手当の不正受給による懲戒解雇と退職金の不支給

先日,アルバイトによる不適切な動画がSNSに投稿されたことで,

大戸屋が店舗を休業して,アルバイトに対して,研修を行いました。

 

 

 

 

このようなバイトテロに対して,会社は,

懲戒処分や損害賠償請求をすることが多くなる可能性があります。

 

 

労働者の不祥事について,会社が,労働者に対して,

懲戒処分をした場合,労働者が,

懲戒処分に該当する行為をしていない,

懲戒処分は重すぎるなどと主張して,

懲戒処分を争うことがあります。

 

 

本日は,労働者が会社の諸手当を不正受給して懲戒解雇されて,

退職金が不支給となったことが争われたKDDI事件を紹介します

(東京地裁平成30年5月30日判決・労働判例1192号40頁)。

 

 

この事件の原告は,もともと長女と同居していたのですが,

長女が大学に進学して,長女と別居していたにもかかわらず,

長女と同居したままとして,住宅手当を多く取得しました。

 

 

また,原告は,長女と別居していたので,

被告会社の単身赴任基準を満たしていないにもかかわらず,

被告会社に対して,異動に伴いそれまで同居していた長女との

別居を余儀なくされたと虚偽の事実を申告して,

被告会社に誤認させて,単身赴任手当を不正に受給しました。

 

 

その他にも,原告は,社宅の賃料を不正に免れたり,

帰省旅費を不正に受給したりして,被告会社に対して,

合計約400万円の損害を与えました。

 

 

 

 

原告の不正行為には,会社に対する届出を忘れたという性質

がある反面,積極的に事実を偽り,会社を騙した詐欺の性質もあり,

3年以上の期間にもわたって不正が行われていたことから,

原告と被告会社が雇用関係を継続する前提となる

信頼関係が回復困難なほどに毀損されたと判断されました。

 

 

さらに,原告には,過去に2日間の停職の懲戒処分歴があり,

被告会社に対して,明確な謝罪や被害弁償がないことから,

懲戒解雇は有効と判断されました。

 

 

会社の金銭の不正受給に対する懲戒処分の場合,

重い懲戒処分がなされても,有効となる傾向にあると思います。

 

 

懲戒解雇が有効の場合,多くの会社では,

退職金を不支給にするか減額する規定を設けていることが多いです。

 

 

本件事件でも,懲戒解雇の場合は,退職金を不支給にする

規定があったため,被告会社は,原告の退職金を不支給にしました。

 

 

しかし,退職金には,賃金の後払い的性格と功労報償的性格の2つ

があり,退職金の不支給や減額をするには,

労働者のそれまでの長年の勤続の功を抹消ないし減額してしまうほどの

著しく信義に反する行為があった場合に限られる

とするのが裁判所の立場です。

 

 

退職金の賃金の後払い的性格を重視すれば,

不支給や減額を否定する方向に働き,

退職金の功労報償的性格を重視すれば,

労働者の非違行為の内容によっては,

不支給や減額も肯定されるのですが,

それでも抑制的に判断されています。

 

 

 

本件事件においても,原告の非違行為の性質は悪質ではあったものの,

裁判所は,原告の30年以上の勤続の功を完全に抹消したり,

そのほとんどを減殺するものとはいえず,

退職金のうちの6割を不支給として,

退職金の4割を支給することを命じました。

 

 

これまでに,さまざまな事件で,

懲戒解雇と退職金の不支給や減額が争われてきましたが,

懲戒解雇の場合に,退職金を不支給とすることが

認められた裁判例はないと思います。

 

 

労働者としては,懲戒解雇が有効となっても,

退職金がいくらか支給される可能性があることを知っておいてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働者は会社の調査に協力しなければならないのか?

労働者が会社の経費を不正に使用するなどの

懲戒処分に該当する行為(非違行為といいます)をした場合,

会社は,労働者の非違行為の有無を調査します。

 

 

経費の不正使用であれば,具体的には,

領収書や会計帳簿を税理士にチェックしてもらい,

お金の流れにおかしいところがないかを確認したり,

他の労働者の聞き取りを行います。

 

 

 

 

客観的に手堅い証拠を固めた後に,

非違行為をしたと疑われる労働者に

事情を聴取することになると思われます。

 

 

このような調査を経て,会社は,非違行為があったのか,

あったとしたらどのような懲戒処分とするのかを決定します。

 

 

それでは,会社が懲戒処分を検討すための調査をする場合に,

労働者は,会社の調査に応じなければならないのでしょうか。

 

