとなるのか?

パワハラに関する法律相談を受けますと,

次のことに頭を悩まされます。

 

 

どのような言動が違法なパワハラと認定されるのか。

 

 

先日,閣議決定された,パワハラを禁止する法案では,

パワハラの定義を,「職場において行われる優越的な関係を背景とした

言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

その雇用する労働者の就業環境が害されること」としています。

 

 

 

 

法律である以上,文言がある程度抽象的にならざるをえず,

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」とは,

具体的にどのような言動が,これにあたるのかについて,

ケースバイケースで判断していくしかないのです。

 

 

「給料泥棒」など人格を否定する暴言は,

違法なパワハラにあたることで問題ないのですが,

部下のミスに対して上司が厳しく叱責した場合に,

違法なパワハラにあたるかは,判断に悩むことが多いです。

 

 

本日は,上司の部下に対する叱責が違法なパワハラにあたるかが

争われたゆうちょ銀行パワハラ自殺事件を紹介します

(徳島地裁平成30年7月9日判決・労働判例1194号49頁)。

 

 

この事件では,労働者が上司からパワハラを受けて自殺したとして,

遺族が会社に対して,損害賠償請求をしました。

 

 

裁判所は,自殺した労働者は,上司から日常的に強い口調で

叱責を繰り返し受けており,名前を呼び捨てで呼ばれるなど

されていたことから,部下に対する指導として

相当性には疑問があるとしました。

 

 

しかし,部下の書類作成のミスを指摘して改善を求めることは

会社のルールとされており,上司としての業務であり,

実際,自殺した労働者は頻繁に書類作成のミスをしていたことから,

日常的に叱責が継続したのであり,上司が何ら理由なく,

自殺した労働者を叱責したことはないと判断されました。

 

 

 

 

また,上司の叱責の具体的な発言内容は,

自殺した労働者の人格的非難に及ぶものではなかったと判断されました。

 

 

そのため,本件事件では,上司の叱責が

違法なパワハラとは認定されませんでした。

 

 

何の理由もないのに部下を叱責したり,

「バカ」,「アホ」,「まぬけ」などの人格を否定する発言があった場合には,

違法なパワハラと認定されやすいのですが,

労働者にミスがあり,それが原因で叱責され,

人格を否定する発言がないのであれば,

上司の叱責は,必要かつ相当な範囲内と評価されて,

違法なパワハラとはならないと考えられます。

 

 

もっとも,会社には,労働者が生命や身体の安全を確保しつつ,

働くことができるように配慮する義務を負っています。

 

 

これを安全配慮義務違反といいます。

 

 

もう少し具体的にすると,会社は,

労働者の業務を管理するに際し,

業務遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して

その心身の健康を損なうことがないように

注意すべき義務があるということです。

 

 

本件事件では,自殺した労働者は,

わずか数ヶ月で異動の希望をして,

その後も継続して異動を希望しており,

2年間で体重が15キロも減少するほど,

体調不良の状態が明らかであり,

体調不良や自殺願望の原因が上司との

人間関係に原因があることは容易に

想定できたと判断されました。

 

 

そして,会社は,自殺した労働者の執務状態を改善し,

心身に過度の負担が生じないように異動を含めて

検討すべきであったにもかかわらず,

担当業務を軽減させただけで,

他に何の対応もしなかったとして,

安全配慮義務違反が認められました。

 

 

 

 

ここでのポイントは,自殺した労働者は,

外部通報や内部告発をしていなかったのですが,

会社には,自殺した労働者が何らかの

人間関係のトラブルを抱えていたことを

容易にわかったはずであるとして,

安全配慮義務違反を認めたことです。

 

 

労働者が会社内部の相談担当部署に相談にいっていなくても,

異動の希望を出していたり,客観的に体調不良がわかれば,

会社には,労働者が人間関係でトラブルを抱えていたと

予見が可能であったと判断される余地があるということです。

 

 

