過労死した飲食店の店長の労災保険給付金の算定と固定残業代

1 給付基礎日額とは

 

 

労災保険から支給される保険給付金は,

給付基礎日額をもとに算定されます。

 

 

後遺障害が残ったときに支給される障害補償給付や,

被災労働者が死亡したときにご遺族に支給される遺族補償給付は,

給付基礎日額の何日分として支給されるのです。

 

 

 

この給付基礎日額は,労災事故が発生した日の直前3ヶ月間の

賃金の総支給額を日割り計算したものをいいます。

 

 

2 給付基礎日額の計算には未払残業代も含まれる

 

 

給付基礎日額を計算するうえで,

残業代が含まれているのかをチェックする必要があります。

 

 

給付基礎日額を計算するための賃金の総支給額を算出するにあたり,

現実に支払われた賃金だけではなく,実際には支払われていなくても,

労働基準法の適用上支払われるべき賃金債権も含まれるのです。

 

 

そのため,会社が残業代を支払っていなくても,

給付基礎日額の計算においては,

未払残業代を含めて給付基礎日額を計算するのです。

 

 

労災認定されたけれども,直前3ヶ月間に長時間労働をしていたのに,

未払残業代が給付基礎日額に反映されていない場合には,

審査請求などの不服申立をして,是正を求める必要があります。

 

 

3 給付基礎日額の計算に固定残業代も含まれるのか

 

 

さて,この給付基礎日額の計算にあたり,

固定残業代を賃金の総支給額に算入してもよいのかについて,

労働者に有利な判決がありました。

 

 

国・茂原労基署長(株式会社まつり)事件の

東京地裁平成31年4月26日判決です(労働判例1207号56頁)。

 

 

この事件では,過労死した飲食店の店長のご遺族が労災申請して,

労災認定されたのですが,遺族補償給付の給付基礎日額の計算にあたり,

超過勤務手当10万円,深夜業手当5000円の固定残業代が

算入されていなかったため,ご遺族が審査請求したのですが,

認められなかったため,取消訴訟を提起しました。

 

 

固定残業代が有効になるためには,

固定残業代が時間外労働の対価として支払われている必要があります。

 

 

 

この対価性の要件を検討するには,

労働契約書の記載内容のほか,

会社による当該手当の説明の内容,

労働者の実際の労働時間の勤務状況を考慮して決めます。

 

 

この事件では,労働契約が口頭でなされており,

契約書が作成されていないこと,

会社が労働契約締結時に固定残業代と割増賃金の

関係について説明していないことから,

固定残業代が時間外労働の対価として

支払われているものとはされていないと判断されました。

 

 

その結果,給付基礎日額の計算において,

固定残業代を賃金の総支給額に算入すべきこととなり,

遺族補償給付の金額が増額されました。

 

 

過労死事件でも,固定残業代を無効として争うことで,

給付基礎日額が増えて,ご遺族に支給される

遺族補償給付の金額が増える可能性があるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労災民事訴訟では安易に素因減額が認められるべきではない

1 素因減額とは

 

 

先日ブログで,パチンコ店において,

上司からパワハラを受けて,うつ病を発症したことについて,

損害賠償請求をした松原興産事件の

大阪高裁平成31年1月31日判決

(労働審判1210号32頁)を紹介しました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201912258870.html

 

 

この事件では,上司の部下に対するパワハラの存在以外にも,

もう一つ大きな争点がありました。

 

 

それが素因減額です。

 

 

素因とは,損害の発生や拡大に寄与する

被害者の肉体的・精神的要因のことです。

 

 

被害者の心因的要因や既往症が損害の発生や拡大に

寄与している場合には,損害の公平な分担という考え方から,

この素因を斟酌して,損害額を減額できるというものです。

 

 

労災事故における損害賠償請求の訴訟では,

既往症,被災労働者の性格,通院歴や投薬歴といった事情が素因として,

損害賠償請求の減額事由になるかが,争われることがあります。

 

 

松原興産事件では,原告の労働者は,

パワハラを受けてからうつ病を発症し,5年6ヶ月経過しても,

うつ病による就労不能状態が続いていました。

 

 

 

被告会社としては,ここまで治療が長引くのは

原告労働者の脆弱性や生活態度が寄与しているとして,

素因減額を主張しました。

 

 

2 素因減額が認められるのはどのような場合か

 

