会社を退職した後も労災保険の休業補償給付を受給できるのか?

2日前は業務多忙により,

19時30分までに帰宅できなかったため,

昨日,ついにブログの更新がとまってしまいました。

 

 

記録がとまってしまい,なんとも無念でした。

 

 

もっとも,昨日は,忙しいながらも,

なんとか仕事を終わらせて19時30分までに帰宅できたので,

本日はブログを更新します。

 

 

さて,先日,仕事中にけがをして,

会社を休んでいる方のご相談を受けました。

 

 

仕事が原因でけがをして,会社を休む場合,

労災保険から,休業補償給付を受けられます。

 

 

 

ようするに,仕事で負傷し,

治療するために働くことができない場合,

給付基礎日額(直近3ヶ月の賃金の総支給額を日割り計算したもの)

の60%に相当する額が国から支給されます。

 

 

さらに,この休業補償給付に上乗せされて支給される

休業特別支給金というものがあり,給付基礎日額の

20%に相当する額が国から支給されます。

 

 

休業補償給付と休業特別支給金を合わせると,

給付基礎日額の80%に相当する額が支給されるのです。

 

 

おおざっぱに言ってしまえば,

仕事が原因で負傷して会社を休む場合,

給料の80%が国から支給されるというわけです。

 

 

この休業補償給付を受給するためには,

次の3つの要件を満たす必要があります。

 

 

①仕事の原因による傷病のために療養していること

 

 

 ②療養のため労働することができないこと

 

 

 ③そのために賃金をうけていないこと

 

 

この3つの要件を満たせば,

会社を休んでから4日目以降に,

労働者が請求すれば,休業補償給付が受けられます。

 

 

それでは,負傷の原因となった仕事をしていた会社を退職した後にも,

休業補償給付を受給することができるのでしょうか。

 

 

 

仕事で負傷した労働者は,会社を退職しても

引き続き休業補償給付を受給できるのかという問題です。

 

 

この問題については,労災保険法12条の5第1条に

「保険給付を受ける権利は,労働者の退職によって変更されることはない。」

と記載されていることから,上記①~③の要件を満たしている限り,

労働者は,雇用関係の存続に関係なく,

休業補償給付を受給し続けることができます。

 

 

なぜならば,休業補償給付とは,

一般的な賃金の損失に対する填補するものであり,

雇用関係の存在期間にのみ限定するという

性格のものではないからなのです。

 

 

というわけで,会社を退職しても,

仕事が原因の怪我で治療をしていて,

働けないのであれば,休業補償給付を

受給し続けることができるので安心できます。

 

 

もっとも,会社を退職後に,別の会社で勤務して

給料をもらうようになると,上記3つの要件のうちの

②と③の要件を満たさなくなるので,

休業補償給付を受給することはできなくなります。

 

 

労災保険は,仕事が原因で負傷した労働者を

保護するための制度ですので,

積極的に活用していってもらいたいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

「#KuToo」運動から労災とパワハラを考える

職場でヒールやパンプスを履くことを強制する風習を見直し,

ヒールやパンプスを履く履かないを選べるようにする

#KuToo」運動が盛り上がりをみせています。

 

 

男である私は,ヒールやパンプスを履いたことがないので

分からないのですが,ヒールやパンプスは見ているだけで,

きっと足が疲れるのだろうなと感じています。

 

 

 

男の感覚としては,つま先立ちで歩いているような気がして,

ふくらはぎの筋肉が疲労するのではないかと思います。

 

 

この「#KuToo」運動が盛り上がりをみせている中,

朝日新聞が,制服での接客がある業界の主たる企業に取材したところ,

服装規定やガイドラインなどの社内ルールでヒールの高さなどを

推奨している企業が多いようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASM6F6Q4MM6FULFA044.html

 

 

会社でヒールの高さの推奨例が定められていれば,

それに従わなければならないという同調圧力が生じて,

推奨例のヒールやパンプスを着用することが

事実上義務付けられているように感じます。

 

 

 

また,スニーカーやサンダルを履く場合には,

「異装届」を提出する必要がある会社もあるようです。

 

 

さて,本日は,ヒールやパンプスの着用を強制された場合の

労災やパワハラの問題について検討してみます。

 

