就業規則に退職届を退職の90日前までに提出しなければならない規定があっても,退職届を提出してから2週間で退職できます

1 自己都合退職に関する労働相談

 

 

ここ2年ほど前から,会社を辞めさせてもらえないという

労働相談が増えているように感じています。

 

 

人手が不足している会社では,労働力を確保するために,

勝手に仕事を投げ出すのは逃げだ,などと言って,

退職を認めてくれないことがあります。

 

 

 

また,就業規則で,自己都合退職をするには,

90日前までに会社に退職届を提出しなければならなかったり,

退職をするには,会社の承認が必要としている場合があります。

 

 

このような就業規則がある場合,

就業規則の規定を守らないと退職できないのでしょうか。

 

 

本日は,自己都合退職について解説します。

 

 

2 自己都合退職をするには

 

 

まず,労働者には,憲法22条で職業選択の自由が保障されており,

憲法18条と労働基準法5条によって,

奴隷的拘束や強制労働も禁止されています。

 

 

そのため,労働者による労働契約の一方的解約である自己都合退職は,

原則として自由であり,会社を辞めるにあたって,

会社の承諾を必要としません。

 

 

労働者は,退職届を会社に提出して,

2週間が経過すれば会社を辞めれるのです(民法627条1項)。

 

 

そして,土日が休みの週休二日制の会社であれば,

平日の10日間,年次有給休暇を取得することで,退職届を提出してから,

会社に出社することなく会社を退職できるのです。

 

 

3 民法の規制よりも厳しい就業規則の規制がある場合

 

 

ここで問題になるのが,就業規則で民法の規制である

2週間よりも長い期間,退職を制限している場合です。

 

 

この点について,問題となったプロシード元従業員事件の

横浜地裁平成29年3月30日判決を紹介します

(労働判例1159号5頁)。

 

 

この事件では,労働者が虚偽の事実を捏造して退職し,

就業規則に違反して業務の引き継ぎをしなかったことが違法であるとして,

会社が労働者に対して,1270万円もの損害賠償請求をしました。

 

 

この事件の会社では,冒頭のように,退職をするためには,

90日前までに退職届を提出しなければならないと,

就業規則に記載されていました。

 

 

裁判所は,退職届を提出してから2週間経過後においては,

労働契約は終了しているので,会社が主張している損害と

労働者の行為との間には何も因果関係はないとして,

会社の損害賠償請求は認められませんでした。

 

 

むしろ,会社の訴訟の提起が不当訴訟にあたるとして,

労働者からの損害賠償請求が認められたのです。

 

 

 

このように,裁判所は,就業規則で退職届を退職前の90日前までに

提出しなければならないとしていても,

退職届を提出してから2週間経過後に退職できると判断したのです。

 

 

そのため,就業規則に退職するにあたり,

民法627条1項の規定よりも厳しい規制があったとしても,

すぐに会社を辞めたいのであれば,退職届を提出して,

年次有給休暇を取得して,2週間経過後に辞めれはいいのです。

 

 

とくに,うつ病などの心の病気を患っていて,

早く会社を辞めたい場合には,ご自身の健康を第一に考えて,

引き継ぎとかも考えずに,早く退職届を提出したほうがいいと考えます。

 

 

引き継ぎがあるから,なかなか退職届を出せず,

そのまま仕事をしていると,体調がさらに悪化するおそれがありますので,

そのようなことは避けるべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社からだまされて退職してしまったときの対処法

1 詐欺取消

 

 

昨日は,心裡留保による退職の意思表示が無効になる

ことについて解説しました。

 

 

本日は,退職の意思表示を争うときに労働者が主張できる,

詐欺による取り消しについて,解説します。

 

 

詐欺とは,人をだまして勘違いさせることです。

 

 

 

法律的な定義は,人を欺罔して錯誤に陥らせる行為といいます。

 

 

例えば,社長から懲戒解雇の理由がないのにもかかわらず,

「自分から退職しなければ,懲戒解雇にする」と言われたために,

労働者が自分から退職しないと懲戒解雇されてしまうと思い込んで,

退職した場合に,詐欺に該当すると考えられます。

 

 

退職の意思表示が詐欺によってされたものであると認定された場合,

退職の意思表示を取り消すことができます。

 

 

取り消しをすると,退職の意思表示は最初から

無効だったことになりますので,

元どおり働くことができるようになります。

 

 

2 退職の意思表示が詐欺で取り消された事例

 

 