 

この論点について争われた富士重工事件の

最高裁昭和52年12月13日判決では,

違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため,

事実関係の調査をすることができることは,

当然のことといわなければならない」と判断されました。

 

 

また,ドコモCS事件の東京地裁平成28年7月8日判決では,

「労働者は自身の労働契約上の義務に違反する行為に関し,

使用者が調査を行おうとするときは,

その非違行為の軽重,内容,調査の必要性,その方法,態様等に照らして,

その調査が社会通念上相当な範囲にとどまり,

供述の強要その他の労働者の人格・自由に対する

過度の支配・拘束にわたるものではない限り,

労働契約上の義務として,その調査に応じ,

協力する義務がある」と判断されました。

 

 

 

 

ようするに,非違行為をした労働者は,

会社の調査に協力する義務を負うのが原則といえます。

 

 

そして,非違行為をした労働者が,会社の調査の過程で,

うそをついたり,積極的に調査を妨害する行為をした場合は,

会社との信頼関係を悪化させるので,会社が懲戒処分を決める上で,

労働者にとって不利益に評価されてしまうのです。

 

 

そのため,非違行為をしたことに争いがない場合には,

労働者は,素直に会社の調査に応じた方が,

自分の身を守ることにつながるといえそうです。

 

 

次に,非違行為をした労働者ではない,その他の労働者には,

会社の調査に応じる義務があるのでしょうか。

 

 

この論点について,富士重工事件の最高裁判決では,

①当該労働者の職責に照らして,

調査に協力することが職務内容になっている場合,または,

②調査対象である非違行為の性質・内容,

非違行為見聞の機会と職務執行との関連性,

より適切な調査方法の有無などを総合判断して,

労務提供義務を履行するうえで必要かつ合理的であると

認められる場合には,調査に協力する義務はありますが,

それ以外の場合には調査に協力する義務はないと判断されました。

 

 

ようするに,①非違行為をした労働者を監督する立場にある

上司の場合や,②防犯カメラなどがなく,

非違行為を目撃した労働者が一人しかおらず,

非違行為を証明するためには,目撃した労働者の証言が必要な場合

などには,調査に協力する義務はありますが,そうでないなら,

一般の労働者には調査に協力する義務はないことになります。

 

 

非違行為をしていない労働者は,

会社の調査に無理に協力する必要はありませんが,

非違行為をした労働者に対して同情する理由がないのであれば,

通常は会社の調査に協力することがほとんどだと思います。

 

 

非違行為をした労働者が,会社から調査を受けており,

どのように対応すればいいか迷った場合には,

早急に弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます

バイトテロに対する懲戒処分

昨日のブログに引き続き,本日は,

バイトテロに対する懲戒処分について検討します。

 

 

アルバイトの労働者が,ツイッター,インスタグラムなどの

SNSに勤務先の商品(特に食品)や什器を使用して

悪ふざけを行う様子の動画を投稿して,

それが拡散していった場合,会社は,

そのアルバイトを懲戒処分することができるのかという問題です。

 

 

 

 

まず,会社が労働者を懲戒するためには,

就業規則に懲戒の対象となる事由と懲戒処分の種類が定められ,

その就業規則が周知されていなければなりません。

 

 

そのため,会社の就業規則に,労働者が会社の信用を毀損したり,

会社の器物を損壊した場合には,懲戒処分を科すことができるという

規定が存在していなければ,会社は,労働者を

懲戒処分することができないのです。

 

 

次に,懲戒処分の対象とされた労働者の行為が

就業規則所定の懲戒事由に該当し,懲戒処分に

「客観的に合理的な理由」があると認められることが必要です

(労働契約法15条)。

 

 

この要件で問題になるのは,労働者の私生活上の行動を

理由として懲戒処分ができるかというものです。

 

 

労働者は,労働契約により,勤務時間中は

職務に専念する義務を負っていますが,

勤務時間外の時間をどのようにして過ごすかは,

労働者の自由であり,会社は,仕事に無関係な

職場外における労働者の行為を規制することはできないのです。

 

 

そのため,労働者の私生活上の行動は,

原則として会社の規制に服することはなく,

会社の事業活動に直接関連を有するものや,

会社の社会的評価の毀損をもたらすもののみが

例外的に懲戒の対象となるにすぎないのです。

 

 

 

 

そして,懲戒処分が,「労働者の行為の性質及び態様

その他の事情に照らして」,「社会通念上相当であると」

認められる必要があります(労働契約法15条)。

 