 

まずは,ヒールやパンプスの着用を義務付けられている職場において,

ヒールやパンプスを着用して仕事をしていた女性労働者が

転倒してけがを負った場合に労災と認定されるかを検討してみましょう。

 

 

労災保険の適用を受けるためには,

「業務上の負傷」に該当する必要があり,

「業務上」とは,業務遂行性が認められることを前提に

業務起因性が認められることをいいます。

 

 

業務遂行性とは,労働者が労働契約に基づき

事業主の支配下にある状態をいいます。

 

 

職場でヒールやパンプスを着用して仕事をしていたときに

転倒したのであれば,労働契約に基づき会社の支配下にある状態で

けがをしたといえるので,業務遂行性が認められます。

 

 

次に,業務起因性とは,業務が原因となって

当該傷病が発生したことをいい,

業務に内在する危険が現実化したものによると

認められることともいいます。

 

 

職場においてヒールやパンプスの着用が義務付けられており,

床が滑りやすいにもかかわらず,会社が靴を履き替えさせないで,

女性労働者が転倒したのであれば,

業務に内在する危険が現実化したといえ,

業務起因性が認められます。

 

 

 

このように,ヒールやパンプスの着用が義務付けられている職場で,

ヒールやパンプスを着用して働いていた女性労働者が

転倒してけがをした場合には,労災と認められる可能性が高いと思います。

 

 

次に,ヒールやパンプスの着用を義務付けられて仕事をしていたところ,

外反母趾となった場合に,労災と認定されるかを検討してみましょう。

 

 

外反母趾になると,足の親指の先が人差し指のほうにくの字に曲がり,

付け根の関節の内側の突き出したところが痛くなります。

 

 

ハイヒールを履いていると外反母趾になりやすいようです。

 

 

http://www.yoshino-seikei.jp/hallux.html

 

 

外反母趾の原因の一つにハイヒールの着用があるようですが,

他にも先天的な足の形状などの原因があったり,

仕事以外のプライベートな時間においても

ハイヒールを頻繁に着用していたのであれば,

業務起因性が否定される可能性があります。

 

 

他方,仕事でのみハイヒールを着用していて,

他に先天的な足の形状に問題がないなどの場合には,

業務起因性が認められる可能性があります。

 

 

外反母趾の場合に労災を申請する場合には,

慎重に検討する必要があります。

 

 

最後に,健康上の理由などでヒールやパンプスを着用するのを

嫌がっている女性労働者に対して,

ヒールやパンプスの着用を義務付けることは

パワハラに該当するかについて検討してみましょう。

 

 

先日,法改正によって,パワハラが次のように定義付けられました。

 

 

職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,

業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

その雇用する労働者の就業環境が害されること

 

 

上司が,健康上の理由などでヒールやパンプスを着用するのを

嫌がっている女性労働者に対して,

ヒールやパンプスの着用を義務付けることは,

業務上必要かつ相当な範囲を超えた指導となり,

当該女性労働者の就業環境を害することになりますので,

パワハラに該当すると考えられます。

 

 

このように,ヒールやパンプスの着用を義務付けることは,

労災やパワハラの問題につながる可能性があります。

 

 

ヒールやパンプスについては,履きたい人は履けばいい,

履きたくない人は履かなくていい

というようになればいいのではないかと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

建築設計事務所における過酷な長時間労働

5月27日の朝日新聞に「裁量労働制 定額働かせ放題の闇

という大変興味深い記事がありましたので紹介します。

 

 

https://www.asahi.com/articles/DA3S14031264.html

 

 

この記事によると,大学と大学院で建築を学んだ20代女性が

東京都内の建築設計事務所に入社したところ,

過酷な長時間労働を強いられて,

適応障害を発症して労災と認定されたようです。

 

 

 

 

過酷な長時間労働とは,記事によると次のようなものでした。

 

 

①26日間連続勤務

 ②1日22時間30分勤務(休憩2時間)

 ③9ヶ月連続で1ヶ月の残業が100時間超

 ④1ヶ月の残業が180時間

 ⑤帰宅なしで2日間で30時間勤務

 

 