ここで,退職の意思表示が詐欺で取り消されると判断された

ジョナサンほか1社事件の大阪地裁平成18年10月26日判決

を紹介します(労働判例932号39頁)。

 

 

この事件では,パチンコ店が閉鎖されて

労働者が全員解雇されたのですが,その後,会社は,

閉鎖された店舗の跡地に新しいパチンコ店を開店しました。

 

 

新店舗の労働者のほとんどがパート労働者になった関係で,

会社の人件費が1500万円から1000万円に減少しました。

 

 

そのため,旧店舗を一気にリニューアルして,

人件費の削減を実施するために,新店舗の開店計画を秘密にしたまま,

全ての労働者を解雇した上で,旧店舗を閉鎖したものなので,

本件解雇は,解雇権を濫用したものとして無効となりました。

 

 

そして,被告会社は,解雇ではなく,

合意退職だったと主張していたのですが,

仮に合意退職であったとしても,

新店舗の開店計画を秘密にしたまま,

旧店舗の閉店を告げているので,退職の意思表示は,

詐欺による取り消しで無効になると判断された。

 

 

 

さらに,本件解雇のやり方が,長年働いてきた労働者に対して,

虚偽の事実を告げて,一方的に解雇するというもので,悪質であり,

後日,新店舗の開店を知った労働者の驚きと怒りは大きいことから,

慰謝料50万円が認められました。

 

 

これだけ悪質な解雇の場合は慰謝料請求が認められるわけです。

 

 

このように,会社からだまされて

退職の意思表示をしてしまった場合には,

詐欺による取り消しができないかを検討してみてください。

 

 

もっとも,会社からだまされたことを労働者が

立証しなければならないのが,困難になります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

退職届を提出した後に退職が無効だったと争うことができるのか?

1 真意ではない退職の意思表示を争う場合

 

 

労働者が退職することを会社に伝えたのですが,

この退職の意思表示には問題があったとして,

退職の効力が争われることがあります。

 

 

例えば,労働者には退職する意思がなかったにもかかわらず,

退職届を提出して,会社が退職届を受理しまった場合に,

労働者が,後から退職の意思表示は無効だったと争う場合です。

 

 

 

それでは,本当は退職する意思がないのに,

労働者が退職すると意思表示した場合,労働者はどのようにして,

退職をなかったことにできるのでしょうか。

 

 

2 心裡留保とは?

 

 

民法93条に,心裡留保という規定があります。

 

 

意思表示をした人が,表示した行為に対応する真意がないことを

知りながらする単独の意思表示のことをいいます。

 

 

わかりやすく説明すると,相手方がお金を持っていなさそうなので,

買えないだろうと思って,売る気もないのに,

10万円なら売ってもいいよ,と言ったところ,

相手方が10万円なら買いますと言った場合に,

売買契約が成立するのかという問題です。

 

 

ようするに,売主は,売るという真意がないのに,

売ると意思表示をしているのです。

 

 

この場合,売主には売る意思がないので,

売買契約が無効になりそうですが,

売主の売りますという意思表示を信頼して

10万円を集めた買主を保護すべきです。

 

 

そのため,このような心裡留保の場合,

原則として,意思表示は有効になります。

 

 

しかし,上記の売買契約のケースで,買主が,

売主は買主のことをからかうつもりで,

本当は売るつもりがないことを知っていた場合はどうでしょうか。

 

 

売主が売るつもりがないことを知っている

買主を保護する必要はなくなります。

 

 

そこで,心裡留保の相手方が,意思表示をした人に

真意がないことを知っていたり,知ることができていた場合には,

例外的に,意思表示が無効になるのです。

 

 

3 心裡留保で退職の意思表示が無効になった裁判例

 

 

ここで,退職の意思表示が心裡留保として無効になった,

昭和女子大学事件の東京地裁平成4年2月6日決定を紹介します

(労働判例610号72頁)。

 

 

この事件では,大学教授が問題をおこしたため,

学長から教授の地位を剥奪すると言われ,

本気で謝罪している姿勢を見せるために

反省の色が最も強くでる文書を提出したほうがよいと考えて,

退職届を大学に提出しました。

 

 

 

この教授は,実際には退職する意思はなく,

引き続き教授として勤務する意思を有しており,

学部長から,本当にこのまま退職するのかと聞かれたときには,

「汚名を挽回するために勤務の機会を与えてほしい」と述べました。

 

 

しかし,大学は,退職扱いとしたので,この教授は,

教授としての地位にあることの確認を求めて,提訴しました。

 

 

