15歳の女子生徒と恋に落ちた中学校の男性教師の末路とは・・・

昨日は,TBSのドラマ「中学聖日記」と似たような事件で,

懲戒免職処分を受けた中学校の男性教師の

裁判の続きについて書きます。

 

 

中学聖日記公式サイトより)

 

 

この裁判では,原告の中学校の男性教師には,

懲戒理由が認められるのですが,懲戒処分の中で

一番重たい懲戒免職処分を課してもいいのかが争点となりました。

 

 

公務員に対する懲戒処分の審査は,

民間企業の場合とやや異なる点がありますので,説明します。

 

 

民間企業の場合,労働者と会社が,双方合意の上で

労働契約を締結して,労働者は,会社に

労務を提供する代わりに賃金を支払ってもらう

という法律関係が始まります。

 

 

他方,地方公務員の場合,労働契約と異なり,

地方公共団体の任命権者から特定の職につけられる

任用という行政行為によって,法律関係が始まります。

 

 

 

 

行政行為とは,行政庁が法律に基づき,

公権力の行使として,直接・具体的に

国民の権利義務を規律する行為です。

 

 

契約は,対等な人同士が自由に決めて合意するのですが,

行政行為は,行政庁が一方的に決めたことに拘束されるというものです。

 

 

公務員の労働関係は,このような任用という行政行為

で成り立っているので,公務員の懲戒処分の審査基準も,

民間企業と比べると,やや異なっています。

 

 

公務員の懲戒処分の審査基準として,

神戸税関事件の最高裁昭和52年12月20日判決が有名です。

 

 

この最高裁判決では,公務員に対して

どのような懲戒処分を行うかは,

任命権者の裁量に委ねられていますが,

懲戒処分が社会観念上著しく妥当性を欠き,

裁量権を付与した目的を逸脱した場合には,

裁量権を濫用したものとして違法になります。

 

 

ようするに,地方公共団体などに懲戒処分の

裁量が認められているけれども,

懲戒処分が重すぎたり,不当な目的で

懲戒処分をした場合には違法になるということです。

 

 

もっとも,この審査基準は抽象的ですので,

問題行為の動機,態様,結果,

故意または過失の程度,

職員の職責,

他の職員及び社会に与える影響,

過去の問題行為の有無,

日頃の勤務態度,

問題行為後の対応

などを総合考慮して,この審査基準にあてはまるかを検討します。

 

 

本件事件では,15歳の女子生徒が交際を

積極的に望んでおり,原告の男性教師は,

真剣に交際しており,自分の性的欲求を

満たすために問題行為をしたわけではないと認定されました。

 

 

 

 

また,原告の男性教師は,15歳の女子生徒を

自宅アパートに泊めるなどして,

保護者の監護権を侵害したのですが,

アパートに宿泊させた日以外は女子生徒を

遅くない時間に帰宅させていました。

 

 

原告の男性教師は,キスや抱擁以外の

性的な行為に及んでいないので,

わいせつ性は低く,

問題行為の態様が著しく悪質ではないと認定されました。

 

 

そのため,女子生徒が原告の男性教師によって

健全な育成を妨げられるような

心身の傷を負ったことにはならないと判断されました。

 

 

加えて,原告の男性教師の勤務態度が誠実であり,

問題行為が発覚後に,原告の男性教師が

保護者に誠意をもって謝罪し,

女子生徒と一切連絡をとっていないことから,

真摯に反省していると認定されました。

 

 

 

 

以上より,原告の男性教師に対する懲戒免職処分は,

社会観念上著しく妥当性を欠き,埼玉県教育委員会は,

裁量権の範囲を逸脱して,これを濫用したと判断され,

懲戒免職処分が取り消されました。

 

 

原告の男性教師が,新米教師ではなく,中間管理職であったり,

女子生徒と性行為に及んでいれば,結論は異なった可能性があります。

 

 

原告の男性教師と15歳の女子生徒の純粋な恋愛だったことから,

裁判所は,懲戒免職処分は重すぎると判断したのかもしれません。

 

 

このように,懲戒処分は,重すぎた場合に,

無効になる可能性があるので,懲戒処分を受けた労働者は,

懲戒処分が重すぎないか検討する必要があります。

 

 

ドラマ「中学聖日記」でも裁判に発展していくのでしょうか。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

リアル中学聖日記~恋に落ちた男性教師の懲戒免職処分取消訴訟~

現在,TBSで,毎週火曜日に「中学聖日記

というドラマが放送されています。

 

 

中学聖日記公式サイトより)

 

