バイトテロに対する損害賠償請求

くら寿司のアルバイト店員が,魚をゴミ箱に捨てた後,

まな板に戻して調理しようとする動画や,

セブンイレブンのアルバイト店員がおでんのしらたきを口に入れて,

その後に出す動画がSNSへ投稿され,大きな問題となりました。

 

 

ウィキペディアによりますと,このように,

主にアルバイトなどの非正規雇用で雇われている

飲食店小売店の従業員が、勤務先の商品(特に食品)や

什器を使用して悪ふざけを行う様子をスマートフォンなどで撮影し、

SNSに投稿して炎上する現象をバイトテロと呼ぶようです。

 

 

 

 

このような動画が拡散されますと,会社のイメージは悪化し,

消費者は,他の店員も同じような不適切な行為を

しているのではないかと疑い,その会社から物を買うことをためらい,

会社の売上が減少するリスクが生じます。

 

 

そこで,くら寿司やセブンイレブンは,再発防止のために,

不適切な動画を投稿した元アルバイト店員に対して,

損害賠償請求をする検討を始めたようです。

 

 

本日は,会社のバイトテロに対する損害賠償請求が

認められるのかという問題について解説します。

 

 

この問題は,会社の労働者に対する

損害賠償請求が認められるかという論点です。

 

 

 

労働者が労働契約に基づく義務に違反して会社に損害を与えた場合,

会社は,労働者に対して,債務不履行に基づく損害賠償請求ができ,

労働者が違法に会社に損害を与えた場合,会社は,労働に対して,

不法行為に基づく損害賠償請求ができます。

 

 

もっとも,会社から労働者に対する損害賠償請求は,

資力に乏しい労働者にとって酷な結果となることから,

会社と労働者の経済力の差や,労働者の活動から利益をえる会社は

そこから生じるリスクも負担すべきという考え方(報償責任といいます)

を考慮し,損害の公平な分担を図るために,

裁判例の多くは,一定の範囲で労働者が負う責任を限定しています。

 

 

まず,労働者に業務遂行上の注意義務違反があっても,

それほど重大なミスとはいえない場合には,

労働者に対する損害賠償請求は発生しないと考えられます。

 

 

次に,労働者に重大なミスがあったとしても,

労働者側の宥恕すべき事情や会社側の責任を考慮して,

労働者が負担すべき損害賠償額が軽減されることがあります。

 

 

茨城石炭商事事件の最高裁昭和51年7月8日判決では,

事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,

労働条件,勤務態度,加害行為の態様,

加害行為の予防若しくは損失の分散についての会社の配慮の程度

その他諸般の事情に照らして」,

労働者の損害賠償額が4分の1に減額されました。

 

 

他方,ミスといえないような,

故意による悪質な行為については,

労働者は,基本的に全額の損害賠償義務

を免れることはできないと考えられます。

 

 

くら寿司やセブンイレブンのバイトテロの場合,

業務妨害罪や器物損壊罪などの犯罪に該当する可能性があり,

故意による悪質な行為であるため,

会社が被った損害の全額を賠償しなければならないと考えられます。

 

 

 

もっとも,アルバイトが非常に劣悪な労働条件のもとで酷使されており,

その腹いせにやってしまったという,労働者側に同情すべき点があったり,

会社のアルバイトに対する教育指導が杜撰であったなどという

事情があれば,場合によっては損害賠償額が

減額される余地があるかもしれません。

 

 

また,バイトテロによって,会社にどれだけの損害が

発生したのかという点も争点になると予想されます。

 

 

仮に,会社が,会社の売上が減少したことを損害だと主張したとしても,

競合他社が自社よりも優れたサービスを提供しだしたので

売上が減少したなどという他の要因があれば,

バイトテロの行為と売上の減少との間に因果関係があるのかが

不明になってくるため,因果関係の証明ができるのか

という問題が生じます。

 

 

バイトテロの裁判が始まれば,損害額が減額されるか,

会社が主張する損害とバイトテロの行為との間に

因果関係が認められるのかに注目したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働者は会社が被った損害の全額を負担しなければならないのか

2018年4月22日の「労働者が会社から損害賠償請求されたらどうするか」というブログ記事の続きです。

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/2018/04/24/sonngaibaishou20180424/

 

労働者の重大なミスで会社に損害が発生した場合,労働者は,会社が被った損害の全額を負担しなければならないのでしょうか?

