ハラスメント事件における実務対応

1 日本労働弁護団第63回全国総会に参加してきました

 

 

11月8日と9日に,岡山市で開催された

日本労働弁護団第63回全国総会へ参加してきました。

 

 

(徳住堅治団長のごあいさつ)

 

 

労働者側で労働事件を多く担当している弁護士が全国から集まり,

最近の労働法制の動きや,担当している事件の報告があり,

最新の知識と情報を入手できるので,私は,毎年参加しています。

 

(棗一郎幹事長のご報告)

 

 

今年は,総会後に,スタディグループという,

先輩弁護士から実務でよく問題になる争点について,

ノウハウを教えてもらえる勉強会が開催されました。

 

 

私は,「ハラスメント事件における実務対応」の

スタディグループに参加してきました。

 

 

講師の先生は,福井の海道宏実先生,

埼玉の金子直樹先生,大阪の大橋さゆり先生の3名です。

 

 

 

総会が終わって,通常であれば,すぐに帰るか,

観光にいくかという時間帯でしたが,

若手から中堅の弁護士が70人ほど参加しており,

いかにハラスメント事件への対応に関心が強いのかがよくわかります。

 

 

2 ハラスメント事件は悩ましい

 

 

それもそのはず,今では,労働事件の法律相談で

最も多いのがハラスメント事件です。

 

 

そして,ハラスメント事件は,

①立証の問題,

②ハラスメントと業務指導の線引の問題,

③慰謝料額の問題

という3つのハードルがあるため,

弁護士にとって,法律相談の対応が難しいのです。

 

 

ハラスメントを受けて苦しんでいる方が目の前にいるのに,

証拠がなかったり,業務指導との線引が難しかったり,

認められる慰謝料の額が少なかったりして,

依頼を断らざるをえないこともしばしばあります。

 

 

3名の経験豊富な先生のお話をお聞きして,

この悩みは労働者側の弁護士の共通の悩みなのだと痛感できました。

 

 

3 実践から学ぶ主張・立証・対応の工夫

 

 

それでは,今回のスタディグループで得た気づきを,

アウトプットします。

 

 

パワハラの労災では,1回だけの暴言だけでは,

心理的負荷が強とは認められず,

執拗に行なわれていなければならないので,ハードルが高い。

 

 

・パワハラの労災では,パワハラの出来事以外にも,

1ヶ月100時間を超える時間外労働などの

他の要素と組み合わせることで,

心理的負荷が強であったと主張していく。

 

 

・相談者がまだ在職中であれば,

会社に出社する直前にICレコーダーで録音を開始し,

会社を退社した後に録音を停止することで,パワハラの証拠をつかむ。

 

 

 

・相談者がパワハラのことを上司に相談していた場合には,

相談者から上司に電話をさせて,

パワハラの相談したことを確認させて,

それを録音するという方法がある。

 

 

・相談者が精神科の医師にパワハラの出来事を話しており,

それがカルテに記載されていれば,有効な証拠になる

(医師に嘘をつくことはないから)。

 

 

・残業代請求や解雇を争うときに,

パワハラの慰謝料をセットで請求する。

 

 

・パワハラ事件で弁護士が代理人としてアクションを起こす前に,

精神科の医師に意見を求めることがある。

 

 

労災の再審査請求では,黒塗りされていない事件プリントが入手できる。

 

 

・大企業における自殺事件では,

顧問弁護士が既に調査していることがあるので,

調査結果を証拠保全手続で獲得する。

 

 

・証拠保全手続でメールをおさえる場合,

誰の誰へのいつのメールというかたちで特定する。

 

 

先輩弁護士からの貴重な経験談を聞くことができましたので,

早速,日々の事件対応で活用していきます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

過労死事件における過失相殺

1 過労死等防止対策推進シンポジウムが開催されます

 

 

毎年11月は,過労死等防止啓発月間です。

 

 

11月20日水曜日14時から,

石川県地場産業振興センターにおいて,

過労死等防止対策推進シンポジウムが開催されます。

 

 

https://www.p-unique.co.jp/karoushiboushisympo/pdf/ishikawa.pdf

 

 

今回のシンポジウムでは,過労死事件の第一人者である,

大阪の弁護士の松丸正先生の講演があるので,

私にとって,貴重な勉強の機会になります。

 

 

松丸先生は,過労死事件において画期的な判決を

勝ち取っておられまして,本日は,松丸先生が勝ち取られた,

過失相殺に関して,労働者側に有利に判断した裁判例を紹介します。

 

