手当の不正受給による懲戒解雇と退職金の不支給

先日,アルバイトによる不適切な動画がSNSに投稿されたことで,

大戸屋が店舗を休業して,アルバイトに対して,研修を行いました。

 

 

 

 

このようなバイトテロに対して,会社は,

懲戒処分や損害賠償請求をすることが多くなる可能性があります。

 

 

労働者の不祥事について,会社が,労働者に対して,

懲戒処分をした場合,労働者が,

懲戒処分に該当する行為をしていない,

懲戒処分は重すぎるなどと主張して,

懲戒処分を争うことがあります。

 

 

本日は,労働者が会社の諸手当を不正受給して懲戒解雇されて,

退職金が不支給となったことが争われたKDDI事件を紹介します

(東京地裁平成30年5月30日判決・労働判例1192号40頁)。

 

 

この事件の原告は,もともと長女と同居していたのですが,

長女が大学に進学して,長女と別居していたにもかかわらず,

長女と同居したままとして,住宅手当を多く取得しました。

 

 

また,原告は,長女と別居していたので,

被告会社の単身赴任基準を満たしていないにもかかわらず,

被告会社に対して,異動に伴いそれまで同居していた長女との

別居を余儀なくされたと虚偽の事実を申告して,

被告会社に誤認させて,単身赴任手当を不正に受給しました。

 

 

その他にも,原告は,社宅の賃料を不正に免れたり,

帰省旅費を不正に受給したりして,被告会社に対して,

合計約400万円の損害を与えました。

 

 

 

 

原告の不正行為には,会社に対する届出を忘れたという性質

がある反面,積極的に事実を偽り,会社を騙した詐欺の性質もあり,

3年以上の期間にもわたって不正が行われていたことから,

原告と被告会社が雇用関係を継続する前提となる

信頼関係が回復困難なほどに毀損されたと判断されました。

 

 

さらに,原告には,過去に2日間の停職の懲戒処分歴があり,

被告会社に対して,明確な謝罪や被害弁償がないことから,

懲戒解雇は有効と判断されました。

 

 

会社の金銭の不正受給に対する懲戒処分の場合,

重い懲戒処分がなされても,有効となる傾向にあると思います。

 

 

懲戒解雇が有効の場合,多くの会社では,

退職金を不支給にするか減額する規定を設けていることが多いです。

 

 

本件事件でも,懲戒解雇の場合は,退職金を不支給にする

規定があったため,被告会社は,原告の退職金を不支給にしました。

 

 

しかし,退職金には,賃金の後払い的性格と功労報償的性格の2つ

があり,退職金の不支給や減額をするには,

労働者のそれまでの長年の勤続の功を抹消ないし減額してしまうほどの

著しく信義に反する行為があった場合に限られる

とするのが裁判所の立場です。

 

 

退職金の賃金の後払い的性格を重視すれば,

不支給や減額を否定する方向に働き,

退職金の功労報償的性格を重視すれば,

労働者の非違行為の内容によっては,

不支給や減額も肯定されるのですが,

それでも抑制的に判断されています。

 

 

 

本件事件においても,原告の非違行為の性質は悪質ではあったものの,

裁判所は,原告の30年以上の勤続の功を完全に抹消したり,

そのほとんどを減殺するものとはいえず,

退職金のうちの6割を不支給として,

退職金の4割を支給することを命じました。

 

 

これまでに,さまざまな事件で,

懲戒解雇と退職金の不支給や減額が争われてきましたが,

懲戒解雇の場合に,退職金を不支給とすることが

認められた裁判例はないと思います。

 

 

労働者としては,懲戒解雇が有効となっても,

退職金がいくらか支給される可能性があることを知っておいてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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