副業の労働時間管理

近年,副業を希望する労働者が増えています。

 

 

労働者には,離職しなくても別の仕事に就くことができて,

副業先でスキルや経験を得ることで,

主体的にキャリアを形成できたり,本業を続けつつ,

よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備ができる

というメリットがあります。

 

 

 

 

また,企業には,労働者が社外から新たな知識・情報や

人脈を入れることで,事業機会の拡大につながる

というメリットがあります。

 

 

このように副業には,労働者にも企業にも

メリットがあるのですが,様々な制度上の問題があります。

 

 

本日は,副業における労働時間の管理について説明します。

 

 

例えば,本業のA会社で1日5時間働き,

その後,副業のB会社で1日4時間働いた場合,

A会社とB会社のどちらが労働者に残業代を

支払わなければならないのでしょうか。

 

 

結論を先に述べますと,後から働く副業先のB会社が

1時間分の残業代を支払わなければなりません

 

 

労働基準法32条で,会社は,労働者を1日8時間,

1週間40時間を超えて働かせてはならないと定められています。

 

 

もっとも,36協定が締結されていれば,

1日8時間,1週間40時間を超えて労働者を働かせても

問題ないのですが,会社は,1日8時間,1週間40時間

を超えて働かせた場合,労働者に対して,

1時間当たり1.25倍の残業代を支払わなければなりません。

 

 

そして,労働基準法38条には,「労働時間は,

事業場を異にする場合においても,

労働時間に関する規定の適用については通算する。

と規定されています。

 

 

その結果,本業のA会社で1日5時間働き,

その後,副業のB会社で1日4時間働いた場合,

1日の労働時間が通算9時間となり,

1時間残業していることになり,

後から働く副業先のB会社が1時間分の残業代

を支払わなければならないのです。

 

 

 

これは,後から労働契約を締結した会社は,

労働契約の締結にあたって,

その労働者が他の会社で労働していることを確認した上で

労働契約を締結すべきという考え方が前提にあるからです。

 

 

他方,本業のA会社で,労働契約で定められた

勤務時間が4時間で,副業先のB会社で,

労働契約で定められた勤務時間が4時間であった場合,

A会社で5時間働き,その後B会社で4時間働いた場合はどうでしょうか。

 

 

この場合,A会社が1時間分の残業代を支払わなければならないのです。

 

 

このように,副業をする際には,本業と副業とで

労働時間がどれだけかを把握する必要があります

 

 

本業で8時間働いた後に,副業で4時間働いた場合,

副業の4時間全てについて,1.25倍の残業代を

請求できることになるので,労働者は,

副業先の給料をよく確認すべきです。

 

 

他方,企業は,副業で労働者を雇う場合,

労働者が働いた時間が全て残業になって,

人件費が高くなるリスクを意識する必要があると思います。

 

 

副業すれば,複数の収入源を確保できて,

収入が増加するので,今後,

副業が増加していくことが考えられますが,

労働者の労働時間が長くなるので,労働者は,

自分の労働時間をしっかりとコントロールして,

過労に陥らないように気をつける必要があります。

 

 

その定額手当の支払いは適法な残業代の支払いといえるのか

会社から毎月,営業手当,役職手当,技術手当などの

定額手当が支給されていますが,残業代は支払われていません。

 

 

会社に聞くと,それらの定額手当が

残業代の代わりであるという説明を受けました。

 

 

定額手当の金額が低いのに,毎日長時間残業をしていた場合,

労働者は,本当に定額手当の金額は,

自分の残業時間から正確に計算されたものなのか疑問に思い,

残業代が少なくて損をしている気になります。

 

 

 

 

このように,一定金額の定額手当を

残業代の代わりとする制度を固定残業代といいます。

 

 

この固定残業代が適法な残業代の支払いといえるかが,

未払残業代請求の事件ではよく問題になります。

 

 

固定残業代が適法な残業代の支払いとは認めれなかった場合,

会社は,残業代を1時間も支払っていなかったことになり,

固定残業代部分が残業代の計算基礎となる

賃金に組み込まれることになり,1時間当たりの

残業代の単価が跳ね上がることになるので,

会社は,必死に抵抗してくることが多いです。

 

 

固定残業代について,最高裁は平成30年7月19日

に判決を出して,固定残業代が適法な残業代の支払いといえるかを

判断するために,以下の基準を示しました。

 

 

「雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,

使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,

労働者の実際の労働時間等の勤務状況

などの事情を考慮して判断すべきである。」

 

 

①契約書,就業規則,賃金規定などの記載内容,

②会社の固定残業代についての説明,

③実際の労働時間

が判断の基準として考慮されるのです。

 

 

 

 

この最高裁判決の事件では,

薬剤師の毎月の業務手当10万1000円

が適法な残業代の支払いといえるのかが争われました。

 

 

この事件では,賃金規定には,

「業務手当は,一賃金支払期において時間外労働があったものとみなして,

時間手当の代わりとして支給する。」と記載されていました。

 

 

また,会社と労働者との間で作成された確認書には,

「業務手当は,固定時間外労働賃金(時間外労働30時間分)

として毎月支給します。一賃金計算期間における時間外労働が

その時間に満たない場合であっても全額支給します。」

と記載されていました。

 

 

そのため,「会社の賃金体系においては,

業務手当が時間外労働等に対する対価として支払われるもの

と位置づけられていた」と判断されて,

①と②の要件を満たすとされました。

 

 

そして,計算上,業務手当は,

約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当し,

薬剤師の実際の時間外労働の状況と大きくかいりしていない

と判断されて,③の要件を満たすとされました。

 

 

その結果,業務手当は,適法な残業代の支払いと認められました。

 

 

さて,この最高裁判決からいえることは,

給料明細で,単に「時間外労働手当」等と

記載されているだけでは不十分であり,

①労働契約書,就業規則,賃金規定に

「時間外労働手当」の記載がなかったり,

②会社が労働者に対して,「時間外労働手当」

の説明を何もしていなかったり,

③実際の残業時間と「時間外労働手当」の金額が不均衡だった場合,

適法な残業代の支払いとは認められません。

 

 

ブラック企業は,低い定額手当が残業代の代わりだと言い張り,

追加で残業代を支払うことなく長時間労働をさせることがありますが,

上記の①~③の要件を検討すると,

定額手当が適法な残業代の支払いと認められない可能性があります。

 

 

定額手当が残業代の代わりに支給されている労働者は,

一度,ご自身の定額手当が適法な残業代の支払いなのかを,

上記①~③の基準をもとに検討してみることをおすすめします。

残業証明アプリ~労働時間を記録しよう!~

未払残業代を請求するには,労働者が,

労働した日に何時から何時まで働いたのかを

証拠によって証明しなければなりません。

 

 

この証明ができないと,未払残業代請求

の裁判をしても,負けてしまいます。

 

 

 

 

タイムカードや会社のシステムなどで

労働時間が管理されている会社であれば,

労働者の代理人弁護士が会社に対して

タイムカードなどの証拠を開示するように求めれば,

たいていの会社は,タイムカードなどの証拠を

開示してくれますので,労働時間の証明は容易にできます。

 

 

タイムカードなどで労働時間の管理が

全くされていない会社の場合,どのようにして

労働時間を証明するかで知恵を絞ります。

 

 

パソコンでデスクワークをしている労働者であれば,

使用しているパソコンにパソコンの起動時刻と

シャットダウンの時刻が記録されたログが

保存されていることがあるので,

このログデータを入手できれば,

労働時間を証明することができます。

 

 

しかし,ログデータは,時間の経過やOSのアップデート

をしたときに,自動的に消去されることがあります。

 

 

また,会社を退職してしまえば,会社のパソコン

からログデータを入手することは困難になります。

 

 

そのため,労働者は,会社に労働時間の管理

を任せるのではなく,いざというときのために,

自分で労働時間を記録するべきです

 

 

具体的には,毎日労働時間をメモするという方法があります。

 

 

 

 

もっとも,メモをし忘れたり,

メモの内容が本当に信用できるのかと争われることがあり,

メモだけですと証拠としてはやや弱いです。

 

 

そこで,最近では,残業時間を記録するアプリが活用されています。

 

 

ソフィアライト株式会社が開発した「残業証明アプリ」は,

GPS機能を活用して,スマホにダウンロードしたアプリに,

何時から何時まで勤務先にいたのかを正確に記録してくれます。

 

 

 

 

このアプリのポイントは,GPSの位置情報が

正確に記録されることにあります。

 

 

このアプリを利用すれば,何時から何時まで

勤務先にいたのかを証明することができ,

勤務先にいたということは通常働いていたと推認できますので,

労働時間の証明が容易になります。

 

