勤務間インターバル制度,年休,残業代の法改正

6月29日に成立した働き方改革関連法のうち,

本日は,その他の法改正について解説します。

 

 

まずは,勤務間インターバル制度です。

 

 

勤務間インターバル制度とは,

仕事が終わってから次の仕事が始まるまでに,

一定時間の休息を確保させる制度です。

 

 

 

 

EUでは,企業に対して,終業と始業の間に

連続11時間の休息をとらせるように義務付けられています。

 

 

11時間のインターバルが必要になった場合

例えば,午後11時に仕事が終わったとしたら,

翌日の出社は,午前10時以降にしなければなりません。

 

 

勤務間インターバル制度は,休息なしで

連続勤務することを防止することで,

労働者の健康を確保することにつながり,

過労死を防止する切り札となります。

 

 

特に,夜勤労働者の場合,日勤に比べて

疲労がたまりやすいため,十分な休息期間を確保して,

疲労を回復させる必要があることから,

夜勤労働者がいる職場でこそ,

勤務間インターバル制度の導入が求められます。

 

 

もっとも,この勤務間インターバル制度の

導入については,企業に対する努力義務であり,

必ず導入しなければならないものではなく,

実際に導入している企業は1.4%程度です。

 

 

今後は,勤務間インターバル制度を導入する企業が

多くなるように,法整備がなされていくことが期待されます。

 

 

次に,年休(年次有給休暇)についてです。

 

 

2019年4月から,企業に対して,

1年間に10日以上の年休が与えられている労働者に対して,

最低5日を消化させることが義務付けられました

 

 

 

 

 

労働者が5日未満しか消化できなかった場合,

企業に対して,労働者一人当たり

最大30万円の罰金が科せられます。

 

 

労働者は,入社後,6ヶ月継続勤務して,

8割以上出勤すれば,1年間に10日の年休を取得できます。

 

 

年休を取得した日について,労働者には賃金が支払われます。

 

 

しかし,休むことによって,

会社や同僚に迷惑をかけてしまうと思ってしまい,

年休を消化できていない労働者が多いと思います。

 

 

そこで,年休を取得することを促進するために,

今回の法改正が行われたのです。

 

 

労働者としては,年休をしっかりと消化しないと,

逆に会社に迷惑がかかるので,遠慮なく休めばいいことになります。

 

 

最後に,中小企業の残業代についてです。

 

 

2023年4月から,1ヶ月60時間を超えて

時間外労働をさせた場合,中小企業に対して,

5割増の残業代を労働者に支払うことが義務付けられます。

 

 

 

 

既に,大企業では,1ヶ月60時間を超えて時間外労働させた場合,

5割増の残業代を支払わなければなりませんが,

中小企業に対しては,これが猶予されていたのです。

 

 

今回の法改正で,この猶予がなくなり,

1ヶ月60時間を超えて時間外労働をさせた場合,

中小企業の残業代が増加します。

 

 

中小企業は,長時間労働を是正しなければ,

人件費が増加して,経営が悪化するリスクがありますので,

労働生産性を向上させる必要があります。

同一労働同一賃金の法改正

6月29日に成立した働き方改革関連法のうち,

本日は,同一労働同一賃金について説明します。

 

 

パートや契約社員,派遣社員といった

非正規雇用労働者の賃金は,正社員に比べて低い水準にあります。

 

 

少し古い統計ですが,平成24年の賃金構造基本統計調査によれば,

非正規雇用労働者の平均賃金は,

正社員の平均賃金の約6割くらいの水準のようです。

 

 

(日弁連の「あなたの暮らしも危ない?誰が得する?生活保護基準切り下げ(労働編)のチラシより抜粋)

 

 

正社員と非正規雇用労働者の仕事の内容が異なり,

正社員の方が,より難しい仕事をしているのであれば,

賃金に差が生じてもしょうがないと思えるのですが,

正社員と非正規雇用労働者の仕事の内容が同じであるにもかかわらず,

賃金に差が生じているのでは,非正規雇用労働者は納得できません。

 

 

そこで,非正規雇用労働者の待遇改善を図るために,

正社員との不合理な待遇差を是正するのが

同一労働同一賃金の法改正です。

 

 

