管理職手当が支給されている地方公務員は残業代を請求できないのか?【弁護士が解説】

1 管理職員とは

 

 

市役所で勤務している地方公務員が、課長補佐に昇進しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

課長補佐に昇進したところ、管理職手当が支給されることになるので、残業代である時間外手当が支給されなくなりました。

 

 

課長補佐といっても、通常の職員と同じ業務をしていますし、人事の権限は与えられておりません。

 

 

そのため、課長補佐になったというだけで、時間外手当が全く支給されないことに納得ができません。

 

 

地方公務員が、管理職手当の支給を受けていると、時間外手当を請求できないのでしょうか。

 

 

結論から先に言いますと、課長補佐が、労働基準法の管理監督者に該当しないのであれば、時間外手当を請求することができます。

 

 

今回の記事では、①管理職員とは、②管理職手当とは、③労働基準法の管理監督者とは、という3つの順番で、管理職手当を受給している地方公務員の時間外手当の請求について、わかりやすく解説します。

 

 

まず、①管理職員について解説します。

 

 

地方公務員法における、管理職員とは、次のとおりです。

 

 

①重要な行政上の決定を行う職員(部長や課長)

 

 

②重要な行政上の決定に参画する管理的地位にある職員(部次長や上席の課長補佐)

 

 

③職員の任免に関して直接の権限を持つ監督的地位にある職員(人事担当の部課長)

 

 

④職員の任免、分限、懲戒若しくは服務、職員の給与その他の勤務条件又は職員団体との関係についての当局の計画及び方針に関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが職員団体の構成員としての誠意と責任とに直接に抵触すると認められる監督的地位にある職員(人事、服務、予算などを担当する課長補佐や係長)

 

 

⑤その他職員団体との関係において当局の立場に立って遂行すべき職務を担当する職員(秘書や人事、服務、予算などを担当する係長)

 

 

具体的な管理職の範囲は、人事委員会または公平委員会の定める規則によって定められています。

 

 

2 管理職手当とは

 

 

次に、②管理職手当について解説します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理職手当とは、監督または管理の地位にある職員の職務の特殊性に基づいて支給される手当です。

 

 

管理職手当の支給の対象となる職員は、労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」と同じです。

 

 

すなわち、地方公務員にも、労働基準法41条2号が適用され、「監督若しくは管理の地位にある者」に該当すれば、時間外手当は請求できず、「監督若しくは管理の地位にある者」に該当しなければ、時間外手当を請求できることになります。

 

 

また、地方公務員法上の管理職と、労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」とは、一致する場合もあれば、一致しない場合もあります。

 

 

3 労働基準法の管理監督者とは

 

 

そこで、③労働基準法の管理監督者について解説します。

 

 

労働基準法の管理監督者に該当すれば、残業代を請求することができません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜかといいますと、管理監督者は,その職務上の性質や経営上の必要から,経営者と一体的な立場において,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されるような重要な職務と責任,権限を付与され,実際の勤務態様も労働時間等の規制になじまない立場にあり、賃金等の待遇面で他の一般の従業員に比してその地位に相応しい優遇措置が講じられていることや,自分の労働時間を自ら管理できることから,労働基準法の労働時間等に関する規制を及ぼさなくてもその保護に欠けるところはないからなのです。

 

 

そのため、管理監督者に該当するかについては、①経営者との一体性、②労働時間の裁量、③賃金等の待遇の3つの要素を総合考慮して決めます。

 

 

課長補佐の地方公務員の場合、行政の重要な意思決定の会議に参加しておらず、部下に対する人事権限がなく、部下と同じような現場業務を担当していることが多い場合には、①経営者との一体性は否定されます。

 

 

また、地方公務員なので、労働時間が厳格に決められていて、場所的にも一定の拘束を受けている場合には、②労働時間の裁量が認められません。

 

 

そして、管理職手当の額がさほど優遇されていない場合には、③賃金等の待遇も不十分です。

 

 

その結果、上記のような課長補佐の地方公務員は、労働基準法の管理監督者に該当せず、管理職手当の支給を受けていたとしても、時間外手当を請求できることになります。

 

 

残業代を請求するためには、労働時間を証明する必要がありますので、タイムカードなどで労働時間を正確に記録しておくことが重要になります。

 

 

また、残業代請求は、3年の時効で消滅するので、早目に請求する必要があります。

 

 

残業代請求についてお悩みの場合には、弁護士にご相談ください。

 

 

弁護士は、残業代請求について、適切なアドバイスをしてくれます。

 

 

また、You Tubeでも、労働問題に関する役立つ動画を投稿しているので、ご参照ください。

 

 

https://www.youtube.com/@user-oe2oi7pt2p

 

 

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

忘年会への参加は残業になるのか?【弁護士が解説】

1 労働時間とは?

 

 

この記事を執筆している、2023年12月は、新型コロナウイルスが5類に移行して、初めての忘年会シーズンです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、たまたま、定食屋でランチをしていたところ、NHKのお昼の放送で、興味深いテーマについて報道されていました。

 

 

若手社員から、「忘年会に参加したら、残業代がでるのですか?」という質問に、上司が困惑しているというものです。

 

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231202/k10014273261000.html

 

 

なるほど、最近の若手社員の中には、会社の懇親会を業務、と捉えている方が一定数いることがわかり、とても興味深かったです。

 

 

そこで、忘年会に参加したら、残業代がでるのかという、若手社員の疑問について、労働弁護士の立場から、解説したいと思います。

 

 

結論から先にいいますと、原則として、忘年会への参加は、残業にはならず、例外的に、会社からの業務命令がある場合や不利益取扱いによる参加強制がある場合に、忘年会への参加は、残業になります。

 

 

今回は、①労働時間とは、②忘年会への参加が労働時間になる場合とは、③裁判例の紹介という、順番で解説していきます。

 

 

まず、①労働時間について解説します。

 

 

ある時間が、労働時間に該当すれば、労働者は、会社に対して、賃金を請求することができます。

 

 

そして、1日の労働時間が8時間を超えた場合に、1.25倍の残業代を会社に対して、請求することができます。

 

 

では、どのような場合に、労働時間に該当するのでしょうか?

 

 

労働時間とは、会社の指揮命令下に置かれている時間をいいます。

 

 

会社の指揮命令下に置かれているというためには、会社の明示または黙示の指示に基づいて、働いていることが必要です。

 

 

明示の指示とは、会社から、◯◯をしてくださいという業務命令のことです。

 

 

黙示の指示は、労働者が規定と異なる出退勤を行って時間外労働に従事し、そのことを認識している会社が異議を述べていない場合や、業務量が勤務時間内に処理できないほど多く、時間外労働が常態化している場合に、認められます。

 

 

2 忘年会への参加が労働時間になる場合とは?