 

さらに,自分の給料などの情報を入力しておけば,

残業代を自働で計算してくれます。

 

 

残業代の計算は複雑なので,これはとても便利な機能です。

 

 

労働者の労働時間を把握するのは,会社の義務なのですが,

労働時間把握義務をまもっている会社が

まだまだ少ないのが現状ですので,労働者は,

残業証明アプリ」などを利用して,

自分の労働時間の記録をとるべきです。

 

 

自分の労働時間を記録すれば,自分が働き過ぎ

であることが客観的にわかって,休息をとる

インセンティブがわきますので,健康管理の側面もあります。

 

 

労働時間を記録するこが重要であることを伝えたかったので,

残業証明アプリ」を紹介させていただきました。

仮眠時間は労働時間か?

警備員や看護師,ホテルのナイトフロントなど

宿直を伴う業務には,仮眠時間がもうけられていることがあります。

 

 

 

 

この仮眠時間が労働時間なのかが,

未払残業代請求事件で争点になることがあります。

 

 

仮眠時間中,労働者は寝ているので,労働時間ではなく,

休憩時間であり,仮眠時間について,

賃金は発生しないとも考えられます。

 

 

しかし,仮眠時間であっても,呼び出しがあったら,

すぐに仕事に戻らなければならない場合,

労働時間のようにも思えます。

 

 

そもそも,労働時間とは,どのような時間なのでしょうか。

 

 

 

 

労働時間について判断した重要な判例を紹介します。

 

 

最高裁平成12年3月9日判決(三菱重工業長崎造船所事件)は,

労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,この時間に該当するか否かは,

労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと

評価することができるか否かにより

客観的に定まるものであると判断しています。

 

 

ようするに,使用者の指揮命令があって,

それにしたがって働けば労働時間になります。

 

 

もっとも,使用者の指揮命令下に置かれている時間

という基準だけでは,仮眠時間が労働時間にあたるのかが

判然としません。

 

 

次に,仮眠時間が労働時間にあたるかの基準を

示した重要な判例を紹介します。

 

 

最高裁平成14年2月28日判決(大星ビル管理事件)は,

次のように判断しました。少し長いですが引用します。

 

 

「不活動仮眠時間において,労働者が実作業に従事していない

というだけでは,使用者の指揮命令下から

離脱しているということはできず,

当該時間に労働者が労働から離れることを

保障されていて初めて,労働者が使用者の指揮命令下に

置かれていないものと評価することができる。

したがって,不活動仮眠時間であっても

労働からの解放が保障されていない場合には

労基法上の労働時間に当たるというべきである

そして,当該時間において労働契約上の役務の提供が

義務付けられていると評価される場合には,

労働からの解放が保障されているとはいえず,

労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。」

 

 

ようするに,仮眠時間中に労働から完全に

解放されていないのであれば,

仮眠時間は労働時間になります。

 

 

労働から完全に解放されているかについては,

①業務遂行についての義務付けがあるか

(仮眠中に呼び出しがあれば,すぐに現場に

戻らければならないように指示されていたか),

②場所的拘束性があったか

(仮眠時間とされていた時間に,会社の外に出て

自由に過ごすことができたか),

③対応の頻度

(仮眠時間中の呼び出しが多いか少ないか)

といった事実をもとに判断されます。

 

 

例えば,ホテルのナイトフロントの場合,

①仮眠時間中であっても,顧客からの呼び出しがあれば

すぐに対応しなければならず,

②ホテルの外に出て休むことが禁止されており,

③顧客の呼び出しが頻繁にある場合,

仮眠時間は労働時間と判断されると考えられます。

 

 

仮眠時間について,多くの会社では残業代が

支払われていないでしょうが,場合によっては,

労働時間となり,労働者は,

未払残業代を請求できることがあります。

 

 

仮眠時間のある労働者は,一度,

ご自身の労働実態を検討し,

仮眠時間の対応頻度などを調べてみるといいでしょう。

大東建託の36協定違反

朝日新聞の報道によれば,大東建託が

36協定で定める上限を超えて労働者に長時間労働をさせたとして,

労働基準監督署から是正勧告を受けたようです。

 

 

 

 

労働基準法32条によれば,1日8時間,1週間で40時間

を超えて労働させてはならないのが原則ですが,

会社と労働組合や労働者の過半数代表が36協定を締結すれば,

36協定で定められた上限時間まで働かせてもよいことになります。

 

