会社が倒産したときに未払賃金分を取締役に対して損害賠償請求できるのか

1 取締役の第三者に対する責任

 

 

昨日のブログでは,会社が倒産して,給料が支払われないときには,

未払賃金の立替払制度を利用することが効果的であると解説しました。

 

 

もう一つ,会社の社長などの取締役に対して,

未払賃金分の損害賠償請求をするという方法があります。

 

 

前提として,労働者に対して,労働契約に基づいて

賃金の支払義務を負っているのは会社なので,労働者は,

直接には,社長個人に対して,未払賃金を支払えとは言えないのです。

 

 

しかし,給料を支払う意思がないのに働かせた上での

賃金不払いといった悪質性の特に強い事案においては,

社長個人に対して,未払賃金分の損害賠償請求ができないかを検討します。

 

 

 

この社長個人に対する損害賠償請求をするときの法律根拠が,

会社法429条に基づく取締役の第三者に対する責任というものです。

 

 

会社の社長などの取締役が,会社の管理や運営を

適正に行うことを確保するために,取締役は,

善良な管理者の注意義務をもって,

会社から委任を受けた事務を処理する義務を負っています。

 

 

これを取締役の善管注意義務といいます。

 

 

取締役がこの善管注意義務に違反すると,

会社の任務を怠ったと評価され,

それによって第三者に損害が発生した場合に,

取締役は,第三者に対して,損害賠償責任を負います。

 

 

第三者には,会社の労働者も含まれます。

 

 

2 取締役に対して未払賃金分の損害賠償請求が認められた裁判例

 

この取締役の第三者に対する責任追及を根拠に,

取締役に対する,未払賃金分の損害賠償請求が認められたケースとして,

ブライダル関連会社元経営者ら事件の

鳥取地裁平成28年2月19日判決があります

(労働判例1147号83頁)。

 

 

この事件では,会社が事実上の倒産状態となり,

給料が未払とされた労働者が,代表取締役と取締役に対して,

未払賃金分の損害賠償請求をしました。

 

 

取締役は,会社をして使用者の労働者に対する基本的義務である

給与の支払日における全額支払の履行に漏れがないようにするために,

その時点における最善の努力を尽くすべきであり,そのことは,

取締役の善管注意義務の内容になっているので,この努力を怠ることは,

取締役の任務懈怠と評価されると判断されました。

 

 

そして,取締役は,会社経営が困難な状況にこそ,

事態を放置することは会社の財務状況をますます悪化させ,

労働者の損害をさらに拡大するのであるから,

損害の拡大を阻止するために,可能な限り,

最善の方法を選択,実行すべき善管注意義務を負っているのです。

 

 

 

本件の代表取締役は,給料が未払であることを認識しており,

そのような意図的な給料未払という事態は,すでにそれ自体として,

取締役に期待される最善の努力を尽くしていないとして,

代表取締役に対する損害賠償請求か認められました。

 

 

また,本件の取締役は,代表取締役の行為を監視し,

会社経営に関して適切な意見を具申すべき義務があるのに,

これを怠ったとして,取締役に対する損害賠償請求も認められました。

 

 

このように,意図的に給料を未払にして放置しているような

事案であれば,まだ十分に資力がありそうな取締役に対して,

未払賃金分の損害賠償請求をすることを検討してみる必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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