テレワークの場合は給料を減額すると言われたときの対処法

1 新型コロナウイルス関連の労働相談が増えています

 

 

4月6日に石川県で実施した日本労働弁護団主催の

新型コロナウイルス労働問題ホットラインの後も,

私のもとには断続的に電話での相談があります。

 

 

緊急事態宣言がだされ,新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない今,

多くの労働者が困っていることがわかります。

 

 

やはり,賃金に関する相談が多いです。

 

 

2 テレワークの場合に会社は給料を減額できるのか

 

 

その中で,会社からテレワークを命令されて,

給料を減額すると言われたという相談がありました。

 

 

 

この会社の給料減額は違法と考えられます。

 

 

まず,テレワークは,就業場所を会社ではなく,

自宅とするものであり,労働者は,休んでいるのではなく,

自宅で働いているので,会社は,テレワークをした労働者に対して,

今までどおりの給料を支払わなければなりません。

 

 

テレワークに関して,会社が給料を減額できるのは,

次の2点が考えられます。

 

 

①労働者との合意に基づく給料減額

 

 

 ②就業規則の変更による給料減額

 

 

3 合意による不利益変更

 

 

①について,会社が労働者に対して,テレワークの場合には,

給料を減額することを提案し,労働者がこれを了承すれば,

給料減額について,労使の合意があったとして,

給料減額は有効になる可能性があります。

 

 

もっとも,給料減額のように労働者の労働条件を不利益に変更する場合,

労働者の同意については,「労働者の自由な意思に基づいてされたもの

と認めるに足る合理的な理由が客観的に存在する」ことが必要なので,

そう簡単には同意は認められません。

 

 

労働者としては,給料減額に応じたくないなら,

同意をしなければいいのです。

 

 

断固として拒否してください。

 

4 就業規則の不利益変更

 

 

②について,おそらく,多くの会社では,

テレワークの場合には給料を減額するという

就業規則の条項を設けているところはないと思いますので,

今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて,

就業規則の内容を変更することが考えられます。

 

 

しかし,就業規則を労働者に不利益に変更するためには,

①労働者の受ける不利益の程度,

②労働条件の変更の必要性,

③変更後の就業規則の内容の相当性,

④労働組合などとの交渉の状況,

⑤その他の就業規則の変更に係る事情,

を総合考慮して,合理的といえなければなりません。

 

 

テレワークの給料減額にあてはめますと,

①自宅でも会社と同じように働いているのに給料が減額されるのでは,

労働者の被る不利益は大きいです。

 

 

特に,10%を上回るような賃金減額は,

相当に大きな不利益と考えられます。

 

 

そのため,新型コロナウイルスの感染拡大で

会社の経営状況が危機的となっていないのであれば,

②労働条件の変更の必要性があるとはいえず,

テレワークによる給料減額を内容とする就業規則の変更は無効になります。

 

 

 

就業規則を不利益に変更されたかについては,

会社は変更した就業規則を労働者に周知しなければならないので,

労働者は,周知された就業規則をよく確認してください。

 

 

まとめますと,会社からテレワークを命令されて,

給料を減額すると言われても,応じる必要はなく,

給料の満額を請求してください。

 

 

もし,テレワークをして給料の満額を会社が支払わない場合,

弁護士や労働基準監督署に相談して,アドバイスを求めてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

突然会社から給料を引き下げられたときの対処法

1 突然給料が引き下げられました

 

 

給料を突然下げられましたという,

労働相談を受けることがあります。

 

 

 

酷い案件ですと,給料が半分以下になった

というケースもあります。

 

 

労働者は,会社からもらう給料を生活の糧としているので,

生活の原資である給料が突然引き下げられると,本当に困ります。

 

 

本日は,給料を引き下げられたときの初動の対応について,解説します。

 

 

2 給料引き下げの根拠を探る

 

 

結論を先に申しますと,給料を引き下げられたときには,会社は,

何を根拠に給料を引き下げてきたのかを明らかにすることが重要になります。

 

 

そもそも,給料の引き下げを含む労働条件の不利益な変更については,

法的根拠がなければできないのです。

 

 

ここでいう法的根拠としては,次の4つがあります。

 

 

