パワハラと労災申請

パワハラを受けたことによって,

うつ病などの精神疾患を発症したとして,

労災申請をする件数が増加しています。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/H29_no2.pdf

 

 

もっとも,労災申請をしても,パワハラなどの

仕事上の出来事が原因で,精神疾患を発症したと認められるのは,

約3割程度であり,狭き門です。

 

 

 

 

本日は,会社の代表者からパワハラを受けて,

うつ病に罹患したと主張する労働者が労災申請したものの,

労災とは認められなかったため,国を相手に,

労災の不支給決定処分の取消を求めて提訴した事件について紹介します

(国・さいたま労基署長(ビジュアルビジョン)事件・

東京地裁平成30年5月25日判決・労働判例1190号23頁)。

 

 

まず,精神障害の労災認定基準では,

労災認定を受けるためには次の3つの要件を満たす必要があります。

 

 

①対象疾病である精神障害を発病していること

 ②対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に,

業務による強い心理的負荷が認められること

 ③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により

対象疾病を発症したとは認められないこと

 

 

本件事件の原告の労働者は,うつ病を発症しているので

①の要件を満たします。

 

 

そこで,原告の労働者が,②と③の要件を

満たすのかが争点となりました。

 

 

②の要件については,精神障害の労災認定基準に

「別表1:業務による心理的負荷評価表」という資料がついており,

そこに記載されている具体的出来事のどこにあてはまり,

その具体的出来事の心理的負荷の強度はどれくらいなのかを検討します。

 

 

本件事件では,原告の労働者は,会社の会議において,

代表者から,「幹部の中で会社の手帳を使っていない馬鹿なやつがいる」

などと言われて叱責されたことについて,具体的出来事としては,

「上司とのトラブルがあった」にあたり,

上司から業務指導の範囲内である強い叱責を受けたに該当するので,

心理的負荷は「中」と判断されました。

 

 

 

次に,原告の労働者は,休暇中にすぐに

電話に対応しなかったことで叱責,罵倒されたことについて,

同様に,心理的負荷は「中」と判断されました。

 

 

そして,原告の労働者は,代表者に対して,

退職を申し出たのですが,思い直して,

退職の申し出を撤回したものの,代表者からは,

「一度辞めると言ったのだから辞めなさい。甘ったれた顔をしやがって」

などと言われて,退職の申し出の撤回は認められませんでした。

 

 

さらに,代表者の側近からは,

土下座をする気持ちで謝るように言われていたので,

原告の労働者は,土下座を強要されているように感じました。

 

 

この退職の申し出の撤回を拒否されたことは,

具体的出来事としては,「退職を強要された」にあたり,

退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず,

執拗に退職を求められたに該当するので,

心理的負荷は「強」と認定されました。

 

 

 

 

②の要件については,心理的負荷が「強」の具体的出来事が

1つあれば要件を満たすことになり,

心理的負荷が「中」の具体的出来事が複数ある場合は,

総合評価を行い,「強」となれば,要件を満たす場合があります。

 

 

③の要件については,原告の労働者には,

プライドが高いなどの面はあるものの,

退職をめぐるやりとりの過程で代表者との人間関係が悪化するまでは,

良好な人間関係を築いていたことから,

平均的な労働者の部類に入り,

原告の性格傾向が精神障害の発症に主として

影響したとはいえないと判断されました。

 

 

結果として,原告の労働者のうつ病発症は代表者からの

パワハラが原因であるとして,労災認定がされたのです。

 

 

精神疾患の労災認定は,専門的な判断が必要となりますので,

弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

保有個人情報開示請求で労災資料を取り寄せる

建設業や製造業の仕事場では,転倒や墜落・転落,

機械に腕を挟まれるなどの労災事故が発生することがあり,

4日以上の休業を伴う死傷事故が増加傾向にあります。

 

 

 

 

人手不足により,安全衛生管理体制が疎かになったり,

働く時間が長くなり,疲労がたまって,集中力の低下を招き,

労災事故が発生しているのかもしれません。

 

 

労災事故にあったならば,労働者は,

労働基準監督署に対して,労災申請をするべきです。

 

 

労災認定がされると,けがによる治療費が国から支給され,

仕事を休んでも,休業期間中は給料の8割が補償され,

後遺障害が残っても,障害年金や傷害一時金が支給され,

日々の生活の不安が軽減されます。

 

 