私は,普段テレビを見ないため,

実際にこのドラマを見ていないのですが,

新聞のテレビ欄などに目をとおしていると,

だいたいのあらすじがなんとなくわかります。

 

 

新聞のテレビ欄を見ている限り,

このドラマは,中学校の女性教師と男子中学生が

恋に落ちるというストーリーなのだと理解しています。

 

 

TBSの公式サイトには,次のようにストーリーが紹介されています。

 

 

物語の舞台は片田舎の中学校。

自分を大切に想ってくれる年上の婚約者がいながらも、

勤務先の学校で出会った不思議な魅力を持つ

10歳年下の中学生・黒岩晶に心惹かれていく

女教師・末永聖の“禁断の恋”を、

儚くも美しく描くヒューマンラブストーリーだ。

中学聖日記公式サイトより)

 

 

「本当に,こんな話あるんかな~」

 

 

そう思っていたら,実際に似たような話がありました。

 

 

しかも,「判例時報」という法律関係者しか読まない判例雑誌に(笑)

 

 

(判例時報)

 

 

判例時報とは,B4サイズの紙面に4段に分かれて

細かく裁判例が紹介されている雑誌でして,

一般の方が見ることはまずないです。

 

 

(判例時報の中はこんな感じになっています)

 

 

そのような判例雑誌に,中学校の男性教師が

15歳の女子生徒と交際していたことを理由に

懲戒免職処分をされたのですが,

この男性教師が懲戒免職処分を不服として争ったところ,

懲戒免職処分が取り消されたという

裁判例が紹介されていたのです。

 

 

「中学聖日記」とは,先生と生徒で性別が逆になっていたり,

15歳の女子生徒が直接の教え子ではないという

相違点があるものの,中学校の先生が未成年の生徒と

恋に落ちるという点では共通しています。

 

 

それでは,男性教師の懲戒免職処分が取り消された,

さいたま地裁平成29年11月24日判決

(判例時報2373号29頁)

について解説していきます。

 

 

原告の男性教師は,大学を卒業後,

大学時代に講師としてアルバイトをしていた

学習塾の教え子の15歳の女子生徒と交際を開始しました。

 

 

 

 

15歳の女子生徒から,原告の男性教師に交際を申し込んできました。

 

 

原告の男性教師は,中学校の教員になった後も,

15歳の女子生徒の保護者に承諾を得ないまま,

交際を継続し,自分のアパートや

2人ででかけた先でキスや抱擁をし,

女子生徒をアパートに宿泊させて同じベッドで寝るなどしました。

 

 

ただし,原告の男性教師は,15歳の女子生徒と

性行為はしていませんでした。

 

 

この女子生徒との交際が女子生徒の保護者に発覚し,

原告の男性教師は,保護者に謝罪し,

女子生徒との交際を解消しました。

 

 

以上の原告の男性教師の行為が,

地方公務員法33条の信用失墜行為の禁止に違反し,

地方公務員法29条1項1号の地方公務員法違反と

同3号の「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」

に該当するとして,懲戒免職処分を受けました。

 

 

埼玉県青少年健全育成条例では,

「何人も,青少年に対し,淫らな性行為又は

わいせつな行為をしてはならない」と規定されており,

これに違反した者は,1年以下の懲役または

50万円以下の罰金に処せられます。

 

 

埼玉県教育委員会作成の懲戒処分の基準には,

「18歳未満の者に対して,みだらな性行為又は

わいせつな行為をした職員は,免職又は定職とする」

と規定されています。

 

 

これらの法律関係からすれば,原告の男性教師には

懲戒理由があることになります。

 

 

しかし,原告の男性教師に懲戒理由があるからといって,

いきなり,公務員の懲戒処分の中で最も重たい処分である

懲戒免職処分を課してもいいのかという問題があります。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降掲載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

富田林警察署の懲戒処分を考える

富田林警察署において勾留中であった,

樋田淳也被告人が面会室のアクリル板を押し破って

逃走した事件について,大阪府警は

富田林警察署の職員に対して,懲戒処分を課しました。

 

 

 

 

まず,留置担当の総務課警部補と巡査部長が6ヶ月間

給料の10分の1が減額される減給の懲戒処分となりました。

 

 

大阪府警では,被疑者は被告人が居室から面会室へ出入りする場合,

2人以上で対応しなければならない内規になっていたのですが,

この総務課警部補と巡査部長は,内規に違反して,

樋田被告人の面会の際に,1人で対応していたようです。

 

 

さらに,留置場に持ち込みが禁止されているスマホで

野球ニュースをチェックしていたようです。

 