 

岐阜県厚生農協連事件の岐阜地裁平成31年4月19日判決

(労働判例1203号20頁)です。

 

 

この事件は,時間外労働が1ヶ月100時間を超える

長時間労働をしていた20代の労働者が自殺したことについて,

ご遺族が,安全配慮義務違反を理由に,損害賠償請求をしました。

 

 

2 安全配慮義務とは

 

 

雇用主である被告は,雇用する労働者が

安全で健康に働くことができるように

配慮しなければならない義務を負っており,

これを安全配慮義務といいます。

 

 

具体的には,労働者が長時間労働によって,

精神疾患を発症させないために,

労働時間を削減したり,休ませたりしなければならないのです。

 

 

 

 

過労死や過労自殺の事件では,

この安全配慮義務違反があったかが激しく争われることが多いのですが,

この事件では,珍しいことに,被告は,

安全配慮義務違反があることを認めました。

 

 

3 過失相殺とは

 

 

その代わり,被告は,過失相殺を主張してきました。

 

 

過失相殺とは,被害者にも過失(落ち度)があった場合に,

被害者が請求できる損害賠償が減額されるということです。

 

 

この事件では,被告は,次のような過失相殺の主張をしました。

 

 

①被災労働者が長時間労働をしたのには,

被災労働者の仕事の進め方や姿勢に問題があった。

 

 

この被告の主張に対して,裁判所は,労働者の長時間労働の解消は,

第一次的には,仕事の全体について把握し,

管理している使用者が実現すべきものなので,

被災労働者が仕事の量について上司に相談しなかったことは,

被災労働者の過失にならないと判断しました。

 

 

被災労働者が非効率な仕事をしていたのであれば,

使用者は,指導や助言をすればよかったのです。

 

 

 

 

②被災労働者が超過勤務申請書を提出していなかったので,

被災労働者の労働状況や健康状態を把握できず,

必要な対策ができなかった。

 

 

この被告の主張に対して,裁判所は,上司は,

被災労働者が超過勤務申請書を提出せずに,

慢性的に長時間労働をしていることを目撃しており,

被災労働者が自己申告している労働時間が

現実の労働時間とかけ離れていることを十分わかっていながら,

何もしていないので,被災労働者の過失にならないと判断しました。

 

 

使用者は,タイムカードなどで

労働時間の管理をすればよかったのです。

 

 

③被災労働者は,精神科を受診し,

自分の健康管理をすべきだったのにこれをしていない。

 

 

この被告の主張に対して,裁判所は,

長時間労働による過労自殺の案件においては,

労働者が医師から具体的な受診の必要性を指摘されて,

医療機関を受診する機会があったのに,

正当な理由なく受診しなかったといった事情がない限り,

医療機関を受診しなかったことは,

被災労働者の過失にならないと判断しました。

 

 

精神科を受診するのをためらう人が多いので,

精神科の受診を医師から言われない限り,

精神科を受診することはほとんどないので,

当然の判断だと思います。

 

 

このように,過労死や過労自殺の事件では,

被災労働者によほどの落ち度がない限り,

過失相殺はされないと考えられます。

 

 

過労死事件における過失相殺を検討する上で,

参考になる裁判例なので,紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

海外旅行の添乗員に事業場外みなし労働時間制が適用されるのか

1 事業場外みなし労働時間制とは

 

 

先日のブログで,外回りの営業マンの

事業場外みなし労働時間制に関する解決事例を紹介しました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201910288691.html

 

 

本日は,この事業場外みなし労働時間制に関する

阪急トラベルサポート事件の最高裁平成26年1月24日判決

(労働判例1088号5頁)を紹介します。

 

 

まず,労働基準法38条の2に規定されている,

事業場外みなし労働時間制とは,

会社の外で行なわれる労働については,

会社の指揮監督の及ばない労働もあり,その場合には,

会社が当該労働を行う労働者の実際の労働時間を把握することが

困難であるので,その限りで,会社の実際の労働時間の把握や算定の

義務を免除するという制度です。

 

 

もう少し具体的に説明すると,

みなし労働時間が8時間の場合,実際には,

会社の外で11時間労働したとしても,

8時間だけ労働したものとみなされて,

会社は,3時間分の残業代を支払わなくてもよくなるのです。

 

 

2 阪急トラベルサポート事件

 

 

さて,この事業場外みなし労働時間制が最高裁まで争われたのが,

阪急トラベルサポート事件です。

 