労災認定がされても,労災保険からは,

慰謝料は支給されませんので,

労災事故による慰謝料を請求するには,

会社に対して,別途,損害賠償請求をする必要があります。

 

 

また,労災と認定されなかった場合,

その決定に対して,不服申立てをすることができます。

 

 

このように,労災と認定されてもされなくても,

次の手続に進むためには,労働基準監督署が

労災事故の調査をした際に集めた資料を

検討しておくことが効果的です。

 

 

労働基準監督署が集めた資料を入手するための方法として,

保有個人情報開示請求という手続を利用します。

 

 

 

 

具体的には,下記URLにある所定の書式に

必要事項を記入した上で,労災の決定を行った労働基準監督署

のある都道府県の労働局長宛て(窓口は労働局総務部)に

書類を提出して行います(郵送も可能です)。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/jouhou/hogo06/dl/01.pdf

 

 

上記URLにある「保有個人情報開示請求書」の

「1 開示を請求する保有個人情報」には,

次のことを記載するといいです。

 

 

①私が~年~月~日に負傷した事故について,

~(事業者名)から~労働基準監督署に提出された死傷病報告書及び,

災害調査や是正指導などがなされていた場合はその書類一式

 

 

②私が,~年~月~日に負傷した事故について治療をした

~県内のすべての医療機関のすべてのレセプト(調剤薬局を含む)

 

 

③私が~年~月~日に負傷した事故に関して,

療養の給付・休業補償・障害給付などの請求書全て(添付資料も含む)

及び支給決定決議書,支給決定にあたり調査をしていれば

その調査書全て(添付資料含む)

 

 

保有個人情報開示請求をすると,1ヶ月程度で,

開示決定がでて,次の資料を入手できます。

 

 

・労働者死傷病報告

 ・災害調査復命書

 ・診療報酬明細書

 ・療養補償給付たる療養の給付請求書

 ・休業補償給付請求書・決議書とそれぞれの添付資料

 ・障害補償給付支給請求書・決議書とそれぞれの添付資料

 

 

開示される資料の中には,聞き取り内容など関係者の

個人情報に属する部分が黒塗りになるといった限界がありますが,

調査復命書の内容の一部が開示されるため,

労働基準監督署がどのような枠組みで判断を行ったか

などについて知ることができて,効果的です。

 

 

 

 

保有個人情報開示請求を利用して,労災の資料を取り寄せて,

不服申立てや会社に対する損害賠償請求の準備をしていくのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

地域防災訓練に参加する途中の負傷は労災か?

2018年は災害の多い年でした。

 

 

2018年2月には北陸地方で大雪,

6月には大阪北部地震,

7月には中国地方で豪雨災害,

夏から秋にかけて台風の被害,

9月には北海道胆振東部地震など,

全国各地で被害が発生しました。

 

 

 

 

このように,災害が多発していることから,

災害から自分の身を守るために,

地域では防災訓練が行われています。

 

 

さて,地域防災訓練に参加するための途中にけがをした場合,

労災が適用されるのでしょうか。

 

 

本日は,地域防災訓練に参加する途中でけがをした

市立小学校の教師が,公務災害に該当するかについて

争った地公災基金山梨県支部長事件を紹介します

(東京高裁平成30年2月28日判決・労働判例1188号33頁)。

 

 

この事件では,市立小学校の教師が,

日曜日に実施された地域防災訓練に参加するため,

その会場に向かう途中,その経路の途中にある

自らが担任する学級所属の児童の住居を訪問した際,

その住居で飼育されている犬にかまれて傷害を負いました。

 

 

 

 

この傷害について,原告の教師は,

公務災害の申請をしましたが,

公務災害とは認められなかったため,

裁判を提起しました。

 

 

本件のようなケースで,公務災害と認定されるためには,

公務上の災害の認定基準について」という文書の1キ(キ)の

「地方公務員法第24条第5項の規定に基づく条例に

規定する勤務を要しない日及びこれに相当する日に

特に勤務することを命ぜられた場合の出勤又は退勤の途上」であって,

「合理的な経路若しくは方法によらない場合又は

遅刻若しくは早退の状態にある場合」ではない

という要件を満たす必要があります。

 

 

ようするに,休みの日に出勤することを命じられた場合の

通勤経路の途中の事故であって,

通勤経路が合理的な経路や方法から

逸脱していないことが必要になるのです。

 

 