同一労働同一賃金とは,読んだとおり,

同じ仕事なら同じ賃金が支払われるべきということで,

不合理な賃金格差をなくすことにつながります。

 

 

 

具体的に,どのような賃金格差が違法になるかは,

今後,厚生労働省がガイドラインで定めるのですが,

2016年12月に公表されたガイドラインでは,

次のように定められています。

 

 

すなわち,通勤手当,皆勤手当といった手当や,

食堂の利用といった福利厚生については,

原則として待遇格差は認められません。

 

 

正社員も非正規雇用労働者も,

自宅から会社まで通勤するのは同じですし,

皆勤については,正社員も非正規雇用も変わりませんし,

正社員だから食堂が利用できて,

非正規雇用労働者だから食堂が利用できないのは不合理ですよね。

 

 

他方,基本給が,職業経験や能力,業績や成果,

勤続年数などの差に応じて支給される場合や,

賞与が,業績などへの貢献度に応じて支給される場合には,

待遇差は認められにくいです。

 

 

この待遇差については,仕事の内容を判断の基本にするべきであり,

一般的な異動の可能性や長期雇用のための動機づけ

といった会社の主観的な要素で判断されることが

ないようにする必要があります。

 

 

このような理由で待遇差を安易に許せば,

正社員と非正規雇用労働者の格差の解消が

図れなくなってしまうからです。

 

 

他にも,会社は,非正規雇用労働者から求めがあれば,

正社員と非正規雇用労働者との間の待遇差の内容や

その理由を説明しなければならない義務が生じます。

 

 

非正規雇用労働者は,正社員との待遇差に納得できない場合,

会社に説明を求め,その理由に納得できなければ,

是正を求めていくことになります。

 

 

 

同一労働同一賃金の法改正は,

大企業は2020年4月から,

中小企業は2021年4月から施行されます。

 

 

なお,NTTグループでは,

正社員と非正規雇用労働者の間で

待遇差があった福利厚生制度を見直し,

正社員の制度に一本化したようです。

 

 

その結果,非正規雇用労働者は,

定期健康診断の受診項目が増え,

提携するフィットネスクラブやレジャー施設を

割安で使えるようになったようです。

 

 

今後は,NTTグループのような取り組みが

他の会社にも広がり,正社員と非正規雇用労働者の格差が

是正されていくことが期待されます。

残業時間の上限規制とは

6月29日に成立した働き方改革関連法のうち,

高度プロフェッショナル制度については,

これまで解説をしてきましたので,これからは,

その他の改正部分について解説します。

 

 

まずは,残条時間の上限規制です。

 

 

 

労働基準法が定める労働時間は,

1日8時間,週40時間が原則です。

 

 

これを超えて働かせることは違法なのですが,

36協定を締結すれば,1日8時間以上,

週40時間以上働かせても問題はなかったのが

これまでの労働基準法でした。

 

 

今回の法改正で,この原則に対する例外として,

残業時間の上限が1ヶ月45時間及び

1年について360時間となりました。

 

 

さらに,例外の例外で,

「当該事業場における通常予見することのできない

業務量の増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて

労働させる必要がある場合」には,

1年間に6ヶ月以内なら,

1ヶ月の時間外労働が45時間を超えても,

年間上限720時間以内であれば違法になりません。

 

 

もっとも,この例外の例外には,

休日労働は含まれていません。

 

 

休日労働を含めた場合は,

1ヶ月100時間未満,

2~6ヶ月の平均80時間未満が,

休日労働を含んだ残業時間の上限となります。

 

 

そして,休日労働を含む残業時間が,

1ヶ月100時間を超えたり,

2~6ヶ月の平均80時間を超えた場合,

企業には,6ヶ月以下の懲役若しくは

30万円以下の罰金の刑罰が科されます。

 

 

例外の例外があったり,休日労働を含めるか含めないか

という複雑な構造になっていますが,ようするに,

休日労働を含む残業時間が,1ヶ月100時間を超えるか,

または,2~6ヶ月の平均80時間を超える場合に,

企業に刑罰が科せられると覚えておけばいいと考えます。

 

 

労働者としては,休日労働を含む残業時間が,

1ヶ月100時間を超えたり,

2~6ヶ月の平均80時間を超えた場合には,

労働基準監督署へ相談にいけば,

労働基準監督署が会社に対して,

監督指導する可能性があります。

 