 

 

次に、②忘年会への参加が労働時間になる場合について解説します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忘年会への参加が、会社の指揮命令下に置かれていると評価できれば、労働時間に該当します。

 

 

ようするに、忘年会への参加が、会社から義務付けられ、または、これを余儀なくされたときに、会社の指揮命令下に置かれていると評価できます。

 

 

そして、会社の業務命令があれば、明示の指示があったといえ、会社から忘年会への参加が義務付けられていたといえ、労働時間になります。

 

 

また、忘年会に参加しないと不利益な取扱を受けることになり、忘年会への参加を余儀なくされている場合、黙示の指示があったといえ、労働時間になります。

 

 

例えば、忘年会に参加しないと、欠勤や早退と取り扱い、賃金が減額されたり、人事考課においてマイナスに評価される場合、不利益な取扱を受けるとして、労働時間に該当すると考えられます。

 

 

もっとも、忘年会への参加について、業務命令をしたり、参加しない場合に、不利益に取り扱う会社は、それほど多くないと思いますので、実際に、忘年会への参加が労働時間に該当する場合は、少ないと考えます。

 

 

また、実際の裁判で、忘年会への参加について、業務命令があったり、参加しない場合に不利益に取り扱う実態があった、と証明するのが難しかったりします。

 

 

さらに、忘年会の参加だけで、残業代を請求しても、金額は少額なので、裁判をするメリットはありません。

 

 

そのため、忘年会への参加が労働時間であるとして、残業代請求をすることは、正直おすすめはできません。

 

 

3 懇親会への参加が労働時間に該当するかが争われた裁判例の紹介

 

 

最後に、③懇親会への参加が労働時間に該当するかが争われた裁判例を紹介します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国・大阪中央労基署長(ノキア・ジャパン)事件の大阪地裁平成23年10月26日判決(労働判例1043号67頁)です。

 

 

この事件では、取引先との懇親会に参加していたところ、くも膜下出血を発症して死亡した労働者の遺族が、労災保険の不支給処分の取消を求めたものです。

 

 

裁判所は、「一般的には、接待について、業務との関連性が不明であることが多く、直ちに業務性を肯定することは困難である」と述べています。

 

 

もっとも、この事件では、会食が顧客を交えて技術的な問題点を議論する場や、社員らと意見交換する場として位置づけられていたこと、会社もその必要を認めて費用を負担していたことから、懇親会参加の時間は、労働時間と算入すると判断されました。

 

 

過労死の事件では、懇親会への参加が多く、懇親会への参加の時間を考慮することで、労働時間が長くなり、1ヶ月間の残業が、80時間から100時間になる場合には、懇親会の参加の時間を労働時間とすることについて、争う実益はあります。

 

 

他方、残業代請求の事件では、懇親会の参加の時間は、労働時間と認定されにくく、懇親会の参加の時間を労働時間とすることについて、争う実益はあまりないと考えます。

 

 

今回の記事をまとめると、忘年会への参加は、原則、労働時間に該当しませんが、会社からの業務命令があったり、不利益取扱を理由に参加を事実上強制される場合には、例外として、労働時間に該当します。

 

 

また、You Tubeでも、労働問題に関する役立つ動画を投稿しているので、ご参照ください。

 

 

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今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

医師や看護師の宿直勤務では残業代を請求できないのか?【弁護士が解説】

Q 医師や看護師の宿直勤務では、残業代を請求することはできないのですか?

 

 

A 労働基準監督署長の宿日直についての許可基準を満たしていない、宿直勤務の場合には、残業代を請求することができます。

 

 

1 宿直とは

 

 

私は、病院で医師として勤務しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月に8回くらい、宿直勤務を担当しています。

 

 

宿直勤務の時には、夜間に救急車で搬送されてきた患者の手術をすることもあり、日中の業務と同じことをしています。

 

 

それなのに、病院から支給される宿直手当の金額が少ないことに納得がいきません。

 

 

病院からは、宿直手当を支払っているので、残業代を支払う必要はないと言われています。

 

 

宿直勤務の場合には、適正な残業代を請求することはできないのでしょうか。

 

 

結論から先に言いますと、病院が、労働基準監督署長の宿日直についての許可基準を満たしていない場合には、宿直勤務の時間について、残業代を請求できます。

 

 

今回の記事では、①宿直とは、②宿直と断続的労働、③宿直勤務における残業代請求が認められた裁判例の紹介、という順番で、わかりやすく解説していきますので、ぜひ最後までお読みください。

 

 

まず、①宿直の言葉の意味について解説します。

 

 

宿直とは、夜間に職場で待機することです。

 

 

すなわち、宿直は、待機であって、通常の業務とは異なる軽微な業務を、宿泊を伴ってすることです。

 

 

宿直と似た言葉に、当直と夜勤があります。

 

 

当直とは、当番を決めて、交替制で働くことです。

 

 

当直には、日中におこなう日直と、夜間におこなう宿直があります。

 

 

夜勤とは、夜の時間帯に働くことです。

 

 

夜勤は、宿直と異なり、待機ではなく、夜の時間帯に、通常の業務を行います。

 

 

そのため、夜勤では、1日の労働時間が8時間を超えた場合には、残業代を請求できます。

 

 

2 宿直と断続的労働

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿直の言葉の整理をした上で、②宿直と断続的労働について説明します。

 

 

労働基準法41条において、「断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」は、労働基準法の労働時間の規制の適用が除外されると規定されています。

 

 

すなわち、「断続的労働」に該当すれば、労働者は、会社に対して、残業代を請求できなくなるのです。

 

 

そして、断続的労働とは、作業自体が間をおいて行われるもので、作業時間が長く継続することなく中断し、しばらくして再び同じような態様の作業が行われ、また中断するというように繰り返される労働のことをいいます。

 

 

この断続的労働の一態様として、宿直勤務が挙げられています。

 

 

もっとも、断続的労働に該当すると、労働基準法の労働時間の規制の適用がなくなり、会社は、労働者に残業代を支払わなくてよくなります。

 

 

そうなると、会社は、残業代の支払いを気にする必要がなくなるので、労働者を長時間労働させてしまい、労働者の健康が害されるリスクが生じます。

 

 

そこで、本当に、断続的労働に該当するかについて、労働基準監督署長が許可をしたものだけが、断続的労働と認められるのです。

 

 