 

このように,ずさんな留置管理がされたとして,

今回の懲戒処分で一番重い6ヶ月間の減給となりました。

 

 

 

 

次に重い懲戒処分を課されたのは,富田林警察署長でした。

 

 

署長は,留置管理についての業務指導が不十分であったことを

理由に3ヶ月間給料から10分の1が減額される

減給の懲戒処分を課されました。

 

 

その他にも,留置施設の点検を怠った等として,

戒告の懲戒処分を課された職員もいました。

 

 

労働者に懲戒処分が課される場合,

労働者には懲戒される理由があることが多いので,

その懲戒理由に対して,その懲戒処分が重すぎないかが

重要な検討事項になります。

 

 

労働者の懲戒理由がささいなものであるにもかかわらず,

重い懲戒処分が課されると,後から裁判で懲戒処分の効力が

争われて,懲戒処分が重すぎるとして,

懲戒処分が無効になる可能性があるのです。

 

 

富田林警察署の事件の場合,樋田被告人が約2ヶ月半ほど逃走して,

多くの人達が不安にさせられたという結果は重大ですが,他方で,

今回懲戒処分を課された警察職員の方々に,

過去の懲戒処分歴がないのであれば,

いきなり重い懲戒処分を課すと

懲戒処分が無効になるリスクがあるので,

減給と戒告という懲戒処分の選択は妥当だと考えます。

 

 

減給の懲戒処分で,1ヶ月の給料から減額できる金額は,

労働基準法91条において,最大で賃金の10分の1まで

と規制されているので,富田林警察署の懲戒処分では,

減給10分の1となったのです。

 

 

また,戒告とは,将来を戒めるのみで

始末書の提出を求めないという最も軽い懲戒処分です。

 

 

なお,弁護人の面会のときの警察署の施設の状況は,

それぞれの警察署で様々であり,

面会室のドアを開けるとブザーがなる施設や,

内鍵がかかっているので,面会終了の連絡を

警察官にしないと外に出れない施設などがあります。

 

 

 

 

中には,富田林警察署と同じように,

弁護人が警察官に何も告げずに外に出られる警察署もあります。

 

 

そのため,富田林警察署の面会室は,

アクリル板が外れやすかったことや

ブザーの電源を切っていたこと以外は,

他の警察署とそれほど変わらないので,

他の警察署でも同じような事件が起きていた

可能性はあっと考えられます。

 

 

他の警察署の留置管理の実務との公平も考慮すると,

富田林警察署の懲戒処分で,最も重い懲戒処分が減給となったのは

妥当なのだと思います。

 

 

このように,懲戒処分は,懲戒理由との関係で

重すぎないかをよく検討する必要があるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働者は自分にとって不利益な情報を会社に告知しなければならないのか?

転職活動をしている労働者が,採用面接の際,

自分の病歴や前科前歴などの自分にとって不利益な情報を

会社に対して,告知しなければならないのでしょうか。

 

 

 

 

転職活動をしている労働者としては,

自分にとって不利益な情報を開示すれば,

その不利益な情報を理由に採用を

拒否されるのではないかと思い,不安になります。

 

 

他方,持病があるのに,健康ですと答えると嘘になり,

後から嘘がバレたときにどのような処分が

されるのかと考えると,不安になります。

 

 

このように,労働者にとって不利益な情報を

会社に告知するか否かは,とても迷いますよね。

 

 

まず,採用面接の際に,質問に対して

真実を回答する義務があるのかについて検討します。

 

 

この点,面接で学歴を問われたことに対して,

大学中退の事実を隠していたことを理由とする

懲戒解雇が有効となった裁判例があります

(炭研精工事件・東京高裁平成3年2月20日判決・

労働判例592号77頁)。

 

 

この裁判では,会社が「企業秩序維持に関係する事項について

必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合」には,

労働者は真実を告知すべき義務を負っていると判断されました。

 

 

労働者は,面接の質問には誠実に回答しなければならず,

虚偽回答をして,それが会社との信頼関係を破壊するものであれば,

そのことを根拠とする解雇は有効となる可能性があります。

 

 

面接のときに,病歴などをあからさまに質問されることは

ほとんどないと思いますが,もし仮に質問された場合には,

正直に病気のことを話した方がいいと考えます。

 

 

そして,病歴があるけれでも,今は回復していて

十分に働けることをアピールした方がよく,

嘘をつくのはよくないと考えます。

 

 

嘘がバレて,会社の信頼を失う方が,後から大変です。

 

 

 

 

