労働者の4割が36協定を知らない?

 平成29年7月16日の朝日新聞の報道によれば,連合のインターネットによるアンケート調査の結果,回答した労働者の4割が,会社が労働者に残業を命じるには労使協定を締結する必要があることについて,「知らない」と回答したようです。

 

 http://www.asahi.com/articles/ASK7754B7K77ULFA01C.html

 

 労働基準法32条で,労働時間は1日8時間,1週間で40時間に規制されていますが,労働基準法36条において,会社が労働組合や労働者の過半数代表との間で労使協定を締結すれば,残業ができるようになります。ようするに,36協定を締結しないと,会社は労働者に残業を命じることができないのです。

 

 この労働時間の原則を知らない労働者がまだ多く,若者が知らないことが多いようです。労働者は,労働法によって守られているので,労働法を勉強することで,会社で突然労働トラブルに巻き込まれてしまった場合,自分で自分の身を守ることができます。そのため,多くの労働者にワークルールが普及すること,とりわけ,若者には,学校でワークルールを学ぶ機会が保障されるべきだと考えます。大学で労働法の講義をする機会があるので,多くの学生に対して,ワークルールの重要さを伝えていきたいです。

 

電通違法残業刑事事件で略式不相当

 平成29年7月13日の朝日新聞の報道によると,電通の違法残業刑事事件において,検察官が略式命令の請求をしたところ,簡易裁判所が略式不相当として,公判が開かれることになるようです。

 

 http://www.asahi.com/articles/ASK7F0BDQK7DUBQU02B.html

 

 窃盗や傷害といった一般的な刑事事件で,裁判所が検察官の略式命令の請求を認めないことはほぼなく,労働基準法違反の事件でも,大多数の事件は略式命令で終了しています。そのような現状の中,裁判所が略式不相当としたのに驚きました。

 

 朝日新聞の報道によると,約6000人いる本社で違法残業と認定したのは4人で,時間外労働は1ヶ月19時間にとどまっているようです。そのため,ここまで大問題になった事件で,なぜ違法残業と認定された労働時間が少ないのかという疑問を公開の法廷で明らかにする必要があったのかもしれません。

 

 通常の刑事裁判へ移行するので,公開の法廷で審理されるため,マスコミを通じて,違法残業の実態が明らかになると思われます。特に,検察官の冒頭陳述,書証の要旨の告知,論告において,違法残業の詳細が明らかになることが期待されます。

 

 労働基準法は刑罰が軽く略式命令で終わるので,経営者に労働基準法を遵守させるインセンティブがはたらきにくいのですが,公開の法廷で有名企業の違法残業の実態が赤裸々になるのであれば,労働基準法を遵守する機運が高まります。また,これだけ大々的に報道されているので,電通に対する世間のイメージが悪化し,就職活動をしている学生の間にも悪い評判がたっているかもしれません。さらに,官公庁の入札の指名停止処分が出されているので,労働基準法違反の事件でも企業が受けるダメージは大きくなります。

 

 この電通事件によって,多くの企業が労働基準法を遵守するようになることを期待しています。

 

電通の36協定問題

 朝日新聞の報道によれば,7月7日,東京地検は,電通の違法残業事件において,36協定が労働基準法の要件を満たしておらず,無効であったようです。

 

 http://www.asahi.com/articles/ASK77659RK77ULFA02L.html

 

 労働基準法には,32条において,休憩時間を除いて1日8時間以上,1週間に40時間を超えて働かせてはならない,という労働時間の原則が規定されています。

 

 しかし,時間外・休日労働について,当該事業場の労働者の過半数を組織する労働組合,そのような組合がない場合には当該事業場の労働者の過半数を代表する者と使用者との間で,書面による労使協定を締結し,労働基準監督署へ届出がされた場合,例外的に時間外・休日労働が可能となります(労働基準法36条)。この労使協定が36協定です。

 

 朝日新聞の報道によると,2015年10~12月の期間,電通の東京本社の労働組合の加入者数が労働者の半数を超えていなかったようです。労働基準法36条の過半数の労働者とは,正社員,契約社員,パートを含む全ての労働者であるところ,電通の非正規社員が増加したことによって,電通の全従業員のうち,労働組合に加入していた労働者が半数を切ってしまっていたようです。

 