本件事件では,まず,日曜日に地域防災訓練に参加することが

特に勤務することを命ぜられた場合」に該当するかが争われました。

 

 

なぜならば,校長は,教師に対して,

地域防災訓練への参加を明確に命令していなかったからです。

 

 

とはいえ,職務命令には,明示的なものの他に,

黙示的なものも含まれます

 

 

本件事件では,防災訓練にできるだけ参加するように

具体的な指導があったこと,防災訓練が学校をあげて

取り組むべき行事として位置づけられていたこと,

代休取得の措置がとられていたことなどから,

教師が防災訓練に不参加を申し出ることが

事実上困難であったことから,

黙示的な職務命令があったと認定されました。

 

 

その結果,本件事件で防災訓練に参加することは,

「特に勤務することを命ぜられた場合」

に該当すると判断されたのです。

 

 

次に,防災訓練へ向かう途中で児童の自宅を訪問したことが,

合理的な経路から逸脱したかが争われました。

 

 

 

 

本件事件では,原告の教師は,忘れ物を届けるついでに

児童に防災訓練への参加を呼びかける目的で,

勤経路沿いにある児童の自宅を訪問し,

その訪問時間も数分程度くらいであったことから,

防災訓練への参加と無関係な目的で訪問したわけではないので,

合理的な経路から逸脱していないと認定されました。

 

 

その結果,原告の負傷は,公務災害と認められました。

 

 

今後,災害が増えていく中で,

防災訓練へ参加することがなかば

強制されていく可能性があります。

 

 

防災訓練へ参加する途中や参加中にケガをした場合に,

労災になるかについて,本件事件は参考になると思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

非常勤公務員の労災制度

北九州市の非常勤職員として,

区役所の子供・家庭相談コーナーの相談員をしていた女性公務員が,

上司によるパワハラが原因でうつ病を発症し,

その後大量の薬を飲んで死亡したことについて,

遺族が労災を申請しました。

 

 

しかし,北九州市は,条例で定める規則に

非常勤職員やその遺族からの労災申請は認められないとして,

労災申請を却下しました。

 

 

そのため,遺族は,北九州市が条例で

遺族の労災申請を認めていないのは違法であるとして,

裁判を提起しました。

 

 

なぜ,このような不平等な取扱となっているのでしょうか。

 

 

それは,地方公務員の労災の制度が複雑で,

非常勤職員の労災制度に不備があったからなのです。

 

 

まず,公務員は,民間企業と異なり,

さまざまな種類があり,適用される法律が異なります。

 

 

 

一般地方公務員の場合,

現業職員である地方公営企業職員(水道事業や鉄道事業などの職員),

特定地方独立行政法人職員,

単純労務職員(学校給食調理員や学校用務員などの現業職員),

それ以外の非現業職員(県庁や市役所で働く公務員)に分かれます。

 

 

現業職員と非現業職員に分かれる以外に,

常勤職員と非常勤職員に分かれます。

 

 

常勤職員は,民間企業でいう正社員で,

非常勤職員は,民間企業でいう

期間の定めのある労働契約を締結した

非正規雇用労働者のことです。

 

 

そして,地方公務員の労災について,

①現業の常勤職員には,地方公務員災害補償法が適用され,

②現業の非常勤職員には,民間企業の労働者と同じ労災保険法が適用され,

③非現業の常勤職員には,地方公務員災害補償法が適用され,

④非現業の非常勤職員には,地方公共団体の補償条例が適用されます。

 

 

北九州市の事件は,④非現業の非常勤職員に適用される

補償条例が問題となりました。

 

 

地方公務員法69条には,

「地方公共団体は、条例で、職員以外の地方公務員

(特定地方独立行政法人の役員を除く。)のうち法律

(労働基準法を除く。)による公務上の災害

又は通勤による災害に対する補償の制度が定められていないもの

に対する補償の制度を定めなければならない。」と定められています。

 

 

この法律に基づき,地方公共団体は,

補償条例を制定しているのですが,

以前の補償条例では,非常勤職員や遺族の

労災申請が認められていませんでした。

 

 

 

 

北九州市の労災申請問題で,

非常勤職員や遺族の労災申請が認められないのはおかしい

ということになり,総務省が

「議員・非常勤職員の公務災害補償条例施行規則(案)」

に関する通知を出して,補償条例や規則が改正されて,

非常勤職員や遺族の労災申請が認められることになりました。

 

 