①不利益変更についての労働者との個別同意

 

 

②就業規則の不利益変更

 

 

③新たな労働協約の締結による不利益変更

 

 

④労働契約や就業規則で使用者に委ねられた

労働条件の決定・変更権限の行使によるもの

 

 

この④は,具体的には,

(ア)降格に伴い賃金が減額されるもの,

(イ)職務内容の変更を伴う配転などに伴って行われるもの,

(ウ)個別的な査定などに基づき賃金を引き下げるもの

などがあります。

 

 

これら①~④の法的根拠がないにもかかわらず,

会社が一方的に労働条件を不利益に変更しても,

当然に無効になるのです。

 

 

3 法的根拠のない給料引き下げは無効

 

 

このことを明らかにした裁判例として,

住吉神社ほか事件の福岡地裁平成27年11月11日判決があります

(労働判例1152号69頁)。

 

 

この事件では,神社で働いていた労働者の給料が

2度にわたって減額されたのですが,

個別の同意や労働契約上の法的根拠もなしに,

賃金を減額することは許されないと判断されました。

 

 

 

被告の神社は,原告労働者の能力不足や職務怠慢を根拠に

給料を減額したと主張していましたが,

労働契約や就業規則に,能力不足や職務怠慢を理由に

給料を減額できるという法的根拠がなく,

被告の神社の主張は認められませんでした。

 

 

なお,この事件では,被告神社の宮司からの

パワハラも争点となっており,宮司は,原告労働者に対して,

「たった一人の腐ったみかんがあったら全部が腐ってしまうんだよ」,

「根性焼きしようか,お前」,「給料泥棒」,

「大人だけど中身は幼稚園児だよ」

などの暴言をはき,暴力もふるいました。

 

 

酷いパワハラをする宮司がいるものですね。

 

 

パワハラについては,慰謝料100万円が認められました。

 

 

パワハラに脱線しましたが,この裁判例からも分かるとおり,

給料の引き下げについては,労働契約や就業規則に,

給料を引き下げることの法的根拠がないのであれば,当然に無効になり,

労働者は,引き下げられる前の給料を会社に請求できます。

 

 

そのため,突然,会社から給料を引き下げられたら,

労働契約書と就業規則を確認して,

給料を引き下げるための法的根拠があるのかを

よくチェックしてみてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ドトールコーヒーの休日を減少させる就業規則の不利益変更

朝日新聞の報道によりますと,ドトールコーヒーが,

就業規則を変更し,会社の休日を暦の土日祝日などに関わらず,

年間119日に固定し,これ以上休む場合には,

有給休暇を使うように労働者に奨励しているようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASMB445ZSM9XULFA00F.html

 

 

これまでは,暦の土日祝日,年末年始(12月31日~1月3日)が

会社の休日で,年間126~127日ほどの休日があったのですが,

休日が年間119日に固定される結果,

年間7~8日ほど休日が減少してしまうようです。

 

 

 

今年は,ゴールデンウィークで暦の祝日が多かったり,

即位の儀式の日が祝日になったりと,休日が多かったことから,

ドトールコーヒーとしては,祝日が多い年であっても,

業務遂行上,例年並みの日数を労働者に働いてもらいたくて,

このように休日を固定したようです。

 

 

本日は,この休日の減少の問題について解説します。

 

 

まず,労働基準法35条1項により,会社は,労働者に対して,

毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないとされています。

 

 

そのため,1週間に1回休日があれば,

とりあえずは労働基準法違反にならないわけです。

 

 

また,労働基準法32条により,会社は,

1週間に40時間以上労働させてはならないことになっており,

1日の労働時間が8時間なので,多くの会社は,

土曜日と日曜日休みとする週休二日制としているのです。

 

 

ようするに,暦どおりの休日にしていれば,

労働基準法違反にならないので,

多くの会社は暦どおりの休日にしているだけであり,

日曜日や祝日を休日としなければならないという

労働基準法の義務はないのです。

 

 

この労働基準法32条と35条に違反しないのであれば,

休日をいつにするかは,会社と労働者の合意で決まります。

 

 

労働基準法89条1号により,就業規則に休日について

記載しなければならないので,

いつが会社の休日になるのかについては,

通常は,就業規則に記載されています。

 