 

大東建託では,36協定の上限時間が1ヶ月70時間,

繁忙期は1ヶ月80時間となっていたのですが,

1ヶ月の残業時間が約97時間の営業職の元社員がいたのです。

 

 

 

36協定の上限時間を超えて働かせることは

労働基準法違反になるので,労働基準監督署は是正勧告をしました。

 

 

大東建託が36協定の上限時間を超えて

働かせていた背景に,過酷な労働実態があります。

 

 

20代の営業職の元社員の話しによれば,

契約が獲得できないと上司から

成果が取れていないのに,帰らないよな

と長時間労働を迫られたようです。

 

 

 

 

また,契約がとれない時期が続くと,会議において

無実績で申し訳ありません」と言わされて,

罪悪感を植え付けられたようです。

 

 

上司からの過度なプレッシャーにさらされて,

長時間労働をせざるを得ない状況に追い込まれたのです。

 

 

このような過酷な働き方をさせられたのでは,

長時間労働とプレッシャーによって体調を崩し,

うつ病になるリスクがありますので,

まずは,身近にいる人に相談してください。

 

 

身近な人の支援を受けながら,労働基準監督署へ相談して,

労働環境を改善してもらったり,弁護士などの専門家へ相談して,

未払の残業代請求をすることにつなげます。

 

 

場合によっては,勇気をもって会社を辞めることも必要です。

 

 

長時間労働とプレッシャーで健康を害するよりも,

早目に退職する勇気を持ってください。

 

 

 

一方,会社は,労働者に過酷な労働を強制していると,

労働基準監督署の監督指導があり,マスコミで報道されると,

企業イメージが一気に悪化します。

 

 

労働環境が悪いという評判がたてば,

若者が就職してこなくなり,人手不足に陥り,

業績が悪化するという負のスパイラルに陥る危険があります。

 

 

そのため,どの会社も,労働者が安心して

働ける環境を整備する必要があります。

 

 

なお,先日成立した働き方改革関連法の中の

残業時間の上限規制では,1ヶ月100時間,

2~6ヶ月平均80時間を超えた場合に

会社に罰則が科されるのですが,今回の大東建託の場合,

1ヶ月の残業時間が約97時間だったため,

残業時間の上限規制に違反しないことになります。

 

 

会社が本気で,長時間労働を是正するという

モチベーションを高めるためには,

残業時間の上限規制を労働者のために

低く設定し直すべきだと考えます。

残業時間の上限規制とは

6月29日に成立した働き方改革関連法のうち,

高度プロフェッショナル制度については,

これまで解説をしてきましたので,これからは,

その他の改正部分について解説します。

 

 

まずは,残条時間の上限規制です。

 

 

 

労働基準法が定める労働時間は,

1日8時間,週40時間が原則です。

 

 

これを超えて働かせることは違法なのですが,

36協定を締結すれば,1日8時間以上,

週40時間以上働かせても問題はなかったのが

これまでの労働基準法でした。

 

 

今回の法改正で,この原則に対する例外として,

残業時間の上限が1ヶ月45時間及び

1年について360時間となりました。

 

 

さらに,例外の例外で,

「当該事業場における通常予見することのできない

業務量の増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて

労働させる必要がある場合」には,

1年間に6ヶ月以内なら,

1ヶ月の時間外労働が45時間を超えても,

年間上限720時間以内であれば違法になりません。

 

 

もっとも,この例外の例外には,

休日労働は含まれていません。

 

 

休日労働を含めた場合は,

1ヶ月100時間未満,

2~6ヶ月の平均80時間未満が,

休日労働を含んだ残業時間の上限となります。

 

 

そして,休日労働を含む残業時間が,

1ヶ月100時間を超えたり,

2~6ヶ月の平均80時間を超えた場合,

企業には,6ヶ月以下の懲役若しくは

30万円以下の罰金の刑罰が科されます。

 

 

例外の例外があったり,休日労働を含めるか含めないか

という複雑な構造になっていますが,ようするに,

休日労働を含む残業時間が,1ヶ月100時間を超えるか,

または,2~6ヶ月の平均80時間を超える場合に,

企業に刑罰が科せられると覚えておけばいいと考えます。

 

 

労働者としては,休日労働を含む残業時間が,

1ヶ月100時間を超えたり,

2~6ヶ月の平均80時間を超えた場合には,

労働基準監督署へ相談にいけば,

労働基準監督署が会社に対して,

監督指導する可能性があります。

 