補償条例や規則が改正されて,

非常勤職員や遺族の労災申請が認められるようになり,

不平等な取扱は解消されましたが,

北九州市の遺族の労災申請は,

補償条例が改正される前なので,

依然として北九州市は,遺族の労災申請を拒んでいるようです。

 

 

来年,判決がくだされるようですので,

遺族の労災申請が認められることを期待したいです。

 

 

このように,非常勤職員の労災申請について道が開けたものの,

非正規公務員には,雇用の不安定さや

正規職員との給料の格差といった問題がありますので,

これらを改善していく必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労災認定までに時間がかかるときには傷病手当金を受給する

仕事中にけがをして長期間,

会社を休まなければならなくなったとしたら,どうしましょう。

 

 

 

労働者としては,休んでいる期間の

治療費の負担はどうなるのだろうか,

休んでいる期間の給料はどうなるのだろうか,

と不安になりますよね。

 

 

仕事中に労働者がけがをしたときに,

労働者を守ってくれるのが労災保険制度です。

 

 

労災保険を利用すれば,けがの治療費は

労災保険から支給されますし,

会社を休んでいる期間について,

給料の8割程度の休業補償が受けられます。

 

 

さらに,労働者が仕事中に負傷して,

治療のために休んでいる期間は,会社は,

労働者を解雇することができません。

 

 

労働者は,労災保険を利用して休んでいる限り,

安心して治療に専念することができるのです。

 

 

 

もっとも,精神障害などの労災認定の場合,

労働基準監督署の調査に時間がかかり,

労災の給付が開始されるのに時間がかかる場合があります。

 

 

労災と認定されるまでの間,何も手当がなければ,

労働者の生活は困窮してしまいます。

 

 

そこで,労災申請して,労災と認定されるまでに

時間がかかる場合には,健康保険の傷病手当金

の支給を受けることを検討します。

 

 

傷病手当金は,仕事以外の原因で負傷して,

それによって働けなくなった場合に,休んでいた期間のうち,

賃金が支払われなかった期間について,支給されるものです。

 

 

傷病手当金の金額は,おおむね給料の3分の2相当額であり,

支給開始から最長で1年6ヶ月の期間支給されます。

 

 

傷病手当金は仕事以外の原因で負傷した場合に支給され,

労災の補償は仕事が原因で負傷した場合に支給されるので,

2つの制度は両立しません。

 

 

そのため,労災と認定されるまでの期間,

傷病手当金の支給を受けた後に,

労災認定された場合には,

既に支払われた傷病手当金を返還しなければなりません

 

 

 

 

この場合,労災と認定されるまでに休業していた期間について,

さかのぼって労災の休業補償給付が支給されるので,

これを傷病手当金の返還に充てることができます。

 

 

したがって,労災の申請をしても,

労災と認定されるまでに時間がかかるときには,

傷病手当金を利用して生活を維持することを検討すべきです。

 

 

ただ,傷病手当金を受給する上で注意する点があります。

 

 

それは,傷病手当金を受給するためには,

傷病手当金の申請書に必ず会社の証明が

必要になるということです。

 

 

会社が申請書に証明してくれないと,

労働者は,傷病手当金を受給できないのです。

 

 

(傷病手当金の申請書についてはこちらのサイトをご参照ください)

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g2/cat230/r124

 

 

労災申請の場合,会社が労災の申請書に証明をしてくれなくても,

そのことを説明して労働基準監督署に申請書を提出すれば

受け付けてくれるのですが,傷病手当金の場合,

会社の証明がないと,申請書を受け付けてくれないのです。

 

 

ここが,傷病手当金のおかしな点なので,

改善すべきと思うのですが,実務がそうなっているので,

なんとか会社に証明してもらうしかないのです。

 

 

弁護士が傷病手当金の申請書の証明を求めると,

会社が警戒して,証明をしてくれないことがあるので,

労働者が直接,証明を求めたほうが手続がスムーズにいくことがあります。

 

 

仕事以外のけがで会社を長期間休んだり,

労災の認定がされるまで時間がかかるときには,

傷病手当金を受給するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

研修中にけがをしたら・・・

人が通行している道路において大声で

自己紹介や今後の抱負を発表させられる,

度胸をつけるだめだと称してナンパをさせられる。

 

 

ブラック企業は,新入社員を,なんでも言うことを聞く,

会社にとって都合のいい人間に育て上げるために,

新人研修で社員を洗脳していきます。

 