 

 

そして,休日が減少することは,労働者にとって不利益なことですので,

会社は,不利益を被る労働者が休日の減少に合意するか,

労働契約法10条に規定されている

就業規則の不利益変更の要件を満たす必要があります。

 

 

就業規則を変更することで,労働条件を不利益に変更するためには,

①労働者の受ける不利益の程度,

②労働条件の変更の必要性,

③変更後の就業規則の内容の相当性,

④労働組合等との交渉の状況

などの要件が総合考慮されます。

 

 

ドトールコーヒーの事例の場合,①休日が減少するのですが,

有給休暇を取得することで暦どおりに休めることから,

賃金が減額されるときに比べて労働者の受ける不利益は

そこまで大きくはないと裁判所は判断するかもしれません。

 

 

もっとも,②休日を減少させなければならないほどの

業務上の必要性がどこまであるのか不明ですし,

③休日を減少させる代わりに他の労働条件を改善するなどの

代替措置を導入する必要があり,

④労働組合等に対してしっかりと説明していなければなりません。

 

 

そのため,事情によっては,ドトールコーヒーの休日を減少させる

就業規則の変更は,労働契約法10条の要件を満たしていないとして

無効になる可能性があるかもしれません。

 

 

働き方改革で,1年間に年次有給休暇を5日取得させることが

義務となり,労働者をなるべく休ませる方向に

時代の流れが動いている状況なので,私個人としては,

休日を減少させる就業規則の不利益変更に違和感を覚えています。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働条件を変更するための合意とは3~契約期間の変更~

会社から詳しい説明がないまま,

会社から提示された書面にサインしないと,

解雇されると思い,サインしたところ,

正社員から契約期間の区切られた

非正規雇用労働者に変更させられてしまいました。

 

 

 

このようなケースの場合,労働者は,

正社員である無期労働契約から,

非正規雇用労働者である有期労働契約へ

変更することについて,合意があったと

認められるのでしょうか。

 

 

本日は,無期労働契約から有期労働契約に

労働条件を不利益に変更されたことについての

労働者の合意について判断された

社会福祉法人佳徳会事件を紹介します

(熊本地裁平成30年2月20日判決・

労働判例1193号52頁)。

 

 

この事件では,争点がたくさんあるのですが,

労働条件の変更の合意について解説します。

 

 

労働契約法8条により,労働者の合意があれば,

労働条件を変更することができます。

 

 

しかし,労働者は,会社の指揮命令に服する立場にあるので,

会社から労働条件の変更の提案を受けても拒否しにくいのです。

 

 

また,会社から労働条件を変更する理由の説明を受けても,

会社が情報を一方的ににぎっていることが多く,労働者は,

自分の力で情報収集するのにも限界があり,

適切な判断をしにくい状況にあります。

 

 

そのため,労働者が形式的に労働条件の変更に合意していても,

労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には,

労働者の合意は慎重に判断されます。

 

 

山梨県民信用組合事件の平成28年2月19日判決は,

当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,

労働者により当該行為がされるに至った経緯及び態様,

当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,

当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる

合理的な理由が客観的に存在するか否か

という観点からも,判断されるべき」としました。

 

 

 

 

そして,期間の定めのない無期労働契約であれば,

労働者は解雇されない限り,雇用が維持されるのに対し,

期間の定めのある有期労働契約であれば,

原則として期間満了で労働契約が終了し,

例外的に労働契約法19条の要件を満たす場合に,

契約が更新される可能性があるという相違があり,

契約の安定性に大きな相違があります。

 

 

そのため,無期労働契約から有期労働契約へ

労働条件を変更する場合にも,

山梨県民信用組合事件の最高裁判決が示した

上記の基準に従って判断することになります。

 

 

本件事件では,原告の労働者は,期間の定めのある

労働条件通知書にサインをしていましたが,

個別面談における説明が極めて短時間であり,

不利益の内容についての説明が十分に行われていないこと,

原告の労働者がサインしなければ解雇されると思ったので,

サインしたと認められることから,自由な意思に基づいて

されたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しない

として,無期労働契約から有期労働契約へ労働条件を

変更することについて原告の合意はなかったと認定されました。

 