 

この残業時間の上限規制は,大企業であれば,2019年4月から,

中小企業であれば,2020年4月から適用されるので,

労働者を働かせすぎている会社は気をつけた方がいいでしょう。

 

 

もっとも,この残業時間の上限規制は,

建設業や運送業,医師については,5年間,

適用が猶予されていますし,

新技術や新商品などの研究開発業務については,

適用がはずされています。

 

 

これまでは,残業時間の上限がなかったので,

際限なく働かせることも可能でしたが,今回の法改正で,

働かせすぎを予防する規制ができました。

 

 

 

 

しかし,残業時間の上限が,

1ヶ月100時間未満,2~6ヶ月の平均80時間未満という,

過労死や過労自殺ラインに設定されているので,

過労死や過労自殺に至るまで働かせることを

容認することになりかねないので,今後は,

残業時間の上限時間を段階的に少なくしていくことが求められます。

 

パソコンのログデータで労働時間を証明する

残業代を請求したり,過労死の労災申請や

損害賠償請求をする事件の場合,

労働者側が何時から何時まで働いたのかを

証明しなければなりません。

 

 

労働者が労働時間を証明できないと,

残業代は認められませんし,

過労死の認定も困難になります。

 

 

それでは,労働者は,どうやって自分の

労働時間を証明すればいいのでしょうか。

 

 

もっとも手っ取り早いのはタイムカードです。

 

 

 

 

タイムカードで労働時間の管理がされている職場であれば,

タイムカードを入手できれば,

タイムカードで労働時間を証明することができます。

 

 

では,タイムカードがない職場では,どうすればいいのでしょうか。。

 

 

会社には労働時間を適正に把握する責務があることが,

厚生労働省のガイドラインで定められていますが,

これが守られていない中小企業も多いです。

 

 

タイムカードがなくても,パソコンでデスクワーク

をしている労働者であれば,パソコンの起動時刻と

終了時刻のログデータで労働時間を証明することができます。

 

 

パソコンには,自動的に,起動時刻と終了時刻

のログデータが保存されています。

 

 

 

パソコンでデスクワークをしている労働者であれば,

まず出社すれば,パソコンの電源をいれて,パソコンを立ち上げます。

 

 

そして,パソコンをつけっぱなしにしたまま,

パソコンで文書を作成したり,検索エンジンを利用して調べ物をして

,仕事が終わるときに,パソコンをシャットダウンします。

 

 

そのため,パソコンでデスクワークをする労働者の場合,

自分が使っていたパソコンのログデータを入手できれば,

パソコン起動時刻に出社して,パソコン終了時刻に退社した

と証明できるのです。

 

 

実際,残業代を請求する事件で

パソコンのログデータが活用されています。

 

 

東京地裁平成18年11月10日判決

(PE&HR事件・労働判例931号65頁)は,

「デスクワークをする人間が,通常,パソコンの立ち上げと

立ち下げをするのは出勤と退勤の直後と直前であることを

経験的に推認できる」として,

パソコンのログデータをもとに労働時間を認定しました。

 

 

労働者が会社を辞めてから会社のパソコンの

ログデータを入手するのは困難ですので,

会社を辞める前に自分でログデータを確保しておく必要があります。

 

 

自分でパソコンのログデータを調べる方法については,

次のサイトが非常に参考になります。

 

 

https://pentan.net/win10-kidou-jikoku/

 

 

このサイトのとおりに,自分のパソコンを操作すれば,

ログデータを入手することができます。

 

 

実際に私も自分のパソコンでためしてみましたが,

そんなに難しくない作業です。

 

 

また,パソコンのログデータは,

放って置くと消えていく可能性がありますので,

早目にログデータを確保しておく必要があります。

 

 

未払残業代は2年前までさかのぼって請求できますが,

古いログデータほど消えている可能性が高いので,

早目にログデータを確保するべきです。

 

 

タイムカードがなくても,

他の証拠で労働時間を証明できる場合がありますので,

未払残業代を請求する場合には,

専門家に相談することをおすすめします。

忙しすぎる先生を減らすには

公立学校の教師の働き過ぎが問題となっています。

 

 

 

 