 

このように,労働者の個性や性格を理由に

素因減額ができるのかについては,

電通事件の最高裁平成12年3月24日判決が

判断基準を示しています。

 

 

すなわち,人間の性格や個性はそもそも多種多様であり,会社は,

そういった個人のそれぞれの多様性を前提に労働者を雇用し,

配置先や仕事内容を決めます。

 

 

そのため,労働者の性格が同じ仕事に従事する労働者の

個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものではない場合には,

労働者の性格や業務遂行の態様を,

心因的要因として考慮することはできないとしました。

 

 

 

ようするに,よほど変わった性格でない限り,

性格を理由に素因減額はされないというわけです。

 

 

とくに,労働者がパワハラなどの強いストレスが生じる以前には,

特に支障なく仕事をしていたのであれば,

このことがよりいっそう,あてはまるわけです。

 

 

松原興産事件でも,労働者が5年6ヶ月治療しても

うつ病が治らないことについて,労働者の個性の多様さとして

通常想定される範囲を外れるものではないとして,

素因減額は認められませんでした。

 

 

そして,被告会社がパワハラを放置して

原告労働者を退職に追い込んだこと,

裁判で事実に反することを主張して反省していないことから,

慰謝料として500万円という高額が認められました。

 

 

労災民事訴訟では,労働者の性格を理由に,

安易に損害賠償額が減額されるべきではないのです。

 

 

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労災申請をするときに会社から事業主の証明欄の署名押印を拒否されたときの対処法

1 楽天のパワハラ労災事件

 

 

ここ2日間,楽天における上司の部下に対する暴行の

パワハラ労災事件について,記載してきました。

 

 

もう一つ,楽天のパワハラ労災事件で気になったことがあります。

 

 

それは,マスコミ報道によりますと,被災労働者が楽天に対して,

労災申請書の事業主の欄の署名押印を求めたところ,

楽天がこれを拒否したということです。

 

 

本日は,会社から労災申請書の事業主の欄の

署名押印を拒絶されたときの対処法について解説します。

 

 

 

2 労災保険の請求をするのは誰か

 

 

まず,労災保険の請求人は,被災労働者またはそのご遺族です。

 

 

そのため,被災労働者またはそのご遺族が,

被災労働者の勤務先を管轄する労働基準監督署に,

労災申請書を提出することになります。

 

 

ただ,実際には,会社や会社と契約している社会保険労務士が,

労災申請の手続を代行することが多いです。

 

 

労災申請書には,労働保険番号を記入したり,

事業主の証明欄に署名押印する必要があることから,

会社が代行したほうが,スムーズに手続が進むことから,

会社が代行することが多いのです。

 

 

3 会社が労災申請手続を代行するときの注意点

 

 

もっとも,会社に労災申請手続を代行してもらう場合に

注意する点があります。

 

 

それは,労災申請書の「災害の原因及び発生状況」の欄に,

被災労働者が納得できる労災事故原因が記載されているかです。

 

 

会社は,労働基準監督署からの調査や

被災労働者からの損害賠償請求をおそれて,

会社に有利なように「災害の原因及び発生状況」

の欄を記載することがあります。

 

 

そのため,被災労働者としては,

会社に労災申請手続を代行してもらう場合には,

会社に任せきりにするのではなくて,

会社が労働基準監督署に対して,労災申請書を提出する前に,

「災害の原因及び発生状況」の欄を自分でチェックするべきです。

 

 

 

被災労働者が,「災害の原因及び発生状況」の欄をチェックした結果,

事実と異なる記載がされていた場合には,会社に,訂正を求めるべきです。

 

 

もし,被災労働者が,会社との関係が悪化するのをおそれて,

会社に訂正を求めるのが困難な場合には,

労災申請書とは別に,労災事故が発生した原因をまとめた文書を

労働基準監督署に提出する方法があります。

 

 

4 事業主の証明欄が空白でも労災申請はできる

 

 

次に,会社に労災申請手続を代行してもらうのではなく,

被災労働者が自分で労災申請をしようとして,

会社に,事業主の証明欄に署名押印を求めたところ,拒否された場合,

拒否されたことを労働基準監督署に説明して,

事業主の証明欄を空白のまま提出すればいいのです。

 

 

労災保険法施行規則23条により,会社は,

被災労働者から労災申請書の事業主の証明欄に署名押印を求められた場合,

すみやかに証明しなければならないという

労災申請に助力する義務を負っています。

 