 

その結果,原告は,正社員のままとなり,

原告に対する解雇は無効となりました。

 

 

さらに,本件事件では,原告が体調不良で自宅で休んでいたときに,

被告の代表者が自宅を訪問して,解雇を通告し,

原告は保育士であったのですが,園児や保護者の

目に触れる場所である保育園の玄関に貼ってる

職員一覧に原告が解雇されたと記載していたことから,

解雇の態様が悪質であると判断されました。

 

 

 

 

原告は,被告の行為により,本件保育園で保育士として

勤務する希望を絶たれ,長期間不安定な地位に置かれていたことから,

慰謝料30万円が認められました。

 

 

解雇が無効となり,未払賃金が支払われることになれば,

解雇を理由とする慰謝料請求は認められない傾向にあるのですが,

解雇の態様が悪質な場合には,慰謝料請求も認められる余地があるのです。

 

 

労働契約の期間を無期から有期に変更する場合の

労働者の合意を慎重に判断することは,

労働者にとって有利な判断ですので,紹介しました。

 

 

労働条件の変更に納得がいない場合には,

弁護士に早目に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働条件を変更するための合意とは2~山梨県民信用組合事件~

会社から,賃金や退職金などの重要な労働条件を,

労働者にとって不利益に変更することに合意を求められた場合,

労働者はどうすればいいのでしょうか。

 

 

労働契約法8条により,労働条件を変更するためには,

労働者と会社の合意が必要になりますので,

労働条件の変更に納得できないのであれば,

労働者は,合意しなければいいのです。

 

 

しかし,会社から合意を求められて,これを拒否し続けると,

会社から冷遇されるのではないかと恐れてしまい,

労働者が合意しないというのは,なかなか大変なことです。

 

 

 

また,会社から,きちんとした説明がなく,

なんとなく合意してしまうというケースもあると思います。

 

 

労働者が自分に不利益な労働条件の変更に合意してしまった場合,

この合意を争うことはできないのでしょうか。

 

 

本日は,合意による労働条件の変更が争われた,

山梨県民信用組合事件を紹介します

(最高裁平成28年2月19日判決・労働判例1136号6頁)。

 

 

この事件では,信用組合の合併に際して,

退職金が大幅に削減されたのですが,労働者は,

退職金の大幅な削減に合意したのかが争点となりました。

 

 

事案が複雑なので,簡単に説明しますと,

信用組合の合併により,退職金の総額を従前の2分の1以下として,

さらに,退職金総額から厚生年金給付額及び企業年金還付額が

控除されることとなり,結果として退職金額が

0円となってしまったのです。

 

 

 

 

通常であれば,退職金が0円になるのであれば,

労働者は,そのような不利益な変更に合意しないのですが,

本件事件では,会社側から,退職金の変更に合意しないと,

合併を実現することができないなどと説明を受けていたため,

原告ら労働者は,同意書に署名押印してしまいました。

 

 

その後,原告ら労働者は,合併前の退職金規程に基づく

退職金の支払いを求めて裁判を起こしました。

 

 

最高裁は,労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合,

労働者が変更を受け入れる行為をしていても,

労働者が会社から使用されて指揮命令に服すべき立場に置かれており,

自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることから,

直ちに労働者の合意があったとみるのではなく,

労働者の合意については慎重に判断するべきであるとしました。

 

 

そして,「当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,

労働者により当該行為がされるに至った経緯及び態様,

当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,

当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる

合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,

判断されるべき」としました。

 

 

ようするに,労働者は,会社に比べて立場が弱く,

情報量が少ないので,労働者が自分にとって

不利益な労働条件の変更に合意していても,

その合意が有効となるかは,

慎重に判断されるということです。

 

 

 

本件事件では,合併による退職金の変更により,

自己都合退職の場合には退職金が0円になる可能性が高くなる

といった具体的な不利益の内容や程度について,

会社からの情報提供や説明が不十分であったとして,

最高裁は,高裁に審理を差し戻しました。

 

 

賃金や退職金が労働者に不利益に変更される場合で,

会社から,どれだけの金額が削減されるのかといった説明が

なされないまま,労働者が,不利益な労働条件の変更に合意しても,

その合意は成立していないと判断される可能性があります。

 

 

そのため,労働条件の不利益変更に合意してしまっても,

納得できない場合には,会社からの説明の状況や不利益の大きさ

を検討して,まだ争うことができるかを見極める必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働条件を変更するための合意とは?