それでは、労働基準監督署長の宿日直についての許可基準について、解説します。

 

 

①勤務の態様

 

 

常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであり、原則として、通常の労働の継続は許可されません。

 

 

医師の場合、少数の要注意患者の状態の変動に対応するため、問診などによる診察や、看護師に対する指示や確認を行うこと。

 

 

看護師の場合、病室の定時巡回、患者の状態を医師に報告すること、少数の要注意患者の定時検脈や検温を行うこと。

 

 

夜間に充分睡眠がとりうること。

 

 

②宿直手当

 

 

宿直勤務1回の宿直手当の最低額は、事業場において宿直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われる賃金の、1人1日平均額の3分の1を下回らないものであること。

 

 

③宿直の回数

 

 

宿直勤務については、週1回を限度とする。

 

 

上記①~③の基準を満たして、労働基準監督署長の許可を得られた場合に限り、宿直勤務について、宿直手当以外の残業代を支払わなくてよくなるのです。

 

 

3 宿直勤務における残業代請求が認められた裁判例の紹介

 

 

ここで、③宿直勤務における残業代請求が認められた裁判例を紹介します。

 

 

奈良県(医師・割増賃金)事件の奈良地裁平成21年4月22日判決・労働判例986号38頁です。

 

 

この事件では、県立病院の産婦人科医である原告が、宿直勤務は時間外労働にあたるとして、未払残業代を請求しました。

 

 

裁判所は、以下の事実関係から、原告の宿直業務は、断続的労働ではないと判断しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①宿直勤務の時間に分娩対応という通常業務を行っており、その回数も少なくないこと

 

 

②1名の宿直医師が救急医療等の業務を行っていたこと

 

 

③宿直勤務時間の約4分の1の時間は、外来緊急患者への処置や入院患者の緊急手術に従事していたこと

 

 

これらの事実関係から、原告の宿直業務は、常態としてほとんど労働する必要がない勤務であったとはいえないとして、労働基準法41条3号の断続的労働には当たらないと判断されました。

 

 

その結果、医師の宿直業務について、未払残業代請求が認められました。

 

 

このように、医師や看護師の宿直業務の実態を検討すれば、宿直時間に通常の業務を行っていて、断続的労働といえないケースは多いのではないでしょうか。

 

 

断続的労働といえない場合には、未払残業代を請求できますので、弁護士にご相談ください。

 

 

また、You Tubeでも、労働問題に関する役立つ動画を投稿しているので、ご参照ください。

 

 

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今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

管理職は残業代をもらえないのか?【弁護士が解説】

1 管理職は残業代がゼロなの?

 

 

Q:会社である部門の部長をしています。会社からは、部長になったら、残業代はでないと説明を受けましたが、給料がそれほど高いわけではないので、納得がいきません。部長になると、残業代は支払われないものなのでしょうか。

 

 

 

A:労働基準法の「管理監督者」に該当しないならば、部長などの管理職であっても、会社に対して、残業代を請求することができます。

 

 

今回は、労働基準法の管理監督者について、

①残業代を請求するには

②管理監督者とは

③管理監督者3つの判断基準

という順番で、分かりやすく解説しますので、ぜひ最後までお読みください。

 

 

2 残業代を請求するにはどうすればいい?

 

 

まずは、①未払残業代を請求する方法について解説します。

 

 

 

労働者が会社に対して、未払残業代を請求するためには、労働者が労働日に、何時から何時まで働いたのかを、証拠に基づいて証明しなければなりません。

 

 

そのため、未払残業代請求事件では、労働時間を証明できる証拠を、いかに確保できるかが重要になります。

 

 

労働時間を証明できる証拠としては、タイムカード、パソコンのログデータ、入退館記録、日報、スマホのGPS機能等が、実務でよく利用されます。

 

 

これらの証拠をどうやって集めるかを検討することから始めます。

 

 

会社を退職した後は、これらの労働時間を証明できる証拠を集めることが難しくなるので、できるならば、在職中に証拠を集めることをおすすめします。

 

 

具体的には、タイムカードをコピーする、パソコンのログデータを保存する、スマホのGPS機能で労働時間を記録するといったことを、在職中にしておくのがいいです。

 

 

そして、労働時間を証明できる証拠を確保したならば、弁護士に相談して、残業代を計算してもらい、残業代を請求するかを検討します。

 

 

残業代の計算は複雑なので、弁護士に残業代の計算を依頼することをおすすめします。

 

 

さらに、未払残業代の時効は3年ですので、なるべく多くの残業代を請求するためには、早目に時効をとめる必要があります。

 

 

例えば、2023年9月に残業代を請求する場合、2020年9月から2023年9月までの3年間分の未払残業代を請求できます。

 

 

3年間分の未払残業代を請求すると、けっこう高額な残業代になることがあります。

 

 

もっとも、2023年9月から、2023年10月になれば、3年前の2020年9月の残業代が時効で消滅します。

 

 

このように、残業代は、翌月になると、3年前のものが時効で消滅するので、時効をとめるために、「~から~までの未払残業代を含む全ての未払賃金を請求します」と記載した請求書を、特定記録郵便で会社に送付します。

 

 

この請求書が会社に届いてから、6ヶ月以内に、会社に対して、未払残業代請求の訴訟を提起する、若しくは、労働審判の申立てをすれば、時効は、完全にとまります。

 

 

まとめますと、①労働時間を証明できる証拠を確保して、②残業代を計算して、③会社に残業代の請求書を送付します。

 

 

3 管理監督者とはどんな人?

 

 

次に、②管理監督者について解説します。

 

 

労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」に該当すれば、労働基準法の残業代の規定が適用されなくなります。

 

 

すなわち、労働基準法の管理監督者に該当すれば、残業代は0円になるのです。

 

 

 

なぜこのような規定ができたのかといいますと、経営者と一体的な立場で、労働時間に関する規制の枠を超えて活動しなければならない企業経営上の必要から、管理監督者には、労働基準法の残業代の規定の適用が除外されているのです。

 

 

ようするに、労働者ではない、経営者と同じような立場であれば、待遇もよく、労働基準法の労働時間の規制になじまないので、残業代を支払わなくても、問題ないとされているのです。

 

 

このような条文の趣旨から、管理監督者とは、労働条件その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある者と定義されます。

 

 

言い換えれば、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間の規制になじまないような立場にある者をいいます。

 

 

そのため、管理監督者の判断にあたっては、資格や役職の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があり、管理監督者の地位にふさわしい待遇がされているかについて検討します。

 

 

4 管理監督者の3つの判断基準

 