どのような場合に,違法なパワハラと評価されるのか,

違法なパワハラがなかったとしても,

会社に安全配慮義務違反が認められるかについて,

検討するにあたり参考になる裁判例ですので,紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラ防止対策法案の閣議決定

労働者側で労働相談を受けていて,

最も相談件数が多いなと感じるのはパワハラの案件です。

 

 

実際に,都道府県労働局の総合労働相談コーナーに寄せられる

職場のいじめやパワハラの相談件数は年々増加傾向にあり,

平成28年度には70,917件に到達しました。

 

https://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/foundation/statistics/より抜粋

 

今年に入っても,パワハラをめぐる裁判の判決がなされています。

 

 

1月10日には,東京高裁で,日本郵便において,

上司が新入社員に対して,ミーアキャット,寄生虫,パラサイト

などと罵倒したというパワハラについて,

慰謝料120万円が認められました。

 

 

1月31日には,大阪高裁で,パチンコ店において,

上司が部下に対して,インカムマイクを通じて,

全従業員が聴こえる状態で,しばくぞ,殺すぞなどと

発言したというパワハラについて,損害賠償請求が認められました。

 

 

3月12日には,長崎地裁で,陸上自衛隊において,

上司が部下に対して,使えない,早く辞めろと暴言をはき,

顔を平手打ちしたというパワハラについて,

100万円の損害賠償請求が認められました。

 

 

このように,パワハラの問題は頻発しており,

裁判に発展することもあります。

 

 

 

 

現時点では,パワハラを禁止する法律はないのですが,

3月8日,職場でのパワハラの防止策を盛り込んだ

関連法改正案が閣議決定されました。

 

 

今の通常国会で法改正が成立すれば,

2020年度から施行される見通しです。

 

 

今回,労働施策総合推進法が改正されて,

パワハラの定義は次のようになりました。

 

 

職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,

業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

その雇用する労働者の就業環境が害されること

 

 

法改正後は,上司のパワハラと考えられる言動が,

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」か否かが

争点になることが予想されます。

 

 

上司の言動が,許される指導の範囲なのか,

部下の人格を否定する違法なものかが認定されます。

 

 

業務上必要かつ相当な範囲かについて評価するためには,

上司の言動が正確に再現される必要がありますので,

やはり,録音が重要になっていくと考えます。

 

 

会社は,職場においてパワハラが生じた場合の相談体制の整備などの

雇用管理上必要な措置を講じなければなりません。

 

 

具体的に,どのような措置を講じなければならないかについては,

今後,厚生労働省が指針を作成します。

 

 

会社が,パワハラの相談窓口を設置していない状況で,

パワハラが発生した場合,会社が損害賠償責任を負うリスクは高まります。

 

 

 

 

また,会社がパワハラを防止するための措置を講じていない場合,

厚生労働大臣は,その会社に対して,勧告をすることができ,

会社が勧告に従わない場合,厚生労働省は,

その旨を公表することができます。

 

 

さらに,厚生労働大臣は,会社に対して,

パワハラを防止するための措置について報告を求めることができ,

会社が,報告をしなかったり,虚偽の報告をした場合には,

20万円の過料が処せられます。

 

 

そのため,公表や罰則によって,

ブラック企業であるという風評が広がることをおそれる会社は,

パワハラを防止するための措置を講じていくことになる

のではないかと期待したいです。

 

 

法改正後は,会社においてパワハラを防止するための

研修が多く実施されていきますので,依頼がありましたら,

積極的に対応していきたいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

職場における自由な人間関係を形成する自由

昨日,とても嬉しいことがありました。

 

 

毎日ブログを書き続けて9ヶ月を経過して,ついに,

私のブログを見て,法律相談に来れられた方が現れたのです。

 

 

 

 

その相談者の方は,次のようにおっしゃりました。

 

 

