派遣先会社の上司による派遣社員に対するパワハラ

先日,ブログに記載しましたが,パワハラについては,

①パワハラの事実を証明できるのか,

②違法なパワハラと評価できるのか,

③損害額はいくらになるのか,

という3つのハードルがあります。

 

 

このハードルのうち,

②違法なパワハラと評価できるのかと,

③損害額はいくらになるのかについては,

ケースバイケースで判断していくしかないので,

パワハラに関する裁判例を多く分析しておくことが

効果的だと考えています。

 

 

そこで,本日は,派遣先会社の上司の派遣社員に対する叱責が

パワハラと判断されたアークレイファクトリー事件を紹介します

(大阪高裁平成25年10月9日判決・労働判例1083号24頁)。

 

 

この事件では,派遣社員である原告が,派遣先会社の上司から,

「殺すぞ」,「お前」,「あほ」,「休みやがって確信犯やな」,

「頭の毛,もっとチリチリにするぞ。ライターで」,「崖から落ちろ」

などの暴言をはかれて叱責されたことが,

業務上必要かつ相当な範囲を超えた

違法なパワハラに該当するかが争点となりました。

 

 

 

特に,この事件で注目すべき点は,

被害者である労働者が派遣社員という,

不安定な雇用状況にある者であり,

派遣先会社の上司からの発言に対して,

容易に反論することが困難であり,

弱い立場にある労働者へのパワハラが

問題になったということです。

 

 

裁判所は,上司が部下を叱責する際の注意点として,

次のように判断しました。

 

 

監督者が監督を受ける者を叱責し,あるいは指示を行う際には,

労務遂行の適切さを期する目的において

適切な言辞を選んでしなければならないのは当然の注意義務

であるとしました。

 

 

ようするに,上司は,部下の反省を促し,成長を促す目的で,

適切な言葉を使って部下を叱責しなければならないのです。

 

 

そして,本件事件では,上司の言動はいかにも粗雑で,

極端な表現を用い,配慮を欠く態様で指導されており,

監督を受ける部下としても,上司の発言が真意でないことを

認識しえるとしても,日常的にこのような上司の監督を

受任しなければならないものではないと判断されました。

 

 

 

 

やはり,上司には,労務遂行上の指導・監督を行うにあたり,

そのような言動をもってする指導が

部下との人間関係や部下の理解力を考慮して,

適切に指導の目的を達成して,その真意が

伝わっているかを注意すべき義務があるのです。

 

 

このように,上司が部下を叱責する際の注意義務について

詳細に分析されているので,参考になります。

 

 

この事件では,部下が当惑や不快の意思を示しているのに,

上司は上記の暴言を繰り返していたので,

この上司の叱責は嫌がらせや侮辱といえ,

違法なパワハラであると認定されました。

 

 

もっとも,この上司には,強い害意や

常時嫌がらせの指向があるわけではなく,

態様としても受け止めや個人的な感覚によっては,

単なる軽口として聞き流すことも不可能ではない,

多義的な部分も多く含まれているとして,

慰謝料としては30万円しか認められませんでした。

 

 

慰謝料の金額で不十分な点があるものの,

正社員と派遣社員との支配関係に着目して,

上司が部下を叱責するときの注意義務が

具体的に明らかにされた点において参考になる裁判例です。

 

 

 

派遣先会社の上司による派遣社員への叱責は,

違法なパワハラとやや認定されやすくなるかもしれません。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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