精神障害の労災認定基準である「心理的負荷による精神障害の認定基準」

の別表1の「業務による心理的負荷評価表」には,

具体的な出来事ごとに労働者が受けるであろう

心理的負荷の強度が記載されており,

上記①~⑤をあてはめると次のようになります。

 

 

①26日間連続勤務→

2週間以上にわたって連続勤務を行ったに該当し,

心理的負荷の強度は「中」となります。

 

 

連続勤務が1ヶ月以上になると心理的負荷の強度は「強」となります。

 

 

そもそも,労働基準法35条において,会社は,労働者に対して,

1週間に1回休日を与えなければならないので,

①26日間連続勤務は,明らかに労働基準法違反となります。

 

 

②1日22時間30分勤務(休憩2時間),

⑤帰宅なしで2日間で30時間勤務→

労災認定基準は,1ヶ月の労働時間で評価するので,

これだけで心理的負荷の強度は判断されませんが,

1日8時間労働が原則であり,それを大幅に超えるものであり,

過酷な長時間労働を物語っています。

 

 

 

 

③9ヶ月連続で1ヶ月の残業が100時間超→

発症直前の連続した3ヶ月間に,

1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い,

その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであれば,

心理的負荷の強度は「強」となります。

 

 

④1ヶ月の残業が180時間→

発症直前の1ヶ月におおむね160時間を超えるような

時間外労働を行った場合,「極度の長時間労働」

として心理的負荷の強度は「強」となります。

 

 

このように,①~⑤の労働実態であれば,労災と認定されるのです。

 

 

では,なぜ,このような過酷な長時間労働が

許されてしまったのでしょうか。

 

 

それは,この女性労働者に

専門業務型裁量労働制が適用されていたからです。

 

 

 

 

長くなりますので,専門業務型裁量労働制

についての解説は,明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働安全衛生法等から安全配慮義務違反の内容を特定する

本日は,昨日紹介した化学メーカーC社事件の

安全配慮義務違反について説明します。

(東京地裁平成30年7月2日判決・労働判例1195号64頁)。

 

 

労災の損害賠償請求において,

会社には安全配慮義務違反が認められるのかが

大きな争点となります。

 

 

安全配慮義務違反とは,会社は,

自己が使用する労働者の生命・健康を危険から

保護するように配慮する義務を負っているところ,

その義務に違反することです(労働契約法5条)。

 

 

 

この安全配慮義務は,抽象的な概念であり,

当該事件において,会社は,どのような安全配慮義務を

負っていたのかについて,労働者は,

安全配慮義務の内容を具体的に特定して,

その義務違反に該当する事実を,

主張立証していかなければなりません。

 

 

安全配慮義務の内容を具体的に特定する際に

役立つのが労働安全衛生法という法律です。

 

 

労働安全衛生法には,労働者が安全と健康を確保して,

快適な職場環境で働けるために,国が会社に対して,

様々な遵守事項を定めています。

 

 

そのため,会社が労働安全衛生法で示された基準を遵守せず,

あるいは違反している事実がある場合には,

規制の趣旨や具体的な状況下において,

安全配慮義務違反が認められる傾向にあります。

 

 

 

 

化学メーカーC社事件においては,

次の3つの安全配慮義務違反が認められました。

 

 

1つ目は,局所排気装置等設置義務違反です。

 

 

労働安全衛生法22条及び有機溶剤中毒予防規則5条により,

会社には,原告労働者が検査分析業務を行っていた研究室に,

局所排気装置を設置する義務を負っていたのですが,

局所排気装置は設置されず,会社はその状態を放置していました。

 

 

この法令の趣旨は,労働者の健康被害を防止する点にあること,

有機溶剤の毒性が人体に致命的に作用することがあることから,

会社には,安全配慮義務として,

局所排気装置等設置義務違反を負い,

その違反が認められました。

 

 

 

2つ目は,保護具支給義務違反です。

 

 

有機溶剤中毒予防規則32条2号,33条1項1号において,

会社は,労働者に対して,送気マスク又は

有機ガス用防毒マスクを使用させる義務を負っています。

 

 

この趣旨は,労働者の健康被害を防止すること,

有機溶剤の毒性が人体に致命的に作用することがあることから,

送気マスク又は有機ガス用防毒マスクを使用させるという

保護具支給義務は,安全配慮義務の内容となり,

その義務違反が認められました。

 

