海外旅行の添乗員に事業場外みなし労働時間制が適用されるのか

1 事業場外みなし労働時間制とは

 

 

先日のブログで,外回りの営業マンの

事業場外みなし労働時間制に関する解決事例を紹介しました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201910288691.html

 

 

本日は,この事業場外みなし労働時間制に関する

阪急トラベルサポート事件の最高裁平成26年1月24日判決

(労働判例1088号5頁)を紹介します。

 

 

まず,労働基準法38条の2に規定されている,

事業場外みなし労働時間制とは,

会社の外で行なわれる労働については,

会社の指揮監督の及ばない労働もあり,その場合には,

会社が当該労働を行う労働者の実際の労働時間を把握することが

困難であるので,その限りで,会社の実際の労働時間の把握や算定の

義務を免除するという制度です。

 

 

もう少し具体的に説明すると,

みなし労働時間が8時間の場合,実際には,

会社の外で11時間労働したとしても,

8時間だけ労働したものとみなされて,

会社は,3時間分の残業代を支払わなくてもよくなるのです。

 

 

2 阪急トラベルサポート事件

 

 

さて,この事業場外みなし労働時間制が最高裁まで争われたのが,

阪急トラベルサポート事件です。

 

 

 

この事件は,海外旅行の添乗員に

事業場外みなし労働時間制が適用されるかが争われました。

 

 

事業場外みなし労働時間制が適用されるのは,

会社の外での労働について,「労働時間を算定し難いとき」

に限られますので,会社の外で働いている,

海外旅行の添乗員の労働時間を算定し難いといえるかが争点となりました。

 

 

この事件の原告である海外旅行の添乗員の

仕事の性質・内容は次のとおりでした。

 

 

・ツアー参加者に配布される最終の日程表に,

ツアー中の発着地,目的地,出発・到着時刻,所要時間

などの旅行日程が定められていること

 

 

・旅行日程は,会社とツアー参加者の契約内容になっていて,

ツアー参加者の了解なく,旅行内容を変更すると,

会社からツアー参加者に対して,

変更補償金の支払いが必要となるので,添乗員は,

旅行日程の変更が必要最低限になるように

旅行日程の管理をすることが求められていたこと

 

 

また,原告と会社との間の

業務の指示や報告の方法・内容は次のとおりでした。

 

 

・ツアー開始前に,会社は,添乗員に対し,

最終日程表を渡し,観光の内容や手順を示して,

マニュアルに従った業務を行うことを命令していたこと

 

 

・ツアーの実施中,会社は,添乗員に対し,

携帯電話を所持して常に電源を入れておき,

ツアー参加者との間でクレームが発生したり,

旅行日程の変更が必要なときには,

会社に報告して,指示を受けることを求めていたこと

 

 

・ツアーの終了後に,会社は,添乗員に対し,

添乗日報を提出させて,

仕事の遂行の状況の正確かつ詳細な報告を求めていたこと

 

 

 

以上のような仕事の性質,内容や仕事の遂行の態様,状況,

会社と添乗員との間の仕事に関する指示,報告の方法,内容や

その実施の態様,状況から,添乗員の勤務状況を

具体的に把握することが困難であったとは認めがたいので,

事業場外みなし労働時間制は適用されないとされました。

 

 

結果として,原告の未払残業代請求が認められました。

 

 

この最高裁判例によって,①業務の性質・内容と,

②会社と労働者との間の仕事に関する指示及び報告の方法・内容という

2つの要素を考慮して,会社が労働者の仕事の状況を

具体的に把握することが困難であるかどうかが

ポイントになることがわかりました。

 

 

今後の,事業場外みなし労働時間制を争う事件の参考になる

重要な裁判例ですので,紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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