 

ようするに,労働者の懲戒該当事由に対して,

懲戒処分が重すぎてはならないということです。

 

 

これを,懲戒処分の相当性の要件といい,

労働者が懲戒処分を争う際には,

相当性の要件でせめるのが効果的です。

 

 

労働者の私生活上の行動に対する懲戒処分については,

厳格に判断される傾向があり,「当該行為の性質,情状のほか,

会社の事業の種類,態様・規模,会社の経済界に占める地位,

経営方針及びその従業員の会社における地位・職種」を総合判断して,

「会社の社会的評価に影響を及ぼす悪影響が相当重大であると

客観的に評価される」ことが要求されます(日本鋼管事件・

最高裁昭和49年3月15日判決・労働判例198号23頁参照)。

 

 

労働者による不適切な動画の投稿が

勤務時間以外の私生活の中で行われた場合,

動画の内容が会社の業務内容に関するものであり,

会社の社会的評価を毀損するものであれば,

懲戒処分は有効となると考えられます。

 

 

とくに,くら寿司やセブンイレブンのバイトテロの場合,

SNSで拡散された上に,テレビなどのマスコミにとりあげられて,

消費者に対して,くら寿司やセブンイレブンが不衛生であるとの

印象を与えて,信用を毀損したといえますので,

懲戒処分は有効になると思います。

 

 

 

 

もっとも,バイトテロに対して最も重い懲戒解雇とした場合,

当該アルバイトに過去に処分歴がなく,

長時間労働やパワハラを受けるなど劣悪な労働環境であったり,

労働者に対するSNSの利用についての教育が杜撰であった

という事情があれば,場合によっては,

懲戒解雇は重すぎるとして無効になる可能性もあると思います。

 

 

懲戒解雇の一つ手前の諭旨解雇に

とどめておいた方が無難のように思います。

 

 

とにかく,バイトテロは,重い懲戒処分を科される

危険がありますので,労働者は,決して,

バイトテロのような行為はしないようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

厚生労働省の統計不正問題から長期間経過後の懲戒処分を考える

昨日,通常国会が招集され,厚生労働省の

「毎月勤労統計」の不正統計問題が追及されています。

 

 

 

 

毎月勤労統計では,500人以上の事業所については

全ての事業所を対象にして調査しなければならないにもかかわらず,

東京都の500人以上の事業所約1400全てを調べることなく,

約500の事業所だけを選んで調べていた結果,

データが誤ったものとなりました。

 

 

データが誤ったものとなった結果,

雇用保険の失業給付金や労災の給付金が

本来支払われる金額よりも少なくなっており,

その総額は数百億円にのぼるといわれています。

 

 

失業中や仕事中にけがして休んでいる大変な時に

支給される給付金が,本来支払われる金額よりも

少なかったのですから,給付金を支給されていた人達は憤ります。

 

 

この統計不正ですが,2003年7月のマニュアルから

始まったらしく,2017年冬ころに,

違法調査の報告があったようですが,放置されて,

2019年に大問題となったようです。

 

 

 

その結果,厚生労働省の歴代幹部や職員22人が

訓告や減給の懲戒処分を受けました。

 

 

これほど大問題になったわけですので,

懲戒処分はやむをえないのですが,

今回の懲戒処分を検討する際に気になるポイントがあります。

 

 

それは,統計不正が始まったのが2003年ころとすると

約15年経過しているわけですが,

長期間経過後の懲戒処分は認められるのかという問題です。

 

 

懲戒処分該当行為から長期間経過

することによって企業秩序が回復したり,

懲戒処分はされないだろうという

労働者の期待が生じることから,

長期間経過後に懲戒処分が許されるのかが

問題になることがあるのです。

 

 

この点が争点となった東京地裁平成30年1月16日判決

を紹介します(判例時報2384号99頁)。

 

 

この事件は,私立大学の准教授が他人の論文を

2回盗用したとして,懲戒解雇されたのですが,

原告の准教授は,懲戒解雇に不服があり,裁判を起こしました。

 

 

裁判では,原告の准教授が故意に他人の論文を盗用したと認定され,

本件論文盗用行為は,他人の研究成果を踏みにじり,

自らの研究業績をねつ造するもので,

研究者としての基本的姿勢にもとる行為にあたり,

研究者としての資質に疑問を抱かせるもので

悪質性は顕著であると判断されました。

 

 

 

 

さらに,大学に対する信頼を毀損させたとして,

懲戒事由に該当すると判断されました。

 