 

この残業時間の上限規制は,大企業であれば,2019年4月から,

中小企業であれば,2020年4月から適用されるので,

労働者を働かせすぎている会社は気をつけた方がいいでしょう。

 

 

もっとも,この残業時間の上限規制は,

建設業や運送業,医師については,5年間,

適用が猶予されていますし,

新技術や新商品などの研究開発業務については,

適用がはずされています。

 

 

これまでは,残業時間の上限がなかったので,

際限なく働かせることも可能でしたが,今回の法改正で,

働かせすぎを予防する規制ができました。

 

 

 

 

しかし,残業時間の上限が,

1ヶ月100時間未満,2~6ヶ月の平均80時間未満という,

過労死や過労自殺ラインに設定されているので,

過労死や過労自殺に至るまで働かせることを

容認することになりかねないので,今後は,

残業時間の上限時間を段階的に少なくしていくことが求められます。

 

労働基準監督官は高プロを取り締まれない?

昨日に引き続き,6月29日に成立した

高度プロフェッショナル制度(通称,「高プロ」といいます)

に抗議する意味を込めて,高プロの問題点を指摘します。

 

 

今回の高プロの問題点は,

労働基準監督署の労働基準監督官が,企業に対して,

長時間労働の監督指導をできないということです。

 

 

 

 

労働基準法に定められている労働時間規制によって,

労働者は,企業から働かされ過ぎないように保護されています。

 

 

具体的には,企業は,労働者を

1日8時間以上働かせてはいけなくて,

これに違反した場合には,

残業代を支払わなければなりません。

 

 

労働基準法は,企業に残業代を支払わせることで,

長時間労働を抑制して,労働者の働き過ぎを

予防しようとしているのです。

 

 

そして,労働基準監督官は,残業代を支払わずに

長時間労働をさせている企業があれば,監督指導を行います。

 

 

しかし,高プロが適用されれば,

この労働時間規制がはずされるため,

残業代ゼロで24時間働かせても合法になり,

労働基準監督官は,高プロが適用されている

労働者の長時間労働について,

企業に監督指導ができなくなります。

 

 

また,企業は,高プロが適用されている労働者の

労働時間を管理する必要がないので,

高プロが適用されている労働者の労働時間

についての記録が残らなくなります

 

 

 

 

労働時間の記録が残らないため,労働基準監督官が,

高プロが適用されている労働者がどれだけ働いていたのかを

証明することができないので,監督指導が困難になります。

 

 

さらに,高プロが適用されている労働者が,

本当に高プロの対象業務を行っているのか,

いつ働くかの裁量を本当にもっているかについて,

法律の概念が抽象的なので,労働基準監督官が,

高プロが適法に運用されているのかを調査するには,

時間と手間がかかり,やはり,監督指導が困難になります。

 

 

例えるなら,穴の空いた網で魚を捕まえようとするようなものです。

 

 

 

 

 

労働基準監督官を増やせば,高プロ違反を

取り締まることができるという意見もありますが,

労働基準監督官を増やしても,高プロ違反の摘発は困難なのです。

 

 

なお,公務員の人員削減が進んでいる中で,

地方労働行政の職員が,労働基準法違反を監督指導する

労働基準監督官に移されている結果,

労災を担当する職員が減少し,労災の認定が遅くなっている

というひずみも生じているようです。

 

 

このように,違法に高プロが適用されていたとしても,

労働基準監督官が違法に高プロを適用している企業を

監督指導することが困難ですので,企業は,

残業代ゼロで労働者を長時間働かせてしまい,

過労死が増えるのは目に見えています。

 

 

取締が困難で,過労死を助長する高プロは,廃止するべきです。

 

高度プロフェッショナル制度の成立に抗う

平成30年6月29日,残念ながら,

高度プロフェッショナル制度(通称,「高プロ」といいます)

を含む働き方改革関連法案が参議院で

可決されて,成立してしまいました。

 

 

これまで,何度もブログで,

高プロの危険性やおかしな点を指摘してきましたが,

抗議の意味を込めて,改めて,

高プロの問題点について解説します。

 

 