裁判所は,本件の退職届は,勤務継続の意思があるならば

それなりの文書を用意せよとの学長の指示に従い提出されたものであり,

この教授は,学部長に対して,勤務継続の意思を表明しているので,

大学は,この教授には退職の意思がないのに

反省の意思を強調するために退職届を提出したと

知っていたと推認できると判断しました。

 

 

そのため,大学教授の退職の意思表示は心裡留保で無効であるとして,

大学教授の地位確認の請求が認められました。

 

 

このように,退職届を提出したものの,

真意では退職する意思がなかった場合には,

心裡留保を理由に退職は無効であると主張できます。

 

 

もっとも,心裡留保で退職を無効にするためには,

会社も,労働者が真意では退職する意思がないことを知っていたか,

または,知ることができたことを,

労働者が立証しなければなりませんので,

この立証が大変になります。

 

 

そのため,真意では退職する意思がないのであれば,

退職届を提出しないようにしなければなりません。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

退職金を請求するときのポイント

先日,会社から退職金の支払いがないという法律相談を受けました。

 

 

労働者が会社にとって不都合なタイミングで退職したり,

会社と労働者と間でトラブルがある場合に,

会社が退職金を支払わないことがあります。

 

 

本日は,会社に対して,退職金を請求するには

どうすればいいかについて解説します。

 

 

 

 

まず,労働者が退職したからといって,

当然に会社に対して退職金を請求できるものではありません。

 

 

就業規則,労働契約,労働協約などで退職金を支給することや,

退職金の支給基準が定められていて,

会社に支払い義務のあるものは賃金と認められて,

賃金についての労働基準法の保護を受けることができるのです。

 

 

労働基準法には,労働者に対して退職金請求権

を認める直接的な条文がないので,

退職金請求権が認められるためには,

就業規則,労働契約,労働協約などの根拠が必要になります。

 

 

そのため,労働者が会社に対して,退職金を請求するためには,

会社の就業規則などに退職金に関する定めがあるかを

チェックする必要があります。

 

 

就業規則とは別に,退職金規程を作成している会社もありますので,

会社を辞める前に,会社に対して,退職金規程などの

退職金の根拠となる資料の開示を求めます。

 

 

会社を辞めた後に,労働者個人が,会社に対して

退職金規程の開示を求めても,会社が任意に応じない

可能性もありますので,可能な限り,会社を辞める前に,

退職金規程などの資料をコピーしておくのがいいです。

 

 

会社から退職金規程の開示を受けたなら,

退職金規程に記載されている退職金の支給基準に従い,

退職金の計算をします。

 

 

一般的には,退職金の算定基礎賃金に

勤続年数別の支給率をかけて算定されることが多いです。

 

 

退職金の計算をする際には,給料のうちのどの部分までが

退職金の算定基礎賃金に含まれるのかが,

退職金規程に記載されていることが多いので,

給料明細をなくさずにとっておき,

給料明細から退職金の算定基礎賃金を計算します。

 

 

勤続年数別の支給率については,

労働者が自分の意思で会社を退職する自己都合退職の場合には,

普通解雇や整理解雇といった会社都合退職の場合に比べて,

支給率が低く設定されていることが多いです。

 

 

大幅な給料カットを通告されて,労働者が

「一身上の都合により」などと記載した退職届

を会社に提出した場合には,

自己都合退職なのか会社都合退職なのかが争われることがあります。

 

 

次に,退職金を計算できたとして,労働者は,

いつ退職金を請求できるのでしょうか。

 

 

 

退職金規程などに退職金の支払時期が定められている場合には,

その支払時期に請求することになります。

 

 

退職金規程に支払時期が記載されていない場合には,

会社は,労働者の請求があってから7日以内に

退職金を支払わなければなりません(労働基準法23条1項)。

 

 

退職金規程に定められている支払時期や,

労働者の請求があってから7日以内に退職金が支払われなかった場合,

会社は,年6%の遅延損害金を負担しなければなりません。

 

 

労働者としては,早目に退職金の請求をしておけば,

遅延損害金を請求できる可能性があります。

 

 

また,退職金請求権の消滅時効は5年なので,

退職してから5年が経過していないのであれば,

退職金を請求できる可能性があります。

 

 

まとめますと,退職金の根拠規程を調査して,

早目に会社に対して退職金を請求することが重要となります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社を辞めるのは簡単です~退職代行サービスについての私の見解~

先日,外部の法律相談で,労働問題についての相談を受けていた時に,

相談者の方が,「退職代行サービスってどうですかね?」

というご質問をされました。

 