 

そして,この論文の盗用は,懲戒解雇から13年前の出来事なので,

准教授の防御を図る観点から慎重を期す場合があるものの,

論文盗用という研究の本質に鑑みた場合の行為の悪質性,

その問題に正対せずに不自然不合理な

弁明を繰り返した准教授の姿勢から,

懲戒処分の該当行為から長期間経過したことで,

行為の悪質性を減殺することはできないと判断されました。

 

 

ようするに,懲戒処分の該当行為の悪質性が重い場合には,

長期間経過していることは,あまり考慮されない

可能性があるということです。

 

 

また,論文盗用という懲戒処分該当行為については,

長期間経過しても防御にそれほど支障がなかった

という点も考慮されています。

 

 

懲戒処分該当行為から長期間経過していることは,

一般的には労働者に有利に考慮されるのですが,

懲戒処分該当行為の内容によっては,

考慮されないことがありますので,

気をつける必要があります。

 

 

さて,話を厚生労働省の統計不正問題に戻しますと,

雇用保険の失業給付金や労災の給付金が

本来支払われる金額よりも少なくなっていたのであれば,

その間に給付金を受給していた人達が納得できるはずもなく,

国民の行政や統計に対する信頼を大きく失墜させました。

 

 

そのため,統計不正が始まって約15年以上が経過していても,

厚生労働省の幹部や職員に対する懲戒処分は

避けられなかったのだと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働者の個人情報保護

懲戒処分を受けたので,前の職場を退職して,

次の就職先を探して,ようやく内定をもらいました。

 

 

ところが,内定先の企業が前の職場に問い合わせたところ,

前の職場が懲戒処分したことを回答してしまいました。

 

 

その結果,内定先の企業から内定を取り消されてしまいました。

 

 

このように,内定先の企業が就職希望者の

経歴を調査することは許されるのでしょうか,また,

前の職場が懲戒処分の情報を回答しても許されるのでしょうか。

 

 

今日は,労働者の個人情報について解説します。

 

 

まず,会社が労働者を採用するにあたり,

就職希望者の前の職場における経歴を

調査することが許されるのかについて検討します。

 

 

 

 

この論点について,三菱樹脂事件の

最高裁昭和48年12月12日判決は,

会社に対して,採用の自由を認めました。

 

 

すなわち,会社が労働者の採否決定にあたり,

労働者の思想,信条を調査することは,

採用の自由の一環として,

直ちに違法になるわけではないと判断されたのです。

 

 

この最高裁の立場を前提にすれば,

会社が労働者を採用するにあたり,

就職希望者の前の職場における経歴を

調査することは違法ではないことになります。

 

 

もっとも,この最高裁判決は昭和48年のもので古く,

その後,個人情報保護法が成立し,

個人の思想や信条という配慮が必要な情報については,

本人の同意がなければ取得できなくなりましたので,

会社の採用の自由に制限がかけられています。

 

 

 

 

そのため,会社が労働者を採用するにあたり,

労働者に関わるあらゆる事項の

調査・質問が認められるわけではなく,

労働者の職業能力・適格性に関連する事項

に限定されると考えられます。

 

 

就職希望者が懲戒処分を受けたという情報は,

労働者の職業能力・適格性に関連する事項に

該当すると考えられますので,会社が,

就職希望者の前の職場に対して,

懲戒処分について問い合わせることは

違法とはならない可能性があります。

 

 

次に,前の職場が懲戒処分の情報を

回答することが許されるのかについて検討します。

 

 

前の職場において懲戒処分を受けたという事実は,

それによって特定の個人を識別できる情報ですので,

個人情報保護法2条1項の「個人情報」に該当します。

 

 

 

 

そのため,個人情報保護法23条1項により,

前の職場は,あらかじめ本人の同意を得ない限り,

第三者に懲戒処分を受けたという

情報を提供してはならないのです。

 

 

また,懲戒処分を受けた事実は,

労働者の名誉や信用を著しく低下させる可能性のある事実であり,

労働者としてはみだりに第三者に提供されたくない

プライバシー情報ですので,より慎重な取り扱いが必要となります。

 

 

そのため,前の職場としては,再就職先の会社に対して,

その労働者が照会に回答することに同意している

ことを示す書面を提出するように求めて,

その書面によって本人の同意の存在を確認した上で,

必要な範囲で回答すべきなのです。

 

 