 

3つ目は,作業環境測定義務です。

 

 

労働安全衛生法65条,労働安全衛生法施行令21条10号,有

機溶剤中毒予防規則28条により,会社は,

有機溶剤業務を行う屋内作業場において,

6ヶ月以内ごとに1回,定期に,

有機溶剤の濃度を測定し,

測定結果を3年間保存する義務を負っています。

 

 

この作業環境測定は,作業環境の現状を認識し,

作業環境を改善する端緒になるとともに,

作業環境の改善のためにとられた措置の効果を

確認する機能を有するので,

作業環境測定義務も安全配慮義務の内容となり,

その義務違反が認められました。

 

 

以上の3つの安全配慮義務違反が認められて,

合計1995万円の損害賠償請求が認められました。

 

 

このように,労災の損害賠償請求においては,

会社の安全配慮義務違反を検討する際に,

労働安全衛生法や会社が遵守すべき労働法の規制を調査して,

安全配慮義務の内容を具体的に特定することが重要になります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

化学メーカーにおける検査分析業務と化学物質過敏症の因果関係

化学メーカーに勤務する労働者が,仕事上,

大量の化学物質に曝露して,体調を悪化させてしまった場合,

労働者は,会社に対して,どのような請求ができるのでしょうか。

 

 

本日は,有機溶剤や有害化学物質が発散する劣悪な労働環境で

検査分析業務を強いられたことで,

有機溶剤中毒及び化学物質過敏症に罹患したとして,

会社に対して,安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求をした

化学メーカーC社事件を紹介します

(東京地裁平成30年7月2日判決・労働判例1195号64頁)。

 

 

この事件の原告労働者は,石けん,シャンプー,化粧品,洗剤

などの油脂加工製品の製造販売をする化学メーカーに勤務していたときに,

工場の研究棟において,検査分析業務を行う際に,

試料の前処理や機材の洗浄のために,

クロロホルムやメタノールなどの有機溶剤や化学物質を使用していました。

 

 

 

 

原告労働者が働いていた研究室には,

局所排気装置が設置されていなかったり,

有機ガス用防毒マスクが支給されていませんでした。

 

 

そのような状況において,原告労働者は,

有機溶剤や化学物質を使用する検査分析業務に

約8年間従事していたところ,

頭痛,微熱,嘔吐,咳,蕁麻疹,下痢,全身の倦怠

などの症状が発症しました。

 

 

医師からは,有機溶剤中毒及び化学物質過敏症

に罹患しているという診断が出されました。

 

 

化学物質過敏症とは,過去に大量の化学物質を一度に曝露された後,

または長期間慢性的に化学物質に再接触した際にみられる

不快な臨床症状のことのようで,

発症メカニズムの解明には至っておらず,

決め手となる診断手法も決まっていないようです。

 

 

有機溶剤中毒とは,有機溶剤が人体の特定の器官に蓄積して,

中枢神経障害,末梢神経障害,自律神経障害が発症することのようです。

 

 

この事件では,原告労働者が,検査分析業務に従事していたことで,

化学物質過敏症及び有機溶剤中毒に罹患したといえるのかという

因果関係が争点になりました。

 

 

この争点について,判決では,原告労働者の検査分析業務において,

クロロホルムやノルマルヘキサンなどの有機溶剤が大量に使用されており,

再現実験の結果から,有機溶剤の管理濃度が

許容限度を超えていたことから,原告労働者は,長期間にわたって,

相当多量の有機溶剤に曝露されていたと認定されました。

 

 

 

そして,化学物質過敏症の病態が未だに完全に解明されていないものの,

原告労働者の症状が化学物質過敏症の症状と合致しており,

複数の医師の診断があることから,原告労働者は,

検査分析業務に従事する過程で大量の化学物質の曝露を受けて,

有機溶剤中毒及び化学物質過敏症に罹患したと判断されました。

 

 

この事件では,原告労働者の作業環境における

有機溶剤の濃度を測定するために,再現実験が実施され,

そこでの結果が,因果関係の判断に大きな影響を与えたと考えられます。

 

 

このような化学物質に関する再現実験は,専門性も高く,

費用も高額になりそうなので,どのようにして実施したのかが

大変興味深いです。

 

 

長くなってしまったので,安全配慮義務違反については,

明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ホストの飲酒死は労災と認められるか?