 中小企業であれば,労使協定の有効期限が経過しているのに放置されたままであったり,労働者の過半数代表者を選出する手続きにミスがあったりすることはよくあるのですが,電通ほどの大企業において,36協定の要件が満たされておらず,無効であった期間があるのは異例です。

 

 労働者は,自身の会社の労使協定を入念にチェックする必要があります。

 

日本労働弁護団の働き方改革についてのリーフレット

 現在,政府が進めている働き方改革について,日本労働弁護団が問題点を分かりやすく解説したリーフレットを作成したので,紹介します。

 

 働き方改革では,時間外労働の上限規制が注目されていますが,その一方で残業代をゼロにする法案が検討されています。高度プロフェッショナル制度とは,年収1000万円以上の専門職が,使用者と合意すれば,どれだけ働いても残業代が支払われなくなるというものです。現行の労働基準法では,労働者が残業した場合に,使用者が労働者に残業代を支払うことによって,時間外労働を抑制しているのですが,どれだけ働いても残業代が支払われないのであれば,長時間労働が蔓延するおそれがあります。また,当初は年収1000万円以上の専門職が対象であったとしても,いずれは,年収要件が引き下げられ,多くの労働者が対象となり,残業代がゼロで働かなければならなくなるリスクがあります。

 

 また,企画業務型裁量労働制の拡大も検討されています。裁量労働制とは,どれだけ働いても,労働時間は一定の時間とみなしてしまう制度で,例えば,12時間働いても,8時間労働とみなされてしまい,4時間分の残業代が支払われないことになります。現行の企画業務型裁量労働制の対象業務は,事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査及び分析の業務となっていますが,提案型の営業等にも対象が広がるおそれがあります。

 

 高度プロフェッショナル制度も裁量労働制の拡大も,使用者が労働者の残業代を削減するためのものです。どれだけ働いても残業代が支払われなくなり,過労死・過労自殺を助長する可能性もあります。

 

 このように,高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の問題点を漫画で分かりやすく解説していますので,ぜひ一度ご覧ください。日本労働弁護団のホームページから無料でダウンロードできます。

 

http://roudou-bengodan.org/topics/5055/

 

総合労働相談で「いじめ・嫌がらせ」が5年連続トップ

 平成29年6月16日,厚生労働省が,全国の労働局や労働基準監督署等で実施された総合労働相談の結果を公表したので紹介します。

 

 平成28年度の相談件数は1,130,741件で,ここ5年間で一番多かったようです。労働相談は,やや減少傾向だったのですが,平成28年度で急に増加に転じました。電通事件後に働き方改革の機運が高まり,労働問題についての報道が増えたことに,何か原因があるのかもしれません。

 

 労働相談の内訳で,最も多いのが「いじめ・嫌がらせ」で全相談の中の22%を占めています。また,以前は,「解雇」の相談件数が多かったのですが,近年は「いじめ・嫌がらせ」の相談件数が上昇の一途をたどっており,トップを維持しています。ブラック企業問題や,人手不足で職場に負荷がかかり,人間関係がギクシャクしているのが原因なのかもしれません。

 

 ニーズの大きい「いじめ・パワハラ」の問題に,しっかりと対応できるように研鑽を積んでいきます。

 

残業代計算ソフト「きょうとソフト」の紹介

 京都弁護士会と京都地方裁判所が残業代計算ソフト「きょうとソフト」を制作しました。判例タイムズ1436号17頁に「きょうとソフト」の活用方法を紹介した論文が掲載されております。弁護士は,日弁連の会員向けのホームページから「きょうとソフト」をダウンロードできます。

 

 残業代請求は,残業代の計算が複雑ですし,労働時間は日ごとに異なるので,日ごとの始業時刻と終業時刻で争いのある部分を特定しなければならない煩雑さ等があり,裁判における審理期間が長くなる傾向にあります。このような残業代請求事件の現状を打開するため,残業代の基礎知識を踏まえ,労働者側,使用者側,裁判所の共通の土俵となり,一覧性を高めたツールとして「きょうとソフト」が開発されました。

 

 残業代請求事件では,労働者側が使用する残業代計算ソフトと使用者側が使用する残業代計算ソフトが異なり,双方が使用している計算ソフトが正しいのか疑心暗鬼になることが多く,審理が停滞することがよく見受けられます。

