自動車メーカー大手が無期雇用回避

朝日新聞の報道によれば,トヨタ自動車やホンダといった,自動車メーカーの大手が,有期雇用労働者が,無期労働契約への転換を求める権利を行使できないようにするために雇用ルールを変更したようです。

 

http://www.asahi.com/articles/DA3S13213011.html

 

労働契約法18条1項において,2以上の有期労働契約の通算期間が5年を超えた場合,有期雇用労働者は,会社に対して,無期労働契約への転換の申込ができ,会社は,無期労働契約への転換を拒めないことになっています。

 

しかし,労働契約法18条2項において,2以上の有期労働契約の間に,6ヶ月の空白期間がある場合,以前の有期労働契約の契約期間を5年の通算期間に算入できず,リセットされてしまう結果,有期雇用労働者は,無期労働契約への転換の申込ができなくなり,有期雇用労働者のままとなります。

 

そもそも,非正規雇用は,契約期間満了で雇止めされれば,すぐに失職し,雇用が不安定であることから,有期労働契約の契約期間が長くなった場合,有期労働契約から無期労働契約へ転換して,雇用を安定させることを目的にして,労働契約法18条は立法されました。

 

今回,自動車メーカー大手が,有期労働契約の空白期間を1ヶ月や3ヶ月だったのを6ヶ月に変更して,有期雇用労働者が無期労働契約へ転換できなくしました。労働契約法18条の立法趣旨が没却させられたことになります。

 

空白期間を6ヶ月にする企業が増えれば,有期雇用労働者が無期労働契約に転換できず,雇用が不安定なまま固定されるおそれがあります。他の業界に,空白期間6ヶ月が波及しないことを望みます。

トラック運転手の過酷な労働実態

私は,日本弁護士連合会の貧困問題対策本部のワーキングプア部会に所属しています。そこで,「現在の物流業界の状況とトラック労働者の過酷な労働実態」という勉強会がありましたので報告します。講師は,建交労全国トラック部会の事務局長の鈴木正明さんでした。

 

まず,総務省の労働調査結果によれば,全産業就業者のうち,トラック運転手は,1.25%しかいないにもかかわらず,国内物流の91.3%はトラックが占めています。日本の物流は,トラック運転手がそのほとんどを担っているにもかかわらず,全労働者に占めるトラック運転手の割合はとても少ないです。

 

トラック運転手が不足している理由として,賃金水準が全産業に比べて1~2割低く,労働時間が全産業に比べて2割以上長いという過酷な労働実態があるからと考えられます。長距離トラック運転手は,長距離を移動し,かつ,荷物の積み降ろしがあるので,どうしても長時間労働になります。長時間労働にもかかわらず,賃金は低水準なため,なり手が少なくなります。

 

加えて,他の産業に比べて脳心臓疾患の過労死で,労災支給決定になる件数がダントツに多く,全産業の3割近くを道路貨物運送業が占めています。トラック運転手は,深夜に長距離移動するので,質のよい睡眠がとれず,長時間労働による疲労が蓄積して,脳心臓疾患に罹患しやすくなるのだと考えられます。

 

また,運送会社の労働基準関係法令の違反件数も多く,運送会社の現場では,労働基準法が遵守されていないようです。

 

アマゾン等のネット通販によって,私達の生活は便利になりましたが,その一方で,日本の物流を担うトラック運転手の労働実態はより悪化しているといえます。日本の物流を維持するためにも,トラック運転手の労働環境の改善が早急に求められます。トラック運転手にこそ,勤務間インターバルや残業の罰則付き上限規制が早急に実施されるべきだと思います。

電通の刑事裁判

 平成29年9月22日,電通が社員に対して,違法残業をさせたとして労働基準法違反の罪に問われている刑事裁判の初公判が開かれました。

 

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG21H8W_S7A920C1CC0000/

 