前の職場が労働者の同意なく,

勝手に懲戒処分の情報を再就職先の会社に回答した場合,

労働者は,前の職場に対し,

個人情報保護法違反やプライバシー侵害で

損害賠償請求をすることが考えられます。

 

 

会社は,労働者の個人情報を安易に公開するべきではないのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社のお金を着服した場合の懲戒処分

非常にローカルな話題ですが,

石川県漁業協同組合から現金合計約170万円を着服したとして,

漁協の元理事で輪島市の市議会議員が,

業務上横領の被疑事実で書類送検されました。

 

 

報道によりますと,この市議会議員は

出張旅費名目で現金を受け取りながら,

領収書を全く提出せず,

私的な飲食代とみられる請求を繰り返す,

カラ出張をしていたようです。

 

 

刑事事件に発展した今回の着服ですが,

労働者が会社のお金を着服してしまった場合,

どのような懲戒処分を受けることになるのでしょうか。

 

 

 

 

本日は,出張旅費の不正受給を懲戒理由とする

停職処分の効力が争われた森町・町長ほか事件を紹介します

(函館地裁平成30年2月2日判決・労働判例1187号54頁)。

 

 

この事件の原告は,地方公共団体の職員であり,

課長の地位にありました。

 

 

原告は,中学校野球部の父母会の会計を担当していたときに,

不適切な会計処理を行い,合計7万9774円を着服しました。

 

 

次に,原告は,東京で開催された火山防災会議に

参加するために必要な旅費を,地方公共団体から

概算払で受け取っていたにもかかわらず,

火山防災会議を開催していた団体から

交通費及び謝金を受け取りました。

 

 

しかし,原告は,出張後に旅費の清算をしなければならない

にもかかわらず,7万1880円を着服しました。

 

 

これらの着服行為が発覚して,原告は,

着服したお金を返金しましたが,

地方公務員法29条1項3号の

全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合

に該当するとして,父母会の着服を理由として,

6ヶ月の停職処分を受け,出張旅費の着服を理由として,

さらに6ヶ月の停職処分を受けました。

 

 

裁判では,出張旅費の着服の停職処分の効力が争われました。

 

 

まず,懲戒処分が有効となるためには,

懲戒理由が存在する必要があります。

 

 

原告が火山防災会議を開催していた団体から

交通費及び謝金が支給されたことを隠して,

意図的に旅費の清算をしなかったことから,

懲戒理由が認められました。

 

 

次に,その懲戒理由に対して,その懲戒処分は

重すぎないかという相当性が検討されます。

 

 

原告が所属していた地方公共団体では,

管理職の地位にある者の懲戒処分については,

一段階重い懲戒処分を行うことができると定められており,

原告が課長であったこと,

父母会の着服行為を理由として懲戒処分を受けていることも考慮して,

6ヶ月の停職処分は相当であると判断されました。

 

 

金銭的な不正行為の事例では,金額の多い少ないを問わず,

懲戒解雇のような重大な処分であっても有効とされる傾向にあります。

 

 

 

 

そのため,着服した金額が少なかったとしても,

過去に同じようなことをしていたり,

役職が高かった場合には,6ヶ月の停職処分や懲戒解雇であっても

有効と判断される可能性があります。

 

 

そう考えると,石川県漁協の事件では,

着服金額も大きく,理事という役職に就いていたこともあり,

懲戒解雇されても有効と判断される可能性が高いです。

 

 

くれぐれも,会社のお金には手を出さないでくださいね。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

懲戒解雇される前に会社を自己都合退職できるのか?

会社のお金を横領してしまったという不祥事や,

会社の外で万引きをして逮捕勾留されて,

長期間会社を欠勤してしまったといった場合,

労働者は,会社から懲戒解雇されてしまう危険があります。

 

 

 

会社から懲戒解雇されそうな場合,

労働者は,懲戒解雇される前に,

会社を自己都合退職することができるのでしょうか。

 

 

懲戒解雇されてしまうと,自分の経歴に

大きなきずがついてしまうので,労働者としては,

懲戒解雇を避けて,自分から会社を辞めたいと考えるものです。

 

 

本日は,懲戒解雇と自己都合退職について検討します。

 

 

何回かブログで解説してきましたが,

正社員であれば,退職届を提出してから,

2週間が経過すれば,辞める理由に関係なく,

会社を退職することができます。

 

 

さらに,年次有給休暇が残っている場合には,

退職届を提出した後に,年次有給休暇を取得して

会社を休めば,2週間会社に出勤することなく,

退職することができるのです。

 

 