昨日に引き続き,労働条件を変更するための

合意について説明します。

 

 

本日は,合意による労働条件の変更が争われた

宮の森カントリー倶楽部事件を紹介します

(東京高裁平成20年3月25日判決・労働判例959号61頁)。

 

 

この事件では,被告会社が,ゴルフ場でキャディ

として働いていた労働者に対して,

正社員から雇用期間を1年間とする契約社員となること,

賃金について,基本給及び諸手当の大半が廃止されて,

ラウンドに出る場合に支払われるラウンド手当を中心とした

賃金に変更され,退職金が廃止され,

生理休暇が無給になることの説明を口頭でしました。

 

 

 

この説明の際,社長が事前に作成したメモに基づき

数分間の説明をして,その後,

部長による個別面談が行われましたが,

資料が交付されることはありませんでした。

 

 

キャディが,毎月の賃金がいくらになるのか,

雇用期間の1年が経過したら労働契約はどうなるのか,

といった質問をしても明確な回答がありませんでした。

 

 

その後,原告のキャディ達は,キャディ契約書を提出しましたが,

労働条件が不利益に変更されることに合意していないとして,

従前の労働条件の地位を確認するための裁判を起こしました。

 

 

労働契約法8条により,労働条件を変更するには,

労働者と使用者の合意が必要になりますので,

原告のキャディ達と被告会社との間で,

労働条件を変更することの合意が成立したかが争点となりました。

 

 

 

 

会社からの説明は,正社員から雇用期間1年の契約社員に変更すること,

賃金体系の変更による賃金の減額,退職金の廃止,

生理休暇の無給化など内容が多岐にわたっており,

数分間の社長の説明や個別面談での口頭説明によって,

その全体と詳細を理解して記憶に留めることは到底不可能です。

 

 

また,キャディ契約書には,賃金については

会社との契約金額とするという程度の記載しかなく,

いくらの金額となるのか不明な記載となっており,

原告らキャディが賃金がいくらになるのか質問しても

明確な回答がされておらず,キャディ契約書の提出が

契約締結を意味するという説明もありませんでした。

 

 

そのため,裁判所は,以上の事実を考慮して,

原告らキャディと被告会社との間に,

労働条件を変更する合意が成立したとは

認められないと判断しました。

 

 

次に,労働者と使用者による労働条件の変更について

合意がなくても,就業規則を合理的に変更して,

労働条件を変更することが可能です。

 

 

もっとも,就業規則の変更によって,労働条件を変更するには,

①労働者の受ける不利益の程度,

②労働条件の変更の必要性,

③変更後の就業規則の内容の相当性,

④労働組合等との交渉の状況等

が総合考慮されます(労働契約法10条)。

 

 

 

 

本件事件では,賃金規定が変更されていましたが,

①賃金減額率が約27%であり,年収300万円台の

原告らキャディの家計への影響が大きく,

退職金制度の廃止は将来的には実質的な賃金切り下げと評価でき,

②ゴルフ場の経営は赤字であったものの,

企業グループ全体の存立に影響を与えるほど差し迫った必要性はなく,

③原告らキャディらの労働条件を不利益に変更するための

代替措置はとられておらず,

④労働者に対して,十分な説明がなされていないとして,

賃金規定の変更は不合理であると判断されました。

 

 

そのため,原告らキャディについて,

従前の労働条件の地位が認められたのです。

 

 

このように,裁判所は,労働者にとって不利益に

労働条件を変更することについての

会社との合意を慎重に判断しています。

 

 

そのため,会社から,不利益な労働条件の変更を

提示されたとしても,納得できないなら,

合意をしないようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

使用者は労働者の勤務時間を一方的に変更できるのか?