働く人に役立つ情報が記載されているので,

毎日チェックしています,ブラック企業対策として息子にも

ブログをすすめています,同じ職場の悩みをもっている同僚にも

ブログをすすめていますなど,本当にありがたいお言葉をいただきました。

 

 

ブログを毎日更新している者にとって,

自分のブログが誰かの役に立っていると実感できるときが,

最高に嬉しいのです。

 

 

毎日ブログを更新することが,

人の役に立つことが実感できましたので,

今後とも毎日ブログを更新していきます。

 

 

さて,本日は,職場における自由な人間関係を形成する自由

について解説したいと思います。

 

 

労働者が,会社から不合理な取扱を受けたため,

労働組合を結成しようとしたら,会社が,

他の労働者から労働組合結成の動きを聞き出すなどの監視をして,

労働組合の結成を抑制するような言動をしてきた場合,

労働者は,どのような対応をすればいいのでしょうか。

 

 

この問題について参考になるのが,

関西電力事件の最高裁平成7年9月5日判決です。

 

 

関西電力事件では,共産党員などの労働者に対して,

会社として,職場内外で尾行・待ち伏せなどによって監視し,

また,他の労働者と付き合わないように働きかけるなどして

孤立化を図りました。

 

 

 

 

また,労働者のロッカーを無断で開けて,

上着のポケットに入っていた手帳を取り出して,

その内容を写真撮影しました。

 

 

最高裁は,会社のこれらの行為について,

原告らの職場における自由な人間関係を形成する自由

不当に侵害するとともに,名誉やプライバシーを侵害するものであり,

労働者の人格的利益を侵害していることから,

不法行為に基づく損害賠償請求を認めました。

 

 

このように,会社が労働者を継続的に監視したり,

他の労働者との接触や交際を妨げることは,

労働者の職場における自由な人間関係を形成する自由

を侵害することになります。

 

 

労働者の職場における自由な人間関係を形成する自由については,

人間関係からの切り離しのパワハラを受けた場合に,

主張すると効果的だと考えます。

 

 

 

 

もっとも,会社の監視行為を証明するには,

会社の内部文書などを入手する必要があり,

困難なことが多いと思います。

 

 

また,労働組合を結成することを抑制しようとする会社の言動は,

労働組合法7条1号に規定されている不当労働行為に該当し,

違法になる可能性があります。

 

 

労働者としては,会社が労働組合結成の準備段階において,

労働組合つぶしを仕掛けてくるおそれがありますので,

会社側の人物の言動を録音するか,メモするなどして記録に残し,

不当な配転や解雇については,争うことを検討するべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

明石市市長のパワハラ発言~録音の威力~

兵庫県明石市の泉房穂市長が,国道の拡幅事業をめぐり,

建物の立ち退き交渉の担当職員に対して,

暴言をはくパワハラをしたとして,

謝罪したことがニュースになりました。

 

 

 

この事件が発覚したのは,暴言をはかれた担当職員が,

市長の暴言を録音していたからです。

 

 

録音データによると,市長は,

次のような暴言をはいたようです。

 

 

「7年間,何しとってん。ふざけんな。

何もしてないやろ。お金の提示もせんと。あほちゃうかほんまに。」

 

 

「立ち退きさせてこい,お前らで。今日,火つけてこい。

今日,火つけて捕まってこい,お前。燃やしてしまえ。

損害賠償,個人で負え。当たり前じゃ。」

 

 

市長の発言が,新聞に文章として記載されており,

これを読めば,誰が見ても,これはパワハラだと理解できますが,

少し法的に分析してみます。

 

 

パワハラの定義については,これから法律で定められる予定ですが,

労働政策審議会では,次の3つの要素を満たすものを

パワハラと定義しています。

 

 

 

 

①優越的な関係に基づく

 ②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により

 ③労働者の就業環境を害すること

(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

 

 

①市長は,部下である担当職員に対して,

業務命令を指示しますので,

明らかに優越的な地位にあります。

 

 