朝日新聞の報道によりますと,

大阪ミナミのホストクラブで働いていた当時21歳の男性が

急性アルコール中毒で死亡したことについて,

この飲酒死は業務が原因であったとして,

労災と認めらた判決が大阪地裁でくだされたようです。

 

https://www.asahi.com/articles/ASM5Y51FRM5YPTIL017.html

 

 

過労死などの労災の分野では第一人者である,

原告の訴訟代理人である大阪の弁護士松丸正先生のコメントによれば,

「飲酒を伴うサービス業務中の事故を

労災と認めた初めての判断ではないか」とのことです。

 

 

 

本日は,仕事で飲酒することと労災について説明します。

 

 

まず,労働者が労災事故に巻き込まれて負傷した場合,

労災保険が適用されれば,治療費や休業補償が国から支給されます。

 

 

この労災保険の給付を受けるためには,

当該負傷が「業務上の負傷」に該当する必要があります。

 

 

この「業務上」という要件は,

業務遂行性が認められることを前提に業務起因性が認められること

を意味します。

 

 

「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの要件を満たせば,

「業務上」と認められるのです。

 

 

業務遂行性」とは,労働者が労働契約に基づき

事業主の支配下にある状態をいいます。

 

 

業務起因性」とは,業務が原因となって当該傷病が発生したこと,

言い換えれば,業務に内在する危険が現実化したものによると

認められることをいいます。

 

 

専門的に解説してしまいましたが,

ものすごく大ざっぱに言えば,

仕事が原因で,ケガをしたり,病気が発症したといえればいいのです。

 

 

ホストがホストクラブにおいて,

客や先輩ホストから言われて酒を飲めば,

ホストクラブの経営者の支配下において,

上司の指示に従い酒を飲み,

それが原因で急性アルコール中毒となったので,

業務遂行性と業務起因性が認められそうです。

 

 

 

 

しかし,酒を飲む行為が私的行為と評価されてしまえば,

業務遂行性が否定されることがあります。

 

 

適度な量の飲酒であれば,業務遂行性は否定されにくいのですが,

飲酒量が多くなると,自分の意思で酒を大量に飲んだとして,

私的行為と評価されることがあります。

 

 

この事件では,労災申請をしても,

労働基準監督署において,

自分の意思で大量に飲酒したとして,

労災と認定されなかったようです。

 

 

しかし,5月30日の大阪地裁の判決では,

客の証言やホスト仲間のラインという証拠から,

死亡した男性は,先輩ホストから,

濃い焼酎やテキーラを飲むように強要されて,

大量の飲酒を拒否するのが困難な状況に追いやられていたとして,

この事件では,飲酒は私的行為ではなく,

業務として飲酒したのであり,業務遂行性と業務起因性が認められて,

労災と認められたようです。

 

 

大量の飲酒は私的行為と評価されて,

労災と認められない可能性があったものの,

客の証言やホスト仲間とのラインを証拠として,

飲酒が「業務上」と判断されたことは画期的なことだと思います。

 

 

ホストクラブの実態はまったくわかりませんが,

漫画「夜王」を読む限りにおいて,ホストは,仕事として

毎回大量の飲酒をしていることが予想され,

飲酒が原因で体を壊したのであれば,

労災と判断されるケースがたくさんあるのだと思います。

 

 

 

キャバクラやラウンジで働くホステスにも,

同じように労災と認められる可能性があると思います。

 

 

判決文が入手できたら,もう少し細かく解説したいと思います。

 

 

飲酒が原因で若者が死亡するという痛ましい事件

がなくなることを祈念しています。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労災隠しは許されません

昨日に引き続き,高齢者の労災問題について記載します。

 

 

現行の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)8条で,

60歳を下回る定年を定めることが禁止されています。

 

 

そして,高年法9条では,企業に対して,

65歳までの雇用確保措置として,

①定年の引上げ,②継続雇用制度の導入,③定年制の廃止

のいずれかを講ずることを義務付けています。

 