ある日,アルバイト労働者が,雇用主から,

勤務時間を1時間削減すると言われたとします。

 

 

労働契約書には,平日の勤務時間が9時から17時で

1時間の休憩時間ありと記載されていますが,

これが10時から17時に変更になると言われました。

 

 

 

 

月給制の正社員の場合,勤務時間が1時間削減されても,

もらえる給料の金額が変わらないのであれば,

少ない労働時間で同じ給料がもらえることになり,

時間単価があがり,メリットになります。

 

 

しかし,アルバイト労働者の場合,時給制であるため,

勤務時間が1時間削減されると,その分時給が削減されるので,

給料が減ってしまいます。

 

 

さらに,アルバイト労働者は,年収が低いので,

給料が減らされてしまえば,

生活が困窮することになってしまいます。

 

 

労働契約書に定めれている勤務時間を一方的に変更されることに

納得のいかないアルバイト労働者は,

勤務時間を1時間削減することに反対したのですが,

最後は,雇用主から,決まったことですと言われて

押し切られてしまいました。

 

 

 

 

このような場合,1時間の勤務時間が

削除されてしまうのでしょうか。

 

 

本日は,労働条件の変更についての合意について解説します。

 

 

労働契約法8条には,次のことが記載されています。

 

 

労働者及び使用者は,その合意により,

労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

 

 

この条文を反対解釈すれば,労働者と使用者の合意がない限り,

労働条件を変更することができないことになります。

 

 

そのため,アルバイト労働者と雇用主が,

勤務時間を1時間削減することに合意すれば,

勤務時間を1時間削減することができるのですが,

アルバイト労働者が,勤務時間を1時間削減することに

合意していないので,雇用主が一方的に

勤務時間を1時間削減することはできないのです。

 

 

次に,労働契約書に,「本契約で定める勤務日,休日,勤務時間は,

業績,経済情勢などにより雇用主の判断により変更することがある。」

という条項があった場合,雇用主は,アルバイト労働者の合意なく,

勤務時間を1時間削減できるのでしょうか。

 

 

労働契約法3条1項には,「労働契約は,

労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し,

又は変更すべきものとする。」と規定されており,

このような事前の包括的な変更の合意は,

対等の立場で合意されたとはいえないので,

労働者が反対しているのであれば,

このような事前の包括的な合意に基づいて,

雇用主が一方的に労働条件を変更することはできません。

 

 

さらに,賃金や退職金といった重要な労働条件の変更についての

合意については,労働者の自由な意思に基づいてされたものと

認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要となります

(山梨県民信用組合事件・最高裁平成28年2月19日判決)。

 

 

アルバイト労働者が勤務時間を1時間削減されれば

賃金を削減されることにつながるので,

アルバイト労働者の合意については,

慎重に判断されることになります。

 

 

 

 

このように,雇用主は,労働者の合意なく,

一方的に労働条件を変更することはできないので,

労働条件の変更に納得のいかない労働者は,

安易に合意しないようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働契約の内容はどうやって決まるのか

長時間労働をしているにもかかわらず,

残業代が支払われないことから,労働者が,

会社に対して,未払残業代を請求しました。

 

 

すると,会社からは,会社説明会や入社説明会で,

うちは固定残業代を採用しているという説明をしているし,

就業規則や賃金規定にも固定残業代のことが規定されているから,

残業代は支払わなくていいのだという説明をされたとします。

 

 

固定残業代とは,残業代が,すでに給料の中に組み込まれていたり,

別の手当として支給されているものであり,これが適法に認められると,

残業代はすでに支払い済みとなってしまいます。

 

 

 

 

労働者は,入社する前に固定残業代のことを聞いた覚えもなく,

就業規則を見たことがなく,納得できません。

 

 

ここでは,入社のときに,どの程度の説明があれば,

労働契約の内容となるのか,

就業規則が周知されていたのかが問題となります。

 

 

本日は,これらの問題点が争われた

PMKメディカルラボ事件を紹介します

(東京地裁平成30年4月18日判決・労働判例1190号39頁)。

 

 

この事件では,エステティシャンの原告が

会社に未払残業代を請求したところ,会社は,

会社説明会や入社説明会で固定残業代について説明しており,

固定残業代は労働契約の内容になっていたと主張してきました。

 

 

 

 

しかし,原告が,会社説明会での会社からの説明をメモしており,

そのメモには,固定残業代についての記載がなく,

原告が保管していた入社説明会で配布された資料にも

固定残業代についての説明が記載されていませんでした。

 