 

それにもかかわらず,労災申請書に被災労働者が記載した

「災害の原因及び発生状況」の内容に,会社が納得しない場合には,

会社は,事業主の証明欄の署名押印を拒否することはよくあります。

 

 

労災申請において,事業主の証明は必須ではないので,

会社から事業主の証明欄の署名押印を拒否されたことを説明すれば,

労働基準監督署は労災申請を受理してくれるのです。

 

 

もっとも,一度も,会社に事業主の証明を求めることなく,

事業主の証明欄を空欄のまま労災申請書を提出すると,

労働基準監督署から補正の指示があります。

 

 

そこで,会社に対して,文書で

労災申請書の事業主の証明欄に署名押印をすることを求めます。

 

 

この文書には,いつまでに返答することと,

事業主の証明欄に署名押印ができない場合には,

送った労災申請書を返却してほしいことを記載します。

 

 

このように,会社から,事業主の証明欄に署名押印してもらえなくても,

労災申請をすることができますので,被災労働者は,

会社からの協力がえられなくても,

労災申請をあきらめる必要はないのです。

 

 

なお,労災保険とは異なり,

健康保険の傷病手当金の申請をする場合には,

会社の証明が必要になりますので,注意が必要です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

楽天の上司による暴行事件から職場における暴行の労災認定を解説します

1 楽天における上司の暴行が労災と認定されました

 

 

楽天に勤務していた労働者が,

仕事中に上司から暴行を受けて,

頚椎不全損傷とうつ病を発症し,

渋谷労働基準監督署から労災認定を受けたようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASMD55228MD5ULFA01F.html

 

 

マスコミ報道によりますと,会社内のチーム会議において,

会議参加者の発言について,被災労働者が意見を述べたところ,

上司が突然激高して,被災労働者の首付近をつかんで持ち上げて,

壁際に押さえつけるという暴行をしたようです。

 

 

 

被災労働者と上司との関係がよくなかったといった事情はないようです。

 

 

2 職場における暴行で労災認定される場合とは

 

 

このように職場において暴行が行われた場合に,

労災と認定されるのはどのような場合なのでしょうか。

 

 

まず,労災と認定されるためには,

仕事が原因となって負傷したことが必要となります。

 

 

これを業務起因性といいます。

 

 

別の言い方をすれば,業務に内在する危険が

現実化したものによると認められることです。

 

 

職場で上司や同僚から暴行を受けた場合,

業務に内在する危険が現実化したといえるのかが

争われることがあります。

 

 

例えば,工事現場の監督者が作業員に対して,

きつい口調で注意したところ,

作業員から足で背中を蹴られるという暴行を受けたことについて,

業務起因性が争われた新潟労基署長(中野建設工業)事件の

新潟地裁平成15年7月25日判決(労働判例858号170頁)

を紹介します。

 

 

この事件では,監督者は,作業員に対して,

「親のしつけがなっていない。私生活がいい加減だ。

親がバカならお前もバカだ」と言っていたようです。

 

 

裁判所は,労働者が業務遂行中に同僚や部下から

暴行という災害によって負傷した場合には,

当該暴行が職場での業務遂行中に生じたものである限り,

当該暴行は労働者の業務に内在する危険が現実化したものと

評価できるのが通常であると判断しました。

 

 

原則として,仕事中に暴行を受けた場合には,

業務起因性が認められるということです。

 

 

もっとも,例外として,当該暴行が被災労働者との私的怨恨

または被災労働者による業務上の限度を超えた

挑発的行為若しくは侮辱的行為によって生じたものであれば,

業務起因性が否定されます。

 

 

 

この判断にあたっては,暴行が発生した経緯,

被災労働者と加害者との間の私的怨恨の有無,

被災労働者の職務の内容や性質(他人の反発や恨みをかいやすいものか),

暴行の原因となった業務上の事実と暴行との時間的・場所的関係

などが考慮されます。

 

 

この事件では,監督者には作業員に対する挑発的行為,

侮辱的行為があったのですが,監督者の指示に対して

反抗的な態度をとったことに対する戒めの意味も込められた発言

と評価され,監督者の仕事上の指示,注意という業務に関連して,

暴行が発生したと判断されたのです。

 

 

3 楽天事件へのあてはめ

 

