女性事務職員に対する転居を伴う配転命令が違法とされた事例

会社から,遠くの地方へ転勤を命じられたとしたら,

これを受け入れますか,それとも拒否しますか?

 

 

総合職の労働者であれば,いつ会社から,

転勤を命じられるか分かりません。

 

 

介護を必要としている親がいたり,

まだ小さい子供がいると,家族を残して

単身赴任するのはためらわれます。

 

 

 

 

今回は,会社から受け入れがたい

人事異動をさせられたときに,労働者が

どのように対応すべきかについての

ヒントとなる裁判例を紹介します。

 

 

全国に営業拠点のある一般財団法人の

複数名の女性の事務職員が,それぞれ,

東京から仙台,

横浜から金沢,

さいたまから北海道

へ配置転換する命令を受けました。

 

 

 

そこで,配転命令を受けた女性事務職員らが,

本件配転命令は違法であるとして,

精神的苦痛を受けたことの慰謝料を求める

損害賠償請求をしました

(東京地裁平成30年2月26日判決・

一般財団法人あんしん財団事件・

労働判例1177号29頁)。

 

 

原告の女性事務職員らは,独身であったものの,

それぞれ,体が不自由であったり,

介護を必要とする家族がいました。

 

 

また,原告の女性事務職員らは,

本件配転命令を受けるまでは,

転居を伴う広域の異動をしたことがなく,

被告の一般財団法人においても,

女性職員に対して転居を伴う

配転命令はありませんでした。

 

 

そのため,原告の女性事務職員らが独身であろうとも,

介護などを必要とする家族がいることや,

これまで転居を伴う配転命令がなかったことを考慮すると,

原告の女性事務職員らに対する転居を伴う広域の異動は,

相当程度に大きな負担を生じさせます。

 

 

そうであるならば,被告の一般財団法人としては,

本件配転命令をするにあたり,

原告の女性事務職員らの個別具体的な状況に十分に配慮して,

事前に希望を聞いたうえで,

本件配転命令の業務上の必要性や目的を丁寧に説明して,

その理解を得るように努力するべきであったのに,

これをしませんでした。

 

 

その結果,本件配転命令は,

人事権の濫用にあたり,違法であると判断されました。

 

 

他方,支局長や課長といった男性職員については,

支援を必要とする家族がいても,職責が高いため,

業務上の必要性が高くなり,結果として

家庭生活上の不利益を受け入れなければならないとして,

支局長と課長に対する配転命令は

違法ではないと判断されました。

 

 

このように,これまで広域の人事異動がされていなかった職種や,

実際に人事異動の経験がない労働者に対する配転命令については,

慎重に判断される傾向にあります。

 

 

また,支援を必要とする家族の状況

なども重要な判断要素となります。

 

 

今後は,介護離職が問題になりそうですので,

納得いかない配転命令を受けた場合には,

過去の人事異動の状況を把握した上で,

家族の状況を会社に丁寧に説明して,

配転命令には応じがたいことを伝えてみましょう。

 

 

それでも,会社が取り合ってくれなかった場合には,

専門家へご相談ください。

妻の病気を理由に人事異動を拒否できるのか

ある日突然,会社から県外の別会社への

出向を命じれられてしまいました。

 

 

 

共働きの妻がいて,小さい子供もいます。

 

 

また,両親と同居していて,両親の介護もしないといけない。

 

 

家族のことを考えると県外への転勤は

とても受け入れがたいけれども,

会社の業務命令に逆らうとどうなるのか,とても不安です。

 

 

さて,このような場合,労働者はどうすればいいのでしょうか。

 

 

このような人事異動のトラブルについて,

労働者に有利な判決がだされたので紹介します。

 

 

妻の病気を理由に人事異動を拒否した

労働者に対する懲戒解雇が無効とされた

大阪地裁平成30年3月7日判決です。

(国立研究開発法人国立循環器研究センター事件

・労働判例1177号5頁)

 

 

原告の労働者は,被告である国立循環器研究センター

に勤務していたところ,独立行政法人国立病院機構

の傘下にある病院へ異動するように命令されました。

 

 

原告の妻は,強迫性障害,パニック障害,うつ状態であり,

原告の支援がなければ,抑うつ状態が悪化して,

自殺にいたる危険がありました。

 

 

そこで,原告は,この人事異動命令を拒否したところ,

業務命令違反として懲戒解雇されました。

 

 

原告は,この懲戒解雇が無効であるとして,裁判を起こしました。

 

 

裁判では,国立病院機構への異動が

転籍出向であると判断されました。

 

 

出向には,在籍出向と転籍出向があります。

 

 

在籍出向は,もとの雇用先の会社の従業員

としての地位を残したまま,別会社で長期間働きますが,

出向期間が経過すれば,もとの雇用先の会社に

戻ってくることができる人事異動です

(一般的な出向のことです)。

 

 

他方,転籍出向は,もとの雇用先の会社との

労働契約を終了させて,別会社との間で新たに

労働契約を結ぶ人事異動で,もとの雇用先の会社に

戻ってくることができません

(一般的な転籍のことです)。

 

 

本件の人事異動は,被告である国立循環器研究センター

との労働契約を解消して,国立病院機構と新たに労

働契約を締結することになっているので,

転籍出向であると判断されたのです。

 

 

転籍出向が有効になるためには,

労働者の個別の同意が必要になります。

 

 

転籍出向は,もとの雇用先の会社との労働契約上

の権利を放棄するという重大な効果を伴うものであり,

会社が一方的に行うべきではなく,

労働者自身の意思が尊重される必要があるからです。

 

 

そして,本件では,原告の個別の同意がないため,

転籍出向を命じる人事異動は無効となります。

 

 

さらに,原告の妻の病状が相当深刻であり,

原告の妻は,本件人事異動を聞いてパニックになり,

自殺未遂を起こしており,原告の不利益が大きすぎるため,

転籍出向を命じる人事異動は

権限を濫用したものであると判断されました。

 

 

人事異動が無効になり,その結果,懲戒解雇も無効になりました。

 

 

会社には,人事について広い裁量が認められていますが,

人事異動は,労働者の生活を大幅に変えるものであり,

労働者の子育てや介護の必要性も考慮されなければなりません。

 

 

1億総活躍社会ということで,

様々な立場の人達が働くのであれば,

労働者の子育てや介護の観点から,

人事異動の効力を見直す必要がでてくると考えられます。

 

 

 

半沢直樹のように,人事異動を恐れることなく

自分を貫き通すことは難しいかもしれませんが,

子育てや介護の観点から,人事異動に納得いかないときには,

専門家へご相談することをおすすめします。