まず一番の問題点は,高プロが適用されれば,

労働時間の規制がはずされるので,

残業代ゼロで24時間働かせることが合法になり,

長時間労働が蔓延して,過労死を助長させます。

 

 

 

 

高プロに賛成する立場の人は,高プロを導入すれば,

労働生産性が向上すると主張しています。

 

 

しかし,高プロによって,長時間労働が蔓延することで,

かえって労働生産性がおちる結果になると考えられます。

 

 

また,先日のブログに記載しましたが,

労働者は,当然,高プロを求めていないのですが,

経営側にも高プロのニーズがあまりありません。

 

 

6月26日の参院厚生労働委員会において,安倍首相は,

適用を望む企業や従業員が多いから導入するのではない

と答弁をしました。

 

 

労働者側にも経営者側にもニーズがないのに,

なぜ高プロを導入するのか,全く理解できません。

 

 

必要がない上に,過労死を助長するマイナスが多いのであるから,

高プロは当然に廃案にすべきだったのです。

 

 

また,高プロの適用対象となる職種ですが,

高度の専門的知識を必要とする業務で,

具体的には,金融商品の開発業務やアナリストの業務,

コンサルタント業務,研究開発業務などが

対象になると言われていますが,

まだ明確には定まっていません。

 

 

高プロの対象業務については,省令に委ねられています

 

 

これは何を意味するかというと,厚生労働省が,

国会の審議を経ることなく,高プロの対象業務を

拡大することができてしまうのです。

 

 

これまで,専門業務型裁量労働制や労働者派遣

の対象業務が省令で拡大されてきた前例がありますから,

高プロも同じように対象業務が拡大されることが予想されます。

 

 

小さく産んで大きく育てるというものです。

 

 

 

労働者は,知らないうちに,自分の仕事が省令によって

高プロの対象業務に含まれていて,

会社から高プロの導入を求められるリスクがあるのです。

 

 

高プロが成立してしまいましたが,法案審議の中で,

様々な欠陥が明らかになったので,改めて,抗議し,

高プロを速やかに廃案にすべきと考えます。

 

医療現場の働き方改革

現在,働き方改革関連法案が参議院で審議されており,

今週が山場になる見通しです。

 

 

働き方改革が世の中で叫ばれていることから,

新潟市民病院における働き方改革について紹介します。

 

 

平成28年1月,新潟市民病院の女性研修医が自殺しました。

 

 

自殺した女性研修医は,月平均の時間外労働が約187時間,

最も多い月では251時間に達していました。

 

 

過労自殺の場合,精神疾患が発症する前6ヶ月間

の時間外労働が100時間を超えると,

強い心理的負荷があったとして,労災認定されます。

 

 

 

 

自殺した女性研修医は,100時間を大幅に超える

時間外労働をしていたことから,過労自殺が労災認定

されたのだと考えられます。

 

 

この過労自殺の労災認定を受けて,

新潟市民病院は,平成29年6月に

緊急対応宣言を発表しました。

 

 

緊急対応宣言には,市民に対して,

休日や夜間に緊急ではない受診を控えてほしいことや,

軽症だと思うけれども心配な場合にまずは

電話で相談してほしいことが記載されています。

 

 

また,外来受診について,一般外来の新規患者の場合,

まずはかかりつけ医を受診して,それでも治らないときに

紹介状をもってきてもらうという対応に変わりました。

 

 

その結果,救急搬送が前年と比べて6%減少し,

周辺の病院が協力して,救急患者を受け入れてくれたようです。

 

 

 

また,電子カルテの新システムや

病院の出入口で入退館を自働で記録することで

医師の労働時間を把握するようになりました。

 

 

平成29年1月に,厚生労働省のガイドラインにおいて,

会社は,労働者の労働時間を適正に把握する責務があるとされました。

 

 

具体的には,会社は,タイムカードやパソコンの使用時間

の記録などの客観的な記録を確認して,労働者の労働日ごとの

始業時刻と終業時刻を適正に記録しなければなりません。

 

 

会社が労働者の労働時間を適正に把握すれば,

労働者が働き過ぎの状態であるかが分かりますので,

会社は,労働者に対して,労働時間を少なくするように

指導することができます。

 

 

労働者自身も,労働時間を把握していないと,

ついつい働き過ぎてしまい,

健康を害するおそれがあります。

 