 

 

この事件は,海外旅行の添乗員に

事業場外みなし労働時間制が適用されるかが争われました。

 

 

事業場外みなし労働時間制が適用されるのは,

会社の外での労働について,「労働時間を算定し難いとき」

に限られますので,会社の外で働いている,

海外旅行の添乗員の労働時間を算定し難いといえるかが争点となりました。

 

 

この事件の原告である海外旅行の添乗員の

仕事の性質・内容は次のとおりでした。

 

 

・ツアー参加者に配布される最終の日程表に,

ツアー中の発着地,目的地,出発・到着時刻,所要時間

などの旅行日程が定められていること

 

 

・旅行日程は,会社とツアー参加者の契約内容になっていて,

ツアー参加者の了解なく,旅行内容を変更すると,

会社からツアー参加者に対して,

変更補償金の支払いが必要となるので,添乗員は,

旅行日程の変更が必要最低限になるように

旅行日程の管理をすることが求められていたこと

 

 

また,原告と会社との間の

業務の指示や報告の方法・内容は次のとおりでした。

 

 

・ツアー開始前に,会社は,添乗員に対し,

最終日程表を渡し,観光の内容や手順を示して,

マニュアルに従った業務を行うことを命令していたこと

 

 

・ツアーの実施中,会社は,添乗員に対し,

携帯電話を所持して常に電源を入れておき,

ツアー参加者との間でクレームが発生したり,

旅行日程の変更が必要なときには,

会社に報告して,指示を受けることを求めていたこと

 

 

・ツアーの終了後に,会社は,添乗員に対し,

添乗日報を提出させて,

仕事の遂行の状況の正確かつ詳細な報告を求めていたこと

 

 

 

以上のような仕事の性質,内容や仕事の遂行の態様,状況,

会社と添乗員との間の仕事に関する指示,報告の方法,内容や

その実施の態様,状況から,添乗員の勤務状況を

具体的に把握することが困難であったとは認めがたいので,

事業場外みなし労働時間制は適用されないとされました。

 

 

結果として,原告の未払残業代請求が認められました。

 

 

この最高裁判例によって,①業務の性質・内容と,

②会社と労働者との間の仕事に関する指示及び報告の方法・内容という

2つの要素を考慮して,会社が労働者の仕事の状況を

具体的に把握することが困難であるかどうかが

ポイントになることがわかりました。

 

 

今後の,事業場外みなし労働時間制を争う事件の参考になる

重要な裁判例ですので,紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

過労死認定基準の見直し

1 約20年ぶりの見直し

 

 

厚生労働省が,過労死の労災認定基準である

脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準

を見直すことに決めたそうです。

 

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191031/k10012157801000.html

 

 

この過労死認定基準が制定されたのが,平成13年12月ですので,

約20年ぶりに見直されることになります。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11.pdf#search=%27%E9%81%8E%E5%8A%B4%E6%AD%BB%E8%AA%8D%E5%AE%9A%E5%9F%BA%E6%BA%96%27

 

 

2 現行の過労死認定基準

 

 

現行の過労死認定基準では,

①労災認定の対象となる脳・心臓疾患を発症したこと,

②対象疾病の発症前に,異常な出来事,短期間の過重業務,長期間の過重業務

のいずれかが認められること,という要件を満たせば,労災と認定されます。

 

 

 

②の要件で,実務上最も多いのが,長期間の過重業務です。

 

 

長期間の過重業務とは,具体的には,

発症前の1ヶ月間におおむね月100時間を超える時間外労働,または,

発症前の2ヶ月間から6ヶ月間にわたっておおむね月80時間を超える時間外労働,

のいずれかをしていた実態が認められるかが重要になります。

 

 

これは,労働時間が長くなれば,睡眠時間がけずられてしまい,

疲労が蓄積して,脳や心臓の血管にダメージが積み重なって,

対象疾病を発症してしまうことから,

時間外労働の長さが過労死と認定されるかの重要なポイントになるのです。

 

 

もっとも,過労死の裁判例では,

1ヶ月の時間外労働が80時間よりも短くても,

他の要素を考慮して,労災と判断したものもあります。

 

 

そのため,過労死の労災認定基準の見直しにあたっては,

時間外労働の長さを短縮する方向ですすめていってもらいたいです。

 

 

3 移動時間の問題

 

 

また,現在の過労死の労災認定の実務では,

移動時間が労働時間となるかが問題となることがあります。

 

 