それでも,採用されなかったのであれば,

縁がなかったと気持ちを切り替えて,

別の会社に応募すればいいのです。

 

 

次に,面接で質問がなかったことについて,

自分から自発的に告知する義務があるのかについて検討します。

 

 

これについては,面接で質問されていないことについて,

自分から不利益な情報を告知する必要は全くありません。

 

 

この点について,前の職場でセクハラやパワハラを

問題にされたことを告知しなかったケースや,

数ヶ月間風俗店に勤務していた職歴を申告しなかったケースにおいて,

解雇は無効と判断された裁判例があります。

 

 

会社としては,労働者の能力と適性の判断や

企業秩序の維持に必要なことであれば,

積極的に質問すればいいので,労働者には,

不利益な情報を自発的に申告しなければならない義務はないのです。

 

 

労働者が自分にとって不利益な情報を積極的に

告知しなかったこを理由に,経歴詐称や病歴詐称で

解雇することは困難だといえます。

 

 

さらに,労働者が申告しなかった病歴が,

仕事を進めていくうえで何も影響がない場合には,

病歴の不申告が病歴詐称になることはありません。

 

 

まとめますと,労働者は,会社から質問された場合には,

誠実に回答すればよく,会社から質問されないことについては,

自分にとって不利益な情報を告知する義務はないので,

何も回答しなくても大丈夫なのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働者のプライバシー

労働者が会社から貸与されていたパソコンで

私用メールをしていたところ,会社が労働者の承諾なく,

労働者の私用メールを閲覧することは認められるのでしょうか。

 

 

労働者としては,パソコンにパスワードをかけていたのに,

会社から私用メールをのぞき見されるのは気持ち悪く,

プライバシーが侵害されていると思います。

 

 

 

 

本日は,労働者の私用メールとプライバシー侵害について解説します。

 

 

パソコンへのアクセスが個人設定のパスワードによるなど,

パソコンが個人使用を前提として貸与されていたり,

私用メールが黙認,許容されている場合には,

私用メールの内容にもプライバシーの保護が及ぶと考えられます。

 

 

労働者にプライバシーの保護が及ぶ場合であっても,

会社が労働者の不正を調査するために,

労働者のプライバシーが制限されることがあります。

 

 

例えば,電子メールの利用状況について調査する旨の就業規則

の規定があり,それが周知徹底されているような場合,

就業規則の定めに従って調査が行われる限り,

会社が労働者の私用メールを閲覧しても

プライバシー侵害には該当しにくいです。

 

 

もっとも,私用メールの調査は労働者の個人情報の取得につながるので,

会社は個人情報保護法を守らなければなりません。

 

 

 

 

会社は,調査により取得する情報の利用目的を就業規則において特定し,

これを公表,通知しなければなりません。

 

 

情報の利用目的の特定とは,営業秘密の漏洩防止や

私用メールの濫用防止など,何の目的で個人情報を利用するのかを

明確にしなければならないことです。

 

 

また,会社は,労働者の同意を得ないで,

取得した個人情報を目的外に利用したり,

第三者に提供してはいけません。

 

 

このように,個人情報保護法に基づいた,

私用メールの調査に関する就業規則にしたがって

調査が行われるのであれば,会社が私用メールを閲覧しても,

労働者のプライバシー侵害にはならないと考えられます。

 

 

他方,私用メールの調査に関する就業規則がない場合,

電子メールを通じて信用毀損や営業秘密の流出などの

会社の利益を損なう行為が行われている蓋然性が高く,

他の手段では事実確認ができないような場合に限ってのみ,

会社は,メールを閲覧できると考えられます。

 

 

 

 

それ以外の場合には,労働者のプライバシーを侵害することになり,

会社によるメールの閲覧は認められないと考えられます。

 

 

また,特定労働者を処分する口実を見つけるために,

特定労働者のメールを洗いざらい閲覧し,

そのなかから処分理由になりそうなものを見つけ出し,

これを理由として処分することは,許されないと考えられます。

 

 

まとめますと,メールを調査する就業規則があり,

それにしたがって調査がされたのであれば,

プライバシー侵害はありませんが,

そのような就業規則がなく,特別の理由もないのに,

会社が労働者のメールを閲覧することはプライバシー侵害になります。

 

 

最近は,個人情報の保護が強化される傾向にありますので,

労働者としては,根拠のない会社のメールの調査には

異議を述べるべきだと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

仕事中にアダルトサイトを閲覧していると懲戒処分されるのか?