 

石川県でも,退職代行サービスの利用を

検討している人がいることを知り,

時代は変わったものだなぁと思いました。

 

 

この相談者の方のご質問に対する私の回答は,

退職は自分で簡単にできるので,ご自身でやった方がいいですよ。

退職代行サービスの業者に費用を支払うのはもったいないですよ

というものでした。

 

 

はい,会社を辞めるのは簡単です。

 

 

 

 

正社員であれば,会社を辞めますと伝えてから,

2週間が経過すれば,自由に会社を辞めることができます(民法627条)。

 

 

土日が休みの週休二日制の会社であれば,

2週間のうちの平日10日について,

有給休暇を取得すれば,会社に出社することなく,

会社を辞めれます。

 

 

会社を辞めるのに理由は必要なく,

会社から辞める理由を聞かれても,回答する義務はなく,

ただ単に辞めますと会社に伝えればいいのです。

 

 

労働者には,退職の自由が認められていることを

ぜひ知ってもらいたいです。

 

 

とはいえ,自分の口から,上司に「会社を辞めます」

とは言いづらいと思いまし,上司からあれやこれやと理由をつけられて,

退職をおもいとどまらせようとしてくることも予想されます。

 

 

そんなときは,退職届を会社に特定記録郵便で郵送すればいいのです。

 

 

 

 

むしろ,口頭で会社を辞めますと伝えたら,会社から,

「いや,そんなことは聞いていない」と主張されることがあり,

言った言わないという問題となり,

会社を辞めさせてもらえない可能性もでてきます。

 

 

そこで,会社を辞めるためには,

会社を辞めますという意思表示を会社に通知すればいいので,

一身上の都合により退職します」とだけ記載して,

日付と自分の名前を署名して,押印した退職届を,

特定記録郵便で会社に郵送すれば,それだけでいいのです。

 

 

特定記録郵便を利用すれば,インターネットで,

いつ郵便が届いたのかを調べることができ,

確実に相手方に届いたことを証明できるので便利です。

 

 

https://www.post.japanpost.jp/service/fuka_service/tokutei_kiroku/

 

 

 

このように,退職届を特定記録郵便で会社に郵送すれば,

簡単に会社を退職できるのですか,

退職代行サービスが拡大しているようです。

 

 

 

 

先日の朝日新聞の報道によれば,2017年ころから,

退職代行サービス業者がサービスを始めたようで,

人手不足に悩む企業が,労働者の退職を

引き留めようとしていることが背景にあるようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/DA3S14021567.html

 

 

もっとも,退職代行サービス業者は,

弁護士法72条が禁止する非弁行為

該当する可能性があると思います。

 

 

弁護士法72条は,弁護士でない者が,

報酬を得る目的で,法律事務を行うことを禁止しています。

 

 

これは,弁護士資格をもっていない者が,

法律事務を行うと,適切なトラブル解決ができず,

弁護士でない者にトラブルの解決を依頼した者の利益を

害してしまうおそれがあることから,

このような非弁行為を禁止しているのです。

 

 

朝日新聞の報道によれば,退職代行サービス業者は,

あくまで,連絡の仲介をするだけで,

会社と交渉をしていないので,

非弁行為ではないと主張しているようです。

 

 

しかし,労働者が退職をする際には,

離職票の発行を求めたり,

有給休暇分の賃金を請求したり,

退職金の請求をしたりと,

会社と交渉をすることがほとんどです。

 

 

このような交渉を退職代行サービス業者が行えば,

非弁行為の禁止に該当すると考えます。

 

 

仮にこのような交渉をしないで,

単なる連絡の仲介だけで正社員だと退職代行サービスに

5万円の費用がかかるのには,違和感をおぼえます。

 

 

退職代行サービス業者は,

非弁行為の禁止に違反している可能性があるので,

利用はおすすめできません。

 

 

そもそも,退職代行サービス業者に

お金を払うのはもったいないので,

単に会社を辞めるだけであれば,

自分で退職届を書いて特定記録郵便で郵送すればよく,

有給休暇分の賃金を請求するなど会社との交渉を

第三者に依頼したいのであれば,

弁護士に依頼するのがいいと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

退職代行事件

最近,マスコミの報道をみていますと,人手不足が深刻なようです。

 

 

以前ブログで紹介しましたが,セブンイレブンの店主が,

人手不足から24時間営業を短縮したところ,

セブンイレブン本部から違約金約1700万円の支払いを求められました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201903087673.html

 

 