 

労働者の健康を守るためにも,労働時間を把握することは重要です。

 

 

医師の労働時間を病院が把握することで,

働き過ぎの医師に休むように指導することができるようになります。

 

 

さらに,新潟市民病院では,

複数の医師で患者を担当する複数主治医制を導入したようです。

 

 

患者を複数で担当することで,

緊急時の対応を一人の医師だけでなく,

他の医師も対応できることで,

休みを確保しやすくなるのだと思います。

 

 

医師が働き過ぎで健康を害せば,

医師の治療を求める患者にとって,とてもデメリットです。

 

 

 

 

医師が無理なく適正に働けるように,

私達は,すぐに大病院を受診するのではなく,

まずはかかりつけ医を受診する,

平日の朝まで我慢できるのであれば,

休日や夜間の受診を控えるなど,

できる範囲の協力をしていくべきだと考えます。

 

経営者側にも高プロのニーズがない

通常国会の会期が延期されて,参議院で,

働き方改革関連法案の審議が継続されています。

 

 

ブログで何度も指摘してきましたが,働き方改革関連法案の中で,

高度プロフェッショナル制度(通称「高プロ」といいます)は,

高年収の一部専門職に対して労働時間の規制をはずして,

残業代ゼロで24時間働かせることが可能になってしまうので,

過労死を助長する危険な制度です。

 

 

今朝の朝日新聞の記事によると,

朝日新聞社が全国の主要100社に実施した調査の結果,

働き方改革関連法案が成立した場合に高プロを採用するか

という質問について,採用する方針を示したのは6社

採用するつもりはないと答えたのが31社,

分からないと答えたのが51社だったようです。

 

 

 

もともと,高プロは,経営者側が導入を

要求してきた制度なのですが,実際には,

現時点で採用する方針の会社が100社中6社しかいないなので,

経営者側のニーズがどれだけあるのか疑問です。

 

 

高プロを適法に導入するためには,

厳しい要件をすべてクリアしなければならないうえに,

実際に高プロを導入しても,

どれだけ労働生産性が上がるのか予測ができないので,

高プロの導入に積極的になれない会社がほとんどなのだと思います。

 

 

一方,労働者側のニーズはどうでしょうか。

 

 

 

厚生労働省が実施した働き手のニーズ調査では,

5社のうち12人しかヒアリングをしていなかったのです。

 

 

2018年4月の日本の就業者数は6671万人です。

 

 

6671万人のうちのたった12人しか調査していなかったのです。

 

 

仮に,調査対象者である12人が

高プロの導入に賛成したとしても,

サンプル数があまりにも少ないので,

この12人の意見が,6671万人の労働者の

意見を反映していることにはならないはずです。

 

 

さらに,12人中9人のヒアリングの際には,

会社の人事担当者も同席したようです。

 

 

ヒアリングの対象者である労働者は,

会社の人事担当者が同席しているところで,

正直に自分の意見を言いにくいものです。

 

 

自分の発言が,会社の人事でどのように利用されるのか

と考えれば,ぶなんに回答しようと考えてしまうからです。

 

 

そのため,厚生労働省の働き手のニーズ調査は

極めてずさんであり,厚生労働省のニーズ調査から,

労働者側が高プロを求めているとはとてもいえないのです。

 

 

そもそも,残業代ゼロで24時間働かされることが

合法になる制度を,労働者が求めるはずがありません。

 

 

結局,経営者側も労働者側も高プロのニーズがありませんので,

高プロは,すみやかに廃案にするべきです。

忙しすぎる先生を減らすには

公立学校の教師の働き過ぎが問題となっています。

 

 

 

 

労働判例という,労働事件について注目の判例

を紹介している雑誌にも,公立学校の教師の働き過ぎによる

過労死や精神疾患の発症が公務災害となった判例が,

最近,複数紹介されています。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201709242919.html

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201709172981.html

 

 

公立学校で長時間労働が生じている原因の一つに,

「効率の義務教育諸学校等の教育職員の給与に関する特別措置法」

(「給特法」といわれています)の存在があげられます。

 

 

給特法3条2項には,

「教育職員については,時間外勤務手当及び休日勤務手当は,支給しない」と定められています。

 

 