 検察官の冒頭陳述によれば,36協定の残業時間の上限を超えて残業した社員が,2014年度は毎月1400人以上,2015年度以降も毎月100人以上いたようです。

 

 また,労働基準監督署から違法残業について是正勧告を受けた後,36協定の残業の上限を25時間から50時間に引き上げて,形式的に労働基準法違反の解消を図りましたが,労働環境の改善とはむしろ逆行する小手先だけの対応に終始したようです。

 

 検察官の求刑は罰金50万円でした。罰金50万円を支払うだけのペナルティでは,今後の労務管理の改善にどこまで効果があるのか疑問に思われる方がいるかもしれませんが,検察官が,公開の法廷で,電通の杜撰な労務管理を明らかにしたことに十分な意義があると思います。労働基準法違反の刑罰は軽いのですが,杜撰な労務管理を続ければ,社会からバッシングを受けて,企業イメージを大きく失墜させることになりますので,労働基準法違反で企業が失うものが大きくなったと思います。

 

 この電通の刑事裁判を契機に,多くの企業が労働基準法を遵守するように変わってもらいたいです。

 

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過重労働と医師の働き方を考えるシンポジウム

 平成29年9月9日,過重労働と医師の働き方を考えるシンポジウムが開かれました。パネリストには,弁護士の川人博先生や松丸正先生といった,過労死問題の第一人者が登壇されました。

 

 病院が医師の自己申告をもとに勤務時間を把握する場合,医師が正確に労働時間を申告しないこともあり,病院が把握した医師の労働時間と実際の医師の労働時間とが大きく食い違うことがあります。その結果,病院が医師の長時間労働に気付かず,休ませることをしないため,過労死が発生するおそれがあります。そうならないためにも,まず病院が医師の労働時間を,タイムカード等で正確に把握する必要があります。

 

 医師の労働時間は,様々な職種の中でも最も長いようです。過労死ラインを超す割合は41.8%になっているようです。医師は,長時間労働に加えて,宿直等で睡眠のリズムが崩れ,手術では極度の集中を強いられ,疲労困憊していると考えられます。医師の疲労が蓄積すれば,医療事故につながる危険があるので,医師の数を増やして,医師の長時間労働を是正していくべきです。

(平成29年9月10日朝日新聞朝刊より抜粋)

 

 秋の臨時国会では,残業の上限規制が審理されますが,医師については,5年間猶予される見通しです。「病院に殺される」という医師を出さないためにも,一日も早く,医師の長時間労働を改善する施策を講じるべきだと考えます。

 

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働き方改革関連法案

 厚生労働省は,平成29年9月8日,労働政策審議会の分科会で働き方改革関連法案の要綱を示したようです。残業の上限規制と高度プロフェッショナル制度を一本化した法案が臨時国会に提出されそうです。

 

 残業の上限規制は,会社に対して,これ以上労働者に残業をさせてはいけないと罰則付で規制するするものです。これまでは,36協定を締結すれば,残業時間の上限がなかったので,国立循環器病研究センターのように300時間の残業を許容することも可能でした。残業時間の上限が設定され,それに違反した場合には刑罰が科せられることになれば,会社は,労働者に対して,残業を抑制するようにはたらきかけるようになり,長時間労働が是正されることが期待されます。労働者保護のための立法です。

 

 一方,高度プロフェッショナル制度については,これまで何度かブログで記載してきましたが,一定の要件を満たす労働者に対しては,どれだけ残業をしても,残業代が支払われなくなる,いわゆる残業代ゼロ法案です。高度プロフェッショナル制度が適用されると,過労死ラインを超えて働かされても残業代は1円も支払われず,長時間労働を助長するおそれがあります。労働者にとってマイナスの法案です。

 

 このように,労働時間を規制する残業の上限規制と,労働時間の規制を撤廃する高度プロフェッショナル制度は矛盾していると思います。これを一本化しても,ちぐはぐな法体系になり,かえって分かりくくなります。残業の上限規制は立法化し,高度プロフェッショナル制度は廃案にすべきです。今後の国会での与野党の攻防を見守る必要があります。