 

多くの企業では,60歳で一旦定年を迎えて,

その後は再雇用として,60歳から65歳まで

有期労働契約を締結するなど,

②継続雇用制度の導入をしているようです。

 

 

おそらく,60歳から1年ごとに,有期労働契約を更新して,

65歳まで働くのだと思います。

 

 

 

年金の受給開始年齢が基本的に65歳であり,また,

子供がまだ独り立ちしていない場合には,

子供のために働かなければならず,

1年ごとに有期労働契約を更新して,

働き続ける必要があります。

 

 

そのため,労災に遭ったとしても,

労災申請をすると,会社から煙たがられて,

次の有期労働契約を更新されないことを恐れてしまい,

労災申請を控えてしまうようです。

 

 

「無事故連続○日」という張り紙が職場に貼ってあり,

数千日の数字が記載されていると,

労働者に無言のプレッシャーとなり,

労災に遭って負傷しても,労災保険を利用せず

(労災保険を利用すれば,治療費を自分で負担する必要はありません),

健康保険で自己負担で治療を済ませてしまうことがあるようです。

 

 

このように,高齢の労働者は,有期労働契約なので

労災申請を控えてしまう傾向があることの他に,

会社が意図的に労災を隠すこともあります。

 

 

労災が発生して労働者が休業した場合,会社は,遅滞なく,

労働者死傷病報告という文書を労働基準監督署へ提出して,

労災が発生したことを報告する義務を負っています

(労働安全衛生規則97条)。

 

 

会社が,この報告義務を怠ると,

50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

 

 

 

 

会社が,労災が発生しても,労働基準監督署に

労災の報告をしないことを労災隠しといいます。

 

 

実際に,石川県内においても,建物の解体現場において,

60代の男性労働者が転落し,

骨折して4日以上休業したにもかかわらず,

労働者死傷病報告が提出されておらず,

穴水労働基準監督署は,石川県内の企業を

金沢地方検察庁へ書類送検しました。

 

 

https://www.rodo.co.jp/column/38259/

 

 

労災隠しをすると,罰金50万円が科される

リスクがあるにもかかわらず,

会社がなぜ労災隠しをするのかといいますと,

会社が労働基準監督署へ労災の報告をすると,

労働基準監督署が会社に対し,

事故原因や法令違反がなかったかを調査をして,

必要に応じて行政指導や刑事告発をする可能性があるので,

会社は,それを避けたいからなのです。

 

 

しかし,労災に遭ったにもかかわらず,

労災保険の適用を受けないと,

被災した労働者にとっては,

治療費の負担,休業補償,後遺障害が残った場合の補償,

死亡時の遺族補償などについて,様々なデメリットが発生します。

 

 

 

そこで,会社から労災保険を利用することを控えるように言われても,

ためらうことなく労災申請すべきなのです。

 

 

また,高齢の労働者が労災に巻き込まれないための対策として,

高齢の労働者が転倒しないように,

仕事場の明るさの調整,

スピーカーの音量や音質を聞き取りやすくする,

段差をなくす,滑りにくい靴をはくなどが考えられます。

 

 

高齢の労働者が今後も増えていきますので,

企業には,高齢の労働者が労災に巻き込まれないように

予防策を講じていくことが求められます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

高齢者の労災が増えています

先日のブログに記載しましたが,政府は,未来投資会議において,

希望する人が70歳まで働き続けられるように,企業に対して,

高齢者の雇用機会をつくるよう努力義務を課す方針を明らかにしました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201905238076.html

 

 

人生100年時代に突入し,

70歳まで働くのが当たり前の世の中になっていきます。

 

 

働く高齢者が増えていく一方で,実は,大きな問題が発生しています。

 

 

それは,高齢者の労災が増加しているという問題です。

 

 

 

朝日新聞の報道によりますと,2018年度に

60歳以上の労働者が労災に遭った件数は,3万3246件であり,

前年に比べて10.7%も増加し,

労災に遭った全年齢の労働者のうちの26.1%に達したようです。

 

 

10年前は,18%だったようですので,

働く高齢者が増えるに従って,

働く高齢者の労災が増えていっています。

 

 