ようするに,教師は,時間外労働や休日働いても,

残業代が支払われないのです。

 

 

残業代が支払われない代りに,教師には,

給料月額の4%に相当する「教職調整額」が支給されます。

 

 

このように,教師には,給料月額の4%に相当する

教職調整額が支給されるものの,残業代が支払われない

ことになったのは,教師の勤務態様に特殊性

があるからと説明されています。

 

 

修学旅行や遠足などの学校外の教育活動,

家庭訪問や学校外の自己研修など教員個人での活動,

夏休み等の長期の学校休業期間

といった教師固有の勤務態様のため,

勤務時間管理が困難であるからという理由です。

 

 

給特法があるため,実務上,

勤務の内容や時間数に関係なく,どれだけ働いても,

教師には残業代が一切支払われない扱いになっています。

 

 

そもそも,労働基準法37条で,

労働者が時間外労働をした場合に,

会社が労働者に残業代を支払わなければならない趣旨は,

会社に残業代の支払というペナルティを与えることで,

長時間労働を抑制して,労働者の健康や

ライフワークバランスを守ることにあります。

 

 

そのため,残業代の支払というペナルティがなければ,

会社は,労働者をどれだけでも働かせて,

業績をあげようとするので,長時間労働が横行してしまいます。

 

 

これを教師にあてはめれば,

教師の雇用主である地方公共団体は,

教師をどれだけ働かせても,残業代の支払

というペナルティが生じないので,

教師がどれだけ働いても,何もしません。

 

 

 

そして,難しい子供の対応,

英語やプログラミングといった新しい授業科目への対応,

部活動の担当,クレーマー保護者への対応など,

教師の仕事が増えているのに,雇い主の地方公共団体は,

残業代を支払わなくていいので,長時間労働を

抑制するための対策をとる動機がうまれません。

 

 

その結果,教師の長時間労働が横行して,

疲労が蓄積して,教師の過労死や精神疾患が増えていく

という負のスパイラルにおちいっていくのです。

 

 

教師が働き過ぎで疲弊すると,

よりよい授業ができなくなり,

子供達が影響を受けるので,

早急に対策が求められます。

 

 

まずは,教師の労働時間の管理をしっかりやる

ことが手っ取り早いと考えます。

 

 

労働者は,自分の労働時間を記録していないと,

仕事が忙しいときにはついつい長時間労働をしがちですが,

自分の労働時間を記録して,その記録を振り返ることで,

働き過ぎを自覚して,労働生産性を向上させる

きっかけを得ることができます。

 

 

その他にも,部活動の指導を外部のスポーツトレーナー

にアウトソーシングする,通知表管理や電話対応をシステム化する

という方法で,教師の労働時間を減らす方法も考えられます。

 

 

医師の働き方と同様に,教師の働き方についても,

教育予算の観点から国民的な議論をして,

忙しすぎる先生を少しでも減らせる取り組みが求められます。

過労死防止対策と高度プロフェッショナル制度の矛盾

5月31日,政府は,新たな「過労死防止大綱」の最終案を発表しました。

 

 

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000209413.html

 

 

過労死防止大綱は,過労死ゼロの実現を目指す

政府の基本方針を示すもので,厚生労働省の施策の土台となるものです。

 

 

この過労死防止大綱を読むと,日本人の働き方がよくわかります。

 

 

月末1週間の就業時間が60時間以上の雇用者の割合は,

平成29年は7.7%で432万人となっています。

 

 

 

 

個人的な感覚としては,月末1週間の就業時間が60時間を

超えている労働者の割合は,もっと多いような気がします。

 

 

政府は,週労働時間60時間以上の雇用者の割合を平成32年までに

5%以下にする目標を掲げているので,まだ達成できていません。

 

 

次に,勤務間インターバル制度について,

導入している企業が1.4%

導入を予定しているまたは検討している企業が5.1%,

導入の予定はなく,検討もしていない企業が92.9%となっています。

 

 

勤務間インターバル制度とは,

勤務終了から次の勤務開始までの間に

十分な休息時間を確保するというものです。

 

 

1日の労働が終了して,次の労働が始まるまでの間に,

十分な休息時間を確保することで,長時間労働を抑制して,

労働者の疲労を回復させ,ワークライフバランスを確保できるようになります。

 