 

最後に、③管理監督者3つの判断基準について解説します。

 

 

 

判断基準の1つ目は、経営者との一体性です。

 

 

これは、事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有していることです。

 

 

この判断基準は、次の3つの事情を総合考慮します。

 

 

①経営への参画状況

 

 

会社の経営会議等の事業運営に関する決定過程に関与し、どの程度の発言力・影響力を有していたかを検討します。

 

 

例えば、経営トップの一存で経営方針が決められており、当該管理監督者とされている人が、経営方針の決定にほとんど影響力がない場合には、管理監督者とはいえません。

 

 

②労務管理上の指揮監督権

 

 

部下に関する採用、解雇、人事考課等の人事権限、部下らの勤務割等の決定権限の有無・内容について検討します。

 

 

当該管理監督者とされている人が、単に採用面接を担当しただけで、人事の意見を述べる機会が与えられるだけであれば、管理監督者とはいえません。

 

 

③実際の職務内容

 

 

マネージャー業務のみならず、部下と同様の現場作業・業務にも相当程度従事しているかを検討します。

 

 

ようするに、一般社員と同じ業務をたくさんしている場合には、管理監督者とはいえなくなるのです。

 

 

判断基準の2つ目は、労働時間の裁量です。

 

 

これは、自己の労働時間についての裁量を有していることです。

 

 

すなわち、労働時間がどの程度厳格に取り決められ、管理されていたのかを検討します。

 

 

例えば、タイムカード等で出退勤の管理がされていたか、遅刻・早退・欠勤の場合に賃金が控除されていたかといったことを検討します。

 

 

判断基準の3つ目は、賃金等の待遇です。

 

 

これは、管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ていることです。

 

 

すなわち、労働時間の枠組みに縛られずに勤務しても、保護に欠けることのない待遇面での手当てが必要になります。

 

 

具体的には、一般社員との間に有意な待遇差があるか、賃金センサスの平均賃金との比較から、十分な待遇を得ていたと評価できるかを検討します。

 

 

以上解説した、管理監督者の判断基準について、裁判所は厳格に判断する傾向にあるため、管理職であっても、未払残業代請求が認められることはよくあります。

 

 

そのため、管理職であっても、未払残業代請求をあきらめずに、弁護士に法律相談をすることをおすすめします。

 

 

弁護士は、未払残業代請求について、適切なアドバイスをしてくれます。

 

 

また、未払残業代請求を含む労働問題について、You Tubeでも解説していますので、You Tubeもご覧ください。

 

 

https://www.youtube.com/channel/UCWJQX9xTgXZegEOHZUidsdw

 

 

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

残業代請求の裁判におけるタイムカードの重要性【弁護士が解説】

1 労働時間の証明

 

 

会社で長時間労働をしているのに、残業代が支払われていません。

 

 

残業代が支払われないので、

タイムカードを打刻したり、打刻しなかったりしています。

 

 

 

タイムカードに打刻漏れがある場合でも、

未払残業代請求をすることができますか。

 

 

結論から先に言いますと、タイムカードの打刻漏れ部分を、

その他の証拠で補強できるならば、未払残業代請求は可能です。

 

 

今回は、未払残業代請求における、

タイムカードの重要性について解説しますので、

ぜひ最後までお読みください。

 

 

まずは、労働時間の証明について、解説します。

 

 

残業代請求事件においては、労働者が、

自身の労働時間を証明しなければなりません。

 

 

すなわち、日ごとに、始業時刻と終業時刻を特定し、休憩時間を控除して、

何時間何分労働したのかを、労働者が特定しなければならないのです。

 

 

ということは、労働者が、自身の労働時間の証明ができなかった場合、

裁判において、残業代請求が認められない、という結果になってしまうのです。

 

 

逆に言うと、労働者が、労働時間の証明ができれば、

会社からの反論が認められる余地は少なく、

結果として、残業代請求が認められることが多いです。

 

 

例えば、残業代請求の裁判では、会社から、

管理監督者という反論がよくありますが、

労働基準法における管理監督者の要件は厳しく、

管理監督者という会社の反論が認められないことが多いです。

 

 

そのため、労働時間の証明ができれば、

ある程度の残業代請求が認められる可能性が高いことから、

労働時間をどうやって証明するのかが、とても重要になるのです。

 

 

ちなみに、厚生労働省が、労働時間の適正な把握のために

使用者が講ずべき措置に関するガイドラインを公表しております。

 

 

このガイドラインには、会社は、労働時間を適正に把握するなど、

労働時間を適切に管理する責務を有していると規定されています。

 

 

このように、会社は労働時間把握義務を負っていることからすれば、

労働時間の証明責任は会社にあると言いたいところですが、

裁判実務では、労働時間の証明責任は労働者が負っていることになっています。

 

 

2 タイムカードの重要性

 

 

次に、タイムカードの重要性について解説します。

 

 

 

タイムカードの打刻により、打刻時刻が機械的に印字されるので、

タイムカードの打刻時刻は、労働者の出勤時刻及び退勤時刻を

ほぼ正確に示すものといえ、タイムカードは、

労働者の労働時間を端的に立証する信用性の高い証拠といえます。

 

 

そのため、特段の事情がない限り、タイムカードの記録どおりに、

労働者が労働を開始し、労働を終了したと事実上推定されます。

 

 

すなわち、会社が、タイムカードに記録された時刻に労働していなかったという、

特段の事情について、主張と立証ができなかった場合には、

タイムカードに打刻された始業時刻から終業時刻まで働いていたと

認定されるのです。

 

 

もっとも、タイムカードに打刻漏れ等がある場合には、

この時刻からこの時刻まで働いていたと正確に記録されていませんので、

他の証拠で補強する必要があります。

 

 

具体的には、パソコンのログやメールの送信時刻、

入退館記録、同僚の証言などの証拠で、労働時間の証明を補強します。

 

 

3 残業代請求をするための準備

 

 

最後に、残業代請求をするための準備について、解説します。

 

 

 

①タイムカードは、超重要な証拠なので、正確に打刻するべきです。

 

 

タイムカードを正確に打刻していないと、

労働時間を証明することができず、

残業代請求が認められないというリスクがあります。

 

 

会社から残業するなら、タイムカードを打刻した後にするように言われても、

このような業務命令に従ってはいけません。

 

 

このような業務命令は、先ほど紹介した、

会社の労働時間把握義務に違反する違法なものですので、

従う必要はなく、最後まで働いた時刻で、タイムカードを打刻してください。

 

 