労災全体の約4分の1の被災者が

60歳以上の労働者ということになり,

高齢の労働者が労災に巻き込まれる

リスクが高まっているといえます。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASM5K3V90M5KULFA00T.html

 

 

それでは,高齢者の労災が増えている原因は何なのでしょうか。

 

 

2019年5月24日号の週刊朝日で

「シニアを使い捨て 急増するブラック労災」

という特集があり,そこで次のような原因の分析がされています。

 

 

 

加齢によって,筋力や視力,バランス保持能力といった

身体機能が低下し,転倒や転落といった事故につながるようです。

 

 

また,身体面だけでなく,脳の情報処理能力も衰えるので,

危険を察知して回避するといった複雑な情報処理に関して,

反応時間が長くなってしまい,突発的な事故に対処できず,

ケガを負ってしまうようです。

 

 

さらに,運動による発汗量は加齢によって低下するらしく,

高齢者は体熱を発散しにくくなっており,

持病で服用している薬によっては,発汗抑制作用があったり,

脱水を引き起こしやすい成分が含まれたりして,

熱中症のリスクも高いようです。

 

 

そして,身体機能の衰えという要因以外にも,

働き方の変化という側面もあるようです。

 

 

すなわち,今は人手不足なので,高齢者であっても,

現役世代と同じ内容の仕事を負担しているという実態があるようです。

 

 

昔であれば,高齢者であれば,現役世代よりも

負担の軽い仕事を任されていたのが当たり前でしたが,

今は,そうではなく,現役世代と同じ負担の仕事を任されるので,

身体機能が衰える高齢者にとっては,

過酷な労働環境となっているようです。

 

 

政府は,多くの人に70歳まで働いてもらいたいのであれば,

高齢者の労災を減らすための取り組みを同時に実施して,

高齢者であっても,安心して働ける環境を整備していくべきだと考えます。

 

 

 

高齢者の労災を防止する取り組みを実践して,

成果をあげている企業に対して,

補助金を支給するなどの取り組みが考えられます。

 

 

人生100年時代に突入しているので,

高齢者が安心して働き続けられる社会にしていきたいものですね。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

精神疾患が悪化した場合の労災認定基準

仕事以外の原因や,仕事による弱い心理的負荷によって

精神疾患が発症し,その後に,仕事による強い心理的負荷によって,

精神疾患が悪化した場合,労災と認められるのでしょうか。

 

 

もともと精神疾患がなかった人が,発症前6ヶ月間に,

仕事による強い心理的負荷によって精神疾患を発症した場合,

労災と認定されるのですが,もともと精神疾患があった人が,

仕事による強い心理的負荷によって,精神疾患が悪化した場合,

労災と認められるためには高いハードルがあります。

 

 

すなわち,精神疾患の悪化の場合,悪化の前に,

仕事による強い心理的負荷となる出来事があったとしても,

原則として労災とは認められないのです。

 

 

 

 

もっとも,精神障害の労災認定基準別表1に記載されている

「特別な出来事」に該当する事実が存在し,

その後おおむね6ヶ月以内に精神疾患が自然的経過を超えて

著しく悪化したと医学的に認められる場合に,

悪化した部分について労災と認められます。

 

 

この「特別な出来事」とは,次のような場合です。

 

 

①生死にかかわる,極度の苦痛を伴う,または

永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした場合

 

 

②業務に関連し,他人を死亡させ,または

生死にかかわる重大なケガを負わせた場合

 

 

③強姦や,本人の意思を抑圧しておこなわれた

わいせつ行為などのセクシャルハラスメントを受けた場合

 

 

④発病直前の1ヶ月におおむね160時間を超えるような,

またはこれに満たない期間これと同程度の

(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った場合

 

 

 

 

このような,「特別な出来事」がない限り,

精神疾患の悪化のケースでは,労災と認められないので,

ハードルがとても高いのです。

 

 

昨日紹介した,国・厚木労基署長(ソニー)事件では,

上記の判断基準が妥当と判断されました

(東京高裁平成30年2月22日判決・労働判例1193号40頁)

 

 

