テレワークで配慮すべき3つの労働問題のポイント

1 これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書案

 

 

新型コロナウイルスの第3波の勢いが止まらず、

12月25日の感染者数は過去最多の3,832人となりました。

 

 

新型コロナウイルスの感染が拡大している都市圏では、

テレワークを実施している企業が増えていると考えられます。

 

 

ウィズコロナ時代においては、

テレワークがますます普及していくことが予想されます。

 

 

 

テレワークが普及していくことに伴い、

テレワーク特有の労働問題が生じることから、12月23日、

これからのテレワークでの働き方に関する検討会が、

報告書案を公表しました。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000709060.pdf

 

 

この報告書案には、今後のテレワークの労働問題についての

解決の方向性を探るヒントが盛り込まれていますので、解説します。

 

 

2 テレワーク対象者の選定でのポイント

 

 

まずは、テレワーク対象者の選定の問題です。

 

 

第1波の緊急事態宣言のときに、正社員には、

テレワークは認めるものの、非正規雇用労働者には、

テレワークを認めずに、非正規雇用労働者が会社に

出勤しなければならないことが問題とされたことがありました。

 

 

コロナ禍におけるテレワークの実施については、

公共交通機関での通勤途上で、

労働者が新型コロナウイルスに感染することを防ぎ、

人の移動を少なくするという目的があります。

 

 

この目的は、正社員であろうとも、

非正規雇用労働者であろうとも、変わりません。

 

 

そして、オフィスでパソコンを使用して働く業種であれば、

正社員と非正規雇用労働者の業務内容に

それほどの差異がないことも多いです。

 

 

そのため、業務内容が同じであるにもかかわらず、

正社員にだけテレワークを認めて、

非正規雇用労働者にはテレワークを認めないことは、

パート有期法8条に違反する、

不合理な待遇の相違に該当すると考えられます。

 

 

ようするに、会社は、正社員や非正規雇用労働者といった

雇用形態の違いのみを理由として

テレワーク対象者を選定してはいけないのです。

 

 

 

3 テレワークにおける人事評価のポイント

 

 

次に、テレワークにおける人事評価の問題です。

 

 

人事評価は、給料に反映される可能性がありますので、

公正に実施されなければなりません。

 

 

公正な人事評価のために、会社は、

①公正・透明な評価制度を設計・開示し、

②それに基づいて公正な評価を行い、

③評価結果を開示・説明する必要があります。

 

 

テレワークの場合、実際に会社に出社した労働者が評価されて、

テレワークを実施していて、会社に出社していない労働者が評価されない、

ということはあってはならないのです。

 

 

テレワークを実施していて、会社に実際に出社していないくても、

公正に評価される、人事評価の制度を構築することが必要になります。

 

 

4 テレワークにおける労働時間管理のポイント

 

 

そして、テレワークにおける労働時間管理の問題です。

 

 

テレワークでは、会社以外の場所で働く結果、メリハリがなくなり、

テレワークの方が長時間労働に陥る可能性もあります。

 

 

また、労働者が自宅で仕事をしている場合、

仕事の合間に家事などをしていると、

労働時間の自己申告が過小になりがちです。

 

 

テレワークの場合の労働時間管理については、

原則は、労働者の自己申告でいいのですが、

長時間労働を抑制するためにも、

労働者が自己申告する労働時間が正しいかについて、

会社は、しっかりとチェックする必要があると考えます。

 

 

自宅で仕事をする以上、パソコンを使用していることが

ほとんどですので、パソコンのログを開示させるなどすれば、

労働者の自己申告する労働時間と、実際の労働時間が一致しているかを、

簡単に検証できます。

 

 

労働者としては、労働時間を過小に申告することなく、

仕事を始めた時刻と仕事を終えた時刻を正確に、

臆することなく、会社に対して、適切に自己申告するべきです。

 

 

今後は、テレワークに関するガイドラインの改訂版が

公表される予定ですので、注目していきたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

2020年4月1日から中小企業に残業時間の罰則付き上限規制が導入されます

1 トヨタでの出来事

 

 

先日,車の整備のためにトヨタに電話予約をしました。

 

 

私は,平日の仕事が終わってから,トヨタに行きたかったので,

平日の18時30分に予約でお願いできますかと聞いたところ,

会社の働き方改革の関係で,19時までに

作業を終わらせなければならないので,

早目にきていただけませんかと言われました。

 

 