このように,労働者が会社に退職届を提出してから

2週間が経過すれば,退職の効力が生じて,

労働契約は終了します。

 

 

そのため,労働者に,懲戒解雇に該当する懲戒事由が

存在する場合であっても,労働者がすでに

自己都合退職していて,労働契約が終了している場合には,

会社は,重ねて,懲戒解雇という労働契約の終了を

内容とする処分をすることができないのです。

 

 

 

 

例えば,不正経理の疑いが生じた労働者に対して,

会社が事実関係を調査している最中に,

労働者が退職届を提出して,2週間が経過してしまえば,

調査の結果,懲戒解雇に該当する懲戒事由が認められて,

懲戒解雇をしたとしても,自己都合退職の効力が

有効に発生した以上は,懲戒解雇は無効になります。

 

 

もし,労働者に,懲戒解雇されてもやむを得ない

行為をしたという心当たりがあり,

会社から懲戒解雇されそうになったのであれば,

懲戒解雇されてしまう前に,

さっさと退職届を会社に提出すればいいのです。

 

 

そして,運良く,退職届提出から2週間以内に

懲戒解雇されなければ,自己都合退職できて,

懲戒解雇を免れることになります。

 

 

もっとも,就業規則に,懲戒解雇事由が認められる場合には,

退職金を減額または不支給にするという規定が存在すれば,

自己都合退職したとしても,退職金を減額されたり,

不支給とされる可能性があることを知っておいてください。

 

 

 

 

懲戒解雇事由で退職金が減額されるだけであれば,

減額されることを承知で退職金を請求してみる

のも一つの手ではあります。

 

 

懲戒解雇されるか,自己都合退職できるかで

精神的に追い詰められるのは健全なことではありませんので,

労働者は,くれぐれも悪いことはしないようにしてくださいね。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

15歳の女子生徒と恋に落ちた中学校の男性教師の末路とは・・・

昨日は,TBSのドラマ「中学聖日記」と似たような事件で,

懲戒免職処分を受けた中学校の男性教師の

裁判の続きについて書きます。

 

 

この裁判では,原告の中学校の男性教師には,

懲戒理由が認められるのですが,懲戒処分の中で

一番重たい懲戒免職処分を課してもいいのかが争点となりました。

 

 

公務員に対する懲戒処分の審査は,

民間企業の場合とやや異なる点がありますので,説明します。

 

 

民間企業の場合,労働者と会社が,双方合意の上で

労働契約を締結して,労働者は,会社に

労務を提供する代わりに賃金を支払ってもらう

という法律関係が始まります。

 

 

他方,地方公務員の場合,労働契約と異なり,

地方公共団体の任命権者から特定の職につけられる

任用という行政行為によって,法律関係が始まります。

 

 

 

 

行政行為とは,行政庁が法律に基づき,

公権力の行使として,直接・具体的に

国民の権利義務を規律する行為です。

 

 

契約は,対等な人同士が自由に決めて合意するのですが,

行政行為は,行政庁が一方的に決めたことに拘束されるというものです。

 

 

公務員の労働関係は,このような任用という行政行為

で成り立っているので,公務員の懲戒処分の審査基準も,

民間企業と比べると,やや異なっています。

 

 

公務員の懲戒処分の審査基準として,

神戸税関事件の最高裁昭和52年12月20日判決が有名です。

 

 

この最高裁判決では,公務員に対して

どのような懲戒処分を行うかは,

任命権者の裁量に委ねられていますが,

懲戒処分が社会観念上著しく妥当性を欠き,

裁量権を付与した目的を逸脱した場合には,

裁量権を濫用したものとして違法になります。

 

 

ようするに,地方公共団体などに懲戒処分の

裁量が認められているけれども,

懲戒処分が重すぎたり,不当な目的で

懲戒処分をした場合には違法になるということです。

 

 

もっとも,この審査基準は抽象的ですので,

問題行為の動機,態様,結果,

故意または過失の程度,

職員の職責,

他の職員及び社会に与える影響,

過去の問題行為の有無,

日頃の勤務態度,

問題行為後の対応

などを総合考慮して,この審査基準にあてはまるかを検討します。

 

 

本件事件では,15歳の女子生徒が交際を

積極的に望んでおり,原告の男性教師は,

真剣に交際しており,自分の性的欲求を

満たすために問題行為をしたわけではないと認定されました。

 

 

 

 

また,原告の男性教師は,15歳の女子生徒を

自宅アパートに泊めるなどして,

保護者の監護権を侵害したのですが,

アパートに宿泊させた日以外は女子生徒を

遅くない時間に帰宅させていました。

 