 

楽天の事件では,もともと被災労働者と上司の関係は問題なく,

会議中の被災労働者の発言をきっかけに,

上司が激高して暴行したようなので,

業務起因性が認められたのだと思います。

 

 

そして,当該暴行によって,被災労働者は頚椎不全損傷となったので,

精神障害の労災認定基準の別表1の心理的負荷評価表によれば,

「治療を要する程度の暴行を受けた」に該当し,

心理的負荷は強と判断されたと考えられます。

 

 

職場で暴行が行われるのは悲しいことなので,

このようなことがおこらないことを願います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

過労死の労災認定において本業と副業の労働時間と賃金が合算されるようになります

1 副業をする労働者が増えています

 

 

働き方改革関連法が成立し,

残業時間の上限規制が導入されることになり,

企業が残業時間を削減する流れになってきています。

 

 

残業がなくなることで,残業手当が削減されて,

収入が減少する労働者がでてくることが予想されます。

 

 

この残業手当の削減により,

収入が減少する労働者が収入を維持するために,

残業時間がなくなった分を副業で稼ぐことが考えられます。

 

 

 

また,これからは,同じ会社でずっと働くのではなく,

いつかは自分で独立することも増えていくことが予想され,

独立をみすえて,副業でスキルアップを図ることも考えられます。

 

 

そして,政府としても,イノベーションのために,

副業を推進しています。

 

 

とはいえ,本業で働き,副業でも働くことになると,

単純に労働時間が増えて,過労に陥りやすくなる懸念があります。

 

 

そこで,副業をする労働者が増加していく現状をふまえて,

副業をする労働者が安心して働くことができるように,

副業をする労働者の労災保険給付の見直しが検討されています。

 

https://www.asahi.com/articles/ASMDB43F0MDBULFA00L.html

 

 

本日は,副業における労災保険給付の見直しについて説明します。

 

 

2 過労死の労災認定基準

 

 

まず,働き過ぎで疲労が蓄積して,脳や心臓の病気にかかり,

死亡する過労死において,現在の労災認定基準では,

発症前1ヶ月におおむね100時間,または,

発症前2ヶ月から6ヶ月にわたって1ヶ月当たりおおむね80時間

を超える時間外労働が認められれば,原則として労災と認定されます。

 

 

この1ヶ月80時間から100時間の時間外労働が,

いわゆる過労死ラインと呼ばれているものです。

 

 

例えば,本業の仕事で1週間40時間働き,

副業の仕事で1週間25時間働いたケースで考えてみます。

 

 

時間外労働は,1週間で40時間を超えて働いた労働なので,

本業では時間外労働がなく,副業でも時間外労働がないことになります。

 

 

1ヶ月を4週で計算すると,

本業では40時間×4週=160時間となり,

時間外労働はゼロとなり,

副業では25時間×4週=100時間となり,

時間外労働はゼロとなります。

 

 

そのため,本業の労働時間と副業の労働時間を別々に算定すれば,

時間外労働は1ヶ月0時間となり,労災認定されないのです。

 

 

3 副業における労災保険給付の見直し

 

 

もっとも,本業と副業は別の仕事であっても,

労働者が長時間労働をしていることには変わりなく,

本業と副業の労働時間を通算すれば,

1ヶ月の労働時間は260時間となり,

1ヶ月160時間を超える,100時間が時間外労働となり,

労災認定されることになります。

 

 

 

そして,労働政策審議会において,

複数就業先での業務上の負荷を総合・合算して評価することにより

疾病等との間に因果関係が認められる場合,

新たに労災保険給付を行うことが適当」という見解が示されました。

 

 

ようするに,本業と副業の労働時間を通算した結果,

1ヶ月80時間から100時間の時間外労働があったと評価できれば,

労災認定されるわけです。

 

 

さらに,労災認定された場合,過労死の場合,

ご遺族に遺族補償給付が支給されます。

 

 

この遺族補償給付は,過労死した労働者の

直前3ヶ月分の賃金の平均である給付基礎日額をもとに計算します。

 

 

この給付基礎日額を算出するための賃金について,

本業の賃金と副業の賃金を総合して算定する方向になります。

 

 

その結果,ご遺族が受け取る遺族補償給付の

金額が増額することになります。

 

 

このように,本業と副業の労働時間が通算されて,

賃金が合算されることは,副業をする労働者にとって,

大きなメリットになります。

 

