会社が破産する前に未払賃金請求権を回収する方法
1 コロナ倒産が増えています
新型コロナウイルス感染拡大の影響で業績悪化を理由とする、
会社の倒産が増えています。
帝国データバンクの情報によりますと、
2020年8月31日付の新型コロナウイルス関連倒産は、
全国で477件にのぼるようです。
https://www.tdb.co.jp/tosan/covid19/index.html
会社が倒産する時代に、労働者は、
自分の賃金や退職金といった労働債権を、
会社から回収するにはどうすればいいかを検討する必要があります。
本日は、会社が倒産する際の労働債権の確保の方法について解説します。
2 会社の破産手続
会社が法的に倒産する際には、
破産、民事再生、会社更生といった手続がありますが、
実務上一番多いのは破産手続なので、破産手続を前提に説明します。
裁判所において、会社の破産手続開始決定がでると、
会社に対する裁判手続は中断し(破産法44条1項)、
会社に対する強制執行手続は効力を失います(破産法42条1項)。
そして、会社の破産手続開始決定がでると、
労働者は、基本的には、破産手続によらなければ、
未払賃金の請求などはできません(破産法100条1項)。
また、破産手続開始前の3ヶ月間の未払賃金の請求権は、
破産手続によらなくても、優先的に支払ってもらえる財団債権として、
優遇されますが(破産法149条1項)、
破産する会社に財産が残っていなければ、
未払賃金の請求権が財団債権になっても、
結局、回収できなくなります。
そのため、会社が破産する前に、会社が危機的な状況に陥り、
給料が支払われなくなったら、迅速に、
未払賃金の請求権の回収に動き出す必要があります。
3 売掛債権と動産の譲受
会社が破産する前に、未払賃金の請求権を回収するための方法として、
労働者が会社の売掛債権や動産を譲り受けるという方法があります。
会社の取引先に対する売掛債権を、労働者が会社から譲り受けて、
労働者が会社の取引先から売掛債権の支払を受けて,
未払賃金の請求権を確保するのです。
これは、債権譲渡という方法で、会社が取引先に対して、
会社の取引先に対する売掛債権を労働者に譲渡しましたということを、
確定日付のある証書で通知する必要があります(民法467条)。
また、会社から、機材、貴金属、美術品などの動産を譲り受けて、
その動産を売却して金銭を得るという、回収方法もあります。
これらの方法は、労働債権よりも優先する、
税金や社会保険料の公租公課の債権に優越できますが、
会社の社長が夜逃げしてしまうと、実行は困難となります。
4 一般先取特権に基づく差押
会社が倒産する前の、未払賃金の請求権を回収するための
方法のもう一つが、一般先取特権に基づく差押という方法です。
民法308条で、未払賃金の請求権には、先取特権という、
会社の目的物を強制的に換価して、
優先的な支払を受ける権利が認められているのです。
一般先取特権の場合、裁判手続を経ることなく、いきなり、
会社の財産に対して、差押をすることができるので、
迅速な債権回収が実現できるのです。
この一般先取特権による差押をするには、裁判所に対して、
雇用関係の存在と未払賃金債権の額を証明しなければなりません
(民事執行法181条1項4号、193条)。
この証明のために活用できるのが、未払労働債権確認書です。
各労働者の未払労働債権の内容・種別と金額を
会社との間で確認する文書のことです。
会社の代表者印を押した未払労働債権確認書と、
代表者印の印鑑登録証明書を裁判所に提出すれば、
裁判所は、迅速に差押命令を出してくれるのです。
会社の売掛債権を差し押さえて、
会社に差押命令が送達されてから1週間が経過した後に、
取引先に対して、売掛債権の取立を行って、回収します。
このように、会社が破産する前に、
未払賃金の請求権を回収する方法がありますので、
会社が危なくなったら、弁護士に相談して、
迅速に,回収に動いてください。
本日もお読みいただきありがとうございます。