例えば,出張先へ自分で自動車を長距離運転して移動した場合,

その運転している時間が,労働時間ではないとされるケースがあります。

 

 

単に,公共交通機関を利用して移動するのであれば,

実際の作業をしておらず,会社からの拘束も低いので,

労働時間ではないとされてもやむを得ませんが,

仕事の移動のために自分で自動車を運転すれば,

当然疲れますし,労働時間とされるべきです。

 

 

4 持ち帰り残業

 

この他にも,最近は,通信機器が発達しているので,

自宅にノートパソコンやタブレットを持ち帰って,

自宅で仕事をすることも多くなっています。

 

 

この持ち帰り残業ですが,会社ではなく自宅という点において

会社の指揮命令下に置かれておらず,

持ち帰り残業による成果物が存在するなど,

持ち帰り残業が会社の業務命令に基づいて行なわれたと認められる事情がない限り,

労働時間と認定されない可能性があります。

 

 

 

業務時間外に仕事のメールを受け取る数が多いと,

仕事の心配ごとを考えてしまって,

夜中に目がさめてしまう中途覚醒が増えて,

睡眠の質が低下するようです。

 

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191008/k10012118281000.html

 

 

そのため,持ち帰り残業も,自宅で休息することができず,

働いているとして,労働時間とする必要があると考えます。

 

 

今回の過労死認定基準の見直しにあたっては,

移動時間や持ち帰り残業についても,

労働時間とするようにしてもらいたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ほめ達検定2級を受講しました

1 ほめ達検定2級

 

 

昨日,ほめ達検定2級講座を受講してきました。

 

 

1年前に,ほめ達3級をとりましたが,意識して実践していないと,

ほめていない自分になってしまうと感じ,やはり,

ほめるを学ばなければいけないと思い,受講しました。

 

 

日本ほめる達人協会の西村貴好理事長は,素敵な笑顔で,

わかりやいマシンガントークで,ほめるを力説してくれました。

 

 

 

2 ほめるの定義

 

 

そもそも,ほめるとは,人,モノ,出来事の価値を発見して伝えることです。

 

 

 

人の場合,その人のいいところをみつけてほめる,

その人の欠点やマイナスに見えるところも,

プラスの価値に転換して伝えることです。

 

 

モノの場合,自分が取り扱っている商品やサービスに

独自の切り口をみつけて,顧客に対して,魅力的に伝えることです。

 

 

これができれば,競合他社と差別化できて,

売ることが容易になります。

 

 

出来事の場合,自分にとってマイナスの出来事が起きたとき,

「これは,何のチャンスだろう?」という質問を自分に問うことで,

マイナスの出来事から意味を見出して,

プラスの出来事に転換することです。

 

 

例えば,夫婦ケンカをしたときには,ついつい感情的になって,

相手にひどいことを言ってしまいますが,

自分の感情と出来事を切り離して,

この夫婦ケンカは何のチャンスだろうと考えると,

自分の行いを改める機会や,夫婦が仲良くなるための試練などと

解釈できて,夫婦ケンカの後のリカバリーがしやすくなります。

 

 

3 3S+1のフレーズ

 

 

ほめ慣れていない人が,ほめ癖をつけるには,

すごい,さすが,すばらしいの3つのほめ言葉を使って,

まずはほめることです。

 

 

初対面の人にあったら,ほめると決めて,いい笑顔ですねとほめる。

 

 

できるだけ小さな事実をほめれば,

ほめられることに慣れていない人は,それを否定できません。

 

 

相手のことをほめられないときには,

そうきたか,惜しい,というフレーズを使うのが効果的です。

 

 

4 ほめることのメリット

 

 

人をほめるようになると,あまり人が気づいていない

プラスの面に光を当てることになるので,自分の視野がプラスに開けて,

今まで見えなかった人のいいところがみえるようになります。

 

 

相手が気づいていないプラスの点をほめれば,

相手は喜ぶので,人間関係が良好になります。

 

 

 

そして,ほめるを実践していけば,プラスの引き寄せが強くなります。

 

 

これには,脳の仕組みが関係しています。

 

 

脳は,私,あなた,彼といった人称を識別できません。

 

 

例えば,あなたはだめな人だと言うと,自分の潜在意識の中に,

だめな人だというネガティブな想念がたまってしまうのです。

 

 

逆に,自分の言葉がポジティブであれば,脳は,

そのポジティブな言葉を潜在意識に蓄え,

ポジティブな想念で満たされれば,

運気が磨かれて,プラスの引き寄せが強くなるのです。

 