 

この問題について,最高裁昭和51年7月8日判決(茨木石炭商事事件)が重要な判断をしています。この事件では,タンクローリーを運転していた労働者が,前方不注意により,前方を走行していたタンクローリーに追突してしまい,会社が,被害者側に対して,タンクローリーの修理費用と休車補償(交通事故がなければタンクローリーを使用して得られたであろう利益の補償)を支払い,労働者が運転していたタンクローリーの修理費用と休車補償を負担しました。そこで,会社が,労働者に対して,会社が負担した修理費用と休車補償の合計約40万円を請求してきました。ちなみに,会社は,対物賠償責任保険と車両保険には加入していませんでした。

 

判決では「使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に置いて,被用者に対し,損害の賠償又は求償の請求をすることができる」という判断基準が示されて,会社の請求額が4分の1に制限されました。

 

ようするに,労働者のミスの程度や日頃の勤務態度,労働条件が劣悪だったかなどを考慮して,労働者が負担すべき損害額が減額される余地があるということです。この事件では,労働者の給料が安かったこと,勤務成績が普通以上であったことも考慮されて,会社の請求額が4分の1に制限されました。

 

労働者は,会社に対して,損害賠償をしなければならなくなったとしても,必ずしもその全額を支払わなければならないわけではないので,即座に賠償に応じてはならず,給料から損害額を天引きすることに同意しないようにしてください。

 

また,労働者の会社に対する損害賠償の支払いと労働者の退職とは無関係のことですので,労働者は,会社から,損害賠償を支払うまでは退職させないと言われても,これに応じる必要はなく,自由に退職することができるのです。

 

労働相談については,金沢合同法律事務所へご相談ください。

労働者が会社から損害賠償を請求されたらどうするか

「会社を辞めたいけれど,会社に与えた損害を賠償しないと辞めさせないと言われています」,「仕事上のミスを理由に,会社が損害賠償請求をすると脅してきます」という労働相談がよくあります。

 

労働者が仕事上のミスをして会社に損害が発生した場合,労働者は,会社の損害賠償請求に応じなければならないのでしょうか。

 

労働者は,人間なので,いかに注意しても完全にミスをなくすことはできません。会社は,ミスをする労働者を使用して事業を遂行する関係で,労働者のミスによる損害は,業務に内在するものでやむを得ないものです。

 

また,会社は,労働者の労務提供を受けて利益を得ていますし,労働者がミスをしても被害が発生・拡大しない業務システムを作り,保険をかけてリスクを分散することもできます。

 

そのため,会社の労働者に対する損害賠償請求は,簡単に認められるべではありません。仮に認められる場合でも,損害賠償額は限定されるべきです。

 

具体的には,労働者が労働過程において通常求められる注意義務を尽くしている場合には,労働者に損害賠償義務は生じません。

 

また,労働者の些細な不注意によって損害が発生したとしても,そのような損害が日常的に一定の確率で発生する場合,その損害はいわば労働過程に内在するものとして,損害賠償義務は発生しないと考えられます。例えば,皿洗いをしていて食器を割ってしまったり,釣り銭を間違えて多く渡してしまったような場合です。

 

これらとは異なり,労働者に重大な過失や故意がある場合には,労働者の行為によって会社に損害が発生した場合,労働者は,損害賠償義務を負うことになります。

 

以上より,会社から損害賠償請求を言われても,自分のミスが日常的によくあるものであれば,損害賠償義務を負いませんので,会社の主張を鵜呑みにせず,ミスの内容と損害額がいくらなのかを会社にしっかりと確認する必要があります。そして,自分のミスが,本当に会社に損害賠償を支払わないといけないものなのかについて,一人で悩まずに,周りの人に相談してアドバイスを求めてください。

 

労働相談については,金沢合同法律事務所へご相談ください