 

副業をする労働者が安心して働くことができるように

法整備がされることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

第2次下請会社に雇用されている労働者は元請会社や第1次下請会社に対して安全配慮義務違反の損害賠償請求をできるのか

1 被災労働者は直接の雇用主以外に損害賠償請求できるのか

 

 

先日,造園業の労働者が高い樹木の上から転落した

労災事故の事案を紹介しました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/rousai/201911188752.html

 

 

この事案では,被災労働者の直接の雇用主に対する

安全配慮義務違反が争点となりましたが,

もう一つ,重要な争点がありました。

 

 

 

それは,被災労働者は,直接の雇用主ではない,

元請会社や第1次下請会社に対して,

損害賠償請求ができるのかという争点です。

 

 

この事案では,被災労働者は,第2次下請会社と

労働契約を締結していたので,第2次下請会社が,

被災労働者に対して,安全配慮義務を負うのは当然ですが,

元請会社や第1次下請会社も,第2次下請会社の労働者に対して,

安全配慮義務を負うのかが争点となったのです。

 

 

では,どうして,直接の雇用主ではない元請会社や

第1次下請会社に対して,損害賠償請求をする必要があるのでしょうか。

 

 

それは,第2次下請会社が中小零細企業の場合,資力が乏しく,

被災労働者が損害賠償請求をしても,

損害賠償金を支払うことができなかったり,

最悪,破産するおそれがあり,

損害賠償金を回収できないリスクがあるからです。

 

 

元請会社や第1次下請会社が,資金の余力がある会社であれば,

被災労働者は,元請会社や第1次下請会社に対して,

損害賠償請求できれば,損害賠償金を回収できなくなる

リスクを回避することができるわけです。

 

 

 

そのため,直接の雇用主の資力に不安があるときには,

元請会社や第1次下請会社に対して,

損害賠償請求ができないかを検討することになります。

 

 

2 特別な社会的接触の関係が認められるか

 

 

次に,元請会社や第1次下請会社が,

第2次下請会社の労働者に対して,

安全配慮義務を負うのは,

どのような場合なのかについて,検討します。

 

 

最高裁の裁判例によれば,安全配慮義務は,

ある法律関係に基づいて,特別な社会的接触の関係に入った

当事者間において,信義則上認められるものとされています。

 

 

この特別な社会的接触の関係があったか否かについては,

下請会社の労働者が元請会社の管理する設備,工具などを使っていたか,

下請会社の労働者が事実上元請会社の指揮監督を受けて働いていたか,

下請会社の労働者の作業内容と元請会社の労働者の作業内容との類似性

といった事情に着目して判断することになります。

 

 

3 元請会社と第1次下請会社の安全配慮義務違反を認めた裁判例

 

 

そして,日本総合住生活ほか事件の

東京高裁平成30年4月26日判決(労働判例1206号46頁)は,

次のように判断して,元請会社と第1次下請会社の

安全配慮義務違反を認めました。

 

 

第1次下請会社については,元請会社の指示に基づいて,

第2次下請会社に対して,具体的でかつ厳守を求める指示を行い,

この指示は,第2次下請会社をつうじて,

第2次下請会社の労働者に対しても及んでいたので,

特別な社会的接触の関係を肯定する指揮監督関係があったとされました。

 

 

元請会社については,第1次下請会社に対して,

安全帯の使用について具体的な指示をし,第1次下請会社は,

この指示に基づいて,第2次下請会社に対して,

同様の具体的指示を行い,

その指示が第2次下請会社からその労働者に及んでいたので,

特別な社会的接触の関係を肯定する指揮監督関係があったとされました。

 

 

 

元請会社や第1次下請会社の間接的な指示がされていたことを理由に,

わりと緩やかに,特別な社会的接触の関係を肯定したのが,

労働者によって有利なポイントです。

 

 

このように,労災事故が発生した場合,

直接の雇用主の損害賠償金を支払う資力に問題がある場合には,

元請会社など他の会社に対して,

損害賠償請求ができないかを検討することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

造園業の労働者の転落事故における安全配慮義務

1 造園業には転落事故のリスクがある

 

 

毎年11月1日,兼六園では,

雪から樹木を保護するために,

雪吊りをしています。

 

 

雪吊りのされた樹木と雪の景色は美しく,

金沢の冬の風物詩となっています。

 