 

 今後,残業代請求事件において,「きょうとソフト」が活用されることによって,審理の迅速化と,労働者側,使用者側,裁判所の負担軽減が図られそうです。また,訴訟だけではなく,労働審判や訴訟外の交渉にも活用できそうです。

 

 早速,現在係争中の残業代請求訴訟において,「きょうとソフト」を使用して計算をやり直してみたいと思います。

 

平成28年度過労死等の労災補償状況

 平成29年6月30日,厚生労働省が平成28年度の過労死等の労災補償状況を公表しました(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000168672.html)。

 

 まず,脳・心臓疾患に関する事案の労災について,請求件数と支給決定件数共に前年比増となりました。業種別では,運輸業・郵便業が突出して多いです。長距離トラック運転手の長時間労働が背景にあるのかもしれません。

 

 発症前2~6ヶ月の時間外労働が平均月80時間を超えると業務起因性が認められやすくなりますが,1ヶ月の時間外労働が80時間を下回るケースであっても,14件で労災認定されていました。1ヶ月の時間外労働80時間以上という過労死ラインを下回る時間外労働であっても,労働時間以外の負荷要因と組み合わせることで,総合判断で労災認定されることがあります。

 

 次に精神障害に関する事案の労災について,請求件数1,586件で前年比71件の増加,支給決定件数は498件で前年比26件の増加で,いずれも過去最多となりました。業種別では,医療・福祉が多いです。人手不足な上に,責任が重く,労働者一人ひとりの負荷が増加しているのかもしれません。

 

 また,精神障害の労災の原因のトップは,「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」です。労働相談の現場でも,パワハラの相談が増えているのを実感しております。

 

 精神障害の労災は,1,586件の請求に対して支給決定は498件ですので,精神障害で労災申請した人の31%しか労災認定を受けられていないので,まだまだ狭き門です。

 

 過労死等の労災事件は今後も増えていきそうです。この問題に対して,労働者側の弁護士として真摯に取り組んでいきたいと思います。

 

ホワイト認証制度の紹介

今年の3月から一般社団法人ホワイト認証推進機構がホワイト認証制度を開始したようなので紹介させていただきます。

 

ホワイト認証とは,ホワイト弁護団とホワイト社労士の会が対象企業の社内労務管理規定の整備状況や実際の労働関係法制の遵守状況を審査して,ホワイト認証基準に適合する場合に,ホワイト企業であることを認証する制度のようです。

 

ホワイト認証を受けることで,企業は,労働関係法制を遵守していることが客観的に認証されることから,新規雇用や継続雇用の安定性の確保が見込まれます。また,労働者にとっても,労働関係法制が遵守されることが明らかになるので,安心してホワイト企業で働くことができます。

 

最近の大学生は,残業が少ないや定時に帰宅できるなどの労働条件も考慮にいれて就職活動をしているようですので,ホワイト認証を受ければ,就職活動をしている学生に対して,労働環境が整備されている点をアピールできるかもしれません。実際に,就職する会社がブラック企業かどうかは入ってみないと分からない面があるので,ホワイト認証を受けた企業であれば,ブラック企業ではないので安心して就職ができるのかもしれません。

 

まだ始まったばかりの制度のようなので,多くの企業にホワイト認証が拡大していくことを期待しております。

労働時間を記録することを推奨する動画の紹介

ブラック企業対策弁護団から,労働時間を記録することを奨励する動画がユーチューブにアップされたので紹介します。

 

https://www.youtube.com/watch?v=kkQaVQR8NJ0

 

残業代を請求する事件や過労死・過労自殺の労災申請や損害賠償請求事件において,労働時間の証明が重要になります。労働者は,日頃から,自分の労働時間を記録しておくと,いざという時に役に立ちます。

この動画では,出勤・退勤時間を自分の手帳にメモすること,メールの送信時間が労働時間になること,パソコンのログインログオフ時間を記録すること,GPS付アプリで労働時間を記録できること等を,リズミカルな音楽と軽快な振り付けで,インパクトを与えながら印象付けています。

 

動画再生時間は約1分と短いので,気軽に見れます。ぜひ一度アクセスしてみてください。

ちなみに,この動画に出演しているのは弁護士です。大事なことをどのような方法で人に伝えるのが効果的かについて勉強させてもらいました。