また,3月下旬から4月上旬は引っ越しのシーズンですが,

引越業者も人手不足のため,引越しの仕事を断っているようで,

今年は,引越難民が多数生じる可能性があるようです。

 

 

このように,人手不足が深刻になると,労働者が,

会社を退職しようとしても,会社は,

あの手この手を使って,会社を辞めさせてくれません。

 

 

 

 

会社を辞めるには会社の許可が必要である,

辞めたことによって会社に損害が生じたら損害賠償請求をする

などと言いながら,会社は,労働者が辞めることを阻止してきます。

 

 

このような場合,労働者は,どうすれば辞められるのでしょうか。

 

 

最近,私が担当した退職代行事件を紹介します。

 

 

私のクライアントは,会社を退職しようとしたところ,

社長から,どななられて辞めさせてくれませんでした。

 

 

会社を退職しようとすると,社長からどなられるので,

私のクライアントは,社長と会いたくなく,

声も聞きたくない状態になり,

自分で辞めることができない状況に追い込まれてしまいました。

 

 

そこで,私に退職手続の代行を依頼されました。

 

 

 

労働者には,退職の自由が保障されていますので,

会社の許可を得ることなく,いつでも会社を辞めることができます。

 

 

正社員であれば,民法627条1項により,

退職を申出て2週間が経過すれば,自由に退職できます。

 

 

もっとも,会社によっては,就業規則で,

退職までの期間を2週間よりも長い期間に

設定しているところがあります。

 

 

この点,労働基準法は,労働者が労働契約から離脱したいときに,

これを制限する手段となりうるものを極力排除して,

労働者の解約の自由を保障しようとしているので,

民法627条1項の予告期間は,

会社のためにはこれを延長できないと判断した裁判例があります

(高野メリヤス事件・東京地裁昭和51年10月29日判決・

労働判例264号35頁)。

 

 

そのため,会社が,就業規則において,

退職までの期間を2週間よりも長い期間に設定していたとしても,

労働者は,退職を申出てから2週間が経過すれば,

自由に退職できるのです。

 

 

 

 

 

さらに,たまっている年次有給休暇を消化すれば,

退職を申出た後,会社に出勤することなく,退職できて,

消化した年次有給休暇分の賃金を会社に請求することができます。

 

 

労働者が,退職時に未消化の年次有給休暇を一括で取得した場合,

会社は,これを拒否することができません。

 

 

まとめますと,会社を今すぐに辞めたいのであれば,

会社に退職届を提出し,未消化の年次有給休暇を

平日10日分取得すれば,週休二日制の会社であれば,

土日が2回あるので,会社に出勤することなく2週間が経過して,

会社を辞めることができます。

 

 

退職の申出は,口頭でもできますが,会社から,

聞いていないと言われるおそれがありますので,退職届を作成して,

特定記録郵便で会社に送付することをおすすめします

 

 

これらの手続は,労働者がご自身で行うことが十分に可能ですが,

私のクライアントのように,自分で辞めることができない

状況に追い込まれている場合には,

弁護士に退職手続の代行を依頼することを検討してみてください。

 

 

 

 

私のクライアントの事件では,私が,相手方の会社に対し,

私のクライアントが退職すること,

未消化の年次有給休暇を取得すること,

年次有給休暇を取得した期間について賃金を支払うこと,

離職票や源泉徴収票を私のクライアントへ交付すること

を配達証明付内容証明郵便で通知しました。

 

 

すると,相手方の会社は,特段何も言わず,

私のクライアントの要求に素直に応じてきて,

私のクライアントは,無事に退職でき,

年次有給休暇を取得した分の賃金を受け取ることができました。

 

 

会社を退職したいけれども,自分では対処が難しい場合には,

弁護士にご相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

退職強要の対処法2

昨日のブログに引き続き,退職強要の対処法

について解説していきます。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201903037645.html

 

 

昨日のブログにも記載しましたが,

退職勧奨の手段・方法が社会通念上相当性を欠く場合に,

退職強要として違法になります。

 

 

 

そこで,録音や日記・メモ,精神科医のカルテの記載などから,

当該労働者が,会社側から,どのような退職強要をされたのかを特定して,

それが社会通念上相当か否かを検討します。

 

 

例えば,エターナルキャスト事件では,

次のような退職強要が問題となりました

(東京地裁平成29年3月13日判決・労働判例1189号129頁)。

 

 

経理の仕事をしていた原告の労働者が,代表取締役から,

「経理の仕事はない。自分で何ができるか考えろ」などと言われ,

労働局のあっせんの申立てをしたり,弁護士に交渉を依頼しました。

 