 

 

ちょうど,11月ころになると,石川県内のニュースで,

兼六園の雪吊り作業が始まりましたというトピックが流れてきます。

 

 

そのニュースを見ていると,庭師や造園業の方々は,

高い樹木の上で作業をしているのがわかります。

 

 

このように,高い樹木の上で作業をしている方々が

転落した場合の労災事故について,本日は解説していきます。

 

 

2 安全配慮義務とは

 

 

まず,会社は,自己の使用する労働者の生命と健康を

危険から保護するように配慮する義務を負っています。

 

 

これを安全配慮義務といいます。

 

 

労災事故において,会社に損害賠償請求をする場合には,

会社に安全配慮義務違反がなかったかを検討することになります。

 

 

安全配慮義務の具体的内容は,

労働者の職種,仕事内容,仕事の場所

などの具体的状況によって定まります。

 

 

3 転落事故における安全配慮義務とは

 

 

次に,高い樹木の上から転落した場合の安全配慮義務違反が争われた,

日本総合住生活ほか事件の東京高裁平成30年4月26日判決

(労働判例1206号46頁)を紹介します。

 

 

この事件は,被災労働者が樹木の上から転落して,

四肢体幹機能障害などの後遺障害が生じたとして,

直接の雇用主である第2次下請業者と第1次下請業者と元請業者に対して,

安全配慮義務違反を根拠に,損害賠償請求をしたものです。

 

 

 

 

労災事故における安全配慮義務を検討するときには,

会社に労働安全衛生法や労働安全衛生規則の

違反がなかったかを検討します。

 

 

本件のような転落の労災事故については,

労働安全衛生規則518条と519条が参考になります。

 

 

(作業床の設置等)

第五百十八条 事業者は、高さが二メートル以上の箇所

(作業床の端、開口部等を除く。)で作業を行なう場合において

墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、

足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。

 

2 事業者は、前項の規定により作業床を設けることが困難なときは、

防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等

墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。

 

第五百十九条 事業者は、高さが二メートル以上の作業床の端、開口部等で

墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所には、

囲い、手すり、覆い等(以下この条において「囲い等」という。)

を設けなければならない。

 

2 事業者は、前項の規定により、囲い等を設けることが著しく困難なとき

又は作業の必要上臨時に囲い等を取りはずすときは、防網を張り、

労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等

墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。

 

 

ようするに,労働者が転落しても,被害が最小限になるように,

防網を張り,墜落防止の器具を使用させなければならないのです。

 

 

そして,墜落防止の器具として使用されているのが安全帯です。

 

 

安全帯とは,高いところで作業する人の

墜落を防止するための保護具のことです。

 

 

 

https://www.bildy.jp/mag/safetybelt-fullharness/

http://www.cranenet.or.jp/susume/susume12_05.html

(安全帯についてはこちらのサイトに

わかりやすい説明が記載されています)

 

 

本件事件では,造園業界では一般的ではなかった

二丁掛の安全帯を使用させていなかったことが

安全配慮義務違反になるかが争点となりました。

 

 

二丁掛の安全帯を使用していれば,原則として,

高い樹木の上で作業する際に転落事故を防ぐことができ,

本件労災事故も防ぐことができました。

 

 

そして,雇用主が二丁掛の安全帯を被災労働者に提供して,

使用方法を指導して,樹木の上での作業のときに

二丁掛の安全帯を使用させる安全配慮義務があったのに,

これを怠ったと判断され,

雇用主の会社に対する損害賠償請求が認められました。

 

 

 

もっとも,被災労働者は,

一丁掛の安全帯を着用すべきことを認識しており,

一丁掛の安全帯を使用していれば,

本件労災事故を防ぐことができたとして,

5割の過失相殺がされました。

 

 

造園業界ではまだ一般的ではなかった

二丁掛の安全帯を使用させることが

安全配慮義務の具体的内容となると判断したことが,

今後の転落の労災事故で応用できそうです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

教員間のいじめ問題と公務災害申請

1 東須磨小学校の教員間のいじめ問題

 

 

先日,ブログで紹介した,神戸市の東須磨小学校で発生した

教員間の悲惨ないじめ問題に関して,

被害者の教員が公務災害の申請をすることになったようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/DA3S14220588.html?iref=pc_ss_date

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201910118636.html

 

 