 

 

 

研修講師が,新入社員を罵倒し,

人格を否定することを発言して,

新入社員を追い込み,会社の言うことを

聞くように洗脳していくのです。

 

 

このような新人研修はブラック研修と呼ばれ,

若者がブラック研修によって体調を崩し,

精神疾患を発症することが問題視されています。

 

 

それでは,このようなブラックな新人研修中に,

新入社員がけがをした場合,会社に対して,

どのような請求をすることができるのでしょうか。

 

 

本日は,新人研修中に負傷した新入社員が会社に

損害賠償請求をしたサニックス事件を紹介します

(広島地裁福山支部平成30年2月22日判決・

労働判例1183号29頁)。

 

 

この事件では,新人研修のカリキュラムの一つである

24kmを制限時間5時間で完歩する歩行訓練の際に,

48歳で身長171㎝,体重101.3kgの

男性の新入社員が右足と左足を負傷しました。

 

 

 

 

新入社員の男性は,労災申請し,

右足関節の機能障害(関節の動きが制限されること等です)

が右足関節離断性骨軟骨炎によるもので,

後遺障害等級10級10号に該当し,

左下肢の神経障害(痛みやしびれが生じること等です)

が後遺障害等級12級10号に該当すると判断されました。

 

 

労災が認定されると,国から,治療費の補償,

休業補償(けがで休んでいた期間の給料の補填),

後遺障害の補償(後遺障害残ったことの補償)

が受けられます。

 

 

しかし,労災では,休業補償は給料の8割

までしか補償されませんし,慰謝料の支払もされません。

 

 

そこで,労災ではけがをした労働者の損害の補償

として不足している部分について,労働者は,

会社に対して,損害賠償請求をします。

 

 

会社には,労働者の生命や健康を危険から

保護するように配慮すべき義務(安全配慮義務

を負っているので,労働者が労災で負傷した場合には,

会社が安全配慮義務を怠った可能性があるのです。

 

 

 

本件事件では,新入社員の男性が歩行訓練中に転倒して,

右足関節を痛めて,歩行訓練の中断や病院受診を求めても,

会社は,これを拒絶して歩行訓練を継続させました。

 

 

これが原因となって,新入社員の男性が

後遺障害が残る負傷をしたのですから,

会社の安全配慮義務違反が認められました。

 

 

また,労災事故の被害者に持病があり,

それが損害発生の原因になっている場合に,

損害額を減額することを素因減額といいます。

 

 

本件事件では,新入社員の男性に

軽度の変形性関節症があったのですが,

研修の前には何も症状がなく,軽度であったことから,

会社が主張した素因減額は認められませんでした。

 

 

結果として,合計1592万1515円の損害賠償が認められました。

 

 

このように,会社の研修中にけがをした場合,

まずは,労災請求をし,労災の認定を受けてから,

会社に対して,損害賠償請求をしていきます。

 

 

労働者が負傷するようなブラック研修が

実施されないようになっていってもらいたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労災の損害賠償請求における過失相殺と素因減額

働き過ぎで,うつ病などの精神疾患を発症した場合,

自分のメンタルヘルスについての情報を会社に報告しなかったり,

治療期間が長くなっていることは労働者の個人的な要因が

原因であるとして,損害賠償請求を減額できるのでしょうか。

 

 

この争点について,重要な判断がされた

東芝(うつ病・解雇)事件を紹介します

(最高裁平成26年3月24日判決・

労働判例1094号22頁)

 

 

先日の過労死弁護団の総会で,

川人先生から教えてもらった重要な裁判例です。

 

 

原告の労働者は,初めてプロジェクトリーダーになったものの,

仕事の期限や日程を短縮され,上司から厳しい指示を受けていました。

 

 

他方,プロジェクトの人員を理由なく減員されたり,

過去に経験のない仕事を新たに命じられました。

 

 

このような過重な仕事をしていたので,

時間外労働や休日労働が増え,原告は,

頭痛,めまい,不眠などの症状がでて,

病院に通い,仕事を休むようになりました。

 

 

 

 

この過程において,原告は,会社に対して,

神経科へ通院していること,病名を会社に報告していませんでした。

 

 

まず,このような労働者のメンタルヘルスの情報を

会社に伝えなかったことが,原告の落ち度として

過失相殺されるのかが争われました。

 

 