 

すると,代表取締役は,原告の労働者に対して,

次のことを言いました。

 

 

「弁護士通じて言いやがってよ。何でてめえの口で言わないんだよ。」

「俺はあんたを許さない。別に経理の仕事をしたいならすればいい。

絶対にミスるな失敗したら損害請求する。」

「みんなおまえを最悪って言ってたぞ。みんなを敵に回したんだぞ。

ばかなことをしたな。それで人生駄目にするんだ。」

「こんなレベルでは,小学生の方がまし。」

 

 

代表取締役は,このような暴言を浴びせながら,

壁に向かってペットボトルを投げつけたりして,

今後仕事で重大なミスをしたときは責任をとって

退職するという承諾書を作成するように強要しました。

 

 

 

 

また,会社側は,原告の労働者に対して,

労働条件を正社員からパート社員に変更した上で,

経理担当から清掃スタッフとして勤務するように,

言葉巧みに迫り,これに同意できない場合には

辞職するほかないように仕向けてきました。

 

 

労働局のあっせんや弁護士への依頼など,

労働者が法律で認められた当然の権利を行使したら,

このようなひどい仕返しをしてきたのです。

 

 

原告の労働者は,仕事のミスが多かったり,

仕事のおぼえが悪かった点があるのですが,

だからといって,上記の被告の会社の対応は,

「それをやったらだめだよね」というレベルのものであり,

裁判所は,上記の一連の会社側の退職強要は違法と判断しました。

 

 

そして,被告会社と代表取締役に対して,

30万円の慰謝料の損害賠償請求が認められました。

 

 

これだけひどいことをされたのに,

認められた慰謝料の金額は30万円だったのです。

 

 

残念ながら,パワハラや退職強要の裁判で

慰謝料の損害賠償請求をしても,

それほど高額な慰謝料が認められないのが,

今の日本の裁判の現状なのです。

 

 

そのため,録音などの手堅い証拠があったとしても,

最終的に認められる損害賠償の金額が,

それほど大きくならない可能性もありますので,

裁判を起こすか否かについては,

慎重に判断をすることになります。

 

 

なお,この事件では,会社側からの退職強要によって,

原告の労働者のうつ病が悪化し,

働くことができなくなったことから,

労働基準法19条の「業務上の負傷」に該当することから,

休職期間満了による当然退職扱いは許されないと判断されました。

 

 

 

 

このように,退職強要事件では,

会社側の言動を録音などで記録した上で,

会社側の言動が社会通念上相当か否かを検討し,

損害賠償の金額がいくらくらいになるかの見通しをつけて,

裁判を起こすかを慎重に判断していくことになります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

退職強要の対処法

会社から辞めてくれないかと言われることを退職勧奨といいます。

 

 

こちらのブログ記事に記載していますが,労働者は,

退職勧奨に応じる必要はなく,会社を辞めたくないのであれば,

はっきりと断ればいいのです。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201812107196.html

 

 

ところが,労働者が退職勧奨を受けても,退職に応じない場合,

会社は,あの手この手で労働者を退職に追い込んでくることがあります。

 

 

 

 

 

例えば,数人で当該労働者を取り囲んで,

退職届を書くまではその場を離れることができないような状況で

退職届を書かせたり,当該労働者の人格を否定する暴言をはいたり,

当該労働者を無視して,職場に居づらくして退職に追い込む

といった手口があります。

 

 

このように,労働者が退職を拒否しているのに,

むりやり辞めさせようとすることを退職強要といいます。

 

 

退職強要とは,手段・方法が社会通念上相当ではない

違法な退職勧奨のことなのです。

 

 

それでは,労働者は,会社から退職強要をされた場合,

どのように対処するべきなのでしょうか。

 

 

まずは,会社からされたことを正確に記録しましょう。

 

 

会社からどのようなことをされたのかがわからなければ,

手段・方法が社会通念上相当か否かについて判断ができないからです。

 

 

記録をする方法で最も効果的なのが録音です。

 

 

 

 

退職強要の場合,たいてい,雇用主や上司が当該労働者に対して,

人格を否定するようなひどいことを発言しています。

 

 

そのひどい発言が録音されていれば,

こんなこと言ったらだめだよね,というように,

社会通念上相当か否かを判断しやすくなり,

会社に対して慰謝料の損害賠償請求をするかについて,

決断しやすくなります。

 

 