報道によりますと,激辛カレーを無理やり食べさせて,

苦しんでいる被害者の教員の姿を見て,あざ笑うなど,

陰湿極まりないいじめが行なわれていたようです。

 

 

 

本来,子供達のいじめを防止すべき教員が,

大人のいじめをしていたことに,

多くの方々が憤りを感じたことと思います。

 

 

被害者の教員は,今回のいじめを受けて,

体調を崩し,学校を休んでいるようです。

 

 

2 公務災害の申請

 

 

このように,公務員がいじめやパワハラを受けて,

体調を崩し,仕事を休むことになった場合,

治療費や休んでいる期間の給料が心配になります。

 

 

このようなときには,公務災害の申請をするべきです。

 

 

地方公務員が,仕事が原因で負傷したり,

病気を発症したりした場合,

地方公務員災害補償基金という機関に対して,

公務災害の申請をして,公務災害と認定されれば,

療養補償や休業補償といった補償を受けられるのです。

 

 

民間企業でいう労災が,

地方公務員では公務災害となっており,

認定基準が異なっています。

 

 

地方公務員が,仕事が原因で,精神障害を発症した場合,

「精神疾患等の公務災害の認定について」という認定基準に基づいて,

公務災害が否かが判断されます。

 

 

https://www.chikousai.go.jp/reiki/pdf/h24ho61.pdf

 

 

この認定基準における,精神疾患の公務災害の要件は次の2点です。

 

 

①対象疾病発症前のおおむね6ヶ月の間に,

業務により強度の精神的又は肉体的負荷を受けたことが認められること

 

 

 ②業務以外の負荷及び個体側要因により

対象疾病を発症したとは認められないこと

 

 

この①の要件を検討する際に,精神疾患を発症した地方公務員に

どのような出来事があったのかを分析します。

 

 

強度の精神的又は肉体的負荷の具体的な事象として,

「職場でひどい嫌がらせ,いじめ又は暴行を執拗に受けたと

認められる場合」があげられています。

 

 

 

嫌がらせやいじめを検討するときには,

業務指導の範囲を逸脱しているか,

人格や人間性を否定する言動があったか,

上司に改善を求めたものの改善されなかったか,

いじめや嫌がらせの継続期間

などに着目して分析します。

 

 

3 東須磨小学校の事件に認定基準をあてはめる

 

 

東須磨小学校の事件にあてはめてみます。

 

 

激辛カレーを食べさせるなど行為は,

明らかに業務指導の範囲を逸脱しており,

嫌がる人に無理やり食べさせてあざ笑うという点において,

被害者教員の人格や人間性を否定しています。

 

 

被害者教員は,管理職に被害の実態を訴えたものの,

学校側から加害者教員に対する適切な対応がなされなかったようです。

 

 

そして,いじめや嫌がらせは,単発ではなく,

一定期間継続していたようです。

 

 

そのため,東須磨小学校の事件では,

「職場でひどい嫌がらせ,いじめ又は暴行を執拗に受けたと

認められる場合」に該当すると考えられます。

 

 

被害者教員の公務災害が認定されれば,

治療費の負担はなくなり,

休業期間中の給料が補償されるので,

安心して治療に専念できることになります。

 

 

地方公務員が,いじめや嫌がらせを受けて精神疾患を発症した場合には,

公務災害の申請をすることをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労災保険の特別加入制度

労災事故に巻き込まれたので,会社に労災の申請を依頼したところ,

会社からは,君は労働者ではないので,労災保険は使えないと言われて

困っていますという法律相談を先日受けました。

 

 

相談者の方は,会社との間で,労働契約ではなく,

業務委託契約を締結しているので,会社は,

相談者の方について,労災保険料を支払っていないようです。

 

 

このような場合,業務委託契約を締結していても,

勤務実態をみてみると労働者と評価できる場合には,

労災保険法が適用される可能性があります。

 

 

もう一つ,労災保険の特別加入制度を利用するという方法もあります。

 

 

 

本日は,労災保険の特別加入制度について説明します。

 

 

特別加入制度とは,労働者以外の者であっても,

労働者に準じて労災保険の保護を与えるにふさわしいとされる者について,

労災保険の目的を損なわず,業務上・外の認定など

保険技術的に可能な範囲で,労災保険の適用をはかることとした制度です。

 

 