もっとも、会社からの、タイムカードを打刻後に残業する命令が厳しかったり、

そもそも、タイムカードがない場合には、

グーグルマップのタイムラインを利用するなどして、

自分で労働時間を記録してください。

 

 

グーグルマップのタイムライン以外にも、スマホのGPS機能を利用して、

自分で労働時間を記録するアプリがありますので、それらを利用して、

自分で労働時間を記録するべきです。

 

 

自分の身は自分で守るのが基本です。

 

 

②退職する前に、労働時間の証拠を確保するべきです。

 

 

退職する前であれば、タイムカードをコピーする等して、

証拠を確保することは、比較的容易ですが、退職した後に、

労働時間を証明するための証拠を確保するのは、手間がかかります。

 

 

残業代請求の時効は3年なので、3年間分の残業代請求ができるので、

退職する前に、3年間分のタイムカードを確保するのが理想です。

 

 

退職した後に、労働時間の証拠を会社に開示するように求めた場合、

会社が労働時間の証拠を破棄するリスクがあります。

 

 

私が過去に経験した事件では、退職後に、

労働時間が記載されている業務日報の開示を会社に請求したところ、

会社からは、業務日報が見つからないので、だせないと回答がありました。

 

 

会社は、労働時間の記録を保存しなければならないのですが、

労働時間の記録がないのであれば、労働時間の証明責任が労働者にあることから、

残念ながら、残業代請求は認められません。

 

 

そのため、退職する前に、労働時間の証拠を確保しておくべきなのです。

 

 

③残業代請求について、弁護士に相談してください。

 

 

残業代の計算は複雑なので、弁護士に正確に計算してもらう必要があります。

 

 

また、残業代請求について、会社からどのような反論が予想され、

その会社の反論が認められる余地がどの程度あるのかについて、

弁護士は、見通しをアドバイスしてくれます。

 

 

そのため、未払残業代請求については、ぜひ、弁護士にご相談ください。

 

 

今回も、最後まで、お読みいただき、ありがとうございます。

残業代を支払わない会社の代表取締役に対して未払残業代請求相当の損害賠償請求をして221万円を回収した事例

1 きっかけはパワハラの法律相談

 

 

上司からのパワハラが辛くて、会社を退職することにしたのですが、

会社の対応に納得がいかないので、会社に対して、何か請求したいです。

 

 

 

でも、パワハラを証明するための録音等がないです。

 

 

このような場合、会社に対して何か請求できないのでしょうか。

 

 

パワハラの証拠がなくても、

タイムカード等の労働時間を証明できる証拠がある場合、

残業代請求をすることで、会社に対して、一矢報いることができます。

 

 

今回は、パワハラの法律相談から、会社に対して、未払残業代請求をして、

労働審判で未払残業代請求が認められたものの、

会社が解散したため、会社の代表取締役に対して、

未払残業代請求相当の損害賠償請求をした事件をご紹介します。

 

 

クライアントは、居宅介護支援事業所で働いていたケアマネジャーです。

 

 

クライアントは、会社で、上司から、

「あなたには能力がない」、「誰もあなたを信頼していない」等と、

パワハラを受け、このような会社で働くことに疑問を感じ、

会社を退職することにしました。

 

 

会社からの理不尽な対応に納得がいかないクライアントは、

私のもとに相談に来られました。

 

 

クライアントの相談を聞いたところ、

上司のパワハラを証明するための、録音等の証拠がなく、

パワハラの損害賠償請求をするのは難しいことが予想されました。

 

 

他方、クライアントには、残業代が支払われていませんでした。

 

 

出勤簿にクライアントの労働時間が正確に記録されていたことから、

労働時間を証明することは容易であり、

未払残業代請求が認められる可能性が高いと考えました。

 

 

そこで、パワハラを放置して、退職に追い込んだ会社に対して、

未払残業代請求をすることにしました。

 

 

2 未払残業代請求の労働審判

 

 

クライアントから事件の依頼を受けた私は、

会社に対して、未払残業代請求の通知書を送付しました。

 

 

 

会社からは、クライアントが管理監督者に該当することから、

未払残業代請求には応じられないとの回答がありました。

 

 

労働基準法の管理監督者に該当すれば、会社は、

管理監督者である労動者に対して、残業代を支払わなくてもよくなります。

 

 

もっとも、労働基準法の管理監督者の要件は厳しく、

多くの会社では、管理監督者の要件を満たしていないにもかかわらず、

労働基準法に違反して、違法に残業代を未払いにしています。

 

 

労働基準法の管理監督者に該当するための要件は、次のとおりです。

 

 

①事業主の経営上の決定に参画し、

労務管理上の決定権限を有していること(経営者との一体性)

 

 

②自己の労働時間についての裁量を有していること(労働時間の裁量)

 

 

③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ていること(賃金等の待遇)

 

 

クライアントは、ケアマネジャーの現場の仕事をしていただけで、

会社の経営に何も関与していなかったため、①の要件を満たしません。

 

 

クライアントは、多くの利用者を担当して、長時間労働を強いられており、

労働時間の裁量はなく、②の要件を満たしません。

 

 

クライアントは、ケアマネジャーの平均的な年収しか得ておらず、

管理監督者にふさわしい待遇を受けていないことから、③の要件を満たしません。

 

 

そのため、クライアントは、管理監督者に該当せず、

会社に対して、未払残業代請求ができます。

 

 

会社が、未払残業代請求の支払いを拒否したため、

裁判所に、労働審判という裁判手続の申立てをしました。

 

 

労働審判の手続きにおいて、裁判所は、当方の主張を受け入れて、

当方が請求した未払残業代請求が満額認められました。

 

 

労働審判で、クライアントの未払残業代請求が認められたものの、

会社が、未払残業代を支払う気配がなかったため、

会社の財産に差し押さえをして、未払残業代を回収しようと考え、

会社の商業登記を調べたところ、

会社が労働審判の途中で解散していることが発覚しました。

 

 

会社の財産を調査したところ、取引先に対する売掛金債権があることが判明し、

その売掛金債権を差し押さえしましたが、取引先からは、

当該売掛金債権はもう存在しないと回答があり、

差し押さえは、不発に終わりました。

 

 

3 代表取締役に対する未払残業代相当の損害賠償請求

 

 

会社が解散してしまい、差押をしても、

未払残業代が回収できなかったため、次の一手として、

代表取締役に対して、未払残業代相当の損害賠償請求をすることを考えました。

 

 

 

会社が、労動者に対して、時間外労働や休日労働に対して、

残業代を支払うことは、労働基準法で定められた基本的な法的義務です。

 