②国道の拡幅事業に関するやりとりの中の発言であるものの,

「あほちゃうかほんまに」という発言は,

担当職員の人格を否定するものであり,

「火つけてこい」と犯罪行為を命令し,

「損害賠償,個人で負え」と担当職員が個人では

負担できない責任を負わせようとしていることから,

市長の言動は,業務上必要かつ相当な範囲を超えています。

 

 

③市長からこのような暴言を浴びせられれば,

担当職員は,多大な精神的苦痛を感じ,市長に恐怖を覚え,

過大なストレスによって仕事がすすまなくなります。

 

 

というわけで,市長の発言は,

上記3つの要素を全て満たすので,

パワハラと認定できます。

 

 

今回の市長のパワハラ発言を聞いて,私が感じたのは,

やはりパワハラの立証には録音が重要であるということです。

 

 

市長は,NHKディレクター,弁護士,

旧民主党の衆議院議員を経て,明石市の市長に就任し,

子育て支援に関する政策で市民から好評価を得ていたので,

そのような経歴の方が,上記のような暴言をはくとは,

通常考えがたいことです。

 

 

録音がなければ,「え~,あの市長がそんな暴言をはくはずがない」

と捉えられたかもしれません。

 

 

しかし,市長のパワハラ発言がバッチリ録音されていたので,

市長は,言い逃れができませんでした。

 

 

パワハラ発言の録音がなければ,

「そのような発言をした記憶はございません」や

「厳しく叱責したかもしれませんが,

そのようなひどい発言はしていません」

と言い逃れをされた可能性があります。

 

 

さらに,録音データの場合,発言者の口調や声の大きさ,

声のトーンの全てが記録されて再現できるので,

パワハラの実態がリアルに伝わります。

 

 

 

 

NHKのニュースを視聴したかぎりでは,

市長のパワハラ発言は,ヤクザが脅すように,

語気鋭く,まくしたてるように,激しい口調でなされていたので,

市長の発言を誰が聞いてもパワハラであると判断できるものでした。

 

 

パワハラ発言をメモして,それを証拠にする方法もあるのですが,

パワハラの実態をリアルに証明するためには,

やはり録音するしかないと実感しました。

 

 

言葉の暴力によるパワハラを受けた場合は,

スマホやボイスレコーダーでパワハラ発言を

録音するようにしましょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

海上自衛隊のパワハラ・いじめ問題

昨年9月,海上自衛隊横須賀基地の

補給艦ときわの艦内において,

男性3等海尉が自殺した事件がありました。

 

 

上官から自殺した3等海尉に対して

パワハラがあったという乗員の証言があり,

海上自衛隊が調査したところ,

艦長から「休むな」という指示があったり,

上官が「死ね」,「消えろ」などと発言し,

ダーを投げつけたなどのパワハラがあったようです。

 

 

 

 

①優越的な関係に基づく,

②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により,

③労働者の就業環境を害すること

(身体若しくは精神的な苦痛を与えること)

というパワハラの3つの要素にあてはめると,

上記の艦長や上官の言動は,パワハラに該当します。

 

 

今後,事故調査委員会がパワハラの有無や

自殺との因果関係を調査していくので,

どのような調査結果になるのかに注目したいです。

 

 

さて,海上自衛隊における隊員の自殺ですが,

実は過去にも同じような事件があったのです。

 

 

それが,海上自衛隊護衛艦さわぎり事件です

(福岡高裁平成20年8月25日判決・判例時報2032号52頁)。

 

 

 

 

この事件は,海上自衛隊の三等海曹が

護衛艦さわぎりに乗艦中に首吊り自殺したという事件です。

 

 

遺書はなかったものの,自衛隊内のいじめが疑われ,

艦内において飲酒がされていた等の規律違反や,

隊員を丸刈りにしたという指導方法が取り上げられて,

自殺との関連が問題となりましたが,事故調査委員会は,

いじめの事実は認められないという調査結果を公表しました。

 

 