長時間残業をなくしましょうとブログで情報発信している私なので,

これは協力しなければならないと思い,17時に予約をとりました。

 

 

整備ときにトヨタの方に聞いたところ,

働き方改革で残業を減らすために,

平日にお客様に車を持ってきてもらう時間を早くしてもらうか,

休日にきてくださいとお願いしているようです。

 

 

 

ただ,お客様は,平日仕事が終わってから車を持ってきたい方が多く,

サービス業なので,お客様に対して,あまり強く要望できず,

結局,18時30分とかに車を持ってきてもらうことになり,

残業がなかなかなくならないようです。

 

 

私のように自由に働く時間を決められる仕事であればいいですが,

たいていは,定時が決まっている仕事ばかりですので,

平日の早い時間に車を持ってきてもらうのは難しいのでしょう。

 

 

あのトヨタですら,残業時間の削減に悪戦苦闘しているですから,

中小企業では,もっと大変なのかもしれません。

 

 

2 残業時間の罰則付き上限規制

 

 

しかし,中小企業も,残業時間の削減に

本気で取組まなければならなくなります。

 

 

2020年4月1日から,中小企業にも

残業時間の罰則付き上限規制が適用されるからです。

 

 

まず,会社が労働者に残業をさせるためには,

36協定を締結しなければなりません。

 

 

この36協定では,時間外労働の限度時間を1ヶ月45時間,

1年間360時間にしなければならなくなりました。

 

 

あくまでも,1ヶ月の残業は45時間までが原則なのです。

 

 

もっとも,36協定に特別条項を設けることで,

例外的に1ヶ月45時間を超えて残業させることはできます。

 

 

この特別条項については,1ヶ月100時間(休日労働を含む),

1年間720時間(休日労働を含まない)を超えて,

残業をさせてはならないことになりました。

 

 

 

そして,1ヶ月の残業が100時間を超えたり,

2ヶ月~6ヶ月の各平均の残業時間が80時間を超えた場合,

会社には6ヶ月の懲役,または,30万円以下の罰金が科せられます。

 

 

そのため,会社は,1ヶ月100時間を超える残業をさせた場合には,

刑事罰が科せられますので,残業時間を削減しなければならないのです。

 

 

この残業時間の罰則付き上限規制が,

いよいよ,中小企業にも適用されます。

 

 

3 残業時間の削減に取り組むある中小企業の紹介

 

 

先日の朝日新聞に,長時間労働をなくすための,

ある中小企業の取り組みが紹介されていました。

 

https://www.asahi.com/articles/DA3S14341664.html

 

 

モバイルファクトリーという会社の事例です。

 

 

座ったまま仕事をすると,同僚と話を続けたり,

同じ姿勢で疲れがたまって作業効率が落ちることから,

昇降式の机を導入したり,社内会議を30分以内にする

ルールを策定したりして,残業時間を削減したようです。

 

 

その結果として,労働者の生産性が向上して,

営業利益が右肩上がりに上昇して,

遂に東証1部に上場を果たしたようです。

 

 

モバイルファクトリーの代表者は,

中小企業が働き方改革をやり遂げるためには,

経営者のコミットが何よりも重要だ」とコメントしています。

 

 

中小企業もトップが本気になれば,

残業時間を削減できることを実証した素晴らしいケースです。

 

 

少しでも多くの中小企業に,

残業時間の削減に取り組んでもらいたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

時間外労働の上限規制2~36協定を締結しても超えてはならない上限~

昨日,公益社団法人全国労働基準関係団体連合会主催の

「トラブルのない明るい職場を目指す労働判例・政策セミナーin金沢」

の講師をさせていただきました。

 

 

 

3時間のセミナーだったので,準備も大変でしたし,

何よりも,3時間ずっと話すのが思いのほか大変でした。

 

 

声が枯れるし,喉も痛くなりました。

 

 

3時間のセミナーは大変でしたが,良い経験となりましたし,

何よりも,セミナーのために,

最新の裁判例や働き方改革関連法について,

たくさん勉強したので,知識が定着しました。

 

 

アウトプットを前提としたインプットをすることで,

自己成長できることを改めて実感しました。

 

 

さて,昨日に引き続き,時間外労働の上限規制の説明します。

 

 

36協定を締結しても,次の時間外労働の上限に違反した場合には,

刑事罰の対象となります。

 

 

1つ目は,1ヶ月の時間外労働(休日労働を含む)の時間数が

100時間未満を超えてはなりません(改正労働基準法36条6項2号)。

 

 