10月2日,神戸大学が,40代の男性事務職員に対して,

停職6ヶ月の懲戒処分を行いました。

 

 

http://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/info/2018_10_02_01.html

 

 

懲戒処分の理由は,男性事務職員が,

約2年の期間中に労働時間の内外合わせて約1,220時間,

そのうち,労働時間内は約730時間にわたり,

業務用に貸与されているパソコン及び情報ネットワークを使用して,

アダルトサイト等を閲覧していたというものです。

 

 

 

 

大学としては,仕事中に長時間アダルトサイトを

閲覧していたのであれば,懲戒解雇したいと考えるかもしれませんが,

今回は停職6ヶ月の懲戒処分となりました。

 

 

仕事用のパソコンで長時間アダルトサイトを閲覧したことで,

会社は,労働者を懲戒解雇できるのでしょうか。

 

 

本日は,パソコンの私的利用と懲戒処分について解説します。

 

 

まず,労働者は,労働契約に基づき,

その職務を誠実に行わなければならないという

職務専念義務を負っています。

 

 

また,会社の施設,設備には会社の施設管理権が及びますので,

就業時間外であっても,労働者は当然に会社設備を自由に,

私的に利用できるわけではありません。

 

 

もっとも,多くの会社では,就業時間内であっても,

私的な会話や私用の電話,私的なメールが許容されています。

 

 

そのため,就業時間内に私的な行動が認められないと,

労働者はとても働きにくくなります。

 

 

パソコンの私的利用については,

会社がどのような方針をとり,労働者にそれを徹底していたかが

重要な判断要素になります。

 

 

会社がパソコンの私的利用を禁止する規定をつくって,

労働者に周知させていたのであれば,

原則として,パソコンの私的利用は禁止されます。

 

 

 

 

他方,そのような禁止規定がなかったり,

パソコンの私的利用が社会通念上許容される限度で黙認されている

場合には,許容されると考えられます。

 

 

神戸大学の事件では,大学から貸与されていたパソコンを利用して,

労働時間に約730時間もアダルトサイトの閲覧をしていたのですから,

社会通念上許容される限度を超えています。

 

 

その結果,神戸大学の就業規則のうち,

正当な理由なく,勤務を怠ったこと,

大学の設備,物品等を私的に利用したことに該当し,

懲戒事由が認められます。

 

 

懲戒処分は,懲戒事由があるだけで有効になるわけではなく,

他の労働者との平等取扱や,懲戒処分の重さとの関係も考慮されます。

 

 

例えば,他の労働者も同じように勤務時間にアダルトサイトを

閲覧していたのに,1人の労働者だけが懲戒処分を受けるのでは,

平等取扱に違反して,懲戒処分が無効になる可能性があります。

 

 

また,ある懲戒事由に対して,懲戒処分が重すぎる場合にも,

懲戒処分が無効になる場合があります

 

 

懲戒処分は,通常,戒告・譴責→減給→停職→諭旨解雇→懲戒解雇

という順番で重くなっていますが,

それほど重大ではない懲戒事由に対して重い懲戒処分を課すと,

懲戒処分が重すぎて相当ではなく,無効になる可能性があります。

 

 

懲戒処分を争う裁判では,この処分の相当性で,

労働者が勝つことがあります。

 

 

神戸大学の事件では,労働時間に約730時間アダルトサイトを

閲覧していましたが,その労働者が,

アダルトサイトを閲覧している以外は真面目に仕事をしていて,

成果を出していたり,また,過去に懲戒処分を受けたことがない

のであれば,いきなり懲戒解雇をすることは重すぎると,

裁判で判断される可能性があります。

 

 

懲戒解雇は,労働者に対する死刑宣告に近い,

最も重い処分ですので,アダルトサイトを閲覧して,

ウイルスに感染するなどして,大学に実害が生じていないのであれば,

神戸大学の事件で懲戒解雇が選択されなかったのは

妥当なことだと考えます。

 

 

 

 

もっとも,懲戒処分された男性事務職員の過去の懲戒処分履歴や,

他の労働者への処分がわからないため,なんとも言えませんが,

停職6ヶ月はやや重いと感じます。

 

 

停職処分期間中,労働者は給料をもらえませんので,

6ヶ月の停職は長くて重い気がします。

 

 

通信技術が発達しているので,会社は,

労働者をモニタリングしている可能性があるので,

会社から貸与されているパソコンを私的に利用するには,

くれぐれも気をつけるべきです。

 

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

大学の学部教授会に人事権限があるのか

大学の教授が不祥事をおこなった場合,

教授と労働契約を締結している学校法人は,

就業規則(会社が定めた働くためのルールです)に基づいて,

懲戒処分をすることができます。

 