 

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1ヶ月300時間の残業を認める36協定

 朝日新聞の報道によれば,大阪府吹田市にある国立循環器病研究センターにおいて,勤務医や看護職員の残業を1ヶ月300時間まで可能にする36協定が締結されていたようです。

 

 労働基準法32条で,会社は,労働者に対して,休憩時間を除いて1日8時間を超えて働かせてはならないのが原則ですが,36協定が締結されれば,例外的に8時間を超えて働かせることができるようになります。そして,36協定には,残業させる場合の延長時間を定めなければなりません。

 

 他方,過労死の労災認定基準では,脳・心臓疾患の発症前1ヶ月間におおむね100時間の残業が認められる,または,発症前2ヶ月から6ヶ月にわたって,1ヶ月当たりおおむね80時間を超える残業が認められると,原則として労災と認定されます。

 

 今回の国立循環器病研究センターの36協定は,この過労死基準の3倍の残業を容認する内容となっており,極めて問題です。医師や看護師は,外来や手術,宿直等,高度の集中力を要する仕事を長時間かつ不規則勤務で対応しなければならず,とても過酷な仕事だと思います。さらに,医師・看護師が不足しているようで,医療現場の負担は増しているようです。医師・看護師が長時間労働によって,疲労が蓄積すれば,仕事のパフォーマンスが落ち,重大な医療事故が起きる危険性が高まります。

 

 医療現場の長時間労働対策を早急に行う必要があります。そのためにも,36協定を見直して,残業の上限を過労死基準よりも下に設定するべきだと考えます。

 

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公務員の定年延長

 政府は,国家公務員及び地方公務員あわせて約330万人の定年を現行の60歳から65歳へ段階的に延長する方向で検討に入ったようです。少子高齢化が進行して労働力人口が減少していく中,働ける人材を確保する必要があること,また,年金支給年齢が引き上げられたため,60歳で退職して無職になっても年金収入がなく,生活が成り立たなくなることが背景にあります。

 

https://www.nikkei.com/article/DGXKASFS14H15_31082017MM8000/

 

 民間企業の場合,高年齢者の雇用の安定等に関する法律(高年法)で,60歳を下回る定年制を儲けることができず,65歳までの雇用確保措置を講じなければならないとされています。そして,この雇用確保措置は,①定年年齢の引上げ,②高年齢者が希望するときは定年後も引き続いて雇用する制度の導入,③定年制度の廃止のいずれかとなります。

 

 このように民間企業の場合は,定年が65歳までに延長されているか,定年後希望すれば継続して働くことができます。他方,公務員の場合は,未だに定年が60歳と決まっていて,定年後に希望しても必ずしも同じ職場に継続して働けるとは限らないようです。

 

 民間企業では当たり前になっていることが公務員の世界では当たり前になっていないのです。そういう意味では,公務員の労働状況は,民間企業の労働状況よりも悪い気がします。今後は70歳まで働くのが当たり前になっていくでしょうから,雇用継続を希望する公務員のためにも,定年延長が早急に実現されることを希望しています。

 

教員の労働時間把握

 平成29年8月30日の朝日新聞の報道によると,文部科学省の諮問機関中央教育審議会の特別部会が,学校現場での働き方改革について提言したようです。その提言の中に,教員に対するタイムカードや情報技術を使った出退勤時刻の記録をすることを盛り込んだようです。

 

 2016年度の文部科学省の調査では,教員の退勤時刻をタイムカードや校内システムで記録していたのは,小中学校とも3割未満であったようです。教員には,労働基準法の残業代が支払われないために,労働時間の管理が疎かになっていたのかもしれません。

 