2つ目は,2ヶ月から6ヶ月の各平均時間外労働(休日労働を含む)

が80時間を超えてはなりません(改正労働基準法36条6項3号)。

 

 

時間外・休日労働の合計について,

当月を含めた直前の2ヶ月平均,3ヶ月平均,

4ヶ月平均,5ヶ月平均,6ヶ月平均の全てにおいて,

1ヶ月あたり80時間以下としなければならないのです。

 

 

例えば,12月に85時間,1月に70時間,2月に90時間

の時間外・休日労働をした場合,

12月と1月の1ヶ月当たりの平均は77.5時間,

1月と2月の1ヶ月当たりの平均は80時間となり,

80時間以下なのですが,

12月,1月,2月の1ヶ月当たりの平均は81.6時間となり,

80時間を超えるので,刑事罰の対象となります。

 

 

 

この2つの上限のいずれかに違反した場合,会社には,

懲役6ヶ月以下または30万円以下の罰金が科されます。

 

 

時間外労働の上限規制は,休日労働を含むか否かが

バラバラになっているため,非常にわかりにくいのですが,

とりあえずは,時間外労働と休日労働が1ヶ月100時間を超えるとき,

もしくは,2ヶ月から6ヶ月の各平均時間外労働と休日労働が

80時間を超えるときに,刑事罰が科せられるようになったことだけを,

まずはご理解ください。

 

 

さて,今回の労働基準法の改正により,

時間外労働の上限規制となる1ヶ月45時間までの限度時間や,

1ヶ月100時間未満の特別条項を36協定で

規定できることになりますが,留意すべき事項について,

指針が定められました。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/content/000350731.pdf

 

 

この指針には,次のことが記載されています。

 

 

労働時間の延長及び休日労働は

必要最小限にとどめられるべきであること。

 

 

会社は,36協定の範囲内で時間外労働をさせた場合であっても,

安全配慮義務を負っていること。

 

 

時間外労働・休日労働を行う業務の区分を細分化し,

業務の範囲を明確にすること。

 

 

特別条項により,1ヶ月45時間の限度時間を超えて

時間外労働をさせる場合であっても,

限度時間にできる限り近づけるように努めること。

 

 

ようするに,時間外労働は1ヶ月45時間までしか

させてはいけないのが原則であり,

その例外となる特別条項による1ヶ月45時間を超える

時間外労働は極力避けられなければならないのです。

 

 

会社としては,刑事罰を避けるために,

長時間労働をしている労働者がいる場合,

しっかりと労働時間を把握し,

1ヶ月ごとの時間外労働と

2ヶ月から6ヶ月の各平均時間外労働を記録し,

時間外労働の上限規制に違反していないかを

細かくチェックしていく必要があります。

 

 

 

その過程で,労働者の長時間労働が

是正されていくことを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

時間外労働の上限規制

本日,13時30分から,石川県女性センターにおいて,

トラブルのない明るい職場を目指す労働判例・政策セミナーin金沢

の講師をさせていただきます。

 

 

 

3時間の講義は初めてなので,準備が大変でした。

 

 

このセミナーのために,働き方改革について,今一度勉強してきました。

 

 

その勉強の過程で,重要な改正のポイントについては,

もう一度,情報発信した方がいいと思いまして,本日は,

今年4月にブログで紹介した,時間外労働の上限規制について,

改めて解説します。

 

 

労働時間規制の原則は,

1日8時間,1週間40時間です(労働基準法32条)。

 

 

会社が労働者に対して,この労働時間規制を超えて

労働させるためには,36協定を締結しなければなりません

(労働基準法36条)。

 

 

会社が36協定を締結せずに時間外労働をさせたり,

36協定で定めた労働時間を超えて時間外労働をさせた場合,

労働基準法32条違反となり,会社には,

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます

(労働基準法119条1号)。

 

 

これまでは,36協定で定める時間外労働や休日労働の時間に

上限がなかったため,36協定に

長時間労働を抑止する機能が弱かったのが現状でした。

 

 

そこで,労働基準法36条が改正されて,

36協定で定める時間外労働や休日労働の時間に

上限が設定されました。

 

 

 

まず,36協定の時間上限の1つ目は,

通常予見される時間外労働における限度時間というものです。

 

 

改正労働基準法36条3項には,

「労働時間を延長して労働させることができる時間は,

当該事業場の業務量,時間外労働の動向その他の事情を考慮して

通常予見される時間外労働の範囲内において,

限度時間を超えない時間に限る」と規定されました。

 