過失相殺とは,労働者に発生した損害について,

労働者にも落ち度があれば,その落ち度を考慮して,

損害額を減額することです。

 

 

東芝事件の最高裁は,労働者のメンタルヘルスの情報は,

プライバシーに関わる情報であり,人事考課に影響するので,

通常は職場に知られたくありません。

 

 

そこで,会社は,労働者からメンタルヘルスの情報の

申告がなかったとしても,過重な仕事で労働者の体調悪化が

みてとれるのであれば,仕事を軽減するなどの

配慮をしなければなりません。

 

 

 

よって,労働者が,メンタルヘルスの情報を申告しなかったことを

根拠に過失相殺はできないと判断されました。

 

 

次に,労働者が長期間うつ病の治療を続けていること

労働者の脆弱性に原因があるとして素因減額

ができるのかが争点となりました,

 

 

素因減額とは,労働者の病気や私生活上の要因,性格

などの素因を理由に,損害額を減額することです。

 

 

東芝事件の最高裁は,同じ仕事をしている労働者と比べて,

通常想定される範囲を外れる脆弱性があるかを検討し,

原告は,仕事が荷重になる前は,普通に働いていたので,

素因減額はできないと判断しました。

 

 

過失相殺や素因減額がされると,

労働者がもらえる損害賠償金が減ってしまうのですが,

東芝事件の最高裁は,精神疾患の事件では,

安易に過失相殺や素因減額を認めるべきではないと判断しており,

労働者に有利に活用できます。

 

 

精神疾患の事案で,会社から過失相殺や素因減額の主張がされたら,

東芝事件の最高裁判決を活用して反論していくことが重要になります。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

セクハラによる労災

職場においてセクハラを受けたことで,

うつ病などの精神疾患を発症した場合,

セクハラの被害者は,労災を利用することができるのでしょうか。

 

 

 

 

本日は,セクハラによる労災について説明します。

 

 

厚生労働省は,「心理的負荷による精神障害の認定基準

という精神障害の労災の基準を定めています。

 

 

この基準では,「精神障害の発病前おおむね6ヶ月間に,

業務による強い心理的負荷が認められること

という要件を満たす必要があります。

 

 

セクハラが強い心理的負荷と認められるのは次のような場合です。

 

 

まず,胸や腰などへの身体的接触を含むセクハラの場合です。

 

 

 

 

身体的接触が,①継続して行われた場合,

②継続していないが,会社に相談しても適切な対応がなく,

改善されなかった,または会社へ相談した後に

職場の人間関係が悪化した場合に,

セクハラによる心理的負荷が「強」と認定されます。

 

 

次に,身体的接触のない性的な発言のみのセクハラの場合です。

 

 

 

 

①発言の中に人格を否定するものを含み,

かつ継続してなされた場合,

②性的な発言が継続してなされ,

かつ会社がセクハラがあると把握していても適切な対応がなく,

改善がなされなかった場合に,

セクハラによる心理的負荷が「強」と認定されます。

 

 

精神疾患の労災の場合,精神疾患発症から6ヶ月間

に生じた出来事をチェックしますが,セクハラの場合は,

いったんセクハラがなされ始めると

セクハラが繰り返し行われる性質があります。

 

 

そこで,精神疾患発症の6ヶ月よりも前にセクハラが始まり,

セクハラが継続している場合には,6ヶ月よりも前に

セクハラが始まった時点からの心理的負荷を評価することになります。

 

 

さて,セクハラは,された方が,

職場の上下関係や支配関係があることで,

「No」と言いづらいところに本質があります。

 

 

セクハラ後の仕事上の不利益や職場環境の悪化を恐れてしまい,

被害者は,どうしても「No」と言いづらいのです。

 

 

 

 

このセクハラの本質を理解しなければ,

セクハラによる心理的負荷の強さを見誤ってしまいます。

 

 

そこで,労災の認定基準には,セクハラ事件について,

以下の留意事項をあげています。

 

 

①セクハラの被害者は,勤務を継続したいとか,

加害者からのセクハラの被害をできるだけ軽くしたいとか

の心理などから,やむを得ず加害者に迎合するような

メールを送ることや,加害者の誘いを受け入れることがあるが,

これらの事実がセクハラを受けたことを

単純に否定することにはならないこと。

 

 

②被害者は,被害を受けてからすぐに

相談行動をとらないことがあるが,

この事実が心理的負荷が弱いと

単純に判断する理由にならないこと。

 