 

さらに,会社は,労働条件通知書や労働契約書を作成しておらず,

原告が退職するころに,ホームページの採用情報に

固定残業代の説明を掲載しました。

 

 

これらの事実関係から,原告が入社するときに,

固定残業代の説明がされておらず,

固定残業代が契約の内容になっていないと判断されました。

 

 

労働基準法15条1項において,会社は,

労働契約を締結する際に,労働者に対して,

労働条件を明示しなければならず,通常は,

労働条件通知書や労働契約書に記載されている内容が,

労働契約の内容になることがほとんどです。

 

 

ところが,労働条件通知書や労働契約書が作成されておらず,

どのような労働契約の内容だったのかが争点になることがあり,

その際には,会社説明会や入社説明会における説明内容や資料が

重要な証拠になります。

 

 

また,求人票も,労働契約の内容を見極める上で,

貴重な証拠となります。

 

 

 

 

労働者は,入社したときに,労働条件通知書や労働契約書を

もらえなかった場合,後日のトラブルに備えて,

会社説明会や入社説明会の資料やメモ,求人票

などの証拠を確保しておくといいでしょう。

 

 

長くなりましたので,就業規則の周知については,明日以降記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

退職金制度の廃止

以前は,退職金規定があり,実際に退職した労働者に対して,

退職金が支払われていたので,自分も退職金が支払われると

考えていたところ,労働者の知らない間に,

退職金規定が廃止されていたため,会社から,

退職金規定が廃止されるまでの退職金は支払うが,

退職金規定が廃止されてからの退職金は支払わない

と言われてしまいました。

 

 

退職金を老後の資金と考えていた労働者は,とても困ります。

 

 

 

 

このように,退職金規定を廃止することは認められるのでしょうか。

 

 

退職金規定は,通常,就業規則の一部と捉えられており,

退職金規定を廃止することは,退職金の支給がなくなることを意味し,

労働者にとって不利益ですので,就業規則の変更によって

労働条件を不利益に変更することになります。

 

 

就業規則を変更して労働条件を不利益に変更するためには,

変更後の就業規則を労働者に周知させて,かつ,

就業規則の変更が合理的なものであることが必要です。

 

 

就業規則の変更が合理的なものといえるかについては,

①労働者の受ける不利益の程度,

②労働条件の変更の必要性,

③変更後の就業規則の内容の相当性,

④労働組合との交渉の状況

などを考慮して決められます。

 

 

 

退職金規定が廃止される場合,

①労働者は,退職金規定が廃止されてしまえば,

それ以降,退職金が支給されなくなってしまい,

老後の資金を確保できず,不利益が大きいといえます。

 

 

②労働条件の変更の必要性については,経営悪化などから,

人件費削減が必要だったのかが検討されますが,

賃金や退職金など労働者にとって

重要な労働条件を不利益に変更するには,

そのような不利益を労働者に法的に受任させることを

許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである

ことが求められます。

 

 

そのため,退職金規定を廃止する場合,

単に経営が悪化したという理由だけではだめで,

経営改善のためにどのようなことがされたかが

検討される必要があります。

 

 

③変更後の就業規則の内容の相当性については,

不利益を被る労働者に対して,

代償措置がとられたかが重要となります。

 

 

退職金規定を廃止する場合には,

退職金に変わる給付金を労働者に支給するか,

現在働いている労働者の退職金だけは保証するなどの

代償措置が考えられます。

 

 

退職金規定の廃止について,代償となる労働条件を

何も提供していないとして,退職金規定の廃止を認めなかった

御國ハイヤー事件の最高裁昭和58年7月15日判決があります。

 

 

④労働組合との交渉の状況については,労働組合に,

変更によって不利益を被る労働者が含まれており,

その労働者を含む総意として労働組合が会社との間で交渉をした場合

初めて,労使間の利益調整の結果が尊重されることになります。

 

 

まとめますと,退職金規定を廃止するには,

労働者の被る不利益が大きいので,高度な必要性が求められ,

何も代償措置がない場合には,退職金規定の廃止は認められず,

労働者は,廃止前の退職金規定に基づいて,

退職金を請求することができるのです。

 