 

それでは,大学の学部の教授会は,学校法人とは別に,

不祥事をおこした教授に対して,懲戒処分とは異なる,

研究・教育活動を制限する措置をすることができるのでしょうか。

 

 

学部教授会による研究・教育活動を制限する措置が争われた

明治大学事件を紹介します(東京地裁平成29年9月29日・

労働判例1181号27頁)。

 

 

明治大学のある教授が,論文を発表しましたが,

その論文がウィキペディアに記載されているものに

若干の改変を加えたものであることが発覚しました。

 

 

明治大学は,この教授に対して,論文不正問題について,

停職1ヶ月の懲戒処分を行いました。

 

 

さらに,学部教授会は,この教授に対して,論文不正問題に関して,

学部における組織的な研究活動への参加を制限する措置,

学部教員としての対外的活動を制限する措置,

学部教授会での議決権を停止する措置を行いました。

 

 

 

 

そこで,この教授は,

学部教授会のこれらの措置によって,

研究の自由を違法に侵害されたとして,

明治大学に対して損害賠償を請求しました。

 

 

裁判では,学校法人による停職1ヶ月の懲戒処分は争われておらず,

学部教授会の措置のみが争われました。

 

 

まずは,学部教授会に人事に関する権限があるのかが検討されました。

 

 

憲法23条では,学問の自由が保障されています。

 

 

大学における学問の自由が保障されるために,

大学の自治が認められています。

 

 

 

 

大学の自治の具体的内容は,

大学の自主的な判断で教授を選任すること,

大学の施設や学生の管理について自主的な権限が認められていること,

研究教育が自主的に決定されることなどです。

 

 

そして,大学の自治を担う中心的な組織は,

大学教授によって構成される教授会であり,

学部教授会は,教員についての人事事項,

授業に関する事項について,

自主的な判断を行うことができると判断されました。

 

 

学部教授会には,教員の人事事項や授業に関する事項について

広い裁量が認められますが,裁量の範囲を逸脱したり,

教員の権利を不当に制限するような場合には,

権利の濫用となり,学部教授会による当該措置は違法になります。

 

 

その上で,原告の教授の論文不正問題は,

大学における研究にふさわしくない不適切な行為であり,

学生に適正な教育環境を提供し,

大学の名誉や信用を維持するために,

学部教授会が原告の教授の授業担当を停止するなどの措置

をとることは違法ではないと判断されました。

 

 

教授の雇用主である学校法人が懲戒処分をすることは

十分理解できますが,学校法人とは別に,学部教授会にも,

裁量が広い人事権限が認められることにはやや疑問があります。

 

 

明治大学では,学部教授会の権限について,

規則などで細かく明文で記載されていたことから,

学部教授会の人事権限が認められた可能性があり,

規則などに学部教授会の権限が記載されていない場合にも,

学部教授会に裁量が広い人事権限が認められるかは分かりません。

 

 

学部教授会の人事権限が正面から問題となった

珍しい裁判例ですので,紹介させていただきました。

 

 

本日も,お読みいただき,ありがとうございます。

懲戒解雇が有効になる要件とは

会社の携帯電話を利用して,従業員同士で上司のぐちや悪口を

ラインなどでやりとりしていたところ,会社に発覚し,

職場の秩序を乱しているとして普通解雇されてしまいました。

 

 

 

 

その後,会社から送られてきた離職票には,

懲戒解雇と記載されていました。

 

 

会社の就業規則には,懲戒解雇の規定はなく,

職場の秩序を乱した場合には普通解雇とする旨の記載があります。

 

 

このような場合,懲戒解雇は有効なのでしょうか。

 

 

結論からいうと,就業規則に懲戒解雇の規定がないのであれば,

懲戒解雇は無効となります

 

 

会社は,懲戒解雇された労働者を雇いたくないので,

労働者は,次の就職先を探すのは困難になります。

 

 

また,懲戒解雇の場合には,退職金を不支給にする,

または,減額することが就業規則で規定されていることが多く,

退職金を満額で取得することが困難になります。

 

 

このように,懲戒解雇は,最も重たい処分であるため,

懲戒解雇が有効か無効かは厳格に審査されます

 

 

 

 

そして,懲戒解雇が有効になるための要件として,

懲戒事由と懲戒の種類が就業規則に明記されており,

その就業規則が労働者に周知されていることがあげられます。

 

 