この調査結果に納得できない遺族が,

国を相手に損害賠償請求訴訟を提起しました。

 

 

裁判では,ある上官から

「お前は三曹だろ。三曹らしい仕事をしろよ。」,

「お前は覚えが悪いな。」,「バカかお前は。三曹失格だ。」

などと誹謗されていたことが認定されました。

 

 

そして,閉鎖的な艦内で直属の上司から

継続的に上記のような侮辱的な言動がされることは,

自殺した三等海曹の心理的負荷を過度に蓄積させるものであり,

指導の域を超えるものであると判断されました。

 

 

この侮辱的な言動によって,三等海曹は,

うつ病を発症し,自殺したと認定されて,

慰謝料合計350万円の請求が認容されました。

 

 

他方で,もう一人の上官の「ゲジ2」,「百年の孤独要員」,

「お前はとろくて仕事ができない。自分の顔に泥を塗るな。」

という言動については,自殺した三等海曹との

関係が良好であったことから,

軽口として許容できるものであるとして,

違法な言動とは認定されませんでした。

 

 

海上自衛隊は,航海中,閉鎖された艦内で

仕事と日常生活をしていくので,

人間関係が一度こじれると,逃げ場がなく,

非常につらい状況に追い込まれてしまうことが予想されます。

 

 

 

 

閉鎖された組織ではパワハラやいじめが

生じる温床となりやすいので,

今回の補給艦ときわの事故調査で,

自衛隊のパワハラやいじめの原因が究明されて,

再発防止策が講じられることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラは許されません!

長崎市の広告代理店に勤務していた男性労働者が,

パワハラや長時間労働で適応障害になり,

休職に追い込まれたとして,

会社に対して損害賠償請求の裁判を提起し,

合計2000万円の損害賠償請求が認められました。

 

 

原告の男性労働者は,「おまえはクビだ」などと

何度も叱責を受けたいたようで,

業務上の指導を逸脱した執拗ないじめ行為

があったと認定されました。

 

 

https://mainichi.jp/articles/20181207/k00/00m/040/225000c

 

 

このようなパワハラの被害が頻繁に起きています。

 

 

 

 

全国の労働局で実施されている労働相談で一番多いのは,

「いじめ・嫌がらせ」の相談で約7万2000件と

15年連続で増加しています。

 

 

また,パワハラを受けて精神障害を発症して

労災認定される件数も年々増えています。

 

 

職場のパワハラは,労働者の尊厳や人格を傷つける

許されない行為であるにもかかわらず,

パワハラを防止するための法律は今までありませんでした。

 

 

そこで,職場のパワハラ防止は喫緊の課題であり,

対策を抜本的に強化することが社会的に求められていることから,

パワハラを防止するための法律を制定する動きがでています。

 

 

12月14日に,労働政策審議会が,

職場でのパワハラ防止策に取り組むように

企業に義務付けるための報告書をまとめました。

 

 

報告書では,職場のパワハラの定義について,

以下の3つの要素を満たすものとしました。

 

 

①優越的な関係に基づく

 ②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により

 ③労働者の就業環境を害すること

(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

 

 

 

このように定義されたパワハラについて,

会社は,次のような,パワハラを防止するための

雇用管理上の措置を講じることを法律で義務付けられます。

 

 

①職場のパワハラがあってはならない旨の方針の明確化や,

パワハラが確認された場合には厳正に対処する旨の方針や

その対処の内容について就業規則へ規定し,

それを周知・啓発すること

 

 

②パワハラの相談に適切に対応するために

必要な体制の整備をすること

 

 

③パワハラの相談を受けた後の迅速,適切な対応

(相談者からの丁寧な事実確認など)

 

 

④相談者のプライバシーを保護する措置

 

 

その他にも,職場のパワハラに関する紛争解決のための調停制度や,

行政機関による助言や指導などについても法律で規定されます。

 

 