 

そして,改正労働基準法36条4項において,

この限度時間は,1ヶ月45時間かつ1年360時間と定められました。

 

 

ようするに,36協定で定める

時間外労働や休日労働の時間については,

原則として,1ヶ月45時間,1年で360時間

を超えてはならないことになりました

 

 

 

もっとも,この限度時間には休日労働が含まれていませんので,

会社が労働者に対して,当該月に45時間の時間外労働を命じて,

それとは別に当該月8時間の休日労働を命じても,

この限度時間の違反にはなりません。

 

 

この限度時間を超えた時間数を内容とする36協定を締結した場合,

36協定全体が無効となります。

 

 

なお,改正労働基準法36条3項の

「通常予見される時間外労働の範囲」について,

厚生労働省のリーフレットには,

受注の集中,臨時の受注,納期変更,製品不具合への対応

が記載されています。

 

https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf

 

 

次に,この限度時間の例外として,

36協定に限度時間を超える内容の

特別条項を設定できることができます。

 

 

それが,36協定の時間上限の2つ目である,

特別条項における上限です。

 

 

「当該事業場における通常予見することのできない

業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に

限度時間を超えて労働させる必要がある場合」に限定して,

休日労働を含めて1ヶ月100時間未満,

休日労働を除いて1年720時間以下

とする特別条項を36協定の内容とすることが認められました

(改正労働基準法36条5項)。

 

 

もっとも,この特別条項における上限は,

1ヶ月45時間の限度時間の例外であるので,

1ヶ月について45時間を超えることができる

月数を定めなければならず,この月数は,

1年について6ヶ月以内としなければなりません。

 

 

 

特別条項を締結するための上記の要件を満たしていない

36協定は全体として無効となります。

 

 

なお,「当該事業場における通常予見することのできない

業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に

限度時間を超えて労働させる必要がある場合」について,

厚生労働省のリーフレットには,

予算・決算業務,

ボーナス商戦に伴う業務の繁忙,

納期のひっ迫,

大規模なクレームへの対応,

機械のトラブルへの対応

と記載されていますが,個人的には,

予算,決算,ボーナス商戦については,

通常予見することができるのではないかと思います。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

フレックスタイム制の精算期間の延長

昨日は,フレックスタイム制の概要について説明しましたので,

本日は,働き方改革でフレックスタイム制が

どのように改正されたのかについて解説します。

 

 

 

今回の働き方改革によって,フレックスタイム制の精算期間が

1ヶ月以内から3ヶ月以内に延長されました。

 

 

精算期間とは,フレックスタイム制の適用の単位となる期間であり,

この期間に対して,労働者が労働すべき時間(総労働時間)

を定めることになります。

 

 

改正前であれば,精算期間が1ヶ月以内だったので,

使用者は,1ヶ月ごとに,実労働時間が総労働時間を超過した場合には,

超過時間分に応じた残業代を支払う必要があり,

実労働時間が総労働時間よりも少ない時間ですんだ場合には,

賃金控除される可能性がありました。

 

 

今回の改正によって,精算期間が3ヶ月以内に延長されたことで,

例えば6月から8月に精算期間が設定された場合,

6月に長く働いた分,総労働時間を満たす限り,

8月に短く働くことができるようになります。

 

 

6月に長く働いた時間と8月に短く働いた時間とを相殺して,

6月に残業代が支払われない代わりに,

8月に賃金控除をしないという調整が可能となります。

 

 

もっとも,実労働時間は,仕事の量に左右され,

労働者には,仕事量を調整する権限が与えられていないことが多く,

労働者が6月に長く働き,8月に短く働こうとしても,

8月の仕事量の軽減がなければ,

結局,8月も長く働かなければならなくなります。

 

 

その結果,全体として長時間労働なり,

フレックスタイム制の目的である

仕事と生活の調和が実現できないことになります。

 

 

 

さて,1ヶ月を超える精算期間を設定した場合,

所轄の労働基準監督署に労使協定の届出が必要となり,

1ヶ月あたりの実労働時間が週平均50時間を超えた場合には,

総労働時間にかかわらず,時間外労働に該当し,

36協定の締結と届出が必要となり,

精算期間の途中であっても,

各月の賃金支払日に残業代を支払うことが,

会社に義務付けられています。

 

 

例えば,精算期間を6月から8月とし,

総労働時間を525時間として,

6月に250時間,7月に200時間,8月に75時間

働いた場合,3ヶ月間の実労働時間は525時間であり,

総労働時間の枠内におさまっています。

 