 

この勤務間インターバル制度については,

周知が不十分なのか,

導入企業がわずか1.4%しかありません。

 

 

そこで,政府は,平成32年までに

勤務間インターバル制度を導入する企業の割合を

10%以上

とする目標を掲げました。

 

 

医療,介護,運送業など夜働く業界の場合,

夜働くことで睡眠バランスが崩れて,

疲労が蓄積しやすいので,

労働者保護の観点から勤務間インターバル制度が必要であると思います。

 

 

また,勤務間インターバル制度における休息時間ですが,

睡眠以外にも家族と団らんする時間を確保するためにも,

ヨーロッパで導入されている11時間以上が必要です。

 

 

休息時間が短い「名ばかり」勤務間インターバル制度

が導入されないようにチェックする必要があります。

 

 

過労死防止の観点から,早急に多くの企業で

勤務間インターバル制度が導入されることを願います。

 

 

その他にも,年休の取得率約50%を平成32年までに70%以上にし,

年休取得数が0の労働者を解消する目標も掲げられています。

 

 

過労死を防止するための対策が具体的数値と共に記載されており,

過労死をなくすための意気込みを感じますが,一方で,

5月31日に高度プロフェッショナル制度を含む

働き方改革関連法案が衆議院を通過しました。

 

 

何度もブログで投稿してきましたが,高プロは,

労働時間の規制を撤廃して,過労死を助長する制度です。

 

 

過労死防止対策をすすめながら,

一方で過労死を助長する高プロを導入するので,

政府の対応に矛盾を感じます。

働き方改革関連法案の強行採決に反対します

昨日,衆院厚生労働委員会において,

働き方改革関連法案が強行採決されてしまいました。

 

 

 

 

これまで何回かブログで記載してきましたが,

働き方改革関連法案のうち,

高度プロフェッショナル制度(通称「高プロ」といいます)は,

対象労働者の労働時間の規制を撤廃して,

残業代0円で24時間働かせても合法になるという危険な制度です。

 

 

そのため,野党は,高プロは過労死を助長するとして,

撤回を求めてきましたが,残念ながら,

昨日,強行採決されてしまったのです。

 

 

野党の健全な批判に耳を傾けずに,

数の力で採決を強行する与党のやり方は,

あまりにも横柄であり,

国会が言論の府として正常に機能していないように思えて,残念です。

 

 

今日は,これまでのブログに記載していなかった

高プロの問題点について解説します。

 

 

政府・与党は,高プロは,働いた時間ではなく成果で賃金を決める

成果型賃金制度であると主張しています。

 

 

しかし,これは誤りです。

高プロを導入する要件の中に,賃金制度に関する要素はなく,

成果型賃金にすることが義務付けられていません。

 

 

多くの企業では,月額賃金がほぼ固定された月給制がとられており,

高プロが導入されても,月給制の賃金制度が変わる保障はありません。

 

 

そのため,月給制のまま高プロが導入されれば,

たとえ,労働者が成果をあげたとしても,給料があがる保障はなく,

月額賃金が固定されたまま,残業代0円で24時間働かされる危険性があるのです。

 

 

また,高プロの法案には,

労働者の健康を確保するための措置を会社に義務付けていますが,

長時間労働の歯止めにならない実効性に欠けるものになっています。

 

 

高プロの法案では,

4週間のうち4日休日を与えなければならないのですが,

4週間で4日休日を与えさえすれば,

24時間連続勤務であっても許されることになります。

 

 

 

 

これでは,長時間労働の歯止めにはなりません。

 

 

高プロの法案では,会社が実施すべきとされている

労働者の健康を確保するための措置として,4つあげられており,

その中から1つを実施すればよいことになります。

 

 

おそらく,会社は,4つの中から最も負担の軽い,

「一定の場合に健康診断を実施する」ことになると思います。

 

 

しかし,健康診断を実施するだけでは,

長時間労働の歯止めになりません。

 

 

このように,高プロの法案では,

長時間労働の歯止めになる対策がなされていないので,

残業代0円で24時間働かされて,労働者の健康が害される危険があり,

やはり,野党の批判のとおり,過労死を助長するのです。

 

 

私は,高プロを含む働き方改革関連法案の強行採決に反対します。