逆に,録音がなかった場合,労働者が,

人格を否定するような発言をされたと主張したとしても,

会社側は,そんなことは言っていませんとしらを切る

ことが往々にしてあります。

 

 

そうなると,言った言わないという状況となり,

労働者が圧倒的に不利になります。

 

 

なぜかといいますと,労働者が退職強要を受けたことを理由に,

会社に対して損害賠償請求をする場合,

人格を否定するような発言をされたことについて,

労働者が証明しなければならないからです。

 

 

どういうことかといいますと,民事裁判では,当事者が,

自分に有利な主張をして,その主張を裏付ける証拠を提出し,

裁判所は,当事者の主張と証拠を検討して,

どのような事実があったのかを認定して,判決をくだします。

 

 

当事者から,主張と証拠が出されたけれども,

裁判所としては,原告と被告の主張を聞いても,

どのような事実があったのか判断できないことがあります。

 

 

例えば,原告の労働者は,上司から人格を否定する暴言をはかれた

と主張し,被告の会社は,上司は人格を否定する暴言をはいていない

と主張し,証人尋問でも,そのような証言がされて,

録音などの記録がない場合,裁判所は,上司が原告の労働者に対して,

人格を否定する暴言をはいたか否かとについて判断ができません。

 

 

 

 

このような状況を,真偽不明といいます。

 

 

とはいっても,裁判で,どちらかわかりませんという判決を書いても,

トラブルは解決しないので,裁判所は,上司が原告の労働者に対して,

人格を否定する暴言をはいたのか,はいていないのかについて,

判断しなければなりません。

 

 

このときの判断が,裁判官の個人的な価値基準に基づいて

決められたのでは,裁判の公平さが保てないことになるので,

統一的な判断基準が確立されています。

 

 

この判断基準が立証責任(証明責任ともいいます)というもので,

裁判所は,立証責任を負っている当事者の主張を

認めないという判断をするのです。

 

 

立証責任は,その事実が認められると,

自分に有利な効果が発生する側が負うことになります。

 

 

先の例でいうと,上司が原告の労働者に対して,

人格を否定する暴言をはいたという事実が認められると,

原告の労働者は,慰謝料の損害賠償請求が認めれられるという

有利な効果が発生するので,原告の労働者に立証責任があるのです。

 

 

そのため,録音などの記録がなく,真偽不明となれば,

立証責任を負っている原告の労働者が敗訴することになるので,

録音などの記録を証拠として,上司が原告の労働者に対して,

人格を否定する暴言をしたという事実を証明する必要があるのです。

 

 

このように,立証責任という観点から,

録音などの記録が重要になるのです。

 

 

裁判は,証拠が全てと言っても過言ではないと思います。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

自己都合退職か会社都合退職かの判断基準とは?

会社を退職する場合,自己都合退職か会社都合退職か

が問題となることがあります。

 

 

 

 

雇用保険の基本手当を受給する際,会社都合退職ですと,

給付制限がなく,自己都合退職の場合よりも,

基本手当の給付日数において優遇されています。

 

 

また,退職金についても,自己都合退職の場合には,

会社都合退職の場合よりも,退職金の支給額を減額する

という退職金規定をもうけている会社も多いです。

 

 

ところが,退職金規定に,自己都合退職については

退職金を減額するという条項があったとしても,

どのような場合に自己都合退職になるのかについて

明確な基準を定めている会社は少ないです。

 

 

とくに,給与の大幅な切り下げを通告されたり,

遠隔地配転を命じられて退職するに至った場合,

労働者としては,会社の都合によって退職を余儀なくされた

と考えるのですが,退職に際して,「一身上の都合により」

などと記載された退職届を提出させられるケースも多く,

退職届を形式的にみると自己都合退職となっているときに

トラブルに発展することがあります。

 

 

それでは,どのような基準をもって

自己都合退職と会社都合退職とを

区別するべきなのでしょうか。

 

 

結論としては,退職に至る具体的事情を

総合的に判断して決することになります。

 

 

すなわち,労働者が勤務を継続することに障害があったか否か,

その障害が使用者,労働者のいずれの責任に帰せられるか,

退職の理由が使用者,労働者いずれの支配領域内で

起きた事情によるものか,労働者の自由な判断を困難にする事情が

使用者側に認められるか,といった諸要素を勘案して,

総合的に判断することになります。

 

 

具体的な事件で検討してみましょう。

 

 