 

しかし,6月の週平均労働時間は,

250時間÷30日×7日=58.33時間となり,

週平均50時間を超えています。

 

 

6月の法定労働時間の総枠は,

50時間×30日÷7日=214.2時間であり,

6月の実労働時間は,250時間であり,

250時間-214.2時間=35.8時間について,

6月分の給料の支給日に残業代が支払われなければなりません。

 

 

おそらく,精算期間を3ヶ月に延長した場合,

残業代の計算が複雑になります。

 

 

労働者は,フレックスタイム制が適用されても,

長時間労働であれば,残業代が請求できることを覚えておいてください。

 

 

今回の改正で,精算期間が

1ヶ月以内から3ヶ月以内に延長されましたが,

労働者は,始業時刻と終業時刻をコントロールできても,

仕事量をコントロールできないので,

長時間労働に陥る危険があります。

 

 

 

そのため,労働者としては,会社から

フレックスタイム制の精算期間の延長を提案されても,

無理に応じないようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

フレックスタイム制とは

8月2日金曜日に石川県女性センターで開催される,

トラブルのない明るい職場を目指す労働判例・政策セミナーin金沢

で講師をさせていただくことになりましたので,

2018年6月に成立し,2019年4月から逐次施行されている,

働き方改革関連法について,今一度勉強をしております。

 

 

 

現在,準備のラストスパートに突入しており,

もう少しで,当日配布するレジュメが完成しそうです。

 

 

今回は,フレックスタイム制の改正について説明します。

 

 

まずは,フレックスタイム制の改正の説明をする前提として,

フレックスタイム制がどのようなものかについて説明します。

 

 

フレックスタイム制とは,労働者が労使協定によって定められた

単位期間(精算期間)内に一定時間数(総労働時間)労働することを

条件に,自己の選択する時刻に労働を開始し,

終了することができる制度です。

 

 

 

1日8時間,1週間40時間の法定労働時間の規制を受けない

変形労働時間制の1つです。

 

 

通常,出勤時刻と退社時刻は,会社が指示するものですが,

フレックスタイム制では,出勤時刻と退社時刻を

労働者が自由に決定できるのです。

 

 

フレックスタイム制では,労働者が出勤時刻と退社時刻時刻を

自由に決定できないように,会社が時刻を指定して

業務命令を出すことはできないのです。

 

 

労働者の生活と業務の調和を図りながら,

効率的に働くことにより労働時間を短縮することを

目的として導入されました。

 

 

もっとも,フレックスタイム制を導入したからといって,

必ずしも労働時間の短縮に結びつくものではありません。

 

 

労働時間は,基本的に業務量に左右されるので,

業務量が同じであれば労働時間も同じままであり,

出勤時刻と退社時刻を労働者が自由に決められるだけで,

業務量が変わらないのであれば,

労働時間の短縮にはつながらないのです。

 

 

もともとの所定労働時間帯の中に,

業務がないのに拘束されていた無駄な時間があれば,

その時間を短縮して,労働時間を短縮できることになるのです。

 

 

 

フレックスタイム制では,精算期間というものを

労使協定で定める必要があります。

 

 

精算期間とは,フレックスタイム制適用の単位となる期間であり,

この期間に対して労働者が労働すべき総所定労働時間(契約時間)

を定めることになります。

 

 

精算期間における実労働時間と契約時間を比較し,

実労働時間が契約時間を上回れば,

その実労働時間に応じた賃金を

精算期間の賃金支払日に支払わなければなりません。

 

 

精算期間の精算とは,実労働時間と契約時間とを

精算するという意味なのです。

 

 

精算期間における契約時間は,精算期間をつうじて

1週間あたりの平均が法定労働時間である

40時間以下でなければなりません。

 

 

精算期間が1ヶ月の場合の契約時間の上限は,次のように計算されます。

 

 

週法定労働時間(40時間)×(1ヶ月の総日数/7日)

 

 

1ヶ月31日の月は177.4時間,

1ヶ月30日の月は171.42時間となり,

この法定労働時間を超えて労働した場合には,

労働基準法37条に基づき,

25%以上の残業代を請求できます。

 

 

 

例えば,精算期間1ヶ月で30日,

法定労働時間171.42時間,

契約時間150時間,

実労働時間200時間

のケースで考えてみましょう。

 

 

