神戸市の給与停止の条例改正案を考える

1 教員間のいじめ問題をきっかけに給与停止の条例改正案が可決されました

 

 

神戸市の東須磨小学校の教員間のいじめ問題において,

加害者教員が年次有給休暇を取得していることに批判が集まり,

神戸市議会は,懲戒処分の決定前でも給与の支払いを停止できる

条例改正案を可決しました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASMBY4GJKMBYPIHB00N.html

 

 

地方公務員法28条2項において,地方公務員に対して,

休職処分を命じることができるのは,

①心身の故障のため,長期の休養を要する場合,

②刑事事件で起訴された場合に限定されています。

 

 

神戸市の条例改正案では,この休職処分の対象を拡大し,

重大な非違行為で起訴されるおそれがあり,

職務を続けると公務の円滑な遂行に重大な支障を生む可能性がある場合にも,

休職処分を命じることができるようになるようです。

 

 

そして,新しい休職処分の場合には,

休職期間中,給与の支払いを停止できるようです。

 

 

本日は,この神戸市の条例改正について検討してみます。

 

 

 

2 年次有給休暇

 

 

まず,加害者の教員は,いじめ問題が発覚後,

学校へ出勤していないと思いますが,

年次有給休暇を取得して休んでいるはずです。

 

 

公務員には,原則として1年間に20日の年次有給休暇が

与えられますし,未消化の年次有給休暇を翌年に繰り越すことができます。

 

 

 

そのため,加害者の教員が年次有給休暇をあまり取得しておらず,

年次有給休暇がたまっていたのであれば,まずは,

年次有給休暇を消化して休むことができます。

 

 

年次有給休暇を消化して休んだ場合,

その休んだ期間,給料が支払われます。

 

 

3 病気休暇

 

 

次に,加害者の教員が,これだけ世間からバッシングを受けて,

精神を病んでしまい,治療が必要になった場合,病気休暇を取得できます。

 

 

病気休暇については,各自治体の条例で定められており,

自治体職員が負傷または病気を療養するために

必要とされる期間について認められます。

 

 

 

通常,自治体の病気休暇の場合,

最大90日程度までは給与は全額支給されます。

 

 

4 病気休職

 

 

そして,90日を超えても,治療のため休む必要がある場合には,

病気休職となります。

 

 

病気休職については,多くの自治体では,

休職期間は3年を超えない範囲とされており,

そのうち1年間は給与の8割が支給されます。

 

 

病気休職期間が1年を超えると無給になりますが,

共済組合から傷病手当金が1年6ヶ月間支給されます。

 

 

このように,地方公務員は,年次有給休暇→病気休暇→病気休職

を利用することで,給与の支給を受けながら,休むことができるのです。

 

 

そのため,加害者の教員に対して,

停職処分や免職処分といった懲戒処分が科されるまでは,

給与が支給されることになります。

 

 

5 私見

 

 

とはいえ,あれだけひどいいじめを教員がしていたことが

大問題となっており,加害者の教員に対して,

休んでいるのに給与が支払われるのに納得できない人が大勢いるのも,

理解できます。

 

 

また,地方公務員法24条5項において,

「職員の給与,勤務時間その他の勤務条件は,条例で定める」

と規定されているので,条例で新たな休職事由を規定することも可能です。

 

 

ただ,既に権利として与えられていた給与を停止させるのは,

過剰な不利益を加害者の教員に突如として与えることになり,

公務員の身分保障の観点からも,行き過ぎの感を否めません。

 

 

私としては,加害者の教員に対しては,

早急に調査を行い,速やかに懲戒処分をくだし,

懲戒処分までの間は,従来どおり給与を支給するのは

やむを得ないことだと考えます。

 

 

今後,この改正された条例が,恣意的な運用がされないように

チェックしていくことが重要になりそうです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

非正規公務員の雇止め問題

公務員の労働問題は,民間企業の場合と

異なることが多々あります。

 

 

 

公務員の労働条件は,法律や条例で定められるのに対して,

民間企業の労働条件は,労働契約書や就業規則で定められます。

 

 

また,公務員の採用や退職といった身分関係の変動が

全て行政行為に基づいている点に特色があります。

 

 

行政行為とは,行政庁が,法律に基づき,

公権力の行使として,直接・具体的に

国民の権利義務を規律する行為をいいます。

 

 

そのため,公務員の身分関係の変動を争う場合には,

行政庁の判断に裁量の逸脱や濫用があったかが争点になります。

 

 

このように,公務員の労働問題は,

民間企業とは異なる特殊性があるのですが,

本日は,非正規公務員の雇止めの問題について解説します。

 

 

労働契約法19条によって,民間企業の非正規雇用労働者は,

有期労働契約が更新されるものと期待することについて

合理的な理由がある場合には,雇止めが無効になって,

有期労働契約が更新されることがあります。

 

 

しかし,非正規公務員の場合,労働契約法21条によって,

労働契約法が適用されないため,

今後も雇用が継続すると期待することについて

合理的な理由があっても,雇止めは有効となります。

 

 

民間企業の非正規雇用労働者であれば,

雇用が継続される場合であっても,

非正規公務員の場合は,行政庁が更新を認めない限り,

雇用が継続されることはないのです。

 

 

これは,公務員の採用である任用は,

行政庁の行政行為があって初めて勤務関係が成り立つのであって,

民間企業のように,労働者と会社の合意だけで

勤務関係が成立しないことに原因があります。

 

 

すなわち,法令に則った任用や任用更新手続が行われる

非正規公務員の再任用拒否については,

民間企業の場合と異なり,当事者の合理的意思解釈

によって任用関係の内容が変更されることは

認められていないので,再任用への期待が

直ちに合理的な期待として法的保護が与えられないからなのです。

 

 

それでは,任用更新ができないのであれば,

非正規公務員は,どのように争えばいいのでしょうか。

 

 

 

 

非正規公務員が,任命権者から,

任用予定期間満了後の任用継続を確約ないし保障するなど,

期間満了後の任用継続を期待しても無理もない行為を受けた

といった特別の事情がある場合に限り,国家賠償法に基づき,

損害賠償請求が認められる余地があります。

 

 

この特別の事情を判断する際に,

長期間にわたる任用継続,

更新手続の形骸化,

任用時の説明,

非正規公務員の職務内容,

行政庁の説明内容

といった事情が総合考慮されます。

 

 

25回任用が繰り返され,25年にわたり,

吹田市に勤務していた非常勤の公務員の裁判において,

損害賠償請求が認められませんでした

(吹田市事件・大阪高裁平成29年8月22日判決・

労働判例1186号66頁)。

 

 

このように,単に任用が継続しただけでは,

再任用拒否の違法性は認められないため,

非正規公務員の雇止めを争うのは極めて困難なのが現状なのです。

 

 

民間企業の非正規雇用労働者と比べて,

非正規公務員の勤務関係はさらに不安定でありますので,

非正規公務員の雇用を継続させる法律を制定するなどして,

解決すべきと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。