 

会社の代表取締役は、会社に労働基準法を遵守させ、

労動者に対して、残業代を支払わせる義務を負っています。

 

 

それにもかかわらず、本件会社の代表取締役は、本件会社において、

クライアントに対して、残業代を支払わなかったことから、

代表取締役としての任務懈怠が認められ、

会社法429条1項に基づく、損害賠償責任を負います。

 

 

そこで、会社の代表取締役に対して、

未払残業代相当の損害賠償請求の裁判を起こしました。

 

 

会社の代表取締役は、クライアントが管理監督者だと思い込んでいたので、

過失がなかったと争いました。

 

 

第1審では、クライアントに対する残業代の未払いの原因は、

会社の事業継続が困難になったことが原因であり、

代表取締役の任務懈怠が原因ではないと判断され、

残念ながら、敗訴してしまいました。

 

 

しかし、第1審では、クライアントに対する残業代の未払いの原因が、

会社の事業継続が困難になったことにあるといったことは争点になっておらず、

不意討ちの不当判決でした。

 

 

控訴審では、会社の事業継続が困難ではなく、

代表取締役の任務懈怠とクライアントとの損害との間に因果関係が認められること

を主張しました。

 

 

結果として、控訴審では、

代表取締役の任務懈怠とクライアントとの損害との間に因果関係が認められ、

未払残業代相当の損害賠償として、221万6082円の請求が認められました。

 

 

そして、代表取締役から、

221万6082円満額の支払いを受けることができました。

 

 

解決までに、時間がかかりましたが、

最終的には、未払残業代相当の損害賠償請求が認められ、

会社からの理不尽な対応に対して、一矢報いることができて、

クライアントが満足されたことが、とても嬉しかったです。

 

 

このように、パワハラでは証拠がなかったとしても、

未払残業代の証拠があれば、未払残業代請求で、

会社に対して、理不尽な対応をしたことについて、一矢報いることができます。

 

 

パワハラや未払残業代でお悩みの場合には、ぜひ、弁護士にご相談ください。

【転勤命令・残業代請求】会社からの転勤を拒否したら、退職に追い込まれたので、残業代請求をして、305万円の解決金を獲得した事例【弁護士が解説】

1 突然の転勤命令

 

 

会社からの突然の転勤命令。

 

 

転勤を拒否したら、会社から給料を減額される等の嫌がらせを受け、

無理矢理退職させられました。

 

 

このような酷い仕打ちを受けたので、会社に対して、

金銭請求をしたいのですが、可能ですか。

 

 

このように、会社からの転勤命令を拒否したことによって、

不当な仕打ちを受けることはよくあります。

 

 

 

そのような場合、残業代請求をすることで、

会社に対して、一矢報いることができる可能性があります。

 

 

今回は、金沢から福岡への転勤を拒否したクライアントが、

退職に追い込まれたものの、残業代請求をすることで、

会社から305万円の解決金を回収した事例を紹介します。

 

 

クライアントは、実際の年収が、

入社面接の際に会社から提示された年収よりも低かったことから、

会社に抗議をしたところ、金沢から福岡への転勤を命令されました。

 

 

クライアントは、石川県に引っ越してきたばかりであり、

病弱な子供がおり、石川県で安定した仕事に就くために、

この会社に入社したにもかかわらず、

福岡への転勤を命令されたことに納得できませんでした。

 

 

そこで、クライアントは、福岡への転勤には応じることはできず、

金沢で勤務を継続したいと会社に伝えました。

 

 

しかし、会社は、クライアントが金沢で働くことを拒否し、

クライアントを自主退職扱いとし、会社から排除しました。

 

 

このような会社からの酷い仕打ちに納得できないクライアントは、

私のもとに相談にこられました。

 

 

2 証拠保全の申立

 

 

クライアントの話しを聞くと、長時間労働をしているにもかかわらず、

会社から残業代が支払われていないことがわかりました。

 

 

そこで、会社に対して、会社の転勤命令は無効であり、

自主退職手続きは無効であることから、

労働者としての地位が有ることの確認を求めて、

未払賃金を請求し、あわせて、残業代を請求することにしました。

 

 

残業代請求をするためには、労働者が、

この日に何時から何時まで働いたという、

労働時間を証明しなければなりません。

 

 

残業代請求事件では、この労働時間を証明するための証拠を

どうやって確保するのかが、極めて重要になります。

 

 

クライアントの会社には、タイムカードがなかったため、

どうやって労働時間を証明するかを考えたところ、

クライアントは、会社から貸与されたノートパソコンを用いて、

デスクワークをしていました。

 

 

 

デスクワークをしている労働者は、

出社した際に、パソコンの電源をいれ、

帰宅する際に、パソコンの電源を切ります。

 

 

そして、パソコンには、この電源をいれた時刻と電源を切った時刻である

ログデータが自動的に保存されています。

 

 

このパソコンのログデータを確保できれば、

クライアントが何時から何時まで働いたのかを証明できます。

 

 

とはいえ、パソコンは、会社が保管していますので、

労働者がログデータの開示を求めたとしても、

ログデータを勝手に消去するリスクがあります。

 

 

さらに、ログデータは、時間が経過した場合、

自動的に消去されるリスクがあります。

 

 

そこで、証拠保全という手続きを活用しました。

 

 

証拠保全とは、裁判官と供に、証拠が存在する現場へ行き、

証拠の現状を保存し、証拠を確保する手続きです。

 

 

この証拠保全の申立てが認められ、裁判官と供に、会社へ行き、無事に、

クライアントが使用していたパソコンのログデータを確保することに成功しました。

 

 

3 残業代請求で倍返しに成功

 

 

証拠保全手続きで入手した、クライアントのパソコンのログデータをもとに、

労働時間を特定し、残業代を計算しました。

 

 

残業代を計算したところ、400万円くらいの残業代になりましたので、

労働者としての地位の確認、未払賃金請求、残業代請求の裁判を提起しました。

 

 

争点の1つは、福岡への転勤が無効になるかです。

 

 

福岡への転勤が無効になれば、クライアントは、

業務命令違反にならず、退職の意思表示をしていないので、

会社が勝手にクライアントを退職させたことは、無効になります。

 

 

転勤といった、会社の配転命令は、

①業務上の必要性、

②不当な動機目的、

③労働者が被る不利益の程度、

という3つの判断要素を総合考慮して、有効か無効かが判断されます。

 

 