171.42時間-150時間=21.42時間については,

法内残業として,就業規則所定の残業代を請求できます。

 

 

200時間-171.42時間=28.58時間については,

法外残業として,労働基準法37条に基づき

25%以上の残業代を請求できます。

 

 

これまでは,フレックスタイム制の精算期間の上限が

1ヶ月以内とされていたのですが,今回の働き方改革によって,

精算期間の上限が3ヶ月以内に延長されました。

 

 

この精算期間の延長によって,規制も変化しました。

 

 

長くなりましたので,フレックスタイム制の改正の

ポイントの解説は,明日以降に行います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

1ヶ月60時間を超える残業の割増率と代替休暇制度

8月2日金曜日に石川県女性センターで開催される,

トラブルのない明るい職場を目指す労働判例・政策セミナーin金沢

で講師をさせていただくことになりましたので,

2018年6月に成立し,2019年4月から逐次施行されている,

働き方改革関連法について,今一度勉強をしております。

 

 

 

本日は,その勉強のアウトプットとして,

働き方改革のうちの1ヶ月60時間を超える

残業に対する割増率について解説します。

 

 

労働基準法37条1項但書には,

「当該延長して労働させた時間が1ヶ月について

60時間を超えた場合においては,

その超えた時間の労働については,

通常の労働時間の賃金の計算額の

五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」

と規定されています。

 

 

労働者が1ヶ月60時間を超える残業をした場合,

会社から50%以上の残業代が支払われなければならないのです。

 

 

もっとも,この60時間超の残業の割増率は,

中小企業については,当分の間,適用が猶予されてきました。

 

 

残業代の割増率が50%以上になれば,

人件費が高騰して,中小企業の経営が苦しくなるからだと思います。

 

 

ところが,今回の働き方改革によって,

中小企業の1ヶ月60時間を超える残業の

割増率の適用猶予が廃止され,2023年4月1日から,

中小企業にも,1ヶ月60時間を超える残業に対して,

50%以上の割増率が適用されます。

 

 

これは,長時間労働に対しては,残業代の割増率を増加させて,

会社に対して,高額な残業代を支払わせることで,

長時間労働を抑制していこうという趣旨なのだと思います。

 

 

 

中小企業にも1ヶ月60時間を超える残業の割増率が

50%以上になれば,労働基準法37条3項に規定されている

代替休暇制度を導入する会社が現れてくることが予想されます。

 

 

代替休暇制度とは,1ヶ月60時間超の残業代の支払いに代えて,

年次有給休暇とは別に有給休暇を付与することで,

従来からの25%増しの残業代を超える部分についての

残業代を支払う必要がなくなるという制度です。

 

 

もともと,1日8時間,1週間40時間を超えて働いた場合には,

25%増しの残業代が支払われるのですが,

代替休暇制度が適用されれば,

1ヶ月60時間を超える残業の場合,

50%増しのうち,60時間を超えた追加の25%増しについて,

代替休暇を付与し,従来の25%増しについて,

残業代を支払わなければなりません。

 

 

ここでのポイントは,代替休暇制度を利用しても,

従来からの25%部分については,

必ず残業代を支払わなければならないことです。

 

 

例えば,1ヶ月60時間を超える残業の割増率が50%で,

代替休暇を取得した場合に支払われる残業代の割増率が25%で,

1ヶ月80時間の残業をした場合,次のように,

代替休暇の時間数を計算します。

 

 

(80時間-60時間)×(50%-25%)=5時間

 

 

代替休暇制度を導入すれば,会社は,

労働者に1ヶ月80時間残業させても,

60時間を超える20時間分について,

5時間の有給休暇を付与すれば,

20時間分の25%増しの残業代を支払わなくてもよくなり,

80時間分の25%増しの残業代を支払えばよいことになります。

 

 

 

80時間という過労死ラインで働いても,

5時間分の有給休暇しかもらえないのでは,

1日休むことができないので,労働者としては,

80時間のうち,60時間を超える20時間分について,

50%増しの残業代を受け取った方が得かもしれません。

 

 

この代替休暇制度を導入するためには,会社は,

過半数労働組合若しくは過半数の労働者の代表者との間で,

労使協定を締結しなければなりませんので,労働者としては,

代替休暇制度の導入には,慎重に対処したほうがいいかもしれません。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働時間把握義務と医師の面接指導

先日,労働安全衛生法が改正されて,

労働時間把握義務が法律で明記されたことについて記載しました。

 

 

本日は,具体的な労働時間の把握の方法について,記載します。

 