中小企業の事業主や,一人親方,自営業者などが対象です。

 

 

労働者にとっての労災保険は事業主において

強制加入することとされており,

労働者が加入手続などをする必要はないのですが,

特別加入制度は,事業主や,一人親方,自営業者

などが自分で加入手続をとる必要があります。

 

 

特別加入制度を利用するための手続きについては,

加入者が従事している業務内容に応じて窓口が設けられており,

その窓口を通じて特別加入申請書を労働基準監督署へ提出し,

各都道府県労働局長の承認を受けることが必要になります。

 

 

特別加入制度に加入した者が,仕事中に負傷したり,

通勤の途中で負傷した場合,治療費,休業補償,障害補償,遺族補償など,

通常の労災に準じた種類の給付を受けられます。

 

 

 

もっとも,特別加入の場合,各種給付の給付額を算定する

基礎となる給付基礎日額の決定方法が,

通常の労災の場合とは異なり,特別加入申請の際に,

加入者自身が所得水準に見合った適切な金額を選択して申請し,

都道府県労働局長が承認した金額が給付基礎日額となるのです。

 

 

ですので,仕事中に怪我を負う危険の高い業務をする

中小企業の事業主,一人親方,自営業者は,

特別加入制度を利用して,もしものときに備えるべきだと思います。

 

 

また,特別加入制度を利用していたとしても,

仕事中に怪我をしたときの具体的な契約内容や

就労実態からして労働者と認められる場合には,

特別加入制度ではなく,通常の労災補償を受けられるときがあります。

 

 

特別加入制度で定めた給付基礎日額よりも,

通常の労災補償の給付基礎日額の方が高い場合には,

労働者であるとして,通常の労災保険給付の

請求をしてみるのがいいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社が労災保険の届出をしていなくても労働者は労災保険を利用できるのか?

先日,次のような労働相談を受けました。

 

 

仕事中に事故にあったので,会社に労災の申請をお願いしたら,

君はまだ見習いだから,君については,労災の届出をしていない

という説明を受けたという内容でした。

 

 

このように,会社が労災保険の届出をしていなかったり,

労災保険料の支払を滞納していたときに,

労働者が仕事中にけがをした場合,労働者は,

労災保険を利用することができるのでしょうか。

 

 

 

結論から言いますと,このような場合でも,

労働者は,労災保険を利用できます。

 

 

労働者を一人でも使用する事業主は,

会社等の法人や個人事業主の区別なく,

労災保険に加入する義務があります(労災保険法3条1項)。

 

 

そのため,会社が労災保険の届出や加入手続をしていなくても,

労働者は,当然に労災保険の適用を受けることができるのです。

 

 

このように,労災保険は,強制加入制度になっているわけです。

 

 

会社が勝手に労災保険料を支払う必要がないと考えて,

労災保険料を支払っていなかった状態で,

労働者が労災事故に巻き込まれた場合,

その労働者は,会社が労災保険料を支払っていなくとも,

当然に,労災保険の適用を求めることができます。

 

 

そして,①会社が故意または重大な過失によって

労災保険の届出をしていない期間に発生した労災事故,

②会社が労災保険料を滞納していた期間に発生した労災事故,

③会社が故意または重大な過失によって発生させた労災事故について,

国が,被災労働者に対して,労災保険の給付を行った場合,

国は,会社に対して,労災保険の給付に要した費用

に相当する金額の全部または一部を徴収することができます。

 

 

 

例えば,労働基準監督署から労災保険の届出をするように

指導を受けていたにもかかわらず,

会社が手続を行なわない期間中に労災事故が発生した場合,

会社が故意に手続を行なわなかったとして,

その労災事故に対して支給された保険給付額の100%が徴収されます。

 

 

また,労働基準監督署からの指導はなかったものの,

労働者を採用してから1年が経過しても,

なお労災保険の届出を怠っていた期間中に労災事故が発生した場合,

会社が重大な過失によって手続を行なわなかったとして,

その労災事故に対して支給された保険給付額の40%が徴収されます。

 

 

このように,会社が労災保険の届出をしていなかったり,

労災保険料を滞納していたとしても,労働者には,

労災保険が適用されるので,労災事故に巻き込まれてしまったら,

会社に気兼ねすることなく,労災申請をするようにしてください。

 

 

その後,会社が労災保険給付について徴収されたとしても,

それは自業自得ということになるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。