 しかし,労働時間の管理を疎かにすれば,管理職は,部下の教員がどれだけの時間働いていたのか正確に把握できず,教員が長時間労働で疲労が蓄積していることを見過ごし,教員が脳心臓疾患や精神疾患に罹患するリスクを増大させる可能性があります。民間企業では当たり前になっている労働時間の把握が,学校現場では杜撰になされていることに驚きました。

 

 教員は,朝の出勤が早い上に,部活動の指導,保護者対応,授業の準備等で多忙を極めています。早急に教員の労働時間の把握を徹底させて,管理職は,部下の教員の労働時間が適正になるように対応すべきだと思います。

 

 提言によれば,部活動については,外部の指導員にアウトソーシングする等の案が提示されたそうです。少しでも教員の長時間労働が是正されるような対策が実現されることを願っています。

 

東大5年で雇止め

 朝日新聞の報道によれば,東大が有期労働契約の教職員約4800人を最長5年で雇止めにする就業規則を定めていたようです。その結果,来年平成30年4月までに,契約期間が5年を超える教職員は順次雇止めされることになりそうです。

 

http://www.asahi.com/articles/DA3S13100024.html

 

 そもそも,労働契約法18条では,有期雇用の労働者の労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えた場合,期間の定めの無い労働契約に転換できる権利が付与されることになっています。要するに,契約の更新が2回以上あり,契約期間が通算5年を超えれば,契約社員から正社員に転換できるということです。

 

 労働契約法18条が平成25年4月に施行されて,来年平成30年4月でちょうど5年になるので,来年4月以降,無期転換できる労働者が現れてくるのです。

 

 しかし,使用者としては,契約期間が通算5年を超えれば,契約社員が正社員に転換されるのであれば,契約社員を雇用の調整弁に利用できなくなるので,契約期間が5年を超える前に,雇止めをしたくなります。そこで,東大は,就業規則で有期労働契約者の契約期間の上限を5年と定めたようです。そのため,東大の有期労働契約者は,契約期間が5年を超える前に雇止めされることになります。

 

 現在,東大の教職員組合が団体交渉を申し入れて,有期労働契約者の契約期間の上限を5年と定めた就業規則の撤廃を求めているようです。契約期間が5年を超える直前に雇止めになった場合,裁判で争ったとしたら,労働契約法18条の趣旨に違反しているとして,雇止めが無効になる可能性もありますが,雇止めの裁判では,労働者側が敗訴することも多いため,裁判結果がどうなるかは,見通しが立てにくいです。そのため,団体交渉で,有期労働契約者の契約期間の上限を5年と定めた就業規則を撤廃できれば,最も効果的です。東大の団体交渉に注目していきたいです。

 

労働時間の把握義務

 厚生労働省は,労働安全衛生法施行規則を改正し,労働者の労働時間を適切に把握することを会社の義務として明記する方針を固めたようです。

 

 http://www.yomiuri.co.jp/national/20170806-OYT1T50030.html

 

 会社が労働時間の把握するのは当然ですが,おそらく,これまで労働時間の把握を義務付けている法律はなかったと思います。そのため,労働時間の把握義務を法律で明記することは,会社に労働時間の把握を強制させ,違反した場合には労働者に有利な労働時間が認定される可能性があるため,この改正は労働者にとって,とても重要になります。

 

 残業代を請求する場合や労災を申請する場合,労働者がタイムカード等の証拠を収集し,労働時間を立証しなければならないのですが,会社によっては,タイムカードもなく,労働時間の把握を全くしていないところもあり,その場合,労働時間をどうやって立証すればいいか悩むことがあります。

 

 今後,労働時間の把握義務が法律で明記されれば,会社が労働時間の把握をしていなかった場合,裁判において,会社が労働時間の把握義務を怠ったとして,労働者が主張する労働時間がそのまま認められる可能性があります。

 

 労働者にとっては,残業代請求や労災申請で強力な武器を得られることになると思いますので,労働安全衛生法施行規則の改正に注目したいです。