過労死した飲食店の店長の労災保険給付金の算定と固定残業代

1 給付基礎日額とは

 

 

労災保険から支給される保険給付金は,

給付基礎日額をもとに算定されます。

 

 

後遺障害が残ったときに支給される障害補償給付や,

被災労働者が死亡したときにご遺族に支給される遺族補償給付は,

給付基礎日額の何日分として支給されるのです。

 

 

 

この給付基礎日額は,労災事故が発生した日の直前3ヶ月間の

賃金の総支給額を日割り計算したものをいいます。

 

 

2 給付基礎日額の計算には未払残業代も含まれる

 

 

給付基礎日額を計算するうえで,

残業代が含まれているのかをチェックする必要があります。

 

 

給付基礎日額を計算するための賃金の総支給額を算出するにあたり,

現実に支払われた賃金だけではなく,実際には支払われていなくても,

労働基準法の適用上支払われるべき賃金債権も含まれるのです。

 

 

そのため,会社が残業代を支払っていなくても,

給付基礎日額の計算においては,

未払残業代を含めて給付基礎日額を計算するのです。

 

 

労災認定されたけれども,直前3ヶ月間に長時間労働をしていたのに,

未払残業代が給付基礎日額に反映されていない場合には,

審査請求などの不服申立をして,是正を求める必要があります。

 

 

3 給付基礎日額の計算に固定残業代も含まれるのか

 

 

さて,この給付基礎日額の計算にあたり,

固定残業代を賃金の総支給額に算入してもよいのかについて,

労働者に有利な判決がありました。

 

 

国・茂原労基署長(株式会社まつり)事件の

東京地裁平成31年4月26日判決です(労働判例1207号56頁)。

 

 

この事件では,過労死した飲食店の店長のご遺族が労災申請して,

労災認定されたのですが,遺族補償給付の給付基礎日額の計算にあたり,

超過勤務手当10万円,深夜業手当5000円の固定残業代が

算入されていなかったため,ご遺族が審査請求したのですが,

認められなかったため,取消訴訟を提起しました。

 

 

固定残業代が有効になるためには,

固定残業代が時間外労働の対価として支払われている必要があります。

 

 

 

この対価性の要件を検討するには,

労働契約書の記載内容のほか,

会社による当該手当の説明の内容,

労働者の実際の労働時間の勤務状況を考慮して決めます。

 

 

この事件では,労働契約が口頭でなされており,

契約書が作成されていないこと,

会社が労働契約締結時に固定残業代と割増賃金の

関係について説明していないことから,

固定残業代が時間外労働の対価として

支払われているものとはされていないと判断されました。

 

 

その結果,給付基礎日額の計算において,

固定残業代を賃金の総支給額に算入すべきこととなり,

遺族補償給付の金額が増額されました。

 

 

過労死事件でも,固定残業代を無効として争うことで,

給付基礎日額が増えて,ご遺族に支給される

遺族補償給付の金額が増える可能性があるのです。

 

 

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