 

原告の男性教師は,キスや抱擁以外の

性的な行為に及んでいないので,

わいせつ性は低く,

問題行為の態様が著しく悪質ではないと認定されました。

 

 

そのため,女子生徒が原告の男性教師によって

健全な育成を妨げられるような

心身の傷を負ったことにはならないと判断されました。

 

 

加えて,原告の男性教師の勤務態度が誠実であり,

問題行為が発覚後に,原告の男性教師が

保護者に誠意をもって謝罪し,

女子生徒と一切連絡をとっていないことから,

真摯に反省していると認定されました。

 

 

 

 

以上より,原告の男性教師に対する懲戒免職処分は,

社会観念上著しく妥当性を欠き,埼玉県教育委員会は,

裁量権の範囲を逸脱して,これを濫用したと判断され,

懲戒免職処分が取り消されました。

 

 

原告の男性教師が,新米教師ではなく,中間管理職であったり,

女子生徒と性行為に及んでいれば,結論は異なった可能性があります。

 

 

原告の男性教師と15歳の女子生徒の純粋な恋愛だったことから,

裁判所は,懲戒免職処分は重すぎると判断したのかもしれません。

 

 

このように,懲戒処分は,重すぎた場合に,

無効になる可能性があるので,懲戒処分を受けた労働者は,

懲戒処分が重すぎないか検討する必要があります。

 

 

ドラマ「中学聖日記」でも裁判に発展していくのでしょうか。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

リアル中学聖日記~恋に落ちた男性教師の懲戒免職処分取消訴訟~

現在,TBSで,毎週火曜日に「中学聖日記

というドラマが放送されています。

 

 

私は,普段テレビを見ないため,

実際にこのドラマを見ていないのですが,

新聞のテレビ欄などに目をとおしていると,

だいたいのあらすじがなんとなくわかります。

 

 

新聞のテレビ欄を見ている限り,

このドラマは,中学校の女性教師と男子中学生が

恋に落ちるというストーリーなのだと理解しています。

 

 

TBSの公式サイトには,次のようにストーリーが紹介されています。

 

 

物語の舞台は片田舎の中学校。

自分を大切に想ってくれる年上の婚約者がいながらも、

勤務先の学校で出会った不思議な魅力を持つ

10歳年下の中学生・黒岩晶に心惹かれていく

女教師・末永聖の“禁断の恋”を、

儚くも美しく描くヒューマンラブストーリーだ。

中学聖日記公式サイトより)

 

 

「本当に,こんな話あるんかな~」

 

 

そう思っていたら,実際に似たような話がありました。

 

 

しかも,「判例時報」という法律関係者しか読まない判例雑誌に(笑)

 

 

(判例時報)

 

 

判例時報とは,B4サイズの紙面に4段に分かれて

細かく裁判例が紹介されている雑誌でして,

一般の方が見ることはまずないです。

 

 

(判例時報の中はこんな感じになっています)

 

 

そのような判例雑誌に,中学校の男性教師が

15歳の女子生徒と交際していたことを理由に

懲戒免職処分をされたのですが,

この男性教師が懲戒免職処分を不服として争ったところ,

懲戒免職処分が取り消されたという

裁判例が紹介されていたのです。

 

 

「中学聖日記」とは,先生と生徒で性別が逆になっていたり,

15歳の女子生徒が直接の教え子ではないという

相違点があるものの,中学校の先生が未成年の生徒と

恋に落ちるという点では共通しています。

 

 

それでは,男性教師の懲戒免職処分が取り消された,

さいたま地裁平成29年11月24日判決

(判例時報2373号29頁)

について解説していきます。

 

 

原告の男性教師は,大学を卒業後,

大学時代に講師としてアルバイトをしていた

学習塾の教え子の15歳の女子生徒と交際を開始しました。

 

 

 

 

15歳の女子生徒から,原告の男性教師に交際を申し込んできました。

 

 

原告の男性教師は,中学校の教員になった後も,

15歳の女子生徒の保護者に承諾を得ないまま,

交際を継続し,自分のアパートや

2人ででかけた先でキスや抱擁をし,

女子生徒をアパートに宿泊させて同じベッドで寝るなどしました。

 

 

ただし,原告の男性教師は,15歳の女子生徒と

性行為はしていませんでした。

 

 

この女子生徒との交際が女子生徒の保護者に発覚し,

原告の男性教師は,保護者に謝罪し,

女子生徒との交際を解消しました。

 