そこで、当方は、①福岡の人員が不足しているのであれば、

福岡の現地で人材を採用すればよく、

クライアントを金沢から福岡へ転勤させる必要がないこと、

②クライアントが、減給や年収が少ないことに抗議したことへの報復のため、

福岡への転勤を命令しているので、会社に不当な動機目的があること、

③クライアントには、病弱な幼い子供がおり、

石川県に家を建てたばかりであり、クライアントが福岡へ転勤する場合、

クライアントの不利益が大きいと主張しました。

 

 

しかし、転勤といった人事については、

会社に広い裁量が認められていることから、

裁判所は、転勤命令については、

無効とは判断できないという考えを抱いていました。

 

 

もう一つの争点である残業代請求については、

パソコンのログデータを確保できたおかげで、

クライアントが優位に裁判をすすめることができました。

 

 

会社からは、ログデータがあるからといって、

その時間、労働していたとはいえないという反論がありました。

 

 

しかし、会社には、労働時間を適正に把握する義務があります。

 

 

会社がタイムカードなどで、労働時間を把握していない以上、

ログデータなどの客観的な証拠で、労働時間が認定されるべきなのです。

 

 

そして、裁判の途中で、裁判所から、和解の提案がありました。

 

 

転勤命令については、当方に分が悪かったのですが、

残業代請求では、当方の言い分が認められる可能性が高いことから、

双方が歩み寄り、最終的には、会社は、クライアントに対して、

305万円の解決金を支払うことで和解が成立しました。

 

 

会社から、酷い仕打ちを受けて、打ちひしがれていたクライアントでしたが、

最終的には、305万円の解決金を獲得し、

会社の対応がおかしかったことが明らかにできて、

クライアントは、満足されました。

 

 

 

このように、会社から酷い仕打ちを受けた場合、

残業代請求で、倍返しができる可能性があります。

 

 

労働問題でお困りの場合には、お気軽に当事務所へお問い合わせください。

在職中の労働者が約2ヶ月の短期間で約500万円の未払残業代を回収した解決事例

1 解決事例の紹介

 

 

先日、未払残業代請求事件でうまく解決できたケースがありましたので、

本日は、解決事例を紹介します。

 

 

今年の9月中旬ころに、石川県内のある企業に勤務する

労働者2名の方から、残業代が未払になっている

との法律相談を受けました。

 

 

相談内容としましては、1ヶ月の残業時間が

80時間を超えることが頻繁にあり、

労働基準監督署が調査や指導しているにもかかわらず、

残業代が支払われていないというものです。

 

 

 

1ヶ月の残業時間が80時間を超えると、

過労死ラインを超えるのですが、

幸い、クライアントは、脳心臓疾患や精神疾患を発症していませんでした。

 

 

また、相手方の会社では、

タイムカードで労働時間が管理されており、

クライアントがタイムカードの写しを確保していたので、

労働時間の立証は問題なくでき、タイムカードの打刻漏れがあっても、

パソコンのログデータとメールの送信時刻で補充できました。

 

 

そのため、未払残業代請求は問題なく認められるだろうという

見通しがたちましたが、一つ気がかりなことがありました。

 

2 在職中の未払残業代請求のメリットとデメリット

 

 

それは、クライアントがまだ会社に在職している点です。

 

 

通常、未払残業代請求をするのは、会社を退職して、

会社と後腐れない関係になってからがほとんどです。

 

 

なぜならば、弁護士に依頼して未払残業代を請求することは、

会社にけんかを売るようなものなので、

会社に在職したまま、会社にけんかを売ると、

会社内で有形無形の圧力を受けて、会社に居づらくなり、

会社を退職せざるをえない状況に追い込まれるからです。

 

 

 

そのため、私は、これまでに何件もの

未払残業代請求の事件を担当してきましたが、

会社に在職したまま、クライアントが未払残業代請求をしたのは、

1件だけでした。

 

 

そして、その1件の未払残業代請求事件のクライアントは、

事件が終了した後に、会社を退職しました。

 

 

会社に在職しながら、未払残業代請求をするのは、

かなり強いメンタルをもっていないとできないものです。

 

 

さて、本件事件のクライアントは、強い意思をもって、

会社に対して、未払残業代請求をするという

強靭なメンタルをもっておられました。

 

 

また、未払残業代請求を1人ではなく、2人でしたので、

会社内に仲間がいたので、会社から圧力を受けても、

2人で協力して、はねのけることができました。

 

 

なお、会社から不当な圧力を受けた場合に備えて、

クライアントに対して、会社で働いてる時間帯は、

常時、録音をするようにアドバイスしました。

 

 

他方、会社に在職中に未払残業代請求をする場合には、

メリットもあります。

 

 

それは、証拠を簡単に入手できることです。

 

 

会社で勤務しているので、タイムカードや就業規則のコピーをとったり、

パソコンのログやメールなどの電磁記録を簡単に入手できるのです。

 

 

退職した後に、未払残業代請求をする場合には、まずは、

労働時間を立証するための証拠を確保できるかに頭を悩ませられ、

パソコンのログやメールのデータを入手するために、

証拠保全という裁判手続を実施することもあります。

 

 

また、時効を中断しておけば、在職中も残業が続いていれば、

未払残業代の金額が増え続け、請求できる金額が多くなります。

 

 

さらに、会社が労働基準法に違反して、

違法に残業代の請求を免れようとしている証拠も入手することができ、

これは、在職中でないとできないことでした。

 

 

このように考えますと、会社からの不当な圧力に耐えられる労働者や、

複数人で団結できる場合には、

在職中に未払残業代請求をするのがよいと思います。

 

 

本件事件では、私がクライアントの代理人として、

相手方会社に対して、未払残業代請求をしたところ、

会社は、あっさりとこちらの請求を認めてくれて、

遅延損害金をカットした未払残業代の元金をほぼ満額回収できました。

 

 

クライアントは、給料が割と高く、長時間残業をしていたので、

未払残業代の金額は高く、クライアント1人当たり、

約500万円の未払残業代を回収することができました。

 

 

事件の依頼を受けて、約2ヶ月の短期間で

約500万円の未払残業代を回収できましたので、

クライアントに喜んでいただけました。

 

 

クライアントは、今も、相手方の会社で無事に、

勤務を続けています。

 

 

残業代の未払については、

労働問題に詳しい弁護士にご相談してみてください。

 

 

参考までに当事務所の未払残業代請求のサイトを紹介します。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/service/roudou/zangyou

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

富士そばの未払残業代請求事件から労働時間の適正把握義務を検討します

1 富士そばの未払残業代請求事件

 

 