労働者が会社に対して,自己都合退職の退職金と

会社都合退職の退職金との差額,及び,

自己都合退職の雇用保険の基本手当と

会社都合退職の雇用保険の基本手当との差額について,

損害賠償請求して,これが認められたゴムノイナキ事件を紹介します

(大阪地裁平成19年6月15日判決・労働判例957号78頁)。

 

 

この事件の労働者は,顧客からのクレームが多いことから,

会社から退職勧奨を受けて,退職願の届出を催促されて,

会社から言われるがまま,一身上の都合により退職するとの

退職願を作成して,提出しました。

 

 

 

会社が,自己都合退職として退職金を支給し,

雇用保険の手続をしたことから,労働者は,

会社都合退職であるとして争いました。

 

 

判決では,労働者が子供の学費や住宅ローンの状況からすれば,

全く自発的に退職を申し出るとは考えがたいこと,

労働者は自分から退職願を作成して持参したのではなく,

会社主導で作成されたこと,会社が退職願を直ちに受理して,

翻意を促すことも引き留めることも一切していなかったこと,

といった事情を考慮して,労働者の退職は

会社都合退職にあたるとされました。

 

 

その上で,会社都合退職として処理すべきところを,

自己都合退職によるものとして退職金を計算し,

離職票を作成するなどの事務手続を行ったとうい限度で,

会社に過失があったとして,会社の行為は不法行為にあたるとされました。

 

 

結果として,労働者には,退職金の差額116万円と

雇用保険の基本手当の差額159万12000円

の請求が認められたのです。

 

 

このように,一身上の都合により退職するという

退職届を会社に提出していたとしても,

退職に至る経緯を検討すれば,会社都合退職になる可能性があり,

そうなれば,会社都合退職と自己都合退職における退職金と

雇用保険の基本手当の差額を請求できる可能性があるのです。

 

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社の承諾がないと退職金を請求できないのか?

パワハラを受けたり,長時間労働が原因で,

これ以上会社で働くことはしんどいと思い,

退職届を提出して,会社を退職しました。

 

 

 

 

会社を退職した後,退職金を請求したところ,

会社から,退職金規定には,会社の承諾なく退職した者については,

退職金を支給しないと記載されているので,

退職金を支払わないと言われたとします。

 

 

労働者としては,会社に対して,きちんと理由を説明して,

退職届を提出しており,会社の承諾をもらって退職しないと

退職金をもらえないのでは,パワハラを受けたり,

長時間労働を強いられる職場に拘束させられてしまうので,

納得できません。

 

 

退職金規定に,会社の承諾なく退職した者については,

退職金を支給しないという記載がある場合,

会社から退職について承諾していないと言われたら,

労働者は,退職金を請求できないのでしょうか。

 

 

 

 

まず,会社に退職金規定があり,

退職金の支給基準が明確に定められている場合,

労働者は,会社に対して,退職金を請求することができます。

 

 

逆に言えば,会社に退職金規定などの退職金の根拠となる規定が

なにもない場合には,労働者は,会社に対して,

退職金を請求することはできません。

 

 

退職金規定に退職金の支払時期が定められていない場合,

会社は,労働者の退職金の請求から7日以内に

退職金を支払わなければなりません(労働基準法23条1項)。

 

 

会社が労働者の請求から7日以内に退職金を支払わない場合,

労働者は,退職金の請求から7日経過後に,

会社に対し,遅延損害金を請求できます。

 

 

次に,正社員の労働者は,退職届を提出して2週間経過すれば,

いつでも辞めれますし,2週間について,

年次有給休暇を取得すれば,会社に出勤することなく,

会社を辞めることができるのです。

 

 

すなわち,労働者には退職の自由が認められているのです。

 

 

そうであれば,会社が退職を承諾しない限り,

労働者が退職金を全く受領できないという制度では,

労働者は,労働契約の継続を望まないのであれば,

退職金受給を全て断念しなければらないということになり,

退職金の受給を望むのであれば,不本意にも労働契約を

継続しなければならないという不合理な結果になります。

 

 

 

そのため,会社の承諾なく退職した者については,

退職金を支給しないという規定は,

労働者の退職の自由を不当に制限しており,無効となります

(東花園事件・東京地裁昭和52年12月21日判決・

労働判例290号35頁参照)。

 

 

よって,労働者は,会社から,会社の承諾なく退職しているので

退職金を支払わないと言われても,ひるむことなく,

会社に対して,退職金の全額と遅延損害金を請求するべきです。

 

 

退職金を請求する際には,会社の退職金規定を入手して,

計算根拠や,不支給や減額の条項があるかを

チェックするようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。