その理由としては,既に精神疾患を発症して治療が

必要な状態にある者は,病的状態に起因した思考から

自責的・自罰的になり,ささいな心理的負荷に過大に反応し,

悪化の原因が必ずしも大きな心理的負荷によるものとは限らず,

自然経過によって悪化する過程でたまたま仕事による

心理的負荷が重なったにすぎない場合があるからです。

 

 

精神疾患の悪化の原因が仕事による強い心理的負荷と

判断しにくいので,労働者本人の要因とはいえないくらい,

極めて強い心理的負荷がある場合についてのみ,

精神疾患の悪化を労災と認めるようにしたわけです。

 

 

しかし,精神疾患の既往歴のある労働者に,

仕事による強い心理的負荷が認められても

労災と認定されないとなると,一般的な労働者と判断基準が

異なってしまうという論理的な問題があり,

精神疾患の既往歴のある労働者に厳しすぎる判断基準となっており,

妥当ではありません。

 

 

 

 

精神疾患の既往歴のある労働者にとって不平等な結論

となってしまいますので,労災認定基準を見直して,

精神疾患の悪化の事案についても一般的な労働者と

区別しない判断基準に改正するべきだと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労災はどのような労働者を基準に判断されるのか?

長時間労働や上司からのパワハラなどで,

精神疾患を発症したり,最悪自殺に至った場合,

精神障害の労災認定基準をもとに,労災申請をすることがあります。

 

 

その際,労働者が体験した具体的な出来事ごとに

心理的負荷を検討し,その心理的負荷が「強」と判断されれば,

労災と認定されます。

 

 

 

それでは,この心理的負荷の強度を,

どのような労働者を基準に判断するのでしょうか。

 

 

仮に,精神疾患を発症した当該労働者が,

もともと何か病気をかかえていて,

心理的負荷を強く感じる方の場合,

他の労働者にとっては,心理的負荷を

それほど感じない場合であっても,

当該労働者を基準とすると,心理的負荷を

強く感じることがあります。

 

 

そこで,精神疾患を発症した当該労働者を基準とするのか,

一般的な労働者を基準とするのかが問題となるのです。

 

 

この問題について判断した国・厚木労基署長(ソニー)事件

を紹介します(東京高裁平成30年2月22日判決・

労働判例1193号40頁)。

 

 

この事件では,脳原性上肢障害で身体障害者等級6級の認定を受け,

頭痛,左手の麻痺,眼及び顔面に若干の障害を有していた

労働者が上司から厳しい言葉で注意を受け,その後,自殺しました。

 

 

 

 

遺族は,身体障害者であることを考慮して,

労災認定すべきと主張しましたが,労災とは認められず,

労災の不支給決定の取消を求めて裁判を起こしました。

 

 

裁判所は,どのような労働者を基準に心理的負荷の強度を

検討するかについて,「被災労働者と同種の平均的労働者,すなわち,

何らかの個体側の惰弱性を有しながらも,

当該労働者と職種,職場における立場,経験等の

社会通念上合理的な属性と認められる諸要素の点で同種の者であって,

特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者

を基準とすると判断しました。

 

 

そして,労災保険給付は,客観的に業務に内在する

危険性が実現したことに対する給付であり,

労働者の障害という事実を業務自体に内在する危険とは

みることができず,心理的負荷の強度を検討するにあたり,

障害の事実を考慮に入れるとする見解を採用しませんでした。

 

 

障害を持つ者が障害によって業務が軽減されているときは,

その軽減された業務に内在する危険が実現したと

認められるかが評価され,軽減されていないときには,

軽減されていない業務に内在する危険が実現したと

認められるか否かが評価されるので,

障害による業務の軽減の有無によって心理的負荷の判断は

異なるものではない,というのがその理由のようです。

 

 

そのため,身体障害者である被災労働者を基準とすることなく,

平均的な労働者を基準として心理的負荷の強度を判断することとなり,

結果として,遺族の請求は認められませんでした。

 

 

しかし,労働者は,もともと多種多様であり,

ストレス耐性にも個人差があるので,

当該業務が当該労働者にどのような心理的負荷を

与えていたのかを個別に検討すべきと考えます。

 

 

 

障害を持っている労働者とそうではない労働者とでは,

仕事から受ける心理的負荷の強度に違いはでるはずですので,

その点を考慮することが公平なのだと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。