 

 

 

退職金規定が廃止された場合には,

退職金規定の廃止についてどのような必要性があったのか,

代償措置として何があったのか,

労働組合や労働者に対してどのような説明があったのか

を検討するようにしましょう。

 

 

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年功序列型賃金から成果主義型賃金への変更

これまでは,年功序列型賃金だったため,

ある程度の年齢になれば,自動的に昇給していたのに,

就業規則が変更されて,これからは,

労働者の成果に応じて賃金を支払う

成果主義型賃金に変更されたとします。

 

 

その結果,ある労働者の賃金が減額されてしまいました。

 

 

 

 

このように,会社の賃金体系が変更された場合,

労働者は,どのように争うことができるのでしょうか。

 

 

賃金体系が変わると,もらえる給料の金額に

変更が生じますので,労働者としては,

このまま会社の言うとおりに従わなければ

ならないのか悩みますよね。

 

 

本日は,就業規則による労働条件の変更について解説します。

 

 

まず,会社が労働条件を変更する方法は,2つあります。

 

 

1つは,労働条件を変更することについて,

労働者と個別に同意する方法です。

 

 

もう1つは,就業規則を変更することで,

労働条件を変更する方法です。

 

 

就業規則とは,会社におけるルールを定めたものであり,

会社が一方的に決定するものです。

 

 

 

 

会社は,多くの労働者と労働契約を締結しているのですが,

全ての労働者の合意をとりつけるのは困難であり,

労働者の公平を保つためにも,就業規則を変更して,

労働条件を変更させる必要があるのです。

 

 

とはいえ,無条件に,労働条件が労働者に

不利益に変更されたのでは,

労働者の労働条件が一方的に切り下げられて,

労働者にとって酷な結果となります。

 

 

そこで,就業規則によって,労働条件を不利益に変更するには,

就業規則の変更が合理的でなければなりません。

 

 

そして,就業規則の変更の合理性を検討する際に,

労働者の受ける不利益の程度,

労働条件の変更の必要性,

変更後の就業規則の内容の相当性,

労働組合などとの交渉の状況

などが総合考慮されて,合理的か否かが検討されます。

 

 

それでは,年功序列型賃金から成果主義型賃金へ

就業規則が変更されたことが争われた

東京商工会議所事件を検討してみましょう

(東京地裁平成29年5月8日判決・労働判例1187号70頁)。

 

 

この事件では,年功序列型賃金から成果主義型賃金

に変更されたことによって,原告の労働者の賃金が

42万7300円から41万1300円に減額されました。

 

 

 

 

まず,労働条件の変更の必要性についてです。

 

 

この事件では,経営難から人件費を削減するためではなく,

会員や社会に対してより質の高いサービスを提供するために,

必要な人材を育成し,組織を強化するための

人事制度を見直す中で,職員の能力や成果を適正に評価して,

その評価に応じた報酬を支給する目的で賃金体系を変更したので,

賃金の配分の仕方を見直したものと判断されました。

 

 

そして,賃金の配分の見直しについては,

会社の経営判断に委ねられる部分が大きいので,

年功序列型賃金から成果主義型賃金へ変更する

経営判断に合理性はあり,変更の必要性が認められました。

 

 

次に,労働者の不利益について,給料が一度減額されたしても,

その後の努力次第で増額の余地があるので,

不利益の程度は大きくないとされました。

 

 

内容の相当性について,どの従業員にも

人事評価の結果次第で等しく昇給の機会が与えられており,

公平性があり,激変緩和措置として,

3年間調整給が支給されるので,内容の相当性も認められました。

 

 

会社は,労働組合に対して,丁寧に説明をしていたため,

労働組合との交渉も問題ありませんでした。

 

 

結果として,年功序列型賃金から成果主義型賃金へ

就業規則を変更することは合理的であり,有効と判断されました。

 

 

成果主義型賃金の場合,一時期給料が下がったとしても,

その後の成績によっては,給料が上がる可能性があるので,

これを不合理とするのは難しいのだと思います。

 

 

労働者としては,成果主義型賃金が導入された場合,

その制度の中で,成果を挙げられるように

努力した方がいいのでしょう。

 

 

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