 

以上の原告の男性教師の行為が,

地方公務員法33条の信用失墜行為の禁止に違反し,

地方公務員法29条1項1号の地方公務員法違反と

同3号の「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」

に該当するとして,懲戒免職処分を受けました。

 

 

埼玉県青少年健全育成条例では,

「何人も,青少年に対し,淫らな性行為又は

わいせつな行為をしてはならない」と規定されており,

これに違反した者は,1年以下の懲役または

50万円以下の罰金に処せられます。

 

 

埼玉県教育委員会作成の懲戒処分の基準には,

「18歳未満の者に対して,みだらな性行為又は

わいせつな行為をした職員は,免職又は定職とする」

と規定されています。

 

 

これらの法律関係からすれば,原告の男性教師には

懲戒理由があることになります。

 

 

しかし,原告の男性教師に懲戒理由があるからといって,

いきなり,公務員の懲戒処分の中で最も重たい処分である

懲戒免職処分を課してもいいのかという問題があります。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降掲載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

富田林警察署の懲戒処分を考える

富田林警察署において勾留中であった,

樋田淳也被告人が面会室のアクリル板を押し破って

逃走した事件について,大阪府警は

富田林警察署の職員に対して,懲戒処分を課しました。

 

 

 

 

まず,留置担当の総務課警部補と巡査部長が6ヶ月間

給料の10分の1が減額される減給の懲戒処分となりました。

 

 

大阪府警では,被疑者は被告人が居室から面会室へ出入りする場合,

2人以上で対応しなければならない内規になっていたのですが,

この総務課警部補と巡査部長は,内規に違反して,

樋田被告人の面会の際に,1人で対応していたようです。

 

 

さらに,留置場に持ち込みが禁止されているスマホで

野球ニュースをチェックしていたようです。

 

 

このように,ずさんな留置管理がされたとして,

今回の懲戒処分で一番重い6ヶ月間の減給となりました。

 

 

 

 

次に重い懲戒処分を課されたのは,富田林警察署長でした。

 

 

署長は,留置管理についての業務指導が不十分であったことを

理由に3ヶ月間給料から10分の1が減額される

減給の懲戒処分を課されました。

 

 

その他にも,留置施設の点検を怠った等として,

戒告の懲戒処分を課された職員もいました。

 

 

労働者に懲戒処分が課される場合,

労働者には懲戒される理由があることが多いので,

その懲戒理由に対して,その懲戒処分が重すぎないかが

重要な検討事項になります。

 

 

労働者の懲戒理由がささいなものであるにもかかわらず,

重い懲戒処分が課されると,後から裁判で懲戒処分の効力が

争われて,懲戒処分が重すぎるとして,

懲戒処分が無効になる可能性があるのです。

 

 

富田林警察署の事件の場合,樋田被告人が約2ヶ月半ほど逃走して,

多くの人達が不安にさせられたという結果は重大ですが,他方で,

今回懲戒処分を課された警察職員の方々に,

過去の懲戒処分歴がないのであれば,

いきなり重い懲戒処分を課すと

懲戒処分が無効になるリスクがあるので,

減給と戒告という懲戒処分の選択は妥当だと考えます。

 

 

減給の懲戒処分で,1ヶ月の給料から減額できる金額は,

労働基準法91条において,最大で賃金の10分の1まで

と規制されているので,富田林警察署の懲戒処分では,

減給10分の1となったのです。

 

 

また,戒告とは,将来を戒めるのみで

始末書の提出を求めないという最も軽い懲戒処分です。

 

 

なお,弁護人の面会のときの警察署の施設の状況は,

それぞれの警察署で様々であり,

面会室のドアを開けるとブザーがなる施設や,

内鍵がかかっているので,面会終了の連絡を

警察官にしないと外に出れない施設などがあります。

 

 

 

 

中には,富田林警察署と同じように,

弁護人が警察官に何も告げずに外に出られる警察署もあります。

 

 

そのため,富田林警察署の面会室は,

アクリル板が外れやすかったことや

ブザーの電源を切っていたこと以外は,

他の警察署とそれほど変わらないので,

他の警察署でも同じような事件が起きていた

可能性はあっと考えられます。

 

 

他の警察署の留置管理の実務との公平も考慮すると,

富田林警察署の懲戒処分で,最も重い懲戒処分が減給となったのは

妥当なのだと思います。

 

 

このように,懲戒処分は,懲戒理由との関係で

重すぎないかをよく検討する必要があるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。