労働判例という,労働事件について注目の判例

を紹介している雑誌にも,公立学校の教師の働き過ぎによる

過労死や精神疾患の発症が公務災害となった判例が,

最近,複数紹介されています。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201709242919.html

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201709172981.html

 

 

公立学校で長時間労働が生じている原因の一つに,

「効率の義務教育諸学校等の教育職員の給与に関する特別措置法」

(「給特法」といわれています)の存在があげられます。

 

 

給特法3条2項には,

「教育職員については,時間外勤務手当及び休日勤務手当は,支給しない」と定められています。

 

 

ようするに,教師は,時間外労働や休日働いても,

残業代が支払われないのです。

 

 

残業代が支払われない代りに,教師には,

給料月額の4%に相当する「教職調整額」が支給されます。

 

 

このように,教師には,給料月額の4%に相当する

教職調整額が支給されるものの,残業代が支払われない

ことになったのは,教師の勤務態様に特殊性

があるからと説明されています。

 

 

修学旅行や遠足などの学校外の教育活動,

家庭訪問や学校外の自己研修など教員個人での活動,

夏休み等の長期の学校休業期間

といった教師固有の勤務態様のため,

勤務時間管理が困難であるからという理由です。

 

 

給特法があるため,実務上,

勤務の内容や時間数に関係なく,どれだけ働いても,

教師には残業代が一切支払われない扱いになっています。

 

 

そもそも,労働基準法37条で,

労働者が時間外労働をした場合に,

会社が労働者に残業代を支払わなければならない趣旨は,

会社に残業代の支払というペナルティを与えることで,

長時間労働を抑制して,労働者の健康や

ライフワークバランスを守ることにあります。

 

 

そのため,残業代の支払というペナルティがなければ,

会社は,労働者をどれだけでも働かせて,

業績をあげようとするので,長時間労働が横行してしまいます。

 

 

これを教師にあてはめれば,

教師の雇用主である地方公共団体は,

教師をどれだけ働かせても,残業代の支払

というペナルティが生じないので,

教師がどれだけ働いても,何もしません。

 

 

 

そして,難しい子供の対応,

英語やプログラミングといった新しい授業科目への対応,

部活動の担当,クレーマー保護者への対応など,

教師の仕事が増えているのに,雇い主の地方公共団体は,

残業代を支払わなくていいので,長時間労働を

抑制するための対策をとる動機がうまれません。

 

 

その結果,教師の長時間労働が横行して,

疲労が蓄積して,教師の過労死や精神疾患が増えていく

という負のスパイラルにおちいっていくのです。

 

 

教師が働き過ぎで疲弊すると,

よりよい授業ができなくなり,

子供達が影響を受けるので,

早急に対策が求められます。

 

 

まずは,教師の労働時間の管理をしっかりやる

ことが手っ取り早いと考えます。

 

 

労働者は,自分の労働時間を記録していないと,

仕事が忙しいときにはついつい長時間労働をしがちですが,

自分の労働時間を記録して,その記録を振り返ることで,

働き過ぎを自覚して,労働生産性を向上させる

きっかけを得ることができます。

 

 

その他にも,部活動の指導を外部のスポーツトレーナー

にアウトソーシングする,通知表管理や電話対応をシステム化する

という方法で,教師の労働時間を減らす方法も考えられます。

 

 

医師の働き方と同様に,教師の働き方についても,

教育予算の観点から国民的な議論をして,

忙しすぎる先生を少しでも減らせる取り組みが求められます。

会社から「そんなに働いていないはずだ」と言われたら・・・

残業代請求事件において,ときおり,

会社側から次のような反論がされることがあります。

 

 

「会社は,残業を許可しておらず,

労働者が勝手に働いていただけである。」

 

 

「労働者は,会社でネットサーフィンなどをして

仕事をさぼっていたので,そんなに残業をしていない。」

 

 

 

「労働者は,会社の終業時間が過ぎてから,

おしゃべりをしていただけなので,

その時間は労働時間ではない。」

 

 

 

会社からこのような反論をされたら,

労働者は,どのように対処すべきか

について,解説します。

 

 

残業代請求の裁判では,

労働者が何時から何時まで働いたのかを,

労働者が,自分で証拠を集めて,

その証拠にもとづいて証明しなければなりません。

 

 

裁判所が,証拠を集めてくれたり,証明してはくれないのです。

 

 

タイムカードなどで労働時間が管理されているような会社の場合,

タイムカードがあれば,タイムカードの始業時間と終業時間で

働いていたことを証明できます。

 