懲戒事由と懲戒の種類が就業規則に明記されていないと,

懲戒処分が労働契約の内容になっていないことになり,

会社は,労働者に対して,懲戒処分ができないのです。

 

 

また,就業規則に懲戒事由と懲戒の種類を明記しただけでは足りず,

その就業規則を,労働者がいつでも見られる場所に置いておいたり,

会社のサイトからダウンロードできる状態にしておくなどして,

労働者に周知しなければなりません(労働契約法7条)。

 

 

加えて,労働者が過去に懲戒処分されたことがないのに,

上司のぐちや悪口を言っただけで,

いきなり懲戒解雇されたのであれば,

懲戒解雇は処分として重すぎるので,

無効となる可能性があります。

 

 

懲戒解雇は,最も重い処分ですので,

労働者の非難されるべき行為が懲戒解雇に値する行為なのかが

厳格に審査されなければならないのです。

 

 

労働者の行為からすると,

停職や降格といった懲戒処分が相当で,

懲戒解雇が重すぎる場合は,懲戒解雇は無効になります。

 

 

懲戒解雇を争う場合,処分として重すぎるという理由で

懲戒解雇が無効になることが多く,労働者としては,

この点を裁判で強調して主張していくポイントになります。

 

 

さらに,他の人も同じように上司のぐちや悪口を言っていたのに,

自分だけ懲戒解雇されたのであれば,

平等取扱の原則に違反して,懲戒解雇が無効になる可能性があります。

 

 

このように,懲戒解雇は,厳格に審査されますので,

無効になる可能性もあります。

 

 

万が一,懲戒解雇されてしまったら,

一度,弁護士に相談することをおすすめします。

職場のパソコンにわいせつ動画を保存すると懲戒解雇されてしまうのか

職場のパソコンにわいせつな動画を保存

していることが会社にバレてしまった場合,

労働者は懲戒解雇されてしまうのでしょうか。

 

 

大学教授が研究室のパソコンにわいせつな動画

を保存していたことなどを理由に懲戒解雇されてしまい,

その懲戒解雇の効力が争われた裁判例がありますので,

紹介します(東京地裁平成29年9月14日判決・

判例時報2366号39頁)。

 

 

原告の大学教授は,大学から教育研究目的で貸与され,

研究室に置かれていたパソコンの中に,

原告の大学教授が妻以外の複数の女性との

性交の場面を自分で撮影した動画を保存していました。

 

 

 

 

ひょんなことから,このわいせつな動画が

原告の研究室のパソコンに保存されていることが

大学にばれてしまいました。

 

 

大学は,職場において,使用目的を教育研究に

限定して貸与されていたパソコンにわいせつな動画

を数多く保存するというハレンチきわまりない行為

であるのみならず,その動画を自分で撮影して

自分で出演しているという教育者としてあるまじき行為

であるとして,原告の大学教授を懲戒解雇しました。

 

 

なお,原告の大学教授は,2年前に戒告の懲戒処分を受けていました。

 

 

さて,ここで,懲戒処分がどのような場合に

無効になるのかについて説明します。

 

 

労働契約法15条には,

「当該懲戒に係る労働者の行為の

性質及び態様その他の事情に照らして,

客観的に合理的な理由を欠き,

社会通念上相当であると認められない場合

に懲戒処分が無効となると定められています。

 

 

ようするに,労働者の行為が就業規則などに

定められている懲戒事由に該当して,

労働者の行為と懲戒処分のバランスが保たれていないと

懲戒処分が無効になります。

 

 

特に,懲戒解雇の場合,労働者は,職を失い,

退職金も支給されず,次の就職で不利になるなど,

労働者の被る不利益が非常に大きいので,

労働者の行為が,本当に懲戒解雇に値するほど

ひどいものなのかが慎重に判断されます

 

 

さて,本件の場合,原告が出演したわいせつ動画を

大学に持ち込むことが大学の品位を損なう行為にあたり,

原告には,懲戒事由が認められました。

 

 

しかし,このわいせつ動画の内容は原告の私生活上

の領域の問題であり,わいせつ動画が外部に流出していないので,

大学の社会的名誉や信用が侵害されているわけではありません。

 

 

また,わいせつ動画を研究室のパソコンに保存することは,

原告の以前の戒告処分とは別の種類のものであり,

わいせつ動画のデータ削除は容易でした。

 

 

そのため,原告は,わいせつ動画を研究室のパソコン

に保存していましたが,このことを理由に懲戒解雇とするのは,

処分として重すぎ,労働者の行為と懲戒処分のバランスが

保たれていないので,懲戒解雇は無効になりました。

 

 