 

会社は,「タイムカードによる記録,

パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の

客観的な方法その他の方法」により,

労働時間を把握しなければなりません。

 

 

原則として,タイムカードの打刻時間,

パソコンの使用時間(ログインからログオフまでの時間)などの

機械的に記録されるもので労働時間を把握しなければなりません。

 

 

 

これ以外の労働時間の把握方法として,

「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」に,

「その他の方法」として,

労働者の自己申告制による方法があげられています。

 

 

ここで,「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」とは,

通達では,労働者が事業場外において行う業務に直行または直帰する場合

が例示としてあげられています。

 

 

しかし,通信機器が発達した現代において,

パソコンやスマートフォンを用いた業務遂行がほぼ不可欠であり,

客観的な方法により労働時間が把握できないことは考えにくく,

自己申告制が認められるのは極めて例外的な場合に限られると考えられます。

 

 

 

通達では,直行直帰が例示であげられていますが,

事業場外から社内システムにアクセスすることが可能であり,

客観的な方法で労働時間を把握できる場合には,

直行直帰であることのみを理由として,

自己申告制にすることはできません。

 

 

また,自己申告制の場合であっても,会社は,

自己申告の労働時間と実際の労働時間が合致しているかについて,

必要に応じて実態調査をすることなどの措置を講ずる必要があります。

 

 

以上の労働時間把握義務を会社が実施したとして,

休憩時間を除き,1週間あたり40時間を超えて

労働させた場合におけるその超えた時間が

1ヶ月80時間を超え,かつ,疲労の蓄積が認められる労働者に対して,

会社は,労働者の申出があれば,

医師による面接指導を行わなければなりません

(労働安全衛生法66条の8)。

 

 

 

会社は,1週間あたり40時間を超えた時間の算定を,

毎月1回以上,一定の期日を定めて行わなければならず,

時間外労働が1ヶ月80時間を超えた労働者に対し,

その超えた時間の情報を通知しなければならないのです。

 

 

労働者に時間外労働に関する情報を提供して,

労働者の医師との面接指導の申出がされやすくなるようにしたのです。

 

 

会社が,医師による面接指導を怠ったり,

労働者に対して,時間外労働に関する情報提供を行わず,

労働者に面接指導を受ける機会を失わせたりした場合には,

会社には,安全配慮義務違反が認められる可能性が高くなります。

 

 

このように,労働時間把握義務が法律で明記されましたので,

労働者としては,会社が労働時間を把握していないなら,

労働時間を把握すべきと主張すべきですし,

長時間労働が継続して疲労が蓄積したならば,

医師の面接指導を受けるようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働時間把握義務が法律で明記されました

8月2日金曜日に石川県女性センターで開催される,

「トラブルのない明るい職場を目指す労働判例・政策セミナーin金沢」

で講師をさせていただくことになりましたので,

2018年6月に成立し,2019年4月から逐次施行されている,

働き方改革関連法について,今一度勉強をしております。

 

 

 

勉強したことをアウトプットしないと,

知識として定着しませんので,

働き方改革関連法について勉強したことを

順次アウトプットしていきます。

 

 

本日は,労働時間把握義務が法律で明記されたことについて解説します。

 

 

未払残業代請求や過労死・過労自殺の労災申請においては,

労働時間をどうやって証明するのかが大変重要になります。

 

 

労働者が労働時間を証明できないと,

未払残業代を計算することができませんし,

過労死・過労自殺の原因である長時間労働を明らかにすることができず,

労働者が救済されないことがあります。

 

 

そのため,会社が,労務管理として,

労働者が,いつの日に何時から何時まで働いたのかという

記録を残しておくことが重要になります。

 

 

 

ところが,これまでは,会社の労働時間把握義務が,

法律の条文で明確に規定されていたわけではなく,

具体的な労働時間把握の方法についても,

厚生労働省の通達

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」

(平成13年4月6日基発339号),

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」

(平成29年1月20日基発0120第3号)

が示されているだけでした。

 

 

そして,これらの通達では,

事業場外みなし労働時間制や裁量労働制が適用される労働者や

管理監督者は対象外とされていました。

 

 

今回,労働安全衛生法が改正されて,

労働安全衛生法66条の8の3という条文が新設されて,

会社は,労働者の労働時間の状況を把握しなければならない,

と法律で明記されました。

 

 

労働時間把握義務違反に対する罰則がないという点が

不十分ではありますが,会社の法的義務として

法律の条文に明確化されたことは大いに活用できると思います。

 