 

 

問題は,タイムカードがないときです。

 

 

そのようなときは,

タイムカード以外のメールの送受信の時間,

日報に記載されていた時間,

会社で使用していたパソコンのログインログオフ時間などで,

労働時間を証明していきます。

 

 

これらの証拠を裁判所に出しても,会社から,

「そんなに働いていないはずだ」と言われた場合,

会社からの黙示の指示があったと主張します。

 

 

そもそも,労働時間とは,

労働者が会社の指揮命令下に置かれている時間

をいいます。

 

 

この会社の指揮命令には,

会社の明示の指示だけではなく,

会社の黙示の指示も含まれます。

 

 

それでは,会社の黙示の指示は,

どのようなときに認められるのでしょうか。

 

 

①労働者が8時間を超えて働いていることを

会社が知っていたのに,会社が,

早く帰りなさいなどと言わずに,黙認していた場合。

 

 

②仕事量が会社で決められた労働時間内に

処理できないほど多く,時間外労働が常態化していた場合。

 

 

このような場合に,会社の黙示の指示があったと認められます。

 

 

そこで,会社から「さぼっていたので,そんなに働いていないはずだ」

という主張がでてきたら,労働者としては,

①日報に労働時間を書いて会社に提出していたので,

会社は,時間外労働を知っていたのに何も言わなかった,

②仕事の内容や量からして,とても8時間の勤務では終わらず,

毎日残業しなければならなかったなどと反論することになります。

 

 

日々の仕事の中で,どのような内容の仕事を,

何時から何時まで行っていたかを日報にまとめて会社に提出し,

その日報のコピーを保存しておけば,

会社から「そんなに働いていないはずだ」と言われても,

的確に反論することができます。

 

 

日々の仕事の記録を残しておくと,いざというときに役立ちます。

これまで支給してきた手当を固定残業手当に変更することは有効か

これまで,物価手当,外勤手当,運転手当,職務手当として支給されていた手当が(以下,「本件手当」といいます),途中から,固定残業手当として支給するように,就業規則が変更された場合,そのような就業規則の変更が有効なのかが争われた事件で,注目するべき判決がなされました。長崎地裁平成29年9月14日判決(サンフリード事件・労働判例1173号・51頁)は,上記のような就業規則の変更は,労働者の不利益に労働条件を変更するものになり,就業規則の変更手続に問題があり,固定残業手当の有効要件を満たしていないことから,労働者の残業代請求を認めました。

 

まず,就業規則が変更される前の本件手当について,「固定的な割増賃金として支給する」といった定めがないため,本件手当は,時間外労働に対する手当として支給されたものではなく,割増賃金の基礎となる賃金に算入されると判断されました。その結果,残業代の単価が高くなり,残業代の金額が増額します。

 

次に,本件手当を固定残業手当として支給するとした,就業規則の変更について,時間外労働が固定残業手当を超える場合には,追加の残業代が支払われなくなり,残業代の単価も低くなることから,労働者の不利益に労働条件を変更することになると判断されました。

 

そして,被告会社は,就業規則の変更に際して,原告らを含む全従業員から就業規則の変更について同意を得たと主張していましたが,労基署に提出された労働者代表の意見書は,挙手や投票で適法に選任された者ではない者が署名押印したものであり,原告らが,労働条件の変更に同意したとはいえないと判断されました。

 

さらに,就業規則変更後の固定残業手当は,「1ヶ月の所定労働時間を超えて勤務した従業員に支給する割増賃金のうち,一定金額を固定残業手当として支給する」と定められているだけで,支給する金額や対応する時間外労働の時間数が明示されていないことから無効とされました。結局,就業規則の変更後の固定残業手当も,割増賃金の基礎となる賃金に算入されることになり,変更前と同じように,残業代を請求できることになりました。

 

本件の被告会社のように,労働者の残業代を削減するためだけに,労働者代表をてきとうに選出して意見を聞いた形にしたり,これまで支給してきた手当を,そのまま固定残業手当にしてしまうといった,付け焼き刃的な対応をしていたのでは,後から,多額の残業代請求のしっぺ返しを受けることになります。労働者は,ある日突然,就業規則が変更されて,固定残業代になった場合,自分に不利益が生じていないかチェックする必要があります。

 

残業代請求の法律相談をご希望の方は,金沢合同法律事務所へご連絡ください。