 

すなわち,人をほめれば,自分をほめることになり,

自分の自己肯定感が向上するのです。

 

 

もっとも,普通に日常生活をおくっているだけですと,

ほめるを実践できないものです。

 

 

そこで,頭の片隅に,今日もほめるぞと,意識を留めおいて,

ほめるの実践をしていくことが大事だと思います。

 

 

まずは,身近にいる家族の小さいことを,ほめていきます。

 

 

5 ほめ達にふさわしい考え方

 

 

最後に,ほめ達にふさわしい考え方を紹介します。

 

 

1 すべての人の可能性と成長を信じる

 

 

2 つねに学び続ける

 

 

3 全ての出来事は,必然・必要・ベストと考える

 

 

4 人間力の向上に務める

 

 

5 ほめ達の普及に協力・努力する

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

部下から上司に対する逆パワハラ

1 産業医科大学の逆パワハラ事件

 

 

産業医科大学の医学部の教授が,

部下に大勢の医局員の前で謝罪するように強要されたり,

病院の外で誹謗中傷されたりしたとして,

部下及び大学に対して,損害賠償請求の訴訟を提起しました。

 

 

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191028-00010000-nishinpc-soci

 

 

部下の上司に対する,いわゆる逆パワハラ

ということで注目されています。

 

 

本日は,逆パワハラについて,検討します。

 

 

2 パワハラの定義

 

 

まず,今年の通常国会で成立した改正労働施策総合推進法において

定義されたパワハラとは,

①優越的な関係を背景とした言動であって,

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,

③労働者の就業環境が害されるもの,

というものです。

 

 

 

通常,パワハラは,上司から部下に対して行なわれることが多く,

その場合には,①優越的な関係を背景とした言動という要件を満たします。

 

 

しかし,部下から上司に対するパワハラの場合,通常,

上司は,部下に対して指導監督することができる立場にあるので,

①優越的な関係を背景とした言動という要件を

満たさないのではないかが問題となります。

 

 

ここで,部下から上司に対するパワハラが問題になった

労災の裁判例を紹介します。

 

 

3 逆パワハラの裁判例

 

 

1つは,国・渋谷労基署長(小田急レストランシステム)事件の

東京地裁平成21年5月20日判決(労働判例990号119頁)です。

 

 

この事件では,部下が上司について,売上を着服している,

金庫から金銭を盗んだ,女性社員にセクハラをしている,

などが記載されている中傷ビラを配布し,

上司がその対応におわれ,店長の職を解任されました。

 

 

その後,この上司はうつ病を発症し,自殺しました。

 

 

裁判では,部下とのトラブルが他の事情とあいまって,

強い心理的負荷が生じていたとして,労災と認められました。

 

 

もう1つは,京都地裁平成27年12月18日判決です。

 

 

この事件では,部下が上司のことを,

「給与が高いくせに仕事ができない」などと言い,

部下が,病気で字がうまく書けない上司に対して,

「日本語わかっていますか」という辛辣な発言をしました。

 

 

その後,この上司は,うつ病に罹患しました。

 

 

裁判では,部下とのトラブルがあったとして,

心理的負荷の強度は中でしたが,総合評価で強となり,

労災と認められました。

 

 

部下から上司の逆パワハラの場合,

①上司の業務上の経験や適性の有無,

②上司の部下に対する監督権限の有無,

③部下の不適切な行動を容認するような状況,

といった要素をもとに,

部下の上司に対する優越的な関係を背景とした言動といえるかが

検討されます。

 

 

 

4 職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案の問題点

 

 

なお,先日公表された「職場におけるパワーハラスメントに関して

雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案」において,

優越的な関係を背景とした言動については,

当該言動を受ける労働者が行為者に対して

抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として

行なわれるものとされました。

 

 

その具体例として,次のことが例示されました。

 

 

同僚または部下による言動で,当該言動を行う者が

業務上必要な知識や豊富な経験を有しており,

当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの

 

 

同僚または部下からの集団による行為で,

これに抵抗または拒絶することが困難であるもの

 

 

部下から上司に対する逆パワハラも,

優越的な関係を背景とした言動に含まれることが明らかとなりました。

 

 

しかし,抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係

という解釈では,パワハラに該当する言動が不当に狭められてしまい,

パワハラの被害救済に支障が生じるおそれがあると考えます。

 

 

そのため,抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係

という解釈を,もっと被害者救済に有利に改善していく必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。