原告に対する懲戒処分が減給や停職であれば,

懲戒処分が有効になっていたかもしれません。

 

 

本件は,労働者が過去に戒告の懲戒処分を

受けていたにもかからわず,懲戒解雇が無効

になった点で労働者にとって有利な判決だと思います。

 

 

懲戒解雇は,労働者にとって死刑を宣告

されることに匹敵することですので,

かなり慎重に判断されることが分かります。

 

 

 

 

もし,労働者が懲戒解雇されてしまい,

その処分に納得がいかないのであれば,

専門家に相談することをおすすめします。

パワハラ・セクハラで懲戒解雇されても無効になるのか

財務省の森友学園問題で佐川前理財局長の

懲戒処分が注目されたことに関連して,本日は,

懲戒解雇についてある裁判例を紹介します。

 

 

国立大学の大学院の教授が講師や助教授に対して,

パワハラやセクハラをしたとして,懲戒解雇されました。

 

 

 

 

しかし,この教授は,懲戒解雇は無効であるとして,

裁判をおこしました

(国立大学法人群馬大学事件・

前橋地裁平成29年10月4日判決・

労働判例1175号・71頁)。

 

 

裁判では,本件懲戒解雇の手続に違法

あったかが一つの争点となりました。

 

 

大学は,原告の教授に対して,

まずは諭旨解雇をすると告げました。

 

 

これに対して,原告の教授は,

いったん持ち帰ってから,諭旨解雇に応じるかを

検討したいと回答しました。

 

 

すると,大学は,この場で諭旨解雇に応じない

のであれば懲戒解雇にすると告げました。

 

 

原告の教授が,諭旨解雇を告げられてから1時間後に,

諭旨解雇の応諾書にサインすることなく

帰宅しようとしたので,大学は,

原告の教授に対して,懲戒解雇を告げました。

 

 

ここで問題になるのは,諭旨解雇を告げてから

1時間後に労働者が応じなかったときに,

懲戒解雇ができるのかという点です。

 

 

諭旨解雇とは,退職届の提出を促して,

即時退職を求めて,期間内に応じない場合

には解雇するという懲戒処分です。

 

 

諭旨解雇は,労働者が期間内に退職届の

提出をしなかった場合,解雇されるという

強制された状況で退職届を提出させられるので,

退職勧奨に応じて自主退職することとは異なります。

 

 

退職勧奨は,任意に退職を促すものなので,

労働者は,退職勧奨に従わなくても解雇されません。

 

 

諭旨解雇は,労働者としての身分を失わせる

懲戒処分なので,懲戒解雇の次に重い処分になりますので,

裁判で争われた場合には,厳しく審査されます。

 

 

本判決では,大学は,原告の教授が,

諭旨解雇に応じるか否かを検討するのに必要な時間を聞き取り,

回答期限を設定すべきであったのに,

これをしていないことから,

解雇手続に違法があったと判断しました。

 

 

もっとも,原告の教授が諭旨解雇の

回答期限が経過すれば,日を改めて懲戒解雇

されていたことから,解雇手続の違法は軽微であり,

これだけでは,懲戒解雇そのものが

無効にはならないとされました。

 

 

そのうえで,原告の教授には,パワハラやセクハラ

の事実は認められたのですが,内容や回数が限定的であり,

業務上の必要性が全くないわけでなく,

ことさらに嫌がらせをする目的があったわけでもないため,

悪質性が高いわけでないとされました。

 

 

そして,原告の教授は,過去に懲戒処分を

受けたことがなく,ハラスメントの一部を認めて,

反省の意思を示していました。

 

 

そのため,原告の教授に対して,

懲戒解雇は処分として重すぎると判断されて,

結果として,懲戒解雇は無効と判断されました。

 

 

論理があっちこっちいってわかりにくかったかもしれませんが,

ようするに,解雇手続の違法は軽微なので

それだけでは懲戒解雇は無効にならないけれども,

原告の教授のパワハラ・セクハラの内容や回数,

過去に懲戒処分を受けておらず,

反省していたことを考慮して,

懲戒解雇は重すぎるので無効となったのです。

 

 

懲戒解雇は,労働者に対して,

経済的にも社会的にも大きな損失を与えるので,

裁判では,かなり慎重に審査されます。

 

 

よほどひどいことをしていないのに

懲戒解雇された場合には,裁判で争えば,

懲戒解雇が無効になる可能性があります。

 

 

そのため,財務省の森友学園問題で,

佐川前理財局長が懲戒免職とされなかったのは,

妥当なのだと考えます。