 

③被害者は,医療機関でもセクハラを受けたということを

すぐに話せないこともあるが,初診時にセクハラの事実を

申し立てていないことが心理的負荷が弱いと

単純に判断する理由にならないこと。

 

 

加害者が上司であり被害者が部下である場合

加害者が正規職員であり被害者が非正規労働者である場合など,

加害者が雇用関係上被害者に対して優越的な立場にある

事実は心理的負荷を強める要素となり得ること。

 

 

このように,労災基準は,セクハラの被害者が

「No」と言いづらい本質に留意するように注意を促しているのです。

 

 

セクハラが原因でうつ病などの精神疾患を発症した場合は,

労災保険の対象になりますので,

労災に強い弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日も,お読みいただき,ありがとうございます。

うつ病で休職中の先生を解雇できるのか

私は,今年から母校の高校の学校評議員

をさせていただくことになりました。

 

 

学校評議員制度とは,地域に開かれた学校づくりを

推進していくために,地域住民が学校運営へ参画する仕組みです。

 

 

学校評議員は,学校運営に関し,

保護者や地域住民の意向を反映し,

学校は,学校評議員の意見を聞いて,

特色ある教育活動を積極的に展開していくのです。

 

 

 

以上が,文部科学省の説明です。

 

 

要するに,学校の運営に,地域住民として

意見を述べることが期待されている役職です。

 

 

先日,第1回の会合に参加してきました。

 

 

学校側が詳細な目標や中間査定の評価をまとめており,

それに対して,自分なりに感じたことを発言してきました。

 

 

そこで感じたことは,学校の先生は本当に大変だなぁということです。

 

 

最近では,アクティブラーニングといい,

生徒同士が課題について調べてきたことを互いに教え合う授業や,

パワーポイントを使って授業したりと,

私が高校生だったころと比べて,かなり先進的な授業が行われています。

 

 

しかし,このような先進的な授業をするには,先生の準備が大変です。

 

 

さらに,部活動の指導があったり,

保護者対応があったり,

今回の会合の資料作りがあったりと,

先生は仕事が多すぎると思いました。

 

 

残業時間が多いのに,働き方改革のため,

残業時間を削減しなければならず,学校現場では,

大変な苦労があるのを実感しました。

 

 

さて,前置きが長くなりましたが,

先生の仕事が大変だということについて,

学校法人武相学園事件の裁判例を紹介します

(東京高裁平成29年5月17日判決・労働判例1181号54頁)。

 

 

うつ病で休職中の先生を懲戒解雇できるのかが争われました。

 

 

原告の先生は,平日は,午前6時に出勤し,

午前8時まで部活の顧問の仕事をし,日中は授業をして,

午後8時まで部活の顧問の仕事をしていました。

 

 

 

 

土曜日も朝早くから部活動の顧問の仕事をし,

日曜日に対外試合があれば,生徒を引率し,審判もしていました。

 

 

原告の先生がうつ病を発症する前6ヶ月間の時間外労働は,

1ヶ月あたり91時間~146時間でした。

 

 

原告の先生は,部活動の生徒に対して失言をし,

生徒に対して,失言の口止めをしました。

 

 

このことについて,学校の調査が始まったところ,

部活動の会計に不明点があることが発覚していきました。

 

 

そして,原告の先生は,長時間の時間外労働と,

これらの調査によるストレスが原因で,

うつ病の診断を受けて,病気休職となりましたが,

学校は,原告の先生を懲戒解雇しました。

 

 

ここで,労働基準法19条1項には,

労働者が業務上負傷し,または疾病にかかり療養のために

休業する期間は,解雇してはならないと規定されています。

 

 

これは,労働者が労災補償としての療養のための

休養を安心して行えるように配慮する必要があるからです。

 

 

本件では,原告の先生のうつ病が仕事が原因で

発症したものか否かが争われました。

 

 

 

 

すなわち,仕事が原因でうつ病を発症したのであれば,

解雇できませんし,そうでないなら,

解雇の要件を満たせば解雇できることになります。

 

 

学校は,部活動の顧問をしている先生に定額の顧問手当

(1年間で1万5500円)と休日出勤手当(日額2500円)

を支給し,部活動は,顧問手当の範囲でできることを

やればよいという建前がとられていました。

 

 