パワハラ行為そのものを処罰したり,

損害賠償請求するための根拠規定は見送られましたが,

パワハラは許されないものであると法律で明示されることで,

パワハラが抑止されることが期待できますので,一歩前進です。

 

 

 

 

パワハラを防止するための法律ができることで,

会社がパワハラを防止するための

雇用管理上の措置義務を怠ったとして,会社に対して,

損害賠償請求をしやすくなると考えます。

 

 

今後は,パワハラの定義に該当するか否かを

明確にするための具体例が指針で明記されますので,

一般の人に,どこまでいけばパワハラになるのかが

理解されやすくなる可能性があります。

 

 

パワハラを防止するための法律が成立して,

パワハラで苦しむ労働者が少なくなることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社内における壮絶ないじめや嫌がらせ

今から8年ほど前に,榮倉奈々主演のフジテレビのドラマ

泣かないと決めた日」が話題になっていました。

 

 

主人公のOL榮倉奈々が,会社内で壮絶ないじめの

体験にあうというドラマです。

 

 

8年前の私は,弁護士になる前の司法修習生でしたので,

まだ労働事件の現場を知らなかったために,このドラマを見て,

本当にこんなにひどいいじめが会社で行われているのだろうか

と疑問に思っていました。

 

 

しかし,弁護士になって,労働事件の法律相談を受けていると,

会社で隔離されている,

同僚から陰湿な悪口を言われている

などのいじめやパワハラの法律相談が多いことを痛感しました。

 

 

本日は,いじめや嫌がらせが労災と認定された

国・京都下労基署長(富士通)事件を紹介します

(大阪地裁平成22年6月23日判決・労働判例1019号75頁)。

 

 

この事件の原告は,2年以上にわたり,

複数の女性社員から,次のような執拗ないじめや嫌がらせを

受けていたと認定されました。

 

 

 

 

①同僚の女性社員からパソコン操作について質問を受け,

教えた際,同女から御礼としてケーキをもらったことについて,

女性社員4名から「あほちゃう」,

「あれケーキ食べたいから手伝ったんやで」

などと執拗な陰口を受けた。

 

 

②原告に対するいじめの中心人物を含む女性社員4名から

勤務時間中にIPメッセンジャーを使用して毎日のように

同期らに原告に対する悪口を送信された。

 

 

③コピー作業をしていた際,女性社員2名から目の前で

「私らと同じコピーの仕事をしていて,高い給料をもらっている」

などと言われた。

 

 

④加害者の席が異動により原告の席の近くになった際,

加害者を含む女性社員3名から

「これから本格的にいじめてやる」などと言われた。

 

 

⑤女性社員1名から,原告の目の前で他の社員に対して,

「幸薄い顔して」,「オオカミ少年とみんなが言っている」

などと悪口を言われた。

 

 

これらのいじめや嫌がらせは,

集団でなされたものであって,

長期間継続してされたものであり,

その陰湿さや執拗さの程度において,

常軌を逸した悪質なひどいいじめや嫌がらせ

であると判断されました。

 

 

 

さらに,原告が上司にいじめや嫌がらせの相談をしても,

会社は何らかの防止策をとったわけではなく,

原告は失望感を深めました。

 

 

その結果,いじめや嫌がらせと原告の精神障害発症との間に

因果関係が認められるとして,労災が認められました。

 

 

いじめや嫌がらせは,録音をしていないと証明が難しいのですが,

本件事件では,原告が医師やカウンセラーに

いじめや嫌がらせのことを話していたので,

カルテなどにいじめや嫌がらせのことが詳細に記載されていて,

立証がうまくいったのだと思います。

 

 

会社で,いじめや嫌がらせを受けた場合,

まずは録音する等の記録に残し,

精神的にしんどいときには,無理せず,

年次有給休暇を使って会社を休み,

心療内科へ通院するようにしましょう。

 

 

その後,労災の申請をしたり,

いじめの加害者や会社に対して,

損害賠償請求を検討したいときには,

弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。