 

会社は,労働時間把握義務を負っているのですから,

今後は,会社に対して,タイムカードなどの

資料の開示を求めやすくなりますし,

会社が労働時間把握義務を怠った場合に,

労働者が主張する労働時間が認められやすくなったり,

一定の期間の労働時間の資料をもとに

平均的な残業代の計算が認められやすくなることが期待できます。

 

 

そして,今回の改正で,労働時間把握義務の対象となる労働者は,

高度プロフェッショナル制度が適用される労働者を除き,

①研究開発業務従事者,

②事業場外みなし労働時間制の適用労働者,

③裁量労働制の適用労働者,

④管理監督者,

⑤派遣労働者,

⑥短時間労働者,

⑦有期契約労働者

を含めた全ての労働者です。

 

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

勤務間インターバル制度の努力義務が始まります

先日,東京で高校時代の同級生と同窓会を開催しました。

 

 

皆さん,それぞれの職場で活躍しているようで,

大変よい刺激を受けました。

 

 

この同窓会で,働き方改革が話題になりました。

 

 

働き方改革関連法には,高度プロフェッショナル制度

という悪法も含まれてはいるものの,

働き方改革」というキーワードが世の中に浸透し,

自分の働き方を見直し,よりよい生活を実現していこう

と考える人が増えていくことは良いことだなぁと感じました。

 

 

 

 

他方,残念なニュースもあります。

 

 

JAXA筑波宇宙センターで人工衛星の管制業務をしていた男性が,

約16時間連続勤務を含む深夜労働が常態化していた等として,

過労自殺が労災認定されました。

 

 

また,東京都福生市の男性消防士が過重労働が原因で自殺したとして,

地方公務員災害補償基金の公務災害とは認定しなかった

行政処分が取り消された判決が出たり,

北海道の民間シンクタンクの男性研究員が過重労働でうつ病を

発症したとして,損害賠償請求が認められる判決が出されています。

 

 

働き方改革が叫ばれている現状においても,過重労働によって,

過労死や過労自殺に追い込まれる労働者があとを絶ちません。

 

 

 

 

このような過労死や過労自殺対策の切り札

と言われているのが,勤務間インターバル制度です。

 

 

勤務間インターバル制度とは,勤務終了後,

一定時間以上の休息時間を設けて,

労働者の生活時間や睡眠時間を確保するという制度です。

 

 

勤務と勤務の間に十分な休息時間がなければ,

適切な睡眠時間が確保できずに疲労が蓄積したり,

家族との団らんの時間がとれなくなって人生の質がおちる

などの弊害が生じます。

 

 

一定の休息時間を確保することで,労働者が

十分な生活時間や睡眠時間を確保できて,

ワークライフバランスを保ちながら働き続けることができるのです。

 

 

例えば,所定労働時間の始業時刻が8時30分で

終業時刻が17時30分の会社で働く労働者が,

残業によって終業時刻が22時となった場合で考えてみます。

 

 

通常であれば,前日の終業時刻が何時であっても,

翌日は決められた所定労働時間の始業時刻である

8時30分に出勤しなければならないのですが,

11時間の勤務間インターバル制度が導入されれば,

翌日の始業時刻は9時からとなります。

 

 

今回の働き方改革関連法の中では,

労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」が改正されて,事業主は,

健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定

を講じるように努めなければならないと規定されました。

 

 

 

 

これは,努力義務というもので,事業主は,

勤務間インターバル制度を導入しなくても

法律違反に問われることはなく,あくまでも,

勤務間インターバル制度を導入するように

努力していきましょうというものです。

 

 

この他にも,事業主は,他の事業主との取引を行う場合において,

著しく短い期限の設定及び発注の内容の頻繁な変更を行わない

ように必要な配慮をするように努めなければならないとされました。

 

 

取引先の労働時間の改善に協力して,

社会全体で働き方を見直していこうというものです。

 

 

もっとも,勤務間インターバル制度の導入は,

努力義務とされているので,厚生労働省の

平成29年就労条件総合調査では,

勤務間インターバル制度を導入していると回答した

企業の割合は1.4%と,まだまだ低調です。

 

 

勤務間インターバル制度の努力義務は,

2019年4月1日から施行されましたので,

過労死や過労自殺を防止し,

ワークライフバランスを実現していくためにも,

勤務間インターバル制度は効果的ですので,

導入する企業が増えていくことを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。