しかし,入学金免除の特待生をかかえる運動部の顧問の先生が,

学校の指示をそのまま受け取ることはできず,

運動部の顧問の先生は,対外試合で好成績を残すことを

学校から黙示的に努力目標として課されていたのです。

 

 

そして,学校の仕事ではない,県高体連の仕事も,

原告の先生の本来業務と同じと扱われ,

部活動の顧問の仕事で長時間の時間外労働をしたことの

心理的負荷が強かったと判断されました。

 

 

その結果,仕事が原因でうつ病を発症したと認定され,

労働基準法19条1項により,解雇は無効と判断されました。

 

 

人間は,1ヶ月の残業時間が100時間を超えると

うつ病を発症するリスクが高まります。

 

 

働き方改革が叫ばれている今こそ,

学校の先生の仕事の負担を軽減し,

先生が健康なまま働ける社会に

していかなければならないと考えます。

 

 

学校の先生が働き過ぎによって健康を害することがないように,

学校評議員の役割を全うしていきたいと思います。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

夢の国での過酷な労働

朝日新聞の報道によれば,東京ディズニーランドにおいて,

ディズニーのキャラクターの着ぐるみを着用して

ショーに出演していた2名の労働者が,

運営会社に対して裁判を起こしたようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASL7M41Y1L7MULFA00F.html

 

 

1名の原告は,キャラクターの着ぐるみを着用して,

客にあいさつをして回っているときに,

男性客に右手の薬指を無理やり曲げられて

けがをしてしまったようです。

 

 

 

 

この原告の労働者が,上司に労災申請をしたいと相談した際に,

上司からは「それくらい我慢しなきゃ」,「君は心が弱い」

と言われて,つきかえされたようです。

 

 

上司の言動を証明できるかという問題はありますが,

上司の言動が真実であれば,「労災隠し」の問題があります。

 

 

会社は,労災事故が発生した場合,遅れることがないように,

労働基準監督署へ報告する義務を負っています。

 

 

それでも,会社は,労働基準監督署の調査や行政指導

を受けたくなかったり,労災保険料が増額されることを避けたいがために,

労災隠しをすることがありますが,労災隠しは違法な行為です。

 

 

さらに,会社は,労働者が労災申請をする際には,

協力する義務があるのですが,

この協力義務にも違反することになります。

 

 

また,もう1名の原告の労働者は,

着ぐるみでショーに出演して働いていたところ,

左腕が重く感じ,手の震えが止まらなくなったようです。

 

 

しかし,休みがとりにくく,仕事を続けた結果,

症状が悪化し,腕をあげると激痛が走り,

手の感覚がなくなり,胸郭出口症候群と診断されて,

労災認定を受けたようです。

 

 

胸郭出口症候群とは,首と腕の間にある胸郭出口

と呼ばれるところで,筋肉や骨により神経や血管が圧迫されて,

腕のしびれが生じる病気のことです。

 

 

 

 

胸郭出口症候群で首,肩,上肢から手指にかけて

しびれや痛みが残った場合,局部の神経系統の後遺障害として,

労災では12級13号か14級9号の等級認定がされる可能性があります。

 

 

労災で後遺障害の等級認定が受けられれば,

労災から障害給付として障害一時金が支給されます。

 

 

さて,私も,大学生だったころに,着ぐるみを装着して

アルバイトをしたことがありますので,

着ぐるみの大変さはよくわかります。

 

 

着ぐるみの大変なのは,①着ぐるみが重くて臭い,

②視界が狭いので自分で動きにくく,ストレスがかかる,

③着ぐるみの中は蒸し風呂状態で暑くて不快であるといった点にあります。

 

 

最近は,着ぐるみを装着したまま,

アクロバットな動きをするキャラクターがいますが,

着ぐるみ自体が重く,視界も悪いので,相当危険だと思います。

 

 

さらに,今年のような猛暑の中,

屋外で着ぐるみを装着することは,まさに地獄だと思います。

 

 

このような過酷な労働をしていると,

怪我をしたり,病気になるのは当然なのでしょう。

 

 

会社は,着ぐるみを装着して働くことの過酷さを理解し,

着ぐるみを装着して働く回数を制限したり,

十分な休憩をとらせるなどの対策をとるべきです。

 

 

子供たちに夢を与える場所で働く労働者が,

仕事が原因で体を壊すのでは,

せっかくの夢の国が台無しです。

 

 

 

早急に,夢の国での労働環境が改善されることを期待したいです。