立ち食いそばチェーンの富士そばを経営する

ダイタングループの労働者16人が

未払残業代など合計約2億4785万円の支払を求める

労働審判の申立てをしました。

 

 

https://www.bengo4.com/c_5/n_11999/

 

 

報道によりますと、富士そばでは

勤務表の改ざんが行われていたようです。

 

 

 

具体的には、土日出勤や8時間を超えた分の勤務を削除し、

1日の労働時間が8時間、1週間の労働時間が40時間

におさまるようにして、土日出勤はなかったように改ざんされたようです。

 

 

また、会社の役員から、タイムカードを押さずに

勤務するよう指示もあったようです。

 

 

このような改ざんをされたのは店長のようです。

 

 

上記のことが真実であれば、ダイタングループは、

労働時間の適正把握義務に違反したことになります。

 

 

本日は、労働時間の適正把握義務について解説します。

 

 

2 労働時間の適正把握義務

 

 

まず、平成29年1月20日、

労働時間の適正な把握のために事業者が講ずべき措置に関するガイドライン

が公表されました。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf

 

 

このガイドラインにおいて、会社は、タイムカードなどで、

労働者の労働時間を適正に把握しなければならない義務

を負っていることが明記されました。

 

 

もっとも、このガイドラインでは、

労働基準法41条2号の管理監督者や、

みなし労働時間制が適用される労働者は、

適用対象から除外されていました。

 

 

次に、平成30年6月29日に労働安全衛生法が改正されて、

労働安全衛生法66条の8の3という条項において、会社は、

労働者の労働時間の状況を把握しなければならないと規定されました。

 

 

労働時間の状況の把握とは、

労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、

労務を提供し得る状態だったかを、

タイムカード等の客観的な記録で把握するということです。

 

 

この労働安全衛生法の労働時間把握義務の対象となる労働者には、

労働基準法41条2号の管理監督者や、

みなし労働時間制が適用される労働者も含まれることになります。

 

 

そのため、現時点では、管理監督者であっても、

労働時間を適正に把握しなければならないのです。

 

 

 

労働時間を把握するためには、

出社時刻と退社時刻を客観的に正確に記録することが必要でして、

タイムカードや勤務表を後から改ざんすることは、

労働時間の適正把握義務に違反することになります。

 

 

そして、会社が労働時間の適正把握義務に違反した場合、

労働者による労働時間の立証がうまくいかなかったとしても、

裁判所は、推計的な手法を用いて、

未払残業代請求を認めてくれる傾向にあります。

 

 

また、労働基準法41条2号の管理監督者とは、

経営者と一体的な立場にある者であり、

かなり厳格に判断されます。

 

 

そのため、店長だからといって、

労働基準法41条2号の管理監督者と認められるケースは

少ないと考えられます。

 

 

以上、まとめますと、そもそも労働基準法41条2号の

管理監督者に該当する者は少なく、

会社は、労働時間の適正把握義務を負っており、

これに違反した場合には、労働者の労働時間の立証が容易になるのです。

 

 

富士そばの労働審判において、

労働者の未払残業代請求が認められることを期待したいです。

 

 

なお、残業代請求については、

当事務所の次のホームページが参考になります。

 

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

始業時刻前の早出残業は労働時間ではないという会社側の主張に対する効果的な反論とは

1 始業時刻前の早出残業は労働時間ではないのか

 

 

未払残業代請求事件では、会社側から、

始業時刻前の早出残業については、

労働時間とは認められないという主張がされることがあります。

 

 

労働契約書や就業規則で決められた始業時刻よりも前に、

早目に出社した場合には、早目に出社して仕事をしていても

残業とはみなさないという主張です。

 

 

 

終業時刻後の残業については、

労働時間と認められることがほとんどですが、

始業時刻前の残業については、

労働時間と認めないと判断した裁判例もあるので、

会社側は、このような主張をしてくることがあります。

 

 

それでは、始業時刻前の早出残業については、

労働時間と認められないのでしょうか。

 

 

結論としては、事情によっては、

始業時刻前の早出残業についても、

労働時間と認められることはあります。

 

 

2 労働時間の定義と黙示の指示

 

 

まず、労働基準法の労働時間とは、

労働者が会社の指揮命令下に置かれている時間をいいます。

 

 

会社の指揮命令下に置かれているとは、

会社から残業を命じられるという明示の指示がある場合が典型です。

 

 

もっとも、明示の指示以外に、

会社からの黙示の指示に基づく場合でも、

会社の指揮命令下に置かれたことになるのです。

 

 

この黙示の指示については、

労働者が規定と異なる出退勤を行って残業をしており、

そのことを認識している会社が異議を述べていない場合や、

業務量が所定労働時間内に処理できないほど多く、

時間外労働が常態化している場合に認められます。

 

 

3 黙示の指示が認められた裁判例

 

 

具体的な事例でみてみましょう。

 

 

京都銀行事件の大阪高裁平成13年6月28日判決

(労働判例811号5頁)では、

始業時刻は8時35分からになっていたのですが、

8時15分から金庫の開扉の準備作業が行われていたこと、

融得会議などの会議が開催されていたことから、

始業時刻前の8時15分から8時35分までが労働時間と認定されました。

 

 

この事件では、多くの銀行員が8時ころまでに出勤しており、

銀行の業務としては金庫を開きキャビネットを運び出し、

それを各部署が受け取り、業務の準備がなされていたことなどが、

労働時間の認定の際に考慮されました。

 

 

他の労働者の勤務実態や、準備作業と本業との関連性などが、

黙示の指示の判断の際に考慮されるといえそうです。

 

 

 

もう一つ、黙示の指示が認めれた事例として、

東京都多摩教育事務所(超過勤務手当)事件の

東京高裁平成22年7月28日判決

(労働判例1009号14頁)があります。

 

 

この事件では、正規の勤務時間内に完了できない業務を与えられていて、

正規の勤務時間以外の時間や休日に業務を行っていたこと、

時間外勤務が公務の円滑な遂行に必要な行為であったこと、

上司が超過勤務があることを知って容認していたこと、

といった事情が考慮されました。

 

 

決められた勤務時間では終わらない量の仕事を与えられていて、

上司が残業していることを黙認しているような場合には、

黙示の指示が認められやすくなるのです。

 

 

以上まとめますと、始業時刻前の早出残業については、

勤務時間内に処理できないほどの業務量が与えられていたこと、

上司が残業を認識していて異議を述べていないこと、

他の労働者の勤務実態、準備作業が本業と関連していること、

などの事情があれば、黙示の指示に基づく残業として、

労働時間と認定されて、残業代請求が